説明

弾性丸編地

【課題】運動追従性に極めて優れ、身体の動きとほぼ同じように動くことができることによって身体の筋肉等をサポートして運動機能向上に寄与し、さらに着用による型崩れの生じ難い衣服の材料として使用できる、伸長性及び伸長回復性に優れる弾性丸編地の提供を目的とする。
【解決手段】非弾性糸と弾性糸とで構成されるシングル丸編地において、弾性糸の混率が28質量%以上であり、緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスが20%以下であることを特徴とする弾性丸編地を提供する。該弾性丸編地においては、ループ数が6000以上12000以下であり、かつループ比が1.9以上2.8以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸長性及び伸長回復性に優れる弾性丸編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ショーツやガードル、ブラジャーなどの身体にフィットするインナー、又はスポーツ用の身体にフィットするアンダーシャツ等として、シングル丸編機を使用して製造され弾性糸を含有する丸編地が多く使用されている(特許文献1参照)。上記丸編地を用いたインナーでは着用感が良好で、また身体の補型性を高めることができる。さらに、上記丸編地を用いたスポーツウェアとしては、締め付け作用による身体機能の向上を目標として種々の製品が販売されている。これらに使用されるシングル丸編機による編地として、ベア天と称される弾性糸の裸糸に、ポリエステル等の相手糸を添え糸編(プレーティング編)により天竺組織を編成した丸編地が主に使用されている。しかしこれらベア天は伸縮性には優れるが伸長回復性は総じて良好ではなく、該ベア天を用いた製品は、着用時に伸長された編地が完全に元に戻らず弛んだ状態となる、いわゆるワライ現象が生じて見映えの良くない商品であった。また、身体機能向上を狙ったスポーツ商品では、例えば長袖商品を着用した場合に腕の曲げ伸ばしにより肘部が飛び出してくる状態となるなどの型崩れが生じるという問題や、運動追従性が悪く衣服が筋肉の動きと一体化しないことにより身体機能向上効果が低いという問題があり、該スポーツ商品は身体機能向上を狙った衣服としては不十分なものであった。
【0003】
【特許文献1】特開平3−19946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、締め付け感(又はフィット感)が良好であるとともに、運動追従性に極めて優れ、身体の動きとほぼ同じように動くことができることによって身体の筋肉等をサポートして運動機能向上に寄与することができ、さらに、着用による型崩れが生じ難い衣服の製造に使用できる、伸長性及び伸長回復性に優れる弾性丸編地を提供する必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく新しい構造の編地や着用テストなどを鋭意検討した結果、以下の手段(1)及び(2)により上記の課題が解決されることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
(1)非弾性糸と弾性糸とで構成されるシングル丸編地において、弾性糸の混率が28質量%以上であり、緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスが20%以下であることを特徴とする弾性丸編地。
【0007】
(2)ループ数が6000以上12000以下であり、かつループ比が1.9以上2.8以下であることを特徴とする上記(1)に記載の弾性丸編地。
【発明の効果】
【0008】
本発明の弾性丸編地は、伸長性及び伸長回復性に優れるため、例えば身体にフィットするインナー又はスポーツ用の衣服等の用途において、締め付け感(又はフィット感)等の着用感が良好であるとともに、運動追従性に極めて優れ、身体の動きとほぼ同じように動くことができることによって身体の筋肉等をサポートして運動機能向上に寄与することができ、さらに肘抜けや膝抜け等の編地変形による型崩れも発生し難い、着用感と見映えの優れた衣服の材料として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において弾性糸とはゴム状弾性を有する糸を意味する。弾性糸としては、ポリウレタン系、ポリエーテルエステル系等の弾性を有する糸を1種又は2種以上組合せて使用可能である。例えば、ポリウレタン系弾性糸では、乾式紡糸又は溶融紡糸したものが使用できる。弾性糸の原料ポリマーの種類や紡糸方法は特に限定されない。弾性糸はカバリング糸、混繊糸、交絡糸等であってもよいが、丸編地における伸長回復性能を良好に保つためには弾性糸をそのまま用いる(ベア糸使い)ことが好ましい。
