説明

床暖冷房システム

【課題】暖房時に床面から暖房し床下へ逃げる熱エネルギーを電気エネルギーに変換して有効利用を図り、暖房不使用時に冷房できる床暖冷房システム。
【解決手段】室内を床面から暖房又は冷房する暖冷房床構造2と、この暖冷房床構造の暖房と冷房とを切換えて制御する制御装置8とを備えている。暖冷房床構造2は、建築床3上に、熱電変換素子部材4、床暖房ヒーター5及び床板6をこの順に積層した構造にし、熱電変換素子部材4は、暖房時に、建築床3と床暖房ヒーター5との間に生じる温度差を電気エネルギーに変換し、暖房不使用時に、外部から所定極性の電圧印加によって床板側から冷却エネルギーを送出する熱電変換素子で構成されて、床暖房ヒーター5及び熱電変換素子部材4が制御装置に接続されて制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、床暖冷房システムに係り、さらに詳しくは、寒冷期は室内を床面から暖房すると共に床下へ逃げる熱を電気エネルギーに変換して、この電気エネルギーの有効利用を図り、暑期は熱電変換素子により床面から室内を冷房する床暖冷房システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅、ビルなどの暖房は、床下に熱源を設置して室内を床面から暖房する床暖房装置、天井面などに送風ダクトを配設して上方から暖房する温風暖房装置などで行なわれている。床暖房装置は、温風暖房装置と比べて、送風機などが不要となるので、送風機の騒音が無く、また、埃・ゴミなどが舞い上がって空気を汚染させることが無い。さらに、床暖房装置は足元から暖めるので頭部を低温に抑えることができ、体感上理想的な室内環境、いわゆる頭寒足熱の環境を創出できるメリットがあるため、隣国の韓国などでは古くから使用されて来ている。
この床暖房装置は、床下に設置する熱源の違いにより、熱源に温水を用いてそれを循環させて暖房する温水式、熱風を用いてそれを循環させる温風式、及び電熱ヒーターを用いてそれに通電して発熱させる電熱式などがある。これらの床暖房装置のうち、電熱式床暖房装置は、温水式及び温風式に比べて、装置の小型化が可能であるとともに大掛かりな設備工事が不要となり、しかもリフォームなどでも簡単に設置できるメリットを備えていることから、近年、急速に普及してきている。この電熱式床暖房装置は、通常、建築床面上に、断熱材、電熱ヒーター、床板をこの順に積層した構造からなり、電熱ヒーターへの通電によって、床板を介して室内を暖房するようになっている。建築床材は、建造物の種類、例えば木造及び鉄筋コンクリート造により、木造床やコンクリート床などとなっている。
【0003】
代表的な電熱式床暖房装置は、例えば、下記特許文献1に紹介されている。
図8を参照して、この特許文献に記載された床暖房構造を説明する。なお、図8はこの特許文献に記載された床暖房構造の全体図である。
この床暖房構造100は、床101の根太102間に断熱材103を配置するとともに、根太102の上面に薄肉面状ヒーター104を取付けて、この薄肉面状ヒーター104上に床材105、106を設置した構造となっている。この床暖房構造によると、薄肉面状ヒーター104を根太102の上面に配置するだけで薄肉面状ヒーター104を設置できるので、面状ヒーターを根太間毎にその都度落ち込ませる必要がなくなり、施工が簡単となり、施工に掛かる手間が少なくなるので、安価な施工が可能になる。また、下記特許文献2には、線状ヒーターを用いた同様の床暖房装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−182956号公報(段落〔0022〕〜〔0024〕、図1)
【特許文献2】特開平6−281172号公報(段落〔0008〕〜〔0011〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2にもみられるように、電熱式床暖房装置は、建築床上に、電熱ヒーター、床板をこの順に積層し、電熱ヒーターへの通電によって、室内を床板面から暖房する構造となっている。ところが、これらの電熱式床暖房装置を含めこの種の電熱式床暖房装置は、電熱ヒーターからの熱により床板を介して室内を暖房する一方で、この熱が床板と反対側の建築床側へも逃げて、この逃げる熱は室内暖房に利用されずに熱損失となってしまう構造となっている。この熱損失は、建築床材及び環境温度によっても左右されることから、本願の発明者らは、建築床材における熱エネルギーの評価実験を行なって、図9の評価結果を得た。この図9に示すように、建築床材がコンクリート造床及び木造床の場合は、いずれも、環境温度が約8℃〜23℃の範囲において熱損失率が50%を超え、コンクリート床が60%〜70%、木造床が50〜60%となり、前者が後者より、熱損失率が高くなることが判明した。
【0006】
