説明

弁輪形成器具

心臓弁を修復する装置は、移植器具を備えている。移植器具は、第1の支持リングと、前記第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングとを備えている。第1の支持リングは、弁の一方側と当接するように構成されており、第2の支持リングは弁の反対側と当接するように構成され、それによって弁組織の一部をその間に捕捉する。装置はさらに、環体を再成形し、葉状器官を適切に開閉することを可能にするため、心臓弁環体に取り付けられるようになっている弁輪形成移植片を備えている。弁輪形成移植片は、環体へ挿入するように、移植器具に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、心臓弁修復及び置換技術、及び弁輪形成装置に関する。より詳細には、本発明は心臓弁の置換に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病に冒された僧帽弁及び三尖弁はしばしば置換又は修復する必要がある。僧帽弁及び三尖弁の葉状器官(leaflet)又は支持索は変質し、弱まる、又は体環は拡張して、弁の漏洩(機能不全)につながる可能性がある。葉状器官及び索は、石灰化され厚くなって、狭窄させる(前方向流れを遮る)ことがある。最後に、弁は心室内側への索の挿入に依存している。心室が形状変化すると、弁支持体は摩擦がなくなり、弁は漏洩する可能性がある。
【0003】
僧帽弁及び三尖弁の置換及び修復は従来、縫合技術で行なわれている。弁の置換中、縫合糸は環体の周りに(弁の葉状器官が心臓に接続される箇所で)間隔を置いて配置され、その後縫合糸は人工弁に取り付けられる。弁は定位置まで下げられ、縫合糸が結ばれると、弁は体環に固定される。外科医は、人工弁を挿入する前に、弁の葉状器官の全て又は一部を取り除くことができる。弁の修復の際、疾病に冒された弁は原位置に残され、その機能を回復させるために外科的処置が行なわれる。弁輪形成リングが、体環の寸法を小さくするのにしばしば使用される。リングは、体環の直径を小さくし、葉状器官を普通に互いに対向させることを可能にするように作用する。縫合糸は、人工リングを体環に取り付け、体環に褶壁形成術を施すのを助けるのに使用される。
【0004】
普通、弁輪形成リング及び置換弁は、弁環に縫合しなければならず、これは時間がかかり且つ単調な作業である。リングがおかしな位置に配置(位置決め)された場合、縫い目を取り除かなければならず、リングを再縫合中に弁環に対して再び位置決めしなければならない。そうでない場合では、リングを再縫合するための手術の時間を長くせず、外科医は、最適ではない弁輪形成術で済ましてしまう。
【0005】
心臓手術中、心臓がしばしば停止した場合に、潅流することなく弁を置換及び修復するための時間を短くすることに重点が置かれる。したがって、人工装具を僧帽弁又は三尖弁の定位置に効率的に取り付ける方法を得ることが極めて有用であろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より信頼性がありより簡単に達成される弁の修復又は置換を提供することである。本発明の特定の目的は、弁輪形成移植片の挿入を簡単にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のこれら及び他の目的は、特許請求の範囲の独立請求項による装置及び方法により達成される。本発明の好ましい実施例は、特許請求の範囲の従属請求項から明らかである。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様によると、患者の心臓弁を置換するための置換弁装置が提供される。この装置は、第1の支持リング、及び前記第1の支持リングに連結されて、コイル状構成を形成する第2の支持リングを有する移植器具を備えている。第1の支持リングは、弁組織領域の一方側に当接するように構成されており、第2の支持リングは弁組織領域のもう一方側に当接するように構成されており、それによってその間に弁組織を捕捉する。装置はさらに、弁組織に取り付けられるようになっており、弁の位置を通る血の流れを可能にする及び防ぐための少なくとも1つの弁要素を含む置換弁を備えている。置換弁は、患者に挿入するための移植器具に結合される。
【0009】
本発明はまた、患者の心臓弁を置換する方法を提供する。この方法は、互いに連結されてコイル状構成を形成する第1及び第2の支持リングと、第2の支持リングに取り付けられる置換弁を備えた移植器具を患者に挿入するステップであって、前記器具は弁組織が第1と第2の支持リングの間で捕捉されるように挿入されるステップと、置換弁を弁組織に取り付けるステップと、移植器具を取り除くステップとを含んでいる。
