説明

張り出し成形品の製造装置および製造方法

【課題】ブランク材をパンチとダイの間で加工することにより張り出し成形品を製造する際に、厳格な上下金型の面あわせ作業に多大な工数を要することなく、ブランク拘束可能であり、さらに、ブランク材の材料歩留を向上させる。
【解決手段】ブランク5に当接する第1のブランク拘束部3aをオープニングラインに有する第1の金型3と、ブランク6の周縁部に当接する第2のブランク拘束部4aをオープニングラインに有する第2の金型4と、第1の金型3および第2の金型4によって拘束されたブランク5に対して移動することによってブランク5に張り出し成形を行う第3の金型2とを備える張り出し成形品の製造装置1である。第1のブランク拘束部3aのうちの少なくとも一部は、並設された複数の凸部により構成されるとともに、第2のブランク拘束部4aのうちの少なくとも一部は、並設された複数の凸部3aを、それぞれ、隙間を有して収容する並設された複数の凹部4aにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張り出し成形品の製造装置および製造方法に関し、具体的には、ブランクが流入しないようにダイとブランクホルダでブランクの周縁部分を拘束し、ブランクをパンチとダイの間で加工することによる張り出し成形品の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板のプレス成形は、一般的に、張出成形と絞り成形との2つに大別される。張出成形とは、ブランクを拘束した後の成形中に、主にブランク周縁部に設けられるブランク拘束部により、製品部に相当するブランクの中央部に向かって実質的にブランクが流入(移動)しない成形方法である。例えば、自動車部品のうち、ドアーアウターパネルやフードアウターパネルといった比較的単純な形状の部品は張出成形によって製造されるのが一般的である。
【0003】
これに対し、絞り成形とは、ブランクを拘束した後の成形中に、ブランク拘束部においてブランクが流入する量を適切にコントロールすることによって、製品に割れやしわ等が発生しないように成形性をコントロールする成形方法である。例えば、自動車部品のサイドパネルアウター等の比較的複雑な形状の部品は絞り成形によって製造されるのが一般的である。このように、張出成形とは、ブランク拘束部によりブランクの流入を実質的に無くすという点において、絞り成形とは異なる成形方法である。
【0004】
これまで、ブランクが流入しないようにするために、ダイとブランクホルダとによりブランク周縁部分を拘束するビードには、台形ビードや波状ビードが知られている。台形ビードは、断面が略台形形状であり、台形コーナー部の曲げ、曲げ戻し変形の変形抵抗と、断面直辺部の面圧とによって、ブランクを拘束する。一方、波状ビードは、断面は略台形形状であり、上面視形状が正弦波のような波形状をなすものである。台形コーナー部の曲げ、曲げ戻し変形抵抗と、断面直辺部の面圧とに加えて、さらに、上面視の波形状に応じた伸び縮み変形抵抗によって、ブランクを拘束する。
【0005】
さらに、特許文献1、2には、不連続に設けられたエンボスによりブランクの流入量をコントロールしながら絞り成形を行う発明がそれぞれ開示されている。特許文献1の段落0016には「図3に示すように、上記スポットビード8,8同士のピッチPcは例えば20mm、スポットビード8の根元部での直径Dは主ビード7の幅と同程度の11mm、スポットビード8の高さHは6mm、スポットビード8の頂部周縁の面取り寸法RnはR2、スポットビード8の円周面のテーパ角度θは6°程度にそれぞれ設定される。」と記載されているとともに、特許文献2の第12柱には、寸法に関して「ブランク(M)に対する摩擦抵抗の部分的増大度合いは、ビード(34)の植立高さ(H)や直径(D)により調整し、またその増大したい部分はこれに応じた位置のビード(34)を抜き差しすることにより調整し、」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−117340号公報
