説明

強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法

【課題】制御圧延法にともなう、低温圧延による熱間変形抵抗の上昇および熱間変形能の劣化の問題を解消し、強度と低温靱性に優れた継目無鋼管を提供する。
【解決手段】継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(およそ950℃以上)で穿孔圧延し、次いで前記延伸圧延工程および絞り圧延工程において、γ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延および絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法である。絞り圧延工程にサイザを使用する場合には、前記絞り圧延工程において、(α+γ)二相温度域(Ar3変態点〜Ar1変態点)で絞り圧延することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造プロセスに適用される、強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造方法としては、マンネスマン・プラグミル法、マンネスマン・マンドレルミル法およびマンネスマン・アッセルミル法、並びにマンネスマン・プッシュベンチミル法などがある。
【0003】
これらの継目無鋼管の製造プロセスでは、加熱炉で所定の温度に加熱した中実ビレット(丸鋼片)を傾斜圧延方式の穿孔圧延機により穿孔して中空棒状のホローピースとなし、これをロータリエロンゲータおよびプラグミル、またはマンドレルミル、アッセルミル若しくはプッシュベンチミルなどの延伸圧延機により、主として肉厚を減じてホローシェルとする。次いで、得られたホローシェルは、サイザまたはストレッチ・レデューサなどの絞り圧延機により、主として外径を減じて所定寸法の継目無鋼管とする。
【0004】
以下では、上記製造プロセスのうち、マンネスマン・マンドレルミル法について説明するが、他の製造法においても継目無鋼管の製造における作用は同様である。
【0005】
図1は、マンネスマン・マンドレルミル法に用いられる装置構成を説明する図であり、(a)は回転炉床式加熱炉、(b)はロータリピアサ(傾斜穿孔圧延機)、(c)はマンドレルミル(延伸圧延機)、(d)は再加熱炉、(e)はストレッチ・レデューサ(絞り圧延機)を示す。
【0006】
図1(b)に示すロータリピアサは、当初、バレル型ロールを傾斜配置して駆動するマンネスマンピアサが主流であったが、最近ではコーン型ロールを傾斜させると同時に交叉配置して駆動するいわゆる交叉穿孔機(コーン・ピアサ)が広く普及している。
【0007】
図1(c)に示すマンドレルミルは、8スタンドから構成するのが一般的であったが、最近では4〜5スタンドから構成される少数スタンドミルが操業している。マンドレルミルにおいて注目すべきは、マンドレルバーの操業法の革新であり、当初、マンドレルバーを素管の内面に挿入したまま、マンドレルバーごと孔型ロールで連続圧延するフルフロート・マンドレルミルが一般的であったが、最近ではさらに高能率、高品質のマンドレルミルとしてリテインド・マンドレルミル(リストレインド・マンドレルミル)が広く普及している。
【0008】
このリテインド・マンドレルミルでは、マンドレルバー・リテイナ(図示していない)によりマンドレルバーを圧延終了まで、その背面(圧延機の入側)から保持、拘束し、圧延終了と同時にマンドレルバーを引き戻すフルリトラクト方式と圧延終了と同時にマンドレルバーを解放するセミフロート方式がある。
【0009】
通常、中径継目無鋼管の製造では、フルリトラクト方式が採用され、小径継目無鋼管の製造ではセミフロート方式が採用されている。前者のフルリトラクト方式では、マンドレルミルの出側にエキストラクタが接続しており、マンドレルミルで圧延中にホローシェルを引っ張り出す。このとき、マンドレル出側の管材料温度が十分高ければ、エキストラクタの代わりにサイジングミル(サイザ)でホローシェルを引っ張り出しながら最終目標寸法まで絞り圧延することが可能となり、再加熱炉は不要となる。
【0010】