【0010】
弾性糸の破断伸度は400%以上1000%以下であることが好ましい。破断伸度が400%未満である場合には弾性丸編地の伸長性が低くなる傾向があり、1000%を超える場合には弾性丸編地を例えばインナーやスポーツ用衣服に使用した際の締め付け感が低くなる傾向がある。弾性糸は、伸縮性に優れるとともに、例えば染色加工時のプレセット工程の通常処理温度である180℃近辺でも実質的に伸縮性を損なわない程度の耐熱性を有することが好ましい。
【0011】
弾性糸としては、抗菌性や、吸湿性、吸水性等の機能性を付与した糸も使用可能である。
【0012】
弾性糸の太さは、ニットループを形成する弾性糸として問題なく容易に編成できる点で、例えば10dt(デシテックス、以下同じ記号を使用する)以上200dt以下が好ましく、30dt以上160dt以下がより好ましい。
【0013】
本発明の弾性丸編地で、弾性糸と組合せる非弾性糸については特別な制限はなく、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリトリメチレンテレフタレート、アクリル等の合成繊維、綿、羊毛、麻等の天然繊維、及びキュプラ、レーヨン等の半合成繊維が使用できる。特に、ポリエステル、ナイロン、ポリトリメチレンテレフタレート等の合成繊維を使用する場合、寸法安定性の良い編地となり、綿、キュプラ、レーヨン等を使用する場合、吸水性、吸湿性の良い編地となる。
【0014】
非弾性糸としては、1種の繊維からなる糸を1種のみ使用してもよいが、混紡糸、混繊糸、交撚糸等を用いてもよく、また、編機上での交編等により2種以上の糸を使用してもよい。
【0015】
使用する非弾性糸の糸形態については任意であるが、弾性丸編地の伸長回復性を一層向上させることができる点で、フィラメント糸(長繊維)の形態が好ましく、スパン糸(紡績糸)を用いる場合はなるべく毛羽が少なく短い方が好ましい。また、非弾性糸の断面形状としては、丸断面の他、三角形やW型の異型断面等も可能である。
【0016】
非弾性糸の太さは、例えば20dt以上120dt以下が好ましく、30dt以上90dt以下がより好ましい。弾性丸編地に薄地性、軽量性を求める場合にはなるべく細い糸を使用することが好ましく、強度向上を求める場合にはなるべく太い糸を使用することが好ましい。
【0017】
本発明によるシングル丸編地とは、シリンダーのみで編成される丸編地であって主にシングル丸編機で編成され、シリンダーとダイアルとで編成されるダブル丸編地は本発明には含まれない。編機のゲージは任意に選択可能であり、24ゲージ以上40ゲージ以下が好ましく、さらに28ゲージ以上36ゲージ以下がより好ましい。
【0018】
本発明の弾性丸編地は、非弾性糸と弾性糸とで構成されるシングル丸編地であり、典型的には非弾性糸と弾性糸とをプレーティング編により編成する。本発明の弾性丸編地は、弾性糸の混率が28質量%以上となるよう設計する。弾性糸を含有する通常のシングル丸編地において、弾性糸の混率は10%未満であるのが一般的であり、この程度の混率では丸編地の伸長回復性能は不十分であったが本発明による弾性丸編地の弾性糸混率は極めて高い。本発明においては、弾性糸の混率を高めることによって弾性丸編地に優れた伸長性及び伸長回復性を付与でき、例えば弾性丸編地を用いて衣服を製造した際に良好な締め付け感及び運動追従性が得られる。弾性糸の混率が28質量%未満の場合、上記の良好な締め付け感が得られず、また上記衣服に付与される運動追従性が十分ではない。弾性糸の混率は、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。一方、弾性糸の混率が例えば70質量%以下の場合、弾性丸編地を用いて例えば衣服を製造する際に、寸法安定性、吸水性、吸湿性等の用途に応じた性能を容易かつ良好に付与でき好ましい。弾性糸の混率は、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
弾性糸の混率を28質量%以上とするための手段としては、弾性糸と非弾性糸との太さ選択及び弾性糸のドラフト調整が重要なものとして挙げられる。例えば、編成時における弾性糸のドラフトを2.0以上4.5以下、より好ましくは2.0以上4.0以下、特に好ましくは2.2以上3.5以下とし、この条件内で弾性糸の混率が28質量%以上となるように弾性糸と非弾性糸との太さを選択することが好ましい。なお、本発明における弾性糸のドラフト、つまり、弾性糸の非弾性糸に対する編込み長比は、下記式(1)により求められる。
【0020】
弾性糸のドラフト=非弾性糸の編込み長÷弾性糸の編込み長 (1)
【0021】