【特許文献2】特開昭57−72730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の台形ビードでは、通常、台形コーナー部の曲げ、曲げ戻し変形の変形抵抗のみでは拘束力が小さいため、断面直辺部の面圧による拘束力の付与が不可欠になる。直辺部の面圧を作用させるためには、上下の金型の面合せを確実に行うことが重要になるが、量産開始前にこれらの作業に多大な工数を要することとなる。また、台形ビードのような連続ビードでは、ブランクホールド時に、ブランク端が内側に引き込まれるため、断面線長の大きな台形ビードでは、ブランクの材料歩留りが低下する。
【0008】
また、波状ビードは、台形ビードと比較すると、波形状に応じた伸び縮み変形抵抗によって、拘束力が向上するため、断面直辺部の面あわせに要する工数は少なくて済む。しかしながら、波状ビードも台形ビード同様に、ブランクホールド時に、ブランク端が内側に引き込まれるため、ブランクの材料歩留が低下してしまう。また、波形状の分だけ、ブランクの材料歩留りがさらに低下する。
【0009】
さらに、特許文献1、2により開示された絞り成形技術を張り出し成形に単に転用すると、以下に列記する問題を生じる。
【0010】
(a)ビードの径を大きくするとビードが大きくなり、ブランクの歩留まりが低下すること。
(b)ビードの高さを高くするとブランクが割れる恐れが高まること。
(c)ビードの間隔を狭くするとブランクを挟み込むために必要な押圧力が大きくなるため、機械能力が不足し、上下金型が押さえ込めきれなくなり、ブランクが流入してしまう。
【0011】
ウェーブビード等の連続的なビードの場合、ブランクが割れるとブランクをロックできなくなるため問題である。一方、エンボスロックの場合、エンボス頂部付近のブランクが割れてもロック可能であるため、ブランク割れは致命的ではない。しかし、ブランクが割れると、割れて脱落した部分が製品部分に押し込まれて押し込みキズになってしまうといった問題が発生するおそれがあり、好ましくない。
【0012】
また、特許文献1、2では凹金型の形状について何も言及していない。
さらに、量産のプレス成形では、金型の弾性変形や金型の出来映え等が要因で、必ずしも全周に渡って隙間をゼロにできるとは限らないが、材料が流入せずにロックできる最大の上下金型間の隙間(金型間の距離から元板厚を差し引いた値(以下、本明細書ではこの値を「ギャップ余裕」という。)が大きいロック方法ほど量産安定性に対して優位であるが、特許文献1、2にはギャップ余裕について開示も示唆もない。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ブランクが流入しないようにダイとブランクホルダでブランクの周縁部分を拘束し、ブランクをパンチとダイの間で加工することにより張り出し成形品を製造する際に、厳格な上下金型の面あわせ作業に多大な工数を要することなく、ブランクを確実に拘束することができ、さらに、ブランクの材料歩留を向上することができる張り出し成形品の製造装置および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、
(I)絞り成形(従来技術)と張り出し成形(本発明の対象)は異なるので、両者は互いに転用可能な関係にはないこと、
(II)ビードのサイズを最適化すること(ブランクを拘束することと面積を小さくすることとは背反する。ブランクを拘束するるためにビードを大きく、高く、密度を高くするのではうまくいかないこと)、及び
(III)量産性を考慮してギャップ余裕を最適化することにより、張り出し成形において拘束している面積が小さいビードを提供でき、拘束している面積が小さいために、製品歩留まりが向上すること
を知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0015】
本発明は、ブランクの周縁部に当接する第1のブランク拘束部をオープニングラインに有する第1の金型と、ブランクの周縁部に当接する第2のブランク拘束部をオープニングラインに有する第2の金型と、第1の金型および第2の金型によって拘束されたブランクに対して移動することによってブランクに張り出し成形を行う第3の金型とを備える張り出し成形品の製造装置において、第1のブランク拘束部のうちの少なくとも一部は、並設された複数の凸部により構成されるとともに、第2のブランク拘束部のうちの少なくとも一部は、並設された複数の凸部を、それぞれ、隙間を有して収容する並設された複数の凹部により構成されることを特徴とする張り出し成形品の製造装置である。
