説明

強力なコンプスタチン類似体

C3タンパク質に結合し得、かつ補体活性化を阻害するペプチド及びペプチド擬態体を含む化合物が開示される。これらの化合物は現在利用されている化合物と比較して非常に優れた補体活性化の阻害能力を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内における補体カスケードの活性化に関する。特に、本発明はタンパク質C3に結合し、かつ補体活性化を阻害し得るペプチド及びペプチド擬態体(peptidomimetics)を提供する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2005年11月28日に提出され、本明細書に記載の引用文献を含めた全内容と同一である米国仮出願第60/740205号に基づく優先権を主張するものである。
【0003】
政府機関による支持
本明細書に開示された本発明は国立保険協会(NIH)により交付番号62134に基づく基金の一部が使用されたものであり、米国特許法第202条に従って、米国政府機関が優先権を有することが承認されている。
【0004】
特許出願、公開された特許出願、技術誌、学術記事を含むさまざまな出版物から本明細書の全文を通して引用している。これらの各引用文献の全体を、参照することにより本明細書に一体化させる。本明細書には引用文献の全文を掲載していないが本明細書の最後に明記している。
【0005】
補体系は外来病原体に対する免疫学的防御の最初の系である。補体は古典経路、第二経路、またはレクチン経路を経由して活性化され、アナフィラトキシンペプチドC3aとC5aとを産生し、膜侵襲複合体C5b-9を形成する。補体成分C3は、前記3つすべての経路の活性化において中心的役割を担っている。補体経路を通ってC3コンベルターゼにより補体C3が活性化され、続いて前記補体C3が標的細胞の表面に付着することにより膜侵襲複合体の集合が生じ、最終的に標的細胞に損傷を与えるか、または、標的細胞を融解させる。補体C3は免疫監視機構及び免疫反応経路において重要な役割を有する多様なリガンド結合部位の多様性を提供し得る適応能に優れた構造を所有しているという点でユニークである。
【0006】
補体の不適切な活性化によりホスト細胞が損傷することがある。補体はさまざまな自己免疫疾患を含むいくつかの病状と結び付けられる。すなわち、呼吸器症候群や心臓発作、異種間移植による拒絶反応、火傷による傷害等、他の臨床状態に影響を及ぼすことがわかっている。また、透析や人工心肺による生理的不和合性により補体媒介の組織傷害が引き起こされることもある。
【0007】
補体媒介の組織傷害は膜侵襲複合体によって直接的に引き起こされ、間接的にはペプチドC3a及びC5aの産生によって引き起こされる。これらのペプチド類は、好中球やマスト細胞を含む様々な細胞を媒介して損傷を与える。インビボでの活性化段階における補体C3及びC5は、血漿及び膜タンパク質の両者によって制御されている。血漿阻害タンパク質は補体H因子及びC4結合タンパク質であり、細胞表面にある調節性の膜タンパク質は補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)そして補体調節タンパク質(MCP)である。これらのタンパク質は、サブユニット複合体の解離を促進することによって、かつ/または、前記複合体をプロテオリシス(第I因子により触媒される)により不活性化することによってC3及びC5コンベルターゼ(複合サブユニットプロテアーゼ)を阻害する。補体活性を阻害あるいは調節するいくつかの薬理剤はインビトロの測定により確認されているが、それが低活性であるか、または中毒性であるかを調べる必要がある。
【0008】
今までのところ、補体活性化の阻害剤は、特に可溶性補体受容体1(sCR1)として知られている補体受容体1の組み換え体やヒト化モノクローナル坑C5抗体(5G1.1-scFv)等、候補としては挙がっているが、臨床的に承認されているものは未だ存在しないのが現状である。これらの両物質は補体活性化が阻害されることがインビボ動物モデルで明らかとなっている(Kalli KR ら、1994; 及び、 Wang ら、1996)。しかしながら、それぞれのタンパク質の分子量が大きい(それぞれ240 kDa と 26 kDa)という不都合があり、そのため製造が難しくかつ点滴による管理を要することとなる。それゆえに、輸送がより容易で、安定性があり、製造にコストがかからないような分子量のより小さい有効な薬剤の開発を目的とした研究がすすめられている。
【0009】
ランブリスらの米国特許第6,319,897号には、C3に結合し、かつ補体活性化を阻害するペプチドの27残基を同定するためにファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを使用したことが開示されている。このペプチドは、補体活性を維持した13残基の環状のセグメントに切断され、該セグメントはコンプスタチンと当該分野で呼ばれている。コンプスタチンは、C3コンベルターゼによってC3が切断されてC3a及びC3bが生成されるのを阻害する。現在、コンプスタチンに関してインビトロ、インビボ、エクスビボ、インビボ/エクスビボの相互実験により試験が行われ、下記のことが立証されている。すなわち、(1)ヒト血清において補体の活性化を阻害する(Sahu A ら、1996)(2)霊長類においてヘパリン/プロタミン誘発性の補体活性化を重大な副作用を引き起こすことなく阻害する(Soulika AM ら、2000)(3)ヒト血液により灌流されたブタ−ヒト間異種移植片の寿命を延長する(Fiane AE ら、1999a; Fiane AE ら、1999b; 及び、Fiane AE ら、2000)(4)心肺バイパス、血漿交換、対外回路による透析のモデルにおける補体の活性化を阻害する(Nilsson B ら、1998)(5)低毒性である(Furlong ST ら、2000)。
【0010】
コンプスタチンはCys2とCys2とがジスルフィド結合を形成している配列ICVVQDWGHHRCT-NH2 (配列番号1)を有するペプチドである。この三次元構造は2つの独立に制限された計算方法におけるホモ原子核2D NMR分光測定法を用いて決定された。一つ目の計算方法は幾何学、分子動力学、シミュレートアニーリングを含み(Morikis D ら、1998; WO99/13899)、二つ目の計算方法は広域の最適化を含む(Klepeis ら、J. Computational Chem., 20:1344-1370, 1999)。コンプスタチンの構造における分子表面の極性パッチの有無が明らかとなった。極性部分はタイプI型β鎖を包含し、無極性パッチはジスルフィド結合を包含している。さらに、アラニン置換(アラニンスキャン)に伴う一連の類似化合物を合成し、活性化のテストを行った結果、β鎖の4残基と疎水性クラスター周囲のジスルフィド結合とがコンプスタチンの阻害性活性化における重要な役割を担っていることがわかった(Morikis ら、1998; WO99/13899)。
【0011】
第二経路を経た赤血球溶血を測定するための補体活性アッセイを用いたところ、コンプスタチンのIC50は12μMであった。事前にテストした類似体の中にはコンプスタチンの活性と同等またはそれ以上の活性を示すものもあった。国際公開番号WO2004/026328には、これらのアッセイ中で活性化の促進に係るコンプスタチンのN末端及びC末端、並びに4位及び9位に変異がある類似体及び擬態体についての開示がある。類似体の中にはコンプスタチンの99倍の活性を示すものが報告されている(Mallik ら、2005参照)。さらに高い活性を有するコンプスタチン類似体あるいは擬態体についての開発研究が重要な意味を有するとして今後も継続されるだろう。
【0012】
発明の概要
本発明は、コンプスタチンと比較して、改善された補体阻害活性を有する補体阻害ペプチド、すなわちコンプスタチン(HOOC-ICVVQDWGHHRCT-NH2; 配列番号1)の類似体及び擬態体を提供するものである。
【0013】
一の態様において、本発明は補体活性化を阻害する化合物に関するものであり、この化合物は、配列:
Xaa1 - Cys - Val - Xaa2 - Gln - Asp - Xaa3 - Gly - Xaa4 - His - Arg - Cys - Xaa5 (配列番号:26)
[ 式中、Xaa1 は Ile、Val、Leu、Ac-Ile、Ac-Val、Ac-Leu または Gly-Ileを含むジペプチドであり;
Xaa2 はTrpまたはTrpの類似体であり、ここにTrpの類似体はTrpと比較して疎水性が強いものであるが、但し、Xaa3が Trpの場合は、Xaa2はTrpの類似体であり;
Xaa3はインドール環に化学修飾を含むTrpまたはTrpの類似体であり、ここに化学修飾はインドール環の水素結合能を高めるものであり;
Xaa4はHis、Ala、PheまたはTrpであり;
Xaa5はL-Thr、D-Thr、Ile、Val、Gly、またはThr-Asn若しくはThr-Alaを含むジペプチド、またはThr-Ala-Asnを含むトリペプチドであり、ここに L-Thr、D-Thr、Ile、Val、GlyまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端のOH基がNH2基によって任意に置換されていてもよく;かつ2つのCys残基はジスルフィド結合によって結合されている]
を有するペプチドを含む。
【0014】
一実施態様について、Xaa2はC3との無極性相互作用に関与している。また、他の実施態様について、Xaa3はC3との間の水素結合に関与している。さらに他の実施態様について、Xaa2はC3との間の無極性相互作用に関与し、かつXaa3はC3との間の水素結合に関与している。
【0015】
様々な実施態様において、Xaa2に関するTrpの類似体は、5−フルオロ−l−トリプトファンまたは6−フルオロ−l−トリプトファンのようなハロゲン化トリプトファンである。また、他の実施態様として、Xaa2に関するTrpの類似体は、例えば5−メトキシトリプトファンまたは5−メチルトリプトファンのように、5位が低級アルコキシ置換基または低級アルキル置換基を含む。さらにまた、他の実施態様として、Xaa2に関するTrpの類似体は、代表的な1−メチルトリプトファンまたは1−ホルミルトリプトファンのように、1位が低級アルキル置換基または低級アルケノイル置換基を含む。また、他の実施態様として、Xaa3のTrpの類似体は、5−フルオロ−l−トリプトファンまたは6−フルオロ−l−トリプトファンのようなハロゲン化トリプトファンである。
【0016】
一実施態様において、トリプトファンの1位に低級アルケノイル置換基または低級アルキル置換基を含み、Xaa3はハロゲン化トリプトファンを任意に含んでいてもよく、Xaa4は、アラニンを含む。好適には、Xaa2が1−メチルトリプトファンまたは1−ホルミルトリプトファンで、かつXaa3が5−フルオロ−l−トリプトファンを任意に含んでいてもよい。具体的な化合物としては、配列番号 15−25に記載の配列のいずれかを含むものが挙げられる。
【0017】
一実施態様において、本発明の化合物はポリヌクレオチドによってコード化されたペプチドの発現により産生されたペプチドを含む。また、他の実施態様として、本発明の化合物はペプチド類の合成により少なくとも部分的に産生される。合成方法の組み合わせによっても産生することができる。
【0018】
一実施態様において、コンプスタチン類似体は、ペグ化された化合物を内包しており、配列番号36に記載の配列を含む化合物として例証されている。
【0019】
