説明

床スラブ構造

【課題】梁上にコンクリート床版を備えた床スラブ構造において、柱に無理な力が加わることを抑制できる床スラブ構造を提供する。
【解決手段】鋼製の柱5に鋼製の梁1を連結し、この梁1上に現場打ちコンクリートによりコンクリート床版6を設けた床スラブ構造において、梁1が上下フランジ部2,3と、これら上下フランジ部2,3を連結するウエブ部4とを有し、コンクリート床版6の端部たる端面6Aと柱5との間に隙間12を設け、コンクリート床版6と梁1との間に縁切り部たるシート材11を設ける。鋼製梁1とコンクリート床版6とが一体とならず、地震や台風などに対して鋼製梁1の塑性変形によりエネルギーを吸収することができる。また、鋼製梁1が変形しても、隙間12により、コンクリート床版6から柱5に荷重が加わることがなく、曲げ降伏強度は梁1の本来の強度となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製の梁の上に床スラブを設けた床スラブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造建築物の耐震性では、鋼製梁の上下端部の塑性変形によるエネルギー吸収効果が期待されている。図2〜図4に示すように、H型鋼などからなる鋼製の梁1は、上下フランジ部2,3と、これら上下フランジ部2,3を連結するウエブ部4とを有し、柱5,5間に前記梁1を設け、この梁1上にコンクリートを打設してコンクリート床版6を設けた床スラブ構造が知られている。
【0003】
前記床スラブ構造では、地震などにより梁1に曲げモーメントが加わると、本来、コンクリート床版6がなければ、上下フランジ部2,3が塑性変形すべきであるが、上フランジ2とコンクリート床版6とが一体化しているため、コンクリート床版6の圧縮耐力により床スラブ構造の中立軸Cが上方に移動(図3)し、下フランジ部3の塑性変形が構造設計と異なる挙動を示し、下フランジ部3に大きな応力が発生する。また、コンクリート床版6と一体となった鋼製梁1の降伏曲げ強度が大きくなるため、柱5が先に崩壊する柱降伏型の破壊モードが発生する可能性が高くなる。
【0004】
尚、各図面に説明のため記載したモーメント図に示すように、上フランジ部2側は圧縮により圧縮応力が発生し、下フランジ部3側は引張により引張応力が発生する。
【0005】
そして、このような柱と梁の構造に関するものとして、接合金物とボルトを用いた鋼製柱と鋼製梁のボルト接合構造において、接合金物や梁に局部的な強度低下部を作ることにより、大地震や強風による被害を接合金物と梁部材の先端部範囲に止め、鉄骨構造物の決定的な崩壊を抑止可能な鋼製柱と鋼製梁のボルト構造(例えば特許文献1)が提案され、また、柱と梁との接合部が補強部材により補強される柱と梁との接合構造において、上記柱は、柱ウエブ部と、この柱ウエブ部と直交するとともに、柱ウエブ部を挟んで設けられた互いに平行な一対の柱フランジ部を有し、上記補強部材は、補強ウエブ部と、この補強ウエブ部と直交すると共に、補強ウエブ部を挟んで設けられた互いに平行な一対の補強フランジ部を有し、上記梁は、上記柱フランジ部を挟んで上記補強フランジ部に対向する位置に接合された柱と梁との接合構造(例えば特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−264516号公報
【特許文献2】特開2004−263366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の構造では、強度低下部が降伏することにより、柱の崩壊を抑止することができ、また、上記特許文献2の構造では、補強部材により接合構造を補強することができるが、両特許文献とも、構造が複雑になるため、コストアップを招き易く、さらに、いずれも梁上に設けるコンクリート床版の影響について何等考慮されていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を考慮してなされたものであり、梁上にコンクリート床版を備えた床スラブ構造において、柱に無理な力が加わることを抑制できる床スラブ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の床スラブ構造は、鋼製の柱に鋼製の梁を連結し、この梁上に現場打ちコンクリートによりコンクリート床版を設けた床スラブ構造において、前記梁が上下フランジ部と、これらフランジ部を連結するウエブ部とを有し、前記コンクリート床版の端部と前記柱との間に隙間を設け、前記コンクリート床版と前記梁との間に縁切り部を設けたことを特徴とする。
【0010】
これにより鋼製梁とコンクリート床版とが一体とならず、地震や台風などに対して鋼製梁の塑性変形によりエネルギーを吸収することができる。また、鋼製梁が変形しても、隙間により、コンクリート床版から柱に荷重が加わることがなく、曲げ降伏強度は梁本来の強度となる。
【0011】
また、本発明の床スラブ構造は、前記縁切り部がシート材であることを特徴とする。
【0012】
このように鋼製梁の上にシート材を敷設することにより、鋼製梁とコンクリート床版との縁を切ることができる。
【0013】
また、本発明の床スラブ構造は、前記隙間に緩衝材を配置したことを特徴とする。
【0014】
これによりコンクリート床版による鋼製柱への圧縮力を緩衝材により吸収することができる。
【0015】
また、本発明の床スラブ構造は、前記緩衝材が不燃性を有することを特徴とする。
【0016】
これにより緩衝材により柱とコンクリート床版間に不燃性を付与することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の床スラブ構造によれば、鋼製梁とコンクリート床版とが一体とならず、地震や台風などに対して鋼製梁の塑性変形によりエネルギーを吸収することができ、また、曲げ降伏強度は梁本来の強度となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1を示す一部を拡大にした床スラブ構造の一部断面にした正面図である。
【図2】柱と梁の連結箇所の正面図である。
【図3】従来の床スラブ構造の正面図である。