図1(e)に示される絞り圧延機に関して、中径継目無鋼管の製造にはサイザが使用され、小径継目無鋼管の製造にはストレッチ・レデューサが使用される。いずれも当初は各スタンドのロール回転数比が不変のシンキングサイザまたはレデューサが使用されたが、最近では各スタンド独立駆動の3ロール型のサイザまたはストレッチ・レデューサが広く普及している。
【0011】
上記の3ロール型ストレッチ・レデューサについて、最大24スタンド乃至28スタンドから構成され、各スタンドの独立駆動によってスタンド間に最大で変形抵抗の85%にも及ぶ張力を与えることができることから、外径リダクションに加えて、かなり広い範囲で肉厚調整が可能になる。
【0012】
一方、3ロール型サイザは、最大8スタンド乃至12スタンドから構成されるが、ストレッチ・レデューサに比較すればスタンド数が少ないので、大きなスタンド間張力を期待できない。また、3ロール型サイザでは、1スタンド当たりの外径リダクションもストレッチ・レデューサのそれに比較してはるかに小さい。
【0013】
このような継目無鋼管の製造プロセスにおいて、熱間製管後に熱間加工時の保有熱を有効に利用して焼入れ処理し、次いで焼戻し処理する、いわゆるインライン加工熱処理プロセスが適用されることがあるが(特許文献1乃至3参照)、制御圧延法の適用について公知ではない。
【0014】
次に、制御圧延法の基本原理について説明する。制御圧延技術は、UOE大径溶接鋼管の素材の製造技術として開発されてきた。UOE大径溶接鋼管の素材は、厚板圧延機(ミル)のレバース圧延によって製造される。厚板の圧延技術はラインパイプに対する高強度化、低温高靱性化、低成分化の要求に応えて大きく発展した。
【0015】
通常、鋼の強化機構には固溶強化、析出強化、加工硬化、細粒強化および変態強化などがある。このうち、固溶強化は合金成分の増加をともない、低成分化の要求に相反することになり、析出強化および加工強化は脆化を伴うので高靱性化の障害となる。このため、細粒化は強度および靱性を両立させる唯一の方法であり、圧延技術における材質面の進歩は細粒化を達成するための技術開発の成果であると言える。
【0016】
制御圧延法は化学成分、加熱温度、圧延温度、圧下率など加工熱履圧を適切に制御することにより、圧延のままで細粒化を達成する圧延技術であり、高強度、高靱性ラインパイプ用素材の製造に広く採用されてきた。
【0017】
制御圧延工程は、冶金学的機構から3段階に分けて考えることができる。すなわち、次の1−3段階に区分することができる。
[1段階]比較的高温のγ相の再結晶温度域の圧延(950℃以上)
[2段階]低温のγ相の未再結晶温度域の圧延(950℃以下Ar3変態点以上)
[3段階]さらに低温の(γ+α)二相域における圧延(Ar3変態点以下、Ar1変態点以上)
【0018】
図2は、鉄−炭素系の平衡状態図である。
図3は、制御圧延工程においる冶金学的機構の3段階を説明する図であり、上述の3段階の圧延温度域でのミクロ組織の変化を示している。図3の出典は、第112、113回西山記念技術講座「鋼管の製造技術の現状と将来」、日本鉄鋼協会発行であるが、制御冷却法が開発される以前の冶金学的概念図であり、制御冷却法が開発された以後の現在における冶金学的概念図でないことに留意しなければならない。
【0019】
加熱により粗大化したγ粒は、再結晶温度域で圧延−再結晶の繰り返しにより細粒化する。次いで、再結晶しにくい低温域で圧延すると、γ粒は再結晶せずに伸長化し、粒内に変形帯や焼鈍双晶を形成する。そしてγ→α変態時にはγ粒界とともに、これらの変形帯、焼鈍双晶がα変態核の形成サイトとして働き、結果としてα粒が微細化する。
【0020】
この未再結晶域圧下に加えてAr3点以下の(γ+α)二相域で圧延すると未変態のγ粒はより一層伸長化し、粒内に変形帯を形成する。一方、変態したα粒も圧下を受け、粒内にサブグレインを形成し、結果として更なるα粒の微細化が達成される。
【0021】
ラインパイプの厚肉化、高強度化、低温における高靱性化の要求はスラブの低温加熱、未再結晶域における合計圧下率の増大、(γ+α)二相域圧延の強化など制御圧延技術の進歩、発展を促した。低温加熱の冶金的効果は、加熱時のγ粒を微細化することにあり、その結果、圧延後のα粒も微細化し、靱性を向上させることになる。
【0022】
なお、二相域圧延の強化は、細粒化効果により強度上昇をもたらすが、強い圧延集合組織を発達させ、シャルピ、DWTT破面にセパレーションを発生させ、破面遷移温度を低下させる。そのため、高グレードラインパイプでは、靱性要求値に応じて靱性を損なわない範囲で二相域圧延を利用してきたが、制御冷却技術の発展により次第に適用されなくなった。
