強誘電体の脱分極方法、および強誘電体デバイス
【課題】電圧印加による、効率的かつ効果的な、強誘電体の脱分極方法を提供し、さらに前記脱分極法による、多機能化・高機能化された強誘電体デバイスを提供すること。
【解決手段】分極処理された強誘電体に、電圧を印加して分極反転を行う。該分極反転中の前記強誘電体の圧電性のレベルを検出し、該圧電性のレベルの最小値に基づき、圧電性の目標消失レベル値を設定する。前記強誘電体の分極反転中に、前記圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行なうための電圧印加を停止することで、前記強誘電体を脱分極処理する。前記脱分極処理により、強誘電体デバイスは、強誘電体材料の分極状態の残留歪と、圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、脱分極状態の圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを備える。
【解決手段】分極処理された強誘電体に、電圧を印加して分極反転を行う。該分極反転中の前記強誘電体の圧電性のレベルを検出し、該圧電性のレベルの最小値に基づき、圧電性の目標消失レベル値を設定する。前記強誘電体の分極反転中に、前記圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行なうための電圧印加を停止することで、前記強誘電体を脱分極処理する。前記脱分極処理により、強誘電体デバイスは、強誘電体材料の分極状態の残留歪と、圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、脱分極状態の圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体デバイスに使用される、分極処理された強誘電体を脱分極する方法、特に外部印加電界による脱分極方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体は自発分極方向が同じとなる分域を有し、外部電界印加により、該分域の構造が変化する。この反転可能な自発分極の存在により、強誘電体は高い誘電率と、焦電性と、圧電性と、残留分極とを有する。強誘電体が圧電性を得るためには、前記分極を電界印加方向に優勢的に配向させる、分極処理が必要であり、通常、高電界の印加を行う。
【0003】
電界(E)に対する分極(P)と電界誘起歪(ΔL/L)の関係を、図1の強誘電体の概念図に示す。分極処理前の未分極状態では強誘電体に電界誘起歪は発生ぜず、ある閾値電界以上で分域が電界方向にそろいはじめ、自発分極と、電界誘起歪とが検出される。分極方向と印加電界方向が同じである場合には、電界誘起歪と分極とは印加電界とともに増大するが、分極方向と印加電界方向が逆である場合には、歪と分極とは電界とともに減少するが、途中の抗電界(Ec)で反転が生じ、P−Eヒステリシス曲線とバタフライ形の電界誘起歪曲線とが得られる。分極処理後の強誘電体は、電界印加方向に優勢的分極成分を有するために、図1に示すように、残留分極と残留歪が生じる。分極処理した強誘電体圧の電界誘起歪は、圧電歪と呼ばれ、外部電界を取り除いた場合は、圧電歪は残留歪点に戻るために、強誘電体の歪を保持するためには、電圧印加を続けなくてはならず、消費電力の増大が問題となっている。
【0004】
前述の歪保持における消費電力量の問題に対し、強誘電体に状態保持のメモリ機能を付与する電界インプリント方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、前記電界インプリント方法では、強誘電体の100℃以上の昇温加熱処理と、1時間以上の高電界印加工程とが必要なために、該工程中における強誘電体へのダメージの発生が問題となる。
【0005】
また、前述の歪保持における消費電力量の問題に対し、強誘電体の分極処理前後に発生する、残留歪の繰り返し利用が考えられるが、この場合では、分極処理後の強誘電体を未分極状態にする、脱分極処理(あるいは、「消分極処理」と呼ばれるが、以下、「脱分極処理」を使用する)が必要となる。前記脱分極処理には、強誘電体を脱分極温度(Td)以上に加熱する熱的脱分極方法のほか、強磁性体の消磁処理と同様に、振幅を下げながら双極性パルスないし、交流電圧を印加する電気的脱分極方法が提案されている。(特許文献2、非特許文献1)
【0006】
しかしながら、前記熱的脱分極方法では、強誘電体デバイスの昇温加熱ユニットによる構造の複雑化と、消費電力の増大と、排熱処理との問題が生じる。さらに、前記電気的脱分極方法では、電圧印加による強誘電体の分極反転回数の増大のために、該強誘電体へのダメージの加速と、消費電力増大とのデメリットが生じる。そのため、前記熱的脱分極方法と、前記電気的脱分極方法とは殆ど実際的ではなく、強誘電体デバイスにおいて、分極処理後の強誘電体の圧電歪と、誘電率と、分極状態と、弾性率とが利用されている。ここで、強誘電体デバイスとは、強誘電体を応用したすべてのデバイスのことをいい、圧電デバイスと、焦電性デバイスと、容量性強誘電体デバイスと、強誘電体メモリデバイスとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開2008−85194公報
【特許文献2】特許公開2002−74940公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. J. Higgins, A.Krishnan, M. M. J. Treacy, and S. Bhattacharya, “Depoling a ferroelectric capacitor,”Applied Physics Letters, 80, 3373-3375 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の電気的脱分極方法では、前述強誘電体へのダメージの加速と、消費電力増大とのデメリットが生じるため、前述強誘電体デバイスおける、所定の圧電歪、あるいは、誘電率を保持する手段として、脱分極状態を利用することが困難であり、実際的に脱分極状態を繰り返し利用する強誘電体デバイスの実現ができなかった。そのため、従来の強誘電体デバイスでは、分極処理後の強誘電体の圧電性と、誘電率と、分極値と、弾性率とが利用されている。
【0010】
そこで、本発明は前述問題点に鑑み、強誘電体の必要最小限の分極反転による、消費電力と、強誘電体へのダメージとを低減した、効率的かつ効果的な、強誘電体の脱分極方法を提供する。さらに、前記脱分極方法により、強誘電体の分極状態の残留歪と、圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、脱分極状態の圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを備える多機能化・高機能化された強誘電体デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的達成するために、請求項1記載の本発明は、分極処理が行われた強誘電体の脱分極方法において、前記強誘電体の圧電性を検出する手段を具備し、前記強誘電体の自発分極方向と逆向きの電界印加による分極反転を行う工程と、前記圧電性を検出する手段を用いて、前記分域反転中における前記強誘電体の圧電性のレベルと、該レベルの最小値とを、検出する工程と、前記圧電性のレベルの最小値に基づき、前記圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する工程と、前記分域反転中の前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、を含む強誘電体の脱分極方法を提供する。
【0012】
請求項2記載の本発明は、前記圧電性のレベルが、分極反転中に前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、前記分極反転を行うための電界に対して、逆向きの電界を印加する工程と、前記逆向きの電界の印加中に、前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記逆向きの電界の印加を停止する工程と、を含む請求項1に記載の強誘電体の脱分極方法を提供する。
【0013】
請求項3記載の本発明は、少なくとも1対の電極間に、強誘電体部を介在させてなる強誘電体デバイスであって、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の脱分極方法により、該強誘電体部が部分的、あるいは、全体的に脱分極状態とされていることを特徴とする強誘電体デバイスを提供する。
