説明

幹細胞を用いた虚血の処置

本発明は、非限局的体性幹細胞(USSC)を哺乳動物に投与することにより哺乳動物における虚血を処置または予防する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
多くの米国特許、例えば、米国特許第5,486,359号(特許文献1);同第5,591,625号(特許文献2);同第5,736,396号(特許文献3);同第5,811,094号(特許文献4);同第5,827,740号(特許文献5);同第5,837,539号(特許文献6);同第5,908,782号(特許文献7);同第5,908,784号(特許文献8);同第5,942,225号(特許文献9);同第5,965,436号(特許文献10);同第6,010,696号(特許文献11);同第6,022,540号(特許文献12);同第6,087,113号(特許文献13);同第5,858,390号(特許文献14);同第5,804,446号(特許文献15);同第5,846,796号(特許文献16);同第5,654,186号(特許文献17);同第6,054,121号(特許文献18);同第5,827,735号(特許文献19);同第5,906,934号(特許文献20)は、いくつかの前駆細胞、例えば、筋肉前駆細胞、結合組織細胞前駆体または卵巣細胞に分化し得る間葉幹細胞(MSC)を開示する。筋肉前駆細胞はさらに、心筋細胞、骨格筋細胞および平滑筋細胞に分化し、結合組織細胞前駆体は骨に分化し得る。
【0002】
米国特許出願番号第09/985,335号(特許文献21)(参照として本明細書に組み入れられる)は、ヒト臍帯血、胎盤血、および/または新生児由来の血液から獲得され得る非限局的体性幹細胞(USSC)として公知の体性幹細胞を記載する。USSCは、間葉幹細胞もしくは前駆細胞、造血系幹細胞もしくは前駆細胞、神経幹細胞もしくは前駆細胞、または内皮幹細胞もしくは肝前駆細胞とは異なるものであるがこれらに分化する能力を有する。USSCは、造血系、間葉幹細胞、および神経幹細胞の前駆体として振る舞う。この独特の多機能性およびこれらの細胞を幹細胞のままの細胞としてまたは異なる分化プロトコルの下で方向付けられた(committed)細胞としてのいずれかとして拡大培養する技術は、その生産および再生医療における幹細胞療法の遂行のための細胞の正確な特徴付け、標準化、および利用を可能にする(USSCの単離および培養について記載した本明細書中の文章の一部は上記のPCTおよび米国出願から援用した)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,486,359号
【特許文献2】米国特許第5,591,625号
【特許文献3】米国特許第5,736,396号
【特許文献4】米国特許第5,811,094号
【特許文献5】米国特許第5,827,740号
【特許文献6】米国特許第5,837,539号
【特許文献7】米国特許第5,908,782号
【特許文献8】米国特許第5,908,784号
【特許文献9】米国特許第5,942,225号
【特許文献10】米国特許第5,965,436号
【特許文献11】米国特許第6,010,696号
【特許文献12】米国特許第6,022,540号
【特許文献13】米国特許第6,087,113号
【特許文献14】米国特許第5,858,390号
【特許文献15】米国特許第5,804,446号
【特許文献16】米国特許第5,846,796号
【特許文献17】米国特許第5,654,186号
【特許文献18】米国特許第6,054,121号
【特許文献19】米国特許第5,827,735号
【特許文献20】米国特許第5,906,934号
【特許文献21】米国特許出願番号第09/985,335号
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本発明者らは、USSCが血流を再構成することにより虚血を処置および予防する能力を有することを発見した。
【0005】
従って、本発明は、組織を有する哺乳動物における虚血を処置または予防する方法であって、虚血または虚血のリスクが該組織への血流障害に関連する方法を特徴とし;該方法は、非限局的体性幹細胞(USSC)を哺乳動物に投与する工程を包含する。一つの態様において、およそ1×105〜1×109のUSSCが患者に投与され、好ましくは約2×106のUSSCが患者に投与される。
【0006】
