説明

建築物の補強構造

【課題】従来の筋交補強に比べて建築物の外観が損なわれたり採光や眺望が妨げられたりすることが少なく、施工が簡単であって、建築物の耐震性を大幅に向上させることが可能である建築物の補強構造を提供すること。
【解決手段】基礎上に立設された複数本の柱と、隣り合う柱間に架設された複数本の梁を備えている建築物の補強構造であって、上下に隣り合う梁間を前記柱と平行に上下方向に繋ぐように、地震発生時に生じる水平力に対する補強部材が設けられていることを特徴とする建築物の補強構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の耐震性を向上させるために用いられる建築物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の耐震性を向上させるための補強構造が数多く提案されており、代表的な補強構造の一つとして筋交補強が知られている(例えば特許文献1参照)。
図12は、筋交補強を施した建築物の一例を示す正面図である。
筋交補強は、簡易な構造で建築物の耐震性を向上させることが可能である点で優れているが、図12に示す如く、斜め方向に固定された筋交(S)によって建築物の外観が損なわれたり、窓からの採光や眺望が妨げられたりするという問題があった。
また、筋交(S)は斜め方向に取り付けられることから、取り付け箇所が多くなり(V字状の場合は3箇所、X字状の場合は4箇所)、また角部の納まりを良好にしなければならないために、施工に手間がかかるという問題もあった。
更に、老朽化した既存建築物に対して耐震補強を行う場合、筋交補強では一定の耐震性向上効果は得られるものの、大幅に耐震性を向上させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−38725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、従来の筋交補強に比べて建築物の外観が損なわれたり採光や眺望が妨げられたりすることが少なく、施工が簡単であって、建築物の耐震性を大幅に向上させることが可能である建築物の補強構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、基礎上に立設された複数本の柱と、隣り合う柱間に架設された複数本の梁を備えている建築物の補強構造であって、上下に隣り合う梁間を前記柱と平行に上下方向に繋ぐように、地震発生時に生じる水平力に対する補強部材が設けられていることを特徴とする建築物の補強構造に関する。
【0006】
請求項2に係る発明は、前記補強部材が、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材であって、前記長さ方向が前記上下方向となるように設けられていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造に関する。
【0007】
請求項3に係る発明は、前記補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材とからなる制震パネルからなり、前記棒状部材は、前記枠体の横部材間を繋ぐように且つ前記長さ方向が前記上下方向となるように前記枠体内部に設けられており、前記枠体の横部材が前記梁に接合されていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造に関する。
【0008】
請求項4に係る発明は、前記棒状部材の脆弱部が他の部分より薄く又は細く形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の建築物の補強構造に関する。
【0009】
請求項5に係る発明は、前記補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、該枠体の内部に設けられたプレストレストコンクリート板とからなる耐震パネルからなり、前記枠体の横部材が前記梁に接合されていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造に関する。
【0010】
請求項6に係る発明は、前記プレストレストコンクリート板に開口部が設けられていることを特徴とする請求項5記載の建築物の補強構造に関する。
【0011】
請求項7に係る発明は、前記梁が建築物の外壁面から突出していることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の建築物の補強構造に関する。
【0012】
請求項8に係る発明は、建築物と、該建築物の外側に付設される補強構造体とを備えており、前記補強構造体が、請求項1乃至6いずれかに記載の補強構造を有することを特徴とする建築物の補強構造に関する。
【0013】
請求項9に係る発明は、前記補強構造体は、前記建築物の外壁面に沿って且つ該外壁面との間に間隔を有して立設された複数本の外側柱と、隣り合う外側柱の間に架設された外側梁と、前記外側柱と前記建築物の柱とを連結する連結梁とを備えており、前記上下に隣り合う外側梁間を前記外側柱と平行に上下方向に繋ぐように、前記補強部材が設けられていることを特徴とする請求項8記載の建築物の補強構造に関する。
