説明

強加工装置及び強加工方法

【課題】本発明は、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる、工業的に実用可能な強加工装置および強加工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】押出ダイスから押し出した金属材料を孔型圧延する構成において、上記押出ダイスの開口部と同じ開口形状および開口面積を有し、さらに、上記押出ダイスの開口部に対し、加工軸回りに所定角度捩れた位置関係をもって形成された孔型を用いて孔型圧延することによって、加工力を大幅に低減しつつ、長尺物の金属材料に対し連続的なプロセスをもって大きな塑性ひずみを均一に付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強加工装置及び強加工方法に関し、より詳細には、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる強加工装置及び強加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料において二律背反の関係にあると考えられていた強度と靭性は、金属の結晶粒を微細化することによって、その両方が好適に向上することが発見され、これに伴って、近年、金属材料の特性を向上させることを企図して、当該金属材料の結晶粒を微細化するための方法が種々検討されている。金属材料の結晶粒微細化を実現するための方法として、強ひずみ加工法がある。強ひずみ加工法とは、金属材料に対し、大きな塑性ひずみを繰り返し付与することによって、結晶粒をナノサイズまで微細化するというものである。この点につき、非特許文献1は、代表的な強ひずみ加工法である、Equal Channel Angular Pressing法(ECAP法)を開示する。
【0003】
図5は、ECAP法を概念的に示す図である。図5に示されるように、ECAP法は、90°屈曲したパスを有する金型50を通して金属材料52を押し出すことによって、屈曲部54において金属材料52に大きなせん断ひずみを与えるというものである。ECAP法においては、加工によって材料の径が変わらないため、何度でも上記プロセスを繰り返すことができ、金属材料52をバルク状態に維持したままで、大きなひずみを付与することができる。しかしながら、ECAP法においては、ひずみを与える方向が1方向しかないため、結晶粒の微細化の度合いが不均質になる傾向が否めず、また、非連続的プロセスであるため、長尺物の材料に適用することができないという問題があった。さらにECAP法の最も深刻な問題は、金属材料52と金型50のパスの壁面との摩擦力に対抗するために非常に大きな加工力を要することであり、この点が工業的な実用化を妨げていた。
【0004】
この点につき、非特許文献2は、加熱とねじり変形を組合わせたSevere Torsion Straining Process法(STSP法)を開示する。図6は、STSP法を概念的に示す図である。図6に示されるように、STSP法においては、電流コイル60の中に円柱状の金属材料62を通しつつ、電流コイル60の両端近傍から冷却水64を放出することによって、金属材料62に対して局所的な誘導加熱を行なうと同時に、金属材料62を図中の矢印R方向に捻ることによって、加熱部分に集中的に塑性ひずみを生じさせる。この状態で金属材料62を長手方向に順次移動させことによって、金属材料62全長にわたって塑性ひずみを付与することができる。この方法は、金型を必要としないため、摩擦力に起因する加工力の増大の問題が回避され、また、連続的プロセスであるため、長尺物に対し大きなひずみを連続的に付与することができる点で、工業的な実用性に対し一定の可能性を示すものであった。しかしながら、加熱効果を利用して結晶粒を微細化する上記方法は、熱の影響を受けて再結晶しやすい材料には適用することができないため、適用材料が限定されるという問題があった。
【非特許文献1】Segal,V.M.,Reznikov,V.I.,Drobyshevsky,A.E.and Kopylov,V.I.:Russian Metallurgy,1,p.99(1981)
【非特許文献2】K.Nakamura, K.Neishi,K.Kaneko,M.Nakagaki andZ.Horita:Materials Transactions 45, 12, 3338-3342,(2004) " Development ofSevere Torsion Straining Process for Rapid Continuous Grain Refinement "