【0023】
制御圧延による微細化に加えて変態強化による強度上昇をはかったのが、ベイナイト系制御圧延材(アシキュラフェライト鋼)である。ベイナイト量の増加は強度を大きく上昇させるため、特に、X70以上の高強度材に対して利点がある。Mn量の増加とともにベイナイト量が増加し、同時にAr3点が低下することによりα粒を細粒化し、強度および靱性ともに向上する。また、Nb、TiCともに微量のBを添加するとベイナイトの生成に効果があり、靱性の劣化なしに高強度が得られる。
【0024】
このようにして、制御圧延技術とマイクロアロイング技術の発展により、高グレードの素材が製造されてきたが、高強度化、高靱性化、厚肉化、低成分化の更なる厳しい要求には新しい技術の展開が必要になり、圧延後の加速冷却技術、すなわち、制御冷却技術が登場した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平6−240357号公報
【特許文献2】特開平11−302785号公報
【特許文献3】特開2001−240913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
前述したように、制御圧延技術はUOE大径溶接鋼管の素材として厚板圧延工程で開発された加工熱処理技術であり、その成果は多分に厚板圧延機がレバース圧延であることに依存している。このため、この技術をそのまま一方向( one way )圧延のホットストリップミルに応用することはできない。
【0027】
まして、継目無鋼管の製造プロセスに応用するためには、現場操業法の抜本的な変更が必要になる。以下にその問題点を列挙する。
【0028】
(1)制御圧延によって強度と低温靱性に優れた継目無鋼管を製造するためには、少なくとも、延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域の低温圧延を実施する必要がある。絞り圧延工程でγ相の未再結晶温度域の低温圧延を実施しても、絞り圧延工程では外径圧下は行われても肉厚圧下は行われないので、未再結晶γ粒は展伸されない。絞り圧延工程でγ相の未再結晶温度域の低温圧延を行う時でも延伸圧延工程におけるγ相の未再結晶温度域の低温圧延は必要不可欠である。
【0029】
ところで、Ar3変態点は、前記図2に示すように、管材料のC含有量によって異なり、0.10%Cの低炭素鋼でおよそ850℃、0.30%Cの中炭素鋼で800℃、0.50%Cの中炭素鋼で770℃であり、γ相の未再結晶温度域は、たかだか100℃〜180℃の温度範囲にとなり極めて狭い温度域となる。このため、延伸圧延工程の圧延温度をこの温度範囲に保持することは簡単ではない。
【0030】
継目無鋼管の圧延は、一方向( one way )圧延であり、圧延速度は速く、さらに管材料は内外面から冷却されるので冷却速度はそれ以上に速く、圧延温度のコントロールは厚板圧延に比較してはるかに難しい。
【0031】
(2)次に、γ相の未再結晶温度域の低温圧延では、当然、熱間変形抵抗の著しい上昇を伴う。
図4は、圧延温度と変形抵抗の関係を例示した図であり、(a)は低炭素キルド鋼の関係、(b)は0.5%Mo鋼の関係、(c)は1.0%Cr鋼の関係を示している。これらの出典は、文献「圧延理論とその応用」、日本鉄鋼協会編による。
【0032】
図4に例示するように、変形抵抗は素材の化学組成とひずみ速度によって変化するが、圧延温度1200℃と900℃を比較して論ずれば、300℃の温度低下で変形抵抗はおよそ3倍に上昇する。
【0033】
圧延荷重、圧延トルク、圧延所要動力の著しい上昇は圧延機の保全上、問題となるばかりでなく、現場操業上も由々しい事態を惹起する。厚板圧延の場合は、レバース圧延であることからパス回数を増加し簡単に対処できるが、継目無鋼管の製造プロセスでは容易に対処できない。特に穿孔圧延機、続いて延伸圧延機の過負荷対策は非常に難しい。
【0034】
(3)γ相の未再結晶温度域の低温圧延時の最大の問題点は、鋼材の熱間変形能が著しく劣化することである。
図5は、中炭素鋼の熱間変形能に及ぼす圧延温度の影響を示す図である。同図では、熱間変形能は捩り試験の破断捩回値で示しているが、この出典は、文献「圧延理論とその応用」、日本鉄鋼協会編による。
