説明

建て替え方法

【課題】地下通路の通行を確保しながらも、新規建物の建設工期の短縮を図れるようにする。
【解決手段】地下通路1を含む既存建物2を、地下通路1の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法であって、既存の地下通路1の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材6を組み立てて、その内空部を地下通路空間Vとして確保し、地下通路1より上方に設けられる新規建物の地上部を支持できるように構真柱Pを地中に打設し、地下通路1の上方に位置する既存建物部分の撤去を行い、構真柱Pに荷重を支持させる状態に地上部の建設を進めると共に、地上部に反力をとって通路枠部材6を吊り支持し、通路枠部材6の下方に残る既存建物部分を撤去して新規建物に建て替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の建て替え方法としては、既存建物の基礎補強工事の一貫として、既存建物の下部に作業用のボックスカルバート(地下通路に相当)を形成し、このボックスカルバートを使用して既存建物の基礎補強を行うといったものがあった(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この従来技術によれば、既存建物に備えた地下通路を使用するものではなく、上方の建設工事を実施するのに伴って、わざわざ地下通路を新設する必要があり、工期が長くなり易く、コスト高になり易い問題点がある。
また、当業者の間で広く知られているものの、該当する「建て替え方法」に関して詳しく言及した特許文献などは見あたらないので、先行技術文献を示すことができないが、地下通路を含む既存建物を、地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える場合、広く実施されるのは、次の方法によることが多い。
図9に示すように、地下街等の既存地下通路1を含む敷地内に、その既存地下通路1を含んだ側方範囲にわたって新規建物3を建設する場合、まず、既存地下通路1の平面範囲を除いた第1期新規建物3Aの建設に着手する。第1期新規建物3Aの中には、いずれ地下通路となる新規地下躯体を建設しておく。既存地下通路1の通行を前記新規地下躯体に切り替えた後、既存地下通路1を取りこわし、その跡地に、前記第1期新規建物3Aに隣接させて一体となるように第2期新規建物3Bを建設する。
【0003】
【特許文献1】特開2008−13926号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9に示した従来の建て替え方法によれば、地下通路1の通行を確保した状態で工事を進めるためには、その既存地下通路1が存在する間は第2期新規建物3Bの建設に掛かることができない。従って、新規地下通路5に通行を切り替えて既存地下通路1を取り壊すことができる時期まで、第2期新規建物3Bの建設に着手できないから、全体工期が長くなる問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、地下通路の通行を確保しながらも、新規建物の建設工期の短縮を図ることができる建て替え方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法であって、既存の前記地下通路の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材を組み立てて、その内空部を地下通路空間として確保し、前記地下通路より上方に設けられる新規建物の地上部を支持できるように構真柱を地中に打設し、前記地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去を行い、前記構真柱に荷重を支持させる状態に前記地上部の建設を進めると共に、前記地上部に反力をとって前記通路枠部材を吊り支持し、前記通路枠部材の下方に残る既存建物部分を撤去して新規建物に建て替えるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、既存の前記地下通路の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材を組み立てて、その内空部を地下通路空間として確保するから、少なくとも建て替え工事期間中、通路枠部材で構成された地下通路空間の使用状態を継続させることができる。
また、地下通路より上方の地上部の荷重を支持させる状態に、構真柱を打設するから、地下通路の通行を確保しながら、構真柱で地上部の荷重支持を図りながらその建設を進めることができる。従って、図9に示すように、地下街等の既存地下通路1を含む敷地内に、その既存地下通路1を含んだ側方範囲にわたって新規建物3を建設するような場合でも、既存地下通路1の平面範囲を除いた第1期新規建物3Aの建設工事と、既存地下通路1の上方の第2期新規建物3Bの建設工事とを、ほとんど同時に着手することができる。
