説明

床材の施工方法および床面

【課題】 本発明は、木質感やリサイクル適性に優れた木質樹脂発泡成形体を基材とした床材において、環境温度変化に起因する突き上げ現象を抑えるための樹脂系床材の施工方法、および、その施工方法により施工される床面を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも、熱可塑性樹脂および木質系フィラーを含む木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体、並びに、化粧シートを積層してなる樹脂系床材の施工方法において、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が、該樹脂系床材とは長手方向および巾方向の線膨張係数が0.2×10−5以上5.0×10−5(1/℃)以下異なる異種の樹脂系床材と接するように配列させることを特徴とする樹脂系床材の施工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建て住宅やマンション、アパート、保養所、オフィスビル、店舗等の建築物における室内床面に使用するための床材の施工方法、および、その施工方法により施工される床面に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、戸建て住宅等の建築物における室内床面用の床材としては、木質系フローリング材が最も広く流行している。この木質系フローリング材とは、厚み5mm〜15mm程度の天然木材の無垢板や、厚み5mm〜15mm程度の積層合板等の木質基材上に厚み数百μm〜数mm程度の天然木材の突板を貼着したもの、あるいはそれらの塗装品等である。
【0003】
これらの天然木材を使用した木質系フローリング材は、その表面の意匠が天然木材の木目という、最も自然で親しみやすく美麗な意匠であることから、従来広く消費者に受け容れられている。
【0004】
しかし、日光に当たると変色し易いことや、水に濡れると膨れや割れ、反り、腐食、突板の剥離等を起こし易く、特に浴室脱衣所や洗面所、厨房等の様な水廻りの部位への使用には問題があること、天然素材なので色調や木目形状などの品質や価格、供給量などが不安定であることなどの問題点も指摘されている。
【0005】
特に近年では、地球環境保護問題への社会的関心が高まるにつれて、環境破壊に繋がる天然木材の大量消費は白眼視されるようになり、床材などの建築材料の分野においても、資源のリサイクル利用への取り組みが求められる様になっている。
【0006】
しかし、木質系フローリング材を再度床材としてリサイクル利用することは、技術的にも経済的にも極めて困難であり、せいぜい粉砕してパーティクルボード用原料としてリサイクル利用される程度に留まっているが、これも近年の急激な供給増に見合った用途開発が進まないために過剰在庫を抱え、リサイクル利用は行き詰まりの状況にあり、大半は埋め立てや焼却による最終処分が行われているのが現状である。
【0007】
そこで、床材を使用後に再度、同種の床材の原料として再利用可能な、リサイクル適性のある床材の開発が、社会的に強く要望されるようになっている。こうした要望に応えるものとして、本発明者等は既に、熱可塑性樹脂と木質系フィラーを含有する木質樹脂成形体の表面に、該木質樹脂成形体に含有される熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シートを積層してなる床材を提案した(特許文献1参照)。
【0008】
この床材は、熱可塑性樹脂を主成分とするので耐水性や耐候性に優れ、物性的にも意匠的にも品質の安定した製品を安価に大量供給可能であり、切削や釘打ち等の加工性も木質系フローリング材と同等であり、しかも、使用後はそのまま粉砕して前記木質樹脂成形体の成形材料として再利用できるという、優れたリサイクル適性を備えたものである。
【0009】
また、本発明者等はさらに、水系又は溶剤系接着剤による接着性や、天然木材に似た暖かい触感を与える断熱性、快い歩行感を与える弾力性等の改善を目的として、前記木質樹脂成形体を発泡させてなる木質樹脂発泡成形体を基材として使用した床材をも、既に提案した(特許文献2参照)。
【0010】
しかしながら、その後の試作検討の結果、前記した木質樹脂発泡成形体を使用した樹脂系床材について、改善の必要性があることが判明した。
本発明者等が既に提案してきた木質系樹脂の成形体において、いわゆる板形状の発泡成形体を連続的に押出し、引取方向に対して垂直にカットし基材を生産する。通常、床材の線膨張係数は配合する木質系フィラー充填量、生産条件などにより決まり、連続生産している床材に関して均一な線膨張係数を示す。
【0011】