本発明は、虚血が起きたまたは虚血が起こる可能性のある心臓に関わる任意の事象または手技後に心機能を回復させるのに特に重要である。最も重要な用途は、心筋梗塞を起こした直後の患者において見出され得る。その他の心臓系患者には、心臓手術を受けた患者および再灌流損傷のリスクがある患者;例えば、心臓バイパス術、弁の修復もしくは交換、心臓移植、またはバルーン血管形成術を受けた患者を含む、USSCの投与から利益を享受し得る患者が含まれる。
【0007】
本発明によって処置または予防され得るその他の虚血状態には、肺、肝臓、および腎臓等のその他の内臓器官;骨格筋を含む領域、例えば体肢筋および体幹筋;ならびに平滑筋に関する虚血状態、例えば、胃腸管の平滑筋に関する手術、例えば、胃腸管の器官の病巣を処置するための手術、および閉塞、例えば腸閉塞を矯正する手術に関する虚血現象が含まれる。
【0008】
好ましいUSSCの投与方法は、細胞を静脈内投与することである。静脈内投与後、USSCは虚血損傷部位に誘導され、このような損傷領域に生着し、虚血損傷部位に酸素を運搬する新たな血管を形成させ、虚血を低減することによって、その領域における萎縮筋の量を減少させる。
【0009】
あるいは、USSCは、虚血損傷部位またはその付近に細胞を局所投与、例えば筋内投与することによって虚血を処置するために投与され得る。このような細胞の局所投与は、損傷部位が特に血流障害を有する場合、例えば、糖尿病患者の四肢における虚血を改善すべき場合に有利であり得る。
【0010】
心筋梗塞を起こした患者の場合、薬学的に許容される緩衝液に懸濁されたおよそ2×106〜1×109のUSSCが、可能な限り早急に、好ましくは心筋梗塞の発症後24時間以内に患者に静脈内投与される。その他の適切な処置計画は同時に施される。心臓への血流は二週間後に評価され;これには標準的な酸素投与試験が含まれ、かつUSSCが心臓への側副血管供給を増加させたことを確認することができる血管造影術も含み得る。所望の場合、側副循環をさらに増やすために、この段階で追加のUSSCが投与され得る。
【0011】
USSCは、以下に記載されるような密度勾配単離、付着細胞の培養、および増殖因子を加えた継代培養という工程により単離および精製され得る。コンフルエントな細胞層が得られた後、USSCを得るための単離プロセスは、形態(線維芽細胞様の形態)ならびにCD13(陽性)、CD45(陰性)、およびCD29(陽性)の表面抗原に対する抗体を用いる表現型分析により管理される。
【0012】
USSCは、CD45等の造血系に特異的なマーカーについて陰性であり、従って、同じ様に胎盤臍帯血から単離され得る造血幹細胞とは区別される。CD14およびCD106は、USSCにおいて検出できない二つのさらなる表面抗原である。USSCは、次の細胞表面抗原の一つ以上の発現によって同定され得る:CD13、CD29、CD44、およびCD49e。USSC調製物はさらに、上皮成長因子受容体(EGF-R)、血小板由来増殖因子受容体α(PDGF-RA)、およびインスリン増殖因子受容体(IGF-R)等の特定の受容体分子のmRNA転写物の存在により特徴付けられる。これらの細胞はまた、典型的には、YBl(Yボックス転写因子1)、Runxl(runt関連転写因子1)およびAMLlC(急性骨髄性白血病1転写因子)等の転写因子を発現し、これらはRT-PCRによって検出される。USSC調製物は、典型的には、軟骨形成性転写因子Cart-1の転写物ならびに神経フィラメント、シナプトフィシン、チロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylast)(TH)およびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)等の神経マーカーについて陰性である。
【0013】
(表1)RT PCRによるUSSCの転写パターンの分析
推定オリゴヌクレオチドプライマーならびにUSSC由来のmRNAおよび骨、軟骨、脳または臍帯血単核球等の他の組織由来の陽性対照のmRNAを用いて得たRT-PCRの結果

【0014】
USSC調製物およびMSC由来の骨髄(Caplan, 1991)のRAN発現は、定量用Affymetrix GeneChip(商標)マイクロアレイを用いることで直接的に比較された。USSCにおいてフィブリン-2遺伝子(ジーンバンク番号X82494)の転写物が高発現レベルで検出されたが、MSCにおいては検出されなかった。フィブリン-2の産生はこれまでに線維芽細胞において実証されている(Pan et al., 1993)。様々なヒト組織由来のmRNAのノーザンブロット分析は、心臓、胎盤、および卵巣組織において4.5kb転写物が豊富であることを明らかにした(Zhang et al., 1994)。このタンパク質は、ポリクローナル抗体を用いると、光学顕微鏡レベルで、受精後4〜10週のヒト胚において局在化している。フィブリン-2は主に、感覚上皮(neurophithelium)、脊髄神経節および末梢神経内で検出された(Misoge et al., 1996)。