【0014】
請求項10に係る発明は、前記建築物と前記補強構造体がプレストレストコンクリートパネルにより接合されていることを特徴とする請求項9記載の建築物の補強構造に関する。
【0015】
請求項11に係る発明は、前記プレストレストコンクリートパネルが水平部と垂直部を有するL字状に形成され、前記水平部が前記連結梁及び前記外側梁の上部に架設され、前記垂直部が前記建築物の柱に対して剛接合されていることを特徴とする請求項10記載の建築物の補強構造に関する。
【0016】
請求項12に係る発明は、前記補強部材が、上下に隣り合う前記プレストレストコンクリートパネル間を上下に繋ぐように設けられることにより、前記プレストレストコンクリートパネルを介して間接的に前記上下に隣り合う外側梁間を繋いでいることを特徴とする請求項11記載の建築物の補強構造に関する。
【0017】
請求項13に係る発明は、前記建築物が、請求項1乃至7いずれかに記載の補強構造を有する建築物であることを特徴とする請求項8乃至12いずれかに記載の建築物の補強構造に関する。
【0018】
請求項14に係る発明は、前記建築物が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有しており、前記補強構造体が請求項5又は6記載の補強構造を有していることを特徴とする請求項13記載の建築物の補強構造に関する。
【0019】
請求項15に係る発明は、前記建築物が請求項5又は6記載の補強構造を有しており、前記補強構造体が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有していることを特徴とする請求項13記載の建築物の補強構造に関する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、上下に隣り合う梁間を柱と平行に上下方向に繋ぐように、地震発生時に生じる水平力に対する補強部材が設けられていることから、補強部材によって建築物の外観が損なわれたり、窓からの採光や眺望が妨げられたりすることがなく、建築物の耐震性を向上させることが可能である。また、取り付け箇所が少なくて済み、角部の納まりの困難性がないため、施工が簡単である。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、補強部材が、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材であって、長さ方向が上下方向となるように設けられていることから、地震発生時に加わる水平方向の力を棒状部材の脆弱部が変形することにより吸収することができ、優れた制震効果を得ることができる。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材とからなる制震パネルからなり、棒状部材は、枠体の横部材間を繋ぐように且つ長さ方向が上下方向となるように枠体内部に設けられているため、地震発生時に加わる水平方向の力を棒状部材の脆弱部が変形することにより吸収することができ、優れた制震効果を得ることができる。また、枠体の横部材が梁に接合されていることから、枠体により耐震性を更に補強することができる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、棒状部材の脆弱部が他の部分より薄く又は細く形成されていることにより、棒状部材を単一の部材(例えば1枚の鋼板)として脆弱部を形成することができ、棒状部材を簡易な構成とすることができる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、枠体の内部に設けられたプレストレストコンクリート板とからなる耐震パネルからなり、枠体の横部材が梁に接合されていることから、耐震パネルにより地震発生時に生じる水平力を受けることができ、耐震性を向上させることが可能となる。
【0025】
請求項6に係る発明によれば、プレストレストコンクリート板に開口部が設けられていることから、開口部を窓として機能させることが可能となり、開口部から採光、眺望、風通しを確保することができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、梁が建築物の外壁面から突出していることから、建築物の外側において耐震性を高める補強構造を設けることができ、特に既設建築物に対する耐震補強を容易に行うことができる。
【0027】
請求項8に係る発明によれば、建築物と、該建築物の外側に付設される補強構造体とを備えており、補強構造体が請求項1乃至6いずれかに記載の補強構造を有することから、補強構造体により建築物の耐震性を高めることができる。また、既存建築物自体に補強構造を設けることが困難である場合であっても、外側に補強構造体を付設することにより、既存建築物の耐震性を向上させることが可能である。
【0028】
請求項9に係る発明によれば、補強構造体は、建築物の外壁面に沿って且つ該外壁面との間に間隔を有して立設された複数本の外側柱と、隣り合う外側柱の間に架設された外側梁と、外側柱と建築物の柱とを連結する連結梁とを備えており、上下に隣り合う外側梁間を外側柱と平行に上下方向に繋ぐように補強部材が設けられていることから、地震発生時に加わる水平方向の力を補強部材により吸収することができ、優れた制震効果を得ることができる。
