説明

引手穴付き可動部材

【課題】スチール製の引出しや扉において、表面板を活用した引手装置をシャープなデザインと成すことを可能ならしめる。
【手段】表面板13に引手穴18を形成するにおいて、表面板13に下向き開口コ字状のスリットを入れて、その内側を押し曲げる。表面板13の一部が進入部13aとなって、引手穴18の奥面を構成する。引手穴18の内周縁は合成樹脂製の引手枠17で覆う。進入部13aの左右両端は表面板13の他の部分に対する拘束が解除されているため押し曲げ加工が容易であり、かつ、角張ってシャープな輪郭を有する引手装置を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、キャビネット類の引出し(抽斗)や回動式扉、引き戸、跳ね上げ式扉、或いは建物の扉のように引手穴を有する可動部材のうち、表面板(鏡板)をスチール板等の金属板で構成しているものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばキャビネットの引出しや扉をスチール製とすることは広く行われており、引出しや扉を空けるに際して人が手を掛けるための手段として、一般に引手を設けている。引出しの場合は、表面板(鏡板)に人の指先が入る引手穴を形成し、この引手穴の箇所に引手枠を装着している。ラッチ装置付きの引出しの場合は、引手穴の内部に回動式の引手片が配置されており、ラッチ装置を備えていない場合は、引手片を引手枠に一体形成している。
【0003】
そして、スチール製の引出しや扉の場合、引手穴を形成する手段としては、例えは特許文献1に記載されているように、表面板に四角形の穴を打ち抜き形成して、この穴の周縁部を覆う略四角形の引手枠を装着している。これに対して本願出願人は、特許文献2において、表面板を内側に押し曲げることによって引手穴を形成することを提案した。
【特許文献1】特開2000−37247号公報
【特許文献2】特開2003−13651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では引手穴の内部に引手枠がすっぽり嵌まるが、表面板を四角形に打ち抜くとそれだけ材料が無駄になり、また、表面板を構成するスチール板と樹脂製の引手枠とは質感や色彩が相違することからデザイン的な一体感に乏しい場合があった。
【0005】
これに対して本願出願人の先願に係る特許文献2のように構成すると、表面板の一部を引手穴の奥面構成要素として使用できるため材料の無駄を抑制できるのみならず、引手枠の構造をシンプル化できることと表面板が引手穴の内部に入り込むこととの相乗効果により、デザイン的にスッキリとさせることができる利点がある。
【0006】
本願発明は、特許文献1の考え方を更に発展させて、引手部をよりシャープなデザインと成すことや加工を容易ならしめることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献2では、例えば引出しであると、引手穴の奥面と左右側面とが表面板で構成されるように形成している。換言すると、表面板のうち押し曲げられた進入部は、左右両端部と下端部との3辺が表面板の他の部分に繋がっており、従って、押し曲げ加工の容易性の点から、表面板の進入部(或いは引手穴)の左右両側部は円弧状になっている(角張った状態には押し曲げ加工をできない)。
【0008】
これに対して請求項1の発明は、金属板製の表面板に、当該表面板を押し曲げることによって引手穴を形成しており、表面板のうち押し曲げられた進入部によって引手穴の奥面の一部又は全部を構成している可動部材において、前記表面板の進入部のうち、少なくとも、人が指を並べて手先を引手穴に挿入したとき指の並び方向に沿って両端に位置した2辺が表面板の他の部分から切り離されている。
【0009】
請求項2の発明では、請求項1において、前記表面板の進入部は略四角形で、かつ、人が指を並べて手先を引手穴に挿入したとき指の並び方向に沿って両端に位置した部分と指先側に位置した端部との3辺が表面板の他の部分から切り離されて舌片状になっており、表面板には、引手穴のうち進入部の付け根部を除く内周縁に沿って延びるコ字状の露出部を有する引手枠が装着されている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明は、例えば引出しの場合であると、引手穴の左右両端の箇所において進入部が表面板の他の部分から切り離されていることから、押し曲げ加工を行うに際して材料(表面板)に複雑な応力が作用することはなく、このため、表面板を押し曲げ加工することを軽い力で容易に行うことができる。従って、引手穴(或いは表面板の進入部)を四角形のように角張った形状と成すことを簡単に行える。
