説明

建物倒壊防止機能付き家具

【課題】主として木造戸建て家屋において、平時は居住空間を最大限に活用できるようにするために、建物が倒壊する虞のある場合にだけ、部屋に置かれた家具の高さを天井の高さにまで伸ばし、上層階の荷重を支えることによって、建物が倒壊しないようにする。
【解決手段】天井の高さまで伸びた状態において内部の気密性を保持できるようにした上下方向伸縮構造、前記伸縮構造を伸ばすための膨張手段、前記伸縮構造を縮めるための収縮手段を備え、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、前記膨張手段によって天井の高さまで伸びた前記伸縮構造が、建物上層階からの荷重に耐えて建物の倒壊を防止し、建物倒壊の虞がなくなった後に、前記収縮手段によって前記伸縮構造が元の高さまで縮むようにした建物倒壊防止機能付き家具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や台風等による建物の倒壊を防止するために、側面が高強度素材からなる気密性を有する伸縮構造の椅子、テーブル、ベッド等が、天井の高さまで伸びた状態において、上層階からの荷重が加わることによって、前記伸縮構造が剛性を有する柱として機能し、建物の上層階からの荷重を支えることができるようにした、建物倒壊防止機能付き家具に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年の東北関東大震災では津波が甚大な被害をもたらしたが、近い将来必ず起こるとされる東海地震では、地震の揺れによって約17万棟の建物が全壊すると想定されている。(「東海地震における被害想定結果」、中央防災会議、2003年3月18日公表)
1995年の阪神・淡路大震災では6,434人の尊い生命が失われ、犠牲者のほとんどは自宅における死亡であり、戦前の木造住宅が比較的多く残存していた地域での死者が多かったとされる。死者のほとんどは家屋の倒壊等による圧迫死であり即死状態であった。そして、数多くの人が生き埋めになり、神戸市消防局と自衛隊による救出時の生存率は初日の約75%が3日目には15%程度になる等、時間を追うごとに救出時の生存率は低下した。(「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」、内閣府ホームページ)
この事実から、建物が倒壊したか否かが生死の境目であったといえ、建物倒壊時に人身を保護する方策は勿論重要ではあるが、まずは建物を倒壊させないための方策が、被害を最小限に食い止めるために極めて重要であるといえる。また、倒壊後の建て替えには厖大な費用と時間を要し、社会経済的損失は計り知れない。よって、まずは建物を倒壊させないことが社会経済的損失を回避するためにも重要であるといえる。
【0003】
しかしながら、地震や台風等によって倒壊しない建物を実現するために柱や壁等の構造を大きくすると、平時の居住空間が狭くなってしまう。そこで、このような課題に対処すべく、小さな構造で大きな効果を得るための耐震、免震、制振に関する技術について、従来盛んに研究がなされ、多くの発明が公開されている。
【0004】
例えば、既存建物の制震改修方法及び制震改修構造として、特許文献1がある。特許文献1に公開されている技術は、壁を上下に分割し、その間に粘弾性体を介装するというものであり、地震時等における架構の水平方向の層間変位量を増大させることができるとともに、これによる躯体重量の増加も少なく抑えることができる。
【0005】
また、建物の倒壊を防止する技術ではないが、建物等が倒壊してしまった場合に、エアバッグを膨張させて人身を保護する技術についても研究がなされ、幾つかの発明が公開されている。例えば、特許文献2や特許文献3がある。
【0006】
一方、発明者は、建物の倒壊を防止するための技術として、内部にガスを充填することによって展開することのできる構造体を、建物内に設置する場合には、展開後に建物の内壁の全体又は長手方向の全部若しくは短手方向の全部に接する空間を前記構造体で埋め尽くすように、屋外に設置する場合には、前記構造体の底面が地面に接するように、折畳んだ状態で予め固定しておき、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合にだけ、前記構造体の内部にガスを充填することによって展開し、建物の壁部の厚さを増大させて耐震性を瞬時に増大させるとともに、揺れている間も前記構造体の内圧を制御することを特徴とする建物倒壊防止方法及び建物倒壊防止装置を既に考案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−104834号公報
【特許文献2】特開1996−332243号公報
【特許文献3】特開2010−121385号公報
【特許文献4】特許第4676569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術には、以下のような問題点がある。
