説明

建設機械の防護ネット取付構造

【課題】防護ネットを、上下方向の自由な移動を妨げることなく確実に位置固定できるとともに、同ネットの出し入れの容易化及びコストダウンを実現する。
【解決手段】エンジンルーム22内における熱交換器27の吸気前面側に設けた防護ネット28を、上面ガード23に設けたネット出し入れ口34を介して出し入れする構成を前提として、防護ネット28の上端に、取手32付きの取付部31を上向きに延設し、この取付部31をネット出し入れ口34外で上面ガード23にねじ軸と蝶ナット36によって着脱自在に取付けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、熱交換器の吸気前面側に設けられる目詰まり防止用の防護ネットの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図5に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が旋回自在に搭載され、この上部旋回体2に作業アタッチメント3が装着されて構成される。
【0004】
上部旋回体2は、基台としてのアッパーフレーム4を備え、このアッパーフレーム4の前部左右片側(通常は左側。以下、この場合で説明する)にキャビン5、後端部にカウンタウェイト6がそれぞれ設置されるとともに、キャビン5よりも後方でカウンタウェイト6の前方にエンジンルーム7が形成され、このエンジンルーム7に動力源としてのエンジン8が設置される。
【0005】
図6は上部旋回体2の上から見た構成を模式的に示す。
【0006】
なお、この明細書においては、キャビン5の位置を左側前部とし、これを基準に機械全体及び各部についての「前後」「左右」の方向性をいうものとする。
【0007】
また、図及び説明の簡略化のために本発明と直接関係のない上部旋回体各部の構成、機器配置等に関する図示、説明を省略する。
【0008】
エンジンルーム7は、後面ガードを兼ねるカウンタウェイト6、上面ガード9、側面ガード10等の複数のガード部材により四方(前後左右)及び上方を囲まれて形成され、エンジン8がこのエンジンルーム7内に左右方向に設置される。
【0009】
このエンジン8の左右片側(左側の場合で説明する)に油圧ポンプ11が設けられるとともに、左右反対側(右側)にファン12と、このファン12の回転により外部から吸い込まれる空気との間で熱交換作用を行う熱交換器13が設けられる。
【0010】
なお、熱交換器13は、図では単一のものとして示しているが、通常は、エンジン冷却用のラジエータ、作動油を冷却するオイルクーラ等が前後または左右に並設された熱交換器の集合体として構成される。
【0011】
また、図7にも示すように、熱交換器13の吸気前面(右)側に、塵や虫による熱交換器13の目詰まりを防止するための防塵、防虫用の防護ネット14が直立姿勢で設けられている。
【0012】
この防護ネット14は、額縁状の外枠及び中桟から成るネット枠14aに繊維網や金網等のメッシュ状の濾材14bが張設されて構成され、清掃や取替え等のメンテナンスのために着脱自在に取付けられる。
【0013】
ここで、防護ネット14の右側には、空調用のコンデンサ等の他の機器(以下、隣接機器という)15が近接して配置されるため、同ネット14の右側への着脱はきわめて面倒となる。また、前後方向に着脱スペースはない。
【0014】
そこで、防護ネット14を上下方向に出し入れする技術が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0015】
これら公知技術では、図7に示すように上面ガード9における防護ネット14の真上に当たる部分に、開口16と、これを開閉するカバー17を設け、このカバー17を開いた状態で開口16から手を入れて防護ネット14を出し入れするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】実開昭63−119418号公報
【特許文献2】特開2004−218564号公報
【特許文献3】特開2008−240676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記公知構造において、防護ネット14を開口16から上下方向に出し入れするためには、同ネット14を上下方向にフリーな状態で取付ける必要がある。
【0018】
つまり、ねじ止めのような、防護ネット14を上下、前後、左右各方向に拘束して位置固定する固定手段ではなく、たとえば熱交換器13の下端部に上向きの受け部材を突設し、防護ネット14をこの受け部材に上から落とし込んで支持させる構造のような、位置固定力を持たない支持手段によって取付けなければならない。
【0019】
ところが、この結果、防護ネット14の取付状態が不安定となり、エンジン運転や機械の走行等による振動によって防護ネット14が動揺し、耐久性が低下するという問題が生じる。
【0020】