その結果、地下通路の通行を確保しながらも、従来に比べて新規建物の建設工期の短縮を図ることができる。
更には、前記地上部に反力をとって通路枠部材を吊り支持するから、安定した状態に地下通路空間を確保できる。一方、通路枠部材は前記地上部から吊り支持されているから、外の支持構造を残す必要がなく、地下通路の周り(下部も含む)の既存建物部分を取り壊して新規建物に建て替える作業を進めることができる。その結果、建物の建て替えをより効率よく進めることが可能となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去前に、前記通路枠部材の外方に解体ガラ落下防止用の防護枠を形成しておくところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、防護枠を設けてあることで、地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去時に、例えば、解体ガラが落下しても、その解体ガラが地下通路を直撃するのを、前記防護枠によって防止できる。
従って、より地下通路の安全度が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0011】
図2、図1は、本発明の建て替え方法を実行する前と後との建物状況を示すものであり、建て替えそのものは、地下通路1を含む既存建物2を、前記地下通路1の通行を確保した状態で新規建物3に建て替えるものである。
【0012】
建て替え前の既存建物2は、図2に示すような、地下街の地下通路1である。
建て替え後の新規建物3は、図1に示すように、前記地下通路1を建て替えた新規地下通路5を含んだ両側方範囲にわたって形成された地下部と地上部とを備えた建物で構成してある。
新規建物3の内、既存地下通路1の平面範囲上に形成されている部分を、第2期新規建物部3Bといい、既存地下通路1の平面範囲を除いた範囲上に形成されている部分を、第1期新規建物部3Aという。
因みに、前記地下通路1や既存建物2や新規建物3の構造は、例えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造や、他の構造によって構成してある。
【0013】
次に、既存建物2から新規建物3への建て替え方法について説明する。
[1]既存の前記地下通路1の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材6を組み立てて、その内空部を地下通路空間Vとして確保する(図3参照)。
因みに、通路枠部材6の一例としては、H形鋼やチャンネル材等の部材を矩形リング形状に組み立て、それら矩形リングを、地下通路1の長手方向に間隔をあけて並設すると共に、各矩形リングどうしをH形鋼やチャンネル材等の部材で一体に連結して矩形筒形状に構成することが挙げられる。
また、上述のように形成した矩形筒形状の通路枠部材6の内周面には、壁や天井や床を構成する化粧板が設置され、それら化粧板で仕切られた内側空間が、地下通路空間Vとなる。
[2]前記地下通路5より上方に設けられる新規建物3の地上部を支持できるように、構真柱Pを、地下通路5の幅方向でのほぼ中央部を上下に貫通させて下方の地中に打設する(図4、図5参照)。
因みに、構真柱Pの打設は、地上部分から、例えば、アースドリル工法やリバース工法によって施工するもので、地下通路内への地下水や泥土の流出を防止する意味で、構真柱Pの打設に当たっては、図4に示すように、構真柱Pの設置平面位置の外方を取り囲む状態で、既存の地下通路1の天井部から床板部に至る部分に、ガイドウォールWを設置しておく。更なる止水対策として、その内方には、スタンドパイプを建て込んでおいてもよい。
[3]既存の地下通路1の外殻部と、前記通路枠部材6との間にある旧天井や壁等の化粧板を撤去すると共に、その部分に解体ガラ落下防止用の防護枠7を形成する。この防護枠7についても前記通路枠部材6と同様に、H形鋼やチャンネル材等の部材を使用し、門型形状の枠を組み立て、それら門型を、地下通路1の長手方向に間隔をあけて並設すると共に、各門型にわたって鉄板等の防護板を載置して構成することが挙げられる(図5参照)。
[4]前記地下通路1の上方に位置する外殻部1aの撤去を行う。
[5]前記構真柱Pに荷重を支持させる状態に新規建物3の地上部の建設を進める。
[6]新規建物3の一階部分ができた時点で、その一階部分に反力を確保して前記通路枠部材6を吊り支持する(図6参照)。
[7]前記通路枠部材6の外周側に残る地下通路1の外殻部を撤去し、下方から新規建物3に建て替える。
[8]前記通路枠部材6の外周側に、新規建物3の新規地下通路5を形成した後、その内側に残る前記通路枠部材6を除去して、新規地下通路5に切り替える(図1参照)。
【0014】
