説明

建具の防露性能試験方法

【課題】 温湿度環境を実際の地域性に即した条件下で変化させ、より現実的な温湿度条件を再現して、建具の結露防止性能を効果的かつ正確に把握することのできる試験方法を提供する。
【解決手段】 本発明の建具の防露性能試験方法は、隣接する屋内側試験室と屋外側試験室との間に建具試験体を気密状態で建て込み、各試験室内を、地域環境を再現しうる所定の試験開始時温度に設定して、屋内側試験室内に一定の水分量を維持した状態で、屋外側試験室と屋内側試験室の温度をそれぞれ所定の変化率で降下させる。屋外側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、想定地域における最寒月の日最低外気温の平均値に基づき、屋内側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、該想定地域の最寒月における夜間の室温変動に基づいて設定される。これにより、所定時間ごとの建具試験体の結露の発生状況を観察する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の開口部に建て込まれる建具の防露性能試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建具表面の結露の発生を防ぐ程度を試験する方法として、「JIS A 1514」に規定された「建具の結露防止性能試験方法」が知られている。この試験は、建具の試験体を、低温室と恒温恒湿室との間の開口部に設けられた取付パネルに固定して行われる。このうち低温室は、温度範囲−10℃〜20℃で制御可能とされ、恒温恒湿室は、温度範囲10〜30℃、相対湿度範囲30〜70%で制御可能とされている。そして、両室内の空気温度を20℃、恒温恒湿室の相対湿度を40%に設定し、試験体各部の温度が恒温恒湿および低温室内の空気温度と平衡したのを見極めて、所定の温湿度条件下での防露性能が判断される。
【0003】
特に、温湿度条件は、恒温恒湿室内の空気温度が20℃、相対湿度が40%または50%の一定状態に設定される一方、低温室内の空気温度が5℃〜−10℃までの5℃間隔の4段階で設定されている。そして温度測定は、恒温恒湿室および低温室内の空気温度が目標とする値で定常状態になり、恒温恒湿室内の試験体表面温度が、恒温恒湿室内の空気温度と十分平衡したことを見極めてから行われることになっている。
【非特許文献1】日本規格協会「JISハンドブック建築/設備・試験編」(JIS A 1514/建具の結露防止性能試験方法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、開口部の結露は地域環境により発生条件が異なるものであるが、中には、その地域に適さない建具が取り付けられていたために結露が発生して、窓台やカーテンを濡らしたり、カビを発生させる原因になったりすることがあった。
【0005】
これは、建具の防露性能が適正に評価されていなかったことも一因として考えられる。実際、上記のJIS規格の試験方法では、恒温恒湿室が暖房の使用を想定した一定の湿度条件で比較的低い値に設定されているのに加えて、加湿することで相対湿度を40%から50%に上昇させて結露観察がなされている。
【0006】
ところが、実際の生活環境下では、居室の種類や使われ方によって暖房方式が異なり、暖房の間欠運転時や暖房を使用しない居室では、夜間から明け方にかけて室温が20℃に満たない場合も多い。すなわち、実生活では一晩中、連続暖房を行うようなことはあまりなく、恒温恒湿室の温度条件が20℃という設定は実生活とかけ離れている。また、夜間に連続暖房を行わない場合には、室温が低下し、これに伴って建具の表面温度が下がるので、同じ露点温度でも結露が発生しやすくなる現状がある。
【0007】
したがって、上記試験方法では、実際の生活環境と試験時の温湿度環境との間に大きな開きを生じ、実際の建具における結露の発生程度も試験結果とは異なったものになるおそれがあった。また、地域環境により、多様な生活環境が考えられる今日では、より現実に即した環境下において建具の防露性能を確認し、把握することが必要となっていた。
【0008】
そこで本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、従来の建具の防露性能の試験条件を見直し、温湿度環境を実際の地域環境に即した条件下で変化させ、より現実的な温湿度条件により地域環境を近似的に再現して、建具の結露防止性能を効果的かつ正確に把握することのできる試験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明に係る建具の防露性能試験方法は、隣接する屋内側試験室と屋外側試験室との間に建具試験体を気密状態で建て込み、各試験室内を、地域環境を再現しうる所定の試験開始時温度に設定して、屋内側試験室内に一定の水分量を維持した状態で、屋外側試験室と屋内側試験室の温度をそれぞれ所定の変化率で降下させることにより、屋内側試験室の相対湿度を上昇させて、所定時間ごとの建具試験体における結露の発生状況を観察することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、屋外側試験室および屋外側試験室の温湿度条件を地域環境に即して設定し、結露の発生状況を観察することができるので、実際に建具が使用されたときの結露発生状況を効果的に予測することができ、正確な建具の防露性能評価を行うことができる。
