説明

延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルム

【課題】 フィッシュアイが少なく外観に優れた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 50μm以上のフィッシュアイ数が10個/m以下であるポリオレフィン樹脂フィルムを延伸することを特徴とする延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は経済性、機械強度、透明性、成形性、衛生性等に優れていることから広範な産業分野で使用されており、例えば単層又は多層フィルムに加工され、光学用の保護フィルムをはじめとして、金属板、樹脂板、自動車、電子材料等の保護フィルムとして広範に用いられている。
【0003】
保護フィルムの品質に対する要求は年々厳しくなっており、特に外観を損ねるフィッシュアイの低減、保護する相手材を汚染しない低汚染性が求められている。ここでフィッシュアイとは、フィルム中に異物やゲルがあるとその周辺部分が肉眼、偏光板、または顕微鏡で見ると魚の目のようにみえることからきた樹脂フィルムの欠点の一つである。
【0004】
ポリオレフィン樹脂フィルムの場合、フィッシュアイの原因の一つであるゲルには未溶融ゲルと架橋ゲルがあることが知られている。
【0005】
架橋ゲルはポリオレフィン樹脂が3次元的に架橋し、加熱溶融、及び溶剤への溶解が難しいゲルである。一方、未溶融ゲルは加熱により溶融又は溶解可能なゲルであり、押出機により溶融混練し、ダイス等から押出した場合には未溶融ゲルとしての状態を保持している比率が高く、製品外観の低下を招く。
【0006】
特にベッセル型反応器又はチューブラー型反応器を用いて高圧ラジカル重合で得られるポリオレフィン樹脂、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン等では上記の未溶融ゲル、架橋ゲルが多いことが知られている。高温の反応器内では生成したポリマーからラジカル的に水素が引き抜かれ、分岐が生成する。この分岐ポリマーは反応器に接続された高圧分離器、及びペレット化の過程で高温に晒されて、凝集体としての未溶融ゲル、又は架橋反応を起こして架橋ゲルを生成することが、この理由である。
【0007】
そこで、この問題を解決する方法として、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、特定の重合条件でエチレンを重合するに際し、反応系内にラジカル重合禁止剤を共存させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
また、樹脂に含まれる架橋ゲル、及び未溶融ゲルを成形時に除去する方法が提案されている。例えば、押出機に高粘度樹脂溶融体輸送用ギヤーポンプ、及びろ過装置として焼結フィルターを設置し、溶融ポリエチレン系樹脂を押出してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
さらには、溶融した膜状のポリオレフィン樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧して得られるフィルムが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−342307号公報
【特許文献2】特開平8−103952号公報
【特許文献3】特開平8−25460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に提案の方法はフィッシュアイを低減する一定の効果はあるもののそのレベルは不充分であり、ラジカル重合禁止剤を共存させるためポリエチレン樹脂フィルムに成形し保護フィルムとして使用した場合、相手剤を汚染するという欠点がある。
【0012】
また、特許文献2、3に記載の方法は、ポリオレフィン樹脂が高温にさらされるため架橋ゲルが生成するという課題を解決し切れていない。特に特許文献2に記載の方法は、ポリオレフィンを溶解させて焼結フィルターを用いるため高温にさらされる時間が長くなったり、粘度が高いのでろ過に高い圧力が必要になるため架橋ゲルが変形してフィルターを通過してしまうという問題があった。
【0013】
さらに、フィッシュアイが多く存在する原反フィルムを延伸すると、延伸の際に欠陥孔が生じ、薄膜化ができない。
【0014】
そこで、本発明は、フィッシュアイが少なく外観に優れた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フィッシュアイが少ないポリオレフィン樹脂フィルム、例えば、濾過したポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸散させ、基材フィルムから剥離したポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を延伸させることにより、フィッシュアイが少なく外観に優れた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、50μm以上のフィッシュアイ数が10個/m以下であるポリオレフィン樹脂フィルムを延伸する延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法、及びそれより得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムである。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法では、50μm以上のフィッシュアイ数が10個/m以下であるポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するものである。
