説明

廃水処理方法

【課題】ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤5〜1000g/mと1,4−ジオキサン5〜200g/mを含有する廃水の1,4−ジオキサンを工業的に効率よく連続的に処理する方法を提供する。
【解決手段】当該廃水を特定の条件下でフェントン処理する酸化燃焼工程、中和工程及び固液分離工程を直列的に配置したプロセスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−ジオキサンを含有する廃水を連続式に処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ジオキサンは、酸化エチレンの二量化した分子形態を有する自然界に存在しない合成有機化合物であり、水や有機溶媒への溶解度は高い性質を有する。国際ガン研究機関(IARC)は、1,4−ジオキサンをグループ2B(ヒトに対して発ガン性を示す可能性があるグループ)に分類している。しかしながら、1,4−ジオキサンは高分子化合物の反応用溶剤や1,1,1−トリクロルエタンの安定剤などの工業用途で使用されているのが現状である。
近年、ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤やポリオキシエチレン系アニオン界面活性剤が多量に使用されている。酸化エチレン付加物の製造工程において、酸化エチレン付加反応時に副生する1,4−ジオキサンが問題となってきている。そのために、副生した1,4−ジオキサンを製品中から除去する目的で減圧トッピングや水蒸気蒸留等の工程を導入する必要があった。また、酸化エチレン付加物からさらに誘導体を製造する工程において、酸性下で高温処理される場合には1,4−ジオキサンの副生の可能性があり、同様に製品中から1,4−ジオキサンを除去する工程が採用されている。
これらの工程から発生した1,4−ジオキサンは、エジェクターやレシプロなどの減圧器の排出側から吐出され、ドレイン水中やガス洗浄用スクラバー中の水に溶解し、1,4−ジオキサンが5〜1000g/m溶解した廃水となる。しかし、1,4−ジオキサンは、生分解性が非常に悪く、一般的な活性汚泥式の廃水処理などでは十分に分解されない。そこで、1,4−ジオキサンを環境に排出する前に有意な範囲までに処理分解する必要がある。特許文献によれば、1,4−ジオキサンの処理する方法として、オゾン酸化法、活性炭吸着法、凝集沈殿法、促進酸化法、フェントン処理が提案されている。オゾン酸化法はやや反応効率が悪く、活性炭吸着法も吸着除去効率が悪い傾向がある。また、促進酸化法やフェントン処理では分解は進行するものの、工業的に適用させるには更なる分解効率の向上が必要であった。フェントン処理については、必要な試薬が比較的に高額であり、処理後に多量のスラッジが発生するという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−58854号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】第10回日本オゾン協会年次研究講演会講演集「1,4−ジオキサンのオゾン処理における挙動」2000年10巻16〜19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤5〜1000g/mと1,4−ジオキサン5〜200g/mを含有する廃水の1,4−ジオキサンを工業的に効率よく連続的に処理する方法を提供することを目的とする。
より詳細には、最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量を5g/m以下、さらには0.5g/m以下に低減させることが可能な連続式廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の通り、1,4−ジオキサンを処理する方法がいくつか提案されている。しかしながら、本発明者らが、当該廃水の処理方法を検討したところ、代表的なポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩が廃液に存在すると泡立ちが発生し、連続処理に著しく悪影響が生じることが判った。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意に検討したところ、特定の処理条件・方法を採用することより、工業的に効率よく連続的に処理することができ、そして最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量も十分に低減できることが判り、かかる知見を基づいて本発明を完成させた。
本発明の連続式廃水処理方法の特徴は、(i)(完全混合流式の)酸化燃焼槽において、定常状態にあって、当該廃水を平均滞留時間1〜6時間で供給し、第一鉄塩と過酸化水素とを、前者は酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度が0.5〜15mol/mの範囲、後者は酸化燃焼槽内の廃水中の過酸化水素濃度が1〜30mol/mの範囲を保持するように供給し、かつ、処理温度40〜80℃及びpH1〜4の範囲の条件下にて当該廃水を酸化燃焼させる工程と、(ii)中和槽において、前記酸化燃焼工程から排出された処理物をpH5〜9の範囲となるようにアルカリ化合物で中和する工程、(iii)固液分離装置において、前記中和工程から排出された処理物を固液分離する工程、を具備する点にある。そして、酸化燃焼工程において、不完全燃焼させることが重要であり、前記(i)に記載の条件を採用することにより達成されて、本発明の効果の発現・効用に大きく貢献する。
