説明

引戸減速具

【課題】小型、薄型化が可能となり、引戸及び枠部材に対し、簡便な取り付けを実現できる引戸減速具を得る。
【解決手段】引戸13と、この引戸13を開閉自在に支持するとともに引戸13を閉止する縦枠19を有する枠部材11との間に亘って設けられる引戸減速具100であって、引戸13の上部39に付設され引戸開閉方向aに逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する引戸側制動部材35と、枠部材11の引戸13の上部39に対向する部位に付設され引戸開閉方向aに逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する枠側制動部材37と、を相互に傾斜面同士で当接可能に具備し、引戸側制動部材35の縦枠19側の傾斜面と、枠側制動部材37の縦枠19と反対側の傾斜面とに、高摩擦の摩擦面53を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅、バリアフリー住宅、事務所、工場、倉庫、商業施設、介護施設、病院等の建物開口部に設けられる引戸に用いて好適な引戸減速具に関する。
【背景技術】
【0002】
枠部材に往復動自在に設けられる障子である引戸は、特に戸車付きの場合、勢いよく縦枠側に閉められると、滑りがよいので、勢いよく枠部材のレール部を走行した後、縦枠に衝突し、指を挟んだり、その反動で戻り、半開き状態になったりする不都合がある。このような不具合を解消しようとするものに、引戸の移動速度を減速させるための減速装置が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、引戸の上部に、垂直板と支持板を有する取付部材を固着し、この垂直板に、外周端部に第一の歯車部の形成された戸車を設け、支持板に固定されたケースに、粘性流体を含む緩衝部材とローターを収容し、ローターと同軸に第二の歯車部を設け、第一の歯車部と第二の歯車部を互いに噛合わせ、引戸の移動によりローターを回動し、粘性流体の摩擦抵抗により引戸を減速可能とした戸車減速装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、本体装置に、上下方向に移動可能な歯車部材と、歯車部材の回転時に一定の負荷がかかる減速部材とを設け、受け装置に、長手方向側面に連続した横向きのラックを設け、本体装置と受け装置を引戸と枠体に面対する配置で装着し、歯車部材が受け装置の所定位置に対面した一定範囲のみで歯車部材が受け装置内に挿入され、ラックと噛み合って回転することで引戸を減速する引戸用制動装置が開示されている。これにより、引戸の速度に対応して一定の低速度にまで減速し、そのままゆっくりと完全に閉じる動作が得られ、縦枠との強い衝突や跳ね返りのない引戸の閉操作を実現可能としている。
【特許文献1】特開2002−168041号公報
【特許文献2】特開2005−83114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1,2に開示される戸車減速装置や引戸用制動装置は、歯車やラックの作動部品を備えるので、部品点数が増え、装置の小型化、薄厚化が困難であった。このため、相当の取付けスペースを確保しなければならず、特に既存の障子に後付けする場合、取付けスペースが確保できないときには、引戸や枠部材を削る必要があり、それができない場合には、取付け不可能となった。また、粘性流体を使用するダンパーや複数の歯車を使用するため高価となった。さらに、作動部品を組み合わせた機械的(メカニカル)な機構であるため、動作信頼性や耐久性の点で不利となった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、小型、薄型化が可能となり、引戸及び枠部材に対し、簡便な取り付けを実現できる引戸減速具を提供し、もって、手軽且つ安価に引戸閉止時の衝撃を生じ難くし、指挟み事故も未然に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 引戸と、該引戸を開閉自在に支持するとともに該引戸を閉止する縦枠を有する枠部材との間に亘って設けられる引戸減速具であって、
前記引戸の上部に付設され引戸開閉方向に逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する引戸側制動部材と、前記枠部材の前記引戸の上部に対向する部位に付設され引戸開閉方向に逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する枠側制動部材と、を相互に傾斜面同士で当接可能に具備し、
前記引戸側制動部材の縦枠側の傾斜面と、前記枠側制動部材の前記縦枠と反対側の傾斜面とに、高摩擦の摩擦面が形成されたことを特徴とする引戸減速具。
