説明

建物

【課題】費用や手間を格段に削減しながら設置することができ撤去作業のほぼ全てを省略することができる仮防水構造を備えた建物を提供する。
【解決手段】建物外周部に配置された外周屋根梁TRと、外周屋根梁TRに架設された屋根スラブRと、屋根スラブRよりも上方に突出するように外周屋根梁TRの外側に配置された胸壁PPと、を備えるとともに、屋根スラブRの架設後に設置される仮防水構造1を備える建物Hである。仮防水構造1を、外周屋根梁TRの上に載置された仮樋10と、仮樋10の側面に接続され胸壁PPを貫通して胸壁PP外方に突出する仮排水用ドレイン20と、屋根スラブRの上面全体を覆い端縁部31が仮樋10の内側に垂下するように貼設された第1の仮防水シート30と、胸壁PPの上端を覆い端縁部41が仮樋10の内側に垂下するように貼設された第2の仮防水シート40と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮防水構造を備える建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の躯体が立ち上がってから屋根の防水工事が完了するまでの期間において、降雨によって建物内部の水濡れを防止するため又は工期が延長するのを防止するために、種々の対策が講じられてきた。
【0003】
例えば、大規模な建物においては、足場を利用して建物全体を覆う仮設の屋根を設ける方法が数多く提案されている。また、住宅のような小規模の建物においては、単に屋根面にシートをかけるという方法が提案されている。但し、このような簡易な方法では、勾配屋根の場合には雨仕舞い上の問題が少ないものの、パラペットを有する陸屋根の場合には水溜りが形成されてしまい、水の排出方法を別途検討する必要があった。
【0004】
そこで、近年においては、バルーンを用いてシートの中央部をパラペットよりも高くして勾配を設けることにより雨水を自然に排出できるように構成した陸屋根用の防水構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-121024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような防水構造を採用すると、バルーンを膨らませるための装置が必要となるとともに、その装置の設置作業や撤去作業が必要となり、相当の費用や手間を要するという問題がある。また、このような防水構造を採用すると、シート中央部が高くなるために雨水は四方八方に流れ落ちることとなり、建物外周部の作業に支障をきたす可能性もある。さらに、このような防水構造を採用した場合には、本防水工事の際に全てを撤去する必要があり、この撤去作業中に降雨があると建物内部を濡らしてしまう恐れもある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、費用や手間を格段に削減しながら設置することができ、しかも撤去作業のほぼ全てを省略することができる仮防水構造を備えた建物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る建物は、建物外周部に配置された外周屋根梁と、外周屋根梁に架設された屋根スラブと、屋根スラブの上面よりも上方に突出するように外周屋根梁の外側に配置された胸壁と、を備えるとともに、屋根スラブの架設後に設置される仮防水構造を備えるものである。仮防水構造は、屋根スラブの上面よりも下方に位置するように外周屋根梁の上に載置された断面コ字状の仮樋と、仮樋の側面に連通接続され胸壁を貫通して胸壁外方に突出するように設けられた仮排水用ドレインと、屋根スラブの上面全体を覆うとともに端縁部が仮樋の内側に垂下するように貼設された第1の仮防水シートと、胸壁の上端を覆うとともに端縁部が仮樋の内側に垂下するように貼設された第2の仮防水シートと、から構成されるものである。
【0009】
かかる構成を採用すると、仮樋を外周屋根梁の上に載置し、仮樋の側面から胸壁を貫通して胸壁外部に連通する仮排水用ドレインを設け、2種類の仮防水シートを貼設するだけで仮防水構造を設置することができる。従って、仮防水構造の設置に要する費用や手間を格段に削減することが可能となる。
【0010】
本発明に係る建物において、仮樋の外形幅寸法を、胸壁の内側面から屋根スラブの端縁までの離間寸法に対応するように設定することが好ましい。
【0011】
かかる構成を採用すると、仮樋が胸壁と屋根スラブの間に挟まれて拘束されるため、仮桶の幅方向における位置ずれを抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係る建物において、屋根スラブ上に貼設される断熱材と、断熱材を保護する保護板と、保護板上に貼設される本防水シートと、をさらに備えることができる。かかる場合において、仮防水構造が残存した状態で断熱材、保護板及び本防水シートを貼設することができる。
【0013】