本発明の弾性丸編地においては、弾性糸の混率が28質量%以上であり、かつ、緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスが20%以下である。該ヒステリシスロスはより好ましくは15%以下である。ヒステリシスロスを低減することは、弾性丸編地の伸長回復性の改善に寄与し、該弾性丸編地を例えば衣服に用いた場合の、締め付け感及び運動追従性の向上及び型崩れの抑制につながる。すなわち、弾性糸の混率及び編地のヒステリシスロスを特定の範囲とした本発明の弾性丸編地を例えば衣服に使用した場合、締め付け感、運動追従性、型崩れのし難さなどの効果を達成できる。非弾性糸と弾性糸とを単にプレーティング編して得られる通常の弾性丸編地においては一般に上記ヒステリシスロスが30%以上であり、このような編地を使用した衣服は運動追従性が低いために人体の動きに合致せず身体(特に筋肉)のサポート効果が低いものとなる。
【0022】
弾性糸の混率が28質量%以上であり、かつ緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスが20%以下である本発明の弾性丸編地を得るための主な手段としては、使用する非弾性糸及び弾性糸に応じて編地のループ数及びループ比を設計することが挙げられる。本発明においては、ループ数が6000以上12000以下、ループ比が1.9以上2.8以下となるよう編地設計することが好ましい。また染色加工時にコースとウェールとのバランスを考慮して仕上げることが好ましい。ループ数は8000以上11000以下であることがより好ましく、ループ比は2.2以上2.7以下であることがより好ましい。ループ数が6000未満の場合及びループ比が1.9未満の場合には、ヒステリシスロスが大きくなって編地の伸長回復性が低くなる傾向がある。一方、ループ数が12000を超える場合及びループ比が2.8を超える場合には、編地の風合いが硬くなる傾向があり、さらにヒステリシスロスが大きくなって編地の伸長回復性が低くなる傾向がある。
【0023】
本発明において、ループ数及びループ比は、編地を20℃、65%RHの環境下で机上に24時間放置して、2.54cm(1インチ)あたりのコース数及びウェール数を計測した上で、下記式(2)及び(3)により求められる。
【0024】
ループ数=コース数×ウェール数 (2)
ループ比=コース数÷ウェール数 (3)
【0025】
また、本発明で規定する「緯方向における50%伸長時のヒステリシスロス」とは、弾性丸編地の緯方向の引張試験において、伸長率80%までの往路応力及び復路応力を測定し、伸長率50%時での往路応力と復路応力との測定値から、下記式(4)で求められる値である。
【0026】
ヒステリシスロス(%)=((伸長率50%での往路応力)−(伸長率50%での復路応力))÷(伸長率50%での往路応力)×100 (4)
【0027】
本発明の弾性丸編地の染色加工方法としては、通常の染色仕上げ工程を採用できる。染色条件は使用する弾性糸の相手素材である非弾性糸に応じて任意に選択でき、使用する染色機は液流染色機、ウインス染色機など任意に選択できる。染色仕上げ工程の例としては、生機をそのままプレセットした後で染色機に投入し、精練、染色を行った後仕上げセットを行う方法、又は、生機をウェットリラックス処理し、プレセットした後染色を行い、ファイナルセットを行う方法など、任意な染色仕上げ工程を採用できる。また、本発明の弾性丸編地では、特に編地のコースとウェールとのバランスを調整することが好ましいため、プレセット時に多少無理な巾出し、編地追込み等を行う場合があるとしても、ほぼ目標密度に設定することが好ましい。その後、染色を行い、仕上セットではシワ取り程度の緊張セットとなるように設定することにより、本発明の目的とする弾性丸編地が良好に得られるとともに、該弾性丸編地の寸法変化等の問題を回避できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を詳述する。無論、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
なお、実施例における評価は以下の測定方法により行った。
【0030】
(i)編地のヒステリシスロス
引張試験機を使用し、2.5cm巾で10cmの把持間隔で把持した編地を引張速度300mm/分で伸長し、伸長率80%までの往路応力、復路応力を測定し、伸長率50%時での往路応力と、伸長率50%時での復路応力とを測定し、緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスを下記式(4)により求めた。
【0031】
ヒステリシスロス(%)=((伸長率50%での往路応力)−(伸長率50%での復路応力))÷(伸長率50%での往路応力)×100 (4)