本実施形態による建て替え方法によれば、地下通路の通行を確保しながら地下通路の建て替えを並行させて行えると共に、地下通路の上方の建設工事も、他の部分の新規建物の建設工事とほとんど同時に着手することができ、従来に比べて新規建物の建設工期の短縮を図ることができる。
更には、前記地上部に反力をとって通路枠部材6を吊り支持するから、安定した状態に地下通路空間Vを確保できる。一方、通路枠部材6は前記地上部から吊り支持されているから、外の支持構造を残す必要がなく、地下通路1の周り(下部も含む)の既存建物部分を取り壊して新規建物に建て替える作業を進めることができ、建物の建て替えをより効率よく進めることが可能となる。
尚、下部躯体は、地下通路1と接近又は接触しているため、解体時の振動の伝播が懸念されるが、対策として、下部躯体を一階床から吊っておき、下部躯体下を掘削した後、吊り下ろし、地下通路1と縁切りした状態で下部躯体の解体を行う方法がある。
また、地下通路1の上方に位置する既存建物部分の撤去時に、例えば、解体ガラ等が地下通路1上に落下しても、前記防護枠7によって直撃を防止でき、より安全に建て替え工事を進めることが可能となる。
【0015】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0016】
〈1〉 当該建て替え方法の対象となる建物は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、例えば、建て替え前は、図7(a)に示すように、地下部や地上部を備えた既存建物2の一部に地下通路1を備えたものであったり、図7(b)に示すように、建て替え前は、地下通路1のみで既存建物が構成されているものであってもよい。
また、建て替え後は、図8(a)に示すように、地下通路を含んだ上方にのみ新規建物が形成されるものであったり、図8(b)に示すように、地下通路を含んだ一方側の側方と、上方とに新規建物が形成されるものであってもよい。
当然の事ながら、新規地下通路の下方にも新規建物が建設されるものであってもよい。
〈2〉 前記通路枠部材は、先の実施形態で説明したH形鋼やチャンネル材等の部材を矩形リング形状に組み立て、それら矩形リングを、地下通路1の長手方向に間隔をあけて並設すると共に、各矩形リングどうしをH形鋼やチャンネル材等の部材で一体に連結して矩形筒形状に構成したものに限らず、他の材料で構成するものであってもよい。
要するに、既存の地下通路1の内側に形成でき、その内空部を地下通路空間Vとして確保できるものであればよく、それらを総称して通路枠部材という。
〈3〉 構真柱を設置する対象の区画は、先の実施形態で説明した地下通路の中央部のものに限るものではなく、端部側であってもよい。
【0017】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】新規建物を示す概念図
【図2】既存建物を示す概念図
【図3】建て替え手順を示す概念図
【図4】建て替え手順を示す概念図
【図5】建て替え手順を示す概念図
【図6】建て替え手順を示す概念図
【図7】別実施形態の建物を示す正面図
【図8】別実施形態の建物を示す正面図
【図9】従来の建て替え方法を示す正面図
【符号の説明】
【0019】
1 地下通路
2 既存建物
3 新規建物
6 通路枠部材
7 防護枠
P 構真柱
V 地下通路空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下通路を含む既存建物を、前記地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法であって、
既存の前記地下通路の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材を組み立てて、その内空部を地下通路空間として確保し、
前記地下通路より上方に設けられる新規建物の地上部を支持できるように構真柱を地中に打設し、
前記地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去を行い、
前記構真柱に荷重を支持させる状態に前記地上部の建設を進めると共に、
前記地上部に反力をとって前記通路枠部材を吊り支持し、前記通路枠部材の下方に残る既存建物部分を撤去して新規建物に建て替える建て替え方法。
【請求項2】
前記地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去前に、前記通路枠部材の外方に解体ガラ落下防止用の防護枠を形成しておく請求項1に記載の建て替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−90674(P2010−90674A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264381(P2008−264381)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】