かかる構成を採用すると、仮防水構造を撤去することなく本防水シートによる防水工事を完成させることができるので、撤去作業の手間を省くことができる。また、本防水シートの施工中に降雨があったとしても、建物内部を濡らしてしまうことがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、費用や手間を格段に削減しながら設置することができ、しかも撤去作業のほぼ全てを省略することができる仮防水構造を備えた建物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る建物の構造を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る建物に適用される仮防水構造(仮防水シートを貼設していない状態)を説明するための上面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る建物に適用される仮防水構造(仮防水シートを貼設した状態)を説明するための上面図である
【図4】図3に示す仮防水構造のIV-IV部分の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る仮防水構造の仮樋及び仮排水用ドレインの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る建物Hについて説明する。なお、本実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0017】
最初に、図1及び図4を用いて、本実施形態に係る建物Hの構成の概要について説明する。
【0018】
建物Hは、所定寸法の平面モジュールを有する梁勝ち工法による鉄骨造の工業化住宅である。建物Hの基本架構は、図1に示すように、基礎梁B上に立設固定された柱S、柱Sの上端を連結するように配置された梁T、隣接する2本の柱間に設置された耐力要素M等で構成されている。
【0019】
図4に示すように、建物Hの外周部に配置された外周屋根梁TRはH形鋼からなり、角形鋼管からなる柱Sの上に載置されてボルト接合されている。外周屋根梁TRの上フランジFの内側片FIには、デッキプレート(波状に折り曲げ加工した鋼板)からなる屋根スラブRが架設されている。屋根スラブRの端縁部は、外周屋根梁TRの上フランジFの内側片FIに載置されてドリルネジにて接合されている。
【0020】
なお、図示していないが、屋根スラブRの上には、板状の合成樹脂発泡体からなる断熱材が敷設される。断熱材は保護板で保護され、この保護板には、軟質の塩化ビニール等から構成される本防水シートが接着される。これら屋根スラブR、断熱材、保護板及び本防水シートにより建物Hの屋根が構成される。
【0021】
外周屋根梁TRの外側には、図4に示すように、ALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)製パネルPが外周屋根梁TRに沿って立設されて外壁を構成している。外壁となるALC製パネルPの上端部分は、屋根を構成する屋根スラブRの上面よりも上方に突出してパラペット(胸壁)PPを形成している。本実施形態においては、後述する第2の仮防水シート40をマグネットで貼設するための(図示していない)防水鋼板を、パラペットPPの内側面から上端面に沿って取り付けている。
【0022】
次に、図2〜図5を用いて、本実施形態に係る建物Hに適用される仮防水構造1について説明する。
【0023】
本実施形態に係る仮防水構造1は、仮樋10、仮排水用ドレイン20、第1の仮防水シート30及び第2の仮防水シート40から構成されている。
【0024】
仮樋10は、図4及び図5に示すように、鋼板を断面コ字状に折り曲げて構成したものであり、外周屋根梁TRの上フランジFの外側片FOの上(屋根スラブRとパラペットPPで囲まれた凹部)に載置されている。仮樋10の外形幅寸法W10は、屋根スラブRの端縁からパラペットPPの内側面までの寸法に対応する(屋根スラブRの端縁から防水鋼板までの寸法と略同一になる)ように設定されている。仮樋10の高さ寸法L10は、仮樋10の上端が屋根スラブRの上面よりも下方に位置するように設定されている。 仮樋10は、図2及び図3に示すように、直線状仮樋部材11と、L字状のコーナ用仮樋部材12と、を組み合せることにより建物外周部に連続的に設けられている。連結部の水密性は、粘着テープにて確保されている。
【0025】
仮排水用ドレイン20は、図4及び図5に示すように、仮樋10を構成する直線状仮樋部材11の側面の下端寄りの位置から外方に突設されている。仮排水用ドレイン20は、直線状仮樋部材11の側面に溶接された円筒状のパイプ接続部21と、このパイプ接続部21に嵌合された硬質塩化ビニール製の直線状パイプ22と、直線状パイプ22の先端に下方に屈曲するように嵌合されたL字状パイプ23と、から構成されている。仮排水用ドレイン20の直線状パイプ22は、パラペットPPに穿設された貫通孔に挿通される。これにより、直線状パイプ22の一部とL字状パイプ23とがパラペットPP外方に突出するように構成されている。
