説明

廃水中の硝酸イオンを分解する方法

【課題】貴金属を含有する触媒を用いることなく、また、広いpH範囲で実施することができる廃水中の硝酸イオンを分解する方法を提供する。
【解決手段】酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤、例えば、チオ硫酸(H)、亜硫酸(HSO)およびハイドロサルファイト(H)から選択される少なくとも1種またはこれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩を還元剤供給装置(13)を介して硝酸還元設備(12)に供給された廃水に添加し、硝酸還元設備(12)において廃水を水熱反応に付す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水中に含まれる硝酸イオンを分解する方法に関する。詳細には、水熱反応条件下に廃水中の硝酸イオンを窒素にまで還元分解する方法に関する。硝酸イオンを含む廃水は、石油系、医薬系、食品系、廃棄物処理など実に多様なプラントから排出されている。また、屎尿、下水、下水汚泥など生活排水にも硝酸イオンは含まれている。硝酸イオンは、プラントの腐食の原因となり、また、環境保全の観点からも分解する必要があり、現在も多くの研究開発がなされている。
【背景技術】
【0002】
内湾、湖沼などの閉鎖系水域における富栄養化の進行が大きな社会問題となっている。廃水中の窒素化合物の増加が藻類の異常繁殖などの富栄養化現象の主要な要因のひとつである可能性が指摘されており、環境基準や排水基準の設定とともに、窒素化合物の除去技術の開発が進められている。
【0003】
硝酸イオンを含む廃水の処理方法として、触媒の存在下に硝酸イオンを湿式熱分解する方法が提案されている(特許文献1、2、非特許文献1)。これらの方法は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金などの貴金属の少なくとも1種を触媒として、廃水を120〜370℃の温度かつ廃水が液相を保持できる圧力条件下において、廃水中の硝酸イオンを湿式熱分解する方法である。これらの方法では硝酸イオンに反応当量のアンモニアを添加する必要がある。
【0004】
また、同様な湿式分解法では、還元剤として活性炭やメタノール、フェノールを使用する方法(特許文献3、4)、あるいは、触媒として水溶性のモリブデンを使用する例(特許文献5)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−45025号公報
【特許文献2】特開平4−59094号公報
【特許文献3】特開2004−97963号公報
【特許文献4】特公平6−047101号公報
【特許文献5】特開平10−34165号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「公害防止の技術と規定(水質編)」、経済産業省産業技術環境局監修
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固定触媒を使用した湿式熱分解法では、廃水によっては触媒の被毒や溶解による劣化が著しく、定期的な触媒の交換が必要であり経済的に問題であった。また、固定触媒を使用した湿式熱分解法では、触媒の固定床の閉塞など運転上のトラブルも問題であった。また、モリブデンのような溶解性の触媒においても高価な触媒が必要であり、経済的な難点があった。また、モリブデン触媒を使用した方法では、適応できるpH範囲が限られており正確なpH制御が必要であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、貴金属を含有する触媒を用いることなく、また、広いpH範囲で実施することができる廃水中の硝酸イオンを分解する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点に鑑みて鋭意検討を行った結果、硝酸イオンを含む廃水に、酸化により硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤を加え、該廃水を水熱反応(密閉容器内の高温高圧の液状の熱水の存在下の反応)に付すことによって、硝酸イオンを窒素にまで分解することができることを見出した。また、本方法は、酸性からアルカリ性までの広いpH範囲で適用することができる。
【0010】
本発明の廃水中の硝酸イオンを分解する方法において、前記硫黄原子含有の還元剤は、チオ硫酸(H)、亜硫酸(HSO)およびハイドロサルファイト(H)から選択される少なくとも1種またはこれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩であることが好ましい。
【0011】
前記硫黄原子含有の還元剤の添加量は、好ましくは、硝酸イオンが完全に窒素までに還元される化学量論式から求められるモル当量の1〜2倍である。
【0012】
また、好ましくは、前記水熱反応は、180〜320℃、より好ましくは260〜300℃の温度、および廃水が液相を保持することができるのに十分な圧力、具体的には、廃水が置かれる反応温度における廃水の飽和蒸気圧以上の圧力、より具体的には、1〜11MPaの圧力で行われる。
【0013】
廃水中に有機物成分が比較的多く存在する場合、前記水熱反応を行う前に、廃水中の有機物を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硝酸イオン分解方法は、酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤を廃水に添加し、これを水熱反応に付すので、貴金属を含有する触媒等を用いることなく効率的に廃水中の硝酸イオンを分解することができる。また、約4から10の広範囲にわたるpH範囲で硝酸イオンを分解することができるので、操作しやすいという利点がある。硝酸イオンの分解によって生じる窒素ガスは容易に廃水から除去され、硫黄含有の還元剤の酸化により生じる硫酸イオンは、例えば、硫酸アンモニウム塩(硫安)や硫酸カルシウムなどとして回収されて、別途、有効利用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1の実施例において実際に使用された反応器の概略図である。
【図2】実施の形態1の実施例において実際に使用された加熱振とう装置の概略図である。
【図3】実施例4〜9の結果を示すグラフである。
【図4】実施の形態2の廃水処理方法を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
本発明は、酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤を廃水に添加し、これを水熱反応に付すことを特徴とする廃水中の硝酸イオンを分解する方法である。
【0017】
まず、本発明で行われる酸化還元反応の原理について説明する。
【0018】
(還元反応の原理)
硝酸イオンが窒素にまで還元される反応経路は一通りではなく、以下の式(1)〜(4)に示すように、亜硝酸や一酸化窒素ガスを経由するが、これらの中間生成物も還元反応が進行すると最終的には窒素にまで還元されると考えられる。なお、下記に示される硝酸イオンの各還元経路において、Eは水溶液中の標準電極電位である。
【0019】
硝酸の還元
NO + 4H +3e
= NO(g) + 2HO E=0.957V (1)
硝酸の還元
NO+3H +2e
= HNO(aq) +HO E=0.94V (2)
亜硝酸の還元
HNO(aq) + H +e
= NO(g) + HO E=0.994V (3)
一酸化窒素の還元
2NO(g) + 4H + 2e
= N(g) + 2HO E=1.678V (4)
(酸化反応の原理)
一方、本発明における、酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤として、亜硫酸イオン、ハイドロサルファイト、チオ硫酸イオン等が挙げられるが、これらの還元剤は、それぞれ、下記の式(5)〜(7)を経て、それ自体は最終的には硫酸イオンにまで酸化される。
【0020】
亜硫酸イオン
SO2− + 2OH
= SO2− + HO + 2e E=0.936V (5)
ハイドロサルファイトイオン
2− + 4OH
= 2SO2− + 2HO + 2e− E=1.13V (6)
チオ硫酸イオン
2− + 6OH
= 2SO2− + 3HO + 4e E=0.576V (7)
上記の反応式から各硫黄原子含有の還元剤による硝酸イオンの還元反応は、以下の式(8)〜(10)で表すことができる。
【0021】
亜硫酸イオンによる硝酸イオンの還元反応
NO + 5/2SO2− + 6H + 5OH
= 1/2N(g) + 5/2 SO2− + 11/2H
E=4.136V (8)
ハイドロサルファイトイオンによる硝酸イオンの還元反応
NO + 5/6S2− + 6H + 40/6OH
=1/2N(g) + 10/6SO2− + 38/6H
E=4.298V (9)
チオ硫酸イオンによる硝酸イオンの還元反応
NO− + 5/8S2− + 6H +50/8OH
= 1/2N(g) +10/8SO2− + 49/8H
E=3.326V (10)