【0035】
図5に示すように、圧延温度1200℃と900℃を比較すれば、300℃の温度低下で熱間変形能はおよそ1/3まで劣化する。熱間変形能がここまで劣化すると穿孔圧延工程で著しい内面疵の発達が避けられず、また、ラミネーション(肉厚中央部の二枚割れ)も発生し、製品とならない。
【0036】
また、穿孔圧延で150℃の温度低下であっても、内面疵を発生させることなく継目無鋼管を製造することはきわめて難しい。穿孔工程で一旦内面疵を発生させると後工程の延伸圧延工程、絞り圧延工程でますます助長され、決して消失することはない。
【0037】
本発明は、上述した(1)乃至(3)の問題点に鑑みてなされたものであり、継目無鋼管の製造プロセスにおける制御圧延法を具体的に提案し、制御冷却法と相俟って強度と低温靱性に優れた継目無鋼管を提供することを目的としている。
【0038】
ところで、本発明は、冒頭に記述したように、継目無鋼管の制御圧延技術に関するものであり、制御冷却技術は制御圧延終了後の関連技術であるが、制御冷却法として新しい知見を提供するものではなく、継目無鋼管における制御圧延技術の確立を期すものである。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上記の課題を解決するために、本発明者は、継目無鋼管の製造プロセスにおいて制御圧延を実施する際に、低温圧延による穿孔圧延機および延伸圧延機における圧延負荷の著しい上昇と熱間変形能の著しい劣化に対処するため、交叉穿孔機を採用し拡径穿孔法によって高加工度で薄肉穿孔するのが望ましいこと、さらに穿孔圧延工程においてγ相の再結晶温度域の高温側で穿孔するのが有効であることに着目した。
【0040】
本発明は、上記の着目に基づいて完成されたものであり、下記の継目無鋼管の制御圧延方法を要旨としている。
【0041】
(1)加熱炉で所定温度に加熱された丸鋼片(ビレット)を対象として、穿孔圧延する工程と延伸圧延する工程を経て、必要に応じて再加熱処理をしたのち絞り圧延する工程から構成される継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、
前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(950℃以上)で穿孔圧延し、次いで前記延伸圧延工程および絞り圧延工程において、γ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延および絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。
【0042】
(2)上記(1)と同様に、継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、
前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(950℃以上)で穿孔圧延し、次いで延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延したのち、前記絞り圧延工程において、(α+γ)二相温度域(Ar3変態点〜Ar1変態点)で絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。
【0043】
(3)上記(1)、(2)の継目無鋼管の制御圧延方法では、低温圧延による熱間変形抵抗の著しい上昇と熱間変形能(熱間加工性)の著しい劣化に対処するため、前記穿孔圧延工程ではコーン型主ロールを有する交叉穿孔機(交叉角:3°〜30°、傾斜角:5°〜18°)を採用し、高交叉角・高傾斜角段取りで拡径穿孔(拡径比:1.05〜2.50)を行うことが望ましい。
【0044】
(4)上記(1)〜(3)の継目無鋼管の制御圧延方法では、延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延する際に、少なくとも40%以上の肉厚圧下率で延伸圧延するのが望ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明の継目無鋼管の制御圧延方法によれば、低温圧延による熱間変形抵抗の著しい上昇および熱間変形能(熱間加工性)の著しい劣化による問題を解消し、制御冷却法と相俟って強度と低温靱性に優れた継目無鋼管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】マンネスマン・マンドレルミル法に用いられる装置構成を説明する図であり、(a)は回転炉床式加熱炉、(b)はロータリピアサ(傾斜穿孔圧延機)、(c)はマンドレルミル(延伸圧延機)、(d)は再加熱炉、(e)はストレッチ・レデューサ(絞り圧延機)を示す。