【0026】
第1の仮防水シート30は、ポリエチレン等の合成樹脂素材からなり、図3及び図4に示すように、屋根スラブR全面を覆うとともに端縁部31が仮樋10の内側に垂下するように貼設されている。第1の仮防水シート30の端縁部31は、粘着テープやマグネット等を用いて仮樋10に貼設されている。第1の仮防水シート30は、複数のシートを連結して構成することもでき、この場合の連結部の水密性は、粘着テープにて確保されている。
【0027】
第2の仮防水シート40は、ポリエチレン等の合成樹脂素材からなり、図3及び図4に示すように、パラペットPP上端を覆うとともに一方の端縁部41が仮樋10の内側に垂下するように貼設されている。第2の仮防水シート40の端縁部41は、粘着テープやマグネット等を用いてパラペットPP及び仮樋10に貼設されている。
【0028】
本実施形態に係る仮防水構造1は、屋根スラブRの架設及びパラペットPP(ALC製パネルP)の施工完了後に設置されるものである。仮防水構造1は、断熱材、保護板及び本防水シートの施工直前に除去してもよいが、残存させたまま断熱材、保護板及び本防水シートを施工するのが好ましい。仮防水構造1を除去する場合には、パラペットPPの貫通孔にALC専用の補修モルタルを充填して補修する。仮防水構造1を残存させておく場合には、仮排水ドレイン20の突出部分を切断し、周囲にシーリング材を充填し、キャップを嵌めておく。このように構成しておくことで、防水シート改修の際に降雨があっても室内を濡らすことがない。
【0029】
以上説明した実施形態に係る建物Hにおいては、仮樋10を外周屋根梁TRの上に載置し、仮樋10の側面からパラペットPPを貫通してパラペットPP外部に連通する仮排水用ドレイン20を設け、2種類の仮防水シート30・40を貼設するだけで仮防水構造1を設置することができる。従って、仮防水構造1の設置に要する費用や手間を格段に削減することが可能となる。
【0030】
また、以上説明した実施形態に係る建物Hにおいては、仮樋10の外形幅寸法W10を、パラペットPPの内側面から屋根スラブRの端縁までの離間寸法に対応するように設定しているため、仮樋10がパラペットPPと屋根スラブRの間に挟まれて拘束される。従って、仮桶10の幅方向における位置ずれを抑制することができる。
【0031】
また、以上説明した実施形態に係る建物Hにおいては、仮防水構造1が残存した状態で断熱材、保護板及び本防水シートを貼設することができる。従って、仮防水構造1を撤去することなく本防水シートによる防水工事を完成させることができるので、撤去作業の手間を省くことができる。また、本防水シートの施工中に降雨があったとしても、建物内部を濡らしてしまうことがない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、陸屋根を備える建物に有効に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…仮防水構造
10…仮樋
20…仮排水用ドレイン
30…第1の仮防水シート
40…第2の仮防水シート
P…パラペット(胸壁)
R…外周屋根梁
R…屋根スラブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物外周部に配置された外周屋根梁と、前記外周屋根梁に架設された屋根スラブと、前記屋根スラブの上面よりも上方に突出するように前記外周屋根梁の外側に配置された胸壁と、を備えるとともに、前記屋根スラブの架設後に設置される仮防水構造を備える建物であって、
前記仮防水構造は、前記屋根スラブの上面よりも下方に位置するように前記外周屋根梁の上に載置された断面コ字状の仮樋と、前記仮樋の側面に連通接続され前記胸壁を貫通して前記胸壁外方に突出するように設けられた仮排水用ドレインと、前記屋根スラブの上面全体を覆うとともに端縁部が前記仮樋の内側に垂下するように貼設された第1の仮防水シートと、前記胸壁の上端を覆うとともに端縁部が前記仮樋の内側に垂下するように貼設された第2の仮防水シートと、から構成される、
建物。
【請求項2】
前記仮樋の外形幅寸法は、前記胸壁の内側面から前記屋根スラブの端縁までの離間寸法に対応するように設定される、
請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記屋根スラブ上に貼設される断熱材と、
前記断熱材を保護する保護板と、
前記保護板上に貼設される本防水シートと、をさらに備え、
前記断熱材、前記保護板及び前記本防水シートは、前記仮防水構造が残存した状態で貼設される、
請求項1又は2に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136859(P2012−136859A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289339(P2010−289339)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)