他の実施態様において、コンプスタチン類似体は、さらにインビボで化合物の保持を延長させるようなさらなるペプチド成分を含む。例えば、さらなるペプチドの構成成分はアルブミン結合ペプチドが挙げられる。一例として、コンプスタチン−アルブミン結合ペプチド複合体は配列番号39に記載の配列を含む。
【0020】
本発明の他の態様としては、配列番号26または上記類似体及び複合体の他のいずれかの配列の非ペプチドまたは部分ペプチド擬態体を含む、補体活性を阻害する化合物を特徴としている。これらの非ペプチドまたは部分ペプチド擬態体はC3に結合し、かつ同じアッセイ条件下において、配列番号1を含むペプチドよりも少なくとも100倍の補体活性を阻害するように設計される。
【0021】
本発明におけるコンプスタチン類似体、複合体、擬態体は本明細書に記載される通り、コンプスタチン自体の使用目的であればいずれの目的にも利用できる。これらの使用のある種のものは、患者への投与に用いる医薬品の処方も含まれる。かかる処方には、薬剤的に承認される希釈物、担体賦形剤、またはその様なものの一つまたはそれ以上のものと同様に、医薬上許容される塩も含まれ得るが、当該技術分野で認められる範囲であろう。
【0022】
本願発明の様々な特徴及び効果は下記する本願明細書における発明の詳細な説明及び図表を参照することにより理解されるだろう。
【0023】
図の説明
(図1)発現コンプスタチン及びその類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(四角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(丸)トリプトファン(配列番号15)、(三角)5−フルオロ−トリプトファン(配列番号16)、(星)6−フルオロ−トリプトファン(配列番号17)、(六角形)5−ヒドロキシ−トリプトファン(配列番号27)、(菱形)7−アザ−トリプトファン(配列番号28)を表している。
【0024】
(図2)合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(四角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(丸)5−フルオロ−l−トリプトファンを4位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号18)、(三角)7位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号19)、(菱形)4位及び7位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号20)を表している。
【0025】
(図3)追加合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(A)(三角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、これに対して(逆三角)Ac-V4(5f-l-W)/H9A(配列番号18)、(丸)Ac-V4(5-メチル-W)/H9A(配列番号22)、(菱形)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)、(四角)Ac-V4(2-Nal)/H9A(配列番号7);(B)(三角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、これに対して(六角形)Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)、そして(C)(三角形)野生型コンプスタチン(配列番号1)に対して(左向き三角形)Ac-V4(1-メチル-W)/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号24)を表している。
【0026】
(図4)追加コンプスタチンとC3との相互作用における熱力学的特徴。ITCデータはC3と(A)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(B)Ac-V4(5f-l-W)/H9A(配列番号18)、(C)Ac-V4(5-メチル-W)/H9A(配列番号22)、(D)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)、(E)Ac-V4(2-Nal)/H9A(配列番号7)、(F)Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)との結合を表している。この図は、Origin 7.0で補正生データを“one set of sites” モデルに合わせて得られた。
【0027】
(図5)log Pにより表される類似体の疎水性と(A)阻害定数、(B)-TΔSで表されるエントロピー、(C)結合定数との関係を表す。
【0028】
(図6)追加合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)及び(四角形)Ac-V4(1-ホルミル-W)/H9A(配列番号25)の濃度を表したものである。
【0029】
(図7)ペグ化されたコンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)及び(四角形)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A-K-PEG 5000(配列番号36)のペプチド濃度。
【0030】
(図8)コンプスタチン類似体複合タンパク質が結合されたアルブミンの活性化。補体阻害パーセントのプロット対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)ペプチド濃度及び(四角形)(Ac-ICV(1MeW)QDWGAHRCTRLIEDICLPRWGCLWEDD-NH2)(配列番号38)融合ペプチド濃度。
【0031】
実施態様の詳細な説明
本願発明に係る方法及び他の態様に関する様々な用語が明細書及び特許請求の範囲に使われている。このような用語は一般的に使用される意味を呈している。本明細書中、特に定義された用語は、この定義された意味で解釈される。
【0032】
定義
下記の略語は本明細書及び実施例中において使われる。Ac、アセチル基;NH2、アミド;MALDI、マトリック支援レーザー脱離イオン法;TOF、飛行時間型;ITC、等温滴定熱量測定;HPLC、高速液体クロマトグラフィー;NA、不活性;dT、D−スレオニン;2-Nal、2−ナフチルアラニン;1-Nal、1−ナフチルアラニン;2-Igl、2−インダニルグリシン;Dht、ジヒドロトリプトファン;Bpa、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン;5f-l-W、5−フルオロ−l−トリプトファン;6f-l-W、6−フルオロ−l−トリプトファン;5-OH-W、5−ヒドロキシトリプトファン;5-メトキシ-W、5−メトキシトリプトファン;5-メチル-W、5−メチルトリプトファン;1-メチル-W、1−メチルトリプトファン;アミノ酸に関する略語は3文字表記または一文字表記による命名法を用いる。たとえばトリプトファンであればTrp またはWと表す。
【0033】
明細書中、持続時間などのような測定値を表す場合に用いられる「およそ」と表記された用語は、化合物及び成分を公表する上で適切な変動であるように、いくつかの例においては特定の値から±20%または±10%の変動範囲、いくつかの例においては±5%、±1%、±0.1%の変動範囲を意味する。
【0034】
「薬剤的に活性」及び「生物学的に活性」という用語は、C3に結合するかまたはそのフラグメントに結合し、補体活性化を阻害する本発明の化合物の能力を意味する。この生物学的活性は本明細書中詳細に説明されているように、一つまたは他のいくつかの公知のアッセイによって測定され得る。
【0035】
本明細書中に記載された「アルキル」とは任意に置換されていてもよい飽和直鎖状、側鎖状、環状のおよそ1から10の炭素原子(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)を有する炭化水素を意味し、そのうち炭素原子数がおよそ1から7からなるものが好ましい。アルキル基は、特に限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロピエンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、シクロオクチル、アダマンチル、3−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチルを含む。「低級アルキル」とは、任意に置換されていてもよい飽和直鎖状、側鎖状、環状のおよそ1から5の炭素原子(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)を有する炭化水素を意味する。低級アルキル基は、特に限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロピエンチル、イソペンチル、ネオペンチルを含む。
【0036】
本明細書中に記載された「ハロ」とはF、Cl、 Br、Iを意味する。
【0037】
本明細書中に記載された「アルカノイル」とは、「アシル」とも互換的に用いられるが、任意に置換されていてもよい直鎖状または側鎖状の脂肪族アシル残基で、およそ1から10の炭素原子(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)を有し、そのうちおよそ1から7の炭素原子からなるものが好ましい。アルカノイル基は、特に限定されるものではないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソ−ブチリルペンタノイル、イソ−ペンタノイル、2−メチル−ブチル、2,2−ジメチルプロピオニル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイルなどを含む。「低級アルカノイル」は、任意に置換されていてもよい直鎖状または側鎖状の脂肪族アシル残基で、およそ1から5の炭素原子(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)を有する。低級アルカノイル基は、特に限定されるものではないが、ホルミル、アセチル、n−プロピオニル、イソ−プロピオニル、ブチリル、イソ−ブチリル、ペンタノイル、イソ−ペンタノイルなどを含む。
【0038】
本明細書中に記載の「アリル」は、およそ5から14の炭素原子を含む(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)任意に置換されていてもよい、一または二環性の芳香環システムを意味し、このうち、およそ6から10の炭素を有するものが好ましい。たとえばペニル及びナフチルを含むが、これに限定されるものではない。
【0039】
本明細書中に記載の「アラルキル」はアリル置換基に関連したアルキルラジカルで、およそ6から20の炭素原子(さらに、すべての組み合わせ、この範囲のサブコンビネーション、炭素原子の特定の数を含む)を有し、このうちおよそ6から12の炭素を有するものが好ましい。アラルキル基は、任意に置換され得る。特に限定されるものではないが、たとえばベンジル、ナフチルメチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、フェニルエチル、ジフェニルエチルなどが挙げられる。
【0040】
本明細書中に記載の「アルコキシ」及び「アルコキシル」は任意に置換されていてもよいアルキル−O−基を表す。ここで言うアルキルとは前記に定義されたものである。代表的なアルコキシ及びアルコキシル基はメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、ヘプトキシなどを含む。