【0029】
請求項10に係る発明によれば、建築物と補強構造体がプレストレストコンクリートパネルにより接合されているため、建築物と補強構造体との連結部分に加わる水平力に対する強度に優れたものとなる。
【0030】
請求項11に係る発明によれば、プレストレストコンクリートパネルが水平部と垂直部を有するL字状に形成され、水平部が連結梁及び外側梁の上部に架設され、垂直部が建築物の柱に対して剛接合されていることから、建築物と補強構造体との接合強度が非常に高くなり、補強構造体による耐震性向上効果を高めることができる。
【0031】
請求項12に係る発明によれば、補強部材が、上下に隣り合うプレストレストコンクリートパネル間を上下に繋ぐように設けられることにより、プレストレストコンクリートパネルを介して間接的に上下に隣り合う外側梁間を繋いでいることから、地震発生時に加わる力を補強部材とプレストレストコンクリートパネルの両方で分散して受けることが可能となり、耐震性をより向上させることができる。
【0032】
請求項13に係る発明によれば、建築物と補強構造体の両方が補強構造を有しているため、建築物と補強構造体の両方において地震発生時に生じる水平力を受けることが可能となり、極めて優れた耐震性を発揮することができる。
【0033】
請求項14に係る発明によれば、建築物が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有しており、補強構造体が請求項5又は6記載の補強構造を有していることから、建築物が制震機能を有し、補強構造体が耐震機能を有することとなり、異なる2つの機能が組み合わされることによって耐震性を著しく向上させることができる。
【0034】
請求項15に係る発明によれば、建築物が請求項5又は6記載の補強構造を有しており、補強構造体が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有していることから、建築物が耐震機能を有し、補強構造体が制震機能を有することとなり、異なる2つの機能が組み合わされることによって耐震性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る建築物の補強構造の第一実施形態を示す全体図であって、(a)は正面図、(b)は平面断面図である。
【図2】(a)は図1(a)の円内拡大図であって、(b)は(a)の縦断面図、(c)は(a)の部分拡大図である。
【図3】第一実施形態の補強構造において地震発生時に補強部材の脆弱部が変形した状態を示す図である。
【図4】本発明に係る建築物の補強構造の第二実施形態の要部を示す図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)は補強部材(制震パネル)の分解斜視図である。
【図5】第二実施形態の補強構造において地震発生時に補強部材の脆弱部が変形した状態を示す図である。
【図6】第二実施形態の補強構造において使用される補強部材としての制震パネルの変更例を示す図である。
【図7】本発明に係る建築物の補強構造の第三実施形態の要部を示す図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図8】第三実施形態の補強構造において使用される補強部材としての耐震パネルの変更例を示す図である。
【図9】本発明に係る建築物の補強構造の第四実施形態を示す全体図であって、(a)は正面図、(b)は平面断面図である。
【図10】本発明に係る建築物の補強構造の第四実施形態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は(a)の円内拡大断面図である
【図11】本発明に係る建築物の補強構造の第五実施形態の要部を示す縦断面図である。
【図12】筋交補強を施した従来の建築物の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る建築物の補強構造の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る建築物の補強構造の第一実施形態を示す全体図であって、(a)は正面図、(b)は平面断面図である。図2は図1の円内拡大図であって、(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)は(a)の部分拡大図である。
【0037】
本発明に係る補強構造は、基礎上に立設された複数本の柱(1)と、隣り合う柱(1)間に架設された複数本の梁(2)を備えている建築物の補強構造であって、上下に隣り合う梁(2)の間を柱(1)と平行に上下方向に繋ぐように、地震発生時に生じる水平力に対する補強部材(3)が設けられている。
柱(1)及び梁(2)は、鉄筋コンクリートや鉄筋鉄骨コンクリート等からなる。
【0038】
第一実施形態の補強構造において用いられる補強部材(3)は、長さ方向の一部分(図示例では中間部分)に他の部分(5)より剛性が低い脆弱部(4)を有する棒状部材であって、その長さ方向が上下方向となるように設けられている(図2参照)。尚、図中(M)は建築物の窓である。
