説明

建物の布基礎構造

【課題】構造材の施工に支障をきたすことなく、コンクリートの中性化を抑制して、耐久性の向上を図ることができる建物の布基礎構造を提供する。
【解決手段】立上り部5の天端面5aを覆うようにして、レべリング材を施工してなる仕上層7を設けた鉄筋コンクリート造の布基礎1において、立上り部5の外側面5b及び内側面5cに、シリコン樹脂系塗料又はポリマーセメント系塗料等の中性化抑制材を塗布してなる側面保護層10、10を形成するとともに、立上り部5の天端面5aと仕上層7との間に、エポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材等の中性化抑制材を塗布してなる天端面保護層11を形成して、側面保護層10、10と天端面保護層11とによって立上り部5を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリートの中性化を抑制して、耐久性の向上を図るようにした建物の布基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、住宅等の建物における布基礎としては、コンクリート内部に鉄筋を埋設した鉄筋コンクリート造のものが多く、コンクリートに含まれる水酸化カルシウムによって強アルカリ性となっていて、鉄筋における錆の発生が抑えられている。
【0003】
ところが、このような鉄筋コンクリート造の布基礎においては、大気中に含まれる二酸化炭素、窒素酸化物、イオウ酸化物等の酸性物質、雨水や結露水等に含まれる水分といった劣化因子と反応することで、コンクリートが経時的に中性化するといった問題があった。このコンクリートの中性化は、地中に埋設されたフーチング部よりも大気中に暴露された立上り部において発生し易く、また屋外側よりも劣化因子が滞留し易い床下空間に面した屋内側において進行し易いといった傾向にある。コンクリートが中性化すると、コンクリート内部の鉄筋に錆が発生するとともに、これによって鉄筋が膨張してコンクリートの破壊を誘発することになり、布基礎の耐久性を損なうといった不具合があった。
【0004】
そこで、従来より、例えば特許文献1や特許文献2にも開示されているように、布基礎の立上り部全体を、耐候性に優れた弾性塗料等を塗布してなる保護層によって被覆することで、コンクリートと劣化因子との接触を阻止して、コンクリートの中性化を抑制するといった対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−110174号公報
【特許文献2】特開2008−127920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、布基礎の構築に際しては、鉄筋やアンカーボルト等をセットした型枠内にコンクリートを打設して、フーチング部及び立上り部を成形した後、立上り部の天端面に対して、レベル調整や不陸調整(水平性の確保)のためにレべリング材を施工して、所定の厚みの仕上層を形成している。そして、この立上り部の平滑な仕上層上に、柱材や土台等の構造材が精度良く施工されるようになっている。
【0007】
しかしながら、従来のように、布基礎の立上り部全体を保護層によって被覆した場合、立上り部の最上部には保護層が露出状態で配置されて、この保護層上に構造材を施工することになるから、以下のような不具合があった。
【0008】
すなわち、弾性塗料等を塗布してなる保護層は、レべリング材を施工してなる仕上層に比べて不陸が生じ易く、この保護層上に構造材を施工すると、施工精度にばらつきが生じ易くなるといった不具合があった。
【0009】
また、保護層上に施工された構造材は、立上り部に対してアンカーボルト等を介して緊結されるが、露出状態の保護層が経年劣化によって痩せて体積収縮すると、緊結部分に緩みが生じ易くなるといった不具合もあった。
【0010】
そこで、この発明は、上記の不具合を解消して、構造材の施工に支障をきたすことなく、コンクリートの中性化を抑制して、耐久性の向上を図ることができる建物の布基礎構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の建物の布基礎構造は、立上り部5の天端面5aを覆うようにして、レべリング材を施工してなる仕上層7を設けた鉄筋コンクリート造の布基礎1において、前記立上り部5の外側面5b及び内側面5cに、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる側面保護層10、10を形成するとともに、前記立上り部5の天端面5aと前記仕上層7との間に、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる天端面保護層11を形成して、前記側面保護層10、10と天端面保護層11とによって前記立上り部5を被覆したことを特徴とする。