【0015】
ラット動物モデルにおいて、ラット肝臓の筋線維芽細胞(rMF)はフィブリン2により局在化される。これらの細胞は、門脈領域、中心静脈壁に位置し、極まれに実質に位置した。線維症の早期段階において、rMFは瘢痕形成部位で検出された。線維症の進行段階において、rMFは瘢痕内に位置する細胞の大部分を占めた(Knittel et al., 1999)。その他の動物モデルにおいて、マウスフィブリン-2タンパク質は、胚の心臓発達期の心臓内隆起マトリクスにおいて上皮間葉転換の間に発現される。フィブリン-2はまた、神経堤細胞および心外膜細胞から派生する、それぞれ大動脈弓管を形成する平滑筋前駆細胞および冠動脈内皮細胞により合成される(Tsuda et al., 2001)。
【0016】
ヒアルロナンシンターゼ遺伝子(D84424)、フィブロモジュリン遺伝子(UO5291)の転写物および転写物1NFLS(W03846)はUSSCにおいて検出されなかったが、MSCにおいて高レベルで検出された。ノーザンブロット分析は、ヒアルロナンシンターゼがヒト組織において遍在的に発現されることを示した(Itano and Kimata, 1996)。この酵素の産物であるヒアルロナンは、隙間の充填、関節の潤滑、および細胞が移動可能なマトリクスの供給を含む様々な機能を有する(Hall et al., 1995)。フィブロモジュリンは、小腸プロテオグリカンファミリーのメンバーである。このタンパク質は幅広い組織分布を示し、関節軟骨、腱、および靭帯において最も豊富に観察される(Sztrolovics et al., 1994)。転写物INFLSはヒト胎児肝臓からクローニングされた。
【0017】
CD24遺伝子(L33930)は、MSCにおける発現レベルと比較して、USSCにおいて非常に低いレベルで発現される。CD24は多くのB細胞系統および成熟顆粒球において発現される(Van der Schoot et al., 1989)。
【0018】
USSCはヒト白血球抗原クラスI(HLAクラスI)の発現欠損により特徴付けられる。USSCとは対照的に、以前に記載された骨髄および筋肉組織から単離されたMSCは、それらの細胞表面上に非常の高レベルのHLAクラスI抗原を発現する。USSCはまた、時期特異的初期抗原4(stage specific early antigen 4)(SSEA4)を発現する。
【0019】
典型的には、USSCは、線維芽細胞様の細胞形状を示し、付着様式で増殖する。USSCはまたMSCよりもおよそ30%大きい。従って、USSCはMSCと形態学的に識別することができる。
【0020】
USSCは、他の体性幹細胞の前駆体、例えばAC133およびCD34を発現する造血系列の前駆体、間葉系前駆体性幹細胞の前駆体、神経系前駆体性幹細胞の前駆体、またはそれらの組み合わせに相当する複数の混合物中に存在し得る。このような組み合わせは、他の異なる体性幹細胞へと分化する能力に基づく高い再生力を提供する。
【0021】
本発明において有用ないくつかの医薬物は、その他の体性幹細胞と共にUSSCを含む。医薬物はさらに、医学的かつ薬理学的に許容される担体物質または補助物質を含み得る。USSCは直接投与されても薬学的に許容される担体または佐剤と共に投与されてもよい。虚血を処置する治療的に活性なさらなる物質を添加するのが有利であり得る。
【0022】
一般的に、MSCの投与に関して公知の方法は、同様の様式でUSSCを投与する場合にも適用され得る。例えば、幹細胞の投与については、B. E. Strauer et al. M. "Intrakoronare, humane autologe Stammzelltransplantation zur Myokardregeneration nach Herzinfarkt", Dtsch. Med. Wochenschr 2001; 126: 932-938; Quarto R., et al., "Repair of Large Bone Defects with the Use of Autologous Bone Marrow Stromal Cells". N. Eng. J. Med. 2001; 344:385-386; Vacanti C.A., "Brief Report: Replacement of an Avulsed Phalanx with Tissue-Engineered