【図4】梁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な床スラブ構造を採用することにより、従来にない床スラブ構造が得られ、その床スラブ構造について記述する。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例を、添付図面を参照して説明する。尚、上記図2〜図4と同一部分に同一符号を付して詳述する。
【0021】
図1は本発明の実施例1を示し、同図に示すように、H型鋼などからなる鋼製の梁1は、略平行に配置した横方向の上下フランジ部2,3と、これら上下フランジ部2,3の幅方向中央を連結する縦方向のウエブ部4とを有し、鋼製の柱5,5間に前記梁1を設け、この梁1の両端部を前記柱5,5に連結している。この場合、梁1の端部を柱5に溶接により連結したり、ボルトナットなどにより連結したりすることができる。尚、梁1は両端支持梁である。
【0022】
前記上フランジ部2の上には、現場打ちコンクリートによりコンクリート床版6が形成され、前記上フランジ部2の上面とコンクリート床版6の下面との間には、縁切り部たるシート材11を設け、このシート材11はビニールシートなどからなり、絶縁材となる。この場合、施工において、上フランジ部2の上面にシート材11を敷設した後、コンクリートを打設すればよい。
【0023】
また、前記コンクリート床版6の端面6Aと柱5の外面5Aとの間には、隙間12を形成し、この隙間12には難燃性を有する緩衝材13が設けられている。この緩衝材13は、圧縮力を受けると収縮するものなどが用いられ、実用の範囲であれば,石膏ボード,ロックウール,ALCなどからなる。
【0024】
この場合、施工において、コンクリートを打設する前に、柱5の外面5Aに緩衝材13を配置し、この後、コンクリートを打設することにより端面6Aと外面5Aとの間に緩衝材13を設けることができる。
【0025】
上記のような床スラブ構造においては、シート材11によりコンクリート床版6と梁1の一体化を防止することによって、地震などにより梁1に曲げモーメントが発生しても、コンクリート床版6の影響を除去することができ、梁1が設計通りの挙動を示すことにより、柱5が梁1に先行して崩壊する可能性が無くなる。また、緩衝材13を設けることにより、コンクリート床版6による圧縮力の柱5への伝達を防ぐことができる。
【0026】
このように本実施例では、鋼製の柱5に鋼製の梁1を連結し、この梁1上に現場打ちコンクリートによりコンクリート床版6を設けた床スラブ構造において、梁1が上下フランジ部2,3と、これら上下フランジ部2,3を連結するウエブ部4とを有し、コンクリート床版6の端部たる端面6Aと柱5との間に隙間12を設け、コンクリート床版6と梁1との間に縁切り部たるシート材11を設けたから、鋼製梁1とコンクリート床版6とが一体とならず、地震や台風などに対して鋼製梁1の塑性変形によりエネルギーを吸収することができる。また、鋼製梁1が変形しても、隙間12により、コンクリート床版6から柱5に荷重が加わることがなく、曲げ降伏強度は梁1の本来の強度となり、設計により梁1が先に塑性化し、柱の崩壊を防止することができる。
【0027】
また、このように本実施例では、前記縁切り部がシート材11であるから、鋼製梁1の上にシート材11を敷設することにより、鋼製梁1とコンクリート床版6との縁を切ることができる。
【0028】
また、このように本実施例では、隙間12に緩衝材13を配置したから、コンクリート床版6による鋼製柱5への圧縮力の衝撃を緩衝材13により吸収し、緩和することができる。
【0029】
また、このように本実施例では、緩衝材13が不燃性を有するから、緩衝材13により柱5とコンクリート床版6間に不燃性を付与することができる。
【0030】
また、実施例上の効果として、鋼製の柱5に鋼製の梁1を連結し、この梁1の上フランジ部2の上に縁切り部たるシート材11を敷設し、床版6に対応する位置で柱5の外面5Aに緩衝材13を配置した後、上フランジ部2の上にコンクリートを打設する施工方法であるから、縁切り部と緩衝材13の施工を簡便に行うことができる。
【0031】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、実施例では、縁切り部として可撓性を有するシート材を例示したが、上フランジ部の上面と床版の下面の一方又は両方と一体化しないで両者の縁を切れるものであれば、硬質なシート材など各種のものを用いることができる。また、柱間に設けた梁の一方の端部のみに隙間又は緩衝材を設けるようにしても良いし、梁の両方の端部に隙間又は緩衝材を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 梁
2 上フランジ部
3 下フランジ部
4 ウエブ部
5 柱
5A 外面
6 コンクリート床版
6A 端面
C 中立軸
11 シート材(縁切り部)
12 隙間
13 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の柱に鋼製の梁を連結し、この梁上に現場打ちコンクリートによりコンクリート床版を設けた床スラブ構造において、前記梁が上下フランジ部と、これらフランジ部を連結するウエブ部とを有し、前記コンクリート床版の端部と前記柱との間に隙間を設け、前記コンクリート床版と前記梁との間に縁切り部を設けたことを特徴とする床スラブ構造。
【請求項2】
前記縁切り部がシート材であることを特徴とする請求項1記載の床スラブ構造。
【請求項3】
前記隙間に緩衝材を配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の床スラブ構造。
【請求項4】
前記緩衝材が不燃性を有することを特徴とする請求項3記載の床スラブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285804(P2010−285804A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140558(P2009−140558)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)