本発明における樹脂系床材は熱可塑性樹脂を用いた床材であるため、環境温度変化に対する熱変形が生じるが、このように線膨張係数が均一な樹脂系床材を実際に施工した際に、樹脂系床材の変形も均一に起こり、床面全体としても均一な変形を起こすため、例えば壁際や柱等の障害物により、変形による応力集中が発生し、これにともない突き上げ現象を起こす可能性がある。
【特許文献1】特開2001−353815号公報
【特許文献2】特開2002−120347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術における、前記のような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、木質感やリサイクル適性に優れた木質樹脂発泡成形体を基材とした床材において、環境温度変化に起因する突き上げ現象を抑えるための樹脂系床材の施工方法、および、その施工方法により施工される床面を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、熱可塑性樹脂および木質系フィラーを含む木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体、並びに、化粧シートを積層してなる樹脂系床材の施工方法において、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が、該樹脂系床材とは長手方向および巾方向の線膨張係数が0.2×10−5以上5.0×10−5(1/℃)以下異なる異種の樹脂系床材と接するように配列させることを特徴とする樹脂系床材の施工方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記異種の樹脂系床材が、前記樹脂系床材の木質系フィラー配合量と同量の木質系フィラーを含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂系床材の施工方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1および2のいずれかに記載の樹脂系床材の施工方法により施工されることを特徴とする床面である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、熱可塑性樹脂および木質系フィラーを含む木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体、並びに、化粧シートを積層してなる樹脂系床材の施工方法において、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が、該樹脂系床材とは長手方向および巾方向の線膨張係数が0.2×10−5以上5.0×10−5(1/℃)以下異なる異種の樹脂系床材と接するように配列させることを特徴とする樹脂系床材の施工方法である。長手方向および巾方向の線膨張係数が異なる樹脂系床材同士を、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が接するように配列させる施工方法により、環境温度変化にともなう床面全体の変形による応力集中を緩和することが可能となり、突き上げ現象を防ぐことが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記異種の樹脂系床材が、前記樹脂系床材の木質系フィラー配合量と同量の木質系フィラーを含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂系床材の施工方法である。木質系フィラーの配合量は、線膨張係数だけでなく、樹脂系床材の表面硬度や、耐へこみ性などの基礎物性にも強い相関がある。木質系フィラーの配合量が同量である樹脂系床材を用いて施工することにより、基礎物性の統一された床面を得ることが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1および2のいずれかに記載の樹脂系床材の施工方法により施工されることを特徴とする床面である。請求項1および2のいずれかに記載の樹脂系床材の施工方法により施工されることにより、突き上げ現象が生じず、表面硬度や、耐へこみ性などの基礎物性が統一された床面を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の樹脂系床材の施工方法について、図1を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明による樹脂系床材の施工例の一実施例を示す。樹脂系床材1〜4は、木質系フィラーの配合量は同一であるが、長手方向および巾方向の線膨張係数が異なる樹脂系床材である。