説明

建設機械の燃料判別装置

【課題】燃料の温度/密度の関係を予め記憶しておく等の面倒な作業無しで簡単に、しかも補給された燃料の適否を正確に判別する。
【解決手段】エンジンスイッチ2のオン/オフ信号をもとに、前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間を計測し、この経過時間が、予め設定された基準時間よりも長い場合に、その間に燃料が補給され、かつ、燃料温度がその常温に安定したものとして、センサ3によって検出された燃料密度に基づいて燃料の適否判別を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械において、エンジンに供給される燃料の適否を判別する燃料判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械において、たとえば動力源としてディーゼルエンジンが搭載された一般的なものでは、エンジンに供給される燃料は軽油が適正であるが、これよりも安価な灯油等の不適燃料が使用されることがある。
【0003】
この不適燃料が使用されるとエンジンの故障や不良排ガスの発生等の問題が起こるため、従来から燃料の適否を判別する燃料判別装置が提案されている。
【0004】
たとえば特許文献1には、エンジンスイッチ(所謂キースイッチ)がオン操作されるごとに燃料密度を検出し、検出される燃料密度を適正燃料の密度(正規密度)と比較することによって燃料の適否を判別する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、エンジンスイッチのオン操作時に燃料タンク内の燃料レベルを検出し、一定レベル以上のときに燃料補給されたとして燃料の適否を判別する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−261811号公報
【特許文献2】特開2008−261759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された公知技術の1のように、燃料が補給されたか否かを判断せずにエンジンスイッチのオン操作のみを条件として燃料の適否を判別する方法では、とくにエンジンスイッチオフからオンまでの時間が短い場合、燃料温度がまだ高い(適正燃料にとっての常温に復帰していない)状態で燃料密度の検出・判別を行うことになる。
【0008】
これでは、燃料密度は温度に左右されることから、正確な適否判別が困難となる。
【0009】
なお、特許文献1に記載された技術では、この点をカバーするために、予め燃料の温度と正規密度の関係を制御手段に記憶しておき、エンジンスイッチオン操作時の燃料温度から求められる正規密度と、検出された実際密度とを比較することとしている。
【0010】
しかし、燃料温度はエンジン温度や機体周囲温度等の影響を受けて変化するためこれらの温度変化に応じた細かな補正が必要であること、及び温度センサの応答性を含めて判別実行の応答性がこの温度変化に正確に追従できない可能性があることから、適否判別の信頼性に難点がある。
【0011】
また、燃料の温度/密度の特性を予めすべて調べて記憶しておかなければならず、この点の設定作業が面倒という問題もある。
【0012】
一方、特許文献2に記載された公知技術の2によると、理論的には、燃料レベルを検出することによって燃料補給を判断し、補給された燃料の適否を判別できることになる。
【0013】
しかし、現実には少量のレベル変化ではレベルセンサで検出できない可能性がある。このため、少量ずつ燃料を補給し、一定レベルを保つような補給方法をとられると補給判断ができない。
【0014】
また、アーム式のレベルセンサを用いたものでは、アームの可動範囲以外での燃料レベルの変化を検出できないため、やはり補給判断ができない。
【0015】
このため、公知技術の2によると、燃料適否の判別ができなくなるおそれがある。
【0016】
そこで本発明は、燃料の温度/密度の関係を予め記憶しておく等の面倒な設定作業無しで簡単に、しかも補給された燃料の適否を正確に判別することができる建設機械の燃料判別装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、エンジンの始動/停止を操作するエンジンスイッチと、上記エンジンに供給される燃料の密度等の物理量を検出するセンサと、このセンサによって検出される燃料の物理量に基づいて燃料の適否を判別する判別作用を行う制御手段とを具備し、この制御手段は、上記エンジンスイッチのオン/オフ信号に基づいて前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間を計測し、計測された経過時間が、予め設定された基準時間よりも長いときに上記判別作用を実行するように構成されたものである。
【0018】
ここで、上記基準時間は、基本的には燃料補給に要する時間(タンク容量や補給方法等によって異なる)に基づいて定められ、望ましくはさらに燃料がその常温に安定するのに要する時間を加味して定められる。この基準時間は機種によって一律に定めてもよいし、機械ごとに、またはユーザーごとに設定してもよい。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、上記エンジンに供給される燃料の温度を検出する燃料温度センサを備え、上記制御手段は、上記燃料温度センサによって検出された燃料温度が、燃料の常温を基準として予め設定された温度範囲にあることをアンド条件として上記判別作用を実行するように構成されたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間が基準時間よりも長い場合に、その間に燃料が補給され、かつ、燃料温度がその常温に安定したものとして、燃料密度等の物理量に基づく適否判別を行う構成としたから、特許文献1に記載された技術のように予め燃料の温度/密度の関係を調査し記憶させておく等の面倒な設定作業無しで簡単に適否判別を行うことができる。