したがって、この種の電熱式床暖房装置は、電熱ヒーターからの熱エネルギーの50%超が熱損失、すなわち、熱エネルギー損失となってしまう熱効率が極めて悪い装置となっている。この対策として、この種の電熱式床暖房装置は、例えば、上記特許文献1、2の床暖房装置にもみられように、断熱材を電熱ヒーターと建築床との間に介在して熱損失の増大を抑えている。しかし、断熱材を用いると、建築床側への放熱量はある程度低減できるが他に利用できるものでもなく、しかもその低減にも限界があり、やはり熱損失が発生し、この損失は不可避なものとなっている。そのために、この種の電熱式床暖房装置は、床暖房に使用される熱量を増大させる一方で、いかに熱損失を低減できるかが課題となっている。
【0007】
また、この種の電熱式床暖房装置は、寒冷期のみの使用となり、それ以外の期に他の用途に使用できるものでなく、例えば、冷暖房機能を備えたエアコン(air conditioner)と比べると、通年を通しての使用期間が寒冷期に限定されて極めて稼動率が低いものとなっている。
【0008】
そこで、本発明者らは、これまでの電熱式床暖房装置が建築床側への熱損失が極めて大きく、その熱損失率も50%を超え、この熱損失は断熱材を用いても低減するのが困難で不可避なものであり、そのために、床暖房に使用される熱量を増大させて熱効率の改善を図るのが難しく、また、この床暖房装置は寒冷期のみの使用となって通年を通した稼動率が極めて低いことから、この不可避の熱損失エネルギーを他のエネルギーに変換して有効利用を図り、また、寒冷期以外の例えば暑期にも、他の用途にも使用できる装置にできないかを検討した。
本発明者らは、この検討過程において、建築床と電熱ヒーターとの間には、略一定の安定した温度差が生じていることを発見し、この温度差に着目して、熱電変換素子を用いれば、このエネルギーの有効利用、すなわち、不可避の熱損失を電気エネルギーに変換できて、損失熱エネルギーの有効利用が可能となり、また、この熱電変換素子は、供給する電源の極性を変更することによって、温度が低下して冷たくなるという冷却特性をも有していることから、冷房するのにも使用できることに想到して、本発明を完成させるに至ったものである。なお、温度差を利用して熱電変換素子により電気エネルギーに変換する発電装置、或はこの発電電力を蓄電するシステムなどは知られている。例えば、特開2009−268282号公報には、排熱によってペルチェ素子に温度差を発生させる発電装置、また、特開2008−301630号公報には、太陽熱と地下放熱との温度差を利用した発電蓄電システムが紹介されている。しかしながら、これらの装置は、いずれも床暖房の損失熱を利用するものではなく、また、床冷房するものでもない。
【0009】
そこで、本発明は、従来技術の課題を解決するとともの上記知見に基づいてなされたもので、本発明の目的は、寒冷期などの暖房使用時に、室内を床面から暖房するとともに床下へ逃げる熱エネルギーを電気エネルギーに変換してエネルギーの有効利用を図り、暑期などの暖房不使用時に、床面から室内を冷房できる床暖冷房システムを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、任意広さの建築床面に容易に敷設できて、任意広さの室内を暖房又は冷房できる床暖房ヒーター及び熱電変換素子部材を備えた床暖冷房システムを提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、従来技術が必要としていた断熱材を不要にして低コスト化を図った暖冷房床構造の床暖冷房システム提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、熱電気変換素子部材で変換した電気エネルギーをシステムにインプットして省エネルギー化を図った床暖冷房システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の床暖冷房システムは、室内を床面から暖房又は冷房する暖冷房床構造と、前記暖冷房床構造の暖房と冷房とを切換えて制御する制御装置とを備えた床暖冷房システムにおいて、前記暖冷房床構造は、建築床上に、熱電変換素子部材、床暖房ヒーター及び床板をこの順に積層した構造にし、前記熱電変換素子部材は、暖房時に、前記建築床と前記床暖房ヒーターとの間に生じる温度差を電気エネルギーに変換し、暖房不使用時に、外部から所定極性の電圧印加によって前記床板側から冷却エネルギーを送出する熱電変換素子で構成されて、前記床暖房ヒーター及び熱電変換素子部材が前記制御装置に接続されて制御されるようになっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の床暖冷房システムによれば、暖房時には、室内を床面から暖房するとともに、床下へ逃げる熱が熱電変換素子部材で電気エネルギーに変換されるので、この電気エネルギーを他に有効に利用できる。例えば、この電気エネルギーをこのシステムに戻して利用するとエネルギーの再利用となり省エネルギー化が実現でき、また他の機器に利用すると、該機器を作動させるための外部電源が不要になる。また、暖房不使用時には、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電変換素子部材へ床板側を冷却する極性の電圧を印加することによって、室内を床面から冷房することができる。したがって、一つのシステムでありながら、床暖房又は床冷房が可能になり、通年を通して稼働率を大幅に改善できる。また、暖冷房床構造は、従来技術が必要としていた断熱材が不要になるので、低コスト化が実現できる。