【0041】
本明細書中に記載の「カルボキシ」は-C(=O)OH基を表す。
【0042】
本明細書中に記載の「アルコキシカルボニル基」は-C(=O)O-アルキル基を表す。ここで言うアルキルとは前記に定義されたものである。
【0043】
本明細書中に記載の「アロイル」は-C(=O)-アリル基を表す。ここで言うアリルとは前記に定義されたものである。代表的なアロイル基はベンゾイル及びナフトイルを含む。
【0044】
典型例として、置換された化学的部分は、分子上の選択された位置における水素を置換した一つまたはそれ以上の置換基を含む。代表的な置換基は、たとえば、ハロ、アルキル、シクロアルキル、アラルキル、アリル、スルフヒドリル、ヒドロキシル(-OH)、アルコキシル、シアノ(-CN)、カルボキシル(-COOH)、アシル(アルカノイル:-C(=O)R);-C(=O)O-アルキル、アミノカルボニル(-C(=O)NH2)、-N-置換されたアミノカルボニル(-C(=O)NHR”) CF3、CF2CF3などである。これらの置換基の関係において、それぞれのR”部分には、独立にH、アルキル、シクロアルキル、アリル、またはアラルキルなどのいずれであってもよい。
【0045】
本明細書に記載の「L−アミノ酸」は、標準的に存在する左旋性のアルファ−アミノ酸またはアルファ−アミノ酸のアルキルエステルを表す。「D−アミノ酸」は右旋性のアルファ−アミノ酸を表す。特にことわりがなければ、本明細書中に記載のすべてのアミノ酸はL−アミノ酸を表す。
【0046】
「疎水性の」または「無極性の」はここでは同義語として用いられ、双極子によって特徴づけられるのではなく、それぞれの分子間作用を表す。
【0047】
本明細書に記載の「pi特性」は、C3とのpi結合に関与するコンプスタチンの能力を表す。pi結合は2つの平行なp 軌道の横の重複部分の結果として生ずる。
【0048】
本明細書に記載の「水素結合能」は、コンプスタチン内の置換されたトリプトファン残基またはトリプトファン誘導体における電気陰性部位とC3内の水素原子との関係のように、コンプスタチンとC3との電気誘引に関与する能力を示す。かかる電気陰性部位の非限定的な例はフッ素原子である。
【0049】
「ペグ化」とは、大きさは関係なく、少なくとも一つのポリエチレングリコール(PEG)部分がタンパク質またはペプチドと結合して、PEG−ペプチド複合体を形成するような化学的な結合反応を示す。PEGは、一般的にPEGポリマーの近似平均分子量を示す数的接尾語とともに使われる;たとえば、PEG-8,000とは平均分子量が8000のポリエチレングリコールを表す。
【0050】
本明細書に記載された「医薬上許容される塩」とは開示された化合物の誘導体を意味し、その中の親化合物は酸性または塩基性塩を形成することによって修飾される。医薬上許容される塩としては、特に限定されるものではないが、アミンのような塩基残基の無機質または有機酸塩;カルボキシル酸のような酸性残基のアルカリまたは有機酸塩などが挙げられる。つまり、「酸付加塩」は酸の付加により調合された親化合物の塩誘導体と一致する。医薬上許容される塩は、従来の塩または親化合物の四級アンモニウム塩を含み、たとえば、無機または有機酸が挙げられる。たとえば、前記従来の塩とは、特に限定されるものではないが、塩化水素、臭化水素、硫化、リン化、窒化などのような無機酸;さらに、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などの有機酸から調合された塩に由来するものを含む。本発明の酸性またはアルカリ性化合物は双性イオンとして存在する。遊離酸、遊離塩基、双性イオンを含む化合物のすべての形式は、本発明の範囲内であると熟慮されている。
【0051】
説明:
本発明によれば、コンプスタチンの生物学的及び物理化学的特徴についての情報は、親コンプスタチンペプチドと比較して活性化がさらに促進されるコンプスタチン類似体の設計に利用されている。一例では、類似体は少なくとも50倍の活性を備えている。他の態様としては、類似体はコンプスタチンより60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130倍またはそれ以上の活性化を有する。さらにまた、実施例において詳述したアッセイを利用したものと比較すると、類似体はコンプスタチンより135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265倍またはそれ以上の活性化を有する。
【0052】
他の方法で合成されたコンプスタチン類似体は親ペプチドと比較して99倍まで活性が促進された(Mallik, B. ら、2005, supra; WO2004/026328)。本発明のとおり産生された類似体は、本明細書の図及び実施例で示すとおりインビトロアッセイにより実証されているが、親ペプチドまたはそれらの類似体より活性化の向上している。
【0053】
表1Bに、コンプスタチン及び活性向上に伴う選択的類似体についてのアミノ酸配列及び補体阻害活性を示す。選択的類似体は親ペプチド、つまりコンプスタチン(配列番号1)及びWO2004/026328に開示されているが、表1Aで示した配列番号2−14のペプチド、と比較して指定部位(1−13)で特定の修飾を受けたものを表す。配列番号15−24のペプチドは、本発明により得られる修飾体の体表例であり、有意に潜在能力がより高い類似体となる。詳しくは下記に示すが、配列番号2−13に明記されているように、4位のトリプトファンの置換は7位のトリプトファン類似体での置換と組み合わさって、さらなる強力コンプスタチン類似体となると理解される。
【0054】
【表1−1】


【表1−2】

【0055】
N−末端における修飾
配列番号1と配列番号2を比較すると、N−末端のアセチル化によってコンプスタチン及びその類似体の補体阻害活性が顕著に向上していることがわかる。したがって、ペプチドのアミノ末端でのアシル基の付加、特に限定されるものではないがN−アセチル化が挙げられ、本発明においてはこれが好ましい例であり、ペプチドが合成され調合された場合、特に優れた効果を奏し得る。しかしながら、原核生物または真核生物におけるペプチドをコード化している核酸分子の発現によりまたはインビトロでの転写及び翻訳により予めペプチドを準備してもよい。これらの実施例として、自然界にあるN−末端が利用できる。インビトロまたはインビボにおいて適したコンプスタチン類似体の一例は配列番号15−17によって代表され、それらにおいてN−末端でアセチル基は置換されていないグリシンと置き換わる。配列番号15−17は、以下に詳述するとおり、ペプチド中及びC−末端での修飾を追加的に含むものであり、本明細書中に記載された補体阻害アッセイにおいて、コンプスタチンよりも約45倍から約125倍の活性がある。
【0056】
ペプチド内の修飾
コンピューター法(the rank low lying energy sequences)を用いた結果、Tyr と Valが4位においてペプチドの安定化及び活性化を支持する役割があるとして候補に挙げられるのは、以前から明らかであった(Klepeis JL ら、2003)。特に4位のTrp が9位のAlaと組み合わされて親ペプチドよりも何倍も高い活性を示すことは、WO2004/026328に開示されていた(たとえば、配列番号4、5、6の活性化と配列番号2、3を比較する)。WO2004/026326にもまた、4位にトリプトファン類似体である2−ナフチルアラニン(配列番号7、8)、1−ナフチルアラニン(配列番号9)、2−インダニルグリシン(配列番号10、11)またはジヒドロトリプトファン(配列番号12)を含むペプチドすべてが、コンプスタチンと比較して5倍から99倍の範囲で補体阻害活性を促進することが開示されていた。さらに、4位にフェニルアラニン類似体を含むペプチド、4−ベンゾイル−L−アラニン(配列番号13)はコンプスタチンよりも49倍高い活性を有していた。
【0057】
本発明のとおり、5−フルオロ−l−トリプトファン(配列番号19)または5−メトキシ−若しくは5−メチル−若しくは1−メチル−のいずれかのトリプトファンまたは1−ホルミル−トリプトファン(それぞれ配列番号21、22、23、25)を含むペプチド類は、コンプスタチンよりも31から264倍高い活性を有する。1−メチル−または1−ホルミル−トリプトファンの取り込みにより他の類似体と比較すると活性及び結合親和性が向上した。4位におけるインドール窒素−水素結合は、コンプスタチンの結合及び活性に必要ないと考えられる。水素を低級アルキル、アルカノイル、またはインドール窒素に置き換えることによる4位の水素結合の非存在または極性の減少が、コンプスタチンの結合及び活性を高める。反応の特定の理論またはメカニズムを限定せずに、4位の疎水性相互作用または効果がコンプスタチンとC3との相互作用を強化すると考えられる。したがって、4位でのTrpの修飾(例えば、側鎖の構造を公知の方法で変更する)または前述の疎水性相互作用を維持または高めるTrp類似体の置換は、活性能のあるコンプスタチンの類似体を産生するために本願発明において熟慮されている。このような類似体は、置換されないかまたは置換された誘導体と同様に、当該技術分野においてよく知られ、含まれているが、本明細書に例証された類似体に限定されるものではない。適した類似体の例としては、下記出版物、その他に開示されている:Beeneら (2002) Biochemistry 41: 10262-10269 (とりわけ単一及び複数のハロゲン化Trp類似体についての開示); Babitzky 及び Yanofsky (1995) J. Biol. Chem. 270: 12452-12456 (とりわけメチル化及びハロゲン化されたTrp及びその他のTrp及びインドール類似体について開示)及び米国特許第6,214,790号、 6,169,057号、 5,776,970号、 4,870,097号、 4,576,750号、 4,299,838号。 Trp類似体は、当該技術分野においてよく知られ、また実施例において詳述されているようにインビトロまたはインビボでの発現によって、またはペプチド合成によってコンプスタチンペプチド中に導入される。
【0058】
実施例において、コンプスタチンの4位のTrpは、1−アルキル基、さらに好ましくは上記に定義した低級アルキル(例えば、C1-C5)基を含む類似体にて置換される。特に限定されるものではないが、これらはN(α)メチルトリプトファン及び5−メチルトリプトファンを含む。他の実施態様として、コンプスタチンの4位のTrpは、1−アルカノイル基、さらに好ましくは上記に定義した低級アルカノイル(例えば、C1-C5)基を含む類似体にて置換される。例証された類似体に加えて、これらは1−アセチル−L−トリプトファン及びL−β−ホモトリプトファンを含むが、これに限定されるものではない。
【0059】
熱力学的実験により、コンプスタチン内の7位に5−フルオロ−l−トリプトファンを組み込むと、コンプスタチンとC3との相互作用におけるエンタルピーを、野生コンプスタチンよりも向上させることが示された。一方、コンプスタチン内の4位に5−フルオロ−トリプトファンを組み込むと、それらの相互作用が減退した。特定のメカニズムに結合されることを目的とせずに、先の結果は、コンプスタチンの7位においてTrp残基中のインドール水素をフッ素原子に置換することによりインドール環の水素結合ポテンシャルを強化することができるか、または新たな水素結合ポテンシャルを導入することができるか、または結合面において水分子を通してC3との相互作用を仲介することができるということを示唆している。(Katragadda M ら、2004)。それゆえに本発明において、7位のTrpの修飾(例えば、側鎖の構造を公知の方法で変更する)、または前記水素結合ポテンシャルを維持し、高めるか、または結合面での水分子を通してC3との相互作用を仲介するようなTrp類似体の置換に関しては、より活性の強い類似体を産生する上で熟慮されている。インドール環が修飾を有し、水素結合能を増加させるか、あるいは結合海面において水分子を介するC3との相互作用を媒介するTrp類似体を、インビトロまたはインビボ発現により、あるいはペプチド合成により、コンプスタチンペプチドの7位に導入してもよい。7位に5−フルオロ−トリプトファン(配列番号19)のトリプトファン類似体を含むペプチドがコンプスタチンより121倍高い活性を示すことが明らかとなった。