本構成を採用することにより、最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量を5g/m以下(さらには0.5g/m以下)に低減させる連続式廃水処理方法を提供できることが判った。
【0007】
より具体的には、以下の項目の発明を提供するものである。
【0008】
(項1)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤5〜1000g/mと1,4−ジオキサン5〜200g/mを含有する廃水の1,4−ジオキサンを連続式に処理して低減させる方法であって、
(i)酸化燃焼槽において、前記廃水を平均滞留時間1〜6時間で供給し、第一鉄塩を酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度が0.5〜15mol/mの範囲となるように供給し、過酸化水素を酸化燃焼槽内の廃水中の過酸化水素濃度が1〜30mol/mの範囲を保持するように供給し、かつ、処理温度40〜80℃、pH1〜4の範囲の条件下にて当該廃水を酸化燃焼させる工程、
(ii)中和槽において、前記酸化燃焼工程から排出された処理物をpH5〜9の範囲となるようにアルカリ化合物で中和する工程、
(iii)固液分離装置において、前記中和工程から排出された処理物を固液分離する工程、を具備する(固液分離工程から排出された処理水中の1,4−ジオキサン含有量を0.005〜5g/mとすることを特徴とした)連続式廃水処理方法。
【0009】
(項2)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項1に記載の処理方法。
【0010】
(項3)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項1に記載の処理方法。
【0011】
(項4)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤と1,4−ジオキサンを含有する廃水の1,4−ジオキサンを低減させる連続式廃水処理装置であって、前記廃水をフェントン反応により酸化燃焼する完全混合流式の酸化燃焼槽と、前記酸化燃焼槽から排出された処理物を中和する中和槽と、前記中和槽から排出された処理物を固液分離する固液分離装置とを備える連続式廃水処理装置。
【0012】
(項5)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項4に記載の処理装置。
【0013】
(項6)ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項4に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤5〜1000g/mと1,4−ジオキサン5〜200g/mを含有する廃水を、酸化燃焼工程において実務レベルで有意な範囲までに泡立ちを抑制し、工業的に効率よく連続的に廃水処理を可能とし、最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量を5g/m以下(さらには0.5g/m以下)にまで低減が可能となる。また、フェントン反応により発生するスラッジ量も抑制も可能である。最終処理水のTOD(全酸素要求量)の低減にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施態様である連続式廃水処理プロセスの一例である。
【符号の説明】
【0016】
1 硫酸
2 硫酸第一鉄
3 過酸化水素
4 本発明にかかる廃水
5 攪拌機
6 攪拌機
7 完全混合流式酸化燃焼槽
8 中和槽
9 固液分離装置
10 最終処理水
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における処理対象の廃水は、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が5〜1000g/m(好ましくは20〜250g/m、より好ましくは20〜100g/m)、1,4−ジオキサンが5〜200g/m(好ましくは5〜100g/m、より好ましくは7〜80g/m)含有する廃水である。
【0018】
本発明にかかるポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル酢酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル酢酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)フェノール硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)フェノール硫酸塩等が挙げられ、さらにそれらの酸構造であるポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)エーテル酢酸、ポリオキシアルキレンアルキル(アルキルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)フェノール硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニル(アルケニルの炭素数;好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)フェノール硫酸等も包含する。
それらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸が好ましい。
これらの例示は、1種で又は2種以上を組み合わせて適宜選択して採用することができる。
【0019】
ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤にかかる前記硫酸塩部位又は酢酸塩部位の対イオンは、好ましくはナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、より好ましくはナトリウム、カリウム、アンモニウムが推奨される。これらの例示は、1種で又は2種以上を組み合わせて適宜選択して採用することができる。
また、かかる前記オキシアルキレン部位は、好ましくはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、好ましくはオキシエチレン基、オキシプロピレン基が推奨される。なお、オキシエチレン基は必須の部位である。オキシアルキレンの平均重合度は、特に制限はないものの、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、特に10以下が推奨される。
【0020】
本発明にかかる廃水の発生場所としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩やポリオキシエチレンアルキルフェノール硫酸塩等の製造工場などが挙げられる。
具体的には、1,4−ジオキサンは、酸化エチレン付加工程時や酸化エチレン付加物の硫酸エステル化における酸性条件下での高温下で副生する。そして、副生した1,4−ジオキサンは減圧トッピングや水蒸気蒸留等の操作により製品中から除去され、エジェクターやレシプロなどの減圧器の排出側から放出されてドレイン水中やガス洗浄用スクラバーで捕集され、廃水の一部として構成される。また、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤は、プラントや反応缶の洗浄、飛沫や前記トッピング等による同伴などから発生して同様に廃水の一部を構成する。
【0021】
本発明の処理方法は、連続式処理プロセスであり、酸化燃焼槽におけるフェントン反応を利用して不完全燃焼をさせる酸化燃焼工程と、中和槽における中和処理工程と、固液分離装置における固液分離工程とを具備し、当該酸化燃焼槽、中和槽及び固液分離装置が直列的に配置されたプロセスである。
また、本発明の請求項3(上記項4)は、請求項1(上記項1)の方法発明を装置発明として構成したものであり、以下の処理方法の説明は装置発明の説明でもある。
【0022】
[酸化燃焼工程]
酸化燃焼工程では、フェントン反応を利用して、廃水中に含有するポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤及び1,4−ジオキサンが有する少なくとも一つのエーテル結合を酸化分解させる。これは、本発明の目的を達成させるためには、フェントン反応により完全に酸化分解させるのではなく、意識的に不完全に酸化分解させることが重要である(完全燃焼させるのではなく、不完全燃焼させることを意味する。)。
詳細には、これらの化合物のエーテル結合の少なくとも1つが酸化分解させることにより、1,4−ジオキサンでは処理水中の1,4−ジオキサン濃度を低下させることができる。それと同時期にポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤も酸化分解を受けて、その界面活性能を大幅に低下させることができ、酸化燃焼槽における廃水処理操作中の泡立ちを抑制することができる。不完全燃焼させるこの方法は、フェントン処理後のスラッジの発生量の低減にも大きく貢献するものである。
【0023】
本発明にかかる平均滞留時間は1〜6時間であり、好ましくは2〜4時間で酸化燃焼槽に本廃水を供給する。平均滞留時間が1時間よりも短い場合、廃水中の1,4−ジオキサン濃度が大きく変動した場合に十分に低減させることが困難となり、6時間よりも長い場合には、酸化燃焼槽の装置容積が過大となり設備設計上好ましくなく、効率的な処理も困難となる。
【0024】
本発明にかかる第一鉄塩とは、フェントン反応に関与するFe2+を供給できる化合物である。具体的には、硫酸第一鉄、塩化第一鉄などが例示され、特に硫酸第一鉄が推奨される。これらは、1種で又は2種以上を適宜併用して使用することもできる。
供給する際の第一鉄塩の態様としては、固体又は液体の形態となるが、通常、水溶液の形態で供給することが推奨される。水溶液の場合、後述の供給量及び操作性を考慮して、適宜濃度を調整することが好ましい。
第一鉄塩の供給量及び供給速度は、酸化燃焼槽内の廃液中の鉄濃度が0.5〜15mol/m、好ましくは1〜13mol/mの範囲を保持するように供給する。0.5mol/mよりも低い濃度では、燃焼速度が遅く滞留時間が超過する。また、15mol/mより高い濃度では反応上の問題はないが、過大なスラッジが発生し、経済的に不利である。
前記鉄濃度は、Fe2+とFe3+との合計値で表されるものの、完全混合流式の酸化燃焼連続処理プロセスにおいて有用な指標となるパラメータである。酸化燃焼槽では、完全混合流式で連続処理されるので、当該鉄濃度は、第一鉄塩の供給量を実質的に表していることとなる。