【0007】
この引戸減速具によれば、引戸が閉鎖方向に移動(閉動)されると、引戸に固定された引戸側制動部材の縦枠側傾斜面が、枠部材に固定された枠側制動部材の縦枠と反対側の傾斜面に衝接した後に乗り越え、摩擦面同士の摩擦により、閉動エネルギーが熱に変換され、引戸閉止速度が減速され、閉止時の衝撃が緩和される。これにより、歯車などの作動部品を使用せずに、構成部材の形状、摩擦係数等の物理的性質のみを利用して直線往復動する引戸の閉動を減速できる。
【0008】
(2) (1)の引戸減速具であって、
前記引戸側制動部材及び前記枠側制動部材における前記摩擦面と反対側の傾斜面には、前記摩擦面よりも低摩擦で且つ前記摩擦面と勾配が同等または前記摩擦面よりも小さい摺動面が形成されたことを特徴とする引戸減速具。
【0009】
この引戸減速具によれば、引戸の開動方向で衝接する引戸側制動部材の傾斜面と、枠側制動部材の傾斜面とが、小さな勾配で且つ低摩擦で構成されることにより、傾斜面同士の衝接時に生じる抵抗荷重の増加が抑止される。これにより、引戸開放方向では開動力を増加させずに開放でき、通常の開放と遜色のない操作を可能にできる。
【0010】
(3) (1)又は(2)の引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摩擦面は、摩擦力を増大させる植毛が施されてなることを特徴とする引戸減速具。
【0011】
この引戸減速具によれば、摩擦面に多数の短繊維が高密度に植設されることで、接触面積が増大し、摩擦係数が大きくなる。また、植毛に用いられる短繊維の長さ、密度、素材剛性を選択することにより、所望の摩擦係数が容易に設定可能となる。表面粗さを変えた面材(シボ加工材)に比べ、摩耗が生じ難く、所定の摩擦力を長期に渡って維持できる。
【0012】
(4) (1)又は(2)の引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摩擦面は、摩擦係数の大きい面材が貼着されてなることを特徴とする引戸減速具。
【0013】
この引戸減速具によれば、金属や樹脂板の表面に微少凹凸(例えばシボ加工)、模様(例えばエンボス)等を形成した面材が貼着され、摩擦面に所望の摩擦係数が付与できるようになる。これにより、異なる重量の引戸の閉動に応じて生じる異なる慣性力に対し、所望の摩擦力を発生させて制動が可能となる。引戸側制動部材本体や枠側制動部材本体とは別部材の面材を後付することが可能となり、高摩擦面が容易に形成でき、長期使用による劣化に伴う交換も可能となる。
【0014】
(5) (1)〜(4)のいずれか1つの引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摺動面は、摩擦係数の小さい面材が貼着されてなることを特徴とする引戸減速具。
【0015】
この引戸減速具によれば、引戸が開放方向に移動(開動)されると、摺動面に貼着された摩擦係数の小さい面材同士が摺動し、開動抵抗の増加が抑止される。引戸側制動部材本体や枠側制動部材本体とは別部材の面材を後付することで、低摩擦面が容易に形成可能となり、劣化に伴う交換も可能となる。
【0016】
(6) (1)〜(5)のいずれか1つの引戸減速具であって、
前記引戸側制動部材と前記引戸、及び前記枠側制動部材と前記枠部材が、少なくともネジ、両面接着テープ又は接着剤のいずれか1つの固定手段にて取り付けられることを特徴とする引戸減速具。
【0017】
この引戸減速具によれば、ネジ、両面接着テープ又は接着剤のいずれか1つの固定手段を用いて引戸側制動部材、枠側制動部材が簡単に引戸、枠部材に取り付け可能となる。また、例えば両面接着テープとネジ、接着剤とネジが併用されれば、より強固な取り付けが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る引戸減速具によれば、引戸側制動部材と枠側制動部材とを相互に傾斜面同士で当接可能とし、引戸側制動部材の縦枠側の傾斜面と、枠側制動部材の縦枠と反対側の傾斜面とに、高摩擦の摩擦面を形成したので、歯車などの作動部品を使用せずに、構成部材の形状、摩擦係数等の物理的性質のみを利用して直線往復動する引戸の閉動を減速できる。したがって、小型、薄型化が可能となり、引戸及び枠部材に対し、簡便な取り付けを実現できる。この結果、手軽且つ安価に、引戸閉止時の衝撃を生じ難くし、指挟み事故も未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る引戸減速具の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る引戸減速具の設けられた引戸及び枠部材の側面図である。