【0014】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の強誘電体デバイスであって、前記強誘電体部の一部分が、該一部分以外の前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサを構成していることを特徴とする強誘電体デバイスを提供する。
【0015】
請求項5記載の本発明は、分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法において、前記分極反転を行う印加電圧信号に、該印加電圧信号に比べて、小振幅と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳し、該振動励起用電圧信号により前記強誘電体の機械的振動を励起する工程と、前記機械的振動と、該機械的振動の最低状態とを、振動センサを用いて検出する工程と、前記最低状態に基づき、前記強誘電体の圧電性の消失、あるいは微弱状態の特定を行う工程と、を含む分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脱分極方法は、強誘電体の分極反転過程において、特定の分域構造で、前記強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態となる現象を利用することを特徴としている。前記強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態となる原因は、該強誘電体の分極反転に伴う分域成長で、各分域間に生じる競合状態であると考えられる。競合し合う各分域が互いの成長を制限するために、電界の変化に対して、分域構造が変化することができず、準安定状態となり、その結果として、圧電性が消失、あるいは微弱状態となると考えられるが、まだ不明の点は多い。なお、強誘電体の脱分極状態の厳密な規定はなく、本発明における脱分極状態とは、外部電圧の印加に対して、強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態を、安定して保持する状態であるとしている。
【0017】
ここで、後述の強誘電体における電圧印加時の機械的振動の発生について説明する。分極処理後の強誘電体は、圧電性と、残留分極とを有する。該残留分極により、該強誘電体は電気的に自己バイアスされた状態となり、該自己バイアスの状態は外部電界の印加により変化する。接続された負荷に対して電圧調整機能を有する電源を、分極反転に用いた場合では、電圧印加による前記自己バイアスの変化に伴い、印加電圧の変動と、リップル電流とが生じ、前記強誘電体の圧電性を介して、前記強誘電体の機械的振動が発生する。前記機械振動は、強誘電体の物性研究に用いられるアコーステック・エミッション(AE)測定において、ノイズ信号として観測されていた。前記機械振動は、微弱であるが、印加する電圧を0Vとした場合でも生じる。高感度振動測定が可能なAE測定では、前記機械的振動は容易に検出されるために、AE測定対象である強誘電体の内部で発生するAEの測定の障害となり、電圧印加部にローパスフィルタを用いる方法で、前記機械振動の除去が提案されている(非特許文献2)。本発明者は、強誘電体におけるAE測定技術と、強誘電体の分域反転に伴うAE発生現象との詳細な研究から、強誘電体の分極反転中の特定分域状態で、前述の外部電界印加により生じる機械振動が最低値となることを見出した。さらに研究を続け、前記特定分域状態において、該強誘電体の圧電性自体が消失、あるいは微弱状態となることと、該消失、あるいは微弱状態が、外部電界を取り除いた後にも継続することを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
本発明の脱分極方法によれば、電圧印加による強誘電体の分極反転過程中に、前記強誘電体を脱分極状態とすることが可能であり、前述の双極性パルス電圧、あるいは交流電圧を用いた従来の脱分極方法のように、複数回の分極反転と、電圧の繰り返し印加との必要がない、必要最小限の分極反転による、消費電力と、強誘電体へのダメージとを抑えた、効率的かつ効果的な、強誘電体の脱分極方法を提供することができる。さらに、本発明の脱分極方法により、強誘電体部を電極間に介在させてなる強誘電体デバイスにおいて、前記強誘電体部の脱分極状態を繰り返し利用することが容易となり、前記強誘電体部の分極状態の、圧電歪と、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、前記強誘電体部の脱分極状態の、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを併せ持ち、脱分極状態から分極状態へ変化したときに生じる前記強誘電体部の残留歪を歪保持に利用することが可能な、多機能・高機能化された強誘電体デバイスを提供することができる。すなわち、本発明は強誘電体を応用した強誘電体デバイスの多機能・高機能化に大きな効果を有するものである。
【0019】
【非特許文献2】H. Aburatani and K. Uchino,“Acoustic Emission (AE) Measurement Technique inPiezoelectric Ceramics”Japanese Journal of Applied Physics, 35, 516-518(1996)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】強誘電体の電界(E)に対する分極(P)と電界誘起歪(ΔL/L)特性を示す概念図である。
【図2】本発明にかかる脱分極処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】本発明にかかる強誘電体の脱分極方法の一例を示す図である。(実施例1)
【図4】本発明にかかる分極反転中の印加電界と、振動センサの出力とを表す図である。(実施例1)
【図5】本発明にかかる脱分極処理中の印加電界と、振動センサの出力とを表す図である。(実施例1)
【図6】分極処理時のPZT単板と、本発明による脱分極処理後のPZT単板とに生じる、印加電界に対する変位を表す図である。(実施例1)
【図7】印加電圧および、脱分極処理前のPZT単板と、本発明による脱分極処理後のPZT単板とに生じる変位を表す図である。(実施例1)
【図8】脱分極処理前と、脱分極処理後とのPZT単板に生じる物性量の変化を表す図である。(実施例1)
【図9】本発明にかかる強誘電体デバイスの脱分極処理の一例を示す図である。(実施例2)
【図10】本発明にかかる強誘電体デバイスの脱分極処理中の検出信号と、AE測定信号とを示す図である。(実施例2)
【図11】本発明による脱分極処理後のユニモルフ型圧電アクチュエータの先端変位を表す図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2は本発明にかかる脱分極処理の流れを示すフローチャート図である。(1)まず脱分極処理の対象となる強誘電体の、分極反転中の圧電性のレベルを測定し(ステップS1)、該レベルの最低値に基づき、前記強誘電体の圧電性の目標消失レベル値を設定する(ステップS2)。次に、前記強誘電体の分極方向と逆方向の電界が印加されるように設定された、電圧を印加して分極反転を行い(ステップS3)、分極反転中の前記強誘電体の圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に到達するまで、分極反転を行うための電圧印加を続ける(ステップS4)。前記圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達した場合に、前記分極反転を行うための電圧印加を停止する(ステップS5)。(2)一方、圧電性のレベルが、前記電圧の印加中に最低値を経て、前記目標消失レベル値以上であると判定(ステップS6)された場合には、前記分極反転のための電圧印加を停止し(ステップS7)、前記電界と逆向きの電界が印加されるように設定された電圧を印加する(ステップS8)。さらに、前記強誘電体の圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達するまで、前記電圧の印加を行い(ステップS9)、圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した場合に、前記電圧の印加を停止する(ステップS10)。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図3は本発明にかかる強誘電体の脱分極方法を実施する脱分極装置の一例(実施例1)を示す。本発明の特徴とする構成は、脱分極装置に強誘電体の圧電性を検出する手段が備えられた点にある。