【0018】
50μm以上のフィッシュアイ数が10個/m以下であるポリオレフィン樹脂フィルムの製造法としては、例えば、濾過したポリオレフィン溶液を基材上に塗布した後、加熱して溶剤を蒸発させ、基材から剥離したポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を延伸するものである。
【0019】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられるポリオレフィン溶液はポリオレフィン樹脂を溶剤に溶解して得られるものである。
【0020】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられるポリオレフィン樹脂としては、何ら制限はなく、例えば、ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体、さらにこれらポリオレフィン樹脂の塩素化物等を挙げることができる。さらに詳しくは、ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン等が挙げられる。エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられ、具体的には、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物、エチレン−ビニルアルコール樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系共重合体としては、例えば、ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー等が挙げられる。また、これらポリオレフィン樹脂は単独で、又は複数選択して用いることができる。
【0021】
中でも得られるポリオレフィン樹脂フィルムが柔軟であることから、ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0022】
これらのポリオレフィン樹脂を合成するための重合方法に特に限定はなく、通常知られている方法を用いることができ、例えば、高圧ラジカル重合法、中低圧重合法、溶液重合法、スラリー重合法等を挙げることができる。
【0023】
また、重合に使用する触媒に特に制限はなく、例えば、過酸化物系触媒、チーグラー−ナッタ触媒、メタロセン触媒等が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂を合成する際には、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、染料、有機顔料、無機顔料、無機補強剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、滑剤、ワックス、結晶核剤、可塑剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル補足剤、防曇剤、防徽剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填材、有機充填材等を挙げることができる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられるポリオレフィン樹脂の分子量は、ポリオレフィン樹脂が溶剤に溶解する限り何ら制限はないが、フィルムの強度を維持し、かつ、ポリマー溶液の流動性を維持して薄いフィルムを得るため、直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量が、10,000〜1,000,000が好ましく、20,000〜700,000がさらに好ましく、25,000〜300,000が特に好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられるポリオレフィン樹脂の密度は、得られるフィルムが柔軟で取り扱い易い点から、ポリエチレンの場合は、900〜965kg/mであることが好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体の場合は、923〜970kg/mであることが好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物の場合は、923〜1200kg/mであることが好ましい。
【0027】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられる溶剤は、ポリオレフィン樹脂を溶解する溶剤であれば特に制限は無く、例えば、ハロゲン系溶剤、沸点が70〜140℃、溶解度指数が13〜20MPa1/2である脂肪族炭化水素系化合物、芳香族炭化水素系化合物、エーテル系化合物及びアセタール系化合物等から選ばれる少なくとも1種類の非ハロゲン系溶剤等を挙げることができる。これらの溶剤は2種以上を混合して使用することもでき、その割合は特に限定するものではない。
【0028】
ハロゲン系溶剤としては、例えば、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の塩素系溶剤、臭化エタン等の臭素系溶剤、モノフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等のフッ素系溶剤、ブロモクロロメタン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロエタン等の臭素とフッ素を含有する溶剤等が挙げられる。
【0029】