【0016】
別の観点からは、本発明は、第1の金型のオープニングラインに設けられ、かつその少なくとも一部が並設された複数の凸部により構成される第1の拘束部を、ブランクの周縁部に当接するとともに、第2の金型のオープニングラインに設けられ、かつその少なくとも一部が、並設された複数の凸部それぞれを、隙間を有して収容する並設された複数の凹部により構成される第2の拘束部を、ブランクの周縁部に当接することによって、凸部および凹部によりブランクを拘束し、拘束されたブランクに対して第3の金型を移動することによってブランクに張り出し成形を行うことを特徴とする張り出し成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、通常の台形ビードと比較して、ビードライン方向の断面形状に応じた伸び縮み変形抵抗によって、拘束力が向上するため、断面直辺部の面あわせに要する工数は少なくて済む。さらに、本発明の装置は、通常の台形ビードや波形状ビードと比較して、断面形状が小さいこと、張出されてビード部が形成されること、及び上面視で波形状のように配置する必要がないことから、ブランクの材料歩留が大きく向上する。
【0018】
このように本発明により、厳格な上下金型の面合せ作業に多大な工数を要することなく、ブランクを確実に拘束することができ、さらに、ブランクの材料歩留を向上させながら、張り出し成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、自動車ドアーアウターパネルを模擬した金型を用いて張り出し成形を行う状況を示す説明図である。
【図2】図2(a)は凸部の配置を示す平面図であり、図2(b)は凸部の形状を示す断面図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、いずれも、凸部の頂部形状を示す説明図である。
【図4】図4(a)及び図4(b)は、凹部の形状を示す説明図である。
【図5】図5は、凹部の穴径の決定手法を示す説明図である。
【図6】図6は、評価結果の一例の写真である。
【図7】図7は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図10】図10(a)は、表4における「ドーム状」の具体的な寸法を、表4のNo.1を例に示す説明図であり、図10(b)は、表4における「先細形状」の具体的な寸法を、表4のNo.6を例に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、自動車ドアーアウターパネルを模擬した金型1を用いて張り出し成形を行う状況を示す説明図である。図2(a)は凸部3aの配置を示す平面図であり、図2(b)は凸部3aの形状を示す断面図である。
【0021】
金型1は、パンチ2、ダイ3、ブランクホルダ4によって構成されている。ブランク5が流入しないように拘束するため、ダイ3に複数の凸部3aが設けられ、ブランクホルダ4に凹部4aが設けられている。
【0022】
凸部3aは、頂部が直径4mm程度の半球形状であり、高さが3.0mmの軸対象形状である。
凸部3aの径は、直径2〜6mmの略円形状であることが好ましく、より好ましくは4mm前後の径の円形状である。ブランク5の歩留向上のためには、絞り成形を含めた従来のビードのビード幅よりも充分に小さい直径の凸部であることが好ましい。したがって、エンボス直径は6mm程度以下であることが望ましい。一方、ブランク5の歩留向上の観点では凸部3aの直径は小さいほうが好ましいが、凸部3aの直径が小さくなるほど金型の加工が困難になる上、凸部3aが折れてしまう恐れがある。このため、凸部3aの直径は2mm以上であることが好ましく、4mm前後程度であることがさらに好ましい。
【0023】
凸部3aの高さは、凸部3aの径の0.5〜1.0倍であることが好ましい。上述したように凸部3aの径は2〜6mmであることが好ましいことから凸部3aの高さは1〜6mmであることが好ましい。例えば、凸部3aの径が4mmの場合は2〜4mmであることが好ましい。より好ましくは凸部3aの径の0.7〜0.9倍である。その場合、凸部3aの径は2〜6mmであるから凸部3aの高さは1.4〜5.4mmの範囲である。例えば、凸部3aの径が4mmの場合は2.8〜3.6mmであることがより好ましい。凸部3aの高さを凸部3aの直径よりも大きくするとブランクが割れてしまう。一方、凸部3aの径の半分よりも小さくすると、拘束力が弱くなり安定性が確保できない。したがって、凸部3aの高さは、凸部3aの径の0.5〜1.0倍に設定することが好ましい。