脆弱部(4)は水平力を受けた時に他の部分(5)よりも変形し易ければよく、その具体的な形成方法は特に限定されないが、図2(b)では脆弱部(4)を他の部分(5)よりも薄くした例が示されている。但し、補強部材(3)に脆弱部(4)を形成する方法はこれに限定されず、例えば脆弱部(4)を他の部分(5)より細く形成する方法や、脆弱部(4)を他の部分(5)よりも低剛性の部材で形成する方法を採用してもよい。
脆弱部(4)を他の部分(5)より薄く又は細く形成した場合、補強部材(3)を単一の部材(例えば1枚の鋼板)から形成することができ、棒状部材を簡易な構成とすることができる。
脆弱部(4)を設ける位置は図示のように棒状部材(3)の中間部分とすることが好ましいが、上方位置や下方位置であってもよい。また、脆弱部(4)は図示のように1箇所に設けてもよいし、複数箇所に設けてもよい。
【0039】
補強部材(3)は、鋼や鉄等の金属材料から形成されている。
補強部材(3)の上下端部には夫々金属製のベースプレート(6)が取り付けられており、上部のベースプレート(6)と上部の梁(2)、下部のベースプレート(6)と下部の梁(2)が、夫々無収縮モルタル(7)を介してアンカーボルト(8)により固定されている(図2(c)参照)。
このように、補強部材(3)の上下2箇所だけを建築物の梁に固定すればよいことから、補強部材(3)の取り付け施工が非常に容易である。
【0040】
補強部材(3)は、建築物の外側に設けてもよいし内側に設けてもよいが、図示の如く、梁(2)が建築物の外壁面から突出している場合には、建築物を壊すことなく建築物の外側にそのまま取り付けることができる。
ここで、補強部材(3)が従来の筋交のように斜め方向ではなく上下方向に設けられることから、補強部材(3)によって建築物の外観が損なわれたり、窓からの採光や眺望が妨げられたりすることを防ぐことができる(図1(a)参照)。
【0041】
第一実施形態の補強構造を備えた建築物は、地震発生時に建築物に対して水平力が加わると、図3に示すように補強部材(3)の脆弱部(4)が変形する。この脆弱部(4)の変形によって水平力が吸収されるため、優れた制震効果を得ることができる。つまり、補強構造の中にわざと弱い部分をつくり地震発生時にその部分を変形させることで、地震の力を吸収して制震効果を発揮することができる。
【0042】
本発明(後述する全ての実施形態を含む)において、補強部材(3)は、建築物の一部に取り付けてもよいし(図1(a)参照)、全体に取り付けてもよい。また、新築の建築物に対して建築時に取り付けてもよいし、既存の建築物に対して後付けで取り付けてもよい。既存建築物に取り付ける場合には、既存建築物に対する有効性が高い耐震補強工法となる。
【0043】
図4は本発明に係る建築物の補強構造の第二実施形態の要部を示す図であって、図1(a)の円内に相当する部分の拡大図である。図4(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)は補強部材の分解斜視図である。
第二実施形態の補強構造は、補強部材(3)の構成が上記第一実施形態のものと異なっている。
具体的には、補強部材(3)が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体(9)と、枠体(9)の横部材間を繋ぐように且つ長さ方向が上下方向となるように枠体(9)の内部に設けられた棒状部材(10)とからなる制震パネルから構成されている。
棒状部材(10)は、上記第一実施形態において用いられる棒状の補強部材と同じ構成であり、長さ方向の一部分に他の部分(5)より剛性が低い脆弱部(4)を有している。
【0044】
枠体(9)は、鋼や鉄等の金属材料から形成されている。
補強部材(3)は、枠体(9)の横部材が梁(2)に対して接合されている。接合方法としては、第一実施形態と同様に、無収縮モルタルとアンカーボルトを用いて固定する方法が好適に採用される。また、枠体(9)の縦部材を柱(1)に対して同様の方法により接合してもよい。
【0045】
第二実施形態における補強部材(3)も、第一実施形態と同様に、建築物の外側に設けてもよいし内側に設けてもよいが、梁(2)が建築物の外壁面から突出している場合には、建築物を壊すことなく建築物の外側にそのまま取り付けることができる(図4(a)(b)参照)。そして、第一実施形態の場合と同様に、補強部材(3)によって建築物の外観が損なわれたり、窓からの採光や眺望が妨げられたりすることを防ぐことができる。
【0046】
第二実施形態の補強構造を備えた建築物は、地震発生時に建築物に対して水平力が加わると、図5に示すように補強部材(3)の棒状部材(10)の脆弱部(4)が変形する。この脆弱部(4)の変形によって水平力が吸収されるため、優れた制震効果を得ることができる。つまり、補強構造の中にわざと弱い部分をつくり地震発生時にその部分を変形させることで、地震の力を吸収して制震効果を発揮することができる。
更に、枠体(9)の横部材が梁(3)に接合されていることから、枠体(9)により耐震性を更に補強することができる。枠体(9)の縦部材が柱(2)に接合されていると更に補強効果を向上させることができる。