【0025】
過酸化水素の供給量及び供給速度は、酸化燃焼槽の廃液中の過酸化水素濃度が1〜30mol/m、好ましくは5〜25mol/mの範囲を保持するように供給する。1mol/mより低い濃度の場合、燃焼速度が遅く、滞留時間が過大となる。また、30mol/mより高い濃度では分解反応上の問題はないが、自己分解反応に消費される比率が増え、過酸化水素の使用量が過大となり、経済的にも好ましくない。
前記過酸化水素濃度は、フェントン反応による消費、自己分解等による消費などにより減少して系中に残存する量を表し、完全混合流式の酸化燃焼連続処理プロセスにおいて有用な指標となるパラメータである。
過酸化水素の酸化分解反応に与る量については、例えば、1,4−ジオキサンを二酸化炭素と水にまで完全燃焼させる為に必要な過酸化水素の理論量は、1,4−ジオキサン1モルに対して10当量である。本発明では、上記の通り、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤及び1,4−ジオキサンの少なくとも一つのエーテル結合の酸化分解を目的としているので、酸化分解に必要な最低の酸化状態であるアルデヒドにまで酸化する最低理論量は、当該化合物1モルに対して1当量である。実際には、酸化分解により、アルデヒドより酸化状態は進行し、カルボン酸やさらに進んだ複雑な酸化生成物を生成する為、2〜6当量程度を消費する。
過酸化水素は、一般に過酸化水素水として市販されているものを利用することができ、また簡便でもある。
【0026】
前記第一鉄塩と過酸化水素との供給量の割合は、フェントン反応を効率よく利用できるように調整することが重要であり、好ましくは第一鉄塩:過酸化水素(モル比)=1:1.5〜30、より好ましくは1:2〜10の範囲となるように、それぞれの供給量を調整することが好ましい。
【0027】
なお、本明細及び特許請求の範囲において、「酸化燃焼槽内の廃液」とは、仕込み廃水、フェントン反応に関与する試薬類、分解物等を含む酸化燃焼槽内に存在する全ての物(固体と液体の混合物)を意味し、鉄濃度及び過酸化水素濃度は、その物の容積に対する割合として表される。
【0028】
本発明に係る処理温度は温度40〜80℃であり、好ましくは50〜70℃が推奨される。処理温度が40℃より低い場合、燃焼速度が遅くなり滞留時間の超過を招き、80℃よりも高い場合には、過酸化水素が燃焼反応より自己分解反応に消費される為に過酸化水素の使用量が増大し、経済的に不利となる。
【0029】
酸化処理工程のpHは1〜4であり、好ましくは1.5〜3.5が推奨される。当該pHの範囲に調整する方法としては、強酸性物質を添加することによって容易に調整することができ、好ましくは硫酸が推奨される。pH4よりも酸強度が弱い状態の場合、燃焼速度が遅く滞留時間が超過する。また、pH1より酸強度が強い状態の場合、反応上の問題はないが、酸化燃焼槽及び付帯設備の材質の選定が困難となり、設備投資に対して経済的不利となる。
【0030】
上記平均滞留時間、第一鉄塩の供給量・供給速度、過酸化水素の供給量・供給速度、処理温度、pHの条件設定に当たっては、第一に目標とする最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量と酸化燃焼槽に供給される廃水の状態・変動を考慮して、その上で酸化燃焼槽での処理能力、中和槽での処理能力及び固液分離装置の処理能力等を加味して設定される。
例えば、廃水中のポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤や1,4−ジオキサンの含有量が多くなる変動を示す場合、フェントン反応に関与する試薬類の供給量を多くする調整又は供給速度を上げる調整、滞留時間の長くする調整、処理温度を上げる調整、pHの酸性度を上げる調整を本発明に係る構成の範囲内で設定する必要がある。
【0031】
前記最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量の低減の観点からは、酸化燃焼槽内の廃水中の1,4−ジオキサン濃度を好ましくは5g/m以下、より好ましくは0.005〜5g/m、さらに好ましくは0.5g/m以下、特に0.03〜0.5g/mの範囲を保持するように連続運転する条件設定が推奨される。そのためには、前記条件設定を本発明に係る構成の範囲内で設定する必要がある。
酸化燃焼槽内の廃水中の1,4−ジオキサン濃度を5g/mより高い濃度の条件で運転することは、このプロセスを採用する意義がなく、十分に活用されていないことを意味する。また、1,4−ジオキサン濃度の下限値を設けて運転する場合には、生産性や経済性を考慮して設定することが推奨される。
【0032】
本発明にかかる酸化燃焼槽は、完全混合流式であれば、その他には特に制限はない。具体的には、攪拌機が装備されているものが好ましく、特にバッフルと攪拌羽根の両者を取り付けたものが推奨される。バッフルが無い場合、攪拌による渦が攪拌羽根に達してから泡が立ちやすくなる傾向が認められる。また、槽下部からポンプを装着した配管により槽上部に送液する循環システムでの混合も可能である。
酸化燃焼槽の材質は、当該強酸性下で耐え得るものであれば、特に制限はない。
【0033】