【0023】
本実施例の強誘電体1は、厚さ0.4mm、直径10mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体1の表裏主面には厚さ1μmの銀電極2,3が形成されている。さらに、強誘電体1は、図1に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。また、電極3の電極表面上に振動センサ4を圧接させている。電源5のプラス側を電極2に、電源5のマイナス側を電極3に接続する。振動センサ4は増幅器6に接続され、増幅器6から出力される電圧信号は、コントローラ7に入力される。さらにコントローラ7は電源5に接続されている。
【0024】
次に、電源5の電圧を上昇(例えば1.0kV/sec)させて、強誘電体1の分極反転を行う。前記電圧の印加中、振動センサ4(例えばAEセンサ)は、強誘電体1の圧電性により生じる、強誘電体1の前記機械的振動を、電圧信号に変換し、該電圧信号は増幅器6で一定の増幅率(例えば80dB)で増幅された後、コントローラ7に入力される。コントローラ7は、前記電圧信号の振幅に基づき、強誘電体1の圧電性のレベルを検出する。さらに、該圧電性のレベルの最低値に基づき、強誘電体1の圧電性の目標消失レベル値を設定する。次に、分極反転中の強誘電体1の圧電性が、前記目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ7は、電源5の電圧印加を停止させる。
【0025】
比較例として、コントローラ7をOFFとしたときの、印加電圧(例えば±800Vの三角波)と前記電圧信号を図4に示す。なお、該印加電圧と該電圧信号はオシロスコープで測定されているが、図2中には描かれていない。前記電圧信号は、前記印加電圧が±480Vになるときに、バックグランドノイズ(BGN)レベルの最小値(例えば0.30V)となり、該最小値に対応する前記強誘電体の分域構造が、圧電性の消失、あるいは微弱状態となる。前記最小値以外の状態では、0Vを含む電圧印加中、前記機械振動が検出されており、該強誘電体が圧電性を有していることがわかる。
【0026】
次に、前記圧電性のレベルの最低値に基づき、前記電圧信号における圧電性の目標消失レベル値(例えば0.35V)を設定し、コントローラ7をONとしたときの、分極反転中の前記印加電圧と前記電圧信号を図5に示す。前記電圧信号が前記目標消失レベル値以下に達したときに、コントローラ7は前記分極反転のための電圧印加を停止する。前記電圧信号は、前記電圧の低下中途と、0Vに戻した状態とにおいても、前記目標消失レベル値以下の状態を維持し、強誘電体1の脱分極状態が継続していることが確認される。なお、前記目標消失レベル値が、前記圧電性のレベルの最小値に近いほど、より圧電性のレベルの低い、脱分極状態が得られる。
【0027】
本発明よる脱分極処理を施した前記PZT単板の単極性印加電圧に対する電界誘起変位と、前記PZT単板の分極処理時における電界誘起変位とを図6に示す。前記脱分極処理を施したPZT単板において、印加電圧が、前記圧電性が消失、あるいは微弱状態となる電圧まで、変位が誘起されないことがわかる。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留変位に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では0.20μmの残留歪が生じ、分極状態と脱分極状態との間に生じる0.45μmの残留変位の差を変位保持に用いることが可能である。
【0028】
さらに、図7に示すように、前記目標消失レベル値以下を達成した印加電圧以下の単極性電圧(例えば400V)の繰り返し印加に対しても、前記脱分極処理を施したPZT単板では、変位は誘起されず、脱分極状態が達成されていることが確認される。
【0029】
図8に、脱分極処理前の前記PZT単板の物性量を1としたときの、脱分極処理前と、本発明による脱分極処理後との,前記PZT単板の物性量の比較図を示す。前記PZT単板の変位測定から求めた圧電定数は、脱分極処理前の430pC/Nから、脱分極処理後に変位が生じない0pC/Nへと極端な変化している。同様に、分極反転に伴う反転電流の計測から求めた残留分極は、脱分極処理前の30μC/cm2から、1μC/cm2以下へと変化し、脱分極が効果的に行われていることがわかる。また、比誘電率εは脱分極処理前の2150から、1550へと25%以上の低減を示し、該低減の原因は、前記競合する分域構造のために、分域構造が変化することができず、誘電的応答が制限されるためと想像される。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留歪に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では、0.20μmの残留変位が生じ、分極処理時に生じる残留歪の約70%の0.45μmの変位が繰り返し利用可能となる。さらに、焦電性も、前記残留分極の減少に対応して、分極時の焦電性の値の4%以下と大幅に減少している。
【0030】
以上の結果から、本発明による脱分極方法では、必要最小限の強誘電体の分極反転により、消費電力と、強誘電体へのダメージとを抑えた、実際的な脱分極処理が可能であることがわかる。さらに、強誘電体デバイスにおいては、本発明による脱分極方法により、強誘電体部の脱分極状態を繰り返し利用することが容易となり、前記強誘電体部の分極状態の、圧電性と、残留歪と、誘電率と、分極値と、焦電性と、弾性率とに加え、前記強誘電体部の脱分極状態の、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを併せ持ち、脱分極状態から分極状態へ変化したときに生じる前記強誘電体部の残留歪を、歪保持に利用することが可能な、多機能・高機能化された強誘電体デバイスが達成可能であることがわかる。
【0031】
なお、前記目標消失レベル値以下の圧電性のレベルが、前記最小値に達する前に、達成された場合の分域状態は、脱分極処理後の繰り返し印加電界により、反転可能な分域が減少するため、前記圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に近づけることができる。
【0032】
また、前記圧電性のレベルが、電界の印加中に、前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合の分域状態においては、前記分極反転を行う電界の印加を停止し、前記分極反転を行う電界と逆向きの電界を印加することで、前記分域状態を圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に戻し、前記圧電性のレベルを前記目標消失レベル値以下の状態にすることができる。
【0033】
これらの結果から、本発明による強誘電体の脱分極方法においては、該強誘電体の圧電性のレベルが最低値なる直前の状態から、該最低値までに対応する分域構造を、該強誘電体に導入することが望ましい。
【0034】
強誘電体の圧電性の検出に用いる前記振動センサは、AEセンサに限定されるものではなく、接触型、あるいは、非接触型の種々の振動センサの使用が可能である。さらに、前記検出を行う前記強誘電体の部位は、前記強誘電体の表裏主面に限定されものではなく、前記強誘電体の側端部、あるいは前記強誘電体に弾性的に接続された弾性体の振動を、前記振動センサにより検出しても良い。また、強誘電体へ流入する電流変化を測定することで、圧電性検出を行っても良い。さらに、強誘電体の分極反転時の反転電流に基づく流入電荷量を、圧電性の消失、あるいは微弱状態に対応させることで、圧電性の消失、あるいは微弱状態を特定しても良い。さらに、印加電圧値と分域状態との関係を予め実験的に求めておき、印加電圧値から、圧電性の消失、あるいは微弱状態を、予測するようにしても良い。
【0035】
前述の強誘電体1の圧電性の検出に用いる振動は、電源5からの前記リップル電流に限定されるものではなく、分極反転を行うための電圧信号に、前記電圧信号の振幅値と、周波数とに比べて、小振幅値と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳した電圧信号を使用することが可能である。さらに、前記振動励起用電圧信号は正弦波、方形波、のこぎり波など種々の電圧信号が可能である。また、前記強誘電体は単板形に限定されたものではなく、積層体、あるいは、基板上に形成された強誘電体であっても良い。
