説明

廃触媒中の非揮発性炭素および非揮発性硫黄の分析方法

【課題】キルン焙焼に供する廃触媒中の非揮発性炭素と非揮発性硫黄の分析結果を反映させたキルン操業を可能とするために、前記分析に必要とする時間を大幅に短縮できる廃触媒中の非揮発性炭素および非揮発性硫黄の分析方法を提供する。
【解決手段】揮発性油分と非揮発性炭素分と非揮発性硫黄分を含有する廃触媒の非揮発性炭素及び非揮発性硫黄の分析方法において、従来のソックスレー法を用いずに、前記廃触媒を窒素ガス雰囲気下で、600℃以上の温度で、10分以上保持してから、酸素ガス抵抗加熱燃焼-熱伝導度法を用いた炭素、硫黄分析装置を用いて炭素及び硫黄を分析することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製時の水素化脱硫触媒として使用された廃触媒に含まれる非揮発性炭素分及び非揮発性硫黄分を迅速に分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製時の水素化脱硫触媒として使用された廃触媒には、バナジウムやモリブデンの如き有価金属が含有されているため、これらの有価金属を回収することを目的として、様々な方法が提案されている。その中の一方法として、たとえば、特開平7−252548号に記載されているキルンなどを用いた焙焼法がある。
【0003】
このような廃触媒には、バナジウムやモリブデンの如き有価金属の他に、揮発性油分や非揮発性炭素分及び非揮発性硫黄分が含まれており、キルンにて焙焼処理を行うためには、個々の廃触媒における組成値を知ることが必要である。非揮発性炭素品位や非揮発性硫黄品位は、キルンのヒートバランスや焼成品質に与える影響が大きく、キルンの操業管理の上で重要である。
【0004】
石油精製時の水素化脱硫触媒として使用された廃触媒には、有価金属の他に、脱硫操業中に触媒に移行した石油留分である揮発性油分や非揮発性炭素分や非揮発性硫黄分が含有されている。
【0005】
キルン焙焼などの処理を行う際には、廃触媒の含有成分について分析する必要がある。なぜならば、キルンでの焙焼操業においては、揮発性油分はキルン内で比較的初期に揮発し、燃焼には寄与しないため、キルン操業の熱バランスを計算する上では、揮発性油分に含まれる炭素分や硫黄分を除いた非揮発性炭素分や非揮発性硫黄分の品位を知ることが重要となる。
【0006】
したがって、従来の技術においては、廃触媒の非揮発性炭素分や非揮発性硫黄分を分析するためには、廃触媒中の揮発性油分をソックスレー抽出法により除去した後に、酸素ガス抵抗加熱燃焼-熱伝導度法を用いた炭素、硫黄分析装置を用いて、非揮発性炭素品位と硫黄品位を分析していた。
【0007】
しかしながら、このソックスレー抽出法は、通常トルエンによる油抽出に約3時間、抽出溶媒のトルエンを揮散させるのに一昼夜、さらに乾燥機で6時間、デシケーター内で1時間、その後炭素と硫黄の分析に約1時間と、廃触媒をサンプリングしてから廃触媒中の非揮発性炭素分と硫黄分の分析結果を出すまでに非常に長時間を必要としていた。
【0008】
上述したように、廃触媒を焙焼するキルン操業においては、廃触媒中の非揮発性炭素分と非揮発性硫黄分が変動すると、キルン操業における熱バランスが変動し、キルン内での反応が悪化する原因となる。よって、廃触媒中の非揮発性炭素分と硫黄分の正確な分析値を把握することが、キルン操業の熱バランスを計算し、その結果を操業のアクションに反映させる上で重要であるが、従来の分析方法では、廃触媒をサンプリングしてから、分析結果を出すまでに約2日間を必要としていたため、分析結果をただちにキルン操業に反映させることが困難であった。
【特許文献1】特開平7−252548
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、キルン焙焼に供する廃触媒中の非揮発性炭素と非揮発性硫黄の分析結果を反映させたキルン操業を可能とするために、前記分析に必要とする時間を大幅に短縮できる廃触媒中の非揮発性炭素および非揮発性硫黄の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の廃触媒中の非揮発性炭素および非揮発性硫黄の分析方法は、揮発性油分と非揮発性炭素分と非揮発性硫黄分を含有する廃触媒の非揮発性炭素及び非揮発性硫黄の分析方法において、従来のソックスレー法を用いずに、前記廃触媒を窒素ガス雰囲気下で、600℃以上800℃以下の温度で、10分以上保持してから、酸素ガス抵抗加熱燃焼-熱伝導度法を用いた炭素、硫黄分析装置を用いて炭素及び硫黄を分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法を使用することにより、廃触媒中の非揮発性炭素及び非揮発性硫黄品位の分析に必要な時間を従来の方法と比較して大幅に短縮することができ、その結果、非揮発性炭素及び非揮発性硫黄の品位を廃触媒のキルン焙焼操業にフィードバックすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する装置の概略図を図1に示す。
【0013】
本発明では、廃触媒中の石油留分である揮発性油分を揮発させるために、アルミナ反応管2を用いた電気管状炉1を使用した。
【0014】
まず、アルミナボート3上に乗せた廃触媒約10gをアルミナ反応管内の中心部に装入し、反応管内の雰囲気を、窒素ガス4を用いて不活性雰囲気に保ち、揮発性油分5が揮発する温度である600℃まで炉内温度を上昇させ、10分保持させた後、約300℃まで冷却して、廃触媒を炉内から取り出した。また、揮発した油分は、揮発油分捕集装置6により回収した。
【0015】
その後、酸素ガス抵抗加熱燃焼-熱伝導度法を用いた炭素、硫黄分析装置を用いて、非揮発性炭素品位と非揮発性硫黄品位の測定を行う。この加熱温度が、550℃以下では、加熱後の廃触媒中に目視でも分かる程度に油分が残留するので、温度は600℃以上とする必要がある。600℃での保持時間が10分未満では、得られる非揮発性C品位が従来法よりやや高くなるので、保持時間は10分以上とする。
【0016】
保持時間の上限は特に制限はないが、本発明の目的が、迅速に分析を可能とすることであるから、30分程度が必然的に上限となる。一方、加熱保持温度の上限は、過剰に加熱すると非揮発性炭素及び硫黄が少量の酸素でも燃焼してしまう可能性があることから、800℃程度が上限となる。
【実施例】
【0017】
本発明により求めた廃触媒中の石油留分である揮発性油分を除去した後の廃触媒中の非揮発性炭素分と非揮発性硫黄の分析値と従来のソックスレー抽出法による分析値とを比較するため、数種類の廃触媒を用いて、比較試験を行った。
【0018】
比較試験は、種類の異なる廃触媒A〜Kの銘柄について行った。
AからKまでの廃触媒の銘柄について各々、従来のソックスレー抽出法と本発明による方法を用いて、廃触媒中の揮発性油分を除去した後、酸素ガス抵抗加熱燃焼-熱伝導度法を用いた炭素、硫黄分析装置を用いて、非揮発性炭素と硫黄品位の測定を行い、測定結果の比較を行った。 表1に廃触媒中の非揮発性炭素品位及び非揮発性硫黄品位の測定結果を示す。
【0019】
【表1】