【0015】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記床暖房ヒーターは、前記床面の所定の単位面積を暖房する1個乃至複数の単位ヒーターからなり、前記熱電変換素子部材は、前記単位面積と略同じ面積に複数個の熱電変換素子を配設させた前記単位ヒーターと同数の熱電変換素子ユニットで構成されていることを特徴する。
【0016】
本発明の床暖冷房システムによれば、単位ヒーターと熱電変換素子ユニットとは、所定の単位面積でセットにできるので、建築床への設置が容易になる。したがって、任意大きさの建築床に配設して、床面を暖房又は冷房することができる。
【0017】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記単位ヒーターは、前記単位面積を有する面状ヒーターからなり、前記熱電変換素子ユニットは、前記面状ヒーターの一面に前記熱電変換素子を複数個配設したものであることを特徴とする。
【0018】
本発明の床暖冷房システムによれば、単位ヒーターに面状ヒーターを用いたので、面状ヒーターへの熱電変換素子の固定が容易になる。
【0019】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記熱電変換素子ユニットは、前記単位面積と略同じ面積を有する板状体に前記熱電変換素子が複数個配設されて構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の床暖冷房システムによれば、熱電変換素子ユニットは、単位ヒーター(面状ヒーター)と略同じ面積の板状体に熱電変換素子が複数個配設したものとなっているので、複数個の熱電変換素子の管理及び扱いが容易になるとともに、面状ヒーターの全面に接触又は固定させることができる。
【0021】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記熱電変換素子ユニットは、前記板状体に、所定の間隔をあけて描いた仮想水平線と、所定の間隔をあけて描いた仮想水平線とを互いに直交させて、前記直交した仮想線で囲まれた領域に前記熱電変換素子をそれぞれ配設すると共に、前記仮想水平線及び仮想垂直線のいずれか一方の仮想線上に前記熱電変換素子に接続する配線を配設する配線路が形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の床暖冷房システムによれば、板状体に複数個の熱電変換素子を効率よく配設できるとともに、複数個の熱電変換素子に接続する配線を、配線路を通して簡単に配線できる。
【0023】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記板状体は、前記直交した仮想線で囲まれた領域に所定大きさの貫通孔が形成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明の床暖冷房システムによれば、熱電変換素子の過加熱を防止できる。
【0025】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記単位ヒーターと前記熱電変換素子ユニットとは、結合手段により一体に結合されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の床暖冷房システムによれば、床暖房ヒーターと熱電変換素子とが一体化されているので、それらの管理及び扱いが簡単になり、建築床上への敷設が容易になる。
【0027】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記熱電変換素子ユニットの複数個の熱電変換素子は、直列接続されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の床暖冷房システムによれば、熱電変換素子ユニットは、複数個の熱電変換素子が直列接続されているので、所望電圧の電力を取出すことができる。
【0029】