【0036】
強誘電体1の圧電性のレベルの前記目標消失レベル値以下の状態は、前記印加電圧の最大値で達成される必要はなく、前記印加電圧の電圧信号波形と、印加時間とに基づき、前記印加電圧を減じる過程中に達成されても良い。
【0037】
強誘電体1の強誘電体材料は、チタン酸バリウム(BT系)を主成分とする材料、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT系)を主成分とする材料、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)を主成分とする材料、ジルコン酸ランタン鉛(PLZT系)を主成分とする材料、チタン酸鉛を主成分とする材料、更にはこれらの複合材料等が好適に用いられる。
【実施例2】
【0038】
図9は本発明にかかる強誘電体デバイスの一例(実施例2)を示す。本実施例ではユニモルフ型圧電アクチュエータの脱分極処理が行われる。前記ユニモルフ型圧電アクチュエータにおいて、強誘電体21は厚さ0.3mm、直径25mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体21は、図7に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。強誘電体21の表裏主面には厚さ1μmの電極22、23、24が形成されている。電極24の直径は3.0mmであり、強誘電体部21の一方の主面全面に形成された電極を、機械研磨加工により設けられた幅1.0mmの溝により、分割して電極22と、24とが形成される。さらに、厚さ0.3mmm、直径30mmの金属シム28が、電極23の表面上に貼り付けてあり、前記強誘電体デバイスはユニモルフ型圧電アクチュエータの構造を有する。電極24と電極23とが、増幅器26に接続され、増幅器26からの電圧信号はコントローラ27に入力される。さらに、コントローラ27は電源25に接続されている。
【0039】
ここで、電極24と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「検出部」と称する)は、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「主要部」と称する)の圧電性の検出に用いられる。強誘電体部21は、予め、電極22と電極23との間と、電極24と電極23との間に、電圧を印加することで分極されている。なお、前記主要部の分極方向と前記検出部の分極方向は、同じでなくても良い。また、電極24の形成方法は、機械研磨加工に限定されるものではなく、真空蒸着法、焼付け電極などの種々の分割電極形成方法が可能である。また、前記電極23を前記検出部と前記主要部との共通電極とする必要はなく、個別に形成された電極を前記検出部と前記主要部に用いても良い。
【0040】
次に、前記主要部の圧電性の検出方法と、脱分極処理とについて説明する。前記電圧の印加中、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の分極反転が生じるが、電極24は電源25と接続されていないために、検出部の分極状態は維持される。前記主要部の圧電性により生じる、前述機械的振動は、強誘電体部21を介して検出部に伝搬し、前記検出部の圧電性により、電圧信号に変換される。該電圧信号は増幅器26(例えばオペアンプ)で一定の増幅率(例えば60dB)で増幅された後、コントローラ27に入力される。コントローラ27で、前記電圧信号(以下、検出信号と称する)の振幅に基づき、前記主要部の圧電性のレベルと、該レベルの最低値とを検出する。さらに、前記検出信号の最低値に基づき、主要部の圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する。前記圧電性のレベルが目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ27は電源25の電圧印加を停止させる。具体的には、前記検出信号の振幅が目標消失レベル値以下のレベル(例えば0.45V)に達した時に、電源25の電圧印加を停止させる。
【0041】
図10に本実施例2における脱分極処理時の、増幅器26で増幅された前記検出信号と、比較例として、前記主要部の圧電性を前記AEセンサを用いて測定した場合の電圧信号(以下、AE測定信号と称する)との結果を示す。
【0042】
前記検出信号は、前記AE測定信号において圧電性のレベルが最小値となる230V付近で、前記目標消失レベル値以下のレベルに達する。この結果から、前記主要部の圧電性のレベルの最低値を、前記検出信号で特定することが可能であることがわかる。
【0043】
図11に前記検出信号を用いて脱分極処理を施した場合の、前記ユニモルフ型圧電アクチュエータの電圧印加に対する先端変位を示す。実施例1の場合と同様に、分極処理を施した前記ユニモルフ型圧電アクチュエータは、前記230Vを閾値電圧として、該閾値電圧以上の電圧印加に対して、急激な変位を生じる。さらに、電圧を0Vとした場合に、脱分極状態から約160μmの変位保持を続けることが可能であり、機械式高耐圧リレースイッチなどに応用することが考えられる。
【0044】
本実施例では、強誘電体デバイスの強誘電体部の一部分を用いて前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサが、該強誘電体デバイス中に、構成された。前記振動センサを用いた脱分極処理の結果は、前記AEセンサを用いた場合と同等であり、以上の結果から、強誘電体部の一部分を用いて、種々の強誘電体デバイス内に前記圧電性の消失、あるいは微弱状態を検出する振動センサを容易に構成することが可能であることがわかる。
【0045】
なお、本実施例においては、ユニモルフ型圧電アクチュエータを例にとって説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であり、脱分極温度(Td)以下で、圧電デバイスと、焦電デバイスと、容量性強誘電デバイスと、強誘電体メモリデバイスとを含む、全ての強誘電体デバイスに本発明による脱分極方法の実施が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 強誘電体
2、3、22、23、24 電極
4 振動センサ
5、25 電源
6、26 増幅器
7、27 コントローラ
21 強誘電体部
28 金属シム
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体デバイスに使用される、分極処理された強誘電体を脱分極する方法、特に外部印加電界による脱分極方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体は自発分極方向が同じとなる分域を有し、外部電界印加により、該分域の構造が変化する。この反転可能な自発分極の存在により、強誘電体は高い誘電率と、焦電性と、圧電性と、残留分極とを有する。強誘電体が圧電性を得るためには、前記分極を電界印加方向に優勢的に配向させる、分極処理が必要であり、通常、高電界の印加を行う。
【0003】
電界(E)に対する分極(P)と電界誘起歪(ΔL/L)の関係を、図1の強誘電体の概念図に示す。分極処理前の未分極状態では強誘電体に電界誘起歪は発生ぜず、ある閾値電界以上で分域が電界方向にそろいはじめ、自発分極と、電界誘起歪とが検出される。分極方向と印加電界方向が同じである場合には、電界誘起歪と分極とは印加電界とともに増大するが、分極方向と印加電界方向が逆である場合には、歪と分極とは電界とともに減少するが、途中の抗電界(Ec)で反転が生じ、P−Eヒステリシス曲線とバタフライ形の電界誘起歪曲線とが得られる。分極処理後の強誘電体は、電界印加方向に優勢的分極成分を有するために、図1に示すように、残留分極と残留歪が生じる。分極処理した強誘電体圧の電界誘起歪は、圧電歪と呼ばれ、外部電界を取り除いた場合は、圧電歪は残留歪点に戻るために、強誘電体の歪を保持するためには、電圧印加を続けなくてはならず、消費電力の増大が問題となっている。
【0004】
前述の歪保持における消費電力量の問題に対し、強誘電体に状態保持のメモリ機能を付与する電界インプリント方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、前記電界インプリント方法では、強誘電体の100℃以上の昇温加熱処理と、1時間以上の高電界印加工程とが必要なために、該工程中における強誘電体へのダメージの発生が問題となる。