【0011】
また、本発明の建具の防露性能試験方法においては、屋外側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、想定地域の最寒月における日最低外気温の平均値に基づいて設定され、屋内側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、該想定地域の最寒月における夜間の室温変動に基づいて設定されることを特徴とする。
【0012】
上記想定地域の最寒月は、当該地域における日最低外気温の最も低かった月を指すものとする。そして、この最寒月の日最低外気温の平均値や夜間の室温変動に基づいた温度条件が設定されるので、屋外側試験室および屋内側試験室において地域環境を近似的に再現することができ、想定地域ごとの建具の防露性能を評価・判断することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述のように構成される本発明の建具の防露性能試験方法によれば、屋外側および屋内側試験室の各室において、地域環境を近似的に再現するので、地域ごとの気象条件や暖房スタイル、室内の温湿度条件など、現実に即した環境条件の下で試験することができる。
【0014】
特に、屋外側試験室と屋内側試験室の温度をそれぞれ所定の変化率で降下させることによって、実際の結露発生条件に近い状態で試験することができ、屋内側試験室内に一定の水分量を維持することで、高気密高断熱型住宅にも対応した住環境を再現することができ、正確な建具の防露性能評価を行うことが可能になる。このように、本発明では、建具の防露性能を実環境レベルで把握することができるので、併せて地域や生活スタイルに合わせた適正な温湿度環境を提案することで、建具における効果的な結露防止策を講じることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る建具の防露性能試験方法の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の防露性能試験方法は、建物の室内環境を近似的に再現する屋内側試験室と、建物の外部環境を近似的に再現する屋外側試験室を隣接して設け、これらの二室間の開口部にサッシやドア等の建具試験体を気密状態に建て込んで行う。なお、建具試験体の結露観察を行うため、屋内側試験室の開口部にカーテン等は取り付けない。
【0017】
各試験室内は、地域環境を再現しうる所定の試験開始時温度に設定して、建具試験体の各部の温度が、両試験室内の空気温度と平衡したのを見極めるとともに、屋内側試験室内の絶対湿度を所定値に設定して、所定の室内水分量を確保する。
【0018】
屋外側試験室と屋内側試験室の温度条件は、試験開始時温度から、それぞれ所定の変化率で降下するように設定される。一般に、冬季の室内温度の実態には地域差があり、寒冷地域では比較的高く、温暖地域では比較的低い傾向にある。したがって、両試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、ともに、想定地域ごとに決定され、地域環境を近似的に再現するものとする。
【0019】
屋外側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、想定地域において日最低外気温を記録した月を最寒月とし、この最寒月における日最低外気温の平均値を基準に設定される。また、屋内側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、この想定地域の最寒月における夜間の室温変動に基づいて設定される。
【0020】
そして、設定された試験開始時温度から、両試験室の温度を次第に降下させていくことで、屋内側試験室の相対湿度を上昇させ、経過時間ごとの建具試験体における結露の発生状況を評価するものとする。また、結露性状の評価については、目視により、結露の程度とその変化を観察し、建具の開閉操作性に対する影響等についても確認する。また、これらの結露性状の観察後、建具試験体を解体して、内部の結露水の状態や、試験体構成材の含水率についての評価を加えてもよい。
【0021】
次に、本発明に係る建具の防露性能試験方法について、実施例を挙げてさらに詳しく説明する。なお本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
図1は、当該実施例における試験環境条件を示すグラフである。この実施例では、想定地域を寒冷地の北東北とし、かかる寒冷地での建具の結露性状とその変化の確認により防露性能の評価を行うことを主目的としている。試験時間は、午前1時から午前6時の5時間を想定する。
【0023】
1.温度条件
