説明

建設機械の盗難防止システム及び盗難防止方法

【課題】 建設機械の盗難を確実に防止することができる建設機械の盗難防止システム及び盗難防止方法を提供する。
【解決手段】 スタータモータへの通電回路を遮断するとともに、リモコン弁に圧油を供給する回路及びエンジンへ燃料を供給する回路の少なくともいずれか一方を遮断し得る盗難防止回路を建設機械5a〜5cに搭載し、送信局3から出力された運転停止信号を人工衛星4を介して建設機械に送信し、建設機械に装備された受信装置でその運転停止信号を受信し、盗難防止回路を動作させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】本発明は、遠隔地にある油圧ショベル等の建設機械の盗難を防止するのに好適である盗難防止システム及び盗難防止方法に関するものである。
【従来の技術】クローラ式油圧ショベルはその行動半径が小さいため、プラント等の建設中は作業現場に放置されることが多い。また、建設機械はレンタル・リース機を利用することが多いが所有者が現場に常駐しないこともあって管理が不十分でありしばしば盗難が発生している。このような状況から、レンタル・リース会社は多額の盗難保険に加入しなければならず、管理コストの増加が負担となっている。そこで自動車に装備されている盗難防止装置をこの種の建設機械にも適用することが検討されている。現在、自動車に搭載されている盗難防止装置としては、例えば、識別コードを記憶したICをエンジン始動キーに封入するとともに、自動車本体側に搭載した盗難防止装置にも同じ識別コードを記憶させ、エンジン始動キーを差し込んだときにエンジン始動キー側の識別コードをワイヤレスで盗難防止装置側に送信し、両方の識別コードを照合して照合結果が一致する場合にのみエンジンを始動することができるものが知られている。また、予め盗難防止装置に設定されている暗証番号を置数キーを介して入力したときにエンジンを始動させることができるものもある。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の自動車用盗難防止装置を建設機械に適用したとしても、前者の盗難防止装置では、ケーブルを用意しバッテリーをエンジンのスタータモータに直結すればエンジンを始動させることが可能となってしまう。また、後者の盗難防止装置では暗証番号が流出する虞れがある。従って、いずれの盗難防止装置を採用しても盗難を確実に防止することができないという問題がある。しかも、遠隔地で使用される建設機械については、盗難の発生を速やかに知ることができないため、対応が遅れるという問題もある。本発明は以上のような従来の建設機械における課題を考慮してなされたものであり、遠隔地にある建設機械の盗難を確実に防止することのできる盗難防止システム及び盗難防止方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】本発明の盗難防止システムは、スタータモータへの通電回路を遮断するとともに、リモコン弁に圧油を供給する回路及びエンジンへ燃料を供給する回路の少なくともいずれか一方を遮断し得る盗難防止回路を建設機械に搭載し、送信局から出力された運転停止信号を人工衛星を介して建設機械に送信し、建設機械に装備された受信装置でその運転停止信号を受信し、盗難防止回路を動作させることを要旨とする。上記盗難防止システムにおいては、建設機械の作業領域を予め設定しておき、建設機械の位置をGPS(Global Positioning System)を用いて測定し、測定された建設機械の位置が作業領域外であるときに、運転停止信号を当該建設機械へ送信することが好ましい。また、GPSによって測定された建設機械の位置を、インターネットを介して接続されているパソコン端末の画面上に表示するように構成することができる。この場合、建設機械の位置を地図上に表示するとともに、その地図上に円を入力することによって作業領域を設定することができる。また、作業領域は、前記パソコン端末に接続されたポインティングデバイスを用いて前記地図上の任意の範囲を指定することにより設定することができる。本発明の盗難防止方法は、リモコン弁の操作及びエンジンへの燃料供給の少なくともいずれか一方を遮断し得る盗難防止回路と、この盗難防止回路を作動させるための運転停止信号を受信する受信回路とを建設機械に搭載し、送信局から人工衛星を介して受信回路に運転停止信号を送信し、盗難防止回路を動作させることを要旨とする。上記盗難防止方法においては、建設機械の作業領域を予め設定し、建設機械の位置をGPSを用いて測定し、測定された建設機械の位置が前記作業領域外であるときに、運転停止信号を当該建設機械へ送信することが好ましい。
【発明の実施の形態】以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の盗難防止システムの構成を示したものである。同図において、盗難防止システムは、管理が不十分な遠隔地にある油圧ショベルについて衛星を利用し盗難を確実に防止できるように構成されている。現在、静止衛星(高度約36000km)の軌道に対して低い軌道を周回する低軌道衛星(高度約800km)の商用化が1999年1月頃から開始される予定である。低軌道であるために小規模で足りるこの低軌道衛星は、通信コストが安いというメリットがあり、本実施形態ではこのような低軌道衛星を利用している。油圧ショベル等の建設機械の管理者は、パソコン端末1を備え、このパソコン端末1は例えばインターネットを介して衛星管理会社2と接続されている。衛星管理会社2は、衛星地球局3から低軌道衛星4に向けて信号を送信する。