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる、工業的に実用可能な強加工装置および強加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる、工業的に実用可能な強加工装置につき検討した結果、押出ダイスから押し出した金属材料を孔型圧延する構成において、上記押出ダイスの開口部と同じ開口形状および開口面積を有し、さらに、上記押出ダイスの開口部に対し、加工軸回りに所定角度捩れた位置関係をもって形成された孔型を用いて孔型圧延することによって、加工力を大幅に低減しつつ、長尺物の金属材料に対し連続的なプロセスをもって大きな塑性ひずみを均一に付与することができることを見出し、本発明に至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、金属材料の強加工装置であって、前記金属材料を押し出すための押出ダイスと、前記押出ダイスの押出方向後方に配設された孔型圧延ロールを備え、前記押出ダイスの開口部と前記孔型圧延ロールの孔型は、互いに同じ開口形状および開口面積を有し、前記孔型が、前記押出ダイスの開口部に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成されていることを特徴とする強加工装置が提供される。本発明において、前記開口形状は、多角形または楕円とすることができる。また、本発明の強加工装置は、前記金属材料に対し、前記加工軸方向の引き抜き力および/または押し込み力を付与する手段をさらに備えることができ、また、前記孔型の内壁面を粗面とすることができる。さらに、本発明によれば、金属材料を強加工する方法であって、押出ダイスから押し出した前記金属材料を、前記押出ダイスの開口部と同じ開口形状および開口面積を有し、前記押出ダイスの開口部に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成されている孔型を備える孔型圧延ロールに対して導入して孔型圧延することを特徴とする方法が提供される。本発明においては、前記金属材料の横断面を、多角形または楕円とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる、工業的に実用可能な強加工装置および強加工方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に示す図において、共通する要素については同じ符号を用い、適宜その説明を省略する。
【0010】
図1は、本実施形態の強加工装置10の斜視図である。強加工装置10は、コンテナ12と、孔型圧延ロール14a,14bを含んで構成されている。なお、図1においては、説明の便宜のため、コンテナ12の断面を示している。コンテナ12には、四角柱形の金属材料を導入するためのガイド孔16が形成されており、ガイド孔16の下方端部は、押出ダイス18として構成されている。押出ダイス18の押出方向後方には、2つの孔型圧延ロール14a,14bが配設されており、孔型圧延ロール14a,14bは、両者の外周面が隣接した状態で位置決めされ、それぞれが、軸体20a,20bを回転軸として図中の矢印方向に回転自在に構成されている。本実施形態の強加工装置10においては、図中の破線矢印Aが示す加工軸方向に金属材料がガイド孔16を経て押出ダイス18から押し出された後、その押出方向後方に位置する孔型圧延ロール14a,14bに導入されて孔型圧延され、送出される。本実施形態においては、金属材料は、孔型圧延ロール14a,14bによって孔型圧延されることによって、加工軸回りに45°捩れた状態で送出される。この機構については後に詳説する。
【0011】
図2は、図1に示した強加工装置10の部分上面図を示す。図2(a)は、コンテナ12の上面図を、図2(b)は、孔型圧延ロール14の上面図をそれぞれ示す。なお、図中に、説明の便宜のため、(a)および(b)に共通する加工軸Aを破線で示す。図2(a)に示されるように、コンテナ12には、金属材料を導入するためのガイド孔16が形成されており、ガイド孔16の後方端部(紙面奥側)は、図示しない押出ダイス18として構成されている。ガイド孔16および押出ダイス18の開口形状は、加工対象である金属材料の横断面の形状と同じ正四角形とされ、その面積は加工対象である金属材料の横断面積と略同一とされている。図2(a)の右側に押出ダイス18の開口部を拡大して示す。一方、図2(b)に示されるように、孔型圧延ロール14a,14bの各外周面には凹部22a,22bが形成され、両者の外周面が接する頂点において、凹部22aの内壁面と凹部22bの内壁面によって、金属材料を挿入するための孔型24が形成されており、その開口形状は、加工対象である金属材料の横断面の形状と同じ正四角形とされ、その面積は加工対象である金属材料の横断面積と略同一とされている。図2(b)の右側に孔型24を拡大して示す。なお、本実施形態において横断面とは、金属材料の長手方向(加工軸方向)に垂直な断面をいい、横断面積とは、その断面積をいう。
【0012】