上記の化学量論式(8)〜(10)に示されるように、1molの硝酸イオンを窒素にまで分解するために必要な還元剤のモル量は、それぞれの還元剤によって異なるが、適量の還元剤を供給することによって、硝酸イオンは完全に窒素ガスに、硫黄系還元剤は完全に硫酸イオンに変換され得る。
【0022】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例を説明する。
【0023】
(実施例)
最初に、本実施例の水熱反応において全般的に用いられる反応器および加熱振とう装置について説明する。
【0024】
図1および2は、本実施例において実際に使用された反応器および加熱振とう装置の概略図である。
【0025】
反応器(1)は、材質SUS316L製の管で構成され、その両端はキャップにより密閉され得る。容量は10mlである。
【0026】
この反応器(1)に、以下の各実施例に規定される所定濃度に調整した硝酸アンモニウム水溶液と還元剤との混合液を充填した。充填量は6mLである。反応器(1)内を窒素ガス置換により還元雰囲気とした。その後、反応器(1)をキャップにより密閉した。
【0027】
次に、密閉した反応器(1)を図2に示す加熱振とう器(2)の溶融塩に浸して、所定時間振とうした。
【0028】
加熱振とう器(2)は、溶融塩恒温槽(パーカ熱処理工業(株)社製 AS−140G)(3)と、カートリッジヒータ(4)と、攪拌機(5)と、温度調節機(6)と、熱電対(7)とを備えている。この加熱振とう装置(2)は、温度調節機(6)と熱電対(7)とにより溶融塩恒温槽(3)内の溶融塩を所定の温度に制御することができる。
【0029】
実施例1〜3および比較例1〜6では、還元剤を種々変更して水熱反応により硝酸イオンの分解を試みた。
【0030】
(実施例1)
硝酸イオン液としては、市販の硝酸アンモニウム試薬の水溶液を使用した。60gの硝酸アンモニウムと252gの亜硫酸アンモニウム一水和物を精製水に混合して全体を1Lとした。これにアンモニアを添加することによりそのpHを9.9に調整した。このとき、亜硫酸アンモニウム一水和物の添加量は、前記の式(8)に基づいて、化学量論式の等量分(モル比、亜硫酸イオン/硝酸イオン=5/2)である。
【0031】
このようにして得た混合液を反応器(1)に詰め、両端をキャップにより密閉し、加熱振とう器(2)の溶融塩に浸して振とうした。加熱振とう器(2)での反応条件は、温度280℃、時間30分、圧力6.2MPaである。
【0032】
(実施例2)
還元剤として109gのハイドロサルファイトナトリウムを加えて、全体を1Lにし、混合液のpHが9.1である他は、実施例1と同様に操作を行った。このとき、ハイドロサルファイトナトリウムの添加量は、前記の式(9)に基づいて、化学量論式の等量分(モル比、ハイドロサルファイト/硝酸イオン=5/6)である。
【0033】
(実施例3)
還元剤として69gのチオ硫酸アンモニウムを加えて、全体を1Lにし、混合液のpHが9.4である他は、実施例1と同様に操作を行った。このとき、チオ硫酸アンモニウムの添加量は、前記の式(10)に基づいて、化学量論式の等量分(モル比、チオ硫酸イオン/硝酸イオン=5/8)である。
【0034】
(比較例1)
還元剤として200gのスルファミン酸アンモニウムを加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが4.1である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。このとき、スルファミン酸アンモニウムの添加量は、モル比で硝酸イオンの2.3倍である。
【0035】
(比較例2)
還元剤として60gのメタノールを加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが6.5である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。このとき、メタノールの添加量は、モル比で硝酸イオンの2.5倍である。
【0036】
(比較例3)
還元剤として100gのプロパノールを加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが6.5である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。このとき、プロパノールの添加量は、モル比で硝酸イオンの2.2倍である。
【0037】
(比較例4)
還元剤として100gのシュウ酸二水和物を加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが4.0である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。このとき、シュウ酸二水和物の添加量は、モル比で硝酸イオンの1.1倍である。
