説明

幹細胞由来心筋細胞を培養するための合成表面

幹細胞由来の心筋細胞を培養するために適切な合成表面は、一ないし複数のアクリレートモノマーから形成されるアクリレートポリマーを含む。アクリレート表面は、多くの場合、幹細胞由来の心筋細胞を合成培地で培養するために好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本出願は、2008年1月30日出願の米国仮出願番号61/062921の優先権を主張するものであって、出典明記によってその全体が援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示内容は、細胞培養物品及びその使用方法、特に幹細胞由来心筋細胞の培養を支援するために適する物品に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト胚性幹細胞(hESC)などの多能性幹細胞には、ヒトの身体のいずれかの種類の成熟細胞を生じる3つの胚葉のいずれかに分化する能力を有する。この優れた特性は、糖尿病、脊髄損傷、心臓病などといった多くの重症細胞変性疾患のための新規の治療を開発する可能性をもたらす。例えば、皮膚や肝臓といった臓器とは異なり、心臓は広範な修復を経るほど十分な心筋細胞を再生することはできない。ゆえに、心臓の修復は、心臓に移植されるhESC又は他の多能性幹細胞から分化されうる心筋細胞から利益を得うる。
【0004】
しかしながら、前記のようなhESCを基にした治療の開発には障害が残っている。この障害とは、組織培養中に十分な数の未分化hESCを得て維持することと、特定の細胞種を産生させるために細胞の分化を制御することなどである。hES細胞培養物などの幹細胞培養物は、一般に、細胞バンクないし貯蔵物から少量の細胞を播種し、次いで所定の医療用途のために分化が望まれるまで未分化状態で増幅させる。これを達成するために、hESCないしその分化細胞は、現在のところ、フィーダー層、胎児ウシ血清又はマトリゲルといった動物由来の成分を含有する表面又は培地の存在下で培養される。培養環境に対するこれら動物由来添加物は、細胞を、患者に移すか又はhESCの培養全般及び維持を損なわせる有害になりうるウイルスや他の感染性因子に曝す。さらに、このような生物由来物質はバッチ変異、免疫応答及び有効期間の制限を受けやすい。
【0005】
動物由来の成分を含んでいない培地又は表面上でhESCを培養するためにいくつかの工程が取られていた。しかしながら、hESCないしはその分化した誘導体の反応は、表面又は培養培地の変化の要素として予測することが難しい。にもかかわらずいくらかの進歩があった。例えば、hESC由来の心筋細胞は規定の無血清培地中で培養されている。このような培養系は、使用するマトリクスがゼラチンやマトリゲルのような動物由来の成分を含む場合に完全に無異物培養系とはならないが、hESC由来心筋細胞の最終的な臨床応用に向けての一歩となる。更なる例として、ヒト上皮幹細胞の上皮細胞への分化を促しうる合成表面がいくつか同定された。しかしながら、使用する系は細胞培養のために血清培地に頼っており、やはりすべての生物学的な動物由来成分について前述のような問題が起こる可能性がある。今まで、幹細胞又は幹細胞由来の細胞を培養するために、合成培地及び合成表面を用いた完全に動物を含まない系は、未だ同定されていない。
【発明の概要】
【0006】
本開示内容は、とりわけ、合成培地における幹細胞由来の心筋細胞の培養に有用な合成表面を開示する。
【0007】
ある実施態様では、幹細胞由来の心筋細胞の培養方法が提供される。この方法には、ポリマー物質上に幹細胞由来心筋細胞を含有する懸濁液を沈着させること、及び細胞培養培地中で沈着した幹細胞由来心筋細胞を培養することが含まれる。ポリマー物質には、選択された一ないし複数のアクリレートモノマーのホモポリマー又はコポリマーが含まれる。
【0008】
ある実施態様では、幹細胞由来の心筋細胞の培養物が提供される。この培養物には、表面上に配置されたポリマー物質を有する物品が含まれる。この培養物にはさらに、ポリマー物質上に配置された幹細胞由来の心筋細胞及び、幹細胞由来の心筋細胞が培養される培養培地が含まれる。ポリマー物質には、選択された一ないし複数のアクリレートモノマーのホモポリマー又はコポリマーが含まれる。
【0009】
ある実施態様では、合成培地において幹細胞由来の心筋細胞を培養するための細胞培養物品が提供される。この物品には、表面と表面上に配置されたポリマー物質が含まれる。ポリマー物質には、選択された一ないし複数のアクリレートモノマーのホモポリマー又はコポリマーが含まれる。
【0010】
本明細書中で示す様々な実施様態の一ないし複数は、幹細胞由来の心筋細胞を培養するための従来の表面よりも一ないし複数の利点を提供する。例えば、本合成表面は、動物源から生じるないしは動物源由来の成分を有する表面に関連する起こりうる混入物の問題を低減する。また、このような表面は、生物学的成分を含む表面と比較して保存期間を改善しうる。さらに、合成培地中での幹細胞由来心筋細胞を培養する能力は、潜在的な混入物の問題を低減する。さらに、合成表面又は合成培地の能力においてバッチ間変異がほとんどなく、培養産物及び予測値の再現性が改善されるであろう。添付の図面と合わせて読むと以下の詳細な説明からこれら及び他の利点は容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1A−Bは、合成ポリマー層コート物品の側面図の略図である。
【図2】図2A−Cは、マルチウェル細胞培養プレートの横断面の略図である。プレートは、図2Aではコートされておらず、図2Bではコートされている。
【図3】図3は、実施例1に記載するように、製剤1(A)、製剤18(B)およびマトリゲル(C)の表面上かつ合成培地中で培養された幹細胞由来心筋細胞の蛍光画像である。緑:Nkx2.5。赤:α-アクチニン。
【0012】
図は必ずしも目盛りを必要としない。図に用いた数字類は成分、工程などを指す。しかしながら、図中の成分を指すための数字の使用は、同じ番号を付した他の図中の成分を限定するものではないことは理解されるであろう。さらに、成分を指すための異なる数字の使用は、異なる番号を付した成分が同じ又は類似のものではないことを表すことを意図するものではない。
【0013】
(詳細な説明)
以下の詳細な説明では、この一部となる添付の図を参照されたい。これらの図は、装置、システム及び方法のいくつかの具体的な実施態様を例として示す。他の実施態様が考慮され、本開示内容の権利範囲又は要旨を逸脱しないで実施されうることは理解されるであろう。したがって、以下の詳細な説明は限定的に捉えられるものではない。