当該寒冷地における最寒月の日最低外気温の平均値は−8.2℃であり、この平均値−8.2℃を基準に、安全側の数値設定として、屋外側試験室の試験終了時温度を−10℃に設定する。また、最寒月の夜間外気温変動、および平均最低気温以下の気温の出現頻度を考慮して、屋外側試験室の試験開始時温度を−5℃に設定し、一時間に1.0℃の温度降下があるものとする。
【0024】
屋内側試験室は、暖房使用室の隣室などで暖房が直接なされていない居室であって、夜間に室温が徐々に低下していくような使用形態の居室を想定している。そして、当該寒冷地の最寒月における夜間の室温変動を考慮し、試験開始時温度および試験終了時温度を設定する。この場合、試験開始時温度を15℃に設定し、室温を一時間に1.0℃降下させて、試験終了時温度が10℃となるように設定される。
【0025】
図1に示すように、かかる防露試験は、屋外側試験室の温度が−5℃、屋内側試験室の温度が15℃の平衡状態となったのをそれぞれ確認して開始される。また、屋外側試験室および屋内側試験室がそれぞれ試験終了時温度に達した後は、両試験室の室温を試験終了時温度にそのまま維持し、経過観察を行う。
【0026】
2.湿度条件
当該寒冷地の最寒月における平均相対湿度を考慮し、屋内側試験室における試験開始時の絶対湿度を8.0g/kg′に設定し、室内の水分量を確保する。その後、かかる水分量を維持しつつ、屋内側試験室の温度が低下することにより、屋内側試験室の相対湿度を試験開始時の75%から上昇させる。ただし、屋内側試験室の相対湿度は、試験中、最大85%までの間で変動するように設定する。このように相対湿度の上限を85%とすることは、試験用器材保護、及び試験室の湿度制御等の観点から望ましい。
【0027】
その他、気流条件は、屋内側試験室では室温コントロールのため風速1.0m/s未満に設定され、屋外側試験室ではやや強めの外部風を想定して風速2.0m/s程度に設定されている。
【0028】
3.評価方法
建具試験体における結露の発生状況を目視により評価する。目視観察は、試験開始時から1〜2時間経過ごとに実施する。建具試験体の表面に、目視によって結露が確認されるとき、結露位置を記録するとともに、その結露性状を以下の6段階の評価基準で判断し、記録する。
【0029】
(1) 曇る程度の状態
(2) 小さな水滴が付着(1mm未満)
(3) 大きな水滴が付着(1mm以上)
(4) 水滴が流れ出す状態
(5) 水滴が霜状に氷結
(6) 水滴が氷結して氷塊ができる状態
【0030】
また、屋内側試験室における温度および相対湿度の計測は1時間ごとに行い、温湿度条件が保たれていることを確認する。かかる評価に加えて、建具試験体の枠外への結露水の流れ出しの有無や、氷結した場合の建具の開閉操作性への影響の有無などを確認する。さらに必要に応じて、目視観察と同時に、建具試験体の各部の表面温度、湿度、風速等の記録や、赤外線写真撮影を行う。これらの観察結果の目安としては、上記(3)の段階までを結露の許容範囲とし、防露性能として評価する。
【0031】
以上説明した本発明に係る防露性能試験方法では、寒冷地や、例示した寒冷地以外の地域に即した温湿度条件を個々に設定して、結露の発生状況を観察することができるので、実際の建具における結露の発生程度を正確に予測することができ、利用度の高い、効果的な防露性能評価を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の建具の防露性能試験方法は、地域環境に即した温湿度条件下で試験するものであるため、どのような地域に使用される建具でも結露の発生程度を予測して、防止策を講じることができるので、建具の耐久性や信頼性を高める上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例における防露試験環境条件を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する屋内側試験室と屋外側試験室との間に建具試験体を気密状態で建て込み、各試験室内を、地域環境を再現しうる所定の試験開始時温度に設定して、屋内側試験室内に一定の水分量を維持した状態で、屋外側試験室と屋内側試験室の温度をそれぞれ所定の変化率で降下させることにより、屋内側試験室の相対湿度を上昇させて、所定時間ごとの建具試験体における結露の発生状況を観察することを特徴とする建具の防露性能試験方法。
【請求項2】
屋外側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、想定地域の最寒月における日最低外気温の平均値に基づいて設定され、屋内側試験室の試験開始時温度および試験終了時温度は、該想定地域の最寒月における夜間の室温変動に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の建具の防露性能試験方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−38548(P2006−38548A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216959(P2004−216959)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】