【0032】
(ii)着用型崩れ性
実施例で作製した弾性丸編地を用いて身体にフィットするテニスシャツを縫製し、2時間テニスをした後脱衣し、特に肘部の編地の型崩れ(変形)の有無を、また、肘部の編地が変形したシャツについては脱衣後に手で揉んで変形が無くなるか否かを加味して、以下の基準で目視判定した。実用上問題がないのは下記の基準で3以上である。
【0033】
5 : 型崩れが全く無い
4 : 若干肘部に型崩れが生じているが気にならない
3 : 肘部が変形しているが、揉むと変形が解消する
2 : 肘部の変形が大きく、かなり揉まないと元に戻らない
1 : 肘部の変形が甚だしく、かなり揉んでもほとんど元に戻らない
【0034】
[実施例1]
28ゲージのシングル丸編機を使用して、非弾性糸としてのナイロン44dt/34f(フィラメント:以下同じ記号使用)と、弾性糸としてのスパンデックス78dt(旭化成せんい製、商標名ロイカ)とを、弾性糸のドラフト2.8にて編成した。
【0035】
この編成条件で得られた編地を、連続式精練機を使用して90℃で精練した後、190℃45秒にてプレセットし、該プレセット後に液流染色機で100℃にて30分間染色を行った。この後、仕上セット前にニッカシリコン AMZ−3(日華化学(株)製) 0.5%水溶液に浸漬し、絞り率80%になるようマングルで絞ってからピンテンターで170℃45秒にて仕上セットを行い、160コース/インチ×62ウェール/インチの密度で、弾性丸編地を製造した。
【0036】
得られた弾性丸編地につき、編地の50%伸長時のヒステリシスロスを測定した。また得られた弾性丸編地でテニスシャツを縫製し、着用試験を行って着用型崩れ性を評価した。50%伸長時のヒステリシスロス及び着用試験の結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2〜9、比較例1〜2]
非弾性糸及び弾性糸の太さ、編成時の弾性糸のドラフト、仕上性量(すなわちループ数及びループ比)を表1に示すように変更した他は実施例1と同じ方法で、弾性糸の混率、コースとウェールとの積、コースとウェールとの比を変更した弾性丸編地、及びこれを用いたテニスシャツを製造し、実施例1と同様の評価を行った。50%伸長時のヒステリシスロス及び着用試験の結果を表1に示す。
【0038】
[実施例10]
32ゲージのシングル丸編機を使用して、非弾性糸としてのカチオン可染ポリエステル33dt/24fと、弾性糸としてのスパンデックス78dt(旭化成せんい製、商標名ロイカ)とを、弾性糸のドラフト3.0にて編成した。
【0039】
この編成条件で得られた編地を、連続式精練機を使用して90℃で精練した後、190℃45秒にてプレセットし、該プレセット後に液流染色機で100℃にて30分間染色を行った。この後、仕上セット前にニッカシリコン AMZ−3(日華化学(株)製) 0.5%水溶液に浸漬し、絞り率80%になるようマングルで絞ってからピンテンターで170℃45秒にて仕上セットを行い165コース/インチ×64ウェール/インチの密度で、弾性丸編地を製造した。
【0040】
得られた弾性丸編地につき、編地の50%伸長時のヒステリシスロスを測定した。また得られた弾性丸編地でテニスシャツを縫製し、着用試験を行って着用型崩れ性を評価した。50%伸長時のヒステリシスロス及び着用試験の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の弾性丸編地を使用することにより、例えば身体にフィットするインナー又はスポーツ用の衣服等の用途において、着用感が良好であるとともに、運動追従性に優れ、運動機能向上に寄与することができ、さらに着用による型崩れが発生し難い、着用感と見映えの優れた衣服を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性糸と弾性糸とで構成されるシングル丸編地において、弾性糸の混率が28質量%以上であり、緯方向における50%伸長時のヒステリシスロスが20%以下であることを特徴とする弾性丸編地。
【請求項2】
ループ数が6000以上12000以下であり、かつループ比が1.9以上2.8以下であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性丸編地。

【公開番号】特開2009−174099(P2009−174099A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16633(P2008−16633)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】