【0014】
特に定めのない限り、本明細書中で用いるすべての科学的及び技術的用語は、当分野で通常用いられる意味を有する。本明細書中で示す定義は、本明細書中でたびたび用いる特定の用語の理解を容易にするためのものであり、本開示内容の権利範囲を限定することを意味するものではない。
【0015】
内容から明示的に決定されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形の「a」、「an」及び「the」は、複数形のものを有する実施態様も包含する。内容から明示的に決定されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられるように、「又は」なる用語は一般に、「及び/又は」を含む趣旨で用いられる。
【0016】
特別に記載しない限り、溶液などの組成物中の化合物の比率は容量を基準に表す。
本明細書中で用いられるように、「有する」、「有している」、「含有する」、「含有している」、「含む」、「含んでいる」などはオープンエンドな趣旨で用いられ、一般に「含むがこれらに限定しない」ことを意味する。
【0017】
ここで使用しているように、「アクリレート」なる用語は、アクリレート部分又はメタクリレート部分を含有する化合物を包含する。アクリレート部分は、以下の式:CHCHC(O)O−の部分である。メタクリレート部分は、以下の式:CHC(CH)C(O)O−の部分である。本開示のために、「アクリレート」なる用語には、表1に開示される特定の化合物が含まれる。化合物又は化合物の基が明記される場合など、内容により明確に示される場合を除き、「アクリレート」と「メタクリレート」は本明細書中で交換可能に用いられる。
【0018】
本開示内容は、とりわけ、幹細胞由来心筋細胞を培養するための合成表面を有する物品、及び該表面上での幹細胞由来心筋細胞の培養方法を記載する。いくつかの実施態様では、合成表面は、幹細胞由来心筋細胞を培養するために合成培地と組み合わせて用いられる。表面は、hESCといった幹細胞を心筋細胞に分化させる際に、又はこのような幹細胞由来OPCを増殖させるために有用であろう。
【0019】
1.細胞培養物品
図1に関して、細胞を培養するための物品(100)の略図を示す。物品(100)は、表面(15)を有する基材物質(10)を具備する。合成ポリマーコーティング層(20)は基材物質(10)の表面(15)上に配置される。図示していないが、合成ポリマーコーティング(20)は基材物質(10)の一部の上に配置されてもよい。基材物質(10)は、セラミック物質、ガラス、プラスチック、ポリマーないしはコポリマー、これらいずれかの組み合わせ、又は他のものの上にある物質のコーティングといった、細胞を培養するために適する任意の物質でよい。このような基材物質(10)には、ソーダ石灰ガラス、パイレックスガラス、バイコールガラス、シリカガラスといったガラス物質;シリコン;樹枝状ポリマー類を含むプラスチック類ないしはポリマー類、例えばポリ(ビニルクロライド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアセテート-無水マレイン酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー類、フッ素樹脂類、ポリスチレン類、ポリプロピレン、ポリエチレンイミン;コポリマー、例えばポリ(ビニルアセテート-コ無水マレイン酸)、ポリ(スチレン-コ無水マレイン酸)、ポリ(エチレン-コアクリル酸)ないしはこれらの誘導体などが含まれる。
【0020】
細胞培養に適する物品(100)の例には、6、12、96、384及び1536ウェルプレートといったマルチウェル及びシングルウェルのプレート、広口瓶、シャーレ、フラスコ、ビーカー、プレート、回転瓶、チャンバー及びマルチチャンバー培養スライドといったスライド、チューブ、カバースライド、カップ、攪拌瓶、灌流チャンバー、バイオリアクター、CellSTACK(登録商標)及び発酵槽が含まれる。
【0021】
合成ポリマーコーティング(20)は、細胞が培養される表面(25)を提供する。合成ポリマー表面(20)には、以下の表1に示されるモノマーの群から選択される、重合化(メタ)アクリレートモノマー類が含まれる。生物模倣表面を製造するために、ペプチド類といった他の物質(表に示していない)が合成ポリマー表面に組み込まれるか又は接合されてもよい。
【0022】
【表1】


【0023】
表1に列挙されるアクリレートは、当分野において周知なように合成されても、又はポリサイエンス社、シグマ・アルドリッヒ社及びサートーマー社といった販売会社から入手してもよい。
【0024】
図1Bに示すように、基材(10)の表面(15)と合成ポリマーコーティング(20)との間に中間層(30)が配置されてもよい。中間層(30)は基体(10)へのコーティング(20)の結合を向上するように構成され、モノマー伸展を容易にし、コートした領域上での細胞増殖を促すためにコートされていない表面(10)の部分に細胞を寄せ付けなくさせ、モノマー又は溶媒が基材(10)に適合しない場合にモノマー又は溶媒に適合する基体を提供し、必要であれば例えばパターン化されたプリンティングなどにより地形的な特徴を提供する。例えば、基体(10)がガラス基体である場合、ガラス基体の表面をエポキシコーティング又はシランコーティングにて処理することが望ましい。様々なポリマー基材(10)のために、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン(polyethtylene)又はポリアクリラートの中間層(30)を提供することが望ましい。図示されてはいないが、合成ポリマーコーティング(20)が中間層(30)の一部に配置されてもよいことは理解されるであろう。さらに、中間層(30)が基材(10)の一部に配置されてもよいことは理解されるであろう。
【0025】
様々な実施態様では、基材(10)の表面(15)は物理的又は化学的に処理され、望ましい性質又は特徴を表面(15)に与える。例えば、そして、後述するように、表面(15)はコロナ処理又はプラズマ処理されてよい。真空又は大気圧プラズマの例には、一次及び二次の高周波(RF)及びマイクロ波プラズマ、誘電バリア放電、及び分子ないしは空気、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、亜酸化窒素又は水蒸気を含む混合ガスにおいて生成されるコロナ放電が含まれる。
【0026】