【0005】
また、前述の歪保持における消費電力量の問題に対し、強誘電体の分極処理前後に発生する、残留歪の繰り返し利用が考えられるが、この場合では、分極処理後の強誘電体を未分極状態にする、脱分極処理(あるいは、「消分極処理」と呼ばれるが、以下、「脱分極処理」を使用する)が必要となる。前記脱分極処理には、強誘電体を脱分極温度(Td)以上に加熱する熱的脱分極方法のほか、強磁性体の消磁処理と同様に、振幅を下げながら双極性パルスないし、交流電圧を印加する電気的脱分極方法が提案されている。(特許文献2、非特許文献1)
【0006】
しかしながら、前記熱的脱分極方法では、強誘電体デバイスの昇温加熱ユニットによる構造の複雑化と、消費電力の増大と、排熱処理との問題が生じる。さらに、前記電気的脱分極方法では、電圧印加による強誘電体の分極反転回数の増大のために、該強誘電体へのダメージの加速と、消費電力増大とのデメリットが生じる。そのため、前記熱的脱分極方法と、前記電気的脱分極方法とは殆ど実際的ではなく、強誘電体デバイスにおいて、分極処理後の強誘電体の圧電歪と、誘電率と、分極状態と、弾性率とが利用されている。ここで、強誘電体デバイスとは、強誘電体を応用したすべてのデバイスのことをいい、圧電デバイスと、焦電性デバイスと、容量性強誘電体デバイスと、強誘電体メモリデバイスとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開2008−85194公報
【特許文献2】特許公開2002−74940公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. J. Higgins, A.Krishnan, M. M. J. Treacy, and S. Bhattacharya, “Depoling a ferroelectric capacitor,”Applied Physics Letters, 80, 3373-3375 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の電気的脱分極方法では、前述強誘電体へのダメージの加速と、消費電力増大とのデメリットが生じるため、前述強誘電体デバイスおける、所定の圧電歪、あるいは、誘電率を保持する手段として、脱分極状態を利用することが困難であり、実際的に脱分極状態を繰り返し利用する強誘電体デバイスの実現ができなかった。そのため、従来の強誘電体デバイスでは、分極処理後の強誘電体の圧電性と、誘電率と、分極値と、弾性率とが利用されている。
【0010】
そこで、本発明は前述問題点に鑑み、強誘電体の必要最小限の分極反転による、消費電力と、強誘電体へのダメージとを低減した、効率的かつ効果的な、強誘電体の脱分極方法を提供する。さらに、前記脱分極方法により、強誘電体の分極状態の残留歪と、圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、脱分極状態の圧電歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを備える多機能化・高機能化された強誘電体デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的達成するために、請求項1記載の本発明は、分極処理が行われた強誘電体の脱分極方法において、前記強誘電体の圧電性を検出する手段を具備し、前記強誘電体の自発分極方向と逆向きの電界印加による分極反転を行う工程と、前記圧電性を検出する手段を用いて、前記分域反転中における前記強誘電体の圧電性のレベルと、該レベルの最小値とを、検出する工程と、前記圧電性のレベルの最小値に基づき、前記圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する工程と、前記分域反転中の前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、を含む強誘電体の脱分極方法を提供する。
【0012】
請求項2記載の本発明は、前記圧電性のレベルが、分極反転中に前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、前記分極反転を行うための電界に対して、逆向きの電界を印加する工程と、前記逆向きの電界の印加中に、前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記逆向きの電界の印加を停止する工程と、を含む請求項1に記載の強誘電体の脱分極方法を提供する。
【0013】
請求項3記載の本発明は、少なくとも1対の電極間に、強誘電体部を介在させてなる強誘電体デバイスであって、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の脱分極方法により、該強誘電体部が部分的、あるいは、全体的に脱分極状態とされていることを特徴とする強誘電体デバイスを提供する。
【0014】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の強誘電体デバイスであって、前記強誘電体部の一部分が、該一部分以外の前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサを構成していることを特徴とする強誘電体デバイスを提供する。
【0015】
請求項5記載の本発明は、分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法において、前記分極反転を行う印加電圧信号に、該印加電圧信号に比べて、小振幅と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳し、該振動励起用電圧信号により前記強誘電体の機械的振動を励起する工程と、前記機械的振動と、該機械的振動の最低状態とを、振動センサを用いて検出する工程と、前記最低状態に基づき、前記強誘電体の圧電性の消失、あるいは微弱状態の特定を行う工程と、を含む分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脱分極方法は、強誘電体の分極反転過程において、特定の分域構造で、前記強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態となる現象を利用することを特徴としている。前記強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態となる原因は、該強誘電体の分極反転に伴う分域成長で、各分域間に生じる競合状態であると考えられる。競合し合う各分域が互いの成長を制限するために、電界の変化に対して、分域構造が変化することができず、準安定状態となり、その結果として、圧電性が消失、あるいは微弱状態となると考えられるが、まだ不明の点は多い。なお、強誘電体の脱分極状態の厳密な規定はなく、本発明における脱分極状態とは、外部電圧の印加に対して、強誘電体の圧電性が消失、あるいは微弱状態を、安定して保持する状態であるとしている。
【0017】
ここで、後述の強誘電体における電圧印加時の機械的振動の発生について説明する。分極処理後の強誘電体は、圧電性と、残留分極とを有する。該残留分極により、該強誘電体は電気的に自己バイアスされた状態となり、該自己バイアスの状態は外部電界の印加により変化する。接続された負荷に対して電圧調整機能を有する電源を、分極反転に用いた場合では、電圧印加による前記自己バイアスの変化に伴い、印加電圧の変動と、リップル電流とが生じ、前記強誘電体の圧電性を介して、前記強誘電体の機械的振動が発生する。前記機械振動は、強誘電体の物性研究に用いられるアコーステック・エミッション(AE)測定において、ノイズ信号として観測されていた。前記機械振動は、微弱であるが、印加する電圧を0Vとした場合でも生じる。高感度振動測定が可能なAE測定では、前記機械的振動は容易に検出されるために、AE測定対象である強誘電体の内部で発生するAEの測定の障害となり、電圧印加部にローパスフィルタを用いる方法で、前記機械振動の除去が提案されている(非特許文献2)。本発明者は、強誘電体におけるAE測定技術と、強誘電体の分域反転に伴うAE発生現象との詳細な研究から、強誘電体の分極反転中の特定分域状態で、前述の外部電界印加により生じる機械振動が最低値となることを見出した。さらに研究を続け、前記特定分域状態において、該強誘電体の圧電性自体が消失、あるいは微弱状態となることと、該消失、あるいは微弱状態が、外部電界を取り除いた後にも継続することを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