【0060】
他の態様として、Trp類似体はコンプスタチン分子の4位と7位の両者に組み込まれ、さらにコンプスタチンの9位のHisはAlaに任意に置換されてもよい。熱力学的実験により、コンプスタチンの4位及び7位に5−フルオロ−トリプトファンを組み込むことによって、コンプスタチンとC3との間の相互作用におけるエンタルピーが、野生型コンプルタチンよりも上がることが示された。したがって、4位と7位のTrpの修飾(例えば、側鎖の構造を公知の方法で変更する)、または前記C3と4位との疎水性相互作用を維持または向上させ、かつC3と7位で前記水素結合ポテンシャル、またはC3と7位で結合面での水分子を介する相互作用を維持または向上させるTrp類似体の置換は、本発明において、より活性の強い類似体を産生する上で熟慮されている。このような修飾されたTrpまたはTrp類似体はインビトロまたはインビボの発現によって、またはペプチド合成によってコンプスタチンペプチドの4位及び7位に導入され得る。5−フルオロ−トリプトファン(配列番号16)のトリプトファン類似体及び6−フルオロ−トリプトファン(配列番号17)のトリプトファン類似体を含むペプチドは、コンプスタチン以上に、112倍から264倍までの範囲で活性を向上させることが明らかとなった。さらに、4位に1−メチル−トリプトファン及び7位に5−フルオロ−トリプトファン(配列番号24)を有するペプチドはコンプスタチンと比較して264倍の活性増加を示すことが明らかとなった。
【0061】
カルボキシ末端における修飾
合成方法により産生されたペプチドは、酸の代わりにアミドを有するようカルボキシ末端で一般的に修飾される;この共通の修飾は表1のコンプスタチン(配列番号1)及びいくつかの類似体に見ることができる。確かに実施例において、末端にアミドを含むペプチドは末端に酸を含むペプチド(比較例として例えば配列番号5及び7と配列番号4と8のそれぞれ)より活性を向上させる。したがって、本発明の利用態様としてC末端アミド修飾が好ましい。しかしながら、ある状況ではC末端に酸を用いることは好ましい。このような状況とは、特に限定されるものではないが、溶解度及びインビトロまたはインビボにおけるペプチドコード核酸分子からのペプチドの発現を含む。
【0062】
コンプスタチンのカルボキシ末端残基はスレオニンである。本発明の実施例において、C末端スレオニンは一つまたはそれ以上の自然界のアミノ酸またはその類似体に置換される。たとえば、配列番号6を有するペプチドはL−スレオニンの代わりにD−スレオニンを有し、さらにC末端でCOOH基を有する。このペプチドはC末端にL−スレオニンとCONH2とを有する配列番号5のペプチドと同じ活性を示す。さらにまた、Ileは13位でThrの代わりに用いられ、コンプスタチンより21倍の活性を維持する。さらに、C末端におけるAsnのペプチド伸張またはAla−Asnのペプチド伸張を含む配列番号14から17のペプチドは、C末端のCOOHとN末端の未アセチル化とともに、コンプスタチンより活性が38倍ないし126倍向上することを実証した。それらは下記に詳細を述べるとおり、原核生物または真核生物の発現システムを介した産生にも適している。
【0063】
本発明のコンプスタチン類似体は従来のペプチド合成法と同じように、一つまたはそれ以上のアミノ酸残基の縮合によるペプチド合成のように様々な合成方法によって調整される。たとえばペプチドは、バイオシステムモデル431Aペプチド合成(Applied Biosystems, Foster City, Calif.)のような標準固相法によって合成される。固相法または液相法によるペプチドまたはペプチド類似体の他の合成方法は当業者によく知られたものである。ペプチド合成の過程で、側鎖のアミノ基及びカルボキシ基は、よく知られた保護基を用いることによって、必要であれば保護/脱保護される。本発明に適したペプチド合成法の例は実施例3に記載されている。ペプチドまたはペプチド誘導体に対する他の保護基を用いた修飾は当業者には明らかであろう。
【0064】
また、本発明のペプチドは適した原核生物または真核生物のシステムで発現されることによって産生される。たとえば、DNAコンストラクトをバクテリア細胞または酵母細胞の発現に適したプラスミドベクターに挿入するか、または昆虫細胞の発現に適したバキュロウイルス若しくは哺乳類細胞の発現に適したウイルスベクターに挿入する。このようなベクターはホスト細胞においてDNAの発現に必要な調節エレメントを含み、この調節エレメントはホスト細胞においてDNAの発現を許容する役割がある。このような発現を要求する調節エレメントはプロモーター配列、転写開始配列、そして任意のエンハンサー配列を含む。
【0065】
配列番号14から17のペプチド、またはこれに類似して設計された他のペプチドはインビトロまたはインビボでの核酸分子の発現による産生に適している。ペプチドコンカテマーをコードしているDNAは、コンカテマーの上限が発現システムに関与しているのであるが、インビボでの発現システムに挿入される。コンカテマーが産生された後、ポリペプチドをヒドラジンに曝すことによってC末端のAsnとN末端のGとの間で切断が生じる。
【0066】
原核生物または真核生物システムに組み込んで遺伝子発現することにより産生されたペプチドは当該分野で知られた方法によって精製される。実施例1及び2に本発明の使用に適した方法を示す。実施態様において、商業的に利用可能な発現系/分泌系システムを使うことができる。それによって組み込まれたペプチドが発現され、ホスト細胞から分泌され、周囲の培養液で容易に精製される。
【0067】
発現と合成を組み合わせた方法はコンプスタチン類似体の産生にも利用される。たとえば、類似体は遺伝子発現により産生され、その後の一つまたはそれ以上の翻訳後合成過程で、たとえばN−またはC−末端の修飾や分子環化を受ける。
【0068】
コンプスタチンの構造は該技術分野において知られ、前記類似体の構造も同じような方法で決定される。かつて特に好ましい短いペプチドの構造を確認したのでペプチドまたはペプチド擬態体をその構造に合わせて形成させる方法がこの分野でよく知られている。たとえば、 G.R. Marshall (1993), Tetrahedron, 49: 3547-3558; Hruby 及び Nikiforovich (1991), in Molecular Conformation 及び Biological Interactions, P. Balaram 及び S. Ramasehan, eds., Indian Acad. of Sci., Bangalore, PP. 429-455。 本発明に特に関連して、ペプチド類似体の設計は、前述したように(たとえば、機能基の効果または立体的な機能)、アミノ酸残基の多様な側鎖の寄与を考慮することによって精錬される。
【0069】
ペプチド擬態体もまたC3と結合しかつ補体活性を阻害するのに必要な特別な骨格コンフォーメーション及び側鎖官能基を提供する目的で、ペプチドと同等に役立ち得ることは当業者によって容易に理解されるだろう。また、適切な骨格コンフォーメーションを形成することができる自然界のアミノ酸、アミノ酸誘導体、類似体、非アミノ酸分子を使った補体阻害化合物C3結合を産生することは本発明の範囲内であると考えられる。本発明のペプチドの置換基か誘導体かを明らかにするために、本明細書において、非ペプチド類似体またはペプチド及び非ペプチド構成成分を含む類似体を「ペプチド擬態体」または「イソステリック擬態体」と呼び、補体活性を阻害することが例証されたペプチドと同じ効果を示すよう、同じ骨格コンフォーメーションの特徴を示し、かつ/または他の機能を備えたものである。
【0070】
高い親和性を有するペプチド類似体の開発のためにペプチド擬態体を使うことは当該技術分野においてはよく知られている。( Zhao B ら、1995; Beeley, N. 1994;及び、Hruby, VJ 1993参照)。ペプチド内にアミノ酸残基と同じような回転の制約を受けることを想定して、非アミノ酸部分を含む類似体を分析し、ラマチャンドランプロット(Hruby & Nikiforovich 1991)を用いて立体構造のモチーフを検証した。
【0071】
本発明のコンプスタチン類似体は、ペプチドへのポリエチレングリコール(PEG)成分の付加によって修飾される。本技術分野ではよく知られているが、ペグ化はインビボにおいて治療薬としてのペプチドやタンパク質の半減期を伸ばすことができる。実施態様において、PEGの平均分子量はおよそ1000からおよそ50000である。他の態様としては、PEGの平均分子量はおよそ1000からおよそ20000である。さらに他の態様としては、PEGの平均分子量はおよそ1000からおよそ10000である。さらにまた他の態様としては、PEGの平均分子量はおよそ5000である。ポリエチレングリコールは側鎖であるかまたは直鎖であり、好ましくは直鎖である。
【0072】
本発明のコンプスタチン類似体は、リンキング基を介してPEGと共有結合することができる。このような方法は、当該技術分野ではよく知られている。(Kozlowski A. ら、2001; see also, Harris JM 及び Zalipsky S, eds. Poly(ethylene glycol), Chemistry 及び Biological Applications, ACS Symposium Series 680 (1997)参照)。承認されるリンキング基においてこれに制限されない実施例は、エステル基、アミド基、イミド基、カルバメート基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、糖鎖、サクシンイミド基(サクシンイミジルサクシネート(SS)、サクシンイミジルプロピオネート(SPA)、サクシンイミジルカルボキシメチレート(SCM)、サクシンイミジルサクシンアミド(SSA)及びN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)を含有するが、これらに限定されない)、エポキシド基、オキシカルボニルイミダゾール基(カルボニルジイミダゾール (CDI)を包含するが、これらに限定されない)、ニトロフェニル基(ニトロフェニルカルボネート(NPC)またはトリクロロフェニルカルボネート(TPC)を包含するが、これらに限定されない)、トリシレート基、アルデヒド基、イソシアネート基、ビニルスルホン基、チロシン基、システイン基、ヒスチジン基、一級アミンを含む。実施態様において、リンキング基はコハク酸イミド基を使用した。また、他の態様のリンキング基として、NHSを使用した。
【0073】
本発明のコンプスタチン類似体はアミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を介して、直接的にPEG(すなわち、リンキング基なしに)に共役結合することも代わりにできる。ある実施態様において、PEGはコンプスタチンのC末端に付加されたリシン残基とカップリングする。
【0074】