また、開口16から手を差し込んで防護ネット14を出し入れする構造であるため、高所作業になることと相まって出し入れが面倒となり、メンテナンス性に劣る。
【0021】
さらに、開口16の幅(左右方向)寸法を、防護ネット14そのものの出し入れに要する寸法以上に大きくしなければならず、そのため比較的大きなカバー17が必須となることにより、コスト高となる。
【0022】
そこで本発明は、防護ネットを、上下方向の自由な移動を妨げることなく確実に位置固定できるとともに、同ネットの出し入れの容易化及びコストダウンを実現することができる建設機械の防護ネット取付構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、上面ガードを含むガード部材によって形成されたエンジンルームに、エンジンと、このエンジンによって駆動されるファンと、このファンの回転によって外部から吸い込まれた空気によって熱交換作用を行う熱交換器とが設けられるとともに、この熱交換器の吸気前面側に上記熱交換器の目詰まりを防止するための防護ネットが着脱自在に取付けられる建設機械の防護ネット取付構造において、上記エンジンルーム内で上記防護ネットを上記熱交換器の吸気前面側に直立姿勢で上下方向に抜き差し自在に支持するネット支持手段と、上記防護ネットを上記エンジンルーム内外に上下方向に出し入れし得るように上記上面ガードに設けられたスリット状のネット出し入れ口と、上記防護ネットを上記ネット支持手段によって上記熱交換器の吸気前面側に支持した状態で上記ネット出し入れ口を貫通して外部に出る状態で上記防護ネットの上端部に上向きに延設された取付部と、エンジンルーム外で上記取付部を上記上面ガードに対して着脱自在に取付ける取付手段とを具備するものである。
【0024】
このように、防護ネットの取付部を取付手段によってネット出し入れ口の外側で上面ガードに着脱自在に取付ける構造、いいかえればエンジンルーム外でのネット着脱操作が可能な構造であるため、取付手段として、防護ネットを上下、前後、左右各方向に位置固定する固定手段、たとえば上面ガードに上向きに突設したねじ軸を防護ネットの取付穴に挿入して蝶ナットで止め付ける手段を用い、防護ネットを上下、左右、前後の各方向に拘束して位置固定することが可能となる。
【0025】
また、固定解除も外部から簡単に行うことができるため、防護ネットの上下方向の移動を妨げる弊害もない。
【0026】
すなわち、防護ネットを、上下方向の自由な移動を妨げることなくエンジンルーム内の所定位置(熱交換器の吸気前面側)に確実に固定することができる。
【0027】
これにより、振動による防護ネットの動揺を防止し、その耐久性を向上させることができる。
【0028】
一方、ネット出し入れ口から手を差し込まずに、外部に出た取付部を手掛かりとして防護ネットを出し入れすることが可能となるため、ネット出し入れ口を、防護ネットそのものの出し入れに要する最小限の幅寸法とし、カバーも省略することができる。
【0029】
これにより、防護ネットの出し入れが容易となるとともに、ネット出し入れのためのコストが安くてすむ。
【0030】
この場合、ネット出し入れ口の余剰隙間は、冷却空気をエンジンルーム内に導入する吸気口の一部として機能させることができる。
【0031】
本発明において、上記防護ネットの取付部におけるエンジンルーム外に出た部分に、防護ネット出し入れ操作用の取手を設けるのが望ましい(請求項2)。
【0032】
こうすれば、防護ネットの出し入れがさらに簡単となり、メンテナンス性を一層改善することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、防護ネットを、上下方向の自由な移動を妨げることなく確実に位置固定できるとともに、同ネットの出し入れの容易化及びコストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る防護ネット取付構造を示す背面側から見た断面図である。
【図2】図1A部の拡大図である。
【図3】第1実施形態に係る防護ネットの斜視図である。
【図4】第2実施形態に係る防護ネットの斜視図である。
【図5】本発明の適用対象となるショベルの概略側面図である。
【図6】ショベルの上部旋回体の概略平面図である。
【図7】公知の防護ネット取付構造を示す背面側見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を図1〜図4によって説明する。
【0036】
実施形態は、背景技術の説明に合わせてショベルを適用対象としている。
【0037】
実施形態において、次の点は、図5〜図7に示す従来技術と同じである。
【0038】
(i) クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメントが装着されて構成されてショベルが構成される点。
【0039】