【0009】
阪神・淡路大震災では、1980年以前に建てられた住宅(旧耐震基準)が、倒壊等の被害を蒙り、それ以降に建てられた住宅(新耐震基準)は被害が少なかった。
そして、「平成20年住宅・土地統計調査(全国編)」(総務省統計局・政策統括官・統計研修所、2010年3月30日更新)第6表によると、全国の木造一戸建住宅の総数は現在約1174万戸であり、そのうち、1980年以前に建築された住宅は635万戸である。また、同調査第76表によれば、木造一戸建の持ち家は約1098万戸であり、そのうち、1980年以前に建築されたのは約604万戸、耐震補強工事をしていないのは、約581万戸に上る。
この統計調査結果から、東海・東南海地震等の巨大地震発生の脅威が高まっているにも関わらず、未だに約600万戸が地震で倒壊する虞があり、耐震補強工事は遅々として進んでいないことが分かる。
【0010】
この原因としては、耐震補強の効果が保証されていないことや厖大な費用がかかるため、木造住宅の所有者が、耐震補強を躊躇していること等が考えられる。
実際に、2007年に起きた新潟県中越沖地震では、補強したはずの建物が倒壊した例が報告されており、従来の耐震補強工事の効果に疑問がもたれている。それに加え、建築士による「耐震強度偽装」問題が耐震補強への信頼を揺るがしてしまったという経緯もある。
【0011】
また最近では、地震のマグニチュードや地盤の特性によって揺れの周期は一様ではなく、揺れの周期に建物が共振する場合に特に被害が大きくなる長周期地震動の脅威が指摘されている。したがって、固定的な耐震補強によって、毎回異なる揺れ方に完全に対応することはそもそも不可能といえる。
【0012】
更には、過去に国の基準を満足する補強を行っていたとしても、軸組工法の耐震補強工法では、柱のほぞ抜け等が地震の回数を重ねる度に蓄積されるのであるから、今現在の耐震性が必ずしも保証されているわけではない。このような、合法であっても危険な建物は、全国に1000万戸以上存在するといわれている。
尚、阪神・淡路大震災における建築物被害の調査結果によると、柱のほぞ抜けや壁量の不足が木造家屋の倒壊原因とされている(“特集
兵庫県南部地震による建築物被害とその後の対応”、Epistula、Vol.11、建設省建築研究所、1996年1月)。
【0013】
次に、免震技術は、建物と地盤を切り離すことによって地震のエネルギーが建物に伝わらないようにしてあるため、様々な揺れ方に対応できると考えられるが、既存の建物に用いる場合には、高い精密さが要求されることや建物をジャッキアップする必要がある等、他の技術に比べ厖大な費用が必要になる。また、メンテナンス費用もかかる上に、精密さが欠けると逆に耐震性を低下させてしまうという問題点がある。更に、直下型地震等の下からの強い突き上げには弱いという問題点もある。
【0014】
最後に、制振技術は、柱や梁等のダンパー取り付け箇所によっては、建物全体のバランスを失わせる虞がある。これは、柱や梁等の構造体の局所に補強を施すことに由来する問題点である。また、そもそも評価方法が未確立であり、建物全体としての耐震性向上の効果が不確実であるという問題点がある上に、ダンパー等の制振部材に不具合が生じることがある。更に、建物の1階や2階ではあまり効果が無いので、ある程度高層の建物でなければ採用する意味がないという問題点も指摘されている。
【0015】
以上のように、従来技術には様々な問題点があるが、共通の問題点は、耐震性をある程度高めることはできるものの、ブレースやダンパー等の設置によって建物自体の重量が増大してしまうだけでなく、開口部を閉塞するなど意匠的、機能的な問題が大きいことである。また、これらの補強材が偏在していると、建物の重心と剛心の間の距離、すなわち、偏心距離が大きくなり、地震時に建物がねじれ振動を起こして倒壊の危険性が高まるという問題点もある。更には、壁材を取り外すなどの大改修が必要となる場合が多いことも、費用や期間の面で大きな問題である。
【0016】
この点、発明者が既に考案した建物倒壊防止方法及び建物倒壊防止装置(特許文献4)は、従来技術とは異なり、必要な時にだけ構造体を展開して建物の倒壊を防止することができるとともに、構造体は、既存建物の壁等に外付けすることができるので、壁材を外す等の大改修は不要であり、費用が少なくて済むとともに短期間で設置することができるという利点があった。しかしながら、展開のために必要な空間に、家具等を置くことができないという問題がある。建物倒壊による圧死という甚大な被害を防止するためには、家具等の設置場所に一定の制約を受けることも止むを得ないとも考えられるが、できる限り制約を受けないようにすることが、ユーザーニーズに、より一層合致して、結果的に技術の普及につながり被害を局限できる。
【0017】