【0021】
しかも、
(イ)安全確保のため燃料補給はエンジン停止中に行なわれるから、基準時間経過を条件とすることで、燃料補給されたことを見逃すおそれがない(適否判定のタイミングを失わない)こと、
(ロ)単純に、検出される燃料の物理量に基づいて適否判別すればよいため、特許文献1に記載された公知技術の1のような燃料の温度変化に応じた補正の必要もないし、温度変化に対する検出及び判別の応答遅れによる誤判定のおそれも、また公知技術の2のような燃料レベルの誤検出の問題もないこと
により、適否判定の信頼性が高いものとなる。
【0022】
ところで、補給される燃料の温度は、通常、常温であり、補給後の燃料全体温度も、時間経過とともに常温に近づく。
【0023】
従って、請求項2の発明のように燃料温度を温度センサで検出し、検出された燃料温度が、燃料の常温を基準として予め設定された温度範囲にあることをアンド条件として判別作用を実行する構成をとることにより、燃料が補給されたこと、つまり適否判別すべきタイミングであることをより正確に把握し、必要なときに必要な適否判別を実行することができる。
【0024】
この場合、燃料温度が設定範囲内にあるか否かだけをみればよいこと、基準となる温度範囲は、燃料の常温とその近辺の狭い範囲でよく、設定が単純でよいことにより、公知技術の1のように広範な温度/密度の関係として記憶しておく場合と異なり、設定作業が簡単であるとともに、補正といった誤判別の因子もない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料判別装置のシステム構成図である。
【図2】図1中のコントローラの内容を示すブロック図である。
【図3】同装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる燃料判別装置のシステム構成図である。
【図5】同装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1実施形態(図1〜図3参照)
図1に第1実施形態にかかる燃料判別装置のシステム構成を示す。
【0027】
この燃料判別装置は、制御手段としてのコントローラ1を具備し、エンジンスイッチ(キースイッチ)2のオン/オフ信号と、燃料の物理量(油種によって異なる。たとえば密度。以下、この例で説明する)を検出するセンサ3からの燃料密度信号とがコントローラ1に入力される。
【0028】
なお、上記エンジンスイッチ2のオン/オフ信号は、エンジンを始動させる操作の信号でもよいし、電源をオン/オフさせる操作の信号でもよい。
【0029】
コントローラ1は、図2に示すように、タイマ4と、記憶・演算処理部5と、出力部6とから成っている。
【0030】
タイマ4は、エンジンスイッチ2のオン/オフ信号から、前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間を計測し、計測された経過時間を記憶・演算処理部5に送る。
【0031】
記憶・演算処理部5は、経過時間Tpと予め設定された基準時間Tsとを比較し、Tp>Tsのときに、センサ3によって検出された燃料密度に基づいて燃料の適否を判別する。
【0032】
詳述すると、記憶・演算処理部5は、予め機械の適正燃料の正規密度(一定のばらつきを含めた密度範囲)を記憶しておき、検出された燃料密度とこの正規密度を比較することによって燃料の適否を判別する。
【0033】
また、上記基準時間は、エンジン停止後に燃料補給に要する時間(タンク容量や補給方法等によって決まる。たとえば10分)を基本として、さらに補給された燃料を含めた燃料全体がその常温に安定するのに要する時間(たとえば5分)を加味して定められる。
【0034】
コントローラ1には、ECU(エンジンコントロールユニット)7、表示器8、ブザー9、通信装置10がそれぞれ接続され、補給された燃料が正規燃料でないと判別されたときに、出力部6からECU7にエンジン停止指令、表示器8に警告表示指令、ブザー9に作動指令がそれぞれ出力される。
【0035】
これにより、エンジン11が強制停止するとともに、燃料不適正の表示及びブザー作動による警告がオペレータに向けて発せられる。同時に、通信装置10によって管理センター12にその旨が通知される。
【0036】
この点の作用を図3のフローチャートによってまとめて説明する。
【0037】
エンジンスイッチオン操作によって制御が開始された後、ステップS1で前回エンジンスイッチオフから今回エンジンスイッチオンまでの経時時間Tpが算出される。
【0038】
ステップS2で経過時間Tpが基準時間Tsと比較され、TP>Ts(基準時間よりも長い)と判断されると、ステップS3で燃料密度が検出される。
【0039】
ステップS4では、検出された燃料密度が正規密度と比較され、正常範囲内にあれば制御が終了し、正常範囲外(不適正)であればステップS5〜ステップS7でブザー作動、エンジン停止、管理センター12への通知がそれぞれ行なわれる。
【0040】