中間層(30)に配置されているか又は基材(10)に配置されているかにかかわらず、合成ポリマーコーティング層(20)は下層の基体を均一にコートするのが好ましい。「均一にコートされる」とは、所定の領域、例えば培養プレートのウェルの表面の層(20)がおよそ5nm以上の厚で完全にその領域をコートしていることを意味する。均一にコートされた表面の厚が表面全体にわたって変化してもよいが、均一にコートされた表面の領域には下層の層(中間層(30)又は基材(10))が露出している領域はない。均一でない表面全体の細胞応答は、均一表面全体の細胞応答より可変性が高い傾向がある。
【0027】
合成ポリマーコーティング層(20)は任意の望ましい厚を有してよい。しかしながら、厚いコーティング、例えばおよそ10マイクロメートルを超えるコーティングは表面張力によりコーティング表面周辺に起伏を起こす傾向があることがわかっている。様々な実施態様では、コーティング層(20)の厚は、およそ10マイクロメートル未満である。例えば、厚は、およそ5マイクロメートル未満、およそ2マイクロメートル未満、およそ1マイクロメートル未満、およそ0.5マイクロメートル未満又はおよそ0.1マイクロメートル未満でもよい。
【0028】
合成ポリマー層(20)を形成しているポリマー物質は任意の適切な程度に架橋されてよい。高い架橋度は、老廃物を減らし、細胞毒性を減らす結果となりうる。
【0029】
多数の実施態様では、物品(100)は、ウェルを有する細胞培養製品、例えばシャーレ、マルチウェルプレート、フラスコ、ビーカー又はウェルを有する他の容器である。図2に関して、基材(10)から形成される物品(100)は一ないし複数のウェル(50)を具備してよい。ウェル(50)は側壁(55)及び表面(15)を含む。図2B−Cに関して、合成ポリマーコーティング(20)が、表面(15)又は側壁(55)(又は、上記の図1について述べたように、一ないし複数の中間層(30)が表面(15)又は側壁(55)と合成ポリマーコーティング(20)との間に配置されてもよい)又はその一部に配置されていてもよい。
【0030】
様々な実施態様では、物品(100)は、およそ5mmより大きい領域を有する表面(25)を有する均一にコートされた層(20)を具備する。ヒト胚性幹細胞といったいくつかの細胞は(例えば、およそ0.5mmの直径を有する)細胞のコロニー又はクラスターとして播かれ、定量的な細胞応答を生産させるために十分な数のコロニーを接着させるための十分な表面が望ましいので、表面(15)の領域が小さすぎる場合、確実な細胞応答が容易に観察されない。多数の実施態様では、物品(100)は、均一にコートされた表面(15)を有するウェル(55)を有し、この表面(15)はおよそ0.1cmより大きい、およそ0.3cmより大きい、およそ0.9cmより大きい、又はおよそ1cmより大きい領域を有する。
【0031】
2.合成ポリマー層のコーティング
合成ポリマー層は、公知又は将来開発される工程により細胞培養物品の表面に配置されてよい。好ましくは、合成ポリマー層は、典型的な細胞培養状態の間に剥離しない均一層を提供する。合成ポリマー表面は、共有結合性又は非共有結合性の相互作用により基材物質と結合してもよい。合成ポリマー表面を基体と結合させうる非共有結合性の相互作用の例には、化学的吸着、水素結合、表面相互浸透、イオン的結合、ファンデルワールス力、疎水的相互作用、双極子相互作用、力学的連動、及びこれらの組み合わせが含まれる。
【0032】
様々な実施態様では、基材物質表面は、同時係属中出願番号_の教示にしたがってコートされる。この出願は、本願と同日に出願され、ゲーマン等を発明者とし、代理人番号20726であり、幹細胞培養物品及びスクリーニングと題するものであり、本明細書において示す開示内容と矛盾しない範囲で、すべての目的のために、出典明記によってその全体が本明細書中に援用される。
【0033】
多数の実施態様では、モノマーは、細胞培養物品の表面上に沈着され、インサイツで重合化される。このような実施態様では、基材は、本明細書において、合成ポリマー物質が沈着される「基体」と称される。重合化は、溶液相中で起こっても、凝集相中で起こってもよい。
【0034】
上の表1に示されるモノマーの多くは粘性があるので、適切な溶媒にモノマーを希釈させて、表面上に分注される前に粘性を低減するのが望ましい。粘性を低減することによって形成される合成ポリマー物質の層が薄くより均一になりうる。当業者は適切な溶媒を容易に選択することができるであろう。溶媒は、細胞培養物品を形成している材料及びモノマーに適合するのが好ましい。培養される細胞に毒性がなく、重合化反応に干渉しないモノマーを選択することが望ましい。あるいは、又は、加えて、実質的に完全に取り除かれうるか又は、毒性がないないしは重合化にもはや干渉しない程度にまで取り除かれうる溶媒を選択することが望ましい。このような状況では、真空又は高温といった過酷な条件なしに容易に取り除かれることが望ましい。揮発性溶媒は、このような容易に取り除くことができる溶媒の例である。
【0035】
本明細書中に記載のコーティング物品のための様々な状況において適するいくつかの溶媒には、エタノール、イソプロパノール、アセチルアセテート、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)が含まれる。同時係属中の出願番号_にて記載されるように、重合化前に溶媒を取り除くことが望ましい場合には、エタノールは特に適切な溶媒でありうる。
【0036】
モノマーは、所望の粘度及びモノマー濃度を達成するために適切な任意の量に溶媒で希釈されてよい。一般に、本明細書において示される教示に従って用いられるモノマー組成物は、およそ1%〜およそ99%のモノマーを含有する。例として、モノマーは、体積にしておよそ1%からおよそ50%のモノマー、又はおよそ1%からおよそ10%のモノマーを有する組成物となるようにエタノール溶媒で希釈されてよい。ポリマー層(20)が所望の厚となるように、モノマーが溶媒で希釈されてもよい。上記のように、沈着されたモノマーが厚すぎる場合、不均一な表面となりうる。実施例において更に詳細に説明するように、モノマー−溶媒組成物が1平方センチメートルの表面(15)につきおよそ8マイクロリットルより多い容量でウェル(50)の表面(15)上に沈着される場合、不均一な表面が観察されうる。様々な実施態様では、モノマー−溶媒組成物は、1平方センチメートルの表面(15)につきおよそ7マイクロリットル以下の容量でウェル(50)の表面(15)上に沈着される。例えば、モノマー−溶媒組成物は、1平方センチメートルの表面(15)につきおよそ5マイクロリットル以下、又は1平方センチメートルの表面(15)につきおよそ2マイクロリットル以下の容量でウェル(50)の表面(15)上に沈着されてよい。