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点を解決して、主として木造戸建て住宅において、平時は居住空間を最大限に活用できるようにするために、地震等の外的要因で建物が倒壊する虞のある場合にだけ、部屋に置かれた家具の高さを天井の高さにまで伸ばし、上層階の荷重を支えることによって、建物が倒壊しないようにすることのできる建物倒壊防止機能付き家具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具は、天井の高さまで伸びた状態において内部の気密性を保持できるようにした上下方向伸縮構造、前記伸縮構造を伸ばすための膨張手段、前記伸縮構造を縮めるための収縮手段を備え、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、前記膨張手段によって天井の高さまで伸びた前記伸縮構造が、建物上層階からの荷重に耐えて建物の倒壊を防止し、建物倒壊の虞がなくなった後に、前記収縮手段によって前記伸縮構造が元の高さまで縮むようにしたことを特徴とする。
【0019】
ガス圧昇降式のチェアやテーブルは既に存在するが、天井の高さまで伸びるものは存在しない。また、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、伸縮構造を天井の高さまで伸ばす目的は、座面等を高くすることではなく、気体を充填した気密構造を柱として形成した上で、その側面を炭素繊維等の高強度素材にすることによって、気密構造内部の体積が一定のもとで高さを一定に保持することができ、上層階からの荷重に耐え得るようにすることである。つまり、天井の高さまで伸びた請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具は、建物倒壊を防止するための柱として機能するものである。
【0020】
伸縮構造としては、テレスコピックパイプ(Telescopic
Pipe)や蛇腹構造を用いる。家具の種類や形状等によって使い分けるようにする。例えば、中央に脚を有する椅子やテーブルの場合には、テレスコピックパイプが適している。尚、テレスコピックパイプは、正四角柱をはじめとする多角柱でも可能であり、円柱に限らない。
【0021】
伸縮構造内部の気密性は、伸縮構造の内側に、インナーライナーと呼ばれる空気透過性の極めて低い特殊なゴムシートを用いることによって保持する。テレスコピックパイプの場合には、各相似形円柱の接触部のシールとして、パッキンを取り付けることもできる。
【0022】
伸縮構造は、上方向に伸びるので、エアバッグを用いた人身保護技術のように、人に向かってエアバッグが突出することもなければ、人がエアバッグ諸共生き埋めとなって窒息死することもない。
【0023】
伸縮構造が天井の高さまで伸びることによって、内部に気体を充填し、上層階からの荷重と、高強度素材からなる側面の締め付けによって、剛性が高まるようにする。このため、伸縮構造の側面には、鋼鉄、炭素繊維、高強度ポリエステル等の強度の高い材料を用いる。また、FRP等の複合材料を用いることもできるが、強度に異方性があるため、繊維の方向が異なるようにして複数枚を積層する必要がある。このため、将来的にはより強度の高いカーボンナノチューブを用いることも考えられる。
【0024】
伸縮構造の内部に気体を充填した状態において、上層階からの荷重が加われば、内圧が上昇し、伸縮構造は変形し難くなり柱のように剛性を保持することができるとともに、建物自体の重量が増大してしまうという従来の耐震技術共通の課題を解決することができる。
【0025】
伸縮構造の内部に充填するガスには、安全性が求められるため、窒素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガス(CO2)等を用いる。
【0026】
自動車のボディ等に充填することによって短時間で剛性を高めることのできるウレタン発泡材を伸縮構造の内部に充填することもできる。この場合、充填にはエアーコンプレッサーを用いる。
【0027】
その他、伸縮構造の内部に充填する材料としては、バルブを開くと自ら空気を吸って膨張するエアーマットで用いられるスポンジ等も考えられる。この場合には、カートリッジボンベやエアーコンプレッサーは不要である。
【0028】
請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具を適切に配置することによって、建物の重心と剛心の間の距離、すなわち、偏心距離が大きくならないようにすることができるので、地震時に建物がねじれ振動を起こして倒壊の危険性が高まるという従来の耐震補強技術に共通の問題点を解決することができる。
【0029】
地震や台風等が収まった後は、伸縮構造の内部に充填した気体を排出すれば、元通りに家具として使用することができ、居住空間を有効に活用することができる。
【0030】
平時は、椅子、テーブル、ベッド等の家具として使用し、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、それを検知して、自動又は手動で膨張手段を作動させる。
【0031】