【0038】
(比較例5)
還元剤として60gの活性炭を加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが6.5である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。活性炭の添加量は、モル比で硝酸イオンの6.7倍である。
【0039】
(比較例6)
還元剤として100gの過酸化水素を加えて、全体を1Lにし、反応器に入れる時点の混合液のpHが6.5である点を除いて、実施例1と同様にして操作を行った。過酸化水素の添加量は、モル比で硝酸イオンの3.9倍である。
【0040】
実施例1〜3の実験条件を表1にまとめ、実験結果を表2に示す。比較例1〜6の実験条件と結果を表3に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表2に示すように、実施例1〜3では、酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤を用いることによって硝酸イオンを76〜88%還元分解することができることが分かった。また、これらの還元剤は、前述の式(8)〜(10)に示すように硫酸イオンに変化することが予測されるが、その予測通りに、硫酸イオンの回収率は、82〜94%であることが確かめられた。
【0045】
一方、比較例1〜6では、表3に示すように、いずれの還元剤を使用しても、硝酸イオンの分解率は14%以下であった。この結果、硝酸イオンを分解するためには、実施例1〜3のような比較的強力な還元剤を用いることが必要であることが分かった。
【0046】
次いで、以下の実施例4〜9では、水熱反応の温度の効果について検討した。
【0047】
(実施例4)
実施例1と同様に硝酸アンモニウム水溶液を用意し、これに還元剤として、69gのチオ硫酸アンモニウムを加えて、全体を1Lにし、そのpHを7.1にした。このとき、チオ硫酸アンモニウムの添加量は、前記の式(10)に基づいて、化学量論式の等量分(モル比、チオ硫酸イオン/硝酸イオン=5/8)である。
【0048】
このようにして得た混合液6mLを反応器(1)に詰め、両端をキャップにより密閉し、加熱振とう器(2)の溶融塩に浸して、振とうした。加熱振とう器での反応条件は、温度280℃、時間30分、圧力6.2MPaである。
【0049】
(実施例5)
反応温度が260℃であり、圧力が4.5MPaである他は、実施例4と同様にして操作を行った。
【0050】
(実施例6)
反応温度が240℃であり、圧力が3.2MPaである他は、実施例4と同様にして操作を行った。
【0051】
(実施例7)
反応温度が220℃であり、圧力が2.2MPaである他は、実施例4と同様にして操作を行った。
【0052】
(実施例8)
反応温度が200℃であり、圧力が1.4MPaである他は、実施例4と同様にして操作を行った。
【0053】
(実施例9)
反応温度が180℃であり、圧力が0.9MPaである他は、実施例4と同様にして操作を行った。
【0054】
実施例4〜9の結果を図3に示す。
【0055】
図3のグラフに示されるように、温度が高い程、硝酸イオンの分解率が高くなり、反応温度が260℃以上である場合に、硝酸イオンの分解率が80%を超える高分解率になることが分かった。
【0056】
次いで、以下の実施例10〜14では、既に記載した実施例1〜4をも利用して水熱反応におけるpHの効果について検討した。混合液のpHは硫酸またはアンモニアを添加することで調節した。
【0057】
(実施例10)
反応器に入れる時点の混合液のpHを4.5にした他は、実施例1と同様にした操作を行った。
【0058】
(実施例11)
反応器に入れる時点の混合液のpHを8.5にした他は、実施例1と同様にした操作を行った。
【0059】
(実施例12)
反応器に入れる時点の混合液のpHを4.2にした他は、実施例2と同様にした操作を行った。
【0060】
(実施例13)
反応器に入れる時点の混合液のpHを6.3にした他は、実施例2と同様にした操作を行った。
【0061】
(実施例14)
反応器に入れる時点の混合液のpHを3.9にした他は、実施例3と同様にした操作を行った。
【0062】
実施例10〜14および実施例1〜4の結果を下記表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4に示すように、硝酸イオンの分解率は、反応前の混合液のpHによらず、おおよそ75〜90%であり、幅広いpH範囲で硝酸イオンを還元分解できることが分かった。
【0065】
(実施の形態2)