Bone" N. Eng. J. Med. 2001; 344:1511-1514, May 17, 2001; Hentz V.R., "Tissue Engineering for Reconstruction of the Thumb", N. Eng. J. Med. 2001; 344:1547-1548; Brittberg M., "Treatment of Deep Cartilage Defects in the Knee with Autologous Chondrocyte Transplantation", N. Eng. J. Med l994; 331 :889- 895, Oct. 6, 1994; Freed C.R., "Transplantation of a Tissue-Engineered Pulmonary Artery", N. Eng. J. Med. 2001; 344:532-533. Shapiro A.M. J., Islet Transplantation in Seven Patients with Type 1 Diabetes Mellitus Using a Glucocorticoid-Free Immunosuppressive Regimen N. Eng. Med. 2000; 343:230-238に記載される。これらの参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
様々な送達系が公知であり、USSCを投与するのに使用され得る。導入方法には、皮内経路、筋内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路、および経口経路が含まれるがこれらに限定されない。細胞は任意の都合の良い経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって投与され得、その他の生物学的に活性な薬剤と共に投与され得る。投与は全身投与であっても局所投与であってもよい。
【0024】
特定の態様において、虚血損傷を処置する必要のあるまたはそのリスクのある領域に局所的にUSSCを投与することが望ましく;これは、例えば、非限定的に、注射による、カテーテルによる、またはメンブレン、例えばシラスティック(sialastic)メンブレン、もしくはファイバーを含む多孔性、非多孔性、もしくはゼラチン質の物質の移植片による手術時の局所注入によって達成され得る。別の態様において、USSCは小胞、特にリポソーム(例えば、被包性リポソーム)により送達され得る。
【0025】
全身注入
一つの保存されたサンプル中のUSSC数が不十分な場合、そのようなサンプルがいくつか組み合わされ、必要数の細胞が提供され得る。あるいは、保存サンプル中のUSSC数が十分以上の場合、そのサンプルはアリコートに分割され、一つ以上のアリコートが患者に投与され得る。USSCは患者への注入により、例えば、冠動脈内注入、逆行性静脈注入(例えば、Perin and Silva, Curr. Opin. Hematol. 11 :399-403, 2004を参照のこと)、心室内注入、脳室内注入、脳脊髄注入、および頭蓋内注入によって投与され得る。
【0026】
ヒト療法は一回以上のUSSCの注入を必要とするであろうことが予想される。USSCの数回の注入は経時的に、例えば、1回目を第1日に、2回目を第5日に、そして3回目を第10日に行われ得る。最初の10日間の経過後、一定期間、例えば2週〜6月の細胞投与をしない期間が設けられ得、その後にこの10日間投与プロトコルが反復され得る。
【0027】
一回の注入療法として投与されるか複数回の注入療法として投与されるかにかかわらず、受容者は免疫抑制を必要とする可能性がある。これを補うプロトコルは、シクロスポリンAおよびFK506等の薬剤を用いる、ヒトの骨髄置換移植(すなわち細胞移植)において現在使用されている慣例に従うものであろう。しかし、驚くべきことに、本発明者らはUSSCの投与がこのような免疫抑制を通常必要としないことを確認した。
【0028】
直接注射
USSCの別の可能な投与経路は、直接的な外科的注射(例えば、心筋内注射もしくは経心内膜注射、頭蓋内注射、脳内注射、または槽内注射、筋内注射、肝臓内注射、および膵臓内注射)を介して処置すべき身体組織または領域(例えば、脳、筋肉、心臓、肝臓、膵臓、および脈管系)へと投与するものである。この投与方法はまた複数回の注射を必要とし得、その処置中断期間は2週〜6月にまたがるものであるかまたはそれ以外では担当医により決定された期間である。
【0029】
移植