【0011】
そして、請求項2のようなコ字状の露出部を有する引手枠を装着することにより、引手穴の奥面を表面板の進入部で構成しつつ、シャープなデザインを実現することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態はキャビネットの引出しに適用している。
【0013】
(1).第1実施形態の概要
図1〜図8では第1実施形態を示している。このうち図1は、スチール製の袖キャビネット1を有する多連式机システムの部分的な斜視図であり、多連式机システムは、左右に隣り合った天板2を1つの脚3又は袖キャビネット1で支持して成り、更に、前後背中合わせに配置された単位机の脚3及び袖キャビネット1は共通の背面部材4に連結されている。なお、符号5は机上パネル、符号6はアジャスター装置である。
【0014】
図2は袖キャビネット1の拡大斜視図であり、この図にも示すように、袖キャビネット1は、スチール製の本体8とその内部にレール(図示せず)を介して前後動自在に装着された4段の引出し9,10を備えている。各引出し9,10はスチール製であり、物品を収納する本体部(図示せず)と、本体部の前面に取り付けた中空状の前板部11,12を備えており、前板部11,12の前面はスチール製の表面板13で構成されている。
【0015】
4段の引出しのうち最上段の引出し9は、前板部11の左右中間部に形成した切欠き14に合成樹脂製の引手部材15を嵌め込み装着して、引手部材15に人が上方から指を掛ける上向き開口溝16を形成した構成になっている。最上段の引出し9の前板部11の上端部及び引手部材15は側面視で段状になっているが、これは、単位机1の天板2の下面に設けたセンター引出し(図示せず)の前面の形状に揃えたものである。
【0016】
各引出しのうち最上段を除く3つの引出し10は、人が指を掛けて引き出すための手段としてラッチ機能付き引手装置を有しており、前板部12には正面視下向き開口コ字状の引手枠17が装着されている。そして、引手枠17で囲われた部分に、表面板13の一部を押し曲げて舌片13aと成すことによって形成された引手穴18が空いている。以下、図3以下の図面も参照して引手装置を説明する。
【0017】
図3は前板部12と引手枠17との分離斜視図、図4はラッチ機構を構成する部材も示した分離斜視図、図5は部材の関係を示す分離図、図6は引手装置の組み立て手順を示す図、図7は引手装置の側断面図、図8はラッチ機構の動きを示す模式図である。
【0018】
(2).表面板及び引手枠
例えば図3に示すように、引出し10の前板部12は、表面板13の四周を後方に折り返すと共に裏板20を装着することによって中空状に形成されている。そして、表面板13の上部かつ左右中間部には、正面視略矩形(四角形)の引手穴18が空いており、かつ、引手穴18の内部には、表面板13の一部である進入部13aが入り込んでいる。進入部13aは略四角形で、その下端が表面板13の他の部分に繋がった舌片状に形成されており、引手穴18の奥面は全高のうち略2/3程度が進入部13aで構成されている。
【0019】
本実施形態の場合、引手穴18を加工するに当たっては、まず、左右のスリットと上端のスリットとからなるコ字状のスリットを打ち抜きによって形成し、次いで、進入部13aを押し曲げする(打ち抜きと押し曲げ加工とを同時に行うことも可能である)。進入部13aの先端縁は折り返しても良い。
【0020】
左右のスリットの存在により、引手穴18の左右内周面と進入部13aとの間に若干の間隔の隙間21が空いており、また、引手穴18の上内周縁の左右両端部には上向きに入り込んだ(或いは下向きに開口した)上部切欠き22が形成されている。また、表面板13のうち引手穴18の表面板13の上方の部分には、下部を幅狭にした第1係合穴23と縦長長方形の第2係合穴24との2つの係合穴を左右に2組ずつ形成している。本実施形態では、正面視で第1係合穴23が右側に位置している。
【0021】
引手枠17は、引手穴18を左右及び上方から囲った状態で表面板13に重なる露出部(前面部)17aと、前記隙間21から前面部12の内部に入り込む左右の側板17bと、引手穴18の上端縁に重なる横長リブ17dと、左右側板17bの後端に連結した背面板17cとを備えており、左右の側板17bには、表面板13の上部切欠き22にきっちり嵌まる上板17eが一体に繋がっている。このため引手枠17は表面板13に対してきっちりと位置決めされる。
【0022】