本発明の脱分極方法によれば、電圧印加による強誘電体の分極反転過程中に、前記強誘電体を脱分極状態とすることが可能であり、前述の双極性パルス電圧、あるいは交流電圧を用いた従来の脱分極方法のように、複数回の分極反転と、電圧の繰り返し印加との必要がない、必要最小限の分極反転による、消費電力と、強誘電体へのダメージとを抑えた、効率的かつ効果的な、強誘電体の脱分極方法を提供することができる。さらに、本発明の脱分極方法により、強誘電体部を電極間に介在させてなる強誘電体デバイスにおいて、前記強誘電体部の脱分極状態を繰り返し利用することが容易となり、前記強誘電体部の分極状態の、圧電歪と、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とに加え、前記強誘電体部の脱分極状態の、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを併せ持ち、脱分極状態から分極状態へ変化したときに生じる前記強誘電体部の残留歪を歪保持に利用することが可能な、多機能・高機能化された強誘電体デバイスを提供することができる。すなわち、本発明は強誘電体を応用した強誘電体デバイスの多機能・高機能化に大きな効果を有するものである。
【0019】
【非特許文献2】H. Aburatani and K. Uchino,“Acoustic Emission (AE) Measurement Technique inPiezoelectric Ceramics”Japanese Journal of Applied Physics, 35, 516-518(1996)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】強誘電体の電界(E)に対する分極(P)と電界誘起歪(ΔL/L)特性を示す概念図である。
【図2】本発明にかかる脱分極処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】本発明にかかる強誘電体の脱分極方法の一例を示す図である。(実施例1)
【図4】本発明にかかる分極反転中の印加電界と、振動センサの出力とを表す図である。(実施例1)
【図5】本発明にかかる脱分極処理中の印加電界と、振動センサの出力とを表す図である。(実施例1)
【図6】分極処理時のPZT単板と、本発明による脱分極処理後のPZT単板とに生じる、印加電界に対する変位を表す図である。(実施例1)
【図7】印加電圧および、脱分極処理前のPZT単板と、本発明による脱分極処理後のPZT単板とに生じる変位を表す図である。(実施例1)
【図8】脱分極処理前と、脱分極処理後とのPZT単板に生じる物性量の変化を表す図である。(実施例1)
【図9】本発明にかかる強誘電体デバイスの脱分極処理の一例を示す図である。(実施例2)
【図10】本発明にかかる強誘電体デバイスの脱分極処理中の検出信号と、AE測定信号とを示す図である。(実施例2)
【図11】本発明による脱分極処理後のユニモルフ型圧電アクチュエータの先端変位を表す図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2は本発明にかかる脱分極処理の流れを示すフローチャート図である。(1)まず脱分極処理の対象となる強誘電体の、分極反転中の圧電性のレベルを測定し(ステップS1)、該レベルの最低値に基づき、前記強誘電体の圧電性の目標消失レベル値を設定する(ステップS2)。次に、前記強誘電体の分極方向と逆方向の電界が印加されるように設定された、電圧を印加して分極反転を行い(ステップS3)、分極反転中の前記強誘電体の圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に到達するまで、分極反転を行うための電圧印加を続ける(ステップS4)。前記圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達した場合に、前記分極反転を行うための電圧印加を停止する(ステップS5)。(2)一方、圧電性のレベルが、前記電圧の印加中に最低値を経て、前記目標消失レベル値以上であると判定(ステップS6)された場合には、前記分極反転のための電圧印加を停止し(ステップS7)、前記電界と逆向きの電界が印加されるように設定された電圧を印加する(ステップS8)。さらに、前記強誘電体の圧電性のレベルが、前記目標消失レベル値以下に達するまで、前記電圧の印加を行い(ステップS9)、圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した場合に、前記電圧の印加を停止する(ステップS10)。
【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図3は本発明にかかる強誘電体の脱分極方法を実施する脱分極装置の一例(実施例1)を示す。本発明の特徴とする構成は、脱分極装置に強誘電体の圧電性を検出する手段が備えられた点にある。
【0023】
本実施例の強誘電体1は、厚さ0.4mm、直径10mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体1の表裏主面には厚さ1μmの銀電極2,3が形成されている。さらに、強誘電体1は、図1に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。また、電極3の電極表面上に振動センサ4を圧接させている。電源5のプラス側を電極2に、電源5のマイナス側を電極3に接続する。振動センサ4は増幅器6に接続され、増幅器6から出力される電圧信号は、コントローラ7に入力される。さらにコントローラ7は電源5に接続されている。
【0024】
次に、電源5の電圧を上昇(例えば1.0kV/sec)させて、強誘電体1の分極反転を行う。前記電圧の印加中、振動センサ4(例えばAEセンサ)は、強誘電体1の圧電性により生じる、強誘電体1の前記機械的振動を、電圧信号に変換し、該電圧信号は増幅器6で一定の増幅率(例えば80dB)で増幅された後、コントローラ7に入力される。コントローラ7は、前記電圧信号の振幅に基づき、強誘電体1の圧電性のレベルを検出する。さらに、該圧電性のレベルの最低値に基づき、強誘電体1の圧電性の目標消失レベル値を設定する。次に、分極反転中の強誘電体1の圧電性が、前記目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ7は、電源5の電圧印加を停止させる。
【0025】
比較例として、コントローラ7をOFFとしたときの、印加電圧(例えば±800Vの三角波)と前記電圧信号を図4に示す。なお、該印加電圧と該電圧信号はオシロスコープで測定されているが、図2中には描かれていない。前記電圧信号は、前記印加電圧が±480Vになるときに、バックグランドノイズ(BGN)レベルの最小値(例えば0.30V)となり、該最小値に対応する前記強誘電体の分域構造が、圧電性の消失、あるいは微弱状態となる。前記最小値以外の状態では、0Vを含む電圧印加中、前記機械振動が検出されており、該強誘電体が圧電性を有していることがわかる。
【0026】
次に、前記圧電性のレベルの最低値に基づき、前記電圧信号における圧電性の目標消失レベル値(例えば0.35V)を設定し、コントローラ7をONとしたときの、分極反転中の前記印加電圧と前記電圧信号を図5に示す。前記電圧信号が前記目標消失レベル値以下に達したときに、コントローラ7は前記分極反転のための電圧印加を停止する。前記電圧信号は、前記電圧の低下中途と、0Vに戻した状態とにおいても、前記目標消失レベル値以下の状態を維持し、強誘電体1の脱分極状態が継続していることが確認される。なお、前記目標消失レベル値が、前記圧電性のレベルの最小値に近いほど、より圧電性のレベルの低い、脱分極状態が得られる。
【0027】
本発明よる脱分極処理を施した前記PZT単板の単極性印加電圧に対する電界誘起変位と、前記PZT単板の分極処理時における電界誘起変位とを図6に示す。前記脱分極処理を施したPZT単板において、印加電圧が、前記圧電性が消失、あるいは微弱状態となる電圧まで、変位が誘起されないことがわかる。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留変位に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では0.20μmの残留歪が生じ、分極状態と脱分極状態との間に生じる0.45μmの残留変位の差を変位保持に用いることが可能である。