ペグ化は治療薬としてのペプチド及びタンパク質のインビボにおける保持時間を増大させる一つの方法である。例えば、ウサギに急速静注によって注入したとき、ペプチドに結合するアルブミンは2.3時間という非常に長い半減期を示す(Dennis ら、2002)。このタイプのペプチドは、組織因子に結合してFabフラグメントの活性が保持されている間、抗組織因子FabフラグメントD3H44に融合してFabフラグメントがアルブミンに結合できるようになる(Nguyen ら、2006)。野生型D3H44のFabフラグメントと比較し得るペグ化されたFabフラグメント分子及びイムノアドヘシン及びアルブミン融合体を比較したとき、アルブミンとの相互作用の結果、マウス及びウサギにおいてインビボクリアランスが明らかに減少し、半減期が顕著に伸びた。本明細書において実施例11に明記したように発明者らはアルブミン結合ペプチドと融合し、かつその融合タンパク質が補体活性を阻害することが実証されたコンプスタチン類似体を合成した。
【0075】
コンプスタチン類似体及びペプチド擬態体及び複合体の補体活性阻害活性は、当該分野で知られている様々なアッセイによって試験される。好ましい実施態様において、実施例4で明記されたアッセイが利用される。他のアッセイの部分的なリストは米国特許第6,319,897号に明記されており、(1)C3及びC3フラグメントに結合するペプチド;(2)さまざまな溶血性アッセイ;(3)C3コンベルターゼが仲介したC3の切断の測定;(4)D因子によるB因子切断の測定を含むが、これに限定されるものではない。
【0076】
本発明に記載されたペプチド及びペプチド擬態体は当該分野で知られるコンプスタチン自体が利用されるさまざまな目的において実質的利用可能性がある。このような利用は(1)患者(ヒトまたは動物)の血清、組織、器官における、補体活性阻害性、つまりこれに限定されるものではないが、加齢黄斑変性症、リウマチ性関節炎、脊椎損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病を含む任意の疾病または任意の状態の治療を促進することが可能なもの;(2)人工器官または移植組織の使用により生じる補体活性阻害性(たとえば、本発明のペプチドを用いて人工器官または移植組織を被覆するかまたは処理することによって);(3)生理学的流体(血液、尿)における体外シャント中に生じる補体活性阻害性(たとえば、本発明のペプチドを用いてシャントされる流動を通る管を被覆することによって);(4)コンプスタチン活性の他の阻害剤の同定のための小分子ライブラリーのスクリーニング(たとえば、C3またはC3フラグメントに結合する間、コンプスタチン類似体と競合する化合物の能力を液相法または固相高処理アッセイによって測定した)を包含するが、これらに限らない。
【0077】
下記の実施例は本発明をより詳細に説明するために提供されたものである。これらは本発明に限定されるものではない。実施例1から5に明記された物質及び方法は実施例6から11に記載された結果を得るために利用される。
【0078】
実施例1
コンプスタチンのバクリテア発現
配列NH2−GICVWQDWGAHRCTN−OH (“G(-1)/V4W/H9A/N14”)(配列番号15)を有するコンプスタチン類似体はキチン結合ドメインとDnaBインテイン(New Engl及び Biolabs, Beverly, MA)との融合物として発現された。E.coliについてのペプチド配列及びコドンの利用によって導かれるように、以下の遺伝的コードを用いて、このペプチドに関する下記配列を有する合成遺伝子を得た。該合成遺伝子は下記の配列を有する:
5’ATTTGCGTTTGGCAGGATTGGGGTGCGCACCGTTGCACCAATTAA3’(配列番号29)
【0079】
合成遺伝子をpGEM-Tベクターにクローニングするために、SapIサイトを有する5’フランキング領域とPstIサイトを有する3’フランキング領域とを設計した。合成遺伝子を作成するために下記の4つの重複オリゴヌクレオチドをDnaWorksソフトウェアを用いて設計し、Invitrogen Inc.(Carlsbad, CA)で合成した:
5’GGTGGTGCTCTTCCAACGGTATTTGCGTTTGGCAGGA3’(配列番号30)
5’TTGGGGTGCGCACCGTTGCACCAATTAACTGCAGG3’(配列番号31)
3’CAACGTGGTTAATTGACGTCCGC5’(配列番号32)
3’CATAAACGCAAACCGTCCTAACCCCACGCGTGG5’(配列番号33)
【0080】
1995年Stemmer らが明記したように、重複DNAフラグメントをPCRを用いて構築した。その結果生じる遺伝子を下記のプライマーを用いて増幅した:
5’CGCCTGCAGTTAATTGGT3’(配列番号34)
5’GGTGGTGCTCTTCCAACG3’(配列番号35)
【0081】
次に、コンプスタチンのPCR増幅フラグメントをpGEM-Tベクターにクローニングし、その結果生じるクローンをPstI 及び SapIを用いて設計した。コンプスタチン類似体をコードするPst1-SapIフラグメントをさらに発現ベクターpTWIN1にサブクローニングした。この発現ベクターpTWIN1とはPstI 及び SapIを用いて解読しやすいようにされたものである;そのクローンの配列はDNA配列によって確認された。
【0082】
コンプスタチン類似体を発現させるために、コンプスタチンクローンで形質転換されたER2566 E. coli細胞をSOB培地(20 g/L トリプトン、5 g/L イースト抽出液、0.5 g/L NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2)を用いて37℃にて増殖させた。OD600が0.7に達したとき、最終濃度0.3 mMにIPTGを追加することによって発現が誘発され、続いて37℃で4時間追加的にインキュベートした。細胞を遠心分離法によって収集し、0.2% Tween-20を補足したバッファーB1(500 mM NaCl 及び 1 mM EDTA とともにpH 8.5の20 mM リン酸エステルバッファー)内で超音波処理によって溶解した。細胞抽出液を遠心分離し、可溶性フラクションを、バッファーB1にて前もって平衡化しておいたキチン結合カラム(New Engl及び Biolabs, Beverly, MA)に適用した。このカラムを100mlのバッファーB1で洗浄し、次いでバッファーB2(pH 7.0の50 mMアンモニウムアセテート)でカラムの3倍量を用いて洗浄した。このカラムは室温で20時間インキュベートするとバッファーB2中にペプチドが溶出し、これを凍結乾燥させ、C18 HPLC カラムで精製した。この精製されたペプチドをMALDI-TOFマススペクトロメトリーを用いて同定した。
【0083】
実施例2
E. coli内におけるコンプスタチンのトリプトファン類似体の発現
トリプトファン誘導体を有するコンプスタチン類似体を発現させるためにpTWIN1−コンプスタチンクローンをER2566 Trp 82栄養要求株に形質転換した。前述したように1 mM L−トリプトファンが補充されたM9最小培地上で発現が行われた。細胞はOD600 0.8から1.0において成長し、その後遠心分離法によって収集し、望ましいトリプトファン類似体2mMを含む新鮮な最小培地中に再懸濁した:前記望ましいトリプトファン類似体は、5−フルオロ−トリプトファン、6−フルオロ−トリプトファン、7−アザ−トリプトファン、または5−ヒドロキシ−トリプトファンであった。発現されたコンプスタチン類似体を実施例1と同様にさらに精製した。
【0084】
実施例3
ペプチド合成
ペプチド合成と精製を1996年Sahuら;2000年Sahuら;2005年Mallikらが明記した方法を用いて実行した。簡潔に述べると、Fmocアミド残基及び標準サイドの鎖状保護基を用いたバイオシステムペプチドシンセサイザー(モデル431A)でペプチドを合成した。5%フェノール、5%チオアニソール、5%精製水、2.5%エタンジチオール、82,5%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む溶媒混合物中、22℃、3時間かけてペプチドをインキュベートすることによりペプチドを残基から切断した。この反応液をフリットの漏斗に通して濾過し、冷エーテルを用いて沈殿を誘発させた後、0.1% TFAを含む50%アセトニトリル中に溶解した後、凍結乾燥した。
【0085】
切断後そのままで未精製のペプチドを0.1% TFAを含む10%アセトニトリル中に溶解し、逆相C-18カラム(Waters, Milford, MA)を使って精製した。タリウム(III)トリフルオロアセテート試薬を用いた樹脂上環化方法を用いることによって酸化ジスルフィドを得た。この方法は、希釈溶液の酸化工程及び逆相HPLCに先立って凍結乾燥により時間をかけて濃縮する工程を省く。この方法を用いることによって、多量体が存在せず、完全に脱保護され、酸化または環化されたものが高レベル(〜90%)で得られる。すべてのペプチドの同定及び純度をレーザー脱離質量分光測定法及びHPLCを用いて確認した。
【0086】
5−フルオロ−トリプトファン及び1−メチル−トリプトファン及び5−メチル−トリプトファン類似体を合成するために、Fmoc- dl-誘導体を用いた。エナンチオマーペプチドの分離は1978年Meyersらが開示した方法で行った。C18 逆相 HPLCカラムにおいて、pH4.1の0.01Mアンモニウム中の10% アセトニトリルを用いて、それぞれのペプチドのdl混合物をd と lの異性体ペプチドに分離した。溶出したペプチドの同位体の同定は、MALDI-TOFマススペクトロメトリー(MicroMass TOFspec2E)を用いて分析し、V8プロテアーゼとともにペプチドを処理することによって決定した。
【0087】
実施例4
補体阻害アッセイ
免疫複合体による補体系の活性におけるそれらの効果を測定することにより補体系におけるコンプスタチン及びその類似体の阻害活性を決定した。正常な血漿中における卵白アルブミン−抗−卵白アルブミン複合体へのC3の固定の阻害を測定することによって補体活性の阻害を評価した。マイクロタイターウェルを50μl卵白アルブミン(10mg/ml)で2時間25℃(4℃で一晩)被覆した。ウェルを10 mg/ml BSA 200μlで、25℃で1時間飽和させ、その後補体が活性化され得るようにウサギ抗−卵白アルブミン抗体を添加して免疫複合体を形成させた。様々な濃度でのペプチド30μlをそれぞれのウェルに直接加え、続いて血漿の1:80希釈液30μl加えた。30分インキュベートした後、ヤギ抗−ヒトC3 HRP −複合抗体を用いてC3C3b/iC3bのバンドを検出した。ABTSペルオキダーゼ基質加えることによって発色させ、光学的密度を405 nmにて測定した。
【0088】
405 nmの吸光度を100%補体活性に対応する吸光度を基準にして阻害%として換算した。阻害%をペプチド濃度に対する割合として表示し、その結果データはOrigin 7.0ソフトウェアを用いてロジスティックな用量−応答関数に適応させた。C3b/iC3b析出の50%阻害を引き起こすペプチドの濃度はIC50として得られ、様々なペプチドの活性と比較した。IC50の値は、最小のカイ二乗値を与える適合パラメーターから得られた。
【0089】
実施例5
C3とコンプスタチン及びその類似体との相互作用の等温滴定熱量測定
