説明

建築用笠木

【目的】 建築用の笠木はその基板と側板とを溶接して一体形状としているが、施工後この接合部に色ヌケ現象などが発生し、笠木の不良品となるので、この色ヌケ現象を防止する。
【構成】 笠木(36)を基板(37)と側板(38、39)とで構成し、基板(37)と側板(38、39)の溶接部(45)とは反対側の空間(44)に隙間(47)を作り、該空間(44)を外部に開放させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建築物に用いられる笠木の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】建築物用笠木の例を、図8〜図10に示す。図8に示す例は、建築物の屋上から突出するパラペット1の立壁の頂部に笠木2を設け、当該頂部からの雨水の滲み込みを防止するとともに、パラペットの見栄をよくするパラペット笠木の例である。パラペット1は、植込みボルト3と、該ボルト3を介してパラペット1に支持されたホルダー4とを有し、該ホルダー4に笠木1を着脱自在に保持させる構成となっている。
【0003】図9に示す例は、建築物の段部5の水切りに用いる笠木6の例で、建築物の外面の仕上壁7を介してホルダー8をビス14にて建築物に固定し、このホルダー8に笠木6を着脱自在に支持させたものである。即ち、水切り笠木の例である。9はコーキングを示す。
【0004】図10は、躯体10の下端に配した笠木11の例である。この例では、ホルダー12が、L型アングル材13とともに、ビス14にて躯体10に固定され、このホルダー12に笠木11を弾性係止して支持させたものである。15は天板を示し、9はコーキングを示す。前述した如く、笠木2、6、11は建築物の各所に用いられ、その断面形状も様々な形状となっている。このように種々な断面形状を有する笠木2、6、11はアルミ合金の押出し型材又はアルミニウム板から成形されるが、笠木2、6、11の両端部をホルダー4、8、12にスナップ止めさせる関係で薄肉とし、弾性を確保し易いようにする。
【0005】図示した如き代表的な断面形状の笠木2、6、11は、薄肉と巾寸法大の場合若しくは笠木を弧状形成する理由で、一体成形不可能なことから、図8〜図1010中にA印で示す部分で分割された形の三枚板として押出し又は折曲げ成形し、その後、Aの部分を接合して一体の笠木2、6、11とする工程が採用される。接合手段の最っとも簡単な手段は、図13に示す如く、笠木の基板16と側板17とを当接させ、溶接若しくはビスにて笠木2、6、11の基板16と側板17とを、Aの部分で接合するものである。しかし、この接合手段は、溶接の凸凹状による肉盛り18又はビス(図示なし)が外表面に露呈することから、見栄えが悪く好ましい手段でない。又、溶接部側は笠木とろう溶着されるが、溶接の反対側は基板と側板とは突き合わせ状態(キレツ状態)の小さな空間を作り、これが陽極酸化処理の酸性液、ときには陽極酸化皮膜処理のための前処理のアルカリ性液をため込む空間となり、後のこの液出しによる色ヌケ等の現象となり見栄えが悪くなる。
【0006】そこで、図11と図12に示す手段が提案されている。図11に示す例は、側板17の上部に横向きの対の縁19、19により空間20を作り、この空間20に基板16の一端を挿入し、内側から溶接し、肉盛り18を外部に出さないようにしたものである。又、図1212に示す例は、側板17の上部にカギ縁21を作り、下向きの空間22を形成し、基板16の端部を側板17とカギ縁21に当接させ、内方より溶接し、肉盛り18を外部に露呈させないものである。基板16と側板17との当りは密で、空間20、22への雨水のたまりは少い。図11と図12の手段は、対の縁19、19やカギ縁21により基板16と側板17との当り面及び肉盛り18が隠れ見栄がよいので、図13の例より多用される。又、図11の溶接にかえビス止めされる構成もできるが、見栄え、強度その他に問題がある。