地震等の外的要因で建物が倒壊する虞の検知は、人の知覚によることは勿論、建物内に地震計を設置することによっても可能であるが、緊急地震速報等によっても検知することができる。また、大地震の余震が頻発している場合のように予め伸ばしておきたい場合も想定される。そこで、膨張手段は、安全のためにも手動で作動させることを基本とし、自動で作動させることもできるようにする。自動的に行う場合には、緊急地震速報、震度速報、震源に関する情報、東海地震予知情報、東海地震注意情報、東海地震観測情報、気象情報等を用いるとともに、建物に設置する地震計でP波を観測することによって検知して、膨張手段が作動するようにする。
【0032】
膨張手段としては、自動車のエアバッグ等で用いられるインフレーターやガス発生剤を用いて、伸縮構造の内部にガスを充填する方法の他、伸縮構造の内部に圧縮ばねを備え、その反発力によって伸縮構造を伸ばすとともに吸気用逆止弁から空気を吸い込み、伸縮構造の内部に空気を充填する方法が考えられる。
【0033】
いずれの膨張手段においても、人を持ち上げる程の力は生じないようにする。但し、重い天板を持ち上げる必要が生じる場合や、小さな子供が使用する可能性のある場合等には、圧電素子や人感センサ等の各種センサによって、人が上にいることを検知した場合には膨張手段が作動しないようにするための安全装置を付加するものとする。
【0034】
まず、請求項2記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、膨張手段が、内部にガスを充填することによって伸縮構造を膨張させるためのインフレーターからなり、収縮手段が、前記ガスを排出することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする。
【0035】
カートリッジボンベは、建物倒壊防止機能付き家具のインフレーターにセットすることができ、使い切った後に交換できるようにする。テーブルの天板が重い場合等、高圧ガスが必要な場合には、インフレーターとしてエアーコンプレッサー等を用い、建物倒壊防止機能付き家具にガスを供給できるようにする。
【0036】
これによって、天板等の重量に合わせてガスの圧力を調整することによって、適度な速度で伸縮構造の内部にガスを充填することができる。
【0037】
排気口は、ガスを充填する伸縮構造内部から外部に通じるように設け、排気栓は、地震等による揺れが収まり建物倒壊の虞がなくなった後に、建物倒壊防止機能付き家具の外側から、手動で開放できるようにする。
【0038】
これによって、伸縮構造が元の高さまで縮むことができ、再び平時の家具として使用できるようになる。
【0039】
次に、直下型地震等の瞬間的な揺れに対処するために、伸縮構造を瞬時に膨張させるとともに、その気密性を高くすることが求められる場合も想定される。
【0040】
そこで、請求項3記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、膨張手段が、内部にガスを充填することによって伸縮構造を膨張させるためのガス発生剤からなり、収縮手段が、前記ガスを排出することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする。
【0041】
エアバッグの場合、従来、ガス発生剤としてはアジ化ナトリウムが多く使われてきたが、より高い内圧を得るためには、推進薬とアルゴンガス等の不活性ガスの両方をガス発生剤として用いるハイブリッドインフレータが有効である。
【0042】
これによって、伸縮構造を瞬時に膨張させることができ、直下型地震等の瞬間的な揺れに対処できるようになる。
【0043】
更に、余震等が頻発するために使用回数が多くなり、インフレーター用のカートリッジボンベやガス発生剤が不足する場合も想定される。
【0044】
そこで、請求項4記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、膨張手段が、伸縮構造の内部に備えるばね、伸縮構造の内部に空気を吸い込むための吸気用逆止弁からなり、収縮手段が、前記空気を排気することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする。
【0045】
ばねは、圧縮した状態で伸縮構造の内部に収納しておき、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、自動又は手動で、圧縮状態から開放されるようにする。
【0046】
膨張手段として圧縮ばねを用いる場合には、排気口の栓を開放するだけでは収縮できないので、伸縮構造の上部から張ったワイヤーを、自動又は手動の巻き取り機で巻き取ることによって、収縮できるようにする。
【0047】
伸縮構造の側面に炭素繊維を用いる場合、樹脂で固める必要がある。また、水平方向に働く力に対抗するためには、蛇腹構造よりもテレスコピックパイプが効果的である。
【0048】