【0024】
上述したギャップ余裕(ブランク5が流入しないように拘束することができる最大の上下金型間の隙間であって、金型間の距離から元板厚を差し引いた値)を適正に確保するために、凸部3aの高さは凸部3aの径の0.7倍以上であることが好ましい。本発明の凸部3aの径は2〜6mmであるから少なくとも1.4mm以上である。例えば、凸部3aの径が4mmの場合は2.8mm以上の高さが必要である。ギャップ余裕は、量産時にはギャップが0.1mm程度空いてしまうことが多いため、0.1mm程度以上であることが好ましい。一方、凸部3aの高さは、凸部3aの径の0.9倍を超えると凸部3aの近傍でブランク5が割れてしまう可能性が高まるため、凸部3aの径の0.9倍以下であることが好ましい。
【0025】
図3(a)及び図3(b)は、凸部3aの頂部形状を示す説明図である。
凸部3aの頂部の形状は、概略球形状であることにより、周りから凸部3aに向かって材料を多く引き込む(歩留まりが下がる)ことがないように凸部3aを張り出して形成するためである。またこの時、ブランク5が割れにくいようにすることも重要である。このような条件を満足する形状であれば、多少球形状から外れていたとしても本質的には問題ないため、凸部3aの頂部の形状は、図3(a)に示すように肩部Rが大きな略円筒形状や、図3(b)に示す頂部Rが小さな(鉛筆の先端のような)形状でも同等の効果を奏することができる。
【0026】
凸部3aの中心間間隔は、後述する凹部4aの中心間間隔と同様に、凸部3aの径の1.3〜3.0倍、すなわち本発明の凸部3aの径が2〜6mmであることが好ましいことから2.6〜18mmの範囲であることが好ましい。例えば、凸部3aの径が4mmの場合は5.2〜12mmであることが好ましい。凸部3aの径の2.0〜2.5倍、すなわち凸部3aの径は2〜6mmであるから4〜15mm、凸部3aの径が4mmの場合は8〜10mmであることがさらに好ましい。
【0027】
図4(a)及び図4(b)は、凹部4aの形状を示す説明図であり、図5は、凹部4aの穴径の決定手法を示す説明図である。
凹部4aは、おおよそ、凸部3aをブランク5の板厚程度、外側にオフセットしたような形状であり、Rd部位の曲率半径は1.3mm程度である。また、凹部4aの中心点間距離は8.8mmである。
【0028】
凹部4aの穴径の下限は、図5に示すように、凸部3aにブランク5を巻き付かせた場合に凹部4aがブランク5に接する形状にすることが好ましい。一方、上限は、ブランク5が流入しない程度まで拡げても構わない。
【0029】
例えば、凹部4aの適切な穴径は、凸部3aの形状とブランク5の板厚とによって変化する。例えば、図5あるいは後述する表3のNo.1のような半球と円柱からなる凸部であれば、凹部4aの適切な穴径は凸部3aの外径にブランク5の板厚の3〜4倍を加えた範囲である。ただし、凸部3aの高さが高ければこの範囲を超えて大きな穴径が好ましく、凸部3aの形状が後述する表3のNo.6のような径の小さな頂部であればこの範囲を超えて小さな穴径であることが好ましくなる場合もある。したがって、適切な穴径を求めるには図5に示したようにして適宜選択すればよい。
【0030】
凹側4aの角R部の断面曲率半径は、ブランクが割れないように、かつ拘束力が弱くなることを避けるためには、凸部3aの径の1/4〜1/2倍、本発明の凸部3aの径は2〜6mmであることが好ましいことから0.5〜3.0mmの範囲、例えば凸部3aの径が4mmの場合は1.0〜2.0mmに設定することが好ましい。
【0031】
また、隣接する凹部4aの同士の間隔は、中心点間隔で、凸部3aの径の1.3〜3.0倍、本発明の凸部3aの径は2〜6mmであるから2.6〜18mmの範囲、例えば凸部3aの径が4mmの場合は5.2〜12mmであることが好ましく、凸部3aの径の2.0〜2.5倍、本発明の凸部3aの径は2〜6mmであるから4〜15mmの範囲、例えば凸部3aの径が4mmの場合は8〜10mmであることがさらに好ましい。
【0032】
