説明

建材一体型太陽電池及びそのバックシート

【課題】従来の建材一体型太陽電池では、暗色系塗料により全面が塗装された鋼板をバックシートとして使用しているので、バックシートの日照反射率及び赤外線放射率が低く、発電効率が低下している。
【解決手段】本発明による建材一体型太陽電池及びそのバックシートは、太陽電池モジュール2側の第1端面3aが光反射性を有する反射性塗膜31により構成され、第1端面3aの裏側に位置する第2端面3bが熱放射性を有する放射性塗膜32により構成された両面塗装鋼板をバックシート3として用いる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材一体型太陽電池及びそのバックシートに関し、特に、太陽電池モジュール側の第1端面が光反射性を有する反射性塗膜により構成され、第1端面の裏側に位置する第2端面が熱放射性を有する放射性塗膜により構成された両面塗装鋼板をバックシートとして用いることで、部品コストの増大を回避しつつ、発電効率を向上できるようにするための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の建材一体型太陽電池及びそのバックシートとしては、例えば下記の非特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来の建材一体型太陽電池では、太陽電池モジュールの反受光面に屋根用鋼板により構成されたバックシートが固定されている。一般的に、このような建材一体型太陽電池1に用いられる屋根用鋼板としては、屋根の他の部分と色調を合わせるため、以下の表に示すような暗色系塗料(L*=35以下)により全面が塗装された鋼板が好んで使用されている。
【0003】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「太陽光発電フィールドテスト事業に関するガイドライン・基礎編 未来をになう太陽光発電」(発行日:2008年3月19日、発行:独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、第6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の建材一体型太陽電池1では、暗色系塗料により全面が塗装された鋼板がバックシートとして使用されているので、バックシートの日照反射率(JIS K 5602)が10%以下と低い。このため、バックシートでの反射光を発電に利用できず、発電効率が低下している。
また、上記のような塗装が施された鋼板では赤外線放射率も0.6〜0.8程度と低いので、例えば夏季等の日射しが強い場合に、太陽光の輻射熱によるバックシートの温度上昇が放熱による温度低下を大きく上回る可能性が高い。このため、バックシートの温度上昇に伴い、太陽電池モジュールの温度も上昇し、発電効率が低下してしまう。太陽電池モジュール及びバックシートの冷却を考慮して、バックシートに放熱フィンを取付けることも考えられるが、部品コストの増大につながる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、部品コストの増大を回避しつつ、発電効率を向上できる建材一体型太陽電池及びそのバックシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る建材一体型太陽電池のバックシートは、太陽電池モジュールの反受光面に固定される建材一体型太陽電池のバックシートであって、太陽電池モジュール側の第1端面が光反射性を有する反射性塗膜により構成され、第1端面の裏側に位置する第2端面が熱放射性を有する放射性塗膜により構成された両面塗装鋼板からなる。
【0008】
また、本発明に係る建材一体型太陽電池は、太陽電池モジュールと、太陽電池モジュールの反受光面に固定されるバックシートとを備え、バックシートは、太陽電池モジュール側の第1端面が光反射性を有する反射性塗膜により構成され、第1端面の裏側に位置する第2端面が熱放射性を有する放射性塗膜により構成された両面塗装鋼板からなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の建材一体型太陽電池及びそのバックシートによれば、太陽電池モジュール側の第1端面が光反射性を有する反射性塗膜により構成され、第1端面の裏側に位置する第2端面が熱放射性を有する放射性塗膜により構成された両面塗装鋼板をバックシートとして用いるので、バックシートでの反射光を発電に利用できるとともに、追加部品を使用せずにバックシート及び太陽電池モジュールの温度上昇を防止できる。これにより、部品コストの増大を回避しつつ、発電効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1による建材一体型太陽電池の外観を示す図である。