低軌道衛星4は衛星地球局3から送信された信号を中継し、管理対象となる例えば油圧ショベル5a,5b,5cに対して信号の送信を行う。各油圧ショベル5a,5b,5cはそれぞれ送受信装置を搭載しており、油圧ショベルから発信した信号も低軌道衛星4→衛星地球局3→衛星管理会社2→パソコン端末1に信号を送信することができるようになっている。図2は、上記各油圧ショベル5a,5b,5cに搭載される盗難防止装置の構成を示したものである。同図において、6は、エンジン始動キー7が差し込まれるキースイッチであり、エンジン始動キー7をOFF位置からON位置→START位置に回すことにより端子A,B,C間で接続パターンを切り換えるようになっている。端子Aは図示しないヒューズを介してバッテリ8に接続されている。端子Bはリレー9の接点9aを介してエンジンストップソレノイド10に、同じく接点9bを介して油圧アンロード回路11にそれぞれ接続されている。端子Cは同じく接点9cを介して電磁コイル12に接続され、この電磁コイル12に通電されるとその接点12aが閉じてエンジンスタータモータ13が回転するようになっている。上記油圧アンロード回路11において、リレー接点9bの下流側にはレバーロックリミットスイッチ14及びレバーロックソレノイド15がこの順に直列に接続されている。レバーロックリミットスイッチ14は図3に示すように、レバーLをロック解除位置に押し下げたときに閉じるようになっている。なお、レバーLは、オペレータが乗降する際に引き上げると、走行、旋回、フロントアタッチメント等のすべての操作回路を遮断して油圧をロックし、身体が操作レバーに触れても機体が動作しないように安全装置として機能し、レバーLを押し下げると油圧のロックが解除され、走行、旋回、フロントアタッチメントの操作が可能になるように構成されているものである。詳しくは、図2に示したようにレバーロックリミットスイッチ14が閉じられてレバーロックソレノイド15が励磁されると、切換弁16がア位置からイ位置に切り換えられ、イ位置では制御用ポンプ17から吐出される圧油が、バケット操作用リモコン弁18,ブーム操作用リモコン弁19,アーム操作用リモコン弁20,走行モータ操作用リモコン弁21等の各リモコン弁18〜21に供給される。従って、切換弁16がイ位置にあり例えばバケット操作用リモコン弁18に圧油が供給されている状態では、操作レバー18aをA方向に操作すると、コントロールバルブ22が中立位置からウ位置に切り換えられ、油圧ポンプ23から吐出される圧油がバケットシリンダ24のヘッド側油室24aに導入され、バケット引き動作が行うことができる。一方、操作レバー18aをB方向に操作すると、コントロールバルブ22がエ位置に切り換えられ、圧油がバケットシリンダ24のロッド側油室24bに導入され、バケット押し動作を行うことができる。また、上記エンジンストップソレノイド10は、励磁されたときにエンジンの駆動が可能であり、非励磁のときは燃料をカットしてエンジンをストップさせるようになっている。リレー9の電磁コイル9dは通常OFF動作、すなわち非励磁の状態にあり、接点9c及び9aは通常閉動作している。従ってエンジンスタータモータ13は回転可能であり、燃料カットも作動しない。このような構成において、低軌道衛星4からいずれかの油圧ショベルに向けて運転停止信号が送信されると、運転停止信号はアンテナ25で受信され、衛星通信ユニット26に与えられる。衛星通信ユニット26のリレー制御部26aは、運転停止信号を受けて電磁コイル9dを励磁する。この衛星通信ユニット26及び上記リレー9は盗難防止回路として機能する。電磁コイル9dが励磁されると、接点9a,9b,9cがそれぞれ開き、エンジンストップソレノイド10への通電が絶たれ、それによりエンジンが停止する。また、電磁コイル12が非励磁となって接点12aが開くことによりエンジンスタータモータ13の通電回路も遮断されるため、エンジン始動も不可能になる。また、上述したレバーLをロック解除位置に押し下げてレバーロックリミットスイッチ14が閉じられても接点9bが開いているためにレバーロックソレノイド15には通電されず、切換弁16はア位置を維持する。それにより、リモコン弁18〜21に供給される圧油がアンロードされ、フロントアタッチメント、走行モータ等を操作することができなくなる。この状態で、仮に不法侵入者がケーブルを用いてバッテリ8とエンジンスタータモータ13とを直結し、エンジンを始動させることができたとしても、レバーロックソレノイド15は励磁されていないため切換弁16はア位置に維持される。それにより、制御用ポンプ17から吐出される圧油はアンロード弁27を通じてタンク28に流れることになり、結果として油圧ショベルを操作することはできない。このように、人工衛星を利用した盗難防止システムでは、建設機械が盗難に遭ったことが判明した時点で運転停止信号を送信すれば、衛星通信を利用して遠隔地の油圧ショベルに対しエンジンの始動を不可能にしたり、また、エンジンを停止させたり、さらにまた、機体の油圧操作ができなくなるように制御することができる。また、本発明の盗難防止システムは、例えば、全地球位置把握システム:GPSと併用することにより、より高度な盗難防止システムを実現することができる。GPSは、周知のように少なくとも3個の人工衛星から送信データを地球上の受信機で受信し、それらの受信データから受信機の3次元位置を測定する高精度の測位システムである。クローラで自走する油圧ショベルはその移動範囲が狭く、大幅に移動した場合はトレーラ等に載せられて盗難が行われていると推定することができる。