【図2】鉄−炭素系の平衡状態図である。
【図3】制御圧延工程においる冶金学的機構の3段階を説明する図である。
【図4】圧延温度と変形抵抗の関係を例示した図であり、(a)は低炭素キルド鋼の関係、(b)は0.5%Mo鋼の関係、(c)は1.0%Cr鋼の関係を示している。
【図5】中炭素鋼の熱間変形能に及ぼす圧延温度の影響を示す図である。
【0047】
【図6】交叉穿孔機による拡径穿孔法の穿孔原理を示す図である。
【図7】穿孔圧延の圧延トルクに及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。
【図8】圧延動力に及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。
【図9】回転鍛造回数に及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。
【図10】円周方向剪断ひずみγに及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
[穿孔圧延および延伸圧延工程における圧延温度制御]
本発明の継目無鋼管の制御圧延方法は、継目無鋼管の製造プロセス、すなわち、加熱炉→穿孔圧延機→延伸圧延機(→再加熱炉)→絞り圧延機から構成される継目無鋼管の製造工程に適用される制御圧延方法であって、
前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(およそ950℃以上)で穿孔圧延し、次いで前記延伸圧延工程および絞り圧延工程において、γ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延および絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする。
【0049】
同様に、本発明の継目無鋼管の制御圧延方法は、継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(950℃以上)で穿孔圧延し、次いで延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延したのち、前記絞り圧延工程において、(α+γ)二相温度域(Ar3変態点〜Ar1変態点)で絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする。ただし、この方法を適用する場合には、絞り圧延機にサイザを使用する場合に限られる。
【0050】
本発明の継目無鋼管の制御圧延方法では、延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域の低温圧延を実施するための温度制御について種々の検討を加えた。延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域の低温圧延を実施したいとき、その前工程の穿孔圧延工程においてもある程度の低温圧延を実施するのが一般的である。場合によっては、さらに前工程の加熱工程で低温加熱を考えるのが普通である。
【0051】
後述するように、本発明の継目無鋼管の制御圧延方法では、穿孔圧延工程において拡径穿孔法によって高加工度で薄肉穿孔することを望ましいとしているが、ビレットを穿孔圧延する加工では、低温になるほど加工熱を発生する。加工熱を発生させながら低温圧延するのは理に合わない。
【0052】
したがって、穿孔圧延工程において低温圧延するのはほどほどにして、γ相の再結晶温度域の高温側、望ましくは1050℃以上で穿孔することとした。都合がよいことに拡径穿孔法により高加工度で薄肉穿孔しさえすれば、穿孔圧延工程で加工熱を発生しても穿孔後のホローピースの冷却速度はきわめて速くなり、延伸圧延工程では比較的容易にγ相の未再結晶温度域を保つことができる。
【0053】