具体的な線膨張係数の差としては,線膨張係数が0.2×10−5〜5.0×10−5(1/℃)の範囲で異なる事が必要である。本発明における樹脂系床材では,木質系フィラーを添加していることで,床材としての線膨張係数を,熱可塑性樹脂単体に比べ小さくしているが,木質系フィラーが長手方向(引取り方向)配向する関係から,巾方向の線膨張係数は,長手方向の線膨張係数に比較して大きい。配向を抑える事により,巾方向の線膨張を小さくすることが可能であるが,それにともない長手方向の線膨張係数は大きくなる。このように巾方向と長手方向の線膨張係数には相関性があることから,同一量の木質系フィラーを添加した場合には,巾方向の線膨張係数が異なれば,長手方向の線膨張係数も異なることとなる。本発明において,巾方向の線膨張係数が0.2×10−5(1/℃)未満の範囲で線膨張係数が異なっていても,突き上げ防止の効果を得ることができず,また,5.0×10―5(1/℃)を超えて線膨張係数を変動させることは,木質系フィラーの配合量を同一の条件では製造が困難である。本発明の樹脂系床材の施工方法は、長手方向および巾方向の線膨張係数が異なる樹脂系床材同士を、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が接するように配列させることを特徴とする。例えば、図1に示すように、樹脂系床材1〜4から適宜選ばれる異なる樹脂系床材同士の巾方向の全部が接し、かつ、長手方向の一部が接するように配列する施工方法である。このように配列することにより、施工した床全体としての線膨張係数(熱による変形量)に分布をもたせることで、線膨張係数が均一な場合と比較して、環境温度の変化にともなう樹脂系床材の変形による応力集中が軽減され、樹脂系床材の突き上げ現象を改善することが可能となる。
【0021】
また、本発明では木質樹脂発泡成形体に化粧シートを積層させた樹脂系床材を用いるため、図2に示すように、線膨張係数の異なる樹脂系床材1〜4を前述のように配列させた際にも、施工された床面に関しては見栄えの差はなく、意匠性に優れた床面を提供することができる。また、後述するように、同一金型を用いて木質樹脂発泡成形体の成形を行うことで、線膨張係数は異なっていても同一の寸法にて木質樹脂発泡成形体を成形することが可能であり、また、木質系フィラーの配合量を同一にしていることから、床面内における基礎物性のばらつきも生じない。
【0022】
線膨張係数の異なる樹脂系床材1〜4の成形方法に関して、木質系フィラーの配合量による線膨張係数の調整は、木質系フィラーの配合量が樹脂系床材の表面高度や耐へこみ性などの基礎物性にも強い相関があるため好ましくなく、また、成形条件、例えば引取りスピードの変更による調整は、発泡適性や生産の安定性などの点より好ましくない。これらの点をふまえ、本発明に用いる線膨張係数の異なる樹脂系床材の製造方法としては、以下の手法が有効であるが、その手法に限定されるものではない。
【0023】
樹脂系床材の製造方法としては,木質樹脂組成物を押出機により発泡成形することで断面が矩形の第1の発泡成形体を押し出し,第1の発泡成形体を,入口の巾方向の寸法よりも出口の巾方向の寸法を大きくしたサイジングに供給することにより形状および寸法を整形しながら冷却して断面が矩形の第2の発泡成形体を得,第2の発泡成形体を引き取り機で引き取ることにより木質樹脂組成物からなる木質樹脂発泡成形体を得るものである。
図3は本実施の形態の床材の製造方法で用いるサイジング10の概略図である。サイジング10の入口12の巾方向の寸法L1に対して,サイジング10の出口14の巾方向の寸法L2を大きくしている。また,サイジング10の入口12と出口14との樹脂量を合わせるために,巾方向の寸法の増加にともない厚み方向の寸法は減少する設計である。具体的には,サイジング10の入口12の厚み方向の寸法をD1,サイジング10の出口14の厚み方向の寸法をD2とすると,L1×D1=L2×D2としている。
図3に示すように,入口12の巾方向の寸法L1から出口14の巾方向の寸法L2まで連続的に変化する設計とすることで,サイジング10内での樹脂流動は引取方向に加えて,巾方向にも流動することになる。このことにより,引取方向への木質系フィラーの配向を制御することが可能となり,成形性や床物性を落とすことなく、木質樹脂発泡成形体の長手方向および巾方向の線膨張係数を調整することができる。
【0024】
図5は樹脂系床材の一実施例の断面の構造を示す図である。図5に示すように,床材5は,熱可塑性樹脂4と,木質系フィラー3との混合物を,発泡内部に気泡2が存在させつつ成形してなる,木質樹脂発泡成形層に,前記熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂からなる化粧シート1が積層されてなるものである。