そこで、パソコン端末1のディスプレイ上に油圧ショベルが配置される現場の地図を表示させ、その地図上に油圧ショベルの作業領域を円で入力する。この作業領域の入力は例えば中心点とその半径をキーボードから座標入力してもよく、また、タブレット等のポインティングデバイスを用いて地図上の任意の範囲を指定するものであってもよい。そしてGPSで測定された油圧ショベルの位置を、上記地図上に重ねて表示すれば、管理対象となる油圧ショベルの位置が通常の作業領域内にあるかどうかを確認することができる。作業領域を逸脱した場合は、警報を鳴らすとともに衛星通信ユニット26に対してエンジン停止信号を送信する。このように、GPSを利用して油圧ショベルの位置を測定する機能を追加した場合には、油圧ショベルが予め設定された作業領域を逸脱したときに、または逸脱しようとするときに油圧ショベルの作動を停止させることができるため、盗難を未然に防ぐことができる。なお、上記実施形態ではリモコン弁に圧油を供給する回路と、エンジンへ燃料を供給する回路の双方を遮断するように構成したが、いずれか一方の回路を遮断することによっても本発明の盗難防止効果を奏することができる。
【発明の効果】以上説明したことから明らかなように、請求項1及び6の本発明によれば、建設機械が遠隔地にあっても衛星通信を介して建設機械の始動を不可能にしたり、また、作動を停止させることができるようにしたため、盗難を確実に防止することができる。請求項2及び7の本発明によれば、建設機械の位置をGPSで測定し、作業領域外に移動したときに運転停止信号を建設機械に送信するようにしたため、盗難が発生した時点で迅速に盗難防止回路を動作させることができる。請求項3の本発明によれば、GPSによって測定された建設機械の位置がパソコン端末の画面上に表示されるため、常時建設機械を監視することができる。請求項4の本発明によれば、建設機械の位置を地図上に表示し、その地図上で作業領域を設定するようにしたため、作業領域を正確に設定することができる。請求項5の本発明によれば、簡単な操作で作業領域を設定することができ、また、設定した作業領域の変更も簡便に行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る盗難防止システムの構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す油圧ショベルに搭載される盗難防止装置の構成図である。
【図3】図1に示すレバーロックリミットスイッチの切換操作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 パソコン端末
2 衛星管理会社
3 衛星地球局
4 低軌道衛星
5a 油圧ショベル
6 キースイッチ
7 エンジン始動キー
9 リレー
10 エンジンストップソレノイド
11 油圧アンロード回路
13 エンジンスタータモータ
14 レバーロックリミットスイッチ
15 レバーロックソレノイド
16 切換弁
26 衛星通信ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スタータモータへの通電回路を遮断するとともに、リモコン弁に圧油を供給する回路及びエンジンへ燃料を供給する回路の少なくともいずれか一方を遮断し得る盗難防止回路を建設機械に搭載し、送信局から出力された運転停止信号を人工衛星を介して前記建設機械に送信し、前記建設機械に装備された受信装置でその運転停止信号を受信し、前記盗難防止回路を動作させることを特徴とする建設機械の盗難防止システム。
【請求項2】 前記建設機械の作業領域を予め設定し、前記建設機械の位置をGPSを用いて測定し、測定された前記建設機械の位置が前記作業領域外であるときに、前記運転停止信号を当該建設機械へ送信する請求項1記載の盗難防止システム。
【請求項3】 前記GPSによって測定された建設機械の位置を、インターネットを介して接続されているパソコン端末の画面上に表示する請求項2記載の建設機械の盗難防止システム。
【請求項4】 前記建設機械の位置を地図上に表示するとともに、その地図上に円を入力することによって前記作業領域の設定が行われる請求項3記載の建設機械の盗難防止システム。
【請求項5】 前記作業領域の設定が、前記パソコン端末に接続されたポインティングデバイスで前記地図上の任意の範囲を指定することにより行われる請求項4記載の建設機械の盗難防止システム。
【請求項6】 リモコン弁の操作及びエンジンへの燃料供給の少なくともいずれか一方を遮断し得る盗難防止回路と、この盗難防止回路を作動させるための運転停止信号を受信する受信回路とを建設機械に搭載し、送信局から人工衛星を介して上記受信回路に運転停止信号を送信し、前記盗難防止回路を動作させることを特徴とする建設機械の盗難防止方法。
【請求項7】 前記建設機械の作業領域を予め設定し、前記建設機械の位置をGPSを用いて測定し、測定された前記建設機械の位置が前記作業領域外であるときに、前記運転停止信号を当該建設機械へ送信する請求項6記載の盗難防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−146147(P2001−146147A)
【公開日】平成13年5月29日(2001.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−299091(P2000−299091)
【分割の表示】特願平10−246003の分割
【出願日】平成10年8月31日(1998.8.31)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)