拡径穿孔法により高加工度・薄肉穿孔する際、穿孔圧延したホローシェルの温度低下は絶対肉厚が薄くなるほど、また外径が細くなるほど顕著になる。したがって、特に小径薄肉継目無鋼管の穿孔圧延工程では、γ相のより高温側の再結晶温度域で穿孔し、前工程の加熱工程では通常より高温加熱することも考えられる。
【0054】
[拡径穿孔法による高加工度・薄肉穿孔]
本発明の継目無鋼管の制御圧延方法では、交叉穿孔機を採用し拡径穿孔法によって高加工度薄肉穿孔する技術思想を応用することが望ましい。低温圧延による穿孔圧延機および延伸圧延機における圧延負荷の著しい上昇と熱間変形能の著しい劣化に対処できることによる。
【0055】
具体的には、穿孔圧延工程にコーン型主ロールを有する交叉穿孔機を採用し、拡径穿孔法により高加工度薄肉穿孔して穿孔圧延負荷の抜本的低減をはかるばかりでなく、さらに延伸圧延工程における肉厚圧下量の半分近くを穿孔圧延工程で負担することにより延伸圧延負荷の抜本的低減も可能となる。
【0056】
図6は、交叉穿孔機による拡径穿孔法の穿孔原理を示す図である。拡管穿孔によってプラグ前における回転鍛造効果は抑制される。同図中に傾斜角( Feed angle )βおよびロール交叉角( Cross angle )γを定義している。
【0057】
図7は、穿孔圧延の圧延トルクに及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。また、図8は、圧延動力に及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。両図中、γはロール交叉角、βは傾斜角を示している。いずれも拡径比が大きくなるほど、圧延負荷が顕著に減少することが明瞭である。図6乃至図8の出典は、文献「鋼管の製造方法」、日本鉄鋼協会発行による。
【0058】
図7および図8の結果から、本発明の継目無鋼管の制御圧延方法では、穿孔圧延機の過負荷対策として拡径穿孔法を活用するのが望ましいことが分かる。ここで、若干附言すれば、ロール交叉角が大きくなるほど、ロール傾斜角が大きくなるほど、圧延負荷は若干ながら増加する。
【0059】
拡径穿孔法によれば、丸鋼片(ビレット)がコーン型主ロールに噛み込まれてプラグ先端に至るまでの回転鍛造回数が著しく減少し、さらに高傾斜角、高交叉角穿孔によって傾斜圧延穿孔特有の附加剪断変形の応力場を解放できれば、熱間変形能の著しい劣化に対しても対策を講ずることが可能になる。
【0060】
穿孔圧延における回転鍛造効果(マンネスマン効果)が内面疵発生の要因であり、附加剪断変形の応力場が内面疵伝播の要因になるので、拡径穿孔法を適用することにより、低温圧延による熱間変形能の著しい劣化に対しても対処できる。
【0061】
図9は、回転鍛造回数に及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。また、図10は、円周方向剪断ひずみγに及ぼす拡径比、ロール交叉角および傾斜角の影響を示す図である。前記図7および図8と同様、両図中のγはロール交叉角、βは傾斜角を示している。図9および図10の出典は、文献「鋼管の製造方法」、日本鉄鋼協会発行による。
【0062】
図9から明瞭なように、拡径比が大きくなるほど、ロール交叉角および傾斜角が大きくなるほど回転鍛造回数はきわめて顕著に減少する。すなわち、内面疵発生の要因が消失することが明瞭である。
【0063】
次に、図10から明瞭なように、ロール交叉角および傾斜角が大きくなるほど、円周方向剪断ひずみγはきわめて顕著に減少する。すなわち、内面疵伝播の要因が消失する。但し、円周方向剪断ひずみγに及ぼす拡径比の影響は、ロール交叉角および傾斜角の影響と逆行し、拡径比が大きくなるほど円周方向剪断ひずみγは若干大きくなる。すなわち、若干悪化するが、問題にならない程度である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明による「継目無鋼管の制御圧延法」が強度と低温靱性に及ぼす優れた効果を実施例に基づいて説明する。実施例で示す各工程の圧延温度は、各圧延機の出側温度で表示する。
【0065】
[実施例1]
0.30%C−1.10%Mn−0.30%Moなる化学組成を有する147.0mmφ中炭素鋼丸鋼片を供試材として、加熱炉→交叉穿孔機→マンドレルミル→再加熱炉→ストレッチ・レデューサから構成される小径マンネスマン・マンドレルミルプロセスにより76.2mmφ×4.0mmtに圧延した。各工程の圧延条件は以下の通りである。