図2(a)および(b)に示されるように、押出ダイス18と孔型24は、その開口形状および開口面積が等しくなるように形成されており、押出ダイス18の開口中心と孔型24の開口中心がいずれも加工軸A上に位置するように、押出ダイス18と孔型圧延ロール14a,14bは位置決めされ配設されている。ここで、本実施形態においては、図2(a)および(b)に示されるように、正四角形の孔型24が、押出ダイス18の正四角形の開口部に対し、加工軸A回りに45°捩れた位置関係をもって形成されている。強加工装置10をこのように構成することによって、押出ダイス18を経てその押出方向後方に位置する孔型圧延ロール14a,14bに形成された孔型24に導入された金属材料は、孔型圧延される際に、加工軸A回りに45°捩れた状態で送出されることになる。この点について、図3および図4を参照してさらに詳細に説明する。
【0013】
図3は、本実施形態の強加工装置10の強加工の工程を、符号(1)〜(4)の順に時系列的に示す。符号(1)に示すように、最初に、横断面が正四角形である四角柱形の金属材料30が、コンテナ12のガイド孔16に対し図中の矢印方向に挿入され、押出ダイス18から押し出される。押出ダイス18から押し出された金属材料30は、符号(2)に示すように、さらに後方に送られて、孔型圧延ロール14a,14bの凹部22a,22bに接触する。このとき、符号(3)に示すように、金属材料30は、孔型圧延ロール14a,14bからの押圧の作用を受け、図中の矢印Tが示す方向に捩れながら、矢印R方向に回転する孔型圧延ロール14a,14bの回転に伴って噛み込まれ、図2(b)に示した正四角形の孔型24に導入され孔型圧延される。さらに、金属材料30は、符号(4)に示すように、孔型圧延ロール14a,14bの回転に伴って発生する引き込み力によってさらに後方に送出される。このとき、金属材料30は、図2(b)に示した孔型24の内壁面に拘束されるため、その横断面は元の正四角形に維持された状態で孔型圧延され後方に送出される。
【0014】
図4は、横断面が正四角形である四角柱形の金属材料30を強加工する強加工装置10を示す図である。なお、図中において、破線矢印が指し示す位置における金属材料30の横断面(I)〜(IV)を強加工装置10の右側に示している。金属材料30は、押出ダイス18の開口端Xから孔型圧延ロール14a,14bに形成された図示しない孔型24との同一平面Yまでの区間Lにおいて、押出方向後方に送られるに従って、符号(I)〜(IV)に示すように、矢印Aで示す加工軸回りに徐々に捩れ変形し、この変形に伴って、金属材料30の内部に捩れひずみが生じる。本実施形態においては、金属材料30は、区間Lを通過する際に、加工軸回りに捩れ変形しながら、順送りで後方に送られるため、金属材料30の全長にわたって、均一に捩れひずみが付与される。また、本実施形態においては、上述したように、図示しない孔型24の開口面積は、導入される金属材料30の横断面積と等しくなるように構成されているため、矢印Aで示す加工軸方向のひずみは低減され、捩れトルクの多くは横断面方向のひずみに転換するので、全体の加工力が好適に低減される。また、本実施形態における捩り加工の際の摩擦力は、図示しない孔型24の内壁面と金属材料30の外周面との接線においてしか発生しないので、金型の内壁面全長にわたって摩擦力が発生する従来のECAP法に比べてその加工力が格段に低減される。
【0015】
なお、実際の加工においては、導入時の噛み込みをスムースにするために金属材料30の先端を略テーパ状にしておくことが好ましい。また、本実施形態においては、金属材料30に対し、加工軸方向の引き抜き力および/または押し込み力を付与するための追加の機構を設けることができ、引き抜き力および/または押し込み力を調整することによって加工を容易にすることができる。また、孔型圧延ロール14a,14bによる噛み込みの容易性に鑑みて、孔型圧延ロール14a,14bに形成された孔型24の内壁面を粗面にするなどして、孔型24の内壁面の摩擦係数を適宜制御することが好ましい。
【0016】
以上、本発明を、横断面が正四角形である四角柱形の金属材料を強加工する実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、加工対象である金属材料の横断面を正四角形に限定するものではなく、正円形以外の横断面を有する金属材料に適用可能であり、例えば、多角形や楕円形の横断面を有する金属材料に適用することができる。また、捩り角度についても最適化することが好ましい。用いる金属材料の横断面および捩り角度については、加工硬化、結晶系、集合組織など、加工対象材料の変形特性に鑑みて、高いひずみを均一に付与することができるような構成を適宜選択することができる。
【0017】
また、本発明においては、複数の孔型圧延ロールを加工軸方向に縦列的に配置することもできる。例えば、加工対象である金属材料の横断面が正多角形の場合、一回の工程で設定できる捩り角度は、本発明の機構上、隣り合う2つの対角線のなす挟角の半分が限界となり、正六角形や正八角形などのように対角線の数が増すにつれ一回の工程で捩ることのできる角度は小さくなるが、第1の孔型圧延ロールの孔型に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成されている孔型を備える第2の孔型圧延ロールを加工軸方向に縦列的に配置することによって、追設する孔型圧延ロールの数に応じて捩り角度をトータルで大きくすることが可能となる。