【0012】
具体的に、前記天端面保護層11を構成する中性化抑制材として、エポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材を用いるようにしている。また、前記側面保護層10、10を構成する中性化抑制材として、シリコン樹脂系塗料又はポリマーセメント系塗料を用いるようにしている。
【発明の効果】
【0013】
この発明の布基礎構造においては、大気中に暴露された状態の立上り部を、天端面保護層及び側面保護層によって被覆しているので、立上り部のコンクリートと二酸化炭素や水分等の劣化因子との反応を阻止して、コンクリートの中性化を抑制することができ、これによって布基礎の耐久性を向上することができる。加えて、布基礎のコンクリートに含まれる水分の逸散を防止することから、未反応のセメント成分と残留水分との反応を永続的に進行させて、長期的な強度増進を図ることができるとともに、コンクリートの乾燥収縮を低減して、ひび割れ等の発生も抑えることができる。
【0014】
しかも、天端面保護層は、立上り部の天端面と仕上層との間に介在された状態となっていて、立上り部の最上部には仕上層が配置されていることから、レベル調整や不陸調整が良好になされた平滑な仕上層上に、柱材や土台等の構造材を精度良く施工することができる。さらに、天端面保護層が仕上層によって覆われていることから、天端面保護層の体積収縮等を伴う経年劣化を抑えて、構造材のアンカーボルト等による緊結部分の緩みも防止することができる。これにより、構造材の施工に支障をきたすことなく、コンクリートの中性化を確実に抑制することができる。
【0015】
また、中性化抑制効果の高いエポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材を用いて、天端面保護層を形成することで、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができる。さらに、耐候性や意匠性に優れるとともに、コンクリートのひび割れに追従可能な弾性を有するシリコン樹脂系塗料やポリマーセメント系塗料を用いて、側面保護層を形成することで、布基礎の意匠性を向上するとともに、立上り部のコンクリートにひび割れが発生するようなことがあっても、側面保護層がひび割れに追従して伸びることで、ひび割れを塞いで外部に露出させ難くして、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができる。このように、天端面保護層を構成する中性化抑制材と側面保護層を構成する中性化抑制材の種類を状況に応じて異ならせることで、布基礎の意匠性や耐久性、構造材の施工性等に十分に配慮しながら、コンクリートの中性化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る建物の布基礎構造の縦断面図である。
【図2】同じくその要部縦断面図である。
【図3】側面保護層の他の施工例を示す要部縦断面図である。
【図4】側面保護層の別の施工例を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は、この発明の一実施形態に係る建物の布基礎構造を示している。図において、1は、コンクリート構造体2の内部に鉄筋3を配設した鉄筋コンクリート造の布基礎であって、コンクリート構造体2は、フーチング部4と、このフーチング部4の上面略中央から立ち上がった立上り部5から断面逆T字状に形成されていて、フーチング部4及び立上り部5の下端が地盤Gに埋設された状態となっている。布基礎1によって囲まれた床下空間Sの地盤G上には、土間コンクリート6が施工され、この土間コンクリート6の周端部の端面が、布基礎1の立上り部5における屋内側の内側面5cに接合されている。なお、土間コンクリート6の代わりに、防湿シートを敷設する場合もある。
【0018】
この布基礎1においては、レベル調整や不陸調整(水平性の確保)のために、立上り部5のコンクリート天端面5aを覆うようにして、レべリング材を施工してなる平滑な仕上層7が所定の厚みで形成されている。レべリング材としては、水で練って流し込むだけで平滑な仕上層7を容易に形成することができるセメント系セルフレべリング材が用いられている。具体的に、このようなセメント系セルフレべリング材としては、例えば宇部興産株式会社製の商品名「天端レベラー」、株式会社トクヤマエムテック製の商品名「フローレベラー天端用」等が挙げられる。
【0019】
この立上り部5には、アンカーボルト8・・が埋設されていて、これらアンカーボルト8・・の上端が仕上層7から上方へ向けて突出している。そして、立上り部5の仕上層7上には、柱材9・・等の構造材が施工されて、それら構造材がアンカーボルト8・・を介して立上り部5に緊結されている。
【0020】