【0010】
移植器具は、装置を心臓弁内の定位置に簡単に案内することが可能である。移植器具は、置換弁を移植器具によって固定された弁組織に取り付けることができるように、心臓弁位置で装置を固定する。置換弁は、ステープルにより弁組織に取り付けられるように構成することができる。これは、移植器具が弁組織を固定する場合に、置換弁を弁組織に簡単に取り付けることができるということを示している。
【0011】
置換弁は、取り外し可能なように、第2の支持リングに結合することができる。これは、置換弁を弁組織に取り付けた後に、置換弁を移植器具から取り外すことができることを示している。移植器具はその後、患者から取り外すことができる。弁輪形成移植片は、取り外し可能な縫合糸により第2の支持リングに取り付けることができる。縫合糸は、弁輪形成移植片を移植器具から取り外すために切断することができる。
【0012】
第1及び第2の支持リングは、互いに対して軸方向に移動可能であってもよい。これにより、弁輪形成器具の挿入が容易になる。リングは最初、弁組織の両側に取り付けることができ、その後、弁組織をその間で捕捉するために互いに向けて引っ張ることができる。したがって、弁の両側へのリングの配置中に、リングと弁組織の間の摩擦がない。
【0013】
挿入ステップは、第1の支持リングの第1の端部を弁組織の一部を通して挿入するステップと、移植器具を弁の第1の側で第1の支持リングを位置決めするように回転させるステップと、第2の支持リングを弁の反対側の第2の側に位置決めするステップとを含むことができる。第1及び第2の支持リングはしたがって、弁の両側に簡単に取り付けられる。
【0014】
本発明の第2の態様によると、環体及び複数の葉状器官を含み、患者の心臓を通る血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復する装置が提供される。この装置は、第1の支持リング、及び第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングを有する、移植器具を備えている。第1の支持リングは、弁の一方側に当接するように構成されており、第2の支持リングは弁のもう一方側に当接するように構成されており、それによって弁組織の一部、すなわち環状組織及び/又は葉状組織をその間に捕捉する。この装置はさらに、環体を再成形し、葉状器官を適切に開閉することを可能にするため、心臓弁の環体に取り付けられるようになっている弁輪形成移植片を備えている。
【0015】
移植器具は、従来利用されていた弁輪形成リングよりも簡単な方法で、心臓弁に取り付けられる。移植器具により、弁環体を固定し、これを最初に再成形することが可能である。このような弁環体の最初の再成形により、弁輪形成移植片の弁環体への取り付けが容易になる。弁環体の所望の形状を得るためには、弁輪形成移植片の取り付けによる弁環体を僅かに再成形する必要があるだけである。弁輪形成移植片の取り付けは弁環体の形状を大きく変える必要がないので、弁輪形成移植片を正確に位置決めできる可能性が高くなる。これは、弁輪形成移植片を再位置決めする必要性がほとんど無いということである。さらに、この装置によりほとんどの場合、弁環体の所望の再成形は成功することができる。
【0016】
本発明は、カテーテルによる手術の実施例、及び開心手術の実施例等の、装置の様々な実施例を含む。
【0017】
第1及び第2の支持リングは、互いに対向し、弁組織をその間で捕捉する平らな側部を備えたほぼ三角形の断面をしていてもよい。
【0018】
第1及び第2の支持リングの少なくとも対向する表面は、弁組織上での支持リングのより優れた係合及び保持を簡単にするように、繊維、コーティング、隆起などの使用などによって粗面化することができる。対向する表面は、リングの長手方向に沿って延びるパターンで粗面化することができる。これは、粗面化した表面が、リングを弁に当接する位置まで旋回させる低い摩擦を有する一方、リングを通した組織の滑りを防ぐように作用するということである。この移植器具は、第1及び第2のリングが互いに接触する、又はほぼ接触する、特有の形状をしている。したがって、移植器具は、第1及び第2のリングを互いに向かって押すばね力を有する。ばね力により、第1及び第2のリングが弁組織をその間に固定する。
【0019】