酸化燃焼槽は、一基でも本発明を実施できるが、好ましくは二基以上を直列に連結する態様が推奨される。これは、段階的に処理濃度を変えることが可能となるため、より効率よく酸化分解させることができるようになる。そして、酸化燃焼槽に供給される廃水の濃度変動に対応しやすく、フェントン反応に関与する試薬などの減量化にも貢献し、さらに連続式処理装置のさらなる小型化も可能となる。
【0034】
[中和工程]
中和工程では、中和槽において前記酸化燃焼工程から排出された処理物をpH5〜9の範囲、好ましくはpH6〜8、より好ましくはpH6.5〜7.5となるようにアルカリ化合物を添加して中和する。
前記アルカリ化合物としては、強酸を中和でききるものであれば特に制限はないが、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物などが挙げられ、価格面から水酸化ナトリウムが推奨される。かかるアルカリ化合物の態様としては、固体又は液体の形態となるが、通常、水溶液の形態で使用することが推奨される。水溶液の場合、適宜濃度を調整することが好ましい。
アルカリ化合物の供給量及び供給速度は、酸化燃焼槽から排出された処理物の量や状態に応じて、さらに中和槽の容量等を加味して調整することが推奨される。
中和温度は、特に制限はなく、酸化燃焼槽と同一温度に設定してもよく、また温度制御せずに酸化燃焼工程から排出される処理物をそのまま受け入れてもよい。
また、必要に応じて中和槽で過剰の過酸化水素を還元処理する目的で、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤を添加して処理することも可能である。
本発明にかかる中和槽は、連続的に中和操作ができる構造であれば特に制限はない。具体的には、攪拌機が装備されているものが好ましく、特に完全混合流式となる機構のものが推奨される。中和槽は、一基でも本発明を実施できるが、必要に応じて二基以上を直列に連結してもよい。中和槽の材質は、当該中和処理に耐え得るものであれば、特に制限はない。
【0035】
[固液分離工程]
固液分離工程では、本技術分野にて使用される公知の固液分離装置を使用することができる。固液分離装置の選定に当たっては、本発明の実施によって発生するスラッジを分離する能力及び前記中和工程から排出される処理物の排出量を処理できる能力があれば特に制限はない。具体的には、フィルタープレス、スクリュープレス、濾過器、遠心分離器、ラバルセパレータ、沈殿槽等が挙げられる。固液分離装置は、一基でも本発明を実施できるが、必要に応じて二基以上を並列したり、複数組み合わせたりしてもよい。
【0036】
かくして、上記の連続処理プロセスにより工業的に効率よく連続的に廃水処理をして、最終処理水中の1,4−ジオキサン含有量を0.005〜5g/mにまで低減が可能とする連続式廃水処理プロセスが完成する。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例における評価方法は、以下の通りである。
【0038】
[ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムの含有量の測定]
医薬部外品原料規格2006「一般試験法 6.陰イオン界面活性剤定量法」の第2法に準じて測定した。
【0039】
[1,4−ジオキサンの含有量の測定]
酸化燃焼槽内の廃水又は最終処理水1gを採取し、オーバーヘッドガスクロマトグラフィー(パーキンエルマ社製)を用いて測定した。GCカラムにキャピラリーカラム、内部標準にベンゼンを用いた。
【0040】
[酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度の測定]
酸化燃焼槽内の廃水1gを10〜100mg/Lの範囲となるように希釈して測定用サンプルとし、IPC発光分光分析装置を用いて測定した。
【0041】
[酸化燃焼槽内の廃水中の過酸化水素濃度の測定]
基準油脂分析試験法(1996)に記載の「過酸化物価」に準じて測定した。
【0042】
[pHの測定]
酸化燃焼槽内の廃水又は中和槽内の廃水をそのまま使用して測定用サンプルとし、pHメータ(メトラートレド社製)を用いて測定した。
【0043】
[実施例1]
ステンレス製の20Lでオーバーフローする仕組みを有する撹拌機付き完全混合流式の酸化燃焼槽(使用容積;20L)に、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム300mg/L(=g/m)と1,4−ジオキサン20mg/Lを含有する廃水を供給速度5L/hで供給した(平均滞留時間;4時間)。酸化燃焼槽に、35重量%過酸化水素水を8mL/hで、10重量%硫酸第一鉄水溶液を80mL/hで、濃硫酸(98重量%)を1.6mL/hで供給しながら、65℃に保持して、フェントン反応を行った。
前記条件で継続して定常状態を確認した後、さらに4時間継続したときの酸化燃焼槽の状態を確認した。pHは2.5、酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度は11.1mmol/L(=mol/m)、過酸化水素濃度は4mmol/Lであった。その後、さらに4時間継続したときの酸化燃焼槽の状態を確認しところ、pHは2.5、酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度は10.9mmol/L、過酸化水素濃度は4.5mmol/Lであった。また、酸化燃焼槽内において攪拌による泡は殆ど発生しなかった。