【0047】
図6は第二実施形態の補強構造において使用される補強部材(3)としての制震パネルの変更例を示す図であり、枠体(9)の内部に設けられた棒状部材(10)の形態が異なっている。
図6(a)は棒状部材(10)を複数本とした例、(b)は棒状部材(10)の全体を太く形成した例、(c)は棒状部材(10)の脆弱部(4)より他の部分(5)を太く形成した例であって他の部分(5)を脆弱部(4)から離れるにつれてテーパ状に太くなるように形成している。但し、棒状部材(10)の数及び形状は図示例には限定されない。
【0048】
図7は本発明に係る建築物の補強構造の第三実施形態の要部を示す図であって、図1(a)の円内に相当する部分の拡大図である。図7の(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
第三実施形態の補強構造は、補強部材(3)の構成が上記第一実施形態及び第二実施形態のものと異なっている。
具体的には、補強部材(3)が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体(9)と、枠体(9)の内部に設けられたプレストレストコンクリート板(11)とからなる耐震パネルから構成されている。
【0049】
枠体(9)は、鋼や鉄等の金属材料から形成されている。
補強部材(3)は、枠体(9)の横部材が梁(2)に対して接合されている。接合方法としては、第一及び第二実施形態と同様に、無収縮モルタルとアンカーボルトを用いて固定する方法が好適に採用される。また、枠体(9)の縦部材を柱(1)に対して同様の方法により接合してもよい。
【0050】
第二実施形態における補強部材(3)も、第一実施形態と同様に、建築物の外側に設けてもよいし内側に設けてもよいが、梁(2)が建築物の外壁面から突出している場合には、建築物を壊すことなく建築物の外側にそのまま取り付けることができる(図7参照)。
【0051】
第三実施形態の補強構造を備えた建築物は、地震発生時に建築物に対して水平力が加わると、補強部材(3)のプレストレストコンクリート板(11)を有する耐震パネルにてこの水平力を受けることができるため、耐震性を向上させることが可能となる。
【0052】
図8は第三実施形態の補強構造において使用される補強部材(3)としての耐震パネルの変更例を示す図であり、枠体(9)の内部に設けられたプレストレストコンクリート板(11)の形態が異なっている。具体的には、図7に示したプレストレストコンクリート板(11)は開口部を有していないが、図8に示したプレストレストコンクリート板(11)は開口部を有している。
【0053】
図8(a)はプレストレストコンクリート板(11)の中心に枠体(9)より一回り小さい矩形の開口部(12)を設けた例、(b)はプレストレストコンクリート板(11)の四隅に三角形の開口部(12)を設けた例、(c)はプレストレストコンクリート板(11)の中心に菱形の開口部(12)を設けた例である。但し、開口部(12)の形状及び数は図示例のものに限定されない。
このように、プレストレストコンクリート板(11)に開口部(12)を設けることにより、開口部(12)を窓として機能させることが可能となり、補強部材(3)によって建築物の外観が損なわれたり、窓からの採光や眺望や風通しが妨げられたりすることが抑制される。
【0054】
図9は本発明に係る建築物の補強構造の第四実施形態を示す全体図であって、(a)は正面図、(b)は平面断面図である。また、図10(a)は側面図、(b)は(a)の円内拡大断面図である
第四実施形態の補強構造は、建築物(20)と、この建築物(20)の外側に付設される補強構造体(30)とを備えており、補強構造体(30)が上記第一乃至第三実施形態のいずれかの補強構造を有している。
【0055】
建築物(20)は、上記第一乃至第三実施形態と同様であって、基礎上に立設された複数本の柱(1)と、隣り合う柱間に架設された複数本の梁(2)を備えている。
補強構造体(30)は、建築物(20)の外壁面に沿って且つ該外壁面との間に間隔を有して立設された複数本の外側柱(31)と、隣り合う外側柱(31)の間に架設された外側梁(32)と、外側柱(31)と建築物(20)の柱(1)とを連結する連結梁(33)とを備えている。
【0056】
建築物(20)と補強構造体(30)は、プレストレストコンクリートパネル(40)により接合されている。これにより、地震発生時に建築物(20)と補強構造体(30)との連結部分に加わる水平力に対する強度に優れたものとなる。
【0057】
プレストレストコンクリートパネル(40)は、図10(b)に示すように、水平部(41)と垂直部(42)を有するL字状に形成されている。そして、水平部(41)が連結梁(33)及び外側柱(31)の上部に架設固定され、垂直部(42)が建築物(20)の柱(1)に対してボルト(43)により剛接合されている。
これにより、建築物(20)と補強構造体(30)との接合強度が非常に高くなり、補強構造体(30)による耐震性向上効果を高めることができる。
【0058】
補強構造体(30)の補強構造は、上下に隣り合う外側梁(32)間を外側柱(31)と平行に上下方向に繋ぐように、上記第一乃至第三実施形態のいずれかの補強部材(3)が設けられているものである。