第1及び第2の支持リングは、金属ロッドなどのコイル状ロッドにより一体的に形成されており、ロッドの一端部は先端部として形成され、他端部は後端部として形成されていることが好ましい。これらの端部は、先端部を弁組織を通して方向付け、後端部を適当な手術器具によって把持することができるように、反対方向に屈曲することができる。移植器具を弁環体の両側で定位置まで回転させるために、支持体を使用することができる。別の代替形態では、支持体はコイル形状をしており、移植器具は従来のリングと同様に、弁環体の一方側でのみ定位置まで回転させることができる。支持体はまた、移植器具を引き出すように、反対の方向に回転させることができる。第1及び第2の支持リングは、弁環体を調節可能にするように、直径を調節可能である。
【0020】
弁輪形成移植片は、環体の一部の所望のアーチ状の形状に適合するアーチ状の形状をしていてもよい。これにより弁輪形成移植片は、弁環体を再成形するように弁環体の一部分に取り付けることができる。弁環体の所望の再成形は、弁環体の一部分のみを再成形する弁輪形成移植片によって行なうことができる。したがって、弁輪形成移植片はC字形又はU字形であってもよい。弁輪形成移植片は別の態様では、環体の所望の形状と適合するリング形状をしていてもよい。弁輪形成移植片はしたがって、弁環体に取り付けることができ、所望の形状を取らせることができる。
【0021】
弁輪形成移植片は、移植器具の第2の支持リングに取り外し可能に取り付けることができる。弁輪形成移植片はその後、弁環体に取り付けた後に、移植器具から取り外すことができる。移植器具はその後、患者から取り外すことができる。弁輪形成移植片は、取り外し可能な縫合糸により第2の支持リングに取り付けることができる。縫合糸は、弁輪形成移植片を移植器具から取り外すため、切断することができる。
【0022】
本発明の第3の態様によると、環体及び複数の葉状器官を含み、血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復するキットが提供される。キットは、第1の支持リング、及び第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングを有する移植器具を備えている。第1の支持リングは弁の一方側に当接するように構成されており、第2の支持リングは弁のもう一方側に当接するように構成されており、それによってその間に弁組織の一部分を捕捉する。キットはさらに、環体を再成形し、葉状器官を適切に開閉することを可能にするため、心臓弁環体に取り付けられるようになっている弁輪形成移植片を備えている。
【0023】
弁輪形成移植片は、心臓弁に挿入するように、移植器具に取り付けられる必要はない。移植器具は、弁環体の初期の再成形を行なうことができる。弁輪形成移植片はその後、弁環体を永久的に再成形するように単独で挿入することができる。これにより弁輪形成移植片を正確に位置決めすることができる。何故ならば、移植器具によって行なわれる弁環体の初期の再成形により、弁輪形成移植片をどのように弁環体に取り付けるべきであるかが明瞭に示されているからである。
【0024】
本発明の第4の態様によると、環体及び複数の葉状器官を含み、血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復する方法が提供される。この方法は、お互いに連結されてコイル状構成を形成する第1及び第2の支持リングを有する移植器具を挿入するステップであって、前記器具は弁組織が第1と第2の支持リングの間で捕捉されるように挿入されるステップと、これを再成形するために弁輪形成移植片を環体に取り付けるステップと、移植器具を取り除くステップとを含んでいる。
【0025】
器具を挿入するステップは、弁輪形成移植片の環体への取付けを容易にするように、環体を一時的に再成形するステップを含むことができる。したがって、移植器具は弁輪形成移植片の位置決めを案内する。
【0026】
挿入ステップはさらに、第1の支持リングの第1の端部を弁組織の一部分を通して挿入するステップと、第1の支持リングを弁の第1の側部に位置決めするように移植器具を回転させるステップと、第2の支持リングを弁の反対側の第2の側部に位置決めするステップとを含むことができる。第1及び第2の支持リングはしたがって、弁の両側に容易に取り付けることができる。
【0027】
本発明の様々な追加の目的、利点及び特徴は、例示的な実施例の詳細な説明を参照すれば、当業者にはより簡単に明らかになるだろう。
【実施例】
【0028】
図1は、左心室14及び右心室16を含む、心臓12を断面で示した患者10を示している。本発明の概念は例えば、血液を左心室14に供給する僧帽弁18に適用するのに適している。図1Aからより良く分かるように、僧帽弁18は左心室14内への血流を選択的に可能にするため及び防ぐためのものであり、環体20と1対の葉状器官22、24とを備えている。環体組織という用語は、図面を参照したこの開示全体を通して広範囲に使用されているが、本発明の原理は、葉状組織などの他の弁組織、又は他の付随する血管組織にも等しく適用可能であることが理解できるであろう。葉状器官22、24は、それぞれの乳頭筋30、32から上向きに延びている腱索又は索26、28による接骨のために支持されている。血液は、僧帽弁18を通して左心室14に入り、大動脈弁34を通して心臓12の引き続く収縮中に噴出される。本発明は、心臓の三尖弁にも適用可能であることが理解されるであろう。