【0037】
様々な実施態様では、直接、又は、一ないし複数の付加的な中間層により、合成ポリマー表面が、共有結合的又は非共有結合的な相互作用により基材と結合している中間層の表面上に沈着される(図示しない)。このような実施態様では、中間層は、本明細書において、合成ポリマー表面が沈着される「基体」と称される。
【0038】
様々な実施態様では、基材の表面は処理される。表面は、基材表面への合成ポリマー表面の結合を向上させるために処理され、基材表面上でのモノマー伸展などを促しうる。もちろん、基材は、中間層と同様の目的のために処理されてもよい。様々な実施態様では、表面はコロナ処理されても真空プラズマ処理されてもよい。このような処理から得られる高い表面エネルギーは、モノマー伸展及び均一なコーティングを容易にしうる。使用されうる真空プラズマ処理の例には、マイクロ波真空プラズマ処理と高周波真空プラズマ処理が含まれる。真空プラズマ処理は、反応性ガス、例えば酸素、窒素、アンモニア又は一酸化窒素の存在下で実施されてもよい。
【0039】
合成ポリマー表面を形成するために、上の表1に示される一ないし複数のモノマーが重合化される。1つのモノマーが使われる場合、ポリマーはモノマーのホモポリマーと称されるであろう。2つ以上の異なるモノマーが使われる場合、ポリマーはモノマーのコポリマーと称されるであろう。使用されるモノマーは、単官能基、二官能基、又は高次官能基であってよい。2つ以上のモノマーが使われる場合、モノマーの比率は変化してもよい。様々な実施態様では、2つのモノマーが使われ、第一モノマーの第二モノマーに対する体積当たりの比率は、およそ5:95からおよそ95:5である。例えば、第一モノマーの第二モノマーに対する比率は、およそ10:90からおよそ90:10、およそ20:80からおよそ80:20、およそ30:70からおよそ70:30である。いくつかの実施態様では、第一モノマーの第二モノマーに対する比率は、およそ50:50、30:70又は10:90である。ポリマーの分子量が、モノマーの濃度又は、単官能基のモノマーに対する二官能基又は高次官能基のモノマーの比率を変化させることによって制御されうることは理解されるであろう。二官能基又は高次官能基のモノマーの濃度の増加は、鎖の架橋度を増やすであろう。
【0040】
ポリマー層を形成するモノマーに加えて、層を形成する組成物は、一ないし複数の更なる化合物、例えば界面活性剤、湿潤剤、光発動因子、熱発動因子、触媒、活性化因子及び架橋剤を含んでもよい。
【0041】
任意の適切な重合発動因子が使用されてよい。当業者は、表1に列挙されるモノマーの使用に適する適切な発動因子、例えばラジカル発動因子又はカチオン発動因子を容易に選択することができるであろう。様々な実施態様では、紫外線を用いて、連鎖重合を開始させるためにフリーラジカルモノマーを生成させる。
【0042】
任意の適切な発動因子が用いられてよい。重合発動因子の例には、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン類、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル類、ヒドラゾン類、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール類、クロロトリアジン類、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル類、ジケトン類、フェノン類(phenones)、又はこれらの混合物が含まれる。適切に市販されており、紫外線により活性化される及び可視光により活性化される光誘導因子の例は、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(ニューヨーク州タリータウン)から市販されているIRGACURE651、IRGACURE184、IRGACURE369、IRGACURE819、DAROCUR4265及びDAROCUR1173や、BASF(ノースカロライナ州シャーロット)から市販されているLUCIRTN TPO及びLUCIRIN TPO-Lといった商標を有する。
【0043】
また、光感受性物質が適切な発動因子系に含まれてもよい。代表的な光感受性物質は、カルボニル基又は第三アミノ基又はこれらの混合を有する。カルボニル基を有する光感受性物質には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジル、ベンズアルデヒド、o-クロロベンズアルデヒド、キサントン、チオキサントン、9,10-アントラキノン、及び他の芳香族ケトン類が含まれる。第三アミンを有する光感受性物質には、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチル−エタノールアミン、及びジメチルアミノエチルベンゾエートが含まれる。市販の光感受性物質には、ビドル・ソイヤー・コーポレーションのQUANTICURE ITX、QUANTICURE QTX、QUANTICURE PTX、QUANTICURE EPDが含まれる。
【0044】
一般に、光感受性物質又は光発動因子系の量は、およそ0.01から10重量%でよい。
【0045】
カチオン発動因子の例には、アリールスルホニウム塩類といったオニウム陽イオンの塩類、並びにイオンアレーンシステムといった有機金属塩類が含まれる。
【0046】
モノマーが基体表面上に沈着される前に溶媒中で希釈される様々な実施態様では、溶媒は重合する前に取り除かれる。溶媒は、任意の適切なメカニズム又は工程によって取り除かれてよい。同時係属中の出願番号_にて記載されるように、硬化(curing)前に実質的にすべての溶媒が除去されると、硬化動態及び転換されるモノマーの量が良好に制御される。モノマーの転換速度が増すと、老廃物の生成及び細胞毒性は低減される。
【0047】
凝集相(実質的に溶媒を含まない)で重合されるか溶媒相で重合されるかにかかわらず、モノマーは適切な発動メカニズムにより重合化される。このようなメカニズムの多くは当分野で公知である。例えば、温度は熱発動因子を活性化するために上げられてもよいし、光発動因子は適切な波長の光に曝されることによって活性化されるなどしてよい。多数の実施態様によると、モノマー又はモノマー混合物は紫外線を使用して硬化される。酸素阻害を予防するために、硬化は、窒素保護などの不活性ガス保護下で起こすのが好ましい。ガス保護と組み合わされる適切な紫外線は、ポリマー転換を増やし、コーティング完全性を保証し、細胞毒性を低減しうる。
【0048】