そして、このようにして構成された布基礎1に対して、コンクリートの中性化を抑制して耐久性を向上するための対策が施されている。すなわち、布基礎1の立上り部5における屋外側の外側面5b及び屋内側の内側面5cには、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる側面保護層10、10が形成されている。
【0021】
これら側面保護層10、10を構成する中性化抑制材としては、例えばシリコン樹脂系塗料又はポリマーセメント系塗料が用いられている。これらシリコン樹脂系塗料やポリマーセメント系塗料は、耐候性や意匠性に優れるとともに、コンクリートのひび割れに追従可能な弾性を有していることから、立上り部5の内外側面5b、5cに塗布して側面保護層10、10を形成することで、布基礎1の意匠性が向上するとともに、立上り部5のコンクリートにひび割れが発生するようなことがあっても、側面保護層10、10がひび割れに追従して伸びることで、ひび割れを塞いで外部に露出させ難くして、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができる。具体的に、このようなシリコン樹脂系塗料としては、例えば関西ペイント株式会社製の商品名「シリコンテックス」、ポリマーセメント系塗料としては、例えば宇部興産株式会社製の商品名「ビームプロテクターS」等が挙げられる。
【0022】
また、布基礎1の立上り部5における天端面5aと仕上層7との間には、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる天端面保護層11が形成されている。この天端面保護層11は、仕上層7によって覆われて外部に露出していないことから、天端面保護層11を構成する中性化抑制材においては、側面保護層10、10を構成する中性化抑制材に比べて、耐候性や意匠性、ひび割れ追従性はさほど要求されず、特に硬化後に弾性を有するものは施工した構造材の沈み込み等の不具合を生じさせる可能性があることから逆に好ましくない。このため、天端面保護層11を構成する中性化抑制材としては、側面保護層10、10を構成する中性化抑制材とは種類の異なる例えばエチレン酢酸ビニル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材が用いられている。
【0023】
これら中性化抑制材のうち、特に中性化抑制効果が高いとされるエポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材が好適に用いられている。エポキシ樹脂系塗料は、接着性及び耐久性等に優れることから、立上り部5の天端面5aに塗布して天端面保護層11を形成することで、立上り部5の天端面5aへの劣化因子の接触を確実に遮断して、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができる。具体的に、このようなエポキシ樹脂系塗料としては、例えば関西ペイント株式会社製の商品名「アレスアクアプライマーEPO」、日本シーカ株式会社製の商品名「シーカデュア32」等が挙げられる。
【0024】
また、珪酸塩系表面含浸材は、コンクリート表面に浸透させることにより、コンクリートに含まれる水酸化カルシウム等の成分と反応し、これによって生成される生成物質がコンクリートの微細な空隙を塞ぐことで、コンクリート表層部を水密性及び気密性の高い緻密化した状態に改質するといった特性を有している。このような珪酸塩系表面含浸材を、立上り部5の天端面5aに塗布して天端面保護層11を形成することで、立上り部5の天端面5aからの劣化因子の浸入を確実に阻止して、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができる。具体的に、このような珪酸塩系表面含浸材としては、例えば株式会社エービーシー商会製の商品名「RCガード」等が挙げられる。
【0025】
上記の布基礎1の構築に際しては、まず鉄筋3やアンカーボルト8・・をセットした型枠内にコンクリートを打設して、コンクリート構造体2すなわちフーチング部4及び立上り部5を成形する。そして、立上り部5のコンクリート天端面5aに対して、中性化抑制材を塗布して天端面保護層11を形成した後、その天端面保護層11上にレベリング材を流し込んで仕上層7を形成する。さらに、脱型後に、立上り部5の内外側面5b、5cに対して、中性化抑制材を塗布して側面保護層10、10を形成している。
【0026】