ここで、補強部材(3)は、上下に隣り合う外側梁(32)間を直接繋ぐように設けてもよいが(図示略)、プレストレストコンクリートパネル(40)を介して間接的に上下に隣り合う外側梁(32)間を繋ぐことが好ましい(図10(b)参照)。
図10(b)に示す例では、プレストレストコンクリートパネル(40)の水平部(41)が外側梁(32)よりも外側に突出しており、補強部材(3)が上下に隣り合うプレストレストコンクリートパネル(40)の水平部(41)間を上下に繋ぐように設けられている。これにより、上下に隣り合う外側梁(32)間がプレストレストコンクリートパネル(40)を介して間接的に補強部材(3)により繋がれている。
このように、補強部材(3)がプレストレストコンクリートパネル(40)を繋ぐ構成とすると、地震発生時に加わる力を補強部材(3)とプレストレストコンクリートパネル(40)の両方で分散して受けることが可能となり、耐震性をより向上させることができる。
【0059】
第四実施形態の補強構造は、図示例では、第一実施形態の棒状部材からなる補強部材(3)を設けたものを示しているが、これに代えて、第二実施形態の枠体(9)と棒状部材(10)とからなる制震パネルから構成された補強部材を設けてもよいし、第三実施形態の枠体(9)とプレストレストコンクリート板(11)からなる耐震パネルから構成された補強部材を設けてもよい。
いずれの補強部材(3)についても、外側梁(32)又はプレストレストコンクリートパネル(40)に対する固定方法は、補強部材(3)の梁(2)に対する固定方法と同様である。
【0060】
第四実施形態の補強構造によれば、建築物(20)に付設された補強構造体(30)が上記第一乃至第三実施形態のいずれかの補強構造を有しているため、地震発生時に生じる水平力を、第一実施形態の棒状部材からなる補強部材、第二実施形態の枠体(9)と棒状部材(10)とからなる制震パネルから構成された補強部材、第三実施形態の枠体(9)とプレストレストコンクリート板(11)からなる耐震パネルから構成された補強部材のいずれかで受けることができる。そして、建築物(20)と補強構造体(30)がプレストレストコンクリートパネル(40)により接合されていることと相俟って、建築物(20)の耐震性を大きく向上させることができる。
第四実施形態の補強構造は、既存建築物に対する耐震補強が困難である場合であっても、既存建築物に対して補強構造体(30)を付設することにより、既存建築物の耐震性を向上させることが可能となる点で有効性が高い。
【0061】
図11は本発明に係る建築物の補強構造の第五実施形態の要部を示す縦断面図である。
第五実施形態の補強構造は、建築物(20)と、この建築物(20)の外側に付設される補強構造体(30)とを備えており、建築物(20)と補強構造体(30)の両方が上記第一乃至第三実施形態のいずれかの補強構造を有している。
即ち、第五実施形態の補強構造は、第四実施形態の補強構造において、建築物(20)に上記第一乃至第三実施形態のいずれかの補強構造を設けたものである。図11では、建築物(20)と補強構造体(30)の両方に上記第一実施形態の補強構造を設けた構造が示されている。
【0062】
第五実施形態の補強構造において、建築物(20)に設けられる補強構造と補強構造体(30)に設けられる補強構造の組み合わせ方は特に限定されないが、異なる機能を有する補強構造を組み合わせることが好ましい。
上記第一及び第二実施形態の補強構造は制震機能を有しており、上記第三実施形態の補強構造は耐震機能を有している。そのため、建築物(20)に上記第一又は第二実施形態の補強構造を設けて補強構造体(30)に上記第三実施形態の補強構造を設けるか、或いは建築物(20)に上記第三実施形態の補強構造を設けて補強構造体(30)に上記第一又は第二実施形態の補強構造を設けることが好ましい。
前者の場合には、建築物(20)が制震機能を有し、補強構造体(30)が耐震機能を有することとなり、後者の場合には、建築物(20)が耐震機能を有し、補強構造体(30)が制震機能を有することとなる。いずれの場合でも、異なる2つの機能が組み合わされることによって耐震性を著しく向上させることができる。
【0063】
第五実施形態の補強構造によれば、建築物(20)と補強構造体(30)の両方が補強構造を有しているため、建築物(20)と補強構造体(30)の両方において地震発生時に生じる水平力を受けることが可能となり、極めて優れた耐震性を発揮することができる。特に建築物(20)と補強構造体(30)の補強構造に互いに異なる機能を持たせることで耐震性を著しく高めることが可能となる。
【0064】
上記第四及び第五実施形態の補強構造において、図示例では補強構造体(30)を建築物(20)の正面側に設けた場合が示されているが、背面側もしくは側面側に設けてもよい。また、建築物(20)の周囲の全体又は一部を囲うように設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る建築物の補強構造は、建築物の耐震性を向上させるために利用することができ、例えば老朽化により耐震性が低下した既存建築物を耐震補強するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 柱