VP-ITC マイクロカロリメトリー (Microcal Inc, Northampton, MA)を用いて、等温滴定熱量測定を実行した。これらの実験にはタンパク質濃度3.5-5μM及びペプチド濃度80-200μMを用いた。すべての滴定ではPBS(150 mM NaCとともに10 mMリン酸エステルバッファー、pH 7.4)を用いた。それぞれの実験において、標的タンパク質であるC3を細胞内に入れ、ペプチドをシリンジ内に入れた。すべての実験は25℃で行われ、前記タンパク質が入った細胞内に2μlペプチドを注入した。それぞれの実験において、ペプチドをバッファーに注入する際に代表されるように等温線が減ずることによる希釈熱を考慮して等温線を補正した。その結果生ずる等温線はOrigin 7.0ソフトウェア内で適合され、最小のカイ二乗値を与えたモデルをそれぞれのデータセットに関して適正なものとみなした。結合親和性及びエントロピーをlog Pに対してプロットした。
【0090】
実施例6
細菌により発現されたコンプスタチン類似体によりアッセイされたC3−コンプスタチン相互作用におけるトリプトファンの役割
インドール環の化学的性質において異なる4つのトリプトファン類似体をインテイン媒介タンパク質発現系を用いてコンプスタチンに組み込んだ。発現後、ペプチドは培養液2 mg/Lの最終収量にて単一工程で精製された。トリプトファン類似体、5−フルオロ−トリプトファン、6−フルオロ−トリプトファン、7−アザ−トリプトファン、5−ヒドロキシ−トリプトファンをMALDIによって示されるER2566/Trp 82栄養要求株を用いて発現させ、その結果生ずるペプチドを均一に精製した。PHMBと反応しないことによって証明されるように、未変性のコンプスタチン及び類似体をインビボでジスルフィド結合を通して環化した。すべてのペプチドを逆相C18 HPLCカラムで精製した。
【0091】
発現したコンプスタチン類似体G(-1)/V4W/H9A/N14(配列番号15)の活性化は1.2μMのIC50を示した。これはAc-V4W/H9A類似体(配列番号5)に見られる活性と同様である。ここで明らかとなったのは、発現されたペプチドのN末端におけるグリシンは、Ac-V4W/H9A類似体のN末端におけるアセチル基と同様の役割を持つということである。
【0092】
7−アザ−トリプトファン類似体を除くすべての発現されたコンプスタチン類似体は試験した濃度において活性化されることが解った。しかしながら、ペプチド類似体は、Ac-V4W/H9A(図1;表2)に関する活性においてレベルが異なっていた。9位のアラニンと同様に6−フルオロ−トリプトファン及び5−フルオロ−トリプトファンを含むコンプスタチンは、Ac-V4W/H9A類似体の活性と比較して、それぞれ2.8倍及び2.5倍の活性を示した。
【0093】
【表2】

【0094】
特定のメカニズムに限定されるものではなく、インドール環の疎水性を高めることにより付加するフッ素原子がペプチドの活性を高めると考えられている。5−ヒドロキシ−トリプトファン及び7−アザ−トリプトファンなどのあまり疎水性でないトリプトファンの取り込みについて研究した。5−フルオロ及び6−フルオロ類似体と比較対照したところ、5−ヒドロキシ−トリプトファンを含むコンプスタチン類似体はAc-V4W/H9A類似体(配列番号5)と比較して27.5倍活性が減少し、さらに7−アザ−トリプトファンは濃縮試験においてまったく活性を示さなかった。7−アザ−トリプトファンは、インドール環の7位の炭素原子に対して窒素原子を有することは別として、分子構造上トリプトファンに類似している。7−アザ−トリプトファンの置換により見られる活性の喪失は、この炭素原子が比較的重要であることを示している。
【0095】
実施例7
C3コンプスタチン相互作用における個々のトリプトファンの役割
4位もしくは7位、または4位かつ7位に選択的に組み込まれた5−フルオロ−トリプトファンや、9位にアラニンを有するようなコンプスタチン類似体を産生するために固相ペプチド合成を用いた。合成はFmoc-5-フルオロ-dl-トリプトファンを用いて行った。この反応では5−フルオロ−d−トリプトファン及び5−フルオロ−l−トリプトファンのエナンチオマーを産生した。3つの異なるペプチドを合成した:それらは4位または7位において独立的に一つの置換基を有する2つのペプチド及び4位及び7位の両者に置換基を有する1つのペプチドである。一置換の場合、5−フルオロ−l−トリプトファン及び5−フルオロ−d−トリプトファン類似体の混合物が生じ得るが、二置換の場合、4つのエナンチオマーの組み合わせの混合物が生じ得る。それぞれのペプチドの混合を逆相HPLCを用いてペプチドエナンチオマーを分離した。V8プロテアーゼにてペプチドを消化し、次いでMALDIを用いて消化産物を分析することにより、エナンチオマーの同定を行った。V8プロテアーゼは、l−アミノ酸の場合に限りAsp残基のC末端側で切断した。質量スペクトルにおける切断産物の同定によりl−エナンチオマーのペプチドが最初に溶出し、続いて、d−型が溶出したことが示されたが、切断されたフラグメントは検出されなかった。
【0096】
5−フルオロ−l−トリプトファンまたは5−フルオロ−d−トリプトファンまたはその両者を含むすべてのペプチドについて、補体阻害活性を試験した。両位置で5−フルオロ−l−トリプトファンにて置換された合成ペプチドはAc-V4W/H9A(配列番号5)と比較して2.5倍の高活性を示した(表3)。
【0097】
【表3】

【0098】
補体阻害アッセイ(図2、表3)により、4位のみにある5−フルオロ−l−トリプトファン置換基はAc-V4W/H9A(配列番号5)に比べて少なくとも1.5倍活性を低下させたことが示唆された。7位のみにある5−フルオロ−l−トリプトファン置換基はAc-V4W/H9A(配列番号5)に比べて2.7倍活性を高めた。4位及び7位に同時に存在する5−フルオロ−l−トリプトファン置換基はAc-V4W/H9A(配列番号5)に比べて2.5倍活性を高めた。4位若しくは7位、または両者に存在する5−フルオロ−d−トリプトファン置換基はペプチドの不活性を引き起こした。
【0099】
実施例8
C3によるトリプトファンを媒介としたコンプスタチンの認識に関する熱力学的根拠
等温滴定熱量測定によりペプチドとC3との結合を検証し、それらの活性に関する熱力学的根拠について調べた。すべてのペプチドとC3との相互作用による熱量データは1に近似した化学量論の一組のサイトモデルに適合する。これらのペプチドとC3との結合は1;1の割合で生じると考えられていた。これらの適合から得られた熱力学的パラメーターを表4に示す。Kd値から明白なように、7位にある5−フルオロ−l−トリプトファン置換基及び4位及び7位にある2つの置換基を有するペプチドは、Ac-V4W/H9A(配列番号5)及びAc-V4(5f-l-W)/H9A(配列番号18)類似体に比べて強固な結合を示した。この知見は、補体阻害アッセイ(表3)で観察された相対活性と一致するものであり、結合−活性の相関関係があることを示すものである。
【0100】
すべてのペプチドは負のエンタルピー及び正のエントロピーにてC3と結合した。このような結合はC3とコンプスタチンとの相互作用の特徴である。試験されたすべてのペプチドの中で、7位に置換したAc-V4W/W7(5f-l-W)/H9A類似体(配列番号19)はその野生型より高い結合エンタルピー(ΔH = -21.83, ΔΔH = -3.69)を示した。4位に置換基のあるAc-V4(5f-l-W)/H9A類似体(配列番号18)は-16.69 kcal/mole、1.45 kcal/moleのエンタルピーにてC3に結合し、この値はその野生型が示す値よりも低かった。
【0101】
4位に5−フルオロ−トリプトファンが置換されたものは同じ場所がトリプトファンであるものと比較してエンタルピーが1.45 kcal/mole下がった(表4)。トリプトファンと5−フルオロ−トリプトファンとの唯一の相違はインドール環C5におけるフッ素原子の置換であるため、エンタルピーの減少は水素をフッ素に換えたことに起因する。
【0102】
【表4】

【0103】
7位に5−フルオロ−トリプトファンが置換されたものは野生型に比べエンタルピーが3.69 kcal/mole高かった(表4)。特定のメカニズムに限定されないが、7位のトリプトファンは水素結合のようなエンタルピー的に好ましい相互作用を及ぼすと考えられる。インドール環の一つの水素がフッ素原子に置き換わることによって、pKaが下がりインドール環のNHの性質上水素結合が強固となる。代わりに、テトラデカ(3−フルオロチロシル)グルタチオントランスフェラーゼの構造において実証されたように、電子供与性という性質の結果としてフッ素が水素結合を形成する。
【0104】
エンタルピーが上昇する他の理由は、水分子がフッ素原子とC3上の水素受容体との間で相互に架橋するためであると考えられる。さらにこれを形成するのに2つの水素結合(4 kcal/mole相当のエネルギー)が必要である。この説の裏づけとして7位に置換されたAc-V4W/W7(5fW)/H9A類似体(配列番号19)の相互作用に見られるエントロピーが野生型に比べて低下することに由来すると考えられ(表4)、この減少はその側面におけるさらなる水分子の結合によって生じるものである。フッ素原子と他の水素結合受容体との間の水を介した相互作用は、他のシステムにおいても見受けられる。
【0105】
二重に置換された類似体のC3への結合によりエンタルピー変化-19.85 kcal/mole、エントロピー変化-9.35 kcal/mole、自由エネルギー変化-10.5 kcal/moleを生じた。同時に両方の位置に5−フルオロ−トリプトファンを組み込んだものは単一の置換による効果を抑制すると考えられる。
【0106】
実施例9
さらなるコンプスタチン類似体
4位のトリプトファン類似体の相互作用。コンプスタチンの4位にあるトリプトファンをバリンに換えるとその活性が45倍となることは実施例5及び6に示した。コンプスタチンがC3に結合している中で4位の残基によって仲介された相互作用の性質をさらに調べるために、4位のトリプトファンをトリプトファン類似体及び2−ナフチルアラニンに換えた。
【0107】
ELISA法を用いて4位にトリプトファン類似体を9位にアラニンを有するすべてのペプチド類似体の活性を試験した。1−メチル−トリプトファンが置換した(Ac-V4(1-メチル-W)/H9A)(配列番号23)及び2−ナフチルアラニンが置換した(Ac-V4(2-Nal)/H9A)(配列番号7)は、コンプスタチンと比較して、それぞれ264倍及び99倍活性が高まり、5−フルオロ−トリプトファンが置換した(Ac-V4(5f-l-W)/W7/H9A)(配列番号18)及び5−メチルトリプトファンが置換した(Ac-V4(5-メチル-W)/H9A)(配列番号22)は、活性が低い結果となり;野生型ペプチドが示す活性よりそれぞれ31倍及び67倍高かった(表5)。図3は活性についての阻害曲線を示し、表5は前記曲線から算出されたIC50値及び元のコンプスタチンの活性と比較したペプチドの相対活性を示す。図5はトリプトファン類似体及び2−ナフチルアラニンのlog P値に対してプロットした阻害定数(IC50)を示す。
【0108】
【表5】

【0109】
コンプスタチンペプチドの結合も等温滴定熱量測定を用いて同様に調べた。すべてのペプチドのC3との相互作用から生じる熱量測定データは1に近似した化学量論に伴った一連のモデルに当てはまる(図4)。この結果はこれらのペプチドのC3との結合は1:1の割合で生じることを示唆している。これらの適合から生ずる熱力学的パラメーターを表6に示す。Kd値からも明らかなように、Ac-V4(1-メチル -W)/H9Aは、4位に単一の置換基を有する他のすべてのペプチドと比較して高い結合親和力(Kd = 0.015μM)を示した。類似体のlog P値に対してこれらの値をプロットすることによりトリプトファン類似体及び2−ナフチルアラニンの結合親和性及び疎水性の相関関係が示される。前記相関関係としては、4位に組み込まれた類似体の疎水性が上昇するにつれて結合親和性も高まる。この観察結果はlog Pと阻害定数との間に見られる相関関係と矛盾しない。