【0066】
(1)加熱工程
鋼片寸法:147.0mmφ、 加熱温度:1200℃
(2)穿孔圧延工程
穿孔寸法:196.0mmφ×11.8mmt
圧延温度:1110℃(γ相の再結晶温度域)
圧延条件:ロール交叉角:10°、 ロール傾斜角:12°、
拡径比:1.333、 穿孔比:3.39
【0067】
(3)延伸圧延工程
延伸寸法:151.0mmφ×4.25mmt
圧延温度:900℃(γ相の未再結晶温度域)
圧延条件:スタンド数:8、 肉厚リダクション:64.0%、
延伸比:3.47
(4)再加熱工程
加熱温度:920℃
【0068】
(5)絞り圧延工程
絞り寸法:76.2mmφ×4.0mmt
圧延温度:840℃(γ相の未再結晶温度域)
圧延条件:スタンド数:16、 外径リダクション:49.5%、
延伸比:2.16
(6)制御冷却:冷水焼入れ
(7)確性試験結果:強度:YS=770Mpa 低温靱性:vTrs=−88℃
【0069】
[実施例2]
0.40%C−1.20%Mn−0.35%Moなる化学組成を有する225.0mmφ中炭素鋼丸鋼片を供試材として、加熱炉→交叉穿孔機→マンドレルミル→サイザから構成される中径マンネスマン・マンドレルミルプロセスにより、273.0mmφ×6.5mmtに圧延した。各工程の圧延条件は以下の通りである。
【0070】
(1)加熱工程
鋼片寸法:225.0mmφ、 加熱温度:1180℃
(2)穿孔圧延工程
穿孔寸法:335.0mmφ×15.5mmt
圧延温度:1090℃(γ相の再結晶温度域)
圧延条件:ロール交叉角:20°、 ロール傾斜角:10°、
拡径比:1.488、 穿孔比:2.55
【0071】
(3)延伸圧延工程
延伸寸法:295.0mmφ×6.5mmt
圧延温度:920℃(γ相の未再結晶温度域)
圧延条件:スタンド数:5、 肉厚リダクション:58.0%、
延伸比:2.64
(4)絞り圧延工程
絞り寸法:273.0mmφ×6.5mmt
圧延温度:870℃(γ相の未再結晶温度域)
圧延条件:スタンド数:8、 外径リダクション:7.5%、
延伸比:1.08
(5)制御冷却:冷水焼入れ
(6)確性試験結果:強度:YS=765Mpa 低温靱性:vTrs=−86℃
【0072】
[実施例3]
0.10%C−0.65%Mn−0.05%Moなる化学組成を有する225.0mmφ低炭素鋼丸鋼片を供試材として、加熱炉→交叉穿孔機→マンドレルミル→サイザから構成される中径マンネスマン・マンドレルミルプロセスにより、273.0mmφ×6.5mmtに圧延した。各工程の圧延条件は以下の通りである。各工程毎の圧延寸法は実施例2と同じである。
【0073】
(1)加熱工程
鋼片寸法:225.0mmφ、 加熱温度:1160℃
(2)穿孔圧延工程
穿孔寸法:335.0mmφ×15.5mmt
圧延温度:1070℃(γ相の再結晶温度域)
圧延条件:ロール交叉角:20°、 ロール傾斜角:10°、
拡径比:1.488、 穿孔比:2.55
【0074】
(3)延伸圧延工程
延伸寸法:295.0mmφ×6.5mmt
圧延温度:900℃(γ相の未再結晶温度域)
圧延条件:スタンド数:5、 肉厚リダクション:58.0%、
延伸比:2.64
(4)絞り圧延工程
絞り寸法:273.0mmφ×6.5mmt
圧延温度:830℃((α+γ)二相温度域)
圧延条件:スタンド数:8、 外径リダクション:7.5%、
延伸比:1.08
(5)制御冷却:冷水焼入れ
(6)確性試験結果:強度:YS=760Mpa 低温靱性:vTrs=−84℃
【0075】
この場合、絞り圧延工程は(α+γ)二相域圧延となるが、軽圧下の外径圧下は行われても肉厚圧下がないので結晶粒は展伸せず、セパレーションなど副作用は認められない。
【0076】
絞り圧延機にストレッチ・レデューサを使用する場合には、(α+γ)二相域の絞り圧延は出来るだけ避けた方がよい。連結多スタンドの外径圧下でひずみが累積して、シャルピ試験などでセパレーションを発生する恐れがある。絞り圧延工程がストレッチ・レデューサの場合には必ず再加熱炉があるので、γ相の未再結晶温度域の絞り圧延に支障はない。
【0077】
通常、油井管やラインパイプに要求される強度はYSで740Mpa以上であり、低温靱性はvTrsで−80℃以下とされている。以上、3つの実施例について制御圧延法の効果について具体的に説明したが、本願発明による効果は明瞭である。