硬化した合成ポリマー層は、溶媒にて一ないし複数回洗浄され、反応していないモノマー又は低分子量のポリマー種といった不純物が除去される。様々な実施態様では、層は、エタノール溶媒、例えばおよそ70%を超えるエタノール、およそ90%を超えるエタノール、およそ95%を超えるエタノール、又はおよそ99%を超えるエタノールにて洗浄される。エタノール溶媒による洗浄は、不純物を除去するのに役立つだけでなく、細胞とインキュベートする前に表面を殺菌するのにも役立ちうる。
【0049】
3.合成ポリマー層上での細胞のインキュベート
幹細胞由来の心筋細胞は、任意の好適なプロトコールに従って、上記のような合成ポリマー層上で培養されてよい。ここで使用しているように、「幹細胞由来の心筋細胞」とは、幹細胞の分化から得られる心筋細胞を意味する。いくつかの実施態様では、幹細胞は、多分化能、分化全能性、又は多能性の幹細胞である。いくつかの実施態様では、幹細胞は被検体の臓器又は組織に存在しうる。多数の実施態様では、幹細胞は、胚性幹細胞、例えばヒト胚性幹細胞である。
【0050】
ヒト胚性幹細胞(hES)は未分化状態で培養中で継続的に増殖する能力を有し、本発明に用いられるhESは樹立された細胞株から得られてよい。樹立されているヒトの胚性幹細胞株の例には、Hl、H7、H9、H13又はHl4(ウィスコンシン州大学により樹立されたWiCeIlから入手可能) (Thompson (1998) Science 282:1145 );hESBGN-01、hESBGN-02、hESBGN-03 (ブレサジェン社、ジョージア州アセンズ);HES-1、HES-2、HES-3、HES-4、HES-5、HES-6(シンガポールのESセル・インターナショナル社から);HSF-1、HSF-6(サンフランシスコのカリフォルニア州立大学から);I3、I3.2、I3.3、I4、I6、I6.2、J3、J3.2(イスラエル、ハイファ市のテクニオン-イスラエル工科大学で得られる);UCSF-1及びUCSF-2 (Genbacev et al., Fertil. Steril. 83(5): 1517-29, 2005);株HUES1-17 (Cowan et al., NEJM 350(13): 1353-56, 2004);及び、株ACT-14(Klimanskaya et al., Lancet, 365(9471): 1636-41, 2005)が含まれるがこれらに限定されない。また、本発明で使用する胚性幹細胞は、一次胚組織から直接得られてもよい。一般的に、胚盤胞段階、そうでなければ廃棄される凍結インビトロ受精卵を使用して行われる。
【0051】
また、本発明に記載の心筋細胞は、誘導された霊長類多能性幹(iPS)細胞から分化されてもよい。iPS細胞は、例えば一ないし複数の適切なベクターによる形質移入によって遺伝学的に変更され、hESなどの多能性幹細胞の表現型を達成するように再プログラミングされた、ヒトなどの若年又は成熟した哺乳動物から得られた細胞を指す。これらの再プロミングされた細胞によって達成される表現型の特徴には、胚盤胞から単離される幹細胞に似た形態、並びに胚盤胞由来の胚性幹細胞に似た表面抗原発現、遺伝子発現及びテロメラーゼ活性が含まれる。iPS細胞は、一般に、一次胚葉である外胚葉、内胚葉及び中胚葉の各々から少なくとも一つの細胞種に分化する能力を有するので、心筋細胞への分化に適する。また、hES細胞のようなiPS細胞は、免疫欠陥マウス、例えばSCIDマウスに注射されると、テラトーマを形成する。(Takahashi et al., (2007) Cell 131(5): 861;Yu et al., (2007) Science318: 5858)。
【0052】
幹細胞由来の心筋細胞は任意の適切な方法によって得られてよい。このような細胞を得る一つの方法は、Laflamme et al., "Cardiomyocytes derived from human embryonic stem cells in pro-survival factors enhance function of infracted rats, Nature Biotechnology, 25: 1015 - 1024 (2007)において記述される。簡単にいうと、未分化ヒト胚性幹細胞、例えば雌H7ヒト胚性幹細胞株由来の細胞を、およそ100000細胞/cmの密度でマトリゲルコートプレートに播き、hES細胞増殖培地(KO DMEM+20%血清置換、1mM 1-グルタミン、1%NEAA、0.1mM 2-ME+80ng/mlのhbFGF及び0.5ng/mlのTGFb1)を毎日与えてよい。分化を誘導するために、増殖培地をおよそ100ng/mlのヒト組み換えアクチビンA(R&Dシステムズ社から入手可能)を添加したRPMI-B27培地(インビトロジェンから入手可能)に置き換えておよそ24時間置き、その後10ng/mlのヒト組み換えBMP4(R&Dシステムズ社から入手可能)を添加して4日間置いてよい。もちろん、他のいかなる適切な方法を使用してよい(例として米国特許第7425448号参照)。
【0053】
細胞を播く前に、細胞は回収され、いったん細胞が表面上に播かれて培養される成長培地などの好適な培地に懸濁されてよい。例えば、細胞は、血清添加培地、条件培地又は合成培地に懸濁され、培養されてよい。ここで使用しているように、「合成培地」とは、組成が不明な構成成分を含有しない細胞培養培地を意味する。合成培地は、様々な実施態様では、起源が不明なタンパク質、ヒドロシレート類(hydrosylates)又はペプチドを含有しない。いくつかの実施態様では、条件培地は、組み換え成長ホルモンなどの、組成が明らかなポリペプチド又はタンパク質を含有する。合成培地中のすべての成分は公知の化学構造及び組成を有するので、培養条件における多様が低減し、それにより細胞応答の再現性が上がりうる。さらに、混入の可能性が減少する。さらに、上記の要因の少なくとも一部により、スケールアップが容易になる。合成細胞培養培地は、完全に規定された、ヒト胚性幹細胞(hESC)の増殖と拡張のために特別に調合された、StemPro(登録商標)無血清及び無フィーダー培地(SFM)としてインビトロジェン(インビトロジェン社、92008カリフォルニア州カールズバッドファラデー通り1600私書箱6482)から、そして、ヒト胚性幹細胞のためのmTeSRTM1維持培地としてステムセルテクノロジー社から市販されている。
【0054】