表1に示されるように、A〜Kまでの各銘柄について、本発明による分析結果とソックスレー抽出法による分析結果は、非揮発性炭素品位、硫黄品位共に近い値となった。
【0020】
これらの測定結果について、統計的に差があるか検定した結果、対応のある母平均の差の検定において、有意水準5%で有意でないとなり、統計的にも従来のソックスレー抽出法の代わりに本発明による方法を用いることが可能であることが示された。
【0021】
一方、ソックスレー抽出法と本発明による方法において、廃触媒の揮発油分除去にかかった時間の比較を表2に示す。
【0022】
【表2】

表2に示す様に、本発明により、廃触媒中の非揮発性炭素及び硫黄品位を測定するのに要する時間が、従来の約1260分から約40分に大幅に短縮された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る試験装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0024】
1 電気管状炉
2 アルミナ反応管
3 アルミナボート
4 窒素
5 揮発油分
6 揮発油分捕集装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性油分と非揮発性炭素分と非揮発性硫黄分を含有する廃触媒の非揮発性炭素及び非揮発性硫黄の分析方法において、前記廃触媒を窒素ガス雰囲気下で、600℃以上800℃以下の温度で、10分以上保持してから、炭素及び硫黄を分析することを特徴とする廃触媒中の非揮発性炭素および非揮発性硫黄の分析方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−337227(P2006−337227A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163526(P2005−163526)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】