【0029】
本発明の好ましい装置が、図2及び3に示されている。装置は、螺旋状又はキーホルダタイプ構成の形のコイル状構成を呈する、第1及び第2の支持リング42、44を有する移植器具40を備えている。医療グレードの金属又はプラスチックなどの、(1つ又は複数の)任意の適切な医療グレードの材料を、移植器具40を形成するのに使用することもできる。この装置は、図3に断面図で示されている。移植器具40は、キーホルダを連想させる伝統的な断面形状をしている。この実施例では、平らな対向表面45が弁環体組織20をその間に捕捉するように配置される。対向表面45はまた、弁環体20との係合性を改善するため、粗面化することができる。
【0030】
図4a〜bに示すように、第1及び第2の支持リング42、44は互いに対して軸方向に移動することができる。したがって、支持リング42、44は、心臓弁の両側に挿入することができ、その後、弁環体組織20をこれらの間に捕捉するように互いに向かって引っ張ることができる。第1の支持リング42は、ロッド46を介して第2の支持リング44に連結されている。ロッド46は、第1の支持リング42に取り付けられており、移植器具が挿入される患者の体外で第2の支持リング44から延びるステム47に連結されている。ロッド46は、第1の支持リング42を第2の支持リング44に対して軸方向に移動させるように、ステム47に摺動可能に連結されている。ロッド46は、第1及び第2の支持リング42、44を互いに接近して配置可能にするため、角度を付けられている。ロッド46はその角度に目穴48を備えている。目穴48は、患者から延びている糸49を受けることができる。移植器具40は、図4aに示す構成で患者に挿入することができ、図4bに、その構成をより詳細に示している。器具40はその後、心臓弁の両側で支持リング42、44により定位置に回転させることができる。支持リング42、44は互いに間隔を置いて配置されるので、回転移動は支持リング42、44と環体組織20の間の摩擦によって遮られることはない。支持リング42、44が心臓弁の両側に配置されると、第1の支持リング42は、矢印Aで示すように、糸49を引っ張ることによって、第2の支持リング44に向かって引っ張ることができる。
【0031】
弁輪形成移植片50は、縫合糸又はクリップにより、移植片器具40の第2の支持リング44に取り付けられる。弁輪形成移植片50は、Medtronic,Inc.が製造しているthe CG Future(商標)Annuloplasty System、St.Jude Medical,Inc.が製造しているthe SJM Tailor(登録商標)Annuloplasty Ring又はthe SJM Tailor(登録商標)Flexible Annuloplasty Band、Sorin Groupが製造しているthe Sovering(商標)、Edwards Lifesciences Corporationが製造しているthe Carpentier−McCarthy−Adams IMR ETlogix Annuloplasty Ring(登録商標)又はthe Carpentier−Edwards Classic Annuloplasty Ring(登録商標)などの、完全なリング形状又はアーチ形状を形成することができるあらゆるタイプの弁輪形成リングであってもよい。弁輪形成移植片50は、以下にさらに詳細に説明するように、縫合糸により弁環体20に取り付けられるようになっている。弁輪形成移植片50は、弁環体20の所望の形状に適合する形状をしている。したがって、弁環体20に取り付けられると、弁輪形成移植片50は弁環体20を所望の形状に再形成する。弁輪形成移植片50は長さ方向に非伸縮性であり、これは弁環体に取り付けられた場合には、環体が膨張することができないということを意味する。しかし、弁輪形成移植片は、心臓周期中に弁環体20の通常の運動を可能にするように、その長さを維持しながら形状を変えるように可撓性があってもよい。弁輪形成移植片50は、心臓周期中に、弁環体20の通常の運動に適合するように異なる剛性及び可撓性の部分を有することができる。
【0032】