沸点が70〜140℃、溶解度指数が13〜20MPa1/2である脂肪族炭化水素系化合物、芳香族炭化水素系化合物、エーテル系化合物、アセタール系化合物の非ハロゲン系溶剤としては、例えば、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、2,2,5−トリメチルヘキサン、1−ヘプテン、1−オクテン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂肪族炭化水素系化合物、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系化合物、シクロペンチルメチルエーテル、エチルアミノエーテル、ジオキサン、ジプロピルエーテル等のエーテル系化合物、ジエチルアセタ−ル等のアセタール系化合物が例示される。
【0030】
これらの溶剤の中で、ポリオレフィン樹脂の溶解性の観点からはポリオレフィン樹脂を例えば、80〜120℃で溶解できる溶剤が好ましく、また、溶剤の蒸散の観点からは沸点の低い溶剤が好ましい。これらの観点から、1,1,2−トリクロロエタン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエン、シクロペンチルメチルエーテルが好ましく、1,1,2−トリクロロエタン、メチルシクロヘキサンがさらに好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂の溶解温度は用いる溶剤とポリオレフィンに樹脂より適宜決定される。使用する溶剤の沸点以下でポリオレフィン樹脂が溶解しない場合には、必要に応じて耐圧容器を用いて溶剤の沸点以上の温度で溶解することも可能であるが、使用する溶剤の常圧での沸点以下で溶解させるのが経済的側面から好ましい。溶解温度に特に制限はないが、60〜200℃が好ましく、60〜150℃がさらに好ましい。
【0032】
溶解時間は使用するポリオレフィン樹脂の形状、及び溶解温度に依存し、例えば20分〜8時間が好ましく、30分〜2時間がさらに好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の溶解は完全に行う必要があり、一定の溶液粘度に到達するまで溶解を行うことが好ましい。
【0033】
また、溶解する装置に特に制限はなく、例えば、ベッセル、チューブ、横型反応器、押出機等を用いることができる。また、溶解は撹拌しながら行うのが好ましい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂を溶剤へ溶解して得られたポリオレフィン溶液は、フィッシュアイの原因となるゲルを低減させるために濾過することが必要である。濾過しないと、ゲルがポリオレフィン樹脂溶液中に残存し、フィルム化後の延伸の際に孔空きの原因となる。濾過はポリオレフィン樹脂が溶解した状態で行うことが好ましい。濾過方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、自然濾過、遠心濾過、加圧濾過、減圧濾過、デカンテーション等が挙げられる。濾材としては、例えば、金属網、積層金網焼結体、金属不織布焼結体、樹脂織布、樹脂不織布、樹脂メンブラン、濾布、紙等が挙げられる。これらの濾材は単独、又は複数組み合わせて使用することができ、また濾過精度を上げるため、濾過は多段階に分けて行うこともできる。濾材の目開きは100μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0035】
ポリオレフィン溶液を濾過する際の温度に特に制限は無く、例えば、使用する溶剤の沸点以下で、ポリオレフィン樹脂が溶解した状態等で行うことができる。
【0036】
ポリオレフィン溶液の濃度には特に制限がなく、選択した溶剤により適宜設定することが可能であり、0.1〜50重量%が好ましく、1〜30重量%がさらに好ましく、5〜25重量%が特に好ましい。
【0037】
基材上に塗布するポリオレフィン溶液の温度は、得られるポリオレフィン樹脂フィルムの外観が優れることから、60〜200℃が好ましく、60〜150℃がさらに好ましい。
【0038】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法で用いられる基材としては、何ら制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエチレン系樹脂鹸化物フィルム等の樹脂フィルム、これら樹脂フィルムの表面にシリコン処理、アクリル樹脂等のハードコートによる表面処理を施した各種樹脂フィルム、これら樹脂フィルムに金属蒸着処理を行った各種樹脂フィルム等が挙げられる。さらには、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属箔、金属フィルム、金属シート等の各種フィルム、必要に応じてこれら金属素材上にポリマーコーティングを施したもの、無機コーティングを施したものを例示することができる。また、必要に応じて回転金属ドラム上に塗布することも可能であり、エンドレスのポリマーベルト、金属ベルト上に塗布することができる。
【0039】
中でも、本発明の製造方法で用いる基材としては、耐熱性、耐久性に優れることからポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0040】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法においてポリオレフィン溶液を基材上に塗布する方法には特に制限は無く、例えば、グラビアコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、ダブルメイヤーバーコーター法、ドクターブレード法等が例示される。中でも溶剤の急速な揮発によるポリオレフィン溶液の粘度上昇を抑制するため、ダイコーター法を用いるのが好ましい。