【0028】
さらに、図7に示すように、前記目標消失レベル値以下を達成した印加電圧以下の単極性電圧(例えば400V)の繰り返し印加に対しても、前記脱分極処理を施したPZT単板では、変位は誘起されず、脱分極状態が達成されていることが確認される。
【0029】
図8に、脱分極処理前の前記PZT単板の物性量を1としたときの、脱分極処理前と、本発明による脱分極処理後との,前記PZT単板の物性量の比較図を示す。前記PZT単板の変位測定から求めた圧電定数は、脱分極処理前の430pC/Nから、脱分極処理後に変位が生じない0pC/Nへと極端な変化している。同様に、分極反転に伴う反転電流の計測から求めた残留分極は、脱分極処理前の30μC/cm2から、1μC/cm2以下へと変化し、脱分極が効果的に行われていることがわかる。また、比誘電率εは脱分極処理前の2150から、1550へと25%以上の低減を示し、該低減の原因は、前記競合する分域構造のために、分域構造が変化することができず、誘電的応答が制限されるためと想像される。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留歪に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では、0.20μmの残留変位が生じ、分極処理時に生じる残留歪の約70%の0.45μmの変位が繰り返し利用可能となる。さらに、焦電性も、前記残留分極の減少に対応して、分極時の焦電性の値の4%以下と大幅に減少している。
【0030】
以上の結果から、本発明による脱分極方法では、必要最小限の強誘電体の分極反転により、消費電力と、強誘電体へのダメージとを抑えた、実際的な脱分極処理が可能であることがわかる。さらに、強誘電体デバイスにおいては、本発明による脱分極方法により、強誘電体部の脱分極状態を繰り返し利用することが容易となり、前記強誘電体部の分極状態の、圧電性と、残留歪と、誘電率と、分極値と、焦電性と、弾性率とに加え、前記強誘電体部の脱分極状態の、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを併せ持ち、脱分極状態から分極状態へ変化したときに生じる前記強誘電体部の残留歪を、歪保持に利用することが可能な、多機能・高機能化された強誘電体デバイスが達成可能であることがわかる。
【0031】
なお、前記目標消失レベル値以下の圧電性のレベルが、前記最小値に達する前に、達成された場合の分域状態は、脱分極処理後の繰り返し印加電界により、反転可能な分域が減少するため、前記圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に近づけることができる。
【0032】
また、前記圧電性のレベルが、電界の印加中に、前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合の分域状態においては、前記分極反転を行う電界の印加を停止し、前記分極反転を行う電界と逆向きの電界を印加することで、前記分域状態を圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に戻し、前記圧電性のレベルを前記目標消失レベル値以下の状態にすることができる。
【0033】
これらの結果から、本発明による強誘電体の脱分極方法においては、該強誘電体の圧電性のレベルが最低値なる直前の状態から、該最低値までに対応する分域構造を、該強誘電体に導入することが望ましい。
【0034】
強誘電体の圧電性の検出に用いる前記振動センサは、AEセンサに限定されるものではなく、接触型、あるいは、非接触型の種々の振動センサの使用が可能である。さらに、前記検出を行う前記強誘電体の部位は、前記強誘電体の表裏主面に限定されものではなく、前記強誘電体の側端部、あるいは前記強誘電体に弾性的に接続された弾性体の振動を、前記振動センサにより検出しても良い。また、強誘電体へ流入する電流変化を測定することで、圧電性検出を行っても良い。さらに、強誘電体の分極反転時の反転電流に基づく流入電荷量を、圧電性の消失、あるいは微弱状態に対応させることで、圧電性の消失、あるいは微弱状態を特定しても良い。さらに、印加電圧値と分域状態との関係を予め実験的に求めておき、印加電圧値から、圧電性の消失、あるいは微弱状態を、予測するようにしても良い。
【0035】
前述の強誘電体1の圧電性の検出に用いる振動は、電源5からの前記リップル電流に限定されるものではなく、分極反転を行うための電圧信号に、前記電圧信号の振幅値と、周波数とに比べて、小振幅値と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳した電圧信号を使用することが可能である。さらに、前記振動励起用電圧信号は正弦波、方形波、のこぎり波など種々の電圧信号が可能である。また、前記強誘電体は単板形に限定されたものではなく、積層体、あるいは、基板上に形成された強誘電体であっても良い。
【0036】
強誘電体1の圧電性のレベルの前記目標消失レベル値以下の状態は、前記印加電圧の最大値で達成される必要はなく、前記印加電圧の電圧信号波形と、印加時間とに基づき、前記印加電圧を減じる過程中に達成されても良い。
【0037】
強誘電体1の強誘電体材料は、チタン酸バリウム(BT系)を主成分とする材料、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT系)を主成分とする材料、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)を主成分とする材料、ジルコン酸ランタン鉛(PLZT系)を主成分とする材料、チタン酸鉛を主成分とする材料、更にはこれらの複合材料等が好適に用いられる。
【実施例2】
【0038】
図9は本発明にかかる強誘電体デバイスの一例(実施例2)を示す。本実施例ではユニモルフ型圧電アクチュエータの脱分極処理が行われる。前記ユニモルフ型圧電アクチュエータにおいて、強誘電体21は厚さ0.3mm、直径25mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体21は、図7に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。強誘電体21の表裏主面には厚さ1μmの電極22、23、24が形成されている。電極24の直径は3.0mmであり、強誘電体部21の一方の主面全面に形成された電極を、機械研磨加工により設けられた幅1.0mmの溝により、分割して電極22と、24とが形成される。さらに、厚さ0.3mmm、直径30mmの金属シム28が、電極23の表面上に貼り付けてあり、前記強誘電体デバイスはユニモルフ型圧電アクチュエータの構造を有する。電極24と電極23とが、増幅器26に接続され、増幅器26からの電圧信号はコントローラ27に入力される。さらに、コントローラ27は電源25に接続されている。
【0039】
ここで、電極24と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「検出部」と称する)は、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「主要部」と称する)の圧電性の検出に用いられる。強誘電体部21は、予め、電極22と電極23との間と、電極24と電極23との間に、電圧を印加することで分極されている。なお、前記主要部の分極方向と前記検出部の分極方向は、同じでなくても良い。また、電極24の形成方法は、機械研磨加工に限定されるものではなく、真空蒸着法、焼付け電極などの種々の分割電極形成方法が可能である。また、前記電極23を前記検出部と前記主要部との共通電極とする必要はなく、個別に形成された電極を前記検出部と前記主要部に用いても良い。
【0040】
次に、前記主要部の圧電性の検出方法と、脱分極処理とについて説明する。前記電圧の印加中、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の分極反転が生じるが、電極24は電源25と接続されていないために、検出部の分極状態は維持される。前記主要部の圧電性により生じる、前述機械的振動は、強誘電体部21を介して検出部に伝搬し、前記検出部の圧電性により、電圧信号に変換される。該電圧信号は増幅器26(例えばオペアンプ)で一定の増幅率(例えば60dB)で増幅された後、コントローラ27に入力される。コントローラ27で、前記電圧信号(以下、検出信号と称する)の振幅に基づき、前記主要部の圧電性のレベルと、該レベルの最低値とを検出する。さらに、前記検出信号の最低値に基づき、主要部の圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する。前記圧電性のレベルが目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ27は電源25の電圧印加を停止させる。具体的には、前記検出信号の振幅が目標消失レベル値以下のレベル(例えば0.45V)に達した時に、電源25の電圧印加を停止させる。
