説明

建設機械の燃料固化防止装置

【課題】燃料中のワックス状の油分の発生、所謂、燃料の固化の発生を抑えることができる建設機械の燃料固化防止装置を提供する。
【解決手段】底部に燃料吸込口15Dを有する燃料タンク15を備えた建設機械の燃料固化防止装置であって、前記燃料タンク15に近接配置され、内部に作動油Oを蓄積する作動油タンク16と、一方端17Aが前記作動油タンク16内に導入され、他方端17Bが前記燃料タンク15の底面側に配置されて、前記作動油Oの熱を燃料Fに伝達するヒートパイプ17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の燃料固化防止装置に係り、更に詳しくは、燃料タンク内の燃料におけるワックス状の油分の発生を防止することができる建設機械の燃料固化防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの暖機運転時間を短縮するために、エンジンの通常運転時に発生するラジエータの冷却水の熱を、第1のヒートパイプにより第1のタンク内の熱媒体に伝達して蓄熱し、エンジン始動時に、第1のタンク内の蓄熱された熱媒体を、第2のタンクに移送し、この第2のタンク内の熱媒体の熱を、第2のヒートパイプによりラジエータの冷却水に伝達するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−193182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、油圧ショベル等の建設機械は、世界各地で稼働しており、特に、寒冷での作業環境で使用されることが多々ある。このような寒冷地(極寒冷地)等の作業環境で、建設機械を使用する場合、燃料の温度低下により、燃料中にワックス状の油分が発生する。
【0005】
このワックス状の油分は、固形成分であるため、燃料フィルタを目詰まりさせることがある。この悪影響を改善するために、一般的には、低温に対応した燃料を使用しているが、例えば、何等かの事情で、燃料の対応下限温度以下に気温が急激に低下した場合には、上述したワックス状の油分が発生し、燃料フィルタの目詰まりを起こすことがある。この結果、燃料フィルタ内のエレメント交換が必要となり、この間、建設機械の稼働を停止せざるを得ないという事態を招いてしまう。
【0006】
このようなワックス状の油分の発生を抑えるために、建設機械の燃料フィルタ、及び燃料配管に、電気ヒータを取り付ける等の対策がなされている場合が多い。
【0007】
ところが、例えば、建設機械を極寒冷地で稼働させている場合、搭載した燃料タンク内の燃料は、稼働時間の経過に伴い費消されていく。そして、燃料の残量が低下した場合、燃料は、燃料タンクの外気側壁からその内面に伝達される外気温(極低温)により冷却され、その冷却熱量によっては、燃料中にワックス状の油分を発生させてしまうことがある。
【0008】
このように、燃料中にワックス状の油分が、一度生じてしまうと、外部のヒータ、あるいは温水等によって、燃料タンク、及びその燃料配管を暖めて、ワックス状の油分を融解させる等の多大な作業が必要になる。また、上述したように、燃料フィルタ内のエレメントの交換作業も必要になる。
【0009】
本発明は、上述した事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、燃料中のワックス状の油分の発生、所謂、燃料の固化の発生を抑えることができる建設機械の燃料固化防止装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、底部に燃料吸込口を有する燃料タンクを備えた建設機械の燃料固化防止装置であって、前記燃料タンクに近接配置され、内部に作動油を蓄積する作動油タンクと、一方端が前記作動油タンク内に導入され、他方端が前記燃料タンクの底面側に配置されて、前記作動油の熱を燃料に伝達するヒートパイプとを備えたものとする。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記ヒートパイプの一方端は、前記ヒートパイプの他方端より高い位置になるように、前記作動油タンク内の作動油中に導入されているものとする。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)にいて、好ましくは、前記ヒートパイプの他方端は、前記燃料タンクの前記燃料吸込口付近に配置したものとする。
【0013】
(4)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記ヒートパイプの他方端側は、前記燃料タンク内の前記燃料に接触するように、前記燃料タンクのタンク本体の外気側壁の内面に配置されているものとする。
【0014】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記前記ヒートパイプの一方端は、吸熱部であり、他方端は放熱部であるものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作動油タンク内の作動油の熱を、ヒートパイプによって燃料タンク内の底部側の燃料に伝達することができるので、燃料の固化発生を抑えることができる。その結果、燃料フィルタ内のエレメントの交換作業等に伴う、建設機械の稼働休止がなくなり、建設機械による生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械の側面図である。
【図2】図1に示す本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械を一部削除して示す斜視図である。
【図3】本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクを示す縦断面図である。