【0025】
本発明における熱可塑性樹脂4としては,ポリオレフィン系の例えばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリイソプレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−α−オレフィン共重合体,プロピレン−α−オレフィン共重合体,エチレン−エチルアクリレート共重合体や,これらを接着性の向上の目的で酸変性したもの,あるいはアイオノマー等から適宜選択が可能で,単一でも複数種の混合でも構わない。
【0026】
中でも,樹脂系床材5として要求される剛性や表面硬度,寸法安定性などの面で,ホモポリプロピレン,ランダムポリプロピレン,ブロックポリプロピレン,プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂が最も適している。
【0027】
しかし,ポリプロピレンは熱膨張や熱収縮という温度に対しての寸法変化,いわゆる線膨張係数が大きい材料である。我々の提案する樹脂系床材5は,熱可塑性樹脂と木質系フィラーを複合しているため,熱可塑性樹脂単体と比較すれば,線膨張係数は小さくなっている。しかし,樹脂系床材5を施工した時の温度に比べ,室温が著しく高くなった場合には木質樹脂発泡成形体の熱膨張による応力は巾方向および引取方向に蓄積され,施工面積が広くなった場合に,これらの応力が一部分に集中する事により突き上げが発生する可能性がある。また,前述のように,木質系フィラーを充填した場合には引取方向に木質系フィラーが配向する事により,基材巾方向の線膨張係数が大きい傾向がある。
【0028】
本発明の施工方法に用いる樹脂系床材の製造方法において,熱可塑性樹脂が冷却固化されるサイジング10内に巾方向のテーバーを設けている事が重要である。例えば,押出機ダイにこのような巾方向のテーパーを組み込んだとしても,溶融状態とサイジング10内での樹脂の粘度を考えると,引取方向への木質系フィラーの配向を抑える効果は得ることはできない。
【0029】
サイジング10の入口12の巾方向の寸法L1と,出口14の巾方向の寸法L2の比は,L2がL1の2倍以上が望ましく,木質系フィラーの配向制御の効果をより得るためには3倍以上が望ましい。2倍以下では,サイジング10内の巾方向への樹脂流動が小さく,結果として成形した床材5の長手方向の線膨張係数と,巾方向の線膨張係数を制御することが困難となる。
【0030】
また,入口12の巾方向の寸法L1と,出口14の巾方向の寸法L2の比に関して,L2はL1の10倍以下が望ましく,5倍以下であることがより望ましい。L2とL1の比が大きくなると,前述のようにD2とD1の比も大きくなるため,サイジング10の入口12と出口14でこれらアスペクト比L:Dが急激に変化することになる。この急激な形状変化により,サイジング10の寸法を大きくせざるを得ない,基材成形の安定性が悪くなるなどのデメリットから,前述の範囲内であることが望ましい。
【0031】
従来の木質系樹脂発泡成形体において,いわゆる床形状の発泡成形体を連続的に押出し,引取方向に対して垂直にカットし基材を生産する。例えば異形押出の場合には,溶融した樹脂をサイジングにおいて冷却し,これを引取機で所望のスピードにて引き取るというプロセスをとることになる。木質系樹脂発泡成形体においては,木質系フィラーを充填することにより,基材の線膨張係数を改善しているが,木質系フィラーがアスペクト比の高い,いわゆる繊維状の構造をしていることにより,長手方向に木質系フィラーが配向する傾向がある。この木質系フィラーの配向に起因し,生産した床基材においては長手方向の線膨張係数と比較し,巾方向の熱寸法安定性は大きい(悪い)という不均一性が生まれる。
【0032】
樹脂系床材の製造方法においては,冷却サイジングの入口巾寸法L1に対し,サイジング出口巾寸法L2を広く設計したサイジングを用いることが特徴であり,このような設計とすることで,サイジング内での樹脂の流動方向が引取方向に支配的な流動から,巾方向にも流動するように変化し,結果として木質系フィラーの引取方向への配向度を制御することができる。
【0033】
また、成形に用いるサイジングにおいて,サイジング出口巾寸法L2がサイジング入口寸法L1の2倍以上,10倍以下であることを特徴とし,この範囲内でサイジングを設計することにより,木質系フィラーの引取方向への配向度のコントロールを達成でき,かつ,成形に関しての不具合を併発することがない。
【0034】