本実施の形態による引戸減速具100は、建物開口部に設けられた枠部材11と、この枠部材11に横方向で往復動自在に設けられた障子である引戸13との間に渡って設けられる。枠部材11は、上下枠15,17と縦枠19からなる。引戸13は、上下横框21,23と縦框25からなる枠部の内側に、ガラス27を嵌めてなる。これら、枠部材11、引戸13は、例えばアルミ材からなるサッシ枠として形成される。
【0020】
図2は図1に示した引戸及び枠部材の正面図である。
枠部材11の下枠17にはレール部29が形成され、レール部29は引戸13の下框23に設けられた戸車31をレール軌道上に案内する。レール部29は、下枠17の上面よりも没して形成され、引戸13はこのレール部29に落とし込まれている。枠部材11の上枠15にはガイド溝33が形成され、ガイド溝33は引戸13の上框21の上部を受け入れて案内する。
【0021】
引戸13の上面と、ガイド溝33の底部43には間隙Kが形成され、この間隙Kは上記したレール部29の落とし込み量よりも十分に大きく設定されている。なお、「十分に」とは、引戸減速具100を後付できる隙間を有する意である。これにより、引戸13は、上框21をガイド溝33の底部43まで持ち上げることで、下框23がレール部29の外側に外せる(すなわち、引戸13が枠部材11から取り外せる)ようになっている。
【0022】
引戸減速具100は、引戸13と枠部材11との間に亘って設けられる。引戸減速具100は、引戸側制動部材35と、枠側制動部材37とに大別して構成される。引戸側制動部材35は、引戸13の上部に付設される。「上部」とは、引戸13の上面39,又は引戸13の側面上端部41を含む意である。つまり、引戸減速具100は、上面39、又は側面上端部41のいずれにも取り付けることができる。側面上端部41に取り付けられた場合、枠側制動部材37はガイド溝33の内壁44に設けられることになる。なお、本実施の形態では、引戸減速具100が上面39とガイド溝33の底部43に設けられる場合を例に説明する。
【0023】
図3は図1に示した引戸減速具の斜視図である。
引戸側制動部材35は、引戸開閉方向(図1の矢印a方向)に逆傾斜の傾斜面45,47を有し、上面39から山形状に突出する。枠側制動部材37は、引戸13の上部に対向する部位(すなわち、引戸側制動部材35に対応する位置)に付設される。開閉方向aの引戸側制動部材35と枠側制動部材37の相対位置関係は後述する。枠側制動部材37は、矢印a方向に逆傾斜の傾斜面49,51を有し、底部43から下方へ向けて山形状に突出する。引戸側制動部材35と枠側制動部材37は、相互に傾斜面47,49同士、傾斜面45,51同士で当接される。
【0024】
引戸側制動部材35の縦枠19側の傾斜面47と、枠側制動部材37の縦枠19と反対側の傾斜面49には、高摩擦の摩擦面53が形成されている。また、引戸側制動部材35及び枠側制動部材37における摩擦面53と反対側の傾斜面45,51には、摩擦面53よりも低摩擦で、且つ摩擦面53の傾斜角度θ1よりも勾配の小さい傾斜角度θ2の摺動面55が形成されている。
【0025】
引戸側制動部材35と引戸13、及び枠側制動部材37と枠部材11は、少なくともネジ、両面接着テープ又は接着剤のいずれか1つの固定手段にて取り付けられる。このため、引戸側制動部材35及び枠側制動部材37には、固定用ネジ(図示せず)の挿通される固定孔57を備える。固定孔57にはネジ頭部を収容する段部が形成され、ネジ頭部が摩擦面53や摺動面55から突出しないようになっている。
【0026】
引戸側制動部材35及び枠側制動部材37は、ネジ、両面接着テープ又は接着剤のいずれか1つの固定手段を用いて簡単に引戸13、枠部材11に取り付け可能となっている。取り付けは、引戸13を枠部材11から取り外して行われる。また、例えば両面接着テープとネジ、接着剤とネジが併用されれば、より強固な取り付けが可能となる。
【0027】
図4は図3に示した引戸減速具の変形例による斜視図である。
引戸側制動部材35及び枠側制動部材37は、引戸減速具100のように、摩擦面53を部材表面に直接形成してもよく、或いは図4に示す引戸側制動部材35A、枠側制動部材37Aからなる引戸減速具100Aのように、摩擦係数の大きい面材59を貼着して摩擦面53を形成してもよい。また、引戸側制動部材35Aおよび枠側制動部材37Aには、摩擦係数の小さい面材71を貼着して摺動面55を形成してもよい。
【0028】
金属や樹脂板の表面に微少凹凸(例えばシボ加工)、模様(例えばエンボス)等を形成した摩擦係数の大きい面材59が貼着され、摩擦面53に所望の摩擦係数が付与できるようになる。これにより、異なる重量の引戸13の閉動に応じて生じる異なる慣性力に対し、所望の摩擦力を発生させて制動が可能となる。このような別体構成とすることで、引戸側制動部材本体61や枠側制動部材本体63に、別部材の面材59を後付することが可能となり、高摩擦面53が容易に形成でき、長期使用による劣化に伴う交換も可能となる。