前記酸化燃焼槽から排出された処理物を、ステンレス製の10Lでオーバーフローする仕組みを有する撹拌機付き完全混合流式の中和槽(使用容積10L)に供給した。48重量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を調整しながら、中和槽の廃水をpH6〜8の範囲で制御した。
次いで、中和槽から排出された処理物(スラリー状態)を受器に保管した。酸化燃焼工程で定常状態を確認した後、さらに6時間経過したときとその後さらに4時間経過したときに、前記中和槽から排出された処理物を10分間採取した。それぞれ採取した処理物をヌッチェを用いた吸引濾過で固液分離して、スラッジと最終処理水(清澄な液体)を得た。
前記前者の最終処理水中の1,4−ジオキサンの含有量は0.2g/m、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの含有量は5g/mであり、後者の最終処理水中の1,4−ジオキサンの含有量は0.2g/m、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの含有量は7g/mであった。また、前記前者のスラッジ量は0.9gであり、後者のスラッジ量は1gであり、非常に発生量が少ないことが判った。当該廃水を連続的に廃水処理できることを確認できた。
【0044】
[実施例2]
酸化燃焼工程において、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム25mg/L及び1,4−ジオキサン15mg/Lを含有する廃水を使用し、35重量%過酸化水素水を6mL/h、10重量%硫酸第一鉄水溶液を15mL/h、濃硫酸0.3mL/hで供給した他は、実施例1と同様に行った。
前記条件で継続して定常状態を確認した後、さらに4時間継続したときの酸化燃焼槽の状態を確認した。pHは3、酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度は2.1mmol/L、過酸化水素濃度は3.5mmol/Lであった。その後、さらに4時間継続したときの酸化燃焼槽の状態を確認しところ、pHは3、酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度は2.0mmol/L、過酸化水素濃度は3mmol/Lであった。また、酸化燃焼槽内において攪拌による泡は殆ど発生しなかった。
次いで、中和工程及び固液分離工程において、実施例1と同じ装置で同様の条件にて処理して、最終処理水(清澄な液体)を得た。
酸化燃焼工程で定常状態を確認した後にさらに6時間経過したときの最終処理水中の1,4−ジオキサンの含有量は0.05g/m、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの含有量は1g/mであり、また、その後にさらに4時間経過したときの最終処理水中の1,4−ジオキサンの含有量は0.04g/m、ポリオキシエチレン(平均重合度;2モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの含有量は2g/mであった。また、前記前者のスラッジ量及び後者のスラッジ量はともに0.2gであった。本連続式廃水処理方法により、最終処理水中の1,4−ジオキサンの含有量を0.05g/m以下とすることが可能であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の連続式廃水処理方法は、ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤の製造工程から排出される廃液中に存在する1,4−ジオキサンを連続処理するのに有効な手段である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤5〜1000g/mと1,4−ジオキサン5〜200g/mを含有する廃水の1,4−ジオキサンを連続式に処理して低減させる方法であって、
(i)酸化燃焼槽において、前記廃水を平均滞留時間1〜6時間で供給し、第一鉄塩を酸化燃焼槽内の廃水中の鉄濃度が0.5〜15mol/mの範囲となるように供給し、過酸化水素を酸化燃焼槽内の廃水中の過酸化水素濃度が1〜30mol/mの範囲を保持するように供給し、かつ、処理温度40〜80℃、pH1〜4の範囲の条件下にて当該廃水を酸化燃焼させる工程、
(ii)中和槽において、前記酸化燃焼工程から排出された処理物をpH5〜9の範囲となるようにアルカリ化合物で中和する工程、
(iii)固液分離装置において、前記中和工程から排出された処理物を固液分離する工程、を具備する連続式廃水処理方法。
【請求項2】
ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤と1,4−ジオキサンを含有する廃水の1,4−ジオキサンを低減させる連続式廃水処理装置であって、前記廃水をフェントン反応により酸化燃焼する完全混合流式の酸化燃焼槽と、前記酸化燃焼槽から排出された処理物を中和する中和槽と、前記中和槽から排出された処理物を固液分離する固液分離装置とを備える連続式廃水処理装置。
【請求項4】
ポリオキシアルキレン系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェノール硫酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の処理装置。

【図1】
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