【0007】Aの部分で溶接にて一体に接合された笠木2、6、11は、次いで、アルマイト処理即ち陽極酸化皮膜処理を受ける。この陽極酸化皮膜処理は、たとえば、仮性ソーダなどアルカリ性液を用いて前処理し、硫酸、電解処理としてシュウ酸、又はホウ酸を主成分とする酸性の電解質などの液の中で電解酸化させるもので、アルミニウム合金材やアルミニウム材(以下アルミニウム材という)からなる種々の製品の耐蝕性向上や着色のために利用される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前述した陽極酸化皮膜を形成後に笠木が図8〜図10のようにして建築物に施工される、又は陽極酸化皮膜処理中に、図11と図12の例で云うと、Aの部分の空間20、22からの液出しを中心に色ヌケ現象と陽極酸化皮膜処理面のタダレ、腐蝕などが認められる。色ヌケ現象は、着色皮膜の場合特に目立ち、不良品として再作製が要求される。本発明は、この色ヌケ現象、腐蝕などの液出し原因を解明し、前述した従来技術の不具合を解消させることを解決すべき課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、笠木の基板と側板との間の空間から滲み出る液により、色ヌケ現象が発生するのではという仮説に基づき、該空間からの液を分析研究した結果、それらが主に酸系であることをつきとめ、且つ酸系の液が当該空間に陽極酸化皮膜処理時に入り込むことを見出した。特に、陽極酸化皮膜を生成する電解液の酸が空間に入ると後の水洗工程での洗浄性が悪く濃度の高い、例えばPH1以下の値となることが分かった。これらの事実に基づき、本発明は笠木の基板と側板との接合部の形状改良をなした本発明を提供する。
【0010】本発明は、具体的には、基板の両端に側板を固着してなる建築用笠木において、前記側板が前記基板の端を受ける当接面と前記基板の外面に対して離間して対向する突部を有することを特徴とする建築用笠木を提供する。
【0011】
【作用】本発明によれば、側板と基板との間の空間が突部と基板との間の隙間を介して外部に開放されるので、前処理でのアルカリ系で後の腐蝕が生じたり、又、陽極酸化皮膜処理(着色処理を含む)の際、電解液が水洗いとともに流出し、使用時当該空間より酸系の液が滲み出るようなことはない。この結果、色ヌケ現象は完全に解消された。
【0012】
【実施例】図1に本発明をパラペット30に適用した例を代表的に図示する。本発明は水切り笠木や下端笠木に適用できるものである。パラペット30は仕上壁又はシールド板31を有し、かつその頂面にホルダー32をビス33により固定させる。ホルダー32は、アルミ合金押出型材よりなり、その両側の側片34、35がパラペット30の上側両側面を覆い、かつその一部が笠木36に当接自在とさせる。笠木36は、基板37と対の側板38、39とが個々に押出し成形又は板を折曲げ成形され、その後、AとA′の部分で接合され一体ものとされる。笠木36の両側板38、39の下端をホルダー32の側片34、35にスナップ止めさせることでホルダー32に笠木36を弾性係止に保持させる。
【0013】Aの部分の好ましい接合例を図2〜図5に示す。図2の例は、側板38の上部を逆L形に折返し、下向き縁40を設け、この下向き縁40と一体の突部41を離間対向して設ける。下向き縁40の下部は内側に段部42と外側に先細り状又はくさび状等のテーパ面43を有し、基板37の端面をこの段部42に位置合わせして当接させ、かつ突部41と基板37との間に隙間47を作り、空間44を外部に開放した形で、下向き縁40と基板37とを内方から溶接し、肉盛り45をそれらの裏面に作る。前記した段部42を設けないで先細りテーパ面43の先端と基板37の下端をそろえて溶接することができる。外部に開放された小さな空間部を備えることで前述した前処理や陽極酸化処理の液だまりを防止することができるため、基板37と側板38との間に空間44を備えることが肝要である。以下も同様である。
【0014】図3に示す例は突部41に先細り又はくさび状等のテーパ面46を、又、基板37の端面下とに裏面からの溶接接合部が侵入して設けた以外図2と同構成なので、同一構成に同一符号を記し、その説明を省略する。
【0015】図4に示す例は、下向き縁40に段部42を設けることなく、かつ空間44を横向きにさせ、加えて、基板37の端面と先細り、くさび状テーパ面43を折曲げ状に設け、基板37の端面とを対合して設けた以外、図2の例と同構成なので、同構成部に同符号を記し、その説明を省略する。
【0016】図5の例は図4の例と基本的に同構成であるが、空間44を作る下向き縁40の一部が外向き張出させ、基板37の端面と対合させ、空間44の奥行きを深くさせ、かつ下向き縁40の肉厚を薄くさせる。
【0017】図2と図3の段部42は基板37の位置決めを容易にし、又、テーパ面43は溶接の溶合を連結させ、基板37端面との当接部の確実な溶接合をさせると共に肉盛り45の張出しを少くする。図4と図5の基板37と突部41との間に隙間47を作り、横向きの空間44に入った液の流出を容易にする。前記各隙間47を好ましくは0.3mm以上の寸法とする。該寸法の上限は笠木の形状によるAの部分構造にもよるが基板の板厚寸法内として見栄えを損しない値とする。