そこで、請求項5記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、伸縮構造が、テレスコピックパイプであることを特徴とする。
【0049】
テレスコピックパイプの場合には、伸縮構造の側面に、鋼鉄や炭素繊維等を用いることができる。
【0050】
一方、家具の種類や形状等によっては、四脚テーブルのように下部空間を開放しておきたい場合も想定され、この場合、薄いスペースに収納できる伸縮構造が必要になる。
【0051】
そこで、請求項6記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、伸縮構造が、蛇腹構造であることを特徴とする。
【0052】
この場合の伸縮構造は、上だけでなく下に向かっても伸びるようにして、平時は、天板の裏側の薄いスペースに折り畳んだ状態で収納しておく。
【0053】
これによって、例えば、四脚テーブルにおいて足を伸ばして席に着くことができるようになる。
【0054】
最後に、伸縮構造が蛇腹構造である場合に、側面を鋼鉄や炭素繊維を樹脂で固めたもので成形することは極めて困難である。
【0055】
そこで、請求項7記載の建物倒壊防止機能付き家具は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具において、伸縮構造の側面が、高強度繊維からなることを特徴とする。
【0056】
高強度繊維としては、荷重、衝撃、充填ガス圧に耐えるための自動車のタイヤコードと同様に、高強度ポリエステル、ナイロン、アラミド、レーヨンコード等を用いる。伸縮構造の剛性を更に高めるためには、コード層を積層する。
【発明の効果】
【0057】
建物倒壊防止機能付き家具は、平時は家具として使用でき、建物が倒壊する虞のあるときにだけ柱として機能するので、居住空間を有効に活用することができる。
【0058】
瞬時に伸縮構造を膨張させることによって柱を形成するとともに、上層階からの荷重及び高強度素材による側面からの締め付けによって、高い内圧が得られ、伸縮構造の剛性を増大させることができるので、建物の倒壊を防止することができる。
【0059】
建物倒壊防止機能付き家具を適切に配置することによって、従来技術の課題の一つであった偏心距離の増大によるねじれ振動を防止することができる。
【0060】
膨張手段としてCO2インフレーターを用いる場合には、CO2の新たな用途を開拓できるので、大気中のCO2削減に貢献することができる。
【0061】
壁材を外す等の大改修は不要であり、費用が少なくて済むとともに、従来技術に比べて、機能及びその効果が目に見えるのでユーザーにとって分かり易い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は家具の配置の一例を示す説明図である。
【図2】図2は建物倒壊の虞がある場合に、家具が上層階を支えている状態の一例を示す説明図である。
【図3】図3はテレスコピックパイプが伸びた状態の一例を示す説明図である。
【図4】図4は伸縮構造がテレスコピックパイプである場合の椅子の一例を示す断面図である。
【図5】図5は伸縮構造がテレスコピックパイプ、膨張手段がインフレーターである場合に、椅子が伸びている状態を示す断面図である。
【図6】図6は伸縮構造がテレスコピックパイプ、膨張手段がガス発生剤である場合に、椅子が伸びている状態を示す断面図である。
【図7】図7は伸縮構造がテレスコピックパイプ、膨張手段がばね及び吸気用逆止弁である場合に、椅子が伸びている状態を示す断面図である。
【図8】図8は伸縮構造が蛇腹構造である場合の椅子の一例を示す断面図である。
【図9】図9は伸縮構造が蛇腹構造、膨張手段がインフレーターである場合に、椅子が伸びている状態を示す断面図である。
【図10】図10は伸縮構造がテレスコピックパイプである場合のテーブルの一例を示す断面図である。
【図11】図11は伸縮構造がテレスコピックパイプ、膨張手段がインフレーターである場合に、テーブルが伸びている状態を示す断面図である。
【図12】図12は伸縮構造が蛇腹構造である場合のテーブルの一例を示す断面図である。
【図13】図13は伸縮構造が蛇腹構造、膨張手段がインフレーターである場合に、テーブルが伸びている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る建物倒壊防止機能付き家具の実施例について説明する。
【実施例】
【0064】
図1は、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具を、木造家屋の一階居室に配置した場合の一例を示す説明図であり、窓側に四脚テーブル1及びベッド2を、その反対側に椅子3及び一脚テーブル4を配置している。過去に発生した巨大地震において、木造戸建て家屋が倒壊した多くの例を分析すると、窓や駐車場入り口のように、耐力が少ない脆弱な部分が潰れるようにして倒壊したケースが殆どであることが分かる。そこで、建物倒壊防止機能付き家具は、大きなものをできるだけ脆弱な部分に配置するようにした。尚、ベッド2は日当たりの良い窓側のコーナーに配置するのが一般的であるから、ユーザーニーズにも合致する。