本発明では、硝酸イオンの還元に用いられる各種の硫黄原子含有還元剤は、水熱反応によってそれ自体は酸化されて硫酸イオンとなる。したがって、廃水中から硝酸イオンが除去されてもその代わりに硫酸イオンが残留することになり、処理水中に硫酸イオンを残したくない場合には不都合である。
【0066】
しかしながら、工業廃水によっては硫酸イオンを多量に含むものが多く存在する。たとえば、排煙脱硫廃水や硫酸プラント廃水等には通常50〜100g/L程度の硫酸イオンが含まれる。また、ラクタム製造プラントの副生品である硫安液を処理する硫安晶析工程から出る廃液には硫安の他に、硝安や有機物を含むものがある。それらの排水の処理方法としては消石灰Ca(OH)やアンモニア等を添加して不溶性の硫酸カルシウム塩(石膏)あるいは硫酸アンモニウム塩(硫安)を生成させ、それを固液分離して回収する方法が一般的である。そして回収された硫酸塩はそれぞれ工業用材料として有効利用することができる。このような硫酸イオン含有廃水中に硝酸イオンが比較的多く含まれると、回収する硫酸塩の品質を低下させるだけでなく、装置の腐食を促進させる原因ともなる。本発明では、このような硫酸イオンを多く含む廃水中の硝酸イオンを還元分解除去して硫酸塩を回収する場合にも効果を発揮する。
【0067】
本実施の形態2では、硫酸イオン含有廃水中の不純物である硝酸イオンを還元分解して硫酸塩を回収する方法について説明する。図4は、本実施の形態2の廃水処理方法を示すフローシートである。
【0068】
排煙脱硫廃水や硫酸プラント廃水等は、一般的に硫酸イオンだけでなく硝酸イオンや有機物も含んでいる。廃水中に有機物が多く存在する場合、硝酸還元を行う前に有機物除去設備(11)で除去しておくことが望ましい。有機物の除去方法は、活性汚泥法、嫌気性処理法、凝集沈殿法、膜分離法、活性炭吸着法、オゾン酸化法、空気または過酸化水素水による湿式酸化法などが利用できる。(各方法は、公害防止の技術と規定(水質編)、経済産業省産業技術環境局監修に紹介されている。)
有機物除去設備(11)で処理された廃水は、次に、硝酸還元設備(12)に供給される。硝酸還元設備(12)では、還元剤供給装置(13)から供給される還元剤によって硝酸イオンを還元分解する。硝酸還元設備(12)で処理された廃水は次に、硫酸塩回収設備等に送られる。
【0069】
硝酸還元設備(12)での硝酸還元処理を終えた廃水は、有機物および硝酸イオンが除去されているため、晶析法などによって純粋な硫酸塩を回収することができる。
【0070】
なお、上記の有機物除去設備(11)による有機物除去処理と硝酸還元設備(12)による硝酸還元処理の処理順は、逆にすることはできない。なぜなら、硝酸還元処理は高温高圧水中、還元雰囲気下で行われるため、有機物が多く含まれた状態で硝酸還元処理を行うと、タールや固形炭化物の発生が著しくなり、このようなタールの発生は硝酸還元設備(12)の側壁への付着や閉塞を招き、固形炭化物の発生は廃棄物処理費の増加を招くからである。
【0071】
以下、実施例15および比較例7および8において、硫酸イオン含有廃水の一例としてカプロラクタム製造工場の副生硫安を製品化する硫安プラントからの廃水を使用して実際に処理実験を行ったので、その結果を下記に示す。当該廃水中には、高濃度の硫酸イオンの他に高濃度のアンモニウムイオン、硝酸イオンおよび有機物が含まれている。従って、同廃水から硫酸アンモニウム塩(硫安)を回収しようとした場合、硝酸イオンと有機物を除去する方法が求められる。硝酸イオンの分解実験には、同廃水のpHをアンモニアで9.0に調整し、精製水で3倍に希釈したものを使用した。
【0072】
(実施例15)
本実施例15では、まず、有機物除去設備(11)の一例として、空気による湿式酸化法を採用して有機物の酸化分解処理を行い、次に硝酸還元設備(12)で硝酸イオンの還元分解処理を行った。
【0073】
湿式酸化処理法は高温高圧状態に保持した廃水中に空気を供給して廃水中の有機物を酸化分解する方法であり、文献などに紹介されている(公害防止の技術と規定(水質編)、経済産業省産業技術環境局監修)。空気の供給量は、廃水中の有機物を完全に酸化分解するのに必要な量(等モル量)の酸素を供給できるように計算して供給した。その際の反応条件は、温度:280℃、時間:30分であり、廃水のpHは9.0に調整した。
【0074】
次いで、硝酸還元設備(12)において、チオ硫酸アンモニウムを水溶液濃度50g/Lになるように加えた上で、硝酸還元処理を行った。このとき、チオ硫酸アンモニウムの添加量は、前記の式(10)に基づく化学量論式の等量分より若干多く加えている。その際の反応条件は、温度:280℃、時間:30分であり、廃水のpHは9.0に調整した。
【0075】
(比較例7)
本比較例7では、上記実施例15とは逆に、はじめに硝酸還元処理を行った後に、湿式酸化処理を行った。その際の反応条件は上記実施例15と同一である。