【0029】
図5は摩擦係数の大きい面材の例を(a)〜(c)に示した斜視図である。
摩擦係数の大きい面材59としては、例えば図5(a)に示すように、摩擦力を増大させる植毛65を施したものが挙げられる。摩擦面53に多数の短繊維が高密度に植設されることで、接触面積が増大し、摩擦係数が大きくなる。また、植毛に用いられる短繊維の長さ、密度、素材剛性を選択することにより、所望の摩擦係数が容易に設定可能となる。表面粗さを変えた面材(シボ加工材)に比べ、摩耗が生じ難く、所定の摩擦力を長期に渡って維持できる。
【0030】
植毛は、パイル(ナイロン、レーヨンなどの短繊維)を、静電気を利用して、予め接着剤の付与された加工基材(例えば紙、布、プラスチック等)に、高密度で垂直に植えつける電着植毛(フロッキー)により植設することができる。
【0031】
この他、摩擦係数の大きい面材59としては、図5(b)に示すように、引戸開閉方向aに直交する方向に複数の平行な微少突条67を形成したものや、図5(c)に示すように、シボ加工面69を施したものが挙げられる。シボ加工は、主に薬品によって樹脂板や金属の表面を溶解して模様付けする化学腐食(エッチング)により施すことができる。
【0032】
また、引戸減速具100Aは、図4に示したように、摺動面55に、摩擦係数の小さい面材71が貼着されてもよい。引戸13が開放方向に移動(開動)されると、摺動面55に貼着された摩擦係数の小さい面材71,71同士が摺動し、開動抵抗の増加が抑止される。引戸側制動部材本体61や枠側制動部材本体63に、別部材の面材71を後付することで、低摩擦面55が容易に形成可能となり、劣化に伴う交換も可能となる。
【0033】
図6は摩擦係数の小さい面材の変形例を示した斜視図である。
摩擦係数の小さい面材71としては、引戸開閉方向aに沿う方向に延在する複数の平行な微少突条73を形成したものが挙げられる。この他、摩擦係数の小さい面材71としては、樹脂材やゴムに、テフロン(登録商標)、モリブデン、オイルを混練したものや、PTFE(テフロン)フィルムを部分的に若しくは全面にインサート成形したもの、素材表面へテフロン、シリコーン、ウレタン等の塗装被膜を形成したもの等が挙げられる。
【0034】
図7は引戸減速具の端部形状の変形例を(a)〜(d)に示した側断面図である。
また、引戸側制動部材35及び枠側制動部材37は、引戸開閉方向aの両端部が被着体に段差無く貼着されることが捲れを生じさせない点で好ましい。例えば引戸側制動部材35の摺動面55を例に説明すれば、図7(a)に示すように、摺動面55の末端55aは引戸13の上面39に段差無く接続されることが好ましい。図7(b)に示すように、摩擦係数の小さい面材71を貼着する場合には、末端55aまで貼着することが好ましい。図7(c)に示すように、面材71を上面39に直接貼着してもよい。さらに、図7(d)に示すように、摺動面55に形成した凹部に面材71を嵌め込んでもよい。被着体との間に段差を無くす構成とすれば、その分、取り付け必要スペースも小さくすることができる。
【0035】
次に、上記構成の引戸減速具100の作用を説明する。
図8は引戸開放時の動作を説明する側面図である。
図1に示したように、引戸13が閉鎖方向に移動(閉動)されると、引戸13に固定された引戸側制動部材35の傾斜面47が、枠部材11に固定された枠側制動部材37の傾斜面49に衝接する。すなわち、摩擦面53,53同士が衝接する。この摩擦面53,53同士の摩擦により、閉動エネルギーが熱に変換され、引戸閉止速度が減速され、閉止時の衝撃が緩和される。
【0036】
これにより、歯車などの作動部品を使用せずに、構成部材の形状、摩擦係数等の物理的性質のみを利用して引戸13の閉動が減速される。引戸減速具100は、引戸13を減速させた後、引戸側制動部材35の頂上部が、枠側制動部材37の頂上部に乗り上げる。減速状態の引戸13がさらに閉動されることで、引戸13の縦框25が縦枠19に当接して引戸13の閉止が完了する。
【0037】
この状態で、引戸減速具100は、図8に示すように、摺動面55,55同士が対面した状態となる。すなわち、引戸側制動部材35と枠側制動部材37とは、引戸13が閉止した状態で、摺動面55,55同士が対面する相対位置で取り付けられている。
【0038】
引戸13の閉止状態から、引戸13が開動されると、摺動面55,55同士が摺動する。引戸13の開動方向で衝接する引戸側制動部材35の傾斜面45と、枠側制動部材37の傾斜面51とが、小さな勾配θ2で、且つ低摩擦で構成されることにより、傾斜面45,51(すなわち、摺動面55,55)同士の衝接時に生じる抵抗荷重の増加が抑止される。これにより、引戸開放方向では開動力を増加させずに開放でき、通常の開放と遜色のない操作を可能にできる。