細胞は任意の適切な濃度で播かれてよい。一般的に、細胞は、基体当たりおよそ10000細胞/cmからおよそ500000の細胞/cmで播かれる。例えば、細胞は、基体当たりおよそ50000細胞/cmからおよそ150000細胞/cmで播かれてもよい。しかしながら、さらに高い又は低い濃度が容易に用いられてよい。インキュベート時間や、温度、CO及びOレベル、増殖培地などといった条件は培養する細胞の性質に依存し、容易に変更されうる。細胞が表面上でインキュベートされる時間量は、調べる細胞応答又は所望の細胞応答に応じて変化してもよい。
【0055】
必要に応じて任意の適切な方法を用い、幹細胞由来心筋細胞が実際に心筋細胞であること、又は、使用する幹細胞が心筋細胞にうまく分化したことを確認してよい。例えば、特定の心筋細胞選択マーカーの存在が調査されてもよい。このようなマーカーには、Nkx2.5およびα-アクチニン、心臓トロポニンIが含まれる。このようなマーカーに対する抗体が、標準的な免疫細胞化学技術又はフローサイトメトリー技術に用いられてよい。さらに又はあるいは、細胞の形態又は機能において、培養において鼓動する心筋細胞を観察するか又は様々な電気生理学的な分析を行うことによって、細胞が心筋細胞の特徴を有するか否かを決定する。
【0056】
培養された幹細胞由来心筋細胞は、治療用途の開発のため、薬剤発見及び毒物のため、又は治療目的のために、培養物における、動物における調査研究を含む任意の適切な目的のために用いられうる。例えばLaflamme et al., Nature Biotechnology, 25: 1015 - 1024 (2007)において記述されるように、ある潜在的な治療又は調査の目的は、梗塞による心臓損傷の修復である。また、この細胞を用いて公知の方法によりcDNAライブラリを造ってもよい。cDNAライブラリを用いて、分化した心筋細胞の遺伝子発現を調べてもよい。例えば、分化した心筋細胞から得られるライブラリは、心筋細胞が派生した未分化幹細胞からのcDNAライブラリに比較され、それによって例えば、心筋細胞の分化および発達に関連した遺伝子の同定および単離が可能となりうる。
【0057】
以下に、非制限的な実施例を示し、先に述べた物品及び方法の様々な実施態様を記述する。
【実施例】
【0058】
実施例1:合成培地における幹細胞由来の心筋細胞を培養するために適切なアクリルコーティング表面の同定
1.コーティング調整物
アクリルコーティング表面は、様々なアクリレートおよびメタクリレートのモノマーのホモモノマー又はコポリマーから調製した。コポリマーのために、2つの異なるアクリレート又はメタクリレートのモノマーを使用した。簡単にいうと、モノマーを、1%w/wの光発動因子Irgacure819 (チバスペシャルティケミカルズ社)と混合し、70:30の容量比にて他のモノマー製剤(1%w/wの光発動因子を有するモノマー)とともに用いたか又は混合した。次いで、製剤を、2.5μLの容量で、真空プラズマ処理した環状オレフィンコポリマープレート (コーニングライフサイエンス開発グループにより提供)のウェルに置いた。製剤を拡散するために、プレートを30分間水平にした。コーティングは、N浄化ボックス(溶融シリカ窓を有する)中で1分間、13mW/cmパルス(100Hz)紫外光(Xenon RC−700)にて硬化した。すべてのプレートを、細胞培養の前に25−35kGyガンマ放射線によって滅菌した。
【0059】
2.細胞調整物及びアッセイ
実験の前に、H7 hES細胞を、SR培地(KO-DMEM、20%KO-血清置換、1mM L-グルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%非−必須アミノ酸、80ng/mlのhbFGFおよび0.5ng/mlのTGFb1)中、マトリゲルコートプレート上で未分化状態に維持した。hESC由来の心筋細胞は直接分化プロトコールを使用して生成した。簡単にいうと、未分化H7細胞を、200U/mlのコラゲナーゼIVにて回収し、SR培地中100000細胞/cmの密度でマトリゲルコートプレートに播種した。細胞は、毎日培地を交換しながら6日間培養した。SR培地を100ng/mlのヒト組み換えアクチビンAを添加したRPMI-B27培地に置き換えておよそ24時間置き、その後10ng/mlのヒト組み換えBMP4を添加して4日間置いて、心臓分化を開始させた。この時点で、細胞をAccutase処理にて脱離させ、RPMI-B27培地w/o増殖因子に再懸濁し、アクリレートの異なる2成分混合物又はポジティブコントロールとしてのマトリゲルにてコートした、コーニング社のCB/TOPAS96ウェルプレートに100000細胞/cmの密度で播いた。細胞は、2−3日ごとに同じ培地に交換しながらさらに2−3週間培養した。ウェルを顕微鏡にて調べ、自然に生じる鼓動活動を記録した。
【0060】
分化プロトコールの終了時、細胞を4%のパラホルムアルデヒドにて固定し、心筋細胞(CM)特異的なマーカーであるNkx2.5及びα-アクチニンについて免疫染色し、核を染色するために4’-6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)にて対比染色した。各プレートをArrayScanにてスキャンした後に、各表面について以下の定量分析を実施した。1) TNC:DAPIポジティブ細胞数に基づいた細胞の総数、2) TNC:Nkx2.5-ポジティブ細胞数に基づいたCMの総数、3) CM収率=TNC/TNC。
【0061】
3.結果
試験したごく一部の表面のみが、いくつかの重要な特徴及び機能を維持しながら細胞増殖を支持したことが明らかとなった。合成培地において分化したヒト胚性心筋細胞の増殖を支持したコーティング表面の例を表2に挙げる。ここで、モノマー(2)に対するモノマー(1)の容量比は70:30である。これらの表面を特徴付けし、細胞の形態と表面への接着の定性的評価を基に「グレード」を付けた。アクリレート表面評点は、以下の判定基準の考慮に基づいて実行した。1) 総細胞数、2) 総CM数、3) CM収率、4) 鼓動領域の存在、5) マトリゲル由来のCM形態に対する類似性。観察された分化した胚性筋細胞の質に関する注意書き並びに評価されたグレードを表2に示す。例えば、「Sim MA」は、その表面上で増殖している細胞がマトリゲルTM上で増殖している細胞と類似していたことを示す注意書きである。「Sim TOP」は、その表面上で増殖している細胞が、ケンタッキー州フローレンスのTOPAS社によりTOPAS(登録商標)表面として市販される、プラズマ処理した環状オレフィンコポリマー表面上で増殖する細胞に類似していたことを示す注意書きである。また、注意書きは、いくつかの表面が培養中で鼓動し始めた分化した胚性筋細胞を支持したことを示す。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
