説明

弾薬用容器

【課題】通常時における落下強度及び気密性を保持しながらも、容器内部において火薬類が発火した非常時には容器の爆発を避けられる弾薬用容器を提供する。
【解決手段】有底円筒状の容器本体10と、該容器本体10の開口を塞ぐ蓋体11とを有する。容器本体10の筒部10aは、金属長板が螺旋状に巻回されてその両側縁同士を接合することで、螺旋状に延在する接合部10bを有する円筒状に形成されている。筒部10aには、軸方向に延びる長孔10cが内外貫通状に穿設されている。長孔10cは、封止材20によって封止されている。そのうえで、長孔10c及び封止材20の外面は、金属性のカバー部材21によって覆われていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばりゅう弾砲用発射装薬や火砲用弾薬の梱包容器などとして利用される円筒状の弾薬用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
りゅう弾砲用発射装薬等に使用される弾薬用容器とは、細かい粒状の発射薬を装填した複数個の発射装薬を梱包して、運搬したり弾薬庫に保管する際に一時的に使用する金属容器のことである。発射装薬をりゅう弾砲等の薬室に挿入する際には、弾薬用容器は取り除かれる。一方、火砲用弾薬の分野でいう弾薬用容器はミサイル等の外装に使用され、モータケースとも呼ばれる。ミサイルは、弾薬用容器の内面にライナーを貼り付け、その内側に推進薬を注型して一体化させたものであり、キャニスタと称される収納容器に収納して潜水艦等に搭載されるものである。そのため、梱包容器として使用される弾薬用容器は、ミサイルが発射されるまで推進薬と一体化した状態のまま保管される。一般に、りゅう弾砲用発射装薬や火砲用弾薬等に使用される梱包容器としての弾薬用容器は、運用面を配慮して一定以上の落下強度と気密性を有する構造となっている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
近年、りゅう弾砲用発射薬や火砲用弾薬は、平和貢献活動に基づく海外への派遣活動を理由に保管及び運用時における良好な取り扱い性が求められるようになってきている。火砲用弾薬や発射薬の取り扱い評価方法として、米国のITOP(International Test Operations Procedure)やSTANAG(Standardization Agreement、NATO規格)などで試験方法が規格化されている。これらの規格の中で運用面での取り扱い性を評価する試験項目としては、落下試験、クックオフ試験、殉爆試験及び銃撃感度試験が規定されている。このような規定を満たすために、りゅう弾砲用発射装薬や火砲用弾薬用の弾薬用容器には強固な落下強度と高い気密性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−226031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の弾薬用容器では、容器内部に収容された弾薬や発射装薬を構成する火薬類が発火した場合、高い気密性を有する弾薬用容器内において火薬類の燃焼反応が生じるので、弾薬用容器自体が弾薬のように爆発してしまい、周囲の人員や機材などに多大な被害や損失を与える事態が発生する。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、通常時における落下強度及び気密性を保持しながらも、容器内部において火薬類が発火した非常時には容器の爆発を避けられ、周囲の被害を抑制できる弾薬用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として本発明は、有底円筒状の容器本体と、該容器本体の開口を塞ぐ蓋体とを有する弾薬用容器であって、前記容器本体の筒部は、金属長板が螺旋状に巻回されてその両側縁同士を接合することで、螺旋状に延在する接合部を有する円筒状に形成されている。前記筒部には、軸方向に延びる長孔が内外貫通状に穿設されており、前記長孔は、封止材によって封止されている。そのうえで、前記長孔及び封止材の外面は、金属性のカバー部材によって覆われていることを特徴とする。なお、封止材は、長孔の内面又は外面のどちら側から封止してもよい。
【0008】
これによれば、容器本体を金属製としながら、容器本体の開口を蓋体で塞いでいるので、従来と同様に本来的な落下強度及び気密性を有する。そのうえで、軸方向に延在する長孔を穿設していることで、仮に容器内部において火薬類が発火した場合には、当該長孔から燃焼ガス等を外部へ排出することができ、容器の内圧上昇を緩和できる。以って容器の爆破を避けて周囲への被害を防ぐことができる。当該長孔は、通常時は封止材によって封止されているので、通常時における気密性は維持される。一方、容器内の火薬類が発火した非常時は、封止材は容器の内圧上昇に伴い破れたり剥がれたりする。