【0110】
【表6】

【0111】
すべてのペプチドは負のエンタルピー及び正のエントロピーによりC3に結合し、その結合がエンタルピーにより生ずることが示唆される。このような結合はコンプスタチンとC3との相互作用の特徴である。しかしながら、これらのペプチドの結合は、野生型より低いエンタルピー変化と好ましい方へ向かってシフトするエントロピー変化よって特徴付けられる。図5Bはlog P 対 -TΔSをプロットしたもので、4位に組み込まれた類似体の疎水性の影響で上昇していることが示唆され、エントロピーが増大するため自由エネルギーの変化において正の影響を及ぼす。
【0112】
7位にトリプトファン類似体を組み込んだ場合。7位のトリプトファンがC3上の残基と水素結合を形成することを実施例7に示した。さらにこの可能性を検証するために、7位のトリプトファンを4位において置換したものと同じようなトリプトファン類似体に置き換えて、この位置にあるトリプトファンによる相互作用の性質を解明しようと試みた。5−フルオロ−トリプトファン(Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A)(配列番号19)を置換すると、121倍活性が高いペプチドが産生された(図3、表5)。7位のトリプトファンを5−メチルトリプトファンまたは1−メチルトリプトファンのトリプトファン類似体に置換すると、コンプスタチンの不活性が認められた(データは載せていない)。このことから、トリプトファン類似体の活性と疎水性との相関関係が明らかとなった。
【0113】
7位における異なったトリプトファン類似体の熱力学的特性を熱量測定と平行して調査した(表6)。7位に5−メチルトリプトファンまたは1−メチルトリプトファンを含むペプチドでは結合が見られなかったので、この結合パラメーターは存在しない。唯一Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)のペプチドのみC3と結合した。結合親和性は0.035μMであった。これは、4位にトリプトファン類似体を有するAc-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)のペプチド以外のすべてのペプチドで観測された値よりも高いものである。4位にトリプトファン類似体を有するペプチドとは対照的に、Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)は、高く好ましい結合エンタルピー変化(ΔH = -21.83, ΔΔH = -3.69)と、好ましくないエントロピー変化(-TΔS = 11.56, -TΔΔS = 2.77)を伴ってC3に結合し、極性の性質による付加的な好ましい非共有結合の相互作用が示唆される。
【0114】
7位に5−フルオロ−トリプトファンを組み入れた場合にはコンプスタチンの活性が増大する一方、5−メチル−トリプトファン及び1−メチル−トリプトファンの類似体を組み入れた場合にはコンプスタチンは活性化されないことが結果として示された。1−メチル−トリプトファンを組み入れたコンプスタチンが活性化されないということから、コンプスタチンとC3との相互作用において7位のトリプトファンのN−Hにより仲介される水素結合は重要な役割を担っていることが結論付けられる。さらに、5−メチル−トリプトファンを組み込むとコンプスタチンの活性が完全に喪失するということから、7位に疎水性のアミノ酸を組み込むことは有効でないことがわかった。
【0115】
4位及び7位へのトリプトファン類似体の組み込み
4位のトリプトファンの代わりに1−メチル−トリプトファンを置換し、7位に5−フルオロ−トリプトファンを置換すると、活性が劇的に上昇したコンプスタチンが産生されたので、4位及び7位に置換基を有するコンプスタチンを産生した。その結果、ペプチド(Ac-V4(1-メチル-W)/W7(5f-l-W)/H9A)(配列番号24)は、単一置換基である1−メチル−トリプトファン(Ac-V4(1-メチル-W)/H9A)(配列番号23)と同じような阻害曲線を描いた(図3、表5)。このペプチドの結合親和性(Kd = 0.017)は熱量測定の結果においてもAc-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)と同じような値が観測された。これらの結果から、実験条件下において、4位に1−メチル−トリプトファンが存在する場合、7位の5−フルオロ−トリプトファンは影響を及ぼさないことが示唆される。
【0116】
4位への他のトリプトファン類似体の組み
コンプスタチンがC3に結合している間に4位の残基により仲介された相互作用の性質をさらに調べるために4位のトリプトファンをトリプトファン類似体である1−ホルミル−トリプトファンに置き換えた。
【0117】
図6はAc-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)(環状)及びAc-V4(1-ホルミル-W)/H9A(配列番号25)の濃度に対する補体阻害パーセントの比較を示す。ここで見られるように、補体阻害活性において1-ホルミル-W類似体は1-メチル-W類似体と同じような動向を示した。
【0118】
実施例10
コンプスタチン類似体のペグ化
コンプスタチンの半減期の延長は慢性治療の使用に効果的である。ペグ化(Veronese ら、2001参照)によって、試験された治療薬としてのペプチドの半減期を延長することができた。ペグ化は、腎臓でのクリアランス、タンパク質分解及び免疫原性の減少を含むさまざまなメカニズムによって循環系から生体分子を排除することを遅延させる能力を有している。腎臓でのクリアランス及びタンパク質分解及び免疫原性を減少させる性質を備えている。ペグ化は、巨大分子、好ましくはリジンの第一級アミンへのPEGポリマーの共有結合を包含する。
【0119】
この実施例では、ペグ化されたコンプスタチン類似体、Ac-V4(1-メチル-W)/H9A-K-PEG 5000(配列番号36)の調整及びこの化合物の補体活性を阻害する能力についての評価を開示する。
【0120】
Fmoc-NH-NHS-5000 PEGは、Nektar transforming therapeutics, 490 discovery Dr, Huntsville, AL 35806から購入した。
【0121】
化合物Ac-V4(1-メチル-W)/H9A-K-PEG 5000(配列番号36)を改変された標準プロトコルによるFmoc固相ペプチドにより化学的に合成した。簡潔に述べると、PEGを3mlのジクロロメタンに溶解し、2M DIEAを1ml手動で加えて、5分間混合した。
【0122】
その後、PEGを容器に移して、2日間オーバーナイトで放置した。次いで、PEGはピペリジン20%を用いて20分間脱保護された。
【0123】
その後は、PEGが側鎖に連結する目的で、分子のC末端に組み込まれたリジンを用いて標準プロトコルに従って合成した。
【0124】
所望産物を得るために、試薬D(TFA:H2O:TIS:Phenol, 87.5:5:2.5:5)(4ml)を用いて25℃90分間、ペプチドの最終切断を行った。その後ペプチドをC18逆相HPLCカラムを用いて精製し、凍結乾燥した後、MALDI-TOFによって特徴付けした。
【0125】
ペグ化されたコンプスタチン類似体を実験4に記載したインビトロアッセイを用いて補体阻害活性について試験を実施した。図7に示すように、ペグ化された類似体は補体阻害活性を示したが、非ペグ化類似体Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)が補体阻害量と同じ量阻害するのに7倍以上の複合体を必要とした。
【0126】
実施例11
コンプスタチン類似体のアルブミン結合タンパク質複合体
Dennisら(2002)は、多様な種類のうち血清アルブミンに対して特異的に高い親和性をもって結合するコア配列DICLPRWGCLW(配列番号37)を有する一連のペプチドを同定した。これらのペプチドは化学量論において1:1の割合で、低分子結合サイトで知られているものと異なる部位でアルブミンに結合した。ペプチドSA21(AcRLIEDICLPRWGCLWEDDNH2;配列番号38)をウサギに急速静注した際に2.3時間という非常に長い半減期を示す。詳細な説明で述べたように、この配列はD3H44という抗組織因子Fabフラグメントに結合するものであるが、この配列によって、SA21の結合親和性と同じような結合親和性をもって、Fabが組織因子1に結合する能力が保持しつつ、Fabフラグメントがアルブミンに結合することを可能にした(Nguyen ら、2006)。野生型のFabフラグメントD3H44と比較すると、アルブミンとの相互作用はマウス及びウサギにおいてインビボでのクリアランスをそれぞれ25倍及び58倍減少させた。半減期はウサギで37倍延びて32.4時間、またマウスで26倍延びて10.4時間となり、これらの動物におけるアルブミンの半減期の25-43%に達した。これらの半減期はFab2の半減期を超え、ペグ化されたFab分子及びイムノアドヘシン及びアルブミン融合に見られる半減期に匹敵する。
【0127】
この実施例はアルブミン結合ペプチドに融合するコンプスタチン類似体の合成及びインビトロのアッセイにおける補体阻害活性を表す。
【0128】
化合物4(1MeW)-ABPは、標準的なプロトコルに従ってFmoc固相ペプチドにより化学的に合成された。ペプチドのN末端及びC末端をアセチル基及びアミド基を用いて保護した。ペプチドをC18逆相HPLCカラムを用いてさらに精製し、凍結乾燥して、MALDIマススペクトル法により同定した。
【0129】
環化にはペプチドレジン(アミノ酸分析に基づいて0.10 mmol/g 添加)をジクロロメタン(DCM)(2 mL)で5分間膨潤させ、濾過して25℃において94:1:5 DCM/TFA/TIS (5 mL)で2分間(3回)処理し、S-Mmt保護基を選択的に脱保護し、溶媒の窒素圧を除去した。これらのビス(チオール)、ビス(Acm)−ペプチド−レジン中間体をCH2Cl2,及び DMF及びNMP (それぞれ 5 回 x 2分, 2 mL)で洗浄し、さらにNMP (2 mL)で5分間膨潤させた後、NMP中でEt3N (2 eq.)を用いて25℃4時間処理した。その後、このペプチド−樹脂をDMF及びCH2Cl2 (それぞれ 5回 x 2分, 2 mL)で洗浄した。最初のループの樹脂結合の形成後、ペプチド−レジンをDMF (5 times x2 min, 2 mL)を用いて再び洗浄し、DMF (2 mL)で5分間膨潤させ、濾過して、DMF−アニソール(4mL)中Tl(tfa)3 (1.5 eq.)を用いて処理し、二番目のジスルフィドループを環化させた。25℃で4時間ゆっくりと攪拌した後、タリウム試薬をDMF (8 回 x 2分, 2 mL)を用いて除去し、ペプチド−樹脂をさらにCH2Cl2 (5 回 x 2 分, 2 mL)で洗浄した。二環性のペプチドを試薬D(TFA:H2O:TIS:Phenol, 87.5:5:2.5:5)(4 mL)を用いて二環性のペプチドを25℃で90分間開裂させ、目的のペプチドを得た。
【0130】
産生された複合体ペプチド(配列番号39)を下記に示す。

【0131】
アルブミン結合ペプチド−コンプスタチンの補体−阻害活性を実施例4に示すインビトロアッセイを用いて試験した。図8に示すように、複合体は補体活性を阻害する点においては活性を示したが、非複合類似体Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)の阻害し得る量と同じ量を阻害するのに7倍の複合体を必要とした。
【0132】
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【0133】