【図2】図1の建材一体型太陽電池の変形例の外観を示す図である。
【図3】図1及び図2の太陽電池モジュール及びバックシートを拡大して示す側面図である。
【図4】図3のバックシート表面の日射反射率と太陽電池モジュールの表面温度との関係を示すグラフである。
【図5】図3のバックシート裏面の赤外線放射率と太陽電池モジュールの表面温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による建材一体型太陽電池1の外観を示す図であり、図1の(a)は建材一体型太陽電池1の上面を示し、図1の(b)は建材一体型太陽電池1の側面を示している。図1に示すように、建材一体型太陽電池1は、太陽電池モジュール2と、バックシート3とを有している。太陽電池モジュール2は、受光面2aからの光を受けて発電を行う。なお、図面では太陽電池モジュール2に網掛けを施しているが、実際の色調を示している訳ではなく、理解を容易にするためのものである。
【0012】
バックシート3は、太陽電池モジュール2の反受光面2bに固定された硬質の部材であり、全体として家屋の屋根を構成する建材となるものである。バックシート3の上下両端部には幅方向1aに沿って延在された係合部4が形成されており、この係合部4が他のバックシート3の係合部4と係合されることで、横葺屋根を形成するように複数の建材一体型太陽電池1が連結される。
【0013】
次に、図2は、図1の建材一体型太陽電池1の変形例の外観を示す図であり、図2の(a)は平面を示しており、図2の(b)は側面を示している。図1の建材一体型太陽電池1は横葺屋根を形成するものであるが、図2に示すように、バックシート3の係合部4を奥行方向1bに沿って延在させ、係合部4を他のバックシート3の係合部4とかしめにより係合することで縦葺屋根を形成することもできる。
【0014】
次に、図3は、図1及び図2の太陽電池モジュール2及びバックシート3を拡大して示す側面図である。太陽電池モジュール2は、光が入射する側(前面)からカバー部材20、第1封止材21、太陽電池セル22、及び第2封止材23が順に積層されたものである。カバー部材20は、太陽電池モジュール2の受光面2aを構成する外装材であり、例えば光透過性及び耐候性に優れる樹脂製フィルム又はガラス板等により構成されている。第1及び第2封止材21,23は、結晶性シリコン等からなる太陽電池セル22を埋め込んで安定化させるためのものであり、熱流動性及び熱接着性に優れた熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂塑性物により構成されている。これらカバー部材20、第1封止材21、太陽電池セル22、及び第2封止材23は、例えば真空ラミネート法等により一体化されている。カバー部材20の厚みは1.1mm程度であり、第1及び第2封止材21,23の厚みは0.9mm程度である。
【0015】
バックシート3は、太陽電池モジュール2の反受光面2b、すなわち第2封止材23の後面に固定されている。バックシート3は、ステンレス鋼板30を基材とするものであり、表面及び裏面が異なる機能を有する塗膜により構成されている。すなわち、バックシート3は、太陽電池モジュール2側の第1端面3a(表面)が光反射性を有する反射性塗膜31により構成され、この第1端面3aの裏側に位置する第2端面3b(裏面)が熱放射性を有する放射性塗膜32により構成された両面塗装鋼板である。バックシート3の厚みは、0.27mm程度である。
【0016】
次に、バックシート3が両面塗装鋼板により構成されていることの作用について説明する。太陽電池モジュール2に入射する光は、カバー部材20及び第1封止材21を通過して太陽電池セル22に到達する一方で、太陽電池セル22間の隙間及び第2封止材23を通過してバックシート3の第1端面3aに到達する。このとき、第1端面3aが反射性塗膜31により構成されているので、第1端面3aに到達した光を第1端面3aで反射させることができ、この反射光を太陽電池セル22での発電に利用できる。一方で、バックシート3は入射光の輻射熱を吸収するが、熱放射性を有する放射性塗膜32により第2端面3bが構成されているので、輻射熱は太陽電池モジュール2とは逆側の第2端面3bから放熱される。これにより、放熱フィン等の追加部品を使用せずに、バックシート3が吸収した輻射熱による太陽電池モジュール2の温度上昇を小さくでき、太陽電池モジュール2の温度上昇に伴う発電効率の低下を回避できる。
【0017】