また、本発明の床暖冷房システムにおいては、前記制御装置は、前記床暖房ヒーターを制御するヒーター制御部と、前記熱電素子からの出力を外部へ送出する出力送出部及び前記床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって前記熱電素子へ前記床板側を冷却する極性の電力を供給する切換え・電力供給部とを有していることを特徴とする。
【0030】
本発明の床暖冷房システムによれば、床暖房の温度を自由に設定することができ、また、暖房不使用時には、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電変換素子部材へ床板側を冷却する極性の電圧を印加することによって、室内を床面から冷房することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本発明の床暖冷房システムの概要図である。
【図2】図2は室温とヒーター間の温度差及び熱電変換素子と温度差条件に対する出力電圧を示した図である。
【図3】図3は熱電変換素子の原理図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係る床暖冷房システムの全体構造の斜視図である。
【図5】図5は図4の熱電変換素子ユニットを示し、図5Aは熱電変換素子ユニットの概略平面図、図5Bは熱電変換素子の斜視図である。
【図6】図6は制御装置を構成する制御ブロック図である。
【図7】図7は床暖房ヒーター及び床表面の昇温特性図である。
【図8】図8は従来技術の床暖房構造の全体斜視図である。
【図9】図9は従来技術の床暖房装置における熱損失の評価実験結果の表図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための床暖冷房システムを例示するものであって、本発明をこれに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
まず、図1〜図3を参照して、本発明の床暖冷房システムの概要を説明する。なお、図1は本発明の床暖冷房システムの概要図である。この図は、床暖冷房システムを構成する暖冷房床構造を床面から建築床へ向かって切断した断面図となっている。図2は室温とヒーター間の温度差及び熱電変換素子と温度差条件に対する出力電圧を示した図、図3は熱電変換素子の原理図である。
【0033】
本発明の床暖冷房システム1は、図1に示すように、室内を床面から暖房又は冷房する暖冷房床構造2と、この暖冷房床構造の暖房と冷房とを切換えて制御する制御装置8とで構成されている。なお、符号7は、配線用接続ボックスとなっている。
【0034】
暖冷房床構造2は、地中に埋設又は地上から所定高さ立設した土台、或は高層建築などの床などからなる建築床3面上に、熱電変換素子部材4、床暖房ヒーター5及び木材などからなる床板6をこの順で積層し、室内を床板面から暖房又は冷房するものとなっている。なお、熱電変換素子部材4は、複数個の熱電変換素子を配設した素子集合体で構成されている。
この暖冷房床構造2は、室温を所望の所定温度に暖める構造になっているが、この室温は外気温によって床暖房ヒーター5によってコントロールされる。そこで、外気温と床暖房ヒーター及び室温との関係を検討する。
建築床3は、コンクリート又は木材などからなり、屋外にあって、外気に触れるので、その建築床面の温度(以下、建築床面温度という)BTは外気温OTと略同じになる。なお、この建築床面温度BTは、外気に直接触れない箇所にあっては若干、例えば1〜2℃程度上下することがあるが、この発明では略外気温OTと略同じものとして扱う。また、この建築床面温度BTは、床材の種類によっても若干異なり、コンクリート床の温度が木材床のそれより低くなる。一方、部屋内の温度、すなわち室温RTは、外気温OTと同じか、若干高くなる。床板の下に配設した暖房ヒーターの表面温度(以下、暖房ヒーター温度という)HTは、この室温RTと略同じになる。
【0035】
これらの関係から、暖房ヒーター温度HTと建築床温度BTとは、通常、前者が後者より若干高くなり、両者間に所定の温度差ΔTが生じる。しかし、この温度差ΔTは、以下の条件などによって変動する。すなわち、
(a)暖房ヒーターからの発熱がないとき、すなわち、電力が供給されていないときはこの温度差が小さく、電力が供給されると発熱して、暖房ヒーター温度HTが室温RTを大幅に超えるので、その温度差が大きくなる。
(b)また、建築床温度BTによっても変動し、建築床面温度BTが高くなると温度差が小さくなる。すなわち、建築床面温度BTは外気温OTと略同じになるので、外気温が高くなると、暖房ヒーター温度HTを低くするので、温度差が小さくなる。一方、外気温が低くなると、暖房ヒーター温度HTを高くするので温度差が大きくなる。