USSCはまた、患者の虚血性疾患もしくは損傷の部位、または、虚血性疾患もしくは損傷の処置を促進し得る部位に移植により投与され得る。
【0030】
USSCの詳細な特徴付け
USSCは、線維芽細胞様の細胞形状を有し、かつトリプシンEDTA処理および適当な培養条件下での再接種後に2つまたは3つの核小体が得られる付着性細胞である。この細胞は急速に拡大培養されコンフルエントになって長く伸長した形態を示す。この細胞を低密度でプレーティングすると、USSCの線維芽細胞様形態を実現する。これらの細胞は容易に14回以上継代培養できる。ほぼコンフルエントなUSSC細胞層は、細胞の平行配向性(parallel orientation)を示す。形態学的には、USSCはMSCよりもおよそ30%大きい。
【0031】
一次付着細胞層およびその後の継代におけるそれらの全ての派生物の表面マーカーの表現型は、CD45マーカーについて陰性でありこれが維持される。造血細胞に特徴的なマーカー抗原であるCD45は、後の継代のUSSCではほとんど検出できなかった。
【0032】
インビトロ培養後、USSC調製物は、時期特異的初期抗原4(SSEA4)について陽性となり、この胚マーカーの均質な発現を示す。SSEA4胚マーカーのFACS分析において、細胞は、時期特異的初期抗原4(SSEA4)の発現を強く示す。同時に、USSC培養物は、HLA-クラスI表面抗原の発現、HLA-DR抗原の発現、およびCD14の発現について陰性である。HLA-クラスI、HLA DR、およびCD14のFACS分析において、USSCはHLA-クラスI抗原について陰性である。これらの細胞はまた、抗原提示細胞(HLA-DR)および単球(CD14)に特徴的なHLA-DRおよびCD14表面抗原についても陰性である。USSCはまた、CD106表面抗原についても陰性である。
【0033】
USSCをH5100/PEIにおいて10代以上培養した。この培養期間中、CD34抗原発現の有意な増加を確認した。54日目以前の3代においては、CD34陽性細胞は検出できなかった。対照的に、82日目の第7代においては、新規のCD34陽性亜集団が見られる。対照的に、このようなCD34または/およびFIK1陽性前駆体を造血系の分化に特化したサイトカイン条件培地で培養した場合、赤血球細胞および白血球細胞の前駆体(CFU-GMおよびBFU-E)の典型的な混在コロニーまたは造血性コロニーが、CD45造血前駆細胞と同程度に構築された。
【0034】
CD14を枯渇させた臍帯血単核球を高グルコース含有培地中で培養すると、それらは神経幹細胞の典型的な特徴を示す。高グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養したUSSCは、星状細胞様の形態を実現する。USSCは、PEIと共に拡大培養した後に、神経幹細胞マーカーであるネスチンを発現する。最初の観察は、レチノイド酸(RA)、塩基性線維芽細胞成長因子bFGF、および神経成長因子β(NGFβ)等の神経誘導剤で細胞を刺激した後にネスチン染色がほとんど表れないことを示している(McKay, 1997)。
【0035】
USSCを任意の拡大培養継代物から採取し、DAG(デキサメタゾン、アスコルビン酸、B-グリセリンリン酸)含有培養条件またはフィブロネクチン含有培地で誘導すると、骨形成系への分化が誘導される。表2に示されるように、骨特異的マーカー遺伝子(アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、コラーゲンI型)が容易に誘導されRT-PCRによって検出され得る。
【0036】
(表2)USSCの骨形成性分化におけるRT-PCR分析

【0037】
骨形成性分化の三つのマーカー遺伝子は全て、DAG誘導7日目にmRNA発現の増加を示す。B-アクチンは陽性対照としての役割を果たす。
【0038】
石灰化した小節の形成は、骨形成誘導後およびアリザリンレッド染色後に観察された。ほぼコンフルエントのUSSC層の骨形成性分化は、デキサメタゾン、アスコルビン酸、B-グリセリンリン酸を培養培地H5100に添加することによって誘導された。刺激10日目に特徴的な骨節が見られる。これらの小節における無機物の堆積は、アリザリンレッド染色によって実証され得る。これらの骨形成誘導条件下、細胞は完全な骨形成性分化を起こした。これはアリザリンレッドによって染色され得るはっきりとした小節における石灰化した骨の蓄積により実証される。あるいは、細胞培養物におけるヒドロキシアパタイトの蓄積が、フォン・コッサ染色により6日後に検出され得る。
【0039】
臍帯血(CB)の回収
