説明

形状矯正装置および形状矯正方法

【課題】断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の断面形状を真円に近づける処理を省力化すると共に、形状矯正処理に際して環状部材を損傷させてしまうのを抑制する。
【解決手段】形状矯正装置10は、環状部材50の外周面と当接可能に配置される第1ローラ11と、第1ローラ11を所定方向に回転させる第1モータM1と、環状部材50の外周面と当接して当該環状部材50を第1ローラ11と共に挟持できるように配置される第2ローラ12と、第2ローラ12を第1ローラ11と同方向に回転させる第2モータM2と、第1および第2ローラ11,12を互いに接近離間させるための流体圧シリンダ20とを含み、第1ローラ11の回転軸11aと第2ローラ12の回転軸12aとは、環状部材50が第1および第2ローラ11,12と逆方向に回転しながらコンベヤベルト101から上昇するように傾けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して当該環状部材の断面形状を真円に近づける形状矯正装置および形状矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無端ベルト状のストリップの矯正装置として、複数のドラムと、これらドラムのうちの少なくとも1つに設けられたテークアップ装置と、複数のドラムのうちの何れか1つに設けられた駆動装置と、複数のドラムに懸架される無端ストリップの軌道上に設けられたローラレベラとを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、従来から、金属エンドレスベルトの歪み除去装置として、平滑な円周面を有する割型と、当該割型の分割面を円周外方に分離するように設けられるクサビと、割型に着脱自在に取り付けられる拡大制止体とを有するものも知られている(例えば、特許文献2参照)。この歪み除去装置を用いて金属エンドレスベルトの歪みを除去する際には、割型の円周面に圧延加工された金属エンドレスベルトを嵌め込むと共に当該割型を外方に押し拡げて金属エンドレスベルトを緊張させ、この状態で全体を所定時間加熱した後、冷却されて自然収縮した金属エンドレスベルトを割型で支えてから脱型する。
【特許文献1】特開昭61−88060号公報
【特許文献2】特開昭49−95858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の矯正装置や歪み除去装置を用いて金属製の環状部材の形状を矯正する際には、作業員の手により環状部材を矯正装置のドラムに懸架したり、歪み除去装置の円周面に嵌め込んだりする必要がある。このため、例えばベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品として用いられる環状部材の製造に際し、鋼板製のドラムから切り出された後に所定の表面研磨処理が施されたことで断面略楕円状に変形した多数の環状部材を上記従来の矯正装置や歪み除去装置に類する装置を用いて形状矯正しようとすれば、多大な手間を要すると共に矯正装置等への装着時に環状部材を損傷させてしまうおそれもある。
【0004】
そこで、本発明は、断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して当該環状部材の断面形状を真円に近づけるための処理の省力化を図ると共に、形状矯正処理に際して環状部材を損傷させてしまうのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による形状矯正装置および形状矯正方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明による形状矯正装置は、
断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して該環状部材の断面形状を真円に近づける形状矯正装置であって、
所定の搬送手段により所定方向に搬送される前記環状部材の外周面と当接可能に配置される少なくとも1体の第1のローラと、
前記第1のローラを所定方向に回転させることができる第1の回転駆動手段と、
前記環状部材の外周面と当接して該環状部材を前記第1のローラと共に挟持することができるように配置される少なくとも1体の第2のローラと、
前記第2のローラを前記第1のローラと同方向に回転させることができる第2の回転駆動手段と、
前記第1のローラと前記第2のローラとを互いに接近離間させるローラ移動手段と、
前記環状部材が互いに同方向に回転する前記第1および第2のローラにより挟持・圧縮されながら該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転するように前記第1および第2の回転駆動手段と前記ローラ移動手段とを制御する制御手段とを備え、
前記第1のローラの回転軸と前記第2のローラの回転軸との少なくとも何れか一方は、前記環状部材が該第1および第2のローラと逆方向に回転しながら前記搬送手段の搬送面から上昇するように傾けられていることを特徴とする。
【0007】
この形状矯正装置を用いて断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正する際には、第1のローラと第2のローラとを所定の搬送手段により搬送される環状部材を挟持するように互いに接近させると共に同方向に回転させ、第1および第2のローラにより環状部材を挟持・圧縮しながら当該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転させる。これにより、断面略楕円状に変形した環状部材が第1および第2のローラにより挟持された状態で当該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転する間、環状部材の部位のうち、曲率の小さい部位ほど第1および第2のローラによる圧縮の作用を受けて環状部材の中心軸に向けて大きく変形することになる。従って、特に環状部材が断面略楕円状に変形したことで曲率が小さくなった部位に存在する環状部材の内部歪みを減少させて環状部材の断面形状をより真円に近づけることができる。更に、この形状矯正装置において、第1のローラの回転軸と第2のローラの回転軸との少なくとも何れか一方は、環状部材が当該第1および第2のローラと逆方向に回転しながら搬送路から上昇するように傾けられている。すなわち、環状部材を挟持・圧縮すべく第1および第2のローラを環状部材の外周面と当接させると、環状部材は、互いに同方向に回転する第1および第2のローラによりこれら第1および第2のローラとは逆方向に回転させられると共に、搬送手段の搬送面から離間するように上昇することになる。これにより、回転する第1および第2のローラにより環状部材を挟持・圧縮する間、環状部材が搬送面と接触した状態で回転するのを抑制することができる。この結果、この形状矯正装置によれば、人手により環状部材をドラムや型等に装着したり、人手により環状部材に曲げを加えたりする等の処理を廃して省力化を図りつつ、容易かつ速やかに断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の断面形状を真円に近づけると共に、形状矯正処理に際して環状部材を損傷させてしまうのを抑制することが可能となる。