2 梁
3 補強部材
4 脆弱部
5 他の部分
9 枠体
10 棒状部材
11 プレストレストコンクリート板
12 開口部
20 建築物
30 補強構造体
31 外側柱
32 外側梁
33 連結梁
40 プレストレストコンクリートパネル
41 水平部
42 垂直部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎上に立設された複数本の柱と、隣り合う柱間に架設された複数本の梁を備えている建築物の補強構造であって、
上下に隣り合う梁間を前記柱と平行に上下方向に繋ぐように、地震発生時に生じる水平力に対する補強部材が設けられていることを特徴とする建築物の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材が、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材であって、前記長さ方向が前記上下方向となるように設けられていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造。
【請求項3】
前記補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、長さ方向の一部分に他の部分より剛性が低い脆弱部を有する棒状部材とからなる制震パネルからなり、
前記棒状部材は、前記枠体の横部材間を繋ぐように且つ前記長さ方向が前記上下方向となるように前記枠体内部に設けられており、
前記枠体の横部材が前記梁に接合されていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造。
【請求項4】
前記棒状部材の脆弱部が他の部分より薄く又は細く形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の建築物の補強構造。
【請求項5】
前記補強部材が、縦部材と横部材からなる矩形状の枠体と、該枠体の内部に設けられたプレストレストコンクリート板とからなる耐震パネルからなり、
前記枠体の横部材が前記梁に接合されていることを特徴とする請求項1記載の建築物の補強構造。
【請求項6】
前記プレストレストコンクリート板に開口部が設けられていることを特徴とする請求項5記載の建築物の補強構造。
【請求項7】
前記梁が建築物の外壁面から突出していることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の建築物の補強構造。
【請求項8】
建築物と、該建築物の外側に付設される補強構造体とを備えており、
前記補強構造体が、請求項1乃至6いずれかに記載の補強構造を有することを特徴とする建築物の補強構造。
【請求項9】
前記補強構造体は、前記建築物の外壁面に沿って且つ該外壁面との間に間隔を有して立設された複数本の外側柱と、隣り合う外側柱の間に架設された外側梁と、前記外側柱と前記建築物の柱とを連結する連結梁とを備えており、
前記上下に隣り合う外側梁間を前記外側柱と平行に上下方向に繋ぐように、前記補強部材が設けられていることを特徴とする請求項8記載の建築物の補強構造。
【請求項10】
前記建築物と前記補強構造体がプレストレストコンクリートパネルにより接合されていることを特徴とする請求項9記載の建築物の補強構造。
【請求項11】
前記プレストレストコンクリートパネルが水平部と垂直部を有するL字状に形成され、前記水平部が前記連結梁及び前記外側梁の上部に架設され、前記垂直部が前記建築物の柱に対して剛接合されていることを特徴とする請求項10記載の建築物の補強構造。
【請求項12】
前記補強部材が、上下に隣り合う前記プレストレストコンクリートパネル間を上下に繋ぐように設けられることにより、前記プレストレストコンクリートパネルを介して間接的に前記上下に隣り合う外側梁間を繋いでいることを特徴とする請求項11記載の建築物の補強構造。
【請求項13】
前記建築物が、請求項1乃至7いずれかに記載の補強構造を有する建築物であることを特徴とする請求項8乃至12いずれかに記載の建築物の補強構造。
【請求項14】
前記建築物が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有しており、前記補強構造体が請求項5又は6記載の補強構造を有していることを特徴とする請求項13記載の建築物の補強構造。
【請求項15】
前記建築物が請求項5又は6記載の補強構造を有しており、前記補強構造体が請求項2乃至4いずれかに記載の補強構造を有していることを特徴とする請求項13記載の建築物の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−127405(P2011−127405A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289801(P2009−289801)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(509092166)
【Fターム(参考)】