(c)さらに、外気温OT及び暖房温度RTと、暖房ヒーター温度HTとが関連しており、暖房温度の室温RTを所定の設定値にするには、外気温OTが低いときには、暖房ヒーター温度HTを高くするので、温度差が大きくなり、一方、外気温が高いときには暖房ヒーター温度は低くするので温度差が小さくなる。
(d)さらにまた、床板材の種類及び厚さなどによっても変動する。
温度差ΔTは、上記(a)〜(d)の条件などによって変動すると考えられる。発明者らは、この温度差ΔTを実験で確認した。その結果、暖房ヒーター5へ通電している暖房時は、外気温OTの変動に拘わらず、建築床面温度BTと暖房ヒーター温度HTとの間に約20℃以上の温度差ΔTが発生し、この温度差20℃以上は安定した値であることを見出した。図2は実験で確認した温度差と室温及び暖房ヒーター温度との関係を示している。
【0036】
この暖冷房床構造2は、この温度差ΔTを利用するために、熱電変換素子を用いて温度差ΔTを電気エネルギーに変換する一方で、この熱電変換素子を用いて冷房するものとなっている。
この熱電変換素子は、ペルチェ素子とも言われおり、直流電流を流すことによって、一方の面から他方の面に熱を移動させる効果のある熱電変換デバイスであり、冷却と加熱及び温度制御を行なうことができる半導体素子となっている。この作用を有する熱電変換素子(ペルチェ素子)の原理は、図3に示すように、p型の熱電半導体とn型の熱電半導体を銅電極で接合し、n型の方から直流電流を流すと、図3の上側の接合面から下側の接合面へ熱を運ぶものとなる。このとき、下側の電極から十分な放熱を行なうと吸熱作用を連続的に行なうことができる。また、電源の極性を逆にすると、熱の移動方向も逆になり冷却・加熱の方向を完全に逆転することが可能になる。
【0037】
現在、熱電変換素子(ペルチェ素子)は、様々な仕様のものが製品化されて市販されているが、例えば、40mm角素子1個で0.3V以上の起電圧(以下、発電電圧ともいう)を確保できるものがある。この熱電変換素子を用いて、前記の温度差ΔTとの関係で発電電圧を計測したところ、図2の結果が得られた。このような熱電変換素子を複数個直列接続すると、所望の発電電圧を確保できる。
【0038】
この暖冷房床構造2は、建築床と床暖房ヒーターとの間には、略一定の安定した温度差が発生し、温度差により熱エネルギーを電気エネルギーに変換することで、このエネルギーの有効利用、すなわち、不可避の熱損失を電気エネルギーに変換できて、損失熱エネルギーの有効利用が可能となる。また、この熱電変換素子は、供給する電源の極性を変更することによって、熱の移動方向を逆にすることができることから、部屋の冷房にも使用できる。つまり、熱電変換素子(ペルチェ素子)へ、床暖房のときとは逆極性の電圧を掛けることによって、床面から室内を冷房することができる。
【0039】
床暖房ヒーター5には、任意の電熱ヒーターを使用できる。このヒーターの選定にあたっては、高い安全性を考慮する必要がある。例えば、床面で子供などが飛び跳ねると振動が加わり、或はピアノなどが置かれると大きい荷重が加わり、さらに水場で使用されると水の浸入があるので、耐振動性、耐重量性及び防水性を備えたものを選定する。さらに、暖冷房する床面の大きさは、建築物の構造或は部屋の大きさによって変わり一定でないので、任意大きさの床にも対応できるように、標準タイプの大きさにし、これらを組み合わせて使用するのが好ましい。
【0040】
熱電変換素子部材4は、複数個の熱電変換素子を用い、これらの熱電変換素子を所定の配列にして構成する。熱電変換素子は、現在、面状ヒーターに比べて大面積のものが製品化されていないので、小面積の熱電変換素子を複数個用いて構成する。これらの複数個の熱電変換素子は、直列接続して所望の発電電圧を確保できる。
【0041】
床暖房ヒーター5及び熱電変換素子部材4は、制御装置8によって制御される。制御装置8は、所定の暖房及び冷房プログラムを記憶したメモリー及び、外部からの指令に基づいて所定の演算をするマイクロコンピュータなどからなる制御手段と、この制御手段により床暖房ヒーター5を制御するヒーター制御部、熱電変換素子部材からの出力を外部機器へ供給する出力供給部、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電素子へ床板が側を冷却する極性の電力を供給する電力供給部とで構成されている。この制御装置8によって、床暖房又は冷房制御するとともに、暖房時に熱電変換素子部材で起電される電力を制御する。
床暖房制御は、ヒーター制御部から床暖房ヒーター5への通電により、設定温度の床暖房を行なう。この床暖房により、建築床面と床暖房ヒーターとの間に温度差が発生し、この温度差を利用して熱電変換素子部材から起電されるので、この起電力を出力制御部により、例えば蓄電池に充電し、或は外部機器、例えば、照明機器などを点灯させることができる。また、床冷房制御は、暖房から冷房への切換えにより、制御装置は、床暖房ヒーターへの電力供給を停止して代わって、熱電変換素子部材へ床板面側が冷却される極性の電圧を印加して冷房する。