(ii) 上部旋回体の基台としてのアッパーフレーム21の前部左右片側にキャビン、後端部にカウンタウェイトがそれぞれ設置され、キャビンよりも後方でカウンタウェイトの前方にエンジンルーム22が設けられる点。
【0040】
(iii) エンジンルーム22は、後面ガードを兼ねるカウンタウェイト、上面ガード23、側面ガード24等の複数のガード部材により四方(前後左右)及び上方を囲まれて形成され、このエンジンルーム22に動力源としてのエンジン25が左右方向に設置される点。
【0041】
(iv) エンジンルーム22内において、エンジン25の左側に、エンジン25によって駆動される油圧ポンプが設けられる一方、エンジン25の右側に、エンジン25によって駆動される冷却用のファン26と、このファン26の回転により外部から吸い込まれる空気との間で熱交換作用を行う熱交換器(通常、ラジエータ、オイルクーラ等が前後または左右に並設された熱交換器の集合体)27が設けられる点。
【0042】
(v) 熱交換器27の吸気前面側(図の右側)に、塵や虫による熱交換器27の目詰まりを防止するため防塵、防虫用の防護ネット28が直立姿勢で設けられる点。
【0043】
実施形態において、防護ネット28は、額縁状の外枠及び中桟からなるネット枠28aに繊維網や金網等のメッシュ状の濾材28bが張設されて構成され、清掃や取替え等のメンテナンスのために着脱自在に取付けられる。
【0044】
図1中、29は防護ネット28の右側に設けられた空調用のコンデンサ等の隣接機器である。
【0045】
防護ネット28の取付構造について詳述する。
【0046】
図1,3に示すように熱交換器27の下端部に、ネット支持手段としてのネット受け30が右側に突出する状態で上向きに設けられている。
【0047】
このネット受け30は断面クランク状に形成され、防護ネット28の下端部(ネット枠28aの下辺部)が熱交換器下端部とこのネット受け30との間に差し込まれることにより、防護ネット28が熱交換器右側に直立姿勢で上下方向に抜き差し自在に支持される。
【0048】
また、防護ネット28の上端部(ネット枠28aの上辺部)に取付部31が、ネット全幅に亘って上向きに延設されている。
【0049】
この取付部31は、図2に拡大して示すように、垂直な本体部分31aの上端に水平な折り曲げ部31bが設けられた断面逆L字形に形成され、折り曲げ部31bの上面に門形の取手32がネット幅方向(機械の前後方向)に沿って設けられるとともに、この取手32を挟んだ両側に取付穴33,33(図2,3のみに符号を付している)が設けられている。
【0050】
一方、上面ガード23における防護ネット28の真上に当たる部分に、ネット出し入れ口34が設けられている。
【0051】
ネット出し入れ口34は、防護ネット28の最大厚み寸法よりも少し大きい幅員とネット幅寸法よりも少し大きい長さを持ったスリット状に形成されている。
【0052】
このネット出し入れ口34の上面側開口縁部におけるネット幅方向の両側(取付穴33,33に対応する部位)に、取付手段としてのねじ軸35,35(図2,3のみに符号を付している)が上向きに突設されている。
【0053】
防護ネット28は、
(イ) 取付部31の本体部分31aがネット出し入れ口34を貫通して、折り曲げ部31bがエンジンルーム22外で上面ガード23の上面に重なり、
(ロ) 取付穴33,33にねじ軸35,35が挿入され、
(ハ) 下端部がネット受け30により支持された
状態で熱交換器右側に直立姿勢でセットされる。
【0054】
そして、この状態でねじ軸35,35に取付手段としての蝶ナット36,36がねじ込まれることによって、防護ネット28が上下、左右、前後の各方向に拘束されて位置固定される。
【0055】
一方、この取付状態から蝶ナット36,36を取外せば、防護ネット28の固定が解除され、自由に上方移動し得る状態となるため、取手32を持って引き上げることにより、同ネット28をエンジンルーム22外に取り出すことができる。
【0056】
なお、全高の低い小形ショベルでは、作業員が上面ガード23上に上がるまでもなく、この操作を地上から、あるいは下部走行体上に乗って行うことができる。
【0057】
このように、防護ネット28の取付部31を、ねじ軸35,35と蝶ナット36,36によってエンジンルーム22外で上面ガード23に着脱自在に取付ける構造であるため、防護ネット28をエンジンルーム22内に確実に位置固定することが可能となる。
【0058】
また、固定解除も外部から簡単に行うことができるため、防護ネット28の上下方向の移動を妨げる弊害も生じない。
【0059】
すなわち、防護ネット28を、上下方向の自由な移動を妨げることなくエンジンルーム22内の所定位置(熱交換器27の吸気前面側)に確実に固定することができる。
【0060】
これにより、振動による防護ネット28の動揺を防止し、その耐久性を向上させることができる。
【0061】
一方、ネット出し入れ口34から手を差し込まずに、外部に出た取手32によって防護ネット28を出し入れできるとともに、ネット出し入れ口34を、防護ネット28そのものの出し入れに要する最小限の幅寸法とし、カバーも省略することができる。