【0078】
[今後の開発課題]
以上の説明の通り、本発明では、制御圧延に続いて制御冷却が行われることを前提としているが、制御圧延法を具体的に発明のテーマとしているのであり、制御冷却法を発明のテーマとしているわけではない。3つの実施例で制御冷却の項目に水冷焼入れとあるのは既存の焼入れ装置を使用して究極の制御冷却をシミュレートしているに過ぎない。
【0079】
本願特許出願人の所属する会社には、現在、継目無鋼管用の制御冷却装置はない。勿論、世界中の同業他社にも今のところ建設されている例は聞いていない。制御冷却法の具体化は今後の開発課題であり、それによって、さらなる強度と低温靱性が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
継目無鋼管の製造プロセスへの制御圧延法の適用にともなう、低温圧延による熱間変形抵抗の著しい上昇および熱間変形能(熱間加工性)の著しい劣化の問題を解消し、制御冷却法と相俟って強度と低温靱性に優れた継目無鋼管を得ることができる。
なお、本発明は、熱間圧延後焼入れ−焼戻し処理せずに、圧延のままで強度と靱性を改善する制御圧延法について論じてきたが、この技術思想は、熱間圧延後焼入れ−焼戻し処理する工程で、結晶粒の更なる微細化を図る継目無鋼管の制御圧延方法として応用できることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉で所定温度に加熱された丸鋼片(ビレット)を対象として、穿孔圧延する工程と延伸圧延する工程を経て、必要に応じて再加熱処理をしたのち絞り圧延する工程から構成される継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、
前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(950℃以上)で穿孔圧延し、次いで前記延伸圧延工程および絞り圧延工程において、γ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延および絞り圧延し、
前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。
【請求項2】
加熱炉で所定温度に加熱された丸鋼片(ビレット)を対象として、穿孔圧延する工程と延伸圧延する工程を経て、必要に応じて再加熱処理をしたのち、サイザを用いた絞り圧延する工程から構成される継目無鋼管の製造プロセスに適用される制御圧延方法であって、
前記穿孔圧延工程において、γ相の再結晶温度域(950℃以上)で穿孔圧延し、次いで延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延したのち、
前記絞り圧延工程において、(α+γ)二相温度域(Ar3変態点〜Ar1変態点)で絞り圧延し、前記絞り圧延の直後に、制御冷却または焼入れ処理することを特徴とする強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。
【請求項3】
低温圧延による熱間変形抵抗の著しい上昇と熱間変形能(熱間加工性)の著しい劣化に対処するため、前記穿孔圧延工程ではコーン型主ロールを有する交叉穿孔機(交叉角:3°〜30°、傾斜角:5°〜18°)を採用し、高交叉角・高傾斜角段取りで拡径穿孔(拡径比:1.05〜2.50)を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の強度と低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。
【請求項4】
前記延伸圧延工程においてγ相の未再結晶温度域(950℃〜Ar3変態点)の範囲内で延伸圧延する際に、少なくとも40%以上の肉厚圧下率で延伸圧延することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強度低温靱性に優れた継目無鋼管の制御圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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