引手枠17の露出部17aの上端は表面板13の上端と高さを備えている。これは主としてデザインのためである。引手枠17における露出部17aの上部の裏面には、前記第1係合穴23に落とし込み係合する側面視鉤形の第1係合爪25を突設している。図3や図7(A)から理解できるように、第1係合爪25の付け根部25aは、第1係合穴23の下部の幅狭部23aにきっちり嵌まり込む幅狭の寸法になっている。
【0023】
例えば図6(A)及び図7(A)に示すように、表面板13の進入部13aは側面視で略後傾状の姿勢になっており、その先端縁が引手枠17における背面板17cの下端に当接又は近接するようになっている。従って、引手穴18の奥面は、進入部13aと背面板17cとで画定されている。引手穴18の左右内面は引手枠17の左右側板17bで画定されている。例えば図6(A)及び図7(A)に示すように、引手枠17の左右側板17bの前部下端には、表面板13の切り開き縁に嵌まる溝17fを形成している。
【0024】
(3).ラッチ機構・全体の組み立て
例えば図4から容易に理解できるように、表面板13の上部の裏側(前板部12の中空部の上部)には、ラッチ機構として、表面板13に固定されるホルダー部材27と、このホルダー部材27に回転自在に装着したラッチロッド28とを配置している。
【0025】
ホルダー部材27は合成樹脂製で、表面板13の前面と上部折り曲げ部とに重なるように側面視逆L字状に形成されており、その一端部(背面視で左端部)には、ラッチロッド28の一端部が差し込まれる第1軸受け部29が形成されており、他端部には、ラッチロッド28の他端寄り部位が弾性に抗しての変形によって嵌め込まれる割り式の第2軸受け部30が形成されている。
【0026】
ラッチロッド28は合成樹脂製であり、引手穴18の内部に露出する引手片31と、他端部から略下向きに延びる操作アーム部32と、引手片31と操作アーム部32との間に位置した回動規制ストッパー33とを形成している。また、一端部には位置決めフランジ34を形成している。
【0027】
図8に概略を示すように、引手片31を手前に引くとラッチロッド28が軸心回りに回転することによって操作アーム部32が手前側に回動し、すると、逆L字状のラッチ軸35を介してラッチレバー36が引出し10の本体部に近づくように回動して、袖キャビネット1の本体8の内側面に設けた固定爪37から離脱する。ラッチ軸35やラッチ爪36は本願発明の要旨ではないので詳述しないが、様々の機構を採用できることは言うまでもない。また、ラッチ爪36は図示しないばねによって固定爪37と係合する方向に付勢されており、このばねにより、ラッチロッド28も引手片32が奥側に位置する姿勢に付勢されている。
【0028】
図4に戻ってホルダー部材27について説明する。ホルダー部材27には、ラッチロッド28を受けるリブ38を形成している(これらリブ38はホルダー部材27の補強も兼用している)。
【0029】
また、ホルダー部材27のうち表面板13の背面に重なる部分には、前記引手枠17の第1係合爪25に嵌まる第3係合穴39と、表面板13の第2係合穴24に係合する第2係合爪40との対が左右に2組形成されている。
【0030】
第3係合穴39は、図4の状態で左側にスライドさせることによって第1係合爪25の付け根部25aに嵌まる細幅部39aを形成しており、更に、第2係合爪40は、後ろ向きに撓み変形するようにコ字状のスリット41で囲われており、図6に示すように、第3係合穴39の細幅部39aが第1係合爪25の付け根部25aに嵌まると、第2係合爪40が表面板13の第2係合穴24に嵌まり込み、これにより、ホルダー部材27は左右動及び上下動不能に保持される。
【0031】
図6(B)(C)に示すように、引手枠17には、第2係合爪40との干渉を防止するための凹所42を形成している。
【0032】
表面板13と引手枠17とホルダー部材27との関係は図5でも示している。図5のうち(A)は引手枠17の平面図、(B)は表面板13の破断平面図、(C)は表面板13の正面図、(D)はホルダー部材27の平断面図、(E)はホルダー部材27の正面図である。
【0033】
引手片31は所定の範囲で回動するように回動範囲を規制する必要がある。そこで、既述のとおりラッチロッド28に半径外向きのストッパー33を設ける一方、例えば図4に示すように、ホルダー部材27に、窓穴43及び後ろ向き突起44を有する規制部45を設けている。
【0034】
図7(B)は組み立てた状態での規制部45の箇所の側断面図であり、この図から理解できるように、ラッチロッド28のストッパー33がホルダー部材27の後ろ向き突起44(又は窓穴43の下面)に当たることによって引手片31の後ろ向き回動姿勢が規制され、ラッチロッド28のストッパー33がホルダー部材27の上片に当たることで引手片31の前向き回動姿勢が規制される。