【0062】
これにより、防護ネット28の出し入れが容易となるとともに、ネット出し入れのためのコストが安くてすむ。
【0063】
この場合、防護ネット取付状態でネット出し入れ口34にできる余剰隙間は、冷却空気をエンジンルーム22内に導入する吸気口の一部として機能させることができる。
【0064】
第2実施形態(図4参照)
第2実施形態は防護ネット28の変形形態である。第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0065】
第2実施形態においては、防護ネット28の上端部(ネット枠28aの上辺部)が上方に延長されるとともに、この延長部分28cの上端部にネット幅方向に延びる手掛け穴37が設けられることによってネット上端部に取手38が形成されている。
【0066】
また、延長部分28cの片面に断面逆L字形の取付部39が設けられ、第1実施形態と同様にこの取付部39に、上面ガード側のねじ軸35,35が挿入される取付穴40,40が設けられている。
【0067】
防護ネット28の出し入れ操作及び固定/固定解除操作は第1実施形態と同じである。
【0068】
この第2実施形態によっても、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0069】
また、取手38が防護ネット28の延長部分に形成され、両者にネット厚み方向のずれがないため、同ネット28を真っ直ぐ出し入れできるとともに、とくにネット受け30に対する位置決めがし易いことから差し込み操作がより簡単となる。
【0070】
他の実施形態
(1) ネット支持手段として、上記両実施形態のネット受け30に加えて、防護ネット28の幅方向両側を出し入れ案内しかつ支持するガイド部材を設けてもよい。
【0071】
(2) 取付手段として、上記ねじ軸35と蝶ナット36に代えて、線バネまたは板バネによって取付部31,39を上面ガード23に弾性的に押さえ込む構成のものや、取付部31,39と上面ガード23の一方にラッチ、他方にこのラッチに弾性的に係脱する係合部材を設けてもよい。
【0072】
(3) 本発明においては、取付部31,39が外部に出るため、この取付部そのものを手掛かりに防護ネット28を出し入れする(専用の取手を省略する)ようにしてもよい。
【0073】
(4) 本発明は、熱交換器及び防護ネットがエンジンルーム内の左側に設置される機械にも、またショベルに限らず、ショベルと同様の機械構成と機器配置をとる他の建設機械にも適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
21 アッパーフレーム
22 エンジンルーム
23 上面ガード
24 側面ガード
25 エンジン
26 ファン
27 熱交換器
28 防護ネット
28a 防護ネットのネット枠
28b 同、濾材
31,39 取付部
32,38 取手
33,40 取付穴
34 ネット出し入れ口
35 取付手段としてのねじ軸
36 同、蝶ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面ガードを含むガード部材によって形成されたエンジンルームに、エンジンと、このエンジンによって駆動されるファンと、このファンの回転によって外部から吸い込まれた空気によって熱交換作用を行う熱交換器とが設けられるとともに、この熱交換器の吸気前面側に上記熱交換器の目詰まりを防止するための防護ネットが着脱自在に取付けられる建設機械の防護ネット取付構造において、上記エンジンルーム内で上記防護ネットを上記熱交換器の吸気前面側に直立姿勢で上下方向に抜き差し自在に支持するネット支持手段と、上記防護ネットを上記エンジンルーム内外に上下方向に出し入れし得るように上記上面ガードに設けられたスリット状のネット出し入れ口と、上記防護ネットを上記ネット支持手段によって上記熱交換器の吸気前面側に支持した状態で上記ネット出し入れ口を貫通して外部に出る状態で上記防護ネットの上端部に上向きに延設された取付部と、エンジンルーム外で上記取付部を上記上面ガードに対して着脱自在に取付ける取付手段とを具備することを特徴とする建設機械の防護ネット取付構造。
【請求項2】
上記防護ネットの取付部におけるエンジンルーム外に出た部分に、防護ネット出し入れ操作用の取手を設けたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の防護ネット取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64257(P2013−64257A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202978(P2011−202978)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】