【0041】
塗布により形成された直後の基材上のポリオレフィン溶液の厚みは3〜500μmが好ましく、塗布速度は0.5〜50m/分が好ましい。
【0042】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法において、加熱して溶剤を蒸散させるには、例えば、基材上に形成されたポリオレフィン溶液層を1段階から多段階に分けて加熱する方法が挙げられる。その温度範囲は50〜200℃が好ましく、多段階で乾燥する場合には50〜100℃で1次乾燥し、100〜200℃の範囲で2次乾燥する等の方法を例示することができる。また、必要に応じて乾燥を3段階以上に分けて行うことも可能である。
【0043】
ポリオレフィン樹脂フィルムの製造法において、加熱により溶剤を蒸散させる方法に特に制限は無く、例えば、蒸気式ヒーター、電気式ヒーター等により加熱された金属、熱風、赤外線、マイクロ波等により加熱する方法が挙げられ、加熱効率が良いことから熱風により加熱する方法が好ましい。
【0044】
本発明の製造方法では、基材から剥離したポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を延伸させる。
【0045】
本発明の製造方法における原反フィルム(延伸前のフィルム)の膜厚は5〜200μmが好ましく、10〜150μmがさらに好ましく、20〜120μmが特に好ましい。
【0046】
本発明の製造方法において、フィルムを延伸する方法は、特に制限は無く、公知の任意の方法を用いてよく、例えば、ロール延伸による縦一軸延伸法、テンター延伸による横延伸法、同時二軸延伸法、さらには、縦延伸後に続いて横延伸を行う逐次二軸延伸法等があげられる。幅の広いフィルムを得る上で、テンター延伸による横延伸法、同時二軸延伸法が好ましい。さらに、得られたフィルムの膜厚精度が高い点で同時二軸延伸法がより好ましい。
【0047】
テンター延伸による横延伸法の場合、フィルムを延伸前に予め加熱した後、縦方向(MD方向)、横方向(TD方向)に1段延伸、または多段延伸をする。
【0048】
延伸温度は、得られる延伸フィルムの膜厚精度の悪化防止と、延伸の際におけるフィルムの裂け防止のため、ポリオレフィン樹脂の「融点−40」℃〜「融点+10」℃の範囲が好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂の「融点−20」℃〜「融点+5℃」、さらに好ましくはポリオレフィン樹脂の「融点−10℃」〜「融点+3℃」である。
【0049】
ここに、融点とは、示差走査型熱量測定機(DSC)で熱分析を行った際に認められる、結晶の融点に伴う吸熱ピークの最大点をいう。
【0050】
延伸過程でフィルムを温める方法として、加熱ヒーター、熱風、または両者を併用するなどにより延伸する方法が挙げられる。熱風による加熱の際はフィルム面に対する煽りの影響を最小限にする為、ノズルはパンチングノズル、プレートノズル等が適用できる。
【0051】
延伸倍率は特に制限はないが、薄膜化の効果を奏し、かつ、延伸過程でのフィルム破断を防止するため、延伸の面積倍率(縦延伸×横延伸)で1.2〜9.0倍が好ましい。
【0052】
延伸フィルムの縦方法(MD方向)と横方向(TD方向)の延伸倍率の比は、特に制限はなく、膜厚のムラを最小限に抑える為、適宜調整してよい。
【0053】
縦方向の延伸速度は特に制限はないが、延伸入り口の速度で、0.5〜10m/分が好ましい。より好ましくは1〜6m/分である。延伸ライン速度が速いとフィルムが裂けてしまい、また、遅いと樹脂が溶解しフィルムに張力が及ばず、延伸が困難となる。
【0054】
幅方向の延伸速度は特に制限はないが、0.1〜2m/分が好ましい。より好ましくは0.2〜1.2m/分である。
【0055】
延伸処理の時間は特に制限はないが、延伸ムラが小さい良好な延伸性が得られることから、10秒から3分の間が好ましい。
【0056】
本発明のポリオレフィン樹脂フィルムは、長さ、幅に特に制限はなく、平面状成形物であり、テープ類、リボン類も含む。
【0057】
本発明の製造方法で得られる延伸後の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚は1〜100μmが好ましく、5〜60μmがさらに好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
【0058】
本発明の製造方法により得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムはフィッシュアイが10個/m以下、好ましくは1個/m以下と少なく、外観に優れている。
【0059】
本発明の製造方法により得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、染料、有機顔料、無機顔料、無機補強剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、滑剤、ワックス、結晶核剤、可塑剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル補足剤、防曇剤、防徽剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填材、有機充填材等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明により、フィッシュアイが少なく外観に優れた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。本発明の製造方法は、例えば高い品質が求められる保護フィルムの製造方法として有用である。本発明の製造方法により得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れているため、例えば高い品質が求められる保護フィルムとして有用である。