【0009】
さらに、長孔及び封止材が金属製のカバー部材によって覆われているので、長孔を設けたことによる強度低下の問題なく、弾薬用容器の落下強度を担保することができる。すなわち、容器本体の筒部へ単に爆発回避用の長孔を設けただけでは、当該長孔部分における強度が低下してしまい、ここに落下衝撃が加わると変形し易くなる問題が生じる。封止材を設けているとしても、単に封止するための部材だけでは、十分な強度を担保できない。そこで、長孔及び封止材を金属製のカバー部材によって覆うことで、十分な落下強度を担保することができる。
【0010】
なお、前記カバー部材には、複数個の通気孔を内外貫通状に穿設することが好ましい。これにより、容器内部において火薬類が発火した場合の燃焼ガス等を確実に外部へ排出することができると共に、弾薬用容器の軽量化にも有利である。
【0011】
また、前記封止材又は長孔と前記カバー部材とは離間させておくことが好ましい。詳しくは、長孔の外面に封止材を配した場合は封止材とカバー部材とが、長孔の内面に封止材を配した場合は長孔とカバー部材とが、離間している。これにより、容器内部において火薬類が発火した場合の非常時に、確実に封止材が破れたり剥がれたりして燃焼ガスを排出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の弾薬用容器によれば、通常時における落下強度及び気密性を保持しながらも、容器内部において火薬類が発火した非常時には容器の爆発を避けられ、周囲の被害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】弾薬用容器の斜視図である。
【図2】弾薬用容器の分解斜視図である。
【図3】弾薬用容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の代表的な実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の弾薬用容器(以下、単に容器と称すことがある)は、有底円筒状の容器本体10と、該容器本体10の開口を塞ぐ蓋体11とを有し、内部に複数個の弾薬(図示せず)が直列に並べて装填されるようになっている。弾薬(発射薬)としては、シングルベース発射薬、ダブルベース発射薬、トリプルベース発射薬、マルチベース発射薬等が用いられる。符号12・13は、それぞれ容器本体10の軸方向端部において容器本体10の外面を囲むように設けられた、補強用のリムである。
【0015】
容器本体10は金属製であり、その筒部10aは長尺状の金属長板が螺旋状に巻回されてその両側縁同士が突き合わされ、シーム溶接などにより接合されることで円筒状に形成されている。したがって、容器本体10の筒部10aには、軸方向に延びる螺旋状の接合部10bを有する。接合部10bは、容器本体10の底面に対して20〜40°程度の角度で螺旋状に延びている。金属板の材質は特に限定されず、従来からこの種の弾薬用容器に使用されている金属の全てが使用できる。中でも、剛性の高い鋼板が好ましい。
【0016】
蓋体11はカップ状であり、弾薬用容器内を密閉できるものであれば、その材料は特に制限されない。例えば容器本体10と同様の金属製とするほか、プラスチック製、繊維強化プラスチック製、樹脂含浸紙製、又はゴム製とすることも可能である。蓋体11は、容器本体10の開口へ圧入又は螺合により嵌合される。
【0017】
両リム12・13も容器本体10と同様の金属製であり、容器本体10の外面へ溶接されている。両リム12・13の外周面形状は円形であり、直径は同一である。弾薬用容器を横倒し状態にしたとき、両リム12・13が地面に接して支点となり容器本体10は直接地面に接しないことで、容器本体10の破損防止に有利となっている。
【0018】
図2に示すように、容器本体10の筒部10aには、軸方向に延びる長孔10cが内外貫通状に穿設されている。当該長孔10cを有することにより、弾薬用容器内において弾薬が発火したときに長孔10cを介して燃焼ガスを弾薬用容器外へ放出することで内圧上昇を抑制でき、弾薬用容器の爆発を回避することができる。
【0019】
長孔10cの穿設本数は1本でもよいが、複数本(例えば2〜15本程度)設けることが好ましい。長孔10cの長さも、穿設本数に応じて適宜設定すればよい。例えば、長孔10cの穿設本数が比較的少ない(例えば1〜3本程度)場合は長寸にし、長孔10cの穿設本数が比較的多い(例えば4本以上)場合は短寸にすることもできる。また、長孔10cを複数本穿設する場合は、容器本体10の周方向に等間隔で設けることが好ましい。燃焼ガスを効率良く外部へ放出できるからである。また、長孔10cは基本的には直線状とされるが、湾曲状や螺旋状に形成することもできる。また、長孔10cは容器本体10の軸方向(中心軸)と平行に設けてもよいし、容器本体10の軸方向(中心軸)とは若干ズレた斜めに設けることもできる。本実施形態では、図2,3に示すように、容器本体10の軸方向両端部に亘る長寸な直線状の長孔10cを、容器本体10の軸方向(中心軸)から若干ズレた斜めに形成して、筒部10aへ対向状に2本設けている。