【0042】
この床暖冷房システム1は、暖房時には、室内を床面から暖房するとともに、床下へ逃げる熱が熱電変換素子部材で電気エネルギーに変換されるので、この電気エネルギーを他に有効に利用できる。例えば、この電気エネルギーをこのシステムに戻して利用するとエネルギーの再利用となり省エネルギー化が実現でき、また他の機器に利用すると、該機器を作動させるための外部電源が不要になる。また、暖房不使用時には、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電変換素子部材へ床板側を冷却する極性の電圧を印加することによって、室内を床面から冷房することができる。したがって、一つのシステムでありながら、床暖房又は床冷房が可能になり、通年を通した稼働率を大幅に改善できる。また、暖冷房床構造は、従来技術が必要としていた断熱材が不要になるので、低コスト化が実現できる。
【実施例1】
【0043】
図4〜図6を参照して、本発明の実施例を説明する。なお、図4は本発明の実施例に係る床暖冷房システムの全体構造の斜視図、図5は図4の熱電変換素子部材をユニット化した平面図、図6は制御装置を構成する制御ブロック図である。
本発明の実施例に係る床暖冷房システム10は、図4に示すように、室内を床面から暖房又は冷房する暖冷房床構造20と、この暖冷房床構造の暖房と冷房とを切換える制御装置80とを有している。制御装置80は、一端を分電盤90に接続し、他端を接続ボックス70に連結して、この接続ボックス内で熱電変換素子部材4及び床暖房ヒーター5への配線を行なう。
【0044】
暖冷房床構造20は、図4に示すように、地中に埋設又は地上から所定高さ立設した土台、或は高層建築などの床などからなる建築床(図示省略)上に、熱電変換素子部材4、床暖房ヒーター5及び木材などからなる床板6をこの順で積層し、室内を床板面から暖房又は冷房するものとなっている。図示を省略した建築床は、コンクリート又は木材などからなり、その床面が平坦面に形成されている。平坦面にすることによって、熱電変換素子ユニット及び床暖房ヒーターの敷設が容易になる。
熱電変換素子部材4は、複数の熱電変換素子ユニット40〜40〜40、床暖房ヒーター5は、複数枚の薄肉面状ヒーター50〜50〜50で構成されている。熱電変換素子部材4及び床暖房ヒーター5に、所定の単位面積の熱電変換素子ユニット及び面状ヒーターを使用することによって、任意の広さの室内を床面から暖房又は冷房するのが容易になる。すなわち、各熱電変換素子ユニット40〜40及び各面状ヒーター50〜50〜50は、略同じ面積を有しており、それぞれの各熱電変換素子ユニット又は面状ヒーターにより、所定の単位面積の床面を冷房又は暖房する。したがって、それぞれの熱電変換素子ユニット又は面状ヒーターは、単位面積の床面を冷房又は暖房するので、特許請求の範囲では、面状ヒーターを単位ヒーターと表現してある。
【0045】
複数の熱電変換素子ユニット40〜40〜40と複数枚の面状ヒーター50〜50〜50とは、それぞれ同じ構成のユニット及びヒーターからなり、各暖房ヒーターに各熱電変換素子ユニットがそれぞれ対向接触している。すなわち、熱電変換素子ユニット40が面状ヒーター50に対向接触、以下同様にして、ユニット40がヒーター50、ユニット40がヒーター50・・・それぞれに対向接触している。これらを公知の固定手段を使用して固定する。
【0046】
複数枚の面状ヒーター50〜50〜50は、それぞれ同じ構成を有し、それらは矩形状の肉薄面状ヒーターを使用する。ヒーター1枚の大きさは、横幅275mm、長さ1760mm及び肉厚0.6mmを使用する。この面状ヒーターには、スリーエステクノ株式会社製、商標名「床暖だん(登録商標)」、型式3S−1760、200V、0.54A、108Wを使用した。この大きさの面状ヒーターを床面の単位面積3.3mに対して6枚敷設する。複数枚の面状ヒーター50〜50〜50は、直列又は並列接続して、接続ボックス70を介して制御装置80に電気接続した。
【0047】
複数の熱電変換素子ユニット40〜40〜40は、それぞれ同じ構成となっている。そのうちの1個の熱電変換素子ユニット40を説明すると、この熱電変換素子ユニットは、図5Aに示すように、一枚の面状ヒーターと同じ大きさ、すなわち、横幅(L1)275mm×長さ(L2)1760mmの矩形状の取付け板42に複数個の熱電変換素子41を所定の配列で配設したものとなっている。熱電変換素子41は、図5Bに示したように、40mm×40mm角のものを用い、この熱電変換素子からリード線41aが導出されている。1個の40mm角の熱電変換素子で約0.36Vを発電できる。この取付け板42に、複数個の熱電変換素子41を所定の配列で配設する。