別の態様では、図5に示すように、置換弁70は縫合糸又はクリップにより、移植器具40の第2の支持リング44に取り付けられる。置換弁70は、従来のものであっても、あらゆる所望の設計であってもよい。置換弁70は、弁機能を提供するように稼動フラップ72、74を有することができる。置換弁70はさらに、フラップ72、74を少なくとも部分的に囲み、環体組織20に取り付けられるように配置された外側部分76を有する。外側部分76は、縫合糸若しくはステープル、又は外側部分76を環体組織20に取り付けるあらゆる他の手段を支持するように配置されたカフス(cuff)又はフランジであってもよい。移植器具40は、置換弁70の環体組織20への取付けを簡単にするように環体組織20を固定するように配置される。
【0033】
次に図6〜9を参照しながら、装置により心臓弁を修復する方法を説明する。第1に、心臓弁へのアクセスは、心臓の停止、及び胸部の切開を含む従来の技術によって達成される。図6aでは、僧帽弁18に挿入される場合の装置が示されている。移植器具40はコイル状の支持体52に支持され、支持体52は、該支持体52の位置決めを遠隔制御するためのステムに連結されている。第1の支持リング42の端部は、図6bに示すように、僧帽弁18の葉状器官22、24の間の開口の隅部まで移動される。端部は、開口を通して案内され、コイル状の支持体52は360度旋回される。したがって、第1の支持リング42は弁18の一方側で定位置に回転され、第2の支持リング44は弁18の反対側に配置される。このように、移植器具40は図7に示すように、弁18と係合して配置される。別の態様では、図4aに示す移植器具40を挿入することもできる。移植器具40は定位置に回転され、その後、第1の支持リング42は第2の支持リング44に向かって引っ張られ、それによって器具40は弁と係合して配置される。
【0034】
葉状器官22、24は次に、図8に示すように、支持リング42、44をつまむことにより互いに向けて引っ張ることができる。葉状器官は、鉗子器具54を用いてつまむことにより引っ張られる。支持リング42、44は上記つまむことにより葉状器官22、24を引っ張ることが可能なように互いから離れることができ、また葉状器官22、24が滑って戻るのを防ぐように互いに向かって撓むことができる。このようにして弁環体20は再成形され、移植器具40により新しい形状に一時的に保持される。支持リング42、44は、葉状器官22、24が上記つまむ作業により滑らないようにし、弁環体20をその再成形された形に保持するように、粗面化された対向表面45を有することができる。
【0035】
第2の支持リング44により定位置に担持された弁輪形成移植片50は次に弁環体に取り付けられ、環体20を永久的に再成形する。初期の再成形を既に行なっているので、弁輪形成移植片50の位置決めが簡単になる。弁輪形成移植片50は図9に示すように弁環体に縫合されており、この図9は、作業済みの縫合60が弁輪形成移植片50を弁環体20に取り付けていること、及び現段階では縫合62が行なわれていることを示している。このように、弁輪形成移植片50は、弁環体20をその再成形した形に維持するように弁環体20にしっかり取り付けられる。葉状器官22、24はまた、又は別の態様では、弁輪形成移植片50の縫合中に、支持リング42、44をつまむことにより互いに向かって引っ張ることができる。
【0036】
弁輪形成移植片50が弁環体20にしっかり取り付けられると、弁輪形成移植片は移植器具40から解放される。第2の支持リング44に取り付けられた弁輪形成移植片50を保持する縫合糸は、弁輪形成移植片50を移植器具40から解放するために切断される。次に、移植器具40を引き出すことができる。支持体52は、第1の支持リング42を回転させて、葉状器官22と24の間の開口を通して該第1の支持リング42を取り出すため、360度旋回される。その後、移植器具40を備えた支持体52を患者から取り出すことができる。これにより、図10に示すように、弁輪形成移植片50は患者内に残されて、弁環体20を正常に機能させるような再成形した形に保持する。
【0037】
代替形態としては、移植器具40は弁輪形成移植片50を担持していない。この場合、移植器具40は最初に定位置に挿入される。移植器具40のこのような位置決めは、図6〜8を参照して上に説明したように行なうことができる。移植器具40が定位置に保持されて弁環体20の一時的な再成形を維持し、弁輪形成移植片50は、支持体を使用して弁輪形成リングを挿入する従来の技術により、僧帽弁に挿入することができる。弁環体20をその再成形された形に永久的に保持するために、弁輪形成移植片50はその後弁環体に縫合される。その後、弁輪形成移植片50及び移植器具40を挿入するのに使用される支持体を取り出して、弁輪形成移植片50を患者内に残すことができる。
【0038】