【0018】
さらに、本発明においては、上述した実施形態における押出ダイスを孔型圧延ロールに置き換えて構成することもでき、素材の金属材料を送り出すための第1の孔型圧延ロールと、上記第1の孔型圧延ロールの送出方向後方に配設された第2の孔型圧延ロールを備え、上記第1の孔型圧延ロールの第1の孔型と上記第2の孔型圧延ロールの第2の孔型は、互いに同じ開口形状および開口面積を有し、上記第2の孔型が上記第1の孔型に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成することによって、上述した実施形態と同等の作用効果を達成することができる。すなわち、本発明においては、孔型圧延ロールに対して加工軸方向前方に配設される手段は、上述した押出ダイスに限定されるものではなく、当該孔型圧延ロールの孔型に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成され、且つ、当該孔型と同じ開口形状および開口面積を有している開口部が形成された剛体的な構造物であって、加工対象の金属材料の加工軸回りの動きを阻止することができる構造体であればよい。
【0019】
以上、説明したように、本発明によれば、長尺物の金属材料に対して、その位置を順送りしながら連続的に横断面方向の捩りひずみを付与することができるので、長尺物の金属材料の全体にわたって連続的プロセスをもって強ひずみ加工を施すことが可能になり、作業のスループットが格段に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上、説明したように、本発明によれば、金属材料に対し高いひずみを効果的に導入することができる強加工装置および強加工方法が提供される。本発明によって、金属材料の内部構造や微細組織を制御してその特性を極限まで向上させることのできる強ひずみ加工の工業化への道が開かれ、資源制約のある合金元素の依存度が低減された新しい産業構造が構築されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】強加工装置の斜視図。
【図2】強加工装置の部分上面図。
【図3】強加工装置の強加工の工程を時系列的に示す図。
【図4】横断面が正四角形である四角柱形の金属材料を強加工する強加工装置を示す図。
【図5】ECAP法を概念的に示す図。
【図6】STSP法を概念的に示す図。
【符号の説明】
【0022】
10…強加工装置、12…コンテナ、14…孔型圧延ロール、16…ガイド孔、18…押出ダイス、20軸体、22…凹部、24…孔型、30…金属材料、50…金型、52…金属材料、54…屈曲部、60…電流コイル、62…金属材料、64…冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の強加工装置であって、
前記金属材料を押し出すための押出ダイスと、
前記押出ダイスの押出方向後方に配設された孔型圧延ロールを備え、
前記押出ダイスの開口部と前記孔型圧延ロールの孔型は、互いに同じ開口形状および開口面積を有し、
前記孔型が、前記押出ダイスの開口部に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成されていることを特徴とする、
強加工装置。
【請求項2】
前記開口形状は、多角形または楕円である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属材料に対し、前記加工軸方向の引き抜き力および/または押し込み力を付与する手段をさらに備える、請求項1または2に記載の強加工装置。
【請求項4】
前記孔型の内壁面が粗面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の強加工装置。
【請求項5】
金属材料を強加工する方法であって、
押出ダイスから押し出した前記金属材料を、
前記押出ダイスの開口部と同じ開口形状および開口面積を有し、前記押出ダイスの開口部に対して加工軸回りに捩れた位置関係をもって形成されている孔型を備える孔型圧延ロールに対して導入して孔型圧延することを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記金属材料の横断面は、多角形または楕円である、請求項5に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−160635(P2009−160635A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2739(P2008−2739)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】