【実施例】
【0061】
以下に実施例にもとづき本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明の理解を助けるための例であって本発明はこれらの実施例により何等の制限を受けるものではない。
【0062】
<ポリオレフィン樹脂>
(1)ポリエチレン
LDPE;ペトロセン(登録商標)220K(MFR=1.0g/10分、密度=930kg/m)、東ソー株式会社製
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体
EVA;ウルトラセン(登録商標)546K(酢酸ビニル含有量10wt%、MFR=6g/10分、密度=929kg/m)、東ソー株式会社製
(3)エチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物
EVAOH;メルセンH(登録商標)H−6051K(MFR=5.5g/10分、密度=970kg/m)、東ソー株式会社製
<基材>
PETフィルム;メリネックス(登録商標)タイプS(厚み:100μm)、帝人デュポンフィルム株式会社製
<塗布>
加温可能な幅300mmのダイコーターを設置した塗工機を用いて行った。ユニコントロールズ(株)製の5Lタンクと幅300mmのダイコーターとをテフロン(登録商標)(登録商標)チューブで連結した。タンクは加圧用の窒素導入バルブ、及び加温用ジャケットを装着しており、(株)マイセック製のHST−120CTを用いて温度を調節した。テフロン(登録商標)(登録商標)チューブは(株)マイセック製のホースヒーター、及びHST−120CTを用いて温度を調節した。ダイコーターは日本金型産業(株)製の金型温調機TSW−75Sを用いて温度を調整した。タンク中のポリオレフィン溶液は、タンクを窒素で加圧してダイコーターから基材上へ塗布した。
【0063】
<ヘーズの測定>
JIS K7105に準じ、ヘーズメーターNDH−300A(日本電色株式会社製)を用い、ヘーズ(拡散透過率/全光線透過率×100(%))を測定した。
【0064】
<膜厚の測定>
得られたポリオレフィン樹脂フィルムの幅方向の厚みを10mm間隔で測定し、測定した膜厚を平均して平均膜厚を算出した。装置は、株式会社小野測器製の高分解能型リニアゲージセンサHS−3412を用いた。
【0065】
<フィッシュアイの測定>
得られたフィルムの下から蛍光灯を照射し、目視やルーペを用いフィルム中のフィッシュアイの個数と大きさを測定し、1m当たりの個数として算出した。
【0066】
<密度の測定>
ポリオレフィン樹脂フィルムの密度は、JIS K7112(1999年)に準拠して、密度こうばい管法により測定した。
【0067】
実施例1
LDPEのペレット3.6kg、及び1,1,2−トリクロロエタン28.8kgを30Lのオートクレーブに仕込み、加熱下110℃で2時間攪拌してLDPEを溶解してポリオレフィン溶液を得た。この溶液を500メッシュの金属網で濾過しながら、105℃に加温した5Lのタンクに溶液3Lを移液した。タンクを窒素で加圧して、105℃に保温した加温ジャケット付のテフロン(登録商標)(商標登録)チューブを通して105℃に加温した300mm幅のコーティングダイへ送液し、ダイからポリオレフィン溶液を基材であるPETフィルムの面上に流延し、150℃で乾燥した。PETフィルムの速度は2m/分に設定した。得られたPETフィルムとLDPEフィルムの積層体からLDPEフィルムを剥離してポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を得た。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

次に原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度を115℃に設定し、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。延伸入り口速度を1m/分に設定した。得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、欠陥孔の数を測定した。その結果を表1に示す。
【0069】
得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れたフィルムであった。
【0070】
実施例2
フィルムの膜厚が厚くなるように調整した以外は実施例1と同様の方法でポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を得た。原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度を115℃に設定し、縦方向(MD方向)に2倍、横方向(TD方向)に2倍の同時二軸延伸を行った。得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、膜厚精度を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0072】
得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れたフィルムであった。
【0073】
実施例3