このように、前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間が基準時間よりも長い場合に、燃料が補給され、かつ、燃料温度がその常温に安定したものとして、燃料密度に基づく適否判別を行う構成としたから、特許文献1に記載された技術のように予め燃料の温度/密度の関係を調査し記憶させておく等の面倒な作業無しで簡単に適否判別を行うことができる。
【0041】
しかも、
(イ)安全確保のため燃料補給はエンジン停止中に行なわれるから、基準時間経過を条件とすることで、燃料補給されたことを見逃すおそれがない(適否判定のタイミングを失わない)こと、
(ロ)単純に、検出される燃料密度に基づいて適否判別すればよいため、特許文献1に記載された公知技術の1のような燃料の温度変化に応じた補正の必要もないし、温度変化に対する検出及び判別の応答遅れによる誤判定のおそれも、また公知技術の2のような燃料レベルの誤検出の問題もないこと
により、適否判定の信頼性が高いものとなる。
【0042】
また、燃料不適正と判別した場合に、積極的に表示器8に表示し、かつ、ブザー9を鳴らすため、ユーザーに不適正燃料が補給されたことを明確に認識させることができる。
【0043】
さらに、エンジン11を強制停止させることで機械の動きを制限し、より強制力のある燃料管理が可能となり、管理センター12に通知することで第三者による使用燃料の監視、記録が可能となる。
【0044】
第2実施形態(図4,5参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0045】
第2実施形態においては、燃料温度を検出する燃料温度センサ13が設けられ、検出された燃料温度が設定範囲内にあることをアンド条件として燃料の適否を判別する構成がとられている。
【0046】
図5のフローチャートによって作用を説明する。
【0047】
ステップS11,S12(図3のステップS1,Sに相当)で経過時間Tpの算出及び基準時間Tsとの比較が行われた後、ステップS13で燃料の温度と密度が検出され、ステップS14で燃料温度が設定範囲にあるか否かが判別される。
【0048】
設定範囲とは、正規燃料の常温にばらつきを含めた一定範囲をいい、この設定範囲内にあれば正規燃料であるとして、ステップS15に移行し、燃料密度の比較から燃料の適否が判別される。
【0049】
この後のステップS16〜S18は、第3図のステップS5〜S7と同じで、ブザー作動、エンジン停止、管理センター通知がそれぞれ行われる。
【0050】
この第2実施形態によると、燃料温度を見ることによって燃料が補給されたこと、つまり適否判別すべきタイミングであることをより正確に把握し、必要なときに必要な適否判別を実行することができる。
【0051】
この場合、燃料温度が設定範囲内にあるか否かだけをみればよいこと、基準となる温度範囲は、燃料の常温とその近辺の狭い範囲でよく、設定が単純でよいことにより、公知技術の1のように広範な温度/密度の関係として記憶しておく場合と異なり、設定作業が簡単であるとともに、補正といった誤判別の因子もない。
【0052】
ところで、燃料が不適正であると判別された場合に機械の動きを制限する処置として、エンジン停止の代わりに、機械の油圧動作を停止させる油圧ロックをかけるようにしてもよいし、エンジン回転数や油圧ポンプの吐出流量を制限するようにしてもよい。
【0053】
あるいは、このような制限は一切加えないようにしてもよい。
【0054】
また、燃料補給後、燃料全体の温度がその常温に安定するまでの時間は、補給量や周囲温度等によって多少異なるが一定範囲内にあるため、これを考慮して基準時間を定めておけば燃料温度を適否判別の条件にする必要は必ずしもない。
【0055】
一方、燃料の密度以外の、燃料によって特性が異なる物理量(動粘度や静電容量等)をセンサで検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 制御手段としてのコントローラ
2 エンジンスイッチ
3 センサ
4 経過時間を計測するタイマ
5 記憶・演算処理部
6 出力部
11 エンジン
13 燃料温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの始動/停止を操作するエンジンスイッチと、上記エンジンに供給される燃料の密度等の物理量を検出するセンサと、このセンサによって検出される燃料の物理量に基づいて燃料の適否を判別する判別作用を行う制御手段とを具備し、この制御手段は、上記エンジンスイッチのオン/オフ信号に基づいて前回のエンジン停止から今回のエンジン始動までの経過時間を計測し、計測された経過時間が、予め設定された基準時間よりも長いときに上記判別作用を実行するように構成されたことを特徴とする建設機械の燃料判別装置。
【請求項2】
上記エンジンに供給される燃料の温度を検出する燃料温度センサを備え、上記制御手段は、上記燃料温度センサによって検出された燃料温度が、燃料の常温を基準として予め設定された温度範囲にあることをアンド条件として上記判別作用を実行するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の燃料判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−286408(P2010−286408A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141497(P2009−141497)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)