隣接する凹部4a同士の間のブランク5が流入しないようにするためには中心点間隔を凸部3aの径の3.0倍以下、本発明の凸部3aの径は2〜6mmであるから最大でも18mm以下、例えば凸部3aの径が4mmの場合は12mm以下に設定することが好ましく、一般的なプレス機の荷重(ブランクホールド荷重)を考慮すると中心点間隔を凸部3aの径の1.3倍以上、本発明の凸部3aの径は2〜6mmであるから最小でも2.6mm以上、例えば凸部3aの径が4mmの場合は5.2mm以上に設定することが好ましい。
【0033】
隣接する凹部4a同士の間隔が狭すぎると、ブランク5を挟み込むために必要な押圧力が大きくなるため、機械能力が足らなくなって、上下金型が押さえ込めきれなくなり、ブランク5が流入してしまう。逆に、この間隔が広すぎると、拘束力が低下してしまい、ブランク5の流入を阻止するのに必要な押圧力が大きくなる。
【0034】
ブランク5の板厚は、絞り成形の素材の板厚として一般的な0.6〜0.8mmであることが好ましい。
量産金型間のギャップを想定すると、隣接する凹部4a同士の間のブランク5が流入しないようにするためには、中心点間隔を凸部3aの径の2.5倍以下、本発明の凸3aの径は2〜6mmであるから最大でも15mm以下、例えば凸部3aの径が4mmの場合は10mm以下に設定することが好ましく、特別な機構を追加することなく、さらに張出成形に用いられるようなプレス機の荷重(ブランクホールド荷重)を考慮すると、中心点間隔を凸部3aの径の2.0倍以上、本発明の凸3aの径は2〜6mmであるから最小でも4.0mm以上、例えば凸部3aの径が4mmの場合は8.0mm以上に設定することが好ましい。
【0035】
上述した範囲をまとめると表1のようになる。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、本実施形態の作用について説明する。最初に、ダイ3上にブランク5を投入する。次に、ブランクホルダ4が下降して、ダイ3とブランクホルダ4の間に、ブランク5を挟みこむ。この際、ブランク5のビード部は、半球形状の凸部3aによって小さく張り出され、ビード形状が形成される。次に、パンチ2が下降し、凸部3aで拘束されたブランク5の凸部3aよりも内側に、押し付けられることにより、成形が行われる。
【0038】
この際、ブランク5のビード部は、内側に引き込まれるような引張力を受ける。凸部3aは、ブランク5の流入方向の断面に応じた曲げ、曲げ戻し変形抵抗、直辺部の面圧に加えて、ビードライン方向の断面形状に応じたブランク5の伸び縮み変形抵抗が生じるため、前記の引張力に勝る拘束力を有しており、成形中にブランク材を流入させることなく拘束し、プレス成形(張り出し成形)が行われる。
【0039】
本実施の形態は、以下に示す効果を有する。
(1)ブランク5は、ビードの断面線長が小さく、また前記のように、張出されてビードを形成されるため、ブランク5の端の流入量は、ブランクホールド時および成形時を合わせても、2mm程度以下の小さな値となる。さらに、流入方向のビード幅も小さい。したがって、例えば、波形状ビードに比較して、片側5〜15mm程度の材料歩留向上が可能である。
【0040】
(2)前記のように、通常の台形ビードと比較して拘束力が大きいため、上下金型に若干のギャップが存在しても、ブランク材を拘束可能である。例えば本実施形態では、0.4mm程度のギャップが存在してもブランク材の拘束可能であり、厳格な上下金型の面あわせ作業を必要としない。
【0041】
(3)リングプロファイル〜ビードまでの間隔が短い。従来のビードでは、凹部4aのコーナー部における金型亀裂の発生を防ぐため、リングプロファイル〜ビードまでの間隔を例えば7〜10mmと広めに設定していた。しかし、本発明では、凹部4aの深さは凸部3aが低いので浅く設定でき、また非連続であるため、リングプロファイル〜ビードまでの間隔の短縮のネックとなる凹部4aのコーナー部におけるき裂の発生要因となる曲げモーメントが小さくなる。リングプロファイル〜ビードまでの間隔を5mmに短縮できる。
【0042】
(4)凸部3a自体の引張方向長さが短い。本発明の凸部3a及び凹部4aの深さは、従来のビードに比べて、拘束力が高いため、小さくできる。また、ブランク材を挟みこむ時(=ブランクホールド時)、ブランク5の引き込みが極小である。本発明の凸部3a及び凹部4aは不連続であるため、ブランク5の引き込みが小さいが、従来のビードは連続して曲げるため、引き込み量が大きい。これらにより、材料歩留りを7mm改善できた。片側につき9〜12mm母材を小さくできるため、全体では縦横それぞれ18〜24mm母材を小さくできる。