図4(A)は本実施の形態の樹脂系発泡成形体の製造方法で用いるサイジング10の構成を示す説明図,(B)は(A)のa断面図,(C)は(A)のb断面図である。一般的なサイジングでは,サイジング内に冷却水などを配管し,サイジング全体を均一に冷却するが,本実施の形態におけるサイジング10では,サイジング10の冷却部26がサイジング10の入口12側から出口14側にむけて,巾方向に連続的に増加する設計となっている。このような設計とすることで,樹脂がサイジング10内を引取方向に移動する際に,中央部から連続的に冷却される。
【0035】
図4(B),(C)に示すように,サイジング10の冷却部26はサイジング10の出口14部分では,冷却部の厚みD2まで入り込んだ設計となっている。サイジング10の入口12より入った樹脂(第1の発泡成形体)は,引取方向に進むにともない樹脂中央部から冷却されることになり,また,冷却部の厚みはD2であるため,樹脂中央部からD2の厚みで冷却固化されていくことになる。
【0036】
樹脂中央部が冷却固化されると,樹脂粘度の違いから,サイジング10内で樹脂の流動は外側に進むことになる。この巾方向への樹脂の流動により,木質系フィラーの引取方向への配向をより効率的に抑えることが可能となる。すなわち,冷却部26により冷却され出口14から引き取り機によって引き取られた樹脂(第2の発泡成形体)は,木質系フィラーの引取方向への配向が抑えられたものとなっている。この冷却条件により木質系フィラーの配向を制御することが可能となり,本発明に用いる,長手方向および巾方向の線膨張係数の異なる樹脂系床材を得ることができる。
【0037】
図3,図4を参照してサイジング10についてさらに詳細に説明する。 図3,図4(A)に示すように,入口12と出口14はサイジング冷却用整形路16で接続されている。図4(B),(C)に示すように,サイジング冷却用整形路16の巾方向の両側に位置する側壁18は,入口12から出口14に向けて矩形の巾が次第に大きくなるように設けられている。サイジング冷却用整形路16の高さ方向の両側に位置する上下の壁20は,入口12の高さ方向における両側に接続する平面壁22と,平面壁22の巾方向の中央にサイジング冷却用整形路16内に突出するように設けられた突出壁24とを有している。突出壁24の巾は入口12から出口14に向かうにつれて次第に大きくなり出口14において出口14の巾と一致している。突出壁20は例えば水などの冷却用媒体により冷却され,突出壁20が前記の冷却部26を構成している。
【0038】
本発明において,木質樹脂発泡成形体に使用される木質系フィラー3の素材としては,特に制限されることなく選択が可能であるが,一般的には木材をカッターミルなどによって破断し,これをボールミルやインペラーミルなどにより粉砕して,微粉状にした木粉などを用いる。
【0039】
木質系フィラー3の平均粒径は,1μm〜200μmが好ましく,10μm〜150μmがより好ましい。平均粒径が1μm未満のものは取り扱いが困難であるうえに,特に木質系フィラーの配合量が多い場合は,樹脂への分散が悪く,木質樹脂発泡成形体に機械強度の低下が発生する。また,200μmより大きいと,成形品の均質性,平面性,機械的強度が低下する。
【0040】
また,木質系フィラー3の配合量については,熱可塑性樹脂4の100重量部に対して,10重量部から300重量部まで適宜選択が可能であるが,成形性や均質性を高めるために,木質系フィラー3は,熱可塑性樹脂4の100重量部に対して20〜200重量部,より好ましくは30〜150重量部の配合量とすることが望ましい。木質系フィラー3の配合量が多すぎると,床材5の曲げ弾性率が上がり,しなやかさが失われるために,施工性が悪化したり,特に隅部への施工時や一枚交換時に,床材5を撓ませて施工することが難しくなり,曲げた時に割れ易くなる。一方,少なすぎると,線膨張係数が大きくなり,寸法安定性が低下するために,温度変化によって,床材5同士の間の目隙きや,床材5同士の突き上げによる浮き等を発生したりする原因となる。
【0041】
本発明において,木質樹脂発泡成形体を成形するための木質樹脂組成物には,前記熱可塑性樹脂4と木質系フィラー3の他に,発泡剤が添加されて,成形過程において発泡される。
【0042】
本発明において,熱可塑性樹脂4には,必要に応じ熱安定剤,酸中和剤,紫外線吸収剤,ブロッキング防止剤,脱水剤,半透明化のための光散乱剤,艶調整剤等を添加することもできる。
【0043】
これらの添加剤のうち熱安定剤としてはヒンダードフェノール系,硫黄系,リン系等,酸中和剤としてはステアリン酸金属塩,ハイドロタルサイト等,紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系,ベンゾエート系,ベンゾフェノン系,トリアジン系等があり,光安定剤としてはヒンダードアミン系等がある。
【0044】