その配設は、取付け板42に、その長手方向に所定の間隔をあけて配設した複数本の仮想水平線x〜xと、この長手方向と直交する方向に所定の間隔をあけて配設した複数本の仮想垂直線y〜y44とを描き、これらの水平線と垂直線とで囲まれた領域に熱電変換素子を配設する面積の領域X〜X44を設けて、これらの領域にそれぞれ熱電変換素子41を載置して固定する。すなわち、40mm角の熱電変換素子を6×44枚(264枚)を配設した。その配設は、1列44個を6列に配列し、それらを電気的に直列接続した。また、この取付け板42には、仮想水平線又は仮想垂直線のいずれか一方の線上に熱電変換素子41に接続されたリード線を配設する配線路43x、43yを設けた板状体からなり、耐熱及び絶縁性を有する合成樹脂材で形成されている。これらの配線路は、山型をなし、この内部にリード線を配設することによって、配線が容易になる。なお、配線路は、山型になっているが凹溝でもよい。また、複数個の熱電変換素子は、取付け板に配設することなく、面状ヒーターの一面に貼着してもよい。
【0048】
暖冷房床構造20は、床面の単位面積3.3mに対して、6枚の面状ヒーター及び6個の熱電変換素子ユニットを配設したので、熱電変換素子は1584個(6×44×6)となる。これらの熱電変換素子は全て直列接続されている。
【0049】
床暖房ヒーター5及び熱電素子部材4は、制御装置(以下、コントローラーともいう)80によって制御する。このコントローラー80は、所定の暖房及び冷房プログラムを記憶したメモリー及び、外部からの指令に基づいて所定の演算をするマイクロコンピュータからなる制御手段と、この制御手段により床暖房ヒーター5を制御するヒーター制御部、熱電変換素子部材からの出力を外部機器へ供給する出力供給部、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電素子部材へ床板が側を冷却する極性の電力を供給する電力供給部とを備えている。入力側に、電源、床暖冷房システム10をスタートさせるスタート釦、暖冷房切換釦、床暖房の温度を設定する温度設定ツマミ及びセンサーを接続し、出力側に床暖房ヒーター5、熱電変換素子部材4、蓄電池91及び照明機器92を接続する。
【0050】
床暖冷房システム10は、暖冷房床構造20を構築して、この暖冷房床構造20の床暖房ヒーター5及び熱電変換素子部材4をコントローラー80に電気接続して設置する。暖冷房床構造20は、建築床面上に、まず、複数の熱電変換素子ユニット40〜40〜40を敷設して、その上、すなわち、各熱電変換素子ユニット40〜40〜40上にそれぞれ床暖房ヒーター50〜50〜50を配設する。次いで、各床暖房ヒーター50〜50〜50上に、床板60を取付ける。各熱電変換素子ユニット40〜40〜40上及び床暖房ヒーター50〜50〜50から導出された配線は、接続ボックス70内で結線してコントローラー80に接続する。
【0051】
この床暖冷房システム10は、コントローラー80によって、暖房又は冷房制御する。
a床暖房制御及び変換電力制御
a−1.床暖房制御
温度設定ツマミを操作して所定温度に設定して、スタート釦をONする。これによりヒーター制御部は、床暖房ヒーター5を制御して、設定温度の床暖房を行なう。床暖房ヒーターの上限温度を48℃にした場合は、床表面温度は40分以内に32℃になる(図7参照)
a−2.変換電力制御
この床暖房により、建築床面と床暖房ヒーターとの間に温度差が発生する。この温度差を利用して熱電変換素子部材4から起電されるので、この起電力をコントローラー80の出力制御部により、蓄電池91に充電し或は外部機器92、例えば、照明機器などを点灯させる。この起電力をこのシステムにインプットするのが好ましい。これにより、省エネルギー化が実現できる。
(b)床冷房制御
暖冷房切換釦で冷房に切換える。この切換えにより、コントローラー80は、床暖房ヒーター5への電力供給をストップして代わって、熱電変換素子部材4へ床板面側が冷却される極性の電圧をコントローラーの電力供給部により供給して、冷房をする。
【0052】
この床暖冷房システム10は、室床面の単位面積3.3mにおける発電電圧及び損失は以下のようになる。
すなわち、床暖冷房システム10は、室床面の単位面積3.3mに対して、6枚の面状ヒーター及び1584個の熱電変換素子を配設して、1個の40mm角の素子チップで約0.36Vを発電できるので、単位面積3.3mでの発電電圧及びW数は、
発電電圧 1584個×0.36V=570V
W数 570V×0.2A=114W
である。
また、従来の面状ヒーターは、発電電力が108Wであり、発電電力のうち50%を損失していることから、324W(108W×6×0.5)が損失電力である。
ここで、熱電変換素子を使用することにより、114Wの電力が発生するので、損失電力324Wのうち、114/324=0.352=35.2%を再利用できる。
使用電力は発電電力に対して、(324+114)/648=0.676=67.6%の割合であり、50%から67.6%まで増加、つまり、67.6/50=1.352倍となっている。