【図4】図3に示す本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクの横断面図である。
【図5】本発明の燃料固化防止装置の他の実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクを示す縦断面図である。
【図6】図5に示す本発明の燃料固化防止装置の他の実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の建設機械の燃料固化防止装置の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0018】
図1乃至図4は、本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械を示すもので、図1は、本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械の側面図、図2は図1に示す本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械を一部削除して示す斜視図、図3は、本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクを示す縦断面図、図4は、図3に示す本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクの横断面図である。
【0019】
図1及び図2において、本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた油圧ショベル等の建設機械1は、走行体フレーム2と、この走行体フレーム2の両側にそれぞれ装設した無限軌道形式の走行体3と、走行体フレーム2上の旋回可能に設けた旋回フレーム4と、旋回フレーム4上の前方部に俯仰動可能に取り付けられた多関節型のフロント装置5と、旋回フレーム4上の左側前方部に配設された運転室6と、旋回フレーム4上の後方側に配設され、エンジン及び油圧機器等の各種機器を収納する機械室7と、旋回フレーム4上の後方部に取り付けられたカウンタウエイト8とを備えている。
【0020】
前述したフロント装置5は、基端部が旋回フレーム4に回動可能に接続されたブーム9と、このブーム9の先端部に回動可能に接続されたアーム10と、このアーム10の先端に回動可能に接続されたバケット11とを備えており、ブーム9、アーム10、及びバケット11は、それぞれブーム用油圧シリンダ12、アーム用油圧シリンダ13、及びバケット用油圧シリンダ14により動作する。
【0021】
旋回フレーム4上の右前側部には、図1及び図2に示すように、燃料Fを蓄積する燃料タンク15が設置されている。燃料タンク15に後方部における旋回フレーム4上の右前側部には、油圧機器用の作動油Oを蓄積した作動油タンク16が、燃料タンク15に近接して設置されている。
【0022】
次に、上述した燃料タンク15、作動油タンク16、及びこれらに設けた本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を、図3及び図4を用いて説明する。
図3及び図4において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
燃料タンク15は、そのタンク本体15Aの上部に燃料供給筒15Bを備えている。燃料供給筒15Bの上部には、蓋となるキャップ15Cが着脱可能に設けられている。燃料タンク15のタンク本体15Aの底部には、燃料吸込口15Dが設けられている。燃料吸込口15Dは、燃料供給管15Eによってエンジン系に連結されている。
【0023】
燃料タンク15に近接して配置した作動油タンク16は、密閉構造のタンク本体16Aと、そのタンク本体16Aの底部に設けた作動油吸排口16Bを備えている。作動油吸排口16Bは、作動油管16Cによって油圧機器に連結されている。
【0024】
燃料タンク15と作動油タンク16とには、作動油タンク16内の作動油Oの熱を燃料タンク15内の燃料に伝達するための直線状のヒートパイプ17が設けられている。ヒートパイプ17の一方端、即ち、吸熱部17Aは、作動油タンク16内の作動油Oの上側に配置され、ヒートパイプ17の他方端、即ち、放熱部17Bは、燃料タンク15内の燃料Fの下側部分で、燃料吸込口15Dの上部に配置されている。
【0025】
上述したヒートパイプ17における一方端(吸熱部)17Aの作動油タンク16内の作動油Oの上側への配置は、作動油タンク16内に戻される熱せられた作動油Oが作動油タンク16内の上方部分に存在するので、その熱を有効に取り込むためである。
【0026】
また、上述したヒートパイプ17における他方端(放熱部)17Bの燃料タンク15内の燃料Fの下側部分で、しかも燃料吸込口15Dの上部への配置は、燃料Fの上面が順次下方に変動移動するので、その影響を受けないようにするとともに、燃料固化分(ワックス状の油分)を溶解して燃料吸込口15Dに供給されないようにするためである。
【0027】
次に、上述した本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態の動作を説明する。
作動油タンク16内には、油圧機器の作動により熱せられた作動油Oが戻される。この作動油Oは、燃料タンク15内の燃料Fの温度よりも高く、かつ温度が下がり難いという性状がある。
【0028】
一方、燃料タンク15内の燃料Fは、燃料タンク15の本体15Aの側面、及び上面等の外気側壁が極低温の外気にさらされて接触するので、燃料タンク15の外気側壁からその内面に伝達される外気温(極低温)により冷却される。したがって、燃料Fの燃料固化分(ワックス状の油分)は、主に、建設機械1が夜間等に一定時間停止していることにより、燃料タンク15内の燃料Fが冷却されて発生するが、建設機械1を極低温の環境下で稼働させている場合であっても、燃料タンク15内の燃料Fが費消して小質量になったときには、上述した冷却熱量により発生することがある。