【0035】
ホルダー部材27の規制部45に窓穴43を形成しているのは、ストッパー33の突出長さをできるだけ長くしてモーメントに対する強度を確保するためである。なお、本実施形態では規制部45は左右のリブ38で挟まれており、ストッパー33がリブ38に当たることにより、ラッチロッド28が背面視で右移動することが阻止されている。
【0036】
なお、袖キャビネット1の最上段に浅い引出し9を設けて、その前面部12の上端を側面視で段違い状に形成する場合、一般に、引出し9の左右長さと同じ長さの樹脂製エッジを設けて、これに、その左右全長にわたって延びる上向き溝を形成することが一般的である。しかし、この場合は、下方に配置した他の引出し10の引手装置とデザインが一致しない虞がある。これに対して本実施形態のように、最上段の引出し9に他の段の引出し10の引手枠17と同じ左右横幅の引手部材15を装着すると、全ての引出し9,10の引手装置のデザインを統一させて美感を向上できる利点がある。
【0037】
(4).他の実施形態
図9では他の実施形態を示している。すなわちこの実施形態では、表面板13に左右縦長のスリット47を形成して進入部13aを押し曲げ形成したものであり、従って、進入部13aはその上下両端において表面板13の他の部分に繋がっている。進入部13aは左右両端において表面板13の他の部分に対する拘束が解除されているため、上下が繋がっていても深い寸法に押し曲げ加工することができる。
【0038】
この実施形態はラッチ機構は備えておらず、このため、引手枠17に引手片31を一体形成している。勿論、ラッチ機構を設けることも可能であり、この場合は、ラッチロッド28は引手穴18の左右開口部から挿入したらよい。また、第2実施形態の場合、引手枠17の露出部は左右のスリット47の部分だけを隠す状態に形成することも可能である。
【0039】
(5).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、適用対称はキャビネットや机等の引出しには限らず、キャビネット又は建物の回動式扉や引き戸、或いは建物等のシャッターなどにも適用できる。回動式扉又は引き戸に適用する場合は、一般に、引手装置の姿勢は引出しの場合に対して90°回した状態になる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本願発明を適用した袖キャビネットを有する机システムの斜視図である。
【図2】袖キャビネットの斜視図である。
【図3】部材の分離斜視図である。
【図4】ラッチ機構を含む部材の分離斜視図である。
【図5】部材の関係を示す分離図である。
【図6】組み立て手順を示す図である。
【図7】(A)は引手片の箇所の側断面図、(B)は回動規制部の箇所の側断面図である。
【図8】ラッチ機構の動きを示す模式図である。
【図9】他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 袖キャビネット
10 可動部材の一例としての引出し
12 引出しの前面部
13 引出しの表面板
13a 表面板の進入部
17 引手枠
17a 露出部
17b 側板
18 引手穴
27 ラッチ機構を構成するホルダー部材
28 ラッチ機構を構成するラッチロッド
31 引手片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板製の表面板に、当該表面板を押し曲げることによって引手穴を形成しており、表面板のうち押し曲げられた進入部によって引手穴の奥面の一部又は全部を構成している可動部材であって、
前記表面板の進入部のうち、少なくとも、人が指を並べて手先を引手穴に挿入したとき指の並び方向に沿って両端に位置した2辺が表面板の他の部分から切り離されている、
引手穴付き可動部材。
【請求項2】
前記表面板の進入部は略四角形で、かつ、人が指を並べて手先を引手穴に挿入したとき指の並び方向に沿って両端に位置した部分と指先側に位置した端部との3辺が表面板の他の部分から切り離されて舌片状になっており、表面板には、引手穴のうち進入部の付け根部を除く内周縁に沿って延びるコ字状の露出部を有する引手枠が装着されている、
請求項1に記載した引手穴付き可動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−117424(P2007−117424A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313987(P2005−313987)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)