次に図11〜13を参照して、装置により僧帽弁を置換する方法を説明する。第1に、葉状器官22、24の機能が置換弁70によって置き代えられるので、本来の葉状器官22、24が切断され取り除かれる。その後、上で図6a〜6bを参照して説明した挿入と同様の方法で、移植器具40を挿入することができる。図11に示すように、移植器具が弁18と係合して配置される。
【0039】
第2の支持リング44により定位置に担持された置換弁70は次に、弁機能の永久的な置換を達成するように、弁環体20に取り付けることができる。支持リング42、44はその間に環体組織20を捕捉して配置されるので、移植器具40は弁環体20の形状及び位置を固定又は安定化させる。支持リング42、44は、弁環体20の形状をより良く維持するために、粗面化された対向表面45を有することができる。したがって、置換弁70の弁組織への取り付けは、組織が定位置に保持されると共に簡単になる。例えば、置換弁70は弁組織にステープル止めすることができ、移植器具40はステープルに対するアンビルを提供する。別の方法では、置換弁70は図12に示すように弁環体に縫合されている。この図12は、作業済みの縫合80が置換弁70を弁環体20に取り付けること、及び現段階では縫合82が行なわれていることを示している。このように、置換弁70は、弁機能を提供するように、弁環体20にしっかり取り付けられる。
【0040】
置換弁70が弁環体20にしっかり取り付けられると、置換弁70は移植器具40から解放される。第2の支持リング44に取り付けられた置換弁70を保持する縫合糸は、置換弁70を移植器具40から解放するために切断される。次に、移植器具40を取り出すことができる。支持体52は、第1の支持リング42を回転させて、該支持リング42を葉状器官22と24の間の開口を通して取り出すため、360度旋回される。その後、移植器具40を備えた支持体52は患者から取り出すことができる。これにより、図13に示すように、置換弁70は患者内に残されて、本来の弁の機能に代わる。
【0041】
本明細書に記載した好ましい実施例は限定的なものではなく、多くの代替実施例が、頭記の特許請求の範囲で規定された保護の範囲内で可能であることを強調すべきである。
【0042】
例えば、心臓弁へのアクセスは内視鏡的に達成することができる。このような場合、移植器具40及び弁輪形成移植片50は狭い管(内視鏡)を通して挿入する必要がある。これは、移植器具40及び弁輪形成移植片50を、内視鏡を通過させるために、挿入中に圧縮する必要があるということを意味する。移植器具40は、内視鏡を通過した後に、その適切な形状を取る必要がある。したがって、内視鏡的方法を用いる場合、移植器具40は形状記憶材料で形成することが好ましい。これにより心臓弁に用いる場合、移植器具40が圧縮されること、及び形状が安定することになる。さらに、弁輪形成移植片50は、内視鏡を通して挿入する際に圧縮させるために可撓性を有している必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】心臓が断面図で示された患者、及び僧帽弁を支持するように略図的に示された本発明による装置を示す略図である。
【図1A】斜視図での僧帽弁及び本発明の第1の実施例による装置を示す、左心室の断面図である。
【図2】本発明の一実施例による装置の斜視図である。
【図3】図2の装置の断面図である。
【図4a】本発明の別の実施例による装置の斜視図である。
【図4b】図4aにIVBの印を付けた部分の拡大図である。
【図5】本発明の第2の実施例による装置の斜視図である。
【図6a】装置の弁輪形成移植片の移植中の、僧帽弁及び本発明の装置の部分断面斜視図である。
【図6b】装置の弁輪形成移植片の移植中の、僧帽弁及び本発明の装置の部分断面斜視図である。
【図7】移植器具が定位置に旋回された際の、本発明の装置を示す部分断面斜視図である。
【図8】弁の初期再形成を示す断面図である。
【図9】弁輪形成移植片が弁環体に取り付けられる際の、装置を示す部分断面斜視図である。
【図10】移植完了後の、装置を示す斜視図である。
【図11】移植器具が定位置に旋回された際の、第2の実施例による装置を示す部分断面斜視図である。
【図12】置換弁が弁環体に取り付けられる際の、装置を示す部分断面斜視図である。
【図13】移植完了後の、第2の実施例による装置を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の支持リング、及び前記第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングを有する移植器具であって、前記第1の支持リングは弁組織の領域の一方側に当接するように構成されており、前記第2の支持リングは前記弁組織の前記領域の反対側に当接するように構成されて、それによって前記弁組織をその間に捕捉する移植器具と、