従来技術では、窓等の脆弱部分を補強することは極めて困難であったが、建物倒壊防止機能付き家具は、窓等を直接補強するものではなく、必要な時にだけ柱を形成するものであるから、容易に配置することができて、かつ、倒壊を効果的に防止することができる。
【0065】
図2は、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具が、天井の高さまで伸びて上層階を支えている状態の一例を示す説明図であり、断面が円形あるいは四角形の太い柱が出現している様子を示している。天井に接する面は、テーブル1の天板のように平面であることが望ましいが、多少の凹凸がある場合でも、上層階からの荷重を支えるという効果は得られる。したがって、椅子3やベッド2のように柔らかい素材で覆われていても、安定性は僅かに損なわれるものの、倒壊を防止することができる。
【0066】
図3は、テレスコピックパイプ5が伸びた状態の一例を示す説明図であり、中空の相似形円柱を、大きな円柱の内側に小さな円柱を複数設けることによって、伸び縮みできるようにした。尚、円柱に限らず、多角柱で構成することも可能であり、この場合、居室のコーナー部分に配置するのに適している。伸縮構造がテレスコピックパイプ5の場合、屈曲部が生じないため、鋼鉄や炭素繊維を樹脂で固めたものを素材とすることができる。
【0067】
図4は、図3に示したテレスコピックパイプ5の伸縮構造を備えた椅子の一例を示す説明図であり、請求項2及び請求項5に記載の建物倒壊防止機能付き家具の実施例である。伸縮構造は、炭素繊維を樹脂で固めた相似形円柱6の入れ子構造とし、膨張手段としてCO2インフレーター7を採用した。図4では、図の見易さの観点から4段構造にしたが、実際の椅子の高さを約50センチ、一般的な天井の高さを2.5〜3mと仮定すれば、5〜6段は必要である。CO2インフレーター用のカートリッジボンベ8は、椅子の底にセットできるようにして、使用後は容易に交換できるようにした。CO2インフレーター7の噴射口は、ゴムシートからなるインナーライナー9の内部に差し込み、インナーライナー9から椅子の外部へ通じる排気口10を設け、これを排気栓11で閉塞することによって気密性を保持できるようにした。また、各相似形円柱6相互の接触部のシールとして、パッキンを取り付けることもできる。尚、伸縮構造の側面は、上層階からの荷重が加わった時に膨張しようとする力に対抗するために炭素繊維等にする必要があるが、伸縮構造の上面12及び底面13については、天井及び床から押される力が作用するので、炭素繊維等でなくても良い。
【0068】
図5は、図4に示した椅子において、CO2インフレーター7からCO2ガスが噴射されるのに伴って上方に伸びている状態を示す断面図である。実施例では、膨張手段を手動で作動させたが、自動で作動させる場合には、建物に設置する地震計や全国瞬時警報システム(J−ALERT)受信機等によって建物倒壊の虞を検知して、自動的にガスを噴射できるようにする。実施例では、排気栓11を開放することによって、伸縮構造内のガスが排気口10を通じて外部に排出され、椅子の座面14に作用する重力によって収縮するようにした。
【0069】
図6は、自動車のエアバッグと同様に、ガス発生剤15の燃焼を用いて伸縮構造の内部にガスを充填するのに伴って、椅子が上方に伸びている状態を示す断面図であり、請求項3及び請求項5に記載の建物倒壊防止機能付き家具の実施例である。この場合、遠隔着火装置によってガス発生剤15を燃焼させる。ガス発生剤15は爆発的に燃焼するので、カートリッジボンベからの給気に比べて、伸縮構造を迅速に膨張させて高い内圧を得ることができる。尚、収縮手段については、図5に示した実施例と同様である。
【0070】
図7は、伸縮構造がテレスコピックパイプ、膨張手段が圧縮ばね16及び吸気用逆止弁17である場合に、椅子が伸びている状態を示す断面図であり、請求項4及び請求項5に記載の建物倒壊防止機能付き家具の実施例である。手動で圧縮ばね16の固定を解除することによって伸縮構造に伸びようとする力が作用して、吸気用逆止弁17から伸縮構造の内部に空気が吸い込まれるようにした。この場合、カートリッジボンベやガス発生剤は不要であるが、排気栓11を開放するだけでは伸縮構造を収縮させることができないので、手動の巻き取り機18を用いて、伸縮構造の上部から張ったワイヤー19を巻き取ることによって、ばね16を圧縮しながら空気を排出して伸縮構造を収縮させるようにした。
【0071】
図8は、伸縮構造が蛇腹構造である場合の椅子の一例を示す断面図であり、請求項2及び請求項6に記載の建物倒壊防止機能付き家具の実施例である。この場合の伸縮構造の側面20に、炭素繊維を樹脂で固めたものを使用することができないので、高強度ポリエステルを使用する。気密性の保持については、図4に示した実施例と同様である。