ポリオレフィン樹脂としてEVAを使用した以外は実施例1と同様の方法でポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を得た。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。
【0074】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度80℃の条件下、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、欠陥孔の数を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0075】
得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れたフィルムであった。
【0076】
実施例4
ポリオレフィン樹脂としてEVAOHを使用した以外は実施例1と同様の方法でポリオレフィン樹脂フィルム(原反フィルム)を得た。原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度85℃の条件下、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。
【0078】
得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの膜厚、欠陥孔の数を測定した。その結果を表1に合わせて示す。得られた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れたフィルムであった。
【0079】
比較例1
ポリオレフィン樹脂としてLDPEを用い、Tダイ法によりフィルム化した。装置は、(株)東洋精機製作所製のラボプラストミルにφ20mm単軸押出機、及び250mm幅のTダイを連結したものを使用した。押出機、及びTダイの温度は180℃、スクリュー回転数は50rpmであった。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0080】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度85℃の条件下、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。
【0081】
得られた延伸フィルムには多くの欠陥孔が確認され、その淵には、フィッシュアイが観測された。その結果を表1に示す。
【0082】
比較例2
フィルムの膜厚が厚くなるように調整した以外は比較例1と同様の方法で原反フィルムを得た。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度115℃の条件下、縦方向(MD方向)に2倍、横方向(TD方向)に2倍の同時二軸延伸を行った。
【0084】
得られた延伸フィルムには多くの欠陥孔が確認された。その結果を表1に合わせて示す。
【0085】
比較例3
ポリオレフィン樹脂としてEVAを用い、比較例1と同様の方法で原反フィルムを得た。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0086】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度80℃の条件下、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。
【0087】
得られた延伸フィルムには多くの欠陥孔が確認された。その結果を表1に示す。
【0088】
比較例4
ポリオレフィン樹脂としてEVAOHを用い、比較例1と同様の方法で原反フィルムを得た。得られた原反フィルムの膜厚、ヘーズ、フィッシュアイを測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0089】
次に、原反フィルムを延伸機を用いて、延伸温度85℃の条件下、横方向(TD方向)に3倍の横延伸を行った。
【0090】
得られた延伸フィルムには多くの欠陥孔が確認された。その結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、フィッシュアイが少なく外観に優れた延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法を提供する。本発明の製造方法により得られる延伸ポリオレフィン樹脂フィルムは、フィッシュアイが少なく外観に優れているため、例えば高い品質が求められる保護フィルムとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50μm以上のフィッシュアイ数が10個/m以下であるポリオレフィン樹脂フィルムを延伸することを特徴とする延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂フィルムが濾過したポリオレフィン溶液を基材上に塗布し、加熱して溶剤を蒸発させて得られることを特徴とする請求項1に記載の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸の面積倍率が1.2〜9.0倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
延伸ポリオレフィン樹脂フィルムがポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体の鹸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の延伸ポリオレフィン樹脂フィルムの製造方法により得られることを特徴とする延伸ポリオレフィン樹脂フィルム。