【0029】
この様な場合であっても、ヒートパイプ17の吸熱部17Aは、作動油Oの熱を吸収し、この吸収熱を放熱部17Bに伝達しているので、ヒートパイプ17は、吸収熱を放熱部17Bで放熱し、燃料Fを暖める。これにより、燃料Fの温度低下が抑えられるので、燃料Fの温度低下に起因して生じる燃料の固化(ワックス状の油分)の発生を抑えることができる。
【0030】
その結果、燃料の固化(ワックス状の油分)の発生による燃料タンク、及びその燃料配管の暖め作業、燃料フィルタ内のエレメントの交換作業等が不要になり、極低温環境下でも建設機械1を停止することなく、稼働させることができ、その生産性を向上させることができる。
【0031】
また、建設機械1が夜間等に一定時間停止している場合にも、同様に燃料の固化(ワックス状の油分)の発生を抑えることができる。
【0032】
上述した本発明の実施の形態によれば、ヒートパイプ17により、作動油タンク16内の作動油Oの熱を、燃料タンク15内の燃料Fに伝達することができるので、極低温環境下でも建設機械1を停止することなく、稼働させることができ、その生産性を向上させることができる。
【0033】
また、燃料タンク15の近傍に作動油タンク16を配置し、この間にヒートパイプ17を設けたので、ヒートパイプ17の中間部分が外気に晒される分が少ないので、ヒートパイプ17の吸熱部17Aの熱を、放熱部17Bに有効に伝達することがでる。
【0034】
更に、燃料タンク15とその近傍に配置した作動油タンク16間にヒートパイプを設けたので、電気ヒータ、及びその配線の付設も必要なく、構成が簡単である。
【0035】
図5及び図6は、本発明の燃料固化防止装置の他の実施の形態を示すもので、図5は、本発明の燃料固化防止装置の他の実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクを示す縦断面図、図6は、図5に示す本発明の燃料固化防止装置の一実施の形態を備えた燃料タンク及び作動油タンクの横断面図である。これらの図において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
この実施の形態は、ヒートパイプ17によって、燃料Fを暖めるとともに、燃料タンク15のタンク本体15Aの外気側壁から燃料Fに伝達される温度低下を防止するようにしたもので、ヒートパイプ17における燃料タンク15への導入部分を、燃料タンク15のタンク本体15Aにおける外気側壁の内面に接触するように配置したものである。
【0036】
この実施の形態においては、上述した一実施の形態と同様に、燃料タンク15の燃料は、燃料タンク15内に導入されたヒートパイプ17の放熱部17Bからの放熱によって、暖められる。また、燃料タンク15のタンク本体15Aにおける外気側壁の内面は、この内面に接触したヒートパイプ17の放熱部17Bからの放熱によって、暖められる。
【0037】
その結果、燃料タンク15のタンク本体15Aにおける外気側壁から、燃料Fに伝わる燃料Fの温度低下も抑えることができる。
【0038】
この実施の形態によれば、上述した一実施の形態と同様な効果が得られるとともに、燃料タンク15のタンク本体15Aにおける外気側壁から、燃料Fに伝わる燃料Fの温度低下も抑えることができ、燃料の固化(ワックス状の油分)の発生を更に効果的に抑えることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 建設機械
2 走行体フレーム
3 走行体
4 旋回フレーム
5 多関節型のフロント装置
15 燃料タンク
15A タンク本体
15D 燃料吸込口
16 作動油タンク
16A タンク本体
17 ヒートパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に燃料吸込口を有する燃料タンクを備えた建設機械の燃料固化防止装置であって、
前記燃料タンクに近接配置され、内部に作動油を蓄積する作動油タンクと、
一方端が前記作動油タンク内に導入され、他方端が前記燃料タンクの底面側に配置されて、前記作動油の熱を燃料に伝達するヒートパイプとを備えた
ことを特徴とする建設機械の燃料固化防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の燃料固化防止装置において、
前記ヒートパイプの一方端は、前記ヒートパイプの他方端より高い位置になるように、前記作動油タンク内の作動油中に導入されている
ことを特徴とする建設機械の燃料固化防止装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建設機械の燃料固化防止装置において、
前記ヒートパイプの他方端は、前記燃料タンクの前記燃料吸込口付近に配置した
ことを特徴とする建設機械の燃料固化防止装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の建設機械の燃料固化防止装置において、
前記ヒートパイプの他方端側は、前記燃料タンク内の前記燃料に接触するように、前記燃料タンクのタンク本体の外気側壁の内面に配置されている
ことを特徴とする建設機械の燃料固化防止装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の建設機械の燃料固化防止装置において、
前記前記ヒートパイプの一方端は、吸熱部であり、他方端は放熱部である
ことを特徴とする建設機械の燃料固化防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168860(P2010−168860A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14390(P2009−14390)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】