【実施例1】
【0043】
図1に示す本発明の凸部3a及び凹部4aを有する金型1の最適形状(凸部の高さH)を、量産プレスで想定される上下金型間の隙間に対するギャップ余裕と、凸部3aの頂部のブランク5が破断してしまう危険性という2つの観点から、検討した。
【0044】
試験対象材であるブランク5は、ドア等の外板用途ではごく一般的な板厚0.75mmの引張強度340MPa級冷延合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。試験方法は、40mm幅のブランク5の端を、図1に示す本発明に係る製造装置の金型1で所定の押圧力で挟み込んで、ブランク5のどこかが破断するまで引抜く試験である。ブランク5をロックできた場合(本明細書では、「ロック」とは試験対象材の流れ込みの阻止を意味する)、ブランク5の流入量は1mm未満の小さな値となり、ブランク5は凸部3a及び凹部4aを有する金型1の外側の部分で破断する。ブランク5の押圧力は40kgf/mm(凹凸形状の並設方向の長さ1mmあたりの荷重)とした。
【0045】
(1)実験方法
1−1 ギャップ余裕定量化
ブランク5の流入量(中央3点の摺動痕長さ平均値で評価)がブランクホールド後、成形中に1mmを超えない最大ギャップをギャップ余裕と定義し、ギャップ余裕に及ぼす凸部3aの高さの影響を定量化した。比較のため、従来のウェーブビードも同様にギャップ余裕を定量化した。表2に実験条件を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
(2)エンボス近傍のブランク破断危険性評価
<条件1:ブランクホールドのみ>
凸部3a、凹部4aを有する上下金型1間の隙間がなくなるまで(凸部3a及び凹部4aの距離がブランク5の板厚に一致するまで)押圧力を負荷することによって、完全ホールド状態を模擬した。完全ホールド時の凸部3aの近傍の板厚(最薄部)および肌荒れ状態を評価した。
<条件2:ブランクホールド→引抜>
表3に示すように、設定押圧力40kgf/mmまでブランクホールドし、そのまま引き抜くことによって成形工程を模擬した。引抜後の凸部3aの近傍の板厚(最薄部)および肌荒れ状態を評価した。図6に、評価結果の一例の写真を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
(3)実験結果
実験結果を図7〜9のグラフにまとめて示す。なお、試験対象材の流入量が1mm未満となる場合、ロックしたと判断した。図6に示すように、試験後のブランク5には金型1との接触面圧が強い部分に、流入した長さに対応する摺動痕が残存する。そこで、流入量はブランク5に接触する金型1との摺動痕の長さから判断した。
【0050】
図7に示すように、比較例のウェーブビード及び本発明例ともに、ギャップ設定の増大に伴って流入量(摺動痕長さ)が増大した。また、図8にグラフで示すように、凸部3aの高さを2.0→3.3mmと高くするほど同じ上下金型1間の隙間での流入量は縮小し、ギャップ余裕が増大した。
【0051】
さらに、図9にグラフで示すように、凸部3aの高さ約2.9mmでウェーブビードと同等以上のギャップ余裕を確保可能であった。
【実施例2】
【0052】
図1〜4に示す凸部3a及び凹部4aを有する金型の各部寸法を種々変更して板厚0.75mmの340MPa級冷延合金化溶融亜鉛めっき鋼板から張り出し成形品を製造し、歩留り、外観及び必要押圧力を測定した。表4に試験条件及び試験結果をまとめて示す。なお、本実施例の上下金型1間の隙間の設定条件は、量産時には上下金型1間の隙間が0.1mm程度空いてしまうことが多いため、量産を想定して、金型の押圧力:40kgf/mm、上下金型間の隙間が0.1mmの条件で行った。
【0053】
また、表4では、従来例に対する歩留りは、リングプロファイル〜ブランク拘束部(ビード部あるいは凹凸形状)の間隔の削減代を考慮しない条件で、トリムされる部分の削減幅が5mm以上である場合を○とし、5mm未満である場合を×とした、外観検査では、割れやめっき剥離がない場合を○とし、ある場合を×とした。さらに、ブランク5のロックを達成できた場合を○とし、達成できない場合を×とした。