【0018】図1のA′の部分の接合に適する例を図6と図7に示す。図6の例は他方の側板39に段付きで突部41、水平縁49を設け、この水平縁49の段部42に基板37を着座させ、基板37と水平縁49との間に0.3mm以上で基板37の板厚寸法内の空間44を、又、側板39端の外側に弧状のテーパ面43を内側の段部42側に溶接の溶合侵入部のテーパ面43′を形成する。図6の例は空間44はその開口と同寸法であるが、図7の例は隙間47の寸法を空間44より小さく、0.3mm以上の寸法で基板37の板厚寸法内とさせている。図6と図7の例は、基板37又は側板37の角を好ましくは溶解してミグ溶接した例示であるが、テグ溶接を用いても可能である。図1〜図7は直面状の基板37両側板38、39の笠木でも、又、前記基板37を扇状面とし、側板38、39を弧状に形状した。即ち曲状にする例示の笠木構成にも応用できる。
【0019】基板37と両側板38、39を一体に接合した笠木は、常法の如く、前処理又は陽極酸化皮膜処理を受けるが、電解液が空間44に入っても、水洗い工程で隙間47より外部に流出し、空間44内に酸系等の処理液が封入されることはない。
【0020】
【効果】本発明では、基板と側板を分割加工しこれを組合せる、大きな幅寸法に有効であり、又、側板を曲げ加工し、且つ基板を扇形状に切断加工することで弧状の笠木が容易に得られ、その場合でも、突部と基板との間の隙間が確保でき、色ヌケ等といった不具合が生じない。本発明は、各種の笠木に適用可能で、応用範囲が広い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例の笠木の断面図である。
【図2】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図3】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図4】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図5】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図6】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図7】基板と側板との結合例を示す断面図である。
【図8】パラペット笠木の一例を示す断面図である。
【図9】水切り笠木の一例を示す断面図である。
【図10】下端笠木の一例を示す断面図である。
【図11】基板と側板との従来の接合例を示す断面図である。
【図12】基板と側板との従来の接合例を示す断面図である。
【図13】基板と側板との従来の接合例を示す断面図である。
【符号の説明】
30 パラペット
32 ホルダー
36 笠木
37 基板
38、39 側板
40 下向き縁
41 突部
44 空間
45 肉盛り
47 隙間
49 水平縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板の端縁部に側板を固着してなる建築用笠木において、前記側板が前記基板の端を受ける当接面と前記基板の外面に対して離間して対向する突部を有することを特徴とする建築用笠木。
【請求項2】 前記基板の表面と前記側板の突部とが0.3mm以上離間する請求項1記載の建築用笠木。
【請求項3】 前記基板の表面と前記側板の突部とにより外部に開口する空間が形成される請求項1記載の建築用笠木。
【請求項4】 アルミニウム材の前記基板と前記側板とが溶接(ミグ溶接を含む)され且つ陽極酸化処理されている請求項3記載の建築用笠木。
【請求項5】 前記側板の突部が先細り縁を有するか及び/又は前記基板の縁がくさび状にカットされている請求項4記載の建築用笠木。
【請求項6】 前記基板と前記側板とが弧状となっている請求項5記載の建築用笠木。
【請求項7】 前記側板の一方の上部が他方の側板方向に折返されていることを特徴とする請求項6記載の建築用笠木。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平7−224505
【公開日】平成7年(1995)8月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−39306
【出願日】平成6年(1994)2月15日
【出願人】(000250432)理研軽金属工業株式会社 (89)