本発明において,木質樹脂発泡成形体の成形としては通常の異形押出法を用いることができる。なかでも,連続的かつ安定的に発泡成形可能はセルカ成形法が好ましい。
【0045】
また,発泡の手法についても公知の手法がいずれも利用できる。一般的には,熱分解や化学反応によってガスを発生する化学発泡と,低沸点の液体に熱をかけて気化させる物理発泡とに分類でき,化学発泡剤としては無機系の重炭酸ナトリウム,炭酸アンモニウム,重炭酸アンモニウム,亜硝酸アンモニウム,ホウ化水素ナトリウム,軽金属,アジド化合物等,また有機発泡剤としてはアゾ系,ニトロソ系,ヒドラジド系等が,任意の組み合わせで使用できる。
【0046】
また,特に2倍を越える高発泡倍率での発泡には主に物理発泡が用いられ,発泡剤としては炭酸ガスや脂肪族炭化水素が主に用いられる。また,物理発泡に際しても発泡体のセル形状を整えるため化学発泡剤を併用することが多い。
【0047】
本発明において,木質樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂4,木質系フィラー3,発泡剤およびその他の添加剤の混練については,特に方法を問わないが,バンバリーミキサーによって混練し,ペレタイザーでペレット化する方法や,2軸押出混練機によって混合,ペレット化する方法などが一般的である。また,木質系フィラー3は,含水率が大きいと,ペレタイズ時に発泡の原因となるために,混練前に予め乾燥機やホッパードライヤーで含水率を8%以下に抑えることが望ましい。
【0048】
本発明の床材5は,木質樹脂発泡成形体の表面に,熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シート1を積層することが好ましい。前記同系の熱可塑性樹脂とすることで,リサイクル処理時に混合しても大きな物性変化を伴わずにリサイクルが可能となる。
【0049】
具体的には,例えばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリイソプレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−α−オレフィン共重合体,プロピレン−α−オレフィン共重合体,エチレン−エチルアクリレート共重合体や,これらを接着性の向上を目的として酸変性したもの,アイオノマー等,或いはそれらの混合物,共重合体等,各種のポリオレフィン系樹脂の中から適宜選択が可能であり,これらの中から選ばれる同種又は異種の樹脂を,木質樹脂発泡成形層用4および化粧シート用1の熱可塑性樹脂として使用することができる。
【0050】
さらに,本発明の床材5には,木質樹脂発泡成形体の裏面に,前記木質樹脂発泡成形体に含有される熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂を主体とする発泡層(図示せず)が積層されていてもよい。例えば,床材5の裏面側に発泡層を積層しておくと,床下地面の不陸を吸収してがたつきを防止したり,床面への物品の衝突音や歩行音を吸収して騒音を防止したりするなどの効果がある。
【0051】
前記発泡層の積層手法については公知の手法が利用でき,例えば木質樹脂発泡成形体1の成形用の木質樹脂組成物に用いた熱可塑性樹脂4と同系の熱可塑性樹脂に,前記熱分解や化学反応によってガスを発生する化学発泡剤又は低沸点の液体に熱をかけて気化させる物理発泡剤のいずれかの発泡剤によりシート状に発泡成形した発泡成形体を,木質樹脂発泡成形体の化粧シート1を積層していない裏面に貼り合わせることにより形成できる。
【0052】
以上説明したように本実施の形態によれば,木質感やリサイクル適性に優れた木質樹脂発泡成形体を基材とした床材を用いた施工方法において,環境温度変化に起因する突き上げ現象を抑えることができ,また,本発明による施工方法に用いられる樹脂系床材の施工方法を実現するための,樹脂系床材を製造することができる。
【実施例1】
【0053】
(床材1〜4の製造)
次に本発明における床材の製造方法について,具体的な実施例を挙げて説明するが,本発明は実施例によって制限されるものではない。熱可塑性樹脂としてホモポリプロピレン樹脂にマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂が20重量%添加されてなるホモポリプロピレン系樹脂100重量部と,木質系フィラーとして木材をカッターミルで破断し,これをボールミルにより粉砕して微粉状にした平均粒径100μmのものを用い,この100重量部とを,2軸押出混練機によって混合し,ペレット化して,木質樹脂組成物を作製した。この木質樹脂組成物100重量部に対して,トリアリルイソシアヌレートおよび重曹−クエン酸系発泡剤を3重量部添加し,1軸押出機により押出成形を実施した。