【0054】
表4では「先細形状」とは、凸部の頂部における曲率半径が、凸部の半径よりも小さく、かつ断面形状が実質的に直線であるような斜面によって凸部の略円筒形状をした根元部分に繋げた形状を意味し、「ドーム状」とは凸部の頂部における曲率半径が、凸部の半径と同程度の半球形状である形状を意味する。
【0055】
図10(a)は、表4における「ドーム状」の具体的な寸法を、表4のNo.1を例に示す説明図であり、図10(b)は、表4における「先細形状」の具体的な寸法を、表4のNo.6を例に示す説明図である。
【0056】
図10(a)に示すように、「ドーム状」とは、円柱体10の上に半球体11が乗った形状である。表4のNo.1では外径4.0mmの円柱体10の上に半径2.0mmの半球体11が乗っている。図10(a)では省略したが、凸部12の部品の根元にねじ山を切り、凸部12の高さを任意に調節できる。また、凸部12が損傷した場合、損傷した部分のみを交換できる。表4のNo.1において、凸部12の高さを3.0mmに調節し、金型から露出した円柱体10の高さは1.0mmとした。
【0057】
一方、図10(b)に示すように、「先細形状」とは円錐台13の上に半球体14が乗った形状である。また、必要に応じて円錐台13は円柱にしてもよい。表4のNo.6では頂部が半径1.0mmの半球体14になっている。半球体14の下は円錐台13になっていて、半球体14と円錐台13の境目の径は2.0mmである。円錐台13の箇所は高さ1mmにつき径2mmで根元に向かって拡大し、径が4.0mmになったところでそれより下方は円柱体となる。凸部15の根元および凸部15の部品のうち金型に埋没した箇所を円柱状にし、No.1と同様に凸部15の部品の根元にねじ山を切り、凸部15の高さを任意に調節できる。表4のNo.6において、凸部15の高さを3.0mmに調整し、金型から露出した円柱体の高さは1.0mm、その上の円錐台13の高さは1.0mm、半球体14の高さは1.0mmとした。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示す結果から、本発明の効果が明らかである。
【符号の説明】
【0060】
1 金型
2 パンチ
3 ダイ
3a 凸部
4 ブランクホルダ
4a 凹部
5 ブランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクの周縁部に当接する第1のブランク拘束部をオープニングラインに有する第1の金型と、前記ブランクの周縁部に当接する第2のブランク拘束部をオープニングラインに有する第2の金型と、前記第1の金型および前記第2の金型によって拘束された前記ブランクに対して移動することによって該ブランクに張り出し成形を行う第3の金型とを備える張り出し成形品の製造装置において、
前記第1のブランク拘束部のうちの少なくとも一部は、並設された複数の凸部により構成されるとともに、
前記第2のブランク拘束部のうちの少なくとも一部は、前記並設された複数の凸部を、それぞれ、隙間を有して収容する並設された複数の凹部により構成されること
を特徴とする張り出し成形品の製造装置。
【請求項2】
第1の金型のオープニングラインに設けられ、かつその少なくとも一部が並設された複数の凸部により構成される第1の拘束部を、ブランクの周縁部に当接するとともに、第2の金型のオープニングラインに設けられ、かつその少なくとも一部が、前記並設された複数の凸部それぞれを、隙間を有して収容する並設された複数の凹部により構成される第2の拘束部を、前記ブランクの周縁部に当接することによって、前記凸部および前記凹部により前記ブランクを拘束し、拘束された当該ブランクに対して第3の金型を移動することによって該ブランクに張り出し成形を行うことを特徴とする張り出し成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−210642(P2012−210642A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77096(P2011−77096)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)