【0072】
図9は、図8に示した椅子が、CO2インフレーター7からCO2ガスが噴射されるのに伴って、上方に伸びている状態を示す断面図である。膨張及び収縮手段については、図5に示した実施例と同様である。
【0073】
図10は、伸縮構造がテレスコピックパイプである場合のテーブルの一例を示す断面図である。基本的な構造は、図4に示した椅子の場合と同様であるが、テーブルの天板21は、広く平らで、堅い素材にすることができることから、伸縮構造が伸びた状態において天井に密着させることができ、強固な柱を形成することができる。
【0074】
図11は、図10に示したテーブルが、CO2インフレーター7からCO2ガスが噴射されるのに伴って、上方に伸びている状態を示す断面図である。膨張及び収縮手段については、図5に示した実施例と同様である。
【0075】
図12は、伸縮構造が蛇腹構造である場合のテーブルの一例を示す断面図である。基本的な構造は、図8に示した椅子の場合と同様であるが、蛇腹構造にすることによって、テーブルの天板21の裏側の薄いスペースに伸縮構造を収納することができる。実施例では、膨張手段及び収縮手段についても同じスペースに収納するようにした。
【0076】
図13は、図12に示したテーブルが、CO2インフレーター7からCO2ガスが噴射されるのに伴って、上方に伸びている状態を示す断面図である。尚、伸縮構造は、上だけでなく下に向かっても伸びるようにした。膨張及び収縮手段については、図5に示した実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
地震や台風等の場合における建物倒壊防止に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 四脚テーブル
2 ベッド
3 椅子
4 一脚テーブル
5 テレスコピックパイプ
6 相似形円柱
7 CO2インフレーター
8 カートリッジボンベ
9 インナーライナー
10 排気口
11 排気栓
12 上面
13 底面
14 座面
15 ガス発生剤
16 ばね
17 吸気用逆止弁
18 巻き取り機
19 ワイヤー
20 側面
21 天板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井の高さまで伸びた状態において内部の気密性を保持できるようにした上下方向伸縮構造、前記伸縮構造を伸ばすための膨張手段、前記伸縮構造を縮めるための収縮手段を備え、地震等の外的要因で建物倒壊の虞がある場合に、前記膨張手段によって天井の高さまで伸びた前記伸縮構造が、建物上層階からの荷重に耐えて建物の倒壊を防止し、建物倒壊の虞がなくなった後に、前記収縮手段によって前記伸縮構造が元の高さまで縮むようにした建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項2】
膨張手段が、内部にガスを充填することによって伸縮構造を膨張させるためのインフレーターからなり、収縮手段が、前記ガスを排出することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項3】
膨張手段が、内部にガスを充填することによって伸縮構造を膨張させるためのガス発生剤からなり、収縮手段が、前記ガスを排出することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項4】
膨張手段が、伸縮構造の内部に備えるばね、伸縮構造の内部に空気を吸い込むための吸気用逆止弁からなり、収縮手段が、前記空気を排気することによって前記伸縮構造を収縮させるための排気口及び排気栓からなることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項5】
伸縮構造が、テレスコピックパイプであることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項6】
伸縮構造が、蛇腹構造であることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。
【請求項7】
伸縮構造の側面が、高強度繊維からなることを特徴とする請求項1記載の建物倒壊防止機能付き家具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−249752(P2012−249752A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123435(P2011−123435)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【特許番号】特許第4837795号(P4837795)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(598072755)
【Fターム(参考)】