したがって、本実施例においては、電力の使用効率が35.2%増加したこととなる。
【0053】
この床暖冷房システム10は、暖房時には、室内を床面から暖房するとともに、床下へ逃げる熱が熱電変換素子部材で電気エネルギーに変換されるので、この電気エネルギーを他に有効に利用できる。また、暖房不使用時には、床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって熱電変換素子部材へ床板側を冷却する極性の電圧を印加することによって、室内を床面から冷房することができる。したがって、一つのシステムでありながら、床暖房又は床冷房が可能になり、通年を通した稼働率を大幅に改善できる。また、暖冷房床構造は、従来技術が必要としていた断熱材が不要になるので、低コスト化が実現できる。
【符号の説明】
【0054】
1、10 床暖冷房システム
2、20 暖冷房床構造
3 建築床
4 熱電変換素子部材
40〜40 熱電変換素子ユニット
41 熱電変換素子
41a リード線
42 取付け板
43 配線路
5 床暖房ヒーター
50〜50 面状ヒーター(単位ヒーター)
6、60 床板
7、70 接続ボックス
8、80 制御装置
91 蓄電池
92 外部機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内を床面から暖房又は冷房する暖冷房床構造と、前記暖冷房床構造の暖房と冷房とを切換えて制御する制御装置とを備えた床暖冷房システムにおいて、
前記暖冷房床構造は、建築床上に、熱電変換素子部材、床暖房ヒーター及び床板をこの順に積層した構造にし、前記熱電変換素子部材は、暖房時に、前記建築床と前記床暖房ヒーターとの間に生じる温度差を電気エネルギーに変換し、暖房不使用時に、外部から所定極性の電圧印加によって前記床板側から冷却エネルギーを送出する熱電変換素子で構成されて、前記床暖房ヒーター及び熱電変換素子部材が前記制御装置に接続されて制御されるようになっていることを特徴とする床暖冷房システム。
【請求項2】
前記床暖房ヒーターは、前記床面の所定の単位面積を暖房する1個乃至複数の単位ヒーターからなり、前記熱電変換素子部材は、前記単位面積と略同じ面積に複数個の熱電変換素子を配設させた前記単位ヒーターと同数の熱電変換素子ユニットで構成されていることを特徴する請求項1に記載の床暖冷房システム。
【請求項3】
前記単位ヒーターは、前記単位面積を有する面状ヒーターからなり、前記熱電変換素子ユニットは、前記面状ヒーターの一面に前記熱電変換素子を複数個配設したものであることを特徴とする請求項2に記載の床暖冷房システム。
【請求項4】
前記熱電変換素子ユニットは、前記単位面積と略同じ面積を有する板状体に前記熱電変換素子が複数個配設されて構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の床暖冷房システム。
【請求項5】
前記熱電変換素子ユニットは、前記板状体に、所定の間隔をあけて描いた仮想水平線と、所定の間隔をあけて描いた仮想水平線とを互いに直交させて、前記直交した仮想線で囲まれた領域に前記熱電変換素子をそれぞれ配設すると共に、前記仮想水平線及び仮想垂直線のいずれか一方の仮想線上に前記熱電変換素子に接続する配線を配設する配線路が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の床暖冷房システム。
【請求項6】
前記板状体は、前記直交した仮想線で囲まれた領域に所定大きさの貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の床暖冷房システム。
【請求項7】
前記単位ヒーターと前記熱電変換素子ユニットとは、結合手段により一体に結合されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の床暖冷房システム。
【請求項8】
前記熱電変換素子ユニットの複数個の熱電変換素子は、直列接続されていることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の床暖冷房システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記床暖房ヒーターを制御するヒーター制御部と、前記熱電素子からの出力を外部へ送出する出力送出部及び前記床暖房ヒーターへの電力供給を停止し代わって前記熱電素子へ前記床板側を冷却する極性の電力を供給する切換え・電力供給部とを有していることを特徴とする床暖冷房システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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