本発明は、上記に例証された具体例に限定されないが、特許請求の範囲内で変化及び修飾が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】発現コンプスタチン及びその類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(四角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(丸)トリプトファン(配列番号15)、(三角)5−フルオロ−トリプトファン(配列番号16)、(星)6−フルオロ−トリプトファン(配列番号17)、(六角形)5−ヒドロキシ−トリプトファン(配列番号27)、(菱形)7−アザ−トリプトファン(配列番号28)を表している。
【図2】合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(四角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(丸)5−フルオロ−l−トリプトファンを4位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号18)、(三角)7位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号19)、(菱形)4位及び7位に取り込んだコンプスタチン類似体(配列番号20)を表している。
【図3】追加合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対各ペプチド濃度を表した図である。ペプチド濃度はそれぞれ、(A)(三角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、これに対して(逆三角)Ac-V4(5f-l-W)/H9A(配列番号18)、(丸)Ac-V4(5-メチル-W)/H9A(配列番号22)、(菱形)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)、(四角)Ac-V4(2-Nal)/H9A(配列番号7);(B)(三角)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、これに対して(六角形)Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)、そして(C)(三角形)野生型コンプスタチン(配列番号1)に対して(左向き三角形)Ac-V4(1-メチル-W)/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号24)を表している。
【図4】追加コンプスタチンとC3との相互作用における熱力学的特徴。ITCデータはC3と(A)Ac-V4W/H9A(配列番号5)、(B)Ac-V4(5f-l-W)/H9A(配列番号18)、(C)Ac-V4(5-メチル-W)/H9A(配列番号22)、(D)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)、(E)Ac-V4(2-Nal)/H9A(配列番号7)、(F)Ac-V4W/W7(5f-l-W)/H9A(配列番号19)との結合を表している。この図は、Origin 7.0で補正生データを“one set of sites” モデルに合わせて得られた。
【図5】log Pにより表される類似体の疎水性と(A)阻害定数、(B)TΔSで表されるエントロピー、(C)結合定数との関係を表す。
【図6】追加合成コンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)及び(四角形)Ac-V4(1-ホルミル-W)/H9A(配列番号25)の濃度を表したものである。
【図7】ペグ化されたコンプスタチン類似体の活性化。補体阻害パーセント対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)及び(四角形)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A-K-PEG 5000(配列番号36)のペプチド濃度。
【図8】コンプスタチン類似体複合タンパク質が結合されたアルブミンの活性化。補体阻害パーセントのプロット対(丸)Ac-V4(1-メチル-W)/H9A(配列番号23)ペプチド濃度及び(四角形)(Ac-ICV(1MeW)QDWGAHRCTRLIEDICLPRWGCLWEDD-NH2)(配列番号38)融合ペプチド濃度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列:
Xaa1 - Cys - Val - Xaa2 - Gln - Asp - Xaa3 - Gly - Xaa4 - His - Arg - Cys - Xaa5 (配列番号:26)
[ 式中、Xaa1 は Ile、Val、Leu、Ac-Ile、Ac-Val、Ac-LeuまたはGly-Ileを含むジペプチドであり;
Xaa2 はTrpまたはTrpの類似体であり、ここにTrpの類似体はTrpと比較して疎水性が強いものであるが、但し、Xaa3がTrpの場合は、Xaa2はTrpの類似体であり;
Xaa3はインドール環に化学修飾を含むTrpまたはTrpの類似体であり、ここに化学修飾はインドール環の水素結合能を高めるものであり;
Xaa4はHis、Ala、PheまたはTrpであり;
Xaa5はL-Thr、D-Thr、Ile、Val、Gly、またはThr-Asn若しくはThr-Alaを含むジペプチド、またはThr-Ala-Asnを含むトリペプチドであり、ここに L-Thr、D-Thr、Ile、Val、GlyまたはAsnのいずれかのカルボキシ末端のOH基がNH2基によって任意に置換されていてもよく;かつ2つのCys残基はジスルフィド結合によって結合される]
を有するペプチドを含む、補体活性化を阻害することを特徴とする化合物。
【請求項2】
Xaa2がC3との無極性相互作用に関与することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xaa2がC3との無極性相互作用に関与し、かつXaa3がC3との水素結合に関与することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
Xaa3がC3との水素結合に関与することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
Xaa2のTrp類似体がハロゲン化トリプトファンを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
ハロゲン化トリプトファンが5−フルオロ−l−トリプトファンまたは6−フルオロ−l−トリプトファンであることを特徴とする請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Xaa2のTrp類似体がトリプトファンの5位に低級アルコキシ基または低級アルキル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
Xaa2のTrp類似体が5−メトキシトリプトファンまたは5−メチルトリプトファンまたは1−メチルトリプトファンまたは1−ホルミルトリプトファンであることを特徴とする請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
Xaa2のTrp類似体がトリプトファンの1位に低級アルケノイル基または低級アルキル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
Xaa2のTrp類似体が1−メチルトリプトファンまたは1−ホルミルトリプトファンであることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
Xaa3のTrp類似体がハロゲン化トリプトファンを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
ハロゲン化トリプトファンが5−フルオロ−l−トリプトファンまたは6−フルオロ−l−トリプトファンであることを特徴とする請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
Xaa4がAlaであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
Xaa2がトリプトファンの1位に低級アルケノイル基または低級アルキル基を含み、Xaa3がハロゲン化トリプトファンを任意に含んでいてもよく、Xaa4がアラニンを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
Xaa2が1−メチルトリプトファンまたは1−ホルミルトリプトファンであり、かつXaa3が5−フルオロ−l−トリプトファンを任意に含んでいてもよいことを特徴とする請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
配列番号15〜25に記載の配列のいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項17】
ペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現によって産生されるペプチドを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項18】
化合物が少なくとも部分的にペプチド合成によって産生されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項19】
配列番号15〜25の配列のうちいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項20】
化合物がペグ化されていることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項21】
配列番号36を含むことを特徴とする請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
化合物のインビボにおける保持を延長する付加的ペプチド化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項23】
さらなるペプチド成分がアルブミン結合ペプチドであることを特徴とする請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
配列番号39の配列を含むことを特徴とする請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
配列番号26の非ペプチドまたは部分ペプチド擬態体を含む、補体活性化を阻害する化合物であって、C3に結合して、かつ同じアッセイ条件において配列番号1を含むペプチドより少なくとも100倍の補体活性阻害力を示す化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−517476(P2009−517476A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543388(P2008−543388)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/045539
【国際公開番号】WO2007/062249
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】