【0020】
筒部10aの外周面には、長孔10cを外面から封止するように板状の封止材20が接合されている。封止材20は、長孔10cの開口面積より大寸であり、長孔10cの外周部において容器本体10へ接着ないし溶接等によって接合されている。封止材20は、容器本体10よりも強度が低い素材からなる。弾薬用容器内において弾薬が発火した際に、内圧上昇に伴って他の部位よりも優先的に破損されなければならないためである。すなわち、長孔10c及び封止材20は、脆弱部と称すこともできる。例えば、鉄鋼製の容器本体10に対して、封止材20はアルミニウムや銅などの軟質金属製、又はポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂製とする。封止材20は、テープ状でもよいし、板状でもよい。
【0021】
そのうえで、全ての長孔10c及び封止材20の外面は、それぞれ金属性のカバー部材21によって覆われている。これにより、通常時における長孔10c部分の強度を担保できる。カバー部材21はお盆状の長尺部材であって、容器本体10の外面へ溶接されている。また、カバー部材21には、複数個の通気孔21aが、長手方向に等間隔で内外貫通状に穿設されている。これにより、容器本体10の強度を維持しながら、非常時には通気孔21aを介して燃焼ガスを確実に外部へ放出できる。なお、図3によく示されるように、カバー部材21と封止材20とは、所定間隔を隔てて離間している。これにより、非常時に封止材20が積極的に破損し易くなっている。
【0022】
次に、上記構成の弾薬用容器の作用について説明する。弾薬用容器の運搬時や一時保管時等の取扱時において、衝撃や温度上昇等の原因により弾薬用容器内の弾薬が燃焼反応を引き起こした場合、発生する燃焼ガスによって弾薬用容器内の圧力が上昇する。すると、燃焼ガスの高い圧力により封止材20が他の部位に優先して破損することで長孔10cが開口され、燃焼ガスが長孔10c及びカバー部材21の通気孔21aを介して外部に放出される。これにより、弾薬用容器の内圧上昇が抑制されるので、弾薬用容器の爆発が回避される。
【0023】
なお、本発明の弾薬用容器では、上記実施形態より性能(封止材20の破損容易性)が劣るが、カバー部材21と封止材20又は長孔10cとは必ずしも離間させておく必要は無い。
【0024】
また、燃焼ガスを弾薬用容器外へ排出できる限り、カバー部材21へ必ずしも通気孔21aを設ける必要も無い。例えば、通気孔を有しないカバー部材21を、容器本体10の外面へ接着したりスポット溶接するなどによって接合力を比較的弱くしておき、非常時にはカバー部材21も封止材20と共に破損する構成とすることもできる。
【0025】
リム12・13も、必ずしも必要ない。
【符号の説明】
【0026】
10 容器本体
10a 筒部
10b 接合部
10c 長孔
11 蓋体
12・13 リム
20 封止材
21 カバー部材
21a 通気孔



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の容器本体と、該容器本体の開口を塞ぐ蓋体とを有する弾薬用容器であって、
前記容器本体の筒部は、金属長板が螺旋状に巻回されてその両側縁同士を接合することで、螺旋状に延在する接合部を有する円筒状に形成されており、
前記筒部には、軸方向に延びる長孔が内外貫通状に穿設されており、
前記長孔は、封止材によって封止されており、
前記長孔及び封止材の外面は、金属性のカバー部材によって覆われていることを特徴とする、弾薬用容器。
【請求項2】
前記カバー部材には、複数個の通気孔が内外貫通状に穿設されている、請求項1に記載の弾薬用容器。
【請求項3】
前記封止材又は長孔と前記カバー部材とは離間している、請求項1または請求項2に記載の弾薬用容器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44454(P2013−44454A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181084(P2011−181084)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【出願人】(593056082)大川工業株式会社 (3)