次に、反射性塗膜31についてより詳細に説明する。本出願人は、250mm×300mmの大きさの太陽電池モジュールに対して6個の100Wのハロゲンランプを光源として用いて、バックシート表面の日射反射率(JIS K 5602)と太陽電池モジュール表面の温度の関係を調べた。
【0018】
図4は、図3のバックシート表面の日射反射率と太陽電池モジュールの表面温度との関係を示すグラフである。図に示すように、バックシート表面の日射反射率を高くするにつれて、太陽電池モジュールの表面温度が低くなることが分った。具体的に説明すると、日射反射率が5%のときは表面温度が39℃であったが、日射反射率を25%以上にすると表面温度を約34℃以下に抑えることができた。
【0019】
ここで、結晶系シリコン太陽電池の発電効率は、温度による影響が大きく、温度が1℃上昇すると発電効率が0.4〜0.5%低下するといわれている。すなわち、日射反射率を25%以上とすると、日射反射率が5%である場合に比べて表面温度を約5℃以上低くすることができるので、発電効率を2〜2.5%以上改善できることになる。この改善率は、結晶系シリコン太陽電池の発電効率の1割強以上に相当するため、十分なものである。従って、反射性塗膜31としては、25%以上の日照反射率を有する塗膜を用いることが好ましい。
【0020】
また、日射反射率を80%以上にすると、表面温度を約30℃以下に抑えることができた。すなわち、日射反射率を80%以上とすると、日射反射率が5%である場合に比べて表面温度を約10℃以上低くすることができるので、発電効率を4〜5%以上改善できることになる。この改善率は、結晶系シリコン太陽電池の発電効率の2割強以上に相当するため、かなり有用なものである。従って、反射性塗膜31として、80%以上の日照反射率を有する塗膜を用いることがさらに好ましい。
【0021】
80%以上の日照反射率を有する塗膜としては、種々の塗膜が利用できるが、本出願人が特開2007−47601号公報、及び特開2001−243819号公報、及び特開2007−108242号公報にて開示する塗膜を用いることができる。すなわち、(1)(メタ)アクリル系重合体:2〜50質量部,(メタ)アクリル酸イソボルニル:30〜97質量%を含む(メタ)アクリル系単量体:98〜50質量部の(メタ)アクリル系混合物に熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,架橋剤:0.1〜20質量部,分子量500以上の可塑剤:1〜20質量部,酸化チタン顔料:40〜120質量部が配合され、粘度:1〜100Pa・sに調整された熱重合型アクリル塗料から成膜され、JIS Z8722による色調測定での全反射率が94%以上、正反射光を除去した拡散反射率が91%以上である塗膜、及び(2)防錆顔料を含有するとともに、白色顔料のTiO粉末が添加された下塗り塗膜と、TiO粉末を含有するポリエステル系樹脂を主成分とし、塗膜比重Nが1.75<N<2.3、JIS Z 8722による色調測定でのL値を90超、60度鏡面光沢法による光沢を80超にした上塗り塗膜とからなる塗膜を用いることができる。このような塗膜を用いれば、より多くの反射光を太陽電池セル22での発電に利用でき、発電効率をより確実に向上させることができる。
【0022】
25%以上かつ80%未満の日照反射率を有する塗膜としては、本出願人が特開2002−331611号公報にて開示する塗膜、すなわち、V、Sr、Yのうちの一種類以上とMnを含む複合金属酸化物の粉末を遮熱性顔料として含有する塗膜を挙げることができる。このような塗膜を用いれば、バックシート3の第1端面3aを例えば黒色、濃茶色、及び濃青色等の濃色とすることができ、屋根の他の部分と色調を容易に合わせることができる。
【0023】
次に、放射性塗膜32についてより詳細に説明する。本出願人は、250mm×300mmの大きさの太陽電池モジュールに対して6個の100Wのハロゲンランプを光源として用いて、バックシート裏面の赤外線放射率と太陽電池モジュールの表面温度との関係を調べた。
【0024】
図5は、図3のバックシート裏面の赤外線放射率と太陽電池モジュールの表面温度との関係を示すグラフである。図に示すように、バックシート裏面の赤外線放射率を高くするにつれて、太陽電池モジュールの表面温度が低くなることが分った。具体的に説明すると、赤外線放射率が0.05%のときは表面温度が48℃であったが、赤外線放射率を0.85%以上にすると表面温度を約43℃以下に抑えることができた。
【0025】