前記弁組織に取り付けられるようになっており、前記弁位置を通る血流を可能にする及び防ぐために少なくとも1つの弁要素を含むと共に、患者内に挿入するように前記移植器具に結合された置換弁とを備えた、患者の心臓弁を置換する置換弁装置。
【請求項2】
前記置換弁は、取り外し可能なように、前記第2の支持リングに結合される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記置換弁は、取り外し可能な縫合糸により、前記第2の支持リングに取り付けられる、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記弁輪形成器具は、前記置換弁が前記弁組織に取り付けられた後に、前記患者から取り出されるように構成される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記置換弁は、ステープルにより前記弁組織に取り付けられるように構成される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第1及び第2の支持リングは、互いに対して軸方向に移動可能である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
互いに連結されてコイル状構成を形成する第1及び第2の支持リングと、前記第2の支持リングに取り付けられる置換弁を備えた移植器具を患者に挿入するステップであって、前記器具は弁組織が前記第1と第2の支持リングの間で捕捉されるように挿入されるステップと、
前記置換弁を前記弁組織に取り付けるステップと、
前記移植器具を取り除くステップとを含む、患者の心臓弁を置換する方法。
【請求項8】
前記弁組織は、本来の心臓弁に関連する環体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記挿入ステップは、前記第1の支持リングの第1の端部を前記弁組織の一部分を通して挿入するステップと、
前記移植器具を前記弁の第1の側で前記第1の支持リングを位置決めするように回転させるステップと、
前記第2の支持リングを前記弁の反対側の第2の側に位置決めするステップとを含んでいる、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
環体及び複数の葉状器官を含み、血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復する装置であって、
第1の支持リング、及び前記第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングを有する移植器具であって、前記第1の支持リングは弁の一方側に当接するように構成されており、前記第2の支持リングは前記弁の反対側に当接するように構成されて、それによって前記弁組織をその間に捕捉する移植器具と、
前記環体を再成形し、前記葉状器官を適切に開閉するために前記心臓弁環体に取り付けられるようになっていると共に、前記環体に挿入するために前記移植器具に連結された弁輪形成移植片とを備えた装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の支持リングは、ほぼ三角形の断面をしている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の支持リングは、形状記憶合金で形成されている、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
前記移植器具はさらに前記第1及び第2の支持リングの少なくとも1つに、前記リングの長手方向の前記それぞれのリングと前記弁組織の間の摩擦を少なくするような材料を含んでいる、請求項10から12までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記第1及び第2の支持リングの対向表面は、前記弁組織との係合を容易にするように粗面化される、請求項10から13までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