病院の産科部門における臍帯血の回収は、その母親に対するインフォームドコンセントの下で行った。まだ胎内にある胎盤と共に胎児を娩出した後、臍帯を二重に固定し、臍から7〜10cm先を切除した。帯の消毒後、臍静脈に穴を開け、CBを、抗凝固剤としてクエン酸リン酸デキストロース(CPD)を含む回収袋に回収した。
【0040】
臍帯血からの単核球の単離
臍帯血を注意深くFicoll溶液に充填し(密度1.077g/cm3)、密度勾配遠心分離を行った(450g、室温、25分)。中間相の単核球(MNC)を回収し、リン酸緩衝生理食塩水、pH7.3(PBS)で二回洗浄した。
【0041】
線維芽細胞様形態の付着層の生成
単核球は、T25培養フラスコ(Nunclon)に約5×103細胞/cm2の密度でプレーティングした[A.)B.)C.)]。4つの異なる培養方法を用いて付着性幹細胞の培養を開始した。
A.)CD由来のMNCを、最初に、10-7 Mデキサメタゾンを含有するMyelocult H5100培地(StemCell Technologies, Vancouver, Canada)中で培養した。
B.)CB由来のMNCを、最初に、10-7 Mデキサメタゾンを含有するMesencult(StemCell Technologies, Vancouver, Canada)中で培養した。
C.)CB由来のMNCを、10mlのMyelocult H5100培地(StemCell Technologies, Vancouver, Canada)中に5×106/mlの密度で、デキサメタゾンを含まない50ml培養フラスコ(Nunclon)にプレーティングした。
【0042】
全ての培養物は、37℃、5% CO2中、十分な加湿環境下でインキュベートし、一週間に一度、非付着細胞を含む完全培地を除去して10mlの新鮮な培地を加えることによって栄養補給した。いくつかの時点の後、付着した紡錘形状の細胞を、0.05%トリプシンおよび0.53mM EDTAで2分間処理することによって採取し、50%血清含有培地で洗浄し、780gで遠心分離することによって回収し、フローサイトメトリーまたはRT-PCRにより分析した。2〜3週間後、線維芽細胞様形態の付着細胞が、全細胞培養物の約30%で見られる。
【0043】
USSCの拡大培養のための培養条件
USSCは、10ng/ml IFG I(インスリン増殖因子-I)、10ng/ml PDGF-BB(血小板由来増殖因子-BB)、および10ng/ml rh-ヒトEGF(組み換えヒト上皮増殖因子)(PEI培地)を含有するH5100培地において、1×104〜1×105細胞/mlの範囲の密度で拡大培養できる。あるいは、USSC調製物は、最初の培養培地で拡大培養することができる。
【0044】
サイトフローメトリーによる細胞の免疫表現型分析
USSCの免疫表現型を決定するために、FITC結合抗CD45(Becton Dickinson, Coulter)、PE結合抗CD14(PharMingen, Coulter)、ヤギF(ab’)2抗マウスIgG+IgM(H+L)-FITC(Coulter)で標識した抗SSEA-4(MC-813-70)、抗CD10-PE(CALLA, PharMingen)、ヤギF(ab’)2抗マウスIgG+IgM(H+L)-FITCで標識した抗HLA-クラスI(Coulter)、抗CD13-PE(Becton Dickinson, Coulter);抗CD29(Coulter)、抗CD44(Coulter)、抗CD49e(Coulter)、抗CD90(Coulter)、抗HLA-クラスII-FITC(Coulter)で細胞を染色した。細胞は、EPICS XL(Coulter)またはFACS分析機(Becton Dickinson)を用いて分析した。
【0045】
USSCの脈管形成能力を評価するために、本研究では、マウス虚血性後肢モデルにおける血流再構成に対するUSSCの効果を評価した。
【0046】
方法:胸腺欠損NMRIヌードマウス(18〜22g、n=11)の大腿動脈の近位部分を電気的に凝血させた。24時間後、2.5×106のUSSCおよび対照としての緩衝液を静脈内注射した。2週間後、虚血体肢および非虚血体肢における血流比を、個々の動物各々についてレーザードプラ式血流画像化装置(LDI)を用いて決定した。USSC処理した虚血体肢の運動能力の変化を評価するため、遊泳試験を使用した。USSCの生着、導管(conductant vessel)の数および大きさ、ならびに萎縮筋組織の減少を組織学的に試験した。
【0047】