上述したように、結晶系シリコン太陽電池の発電効率は、温度が1℃上昇するにつれて0.4〜0.5%低下するといわれている。すなわち、赤外線放射率を0.85%以上にすると、赤外線放射率が0.05%のときに比べて表面温度を約5℃以上低くすることができるので、発電効率を2〜2.5%以上改善できる。この改善率は、結晶系シリコン太陽電池の発電効率の1割強以上に相当するため、十分なものである。従って、放射性塗膜32としては、0.85以上の赤外線放射率を有する塗膜を用いることが好ましい。
【0026】
0.85以上の赤外線放射率を有する放射性塗膜32としては、種々の塗膜が利用できるが、本出願人が特開2004−276483号公報にて開示する塗膜、すなわち、表面張力、硬化速度等が異なる2種以上の樹脂を混合した縮み塗料からなり、適切な条件下の塗布・焼付けによって所定の表面粗さをもつ樹脂塗膜に成膜された塗膜を用いることができる。塗料樹脂系に特段の制約が加わるものではないが、ポリエステル樹脂,アクリル樹脂等が使用される。焼付け条件は、180〜250℃,30〜120秒の範囲で選定される。縮み塗料の塗布量は、赤外線放射率を0.85以上にするため膜厚12μm以上の樹脂塗膜が形成されるように決定される。薄すぎる樹脂塗膜では、基材・金属板表面での反射による影響を受けて赤外線放射率が低くなりやすい。
【0027】
このような建材一体型太陽電池1及びそのバックシート3では、太陽電池モジュール2側の第1端面3aが光反射性を有する反射性塗膜31により構成され、第1端面3aの裏側に位置する第2端面3bが熱放射性を有する放射性塗膜32により構成された両面塗装鋼板をバックシート3として用いるので、バックシート3での反射光を発電に利用できるとともに、追加部品を使用せずにバックシート3及び太陽電池モジュール2の温度上昇を防止できる。これにより、部品コストの増大を回避しつつ、発電効率を向上できる。
【0028】
また、反射性塗膜31が25%以上の日照反射率を有するので、バックシート3の第1端面3aでの反射光を多くでき、より確実に発電効率を向上できる。
【0029】
さらに、放射性塗膜32が0.85以上の赤外線放射率を有するので、バックシート3の第2端面3bからの放熱を多くでき、バックシート3及び太陽電池モジュール2の温度上昇を回避できる。これにより、太陽電池モジュール2の温度上昇に伴う発電効率の低下をより確実に回避でき、発電効率を向上できる。
【符号の説明】
【0030】
1 建材一体型太陽電池
2 太陽電池モジュール
2b 反受光面
3 バックシート
3a 第1端面
3b 第2端面
31 反射性塗膜
32 放射性塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュール(2)の反受光面(2b)に固定される建材一体型太陽電池のバックシートであって、前記太陽電池モジュール(2)側の第1端面(3a)が光反射性を有する反射性塗膜(31)により構成され、前記第1端面(3a)の裏側に位置する第2端面(3b)が熱放射性を有する放射性塗膜(32)により構成された両面塗装鋼板からなることを特徴とする建材一体型太陽電池のバックシート。
【請求項2】
前記反射性塗膜(31)は、25%以上の日照反射率を有することを特徴とする請求項1記載の建材一体型太陽電池のバックシート。
【請求項3】
前記放射性塗膜(32)は、0.85以上の赤外線放射率を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建材一体型太陽電池のバックシート。
【請求項4】
太陽電池モジュール(2)と、
前記太陽電池モジュール(2)の反受光面(2b)に固定されるバックシート(3)と
を備え、
前記バックシート(3)は、前記太陽電池モジュール(2)側の第1端面(3a)が光反射性を有する反射性塗膜(31)により構成され、前記第1端面(3a)の裏側に位置する第2端面(3b)が熱放射性を有する放射性塗膜(32)により構成された両面塗装鋼板からなることを特徴とする建材一体型太陽電池。
【請求項5】
前記反射性塗膜(31)は、25%以上の日照反射率を有することを特徴とする請求項4記載の建材一体型太陽電池。
【請求項6】
前記放射性塗膜(32)は、0.85以上の赤外線放射率を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の建材一体型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−164901(P2012−164901A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25589(P2011−25589)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】