【0039】
したがって、上記構成の引戸減速具100によれば、引戸側制動部材35と枠側制動部材37とを相互に傾斜面47,49同士及び傾斜面45,51同士で当接可能とし、引戸側制動部材35の傾斜面47と、枠側制動部材37の傾斜面49とに、高摩擦の摩擦面53を形成したので、歯車などの作動部品を使用せずに、構成部材の形状、摩擦係数等の物理的性質のみを利用して直線往復動する引戸13の閉動を減速できる。したがって、小型、薄型化が可能となり、引戸13及び枠部材11に対し、簡便な取り付けを実現できる。この結果、手軽且つ安価に、引戸閉止時の衝撃を生じ難くし、指挟み事故も未然に防止できる。
【0040】
なお、本実施の形態による引戸減速具100は、歯車等の作動部品を用いる従来装置に比べ、大幅な薄厚化が可能となるが、それによっても取り付け高さが確保できない場合には、例えば戸車31をスプリングにて上下させ、引戸減速具100の突出長を吸収する機構を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る引戸減速具の設けられた引戸及び枠部材の側面図である。
【図2】図1に示した引戸及び枠部材の正面図である。
【図3】図1に示した引戸減速具の斜視図である。
【図4】図3に示した引戸減速具の変形例による斜視図である。
【図5】摩擦係数の大きい面材の例を(a)〜(c)に示した斜視図である。
【図6】摩擦係数の小さい面材の変形例を示した斜視図である。
【図7】引戸減速具の端部形状の変形例を(a)〜(d)に示した側断面図である。
【図8】引戸開放時の動作を説明する側面図である。
【符号の説明】
【0042】
11 枠部材
13 引戸
19 縦枠
35 引戸側制動部材
37 枠側制動部材
39 上面(引戸の上部)
45,47 引戸側制動部材の傾斜面
49,51 枠側制動部材の傾斜面
53 摩擦面
55 摺動面
59 摩擦係数の大きい面材
65 植毛
71 摩擦係数の小さい面材
100 引戸減速具
a 引戸開閉方向
θ1,θ2 勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸と、該引戸を開閉自在に支持するとともに該引戸を閉止する縦枠を有する枠部材との間に亘って設けられる引戸減速具であって、
前記引戸の上部に付設され引戸開閉方向に逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する引戸側制動部材と、前記枠部材の前記引戸の上部に対向する部位に付設され引戸開閉方向に逆傾斜の傾斜面を有して山形状に突出する枠側制動部材と、を相互に傾斜面同士で当接可能に具備し、
前記引戸側制動部材の縦枠側の傾斜面と、前記枠側制動部材の前記縦枠と反対側の傾斜面とに、高摩擦の摩擦面が形成されたことを特徴とする引戸減速具。
【請求項2】
請求項1記載の引戸減速具であって、
前記引戸側制動部材及び前記枠側制動部材における前記摩擦面と反対側の傾斜面には、前記摩擦面よりも低摩擦で且つ前記摩擦面と勾配が同等または前記摩擦面よりも小さい摺動面が形成されたことを特徴とする引戸減速具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摩擦面は、摩擦力を増大させる植毛が施されてなることを特徴とする引戸減速具。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摩擦面は、摩擦係数の大きい面材が貼着されてなることを特徴とする引戸減速具。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の引戸減速具であって、
少なくともいずれか一方の前記摺動面は、摩擦係数の小さい面材が貼着されてなることを特徴とする引戸減速具。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の引戸減速具であって、
前記引戸側制動部材と前記引戸、及び前記枠側制動部材と前記枠部材が、少なくともネジ、両面接着テープ又は接着剤のいずれか1つの固定手段にて取り付けられることを特徴とする引戸減速具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133194(P2010−133194A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312273(P2008−312273)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)