他の試験したホモポリマーおよびコポリマーの組合せでは、これらの表面上に存在するNkx2.5-ポジティブ細胞又は総細胞数が低いという理由から、分化手順の最後に、非常に低い心筋細胞収率が観察されたか又は全く観察されなかった。
【0065】
図3は、製剤95-2(A)、製剤27-2(B)およびマトリゲル(C)の表面上で培養した分化した心筋細胞の蛍光画像を示す。細胞形態、Nkx2.5マーカー発現(緑)およびα‐アクチニンマーカー発現(赤)は、マトリゲルと類似している。さらに、図3に示される細胞は、パラホルムアルデヒドによる固定の前に鼓動することを表した。
【0066】
ゆえに、幹細胞由来の心筋細胞を培養するための合成表面の実施態様が開示される。当業者は、本明細書中に記述されるアレイ、組成物、キット及び方法が、開示されるもの以外の実施態様によっても実施されうることを理解するであろう。開示された実施態様は例示するためのものであって、限定するためのものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成培地中で幹細胞由来の心筋細胞を培養するための細胞培養物品であって、
表面を有する基体と、
該表面上に配置されるポリマー物質とを具備し、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコール ジメタクリレート、 1,4- ブタンジオール ジメタクリレート又はポリ(エチレングリコール) ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
トリエチレングリコール ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラエチレングリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレート、
トリメチロールプロパン トリアクリレート と ネオペンチル グリコールエトキシレート ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン ベンゾエート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、又は、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、細胞培養物品。
【請求項2】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート又はグリセロールジメタクリレートから形成されるホモポリマーか又は、(i) ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、 (ii) グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、 (iii) グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 (iv) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート又はグリセロール ジメタクリレートから形成されるホモポリマーか又は、(i) ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、 (ii) グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、 (iii) グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 (iv) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレートから形成されるコポリマーから基本的になる、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
物品の表面上に配置されたポリマー物質がおよそ5mmより大きな表面領域を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
揮発性有機溶媒に一ないし複数のモノマーを希釈し、
希釈したモノマーを物品の基体表面上に沈着させ、
実質的にすべての溶媒を蒸発させ、そして、
モノマーを重合化させて、表面に接着したポリマー層を形成させる
といった工程によって製造される、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
揮発性溶媒がエタノールである、請求項6に記載の物品。
【請求項7】
さらにウェルを具備し、このとき該ウェルにポリマー物質が配置される基体の表面がある、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
物品がマルチウェルプレート、シャーレ、ビーカー、チューブ及びフラスコからなる群から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
幹細胞由来の心筋細胞の培養物であって、
表面上に配置されたポリマー物質を含む物品と、
ポリマー物質上に配置された幹細胞由来の心筋細胞と、
該幹細胞由来の心筋細胞が培養される培養培地とを具備し、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、 グリセロールジメタクリレート、 トリエチレングリコール ジメタクリレート、 1,4- ブタンジオール ジメタクリレート又はポリ(エチレングリコール) ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、 グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
トリエチレングリコール ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラエチレングリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレート、
トリメチロールプロパン トリアクリレート と ネオペンチル グリコールエトキシレート ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン ベンゾエート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、又は、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、培養物。