結果:体肢虚血誘導の2週間後、LDIは、USSC処置マウスにおいて体肢灌流の回復が有意に増強されることを明らかにした(0.60±0.21;P<0.001対0.31±0.14)。USSC群が有意に高い運動能力を示し、遊泳時間比(虚血誘導前および虚血誘導の14日後の遊泳時間)が対照(0.48±0.17;n=11)に対して0.89±0.15;P=0.001であったことはこれと整合する。インサイチューハイブリダイゼーション分析は、USSCが虚血性後肢内に、大部分が血管壁に隣接する部分に生着することを明らかにした。血管数は、小型血管(<50um:3.7±0.7対4.7±0.3)および大型血管(>100um:0.3±0.3対0.9±0.3)とも対照と比較してUSSC群において有意に増加したが、中型血管(50〜100um;3.0±1.0対2.9±0.6)については差が観察されなかった。最後に、萎縮筋組織の比率は、対照群よりもUSSC処置動物において有意に低かった(8.1±2.5%対22.7±1.7%;P=0.0001)。
【0048】
これらのデータは、後肢虚血のマウスモデルにおけるUSSCによる組織虚血の処置が体肢における灌流の回復を有意に増強し、その結果健常な筋組織を維持することによってその運動能力を増強することを実証する。従って、本研究は、USSCが急性虚血組織後、例えば、心筋梗塞後の脈管形成を増強する有望な候補であることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を有する哺乳動物における虚血を処置または予防する方法であって、虚血または虚血のリスクが該組織への血流障害に関連し、虚血処置数または虚血予防数の非限局的体性幹細胞(USSC)を哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
USSCが哺乳動物に全身投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
USSCが静脈内投与される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記組織が体肢組織であり、該体肢組織が該体肢への血流障害により虚血性となっている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記組織が内蔵器官の組織である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記組織に血液を供給する血管の数が増加するよう該組織にUSSCを移植することによって虚血が処置または予防される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
血管数の増加により前記組織における壊死が減少する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記組織が筋肉であり、血管数の増加が萎縮筋の量を減少させる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記筋肉が骨格筋である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記筋肉が体肢筋である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記筋肉が心筋である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記筋肉が平滑筋である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
USSCが臍帯血由来である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
USSCが局所投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
USSCが筋内投与される、請求項14記載の方法。

【公表番号】特表2008−545703(P2008−545703A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513716(P2008−513716)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/020290
【国際公開番号】WO2006/130433
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(506209721)バイアセル インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】