この場合、側面保護層10、10は、その下端部分を地盤Gの内部に若干(例えば20cm以内程度)入り込ませるように形成しているが、立上り部5の内側面5cを覆う側面保護層10については、図3に示すように、その下端部分を立上り部5の内側面5cと土間コンクリート6の周端部上面6aとの間の隅部に沿わせるように形成したり、図4に示すように、その下端部分を立上り部5の内側面5cと土間コンクリート6の周端部上面6aとの間の隅部で留めるように形成しても良い。また、フーチング部4は、その全体が地盤Gに埋設されていて、大気中に含まれる二酸化炭素等が接触し難い状態にあって、コンクリートの中性化が進み難いため、立上り部5に対するような中性化抑制対策は施していない。
【0027】
上記構成の布基礎1においては、天端面保護層11及び側面保護層10、10によって、仕上層7を除く立上り部5が被覆されているので、立上り部5のコンクリートと二酸化炭素や水分等の劣化因子との反応を阻止して、コンクリートの中性化を抑制することができる。加えて、布基礎1のコンクリートに含まれる水分の逸散を防止することから、未反応のセメント成分と残留水分との反応を永続的に進行させて、長期的な強度増進を図ることができるとともに、コンクリートの乾燥収縮を低減して、ひび割れ等の発生も抑えることができる。
【0028】
しかも、立上り部5の上面部分においては、立上り部5の天端面5aと仕上層7との間に天端面保護層11が介在された状態となっていて、立上り部5の最上部には仕上層7が配置されていることから、レベル調整や不陸調整が良好になされた平滑な仕上層7上に、柱材9・・や土台等の構造材を精度良く施工することができる。
【0029】
さらに、天端面保護層11を構成する中性化抑制材としてエポキシ樹脂系塗料等の高分子材料を使用した場合でも、天端面保護層11が仕上層7によって覆われていることから、紫外線等による天端面保護層11の経年劣化を抑えて、中性化抑制効果を長期に亘って安定して維持することができ、構造材のアンカーボルト8・・による緊結部分の緩みも防止することができる。
【0030】
さらにまた、天端面保護層11を構成する中性化抑制材として珪酸塩系表面含浸材等を使用した場合には、立上り部2の天端面5aに浸透させるにあたって、浸透前に乾燥したり流失するといった含浸不良が懸念されるが、天端面保護層11が仕上層7によって覆われていることから、中性化抑制材の乾燥や流失を防止して含浸不良を低減することができ、中性化抑制効果を良好に発揮させることができる。
【0031】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、側面保護層10、10を構成する中性化抑制材としては、シリコン樹脂系塗料やポリマーセメント系塗料に限定されるものではなく、その他の塗料や表面含浸材等を用いるようにしても良い。また、天端面保護層11を構成する中性化抑制材としては、エチレン酢酸ビニル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、珪酸塩系表面含浸材に限定されるものではなく、その他の塗料や表面含浸材等を用いるようにしても良い。さらに、側面保護層10、10や天端面保護層11を構成する中性化抑制材に、防蟻材等の各種添加材を混入させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0032】
1・・布基礎、5・・立上り部、5a・・天端面、5b・・外側面、5c・・内側面、7・・仕上層、10・・側面保護層、11・・天端面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立上り部(5)の天端面(5a)を覆うようにして、レべリング材を施工してなる仕上層(7)を設けた鉄筋コンクリート造の布基礎(1)において、前記立上り部(5)の外側面(5b)及び内側面(5c)に、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる側面保護層(10)(10)を形成するとともに、前記立上り部(5)の天端面(5a)と前記仕上層(7)との間に、コンクリートの中性化を抑制する中性化抑制材を塗布してなる天端面保護層(11)を形成して、前記側面保護層(10)(10)と天端面保護層(11)とによって前記立上り部(5)を被覆したことを特徴とする建物の布基礎構造。
【請求項2】
前記天端面保護層(11)を構成する中性化抑制材として、エポキシ樹脂系塗料又は珪酸塩系表面含浸材を用いるようにした請求項1記載の建物の布基礎構造。
【請求項3】
前記側面保護層(10)(10)を構成する中性化抑制材として、シリコン樹脂系塗料又はポリマーセメント系塗料を用いるようにした請求項1又は2記載の建物の布基礎構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32821(P2011−32821A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182526(P2009−182526)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】