【請求項10】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート又はグリセロールジメタクリレートから形成されるホモポリマーか又は、(i) ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、 (ii) グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、 (iii) グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 (iv) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項9に記載の培養物。
【請求項11】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート又はグリセロール ジメタクリレートから形成されるホモポリマーか又は、(i) ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、 (ii) グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、 (iii) グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 (iv) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレートから形成されるコポリマーから基本的になる、請求項9に記載の培養物。
【請求項12】
培養培地が合成培地である、請求項9に記載の培養物。
【請求項13】
幹細胞由来の心筋細胞がヒト胚性幹細胞由来の心筋細胞である、請求項9に記載の培養物。
【請求項14】
幹細胞由来の心筋細胞の培養方法であって、
幹細胞由来の心筋細胞を含む懸濁物をポリマー物質上に沈着させ、そして、
沈着させた幹細胞由来の心筋細胞を細胞培養培地中で培養することを含み、このとき該ポリマー物質が、
(i) テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、 グリセロールジメタクリレート、 トリエチレングリコール ジメタクリレート、 1,4- ブタンジオール ジメタクリレート又はポリ(エチレングリコール) ジアクリレートから形成されるホモポリマー、又は、
(ii)
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
グリセロールジメタクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
トリエチレングリコール ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、 ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラエチレングリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレート、
トリメチロールプロパン トリアクリレート と ネオペンチル グリコールエトキシレート ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレート、
テトラ(エチレングリコール) ジメタクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン ベンゾエート ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、
1,6-ヘキサンジオール プロポキシレート ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と トリメチロールプロパン エトキシレート (1 EO/OH) メチル ジアクリレート、又は、
ネオペンチル グリコール ジアクリレート と 1,6-ヘキサンジオール エトキシレート ジアクリレート
から形成されるコポリマーを含むものである、方法。
【請求項15】
細胞培養培地において沈着した幹細胞由来の心筋細胞を培養することが、合成培地において心筋細胞を培養することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレートから形成されるホモポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ポリマー物質が、ジ(エチレングリコール) ジメタクリレート と ネオペンチル グリコール ジメタクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ポリマー物質が、グリセロールジメタクリレートから形成されるホモポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ポリマー物質が、グリセロールジメタクリレート と トリ(エチレングリコール) ジメタクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
ポリマー物質が、グリセロールジメタクリレート と 1,4-ブタンジオール ジメタクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
ポリマー物質が、テトラ(エチレングリコール) ジアクリレート と トリメチロールプロパン トリアクリレートから形成されるコポリマーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
幹細胞由来の心筋細胞がヒト胚性幹細胞由来の心筋細胞である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−510658(P2011−510658A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545155(P2010−545155)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/032411
【国際公開番号】WO2009/097411
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【出願人】(505359492)コーニング インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CORNING INCORPORATED
【Fターム(参考)】