【0076】
(比較例8)
本比較例8では、湿式酸化処理と硝酸還元処理とを同時に実施した。すなわち、廃水に、有機物を完全に酸化分解するのに必要な量の酸素および廃水中の硝酸イオンを還元分解するのに必要な量の50g/Lのチオ硫酸アンモニウムを同時に加えて、水熱反応に付した。その際の条件は、温度:280℃、時間30分とし、廃水のpHは9.0に調整した。
【0077】
実施例15および比較例7および8の結果を下記表5に示す。実施例15において、1段目の有機物酸化は廃水を湿式酸化処理したときの実験結果であり、2段目の硝酸還元は廃水を湿式酸化処理した後で硝酸還元処理をしたときの実験結果である。同様に、比較例7において、1段目の硝酸還元は廃水を硝酸還元処理したときの実験結果であり、2段目の有機物酸化は廃水を硝酸還元処理した後で湿式酸化処理したときの実験結果である。
【0078】
【表5】

【0079】
上記表5に示すように、実施例15では、湿式酸化処理によって90%の有機物(廃水中に存在する有機物の指標としてCODcrを採用した。以降も同様。)を分解することができ、次の硝酸還元処理によって98%の硝酸イオンを分解することができた。
【0080】
表5において、硫酸イオンの回収率は、初期の廃水中の硫酸イオンと還元剤から生成する硫酸イオンに対する処理後の硫酸イオンの重量割合を表している。いずれの処理においても、硫酸イオンの回収率はほぼ100%であった。このことから、還元剤によって硫酸イオンを還元することはできないことおよび供給した還元剤はほとんど分解して硫酸イオンを生じたことが表されている。
【0081】
比較例7では、2段階の処理工程を経た後の硝酸イオンの分解率は75%であり、有機物の分解率は85%であった。本方法によると1段目の硝酸還元処理において多量の固形残渣が発生した。このことから、湿式酸化処理を行った後に硝酸還元処理を行う実施例15のほうが、処理順序が実施例15とは逆である比較例7よりも好結果を得ることができることが分かった。
【0082】
比較例8では、有機物の分解率は90%であったが、硝酸イオンの分解率は36%に留まった。空気によって還元剤が酸化されたために、硝酸イオンの還元が不十分だったと考えられる。このことから、湿式酸化処理と硝酸還元処理とは分けて行うことが望ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1 反応器
2 加熱振とう器
3 溶融塩恒温槽
4 カートリッジヒータ
5 攪拌機
6 温度調節機
7 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化されて硫酸イオンを生ずる硫黄原子含有の還元剤を廃水に添加し、該廃水を水熱反応に付すことを特徴とする廃水中の硝酸イオンを分解する方法。
【請求項2】
前記硫黄原子含有の還元剤は、チオ硫酸(H)、亜硫酸(HSO)およびハイドロサルファイト(H)から選択される少なくとも1種またはこれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩である、請求項1に記載の廃水中の硝酸イオンを分解する方法。
【請求項3】
前記硫黄原子含有の還元剤の添加量は、硝酸イオンが完全に窒素までに還元される化学量論式から求められるモル当量の1〜2倍である、請求項1または2に記載の廃水中の硝酸イオンを分解する方法。
【請求項4】
前記水熱反応は、180〜320℃の温度、および廃水が液相を保持することができるのに十分な圧力で行われる、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記水熱反応は、260〜300℃の温度で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水熱反応は、廃水が置かれる反応温度における廃水の飽和蒸気圧以上の圧力で行われる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記水熱反応は、1〜11MPaの圧力で行われる、請求項4〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記水熱反応を行う前に、廃水中の有機物を除去する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−162484(P2010−162484A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7129(P2009−7129)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】