【0041】
図10に本実施例2における脱分極処理時の、増幅器26で増幅された前記検出信号と、比較例として、前記主要部の圧電性を前記AEセンサを用いて測定した場合の電圧信号(以下、AE測定信号と称する)との結果を示す。
【0042】
前記検出信号は、前記AE測定信号において圧電性のレベルが最小値となる230V付近で、前記目標消失レベル値以下のレベルに達する。この結果から、前記主要部の圧電性のレベルの最低値を、前記検出信号で特定することが可能であることがわかる。
【0043】
図11に前記検出信号を用いて脱分極処理を施した場合の、前記ユニモルフ型圧電アクチュエータの電圧印加に対する先端変位を示す。実施例1の場合と同様に、分極処理を施した前記ユニモルフ型圧電アクチュエータは、前記230Vを閾値電圧として、該閾値電圧以上の電圧印加に対して、急激な変位を生じる。さらに、電圧を0Vとした場合に、脱分極状態から約160μmの変位保持を続けることが可能であり、機械式高耐圧リレースイッチなどに応用することが考えられる。
【0044】
本実施例では、強誘電体デバイスの強誘電体部の一部分を用いて前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサが、該強誘電体デバイス中に、構成された。前記振動センサを用いた脱分極処理の結果は、前記AEセンサを用いた場合と同等であり、以上の結果から、強誘電体部の一部分を用いて、種々の強誘電体デバイス内に前記圧電性の消失、あるいは微弱状態を検出する振動センサを容易に構成することが可能であることがわかる。
【0045】
なお、本実施例においては、ユニモルフ型圧電アクチュエータを例にとって説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であり、脱分極温度(Td)以下で、圧電デバイスと、焦電デバイスと、容量性強誘電デバイスと、強誘電体メモリデバイスとを含む、全ての強誘電体デバイスに本発明による脱分極方法の実施が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 強誘電体
2、3、22、23、24 電極
4 振動センサ
5、25 電源
6、26 増幅器
7、27 コントローラ
21 強誘電体部
28 金属シム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極処理が行われた強誘電体の脱分極方法において、前記強誘電体の圧電性を検出する手段を具備し、前記強誘電体の自発分極方向と逆向きの電界印加による分極反転を行う工程と、前記圧電性を検出する手段を用いて、前記分域反転中における前記強誘電体の圧電性のレベルと、該レベルの最小値とを、検出する工程と、前記圧電性のレベルの最小値に基づき、前記圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する工程と、前記分域反転中の前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、を含む強誘電体の脱分極方法。
【請求項2】
前記圧電性のレベルが、分極反転中に前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、前記分極反転を行うための電界に対して、逆向きの電界を印加する工程と、前記逆向きの電界の印加中に、前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記逆向きの電界の印加を停止する工程と、を含む請求項1に記載の強誘電体の脱分極方法。
【請求項3】
少なくとも1対の電極間に、強誘電体部を介在させてなる強誘電体デバイスであって、請求項1ないし2のいずれかに記載の脱分極方法により、前記強誘電体部が部分的、あるいは全体的に、脱分極処理されていることを特徴とする強誘電体デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の強誘電体デバイスであって、前記強誘電体部の一部分が、該一部分以外の前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサを構成していることを特徴とする強誘電体デバイス。
【請求項5】
分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法において、前記分極反転を行う印加電圧信号に、該印加電圧信号に比べて、小振幅と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳し、該振動励起用電圧信号により前記強誘電体の機械的振動を励起する工程と、前記機械的振動と、該機械的振動の最低状態とを、振動センサを用いて検出する工程と、前記最低状態に基づき、前記強誘電体の圧電性の消失、あるいは微弱状態の特定を行う工程と、を含む分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法。
【請求項1】
分極処理が行われた強誘電体の脱分極方法において、前記強誘電体の圧電性を検出する手段を具備し、前記強誘電体の自発分極方向と逆向きの電界印加による分極反転を行う工程と、前記圧電性を検出する手段を用いて、前記分域反転中における前記強誘電体の圧電性のレベルと、該レベルの最小値とを、検出する工程と、前記圧電性のレベルの最小値に基づき、前記圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する工程と、前記分域反転中の前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、を含む強誘電体の脱分極方法。
【請求項2】
前記圧電性のレベルが、分極反転中に前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合に、前記分極反転を行うための電界の印加を停止する工程と、前記分極反転を行うための電界に対して、逆向きの電界を印加する工程と、前記逆向きの電界の印加中に、前記圧電性のレベルが前記目標消失レベル値以下に達した時に、前記逆向きの電界の印加を停止する工程と、を含む請求項1に記載の強誘電体の脱分極方法。
【請求項3】
少なくとも1対の電極間に、強誘電体部を介在させてなる強誘電体デバイスであって、請求項1ないし2のいずれかに記載の脱分極方法により、前記強誘電体部が部分的、あるいは全体的に、脱分極処理されていることを特徴とする強誘電体デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の強誘電体デバイスであって、前記強誘電体部の一部分が、該一部分以外の前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサを構成していることを特徴とする強誘電体デバイス。
【請求項5】
分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法において、前記分極反転を行う印加電圧信号に、該印加電圧信号に比べて、小振幅と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳し、該振動励起用電圧信号により前記強誘電体の機械的振動を励起する工程と、前記機械的振動と、該機械的振動の最低状態とを、振動センサを用いて検出する工程と、前記最低状態に基づき、前記強誘電体の圧電性の消失、あるいは微弱状態の特定を行う工程と、を含む分極反転中の強誘電体における圧電性の消失、あるいは微弱状態の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−249421(P2011−249421A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118656(P2010−118656)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
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