押出機付帯の冷却サイジング10として,図3,4に示す寸法設計,冷却部設計のサイジング10を用いた。L1=50mm,D1=24mm,L2=200mm,D2=6mmのサイジング10寸法により,発泡倍率1.4倍,厚さ6mm,幅200mmの断面長方形状に成形し,さらに表面にコロナ放電処理をして,木質樹脂発泡成形体である床材1を作製した。また,同様の金型を用い,サイジング冷却温度設定を変えることにより,長手方向および巾方向の線膨張係数の異なる床材2〜4を作成した。床材1〜4の線膨張係数に関して,0℃から60℃まで環境温度を変化させた際の,床材寸法変化を測定し,長手方向および基材巾方向の線膨張係数を測定した結果を表1に示す。また,床材1〜4成形におけるサイジング冷却設定温度も表1に示す。また,それぞれの床材の表面硬度をゴム硬度計にて測定した値を併せて示すが,木質系フィラー配合量が同一のため大きな差はなく,また,押出成形時の成形性に関しても特に差はなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
一方,ランダムポリプロピレンに酸化鉄,酸化チタン等の顔料を配合して製膜した厚さ100μmの着色ポリプロピレンシートにウレタン系インキで木目印刷をして,エクストルージョンラミネート法にてホモポリプロピレン樹脂を100μmの厚みでエンボス同時ラミネートし,この裏面にプライマーコートを,表面にトップコートを施して,ポリプロピレン系樹脂製の化粧シートを作製した。しかる後,この化粧シートを前記木質樹脂発泡成形体の表面にラッピング加工法にて貼り合わせて連続で作製し,本発明の樹脂系床材を作製した。
【0056】
(性能評価)
作成した床材1〜4を,図1に示すように配列し,環境試験室内に5℃の環境下にて3m×3mの面積に施工した。環境試験室内の温度を5℃から40℃までサイクル的に変化させ,床面における突き上げの有無を確認した。
【0057】
<比較例>
前記実施例で作成した床材1のみを用いて環境試験室内での施工およびサイクル試験を実施し,床面における突上げの有無を確認した。
【0058】
実施例および比較例に関して,化粧シートを積層していることから,当然ながら外観上の違いは観られない。また,サイクル試験の結果として,比較例において突き上げ現象が確認されたのに対し,実施例において突き上げ現象は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の樹脂系床材の施工方法の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の樹脂系床材の施工方法の一実施例を示す概略図である。
【図3】線膨張係数の異なる樹脂系発泡成形体の製造に用いるサイジング10の概略図である。
【図4】(A)は線膨張係数の異なる樹脂系発泡成形体の製造方法で用いるサイジング10の構成を示す説明図,(B)は(A)のa断面図,(C)は(A)のb断面図である。
【図5】床材の一実施例の断面の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 化粧シート
2 気泡
3 木質充填剤
4 熱可塑性樹脂
5 床材
10 サイジング
12 入口
14 出口
L1 入口の巾方向の寸法
L2 出口の巾方向の寸法
26 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂および木質系フィラーを含む木質樹脂組成物を発泡成形してなる木質樹脂発泡成形体、並びに、化粧シートを積層してなる樹脂系床材の施工方法において、該樹脂系床材の長手方向の一部および/または全部、および/または、該樹脂系床材の巾方向の一部および/または全部が、該樹脂系床材とは長手方向および巾方向の線膨張係数が0.2×10−5以上5.0×10−5(1/℃)以下異なる異種の樹脂系床材と接するように配列させることを特徴とする樹脂系床材の施工方法。
【請求項2】
前記異種の樹脂系床材が、前記樹脂系床材の木質系フィラー配合量と同量の木質系フィラーを含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂系床材の施工方法。
【請求項3】
請求項1および2のいずれかに記載の樹脂系床材の施工方法により施工されることを特徴とする床面。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−196190(P2008−196190A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31838(P2007−31838)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】