さらに、前記各対向表面上に緩衝材料のコーティングを備えている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第1及び第2の支持リングはそれぞれ、繊維材料で形成されている、請求項10から15までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記支持リングは、平らな板材料で形成されている、請求項10から15までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記弁の両側で、前記第1及び第2の支持リングを定位置に担持するように構成された支持体をさらに備えた、請求項10から17までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記第1及び第2の支持リングは、前記弁環体の調節を可能にするように、直径が調節可能である、請求項10から17までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記支持体は、前記第1及び第2の支持リングを前記弁組織の前記両側で定位置に旋回させることが可能なコイル状の要素を有する、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記弁輪形成移植片は、前記環体の一部分のアーチ形状と適合する所望のアーチ形状を有する、請求項10から20までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記弁輪形成移植片は、前記環体の前記所望の形状と適合するリング形状を有する、請求項10から20までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記弁輪形成移植片は、前記移植器具の前記第2の支持リングに取り外し可能に取り付けられる、請求項10から22までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記弁輪形成移植片は、取り外し可能な縫合糸により、前記第2の支持リングに取り付けられる、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記弁輪形成移植片は、縫合糸により前記環体に取り付けられるように構成される、請求項10から24までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
環体及び複数の葉状器官を含み、血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復するキットであって、
第1の支持リング、及び前記第1の支持リングに連結されてコイル状構成を形成する第2の支持リングを有する移植器具であって、前記第1の支持リングは弁の一方側に当接するように構成されており、前記第2の支持リングは前記弁の反対側に当接するように構成されて、それによって前記弁組織をその間に捕捉する移植器具と、
前記環体を再成形し、前記葉状器官を適切に開閉するために前記心臓弁環体に取り付けられるようになっている弁輪形成移植片とを備えたキット。
【請求項27】
環体及び複数の葉状器官を含み、血流を可能にする及び防ぐ弁組織からなる心臓弁を修復する方法であって、
互いに連結されてコイル状構成を形成する第1及び第2の支持リングを備えた移植器具を患者に挿入するステップであって、前記器具は弁組織が前記第1と第2の支持リングの間で捕捉されるように挿入されるステップと、
弁輪形成移植片を再成形するために前記環体に取り付けるステップと、
前記移植器具を取り除くステップとを含む方法。
【請求項28】
前記器具を挿入するステップは、前記弁輪形成移植片の前記環体への取付けを容易にするように、前記環体を一時的に再成形するステップを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記挿入ステップは、前記第1の支持リングの第1の端部を前記弁組織の一部分を通して挿入するステップと、
前記移植器具を前記弁の第1の側で前記第1の支持リングを位置決めするように回転させるステップと、
前記第2の支持リングを前記弁の反対側の第2の側に位置決めするステップとを含んでいる、請求項27又は28に記載の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−520336(P2008−520336A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542967(P2007−542967)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000909
【国際公開番号】WO2006/054930
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507163806)メッドテンティア エービー (5)
【Fターム(参考)】