【0008】
また、前記第1および第2のローラは、円柱状に形成されており、前記第1のローラの回転軸と前記第2のローラの回転軸との少なくとも何れか一方は、前記環状部材が該第1および第2のローラと逆方向に回転しながら前記搬送面から上昇するように鉛直方向に対して所定角度だけ傾けられていてもよい。
【0009】
更に、前記形状矯正装置は、前記環状部材の下側端面が前記搬送面と接触しない程度に該環状部材の上昇を規制する上昇規制手段を更に備えてもよい。これにより、環状部材の下側端面が搬送面と接触しないようにすると共に環状部材が必要以上に上昇するのを規制することが可能となり、第1および第2のローラによる環状部材の上下方向における挟持状態を良好に維持することができる。従って、かかる形状矯正装置によれば、環状部材を第1および第2のローラにより挟持・圧縮された状態で所望回数だけ回転させて環状部材の形状矯正処理を円滑に実行することが可能となる。
【0010】
また、前記形状矯正装置は、前記第1および第2のローラにより挟持されている前記環状部材が所定領域内に留まっているか否かを判定する判定手段を更に備えてもよく、前記制御手段は、前記判定手段により前記環状部材の一部が前記所定領域外にあると判断されたときに前記環状部材の全体が前記所定領域内に含まれるように前記第1のローラの回転速度と前記第2のローラの回転速度との少なくとも何れか一方を変化させるものであってもよい。これにより、搬送手段の搬送方向における第1および第2のローラによる環状部材の挟持状態を良好に維持することができるので、環状部材を第1および第2のローラにより挟持・圧縮された状態で所望回数だけ回転させて環状部材の形状矯正処理を円滑に実行することが可能となる。
【0011】
更に、前記環状部材は、鋼板製のドラムから切り出されると共に所定の表面研磨処理が施された薄肉の部材であり、全加工工程の完了後にベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品として用いられるものであってもよい。
【0012】
本発明による形状矯正方法は、
断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して該環状部材の断面形状を真円に近づける形状矯正方法であって、
少なくとも何れか一方の回転軸が鉛直方向に対して傾けられている第1のローラと第2のローラとを所定の搬送手段により搬送される前記環状部材を挟持するように互いに接近させると共に互いに同方向に回転させ、前記第1および第2のローラにより前記環状部材を挟持・圧縮しながら前記搬送手段の搬送面から上昇するように該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転させることを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、人手により環状部材をドラムや型等に装着したり、人手により環状部材に曲げを加えたりする等の処理を廃して省力化を図りつつ、容易かつ速やかに断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の断面形状を真円に近づけると共に、形状矯正処理に際して環状部材を損傷させてしまうのを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1および図2は、それぞれ本発明の一実施例に係る形状矯正装置10を示す概略構成図である。これらの図面に示す形状矯正装置10は、ベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品として用いられる金属製の環状部材50(図3参照)の形状矯正に用いられるものである。具体的には、実施例の形状矯正装置10は、鋼板製のドラムから切り出されると共に例えばバレル研磨といった所定の表面研磨処理が施されたことで断面略楕円状に変形した環状部材50の断面形状を真円に近づけるのに用いられるものであり、バレル研磨が施された多数の環状部材50を搬送する搬送コンベヤ100のコンベヤベルト101上に配置される。図1および図2に示すように、実施例の形状矯正装置10は、各1体の第1ローラ11および第2ローラ12と、第1ローラ11を回転させることができる第1モータM1(第1の回転駆動手段)と、第2ローラ12を回転させることができる第2モータM2(第2の回転駆動手段)と、第1ローラ11と第2ローラ12とを互いに接近離間させるための流体圧シリンダ(ローラ移動手段)20と、形状矯正装置10の全体を制御する制御装置(制御手段)30とを備える。
【0016】
第1ローラ11は、例えば樹脂等により円柱状に形成されると共に回転軸11aに固定されている。第1ローラ11の回転軸11aは、支持部材13に固定された軸受により回転自在に支持されると共に、直接あるいは図示しない伝動機構を介して支持部材13に固定された第1モータM1の回転軸に接続される。支持部材13は、コンベヤベルト101上を当該コンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向、図1および図2における白抜矢印参照)と直交する方向に進退移動可能に配置される。実施例では、コンベヤベルト101を挟んで互いに対向するように設置された支柱15を介して当該コンベヤベルト101上に2本のレール16rが平行に架設されており、支持部材13の下部には、対応したレール16rと共にいわゆるリニアガイドを構成する2個のスライダ16sが所定間隔を置いて互いに平行をなすように固定されている。そして、支持部材13は、第1ローラ11を吊り下げるようにして2本のレール16r上に摺動自在に配置される。
【0017】
同様に、第2ローラ12も、例えば樹脂等により第1ローラ11と同一寸法の円柱状に形成されると共に回転軸12aに固定されている。回転軸12aは、上記支持部材13と同様の構成をもった支持部材14(図2参照)に固定された軸受により回転自在に支持されると共に、直接あるいは図示しない伝動機構を介して支持部材14に固定された第2モータM2の回転軸に接続される。また、支持部材14も、コンベヤベルト101上を当該コンベヤベルト101の延在方向と直交する方向に進退移動可能に配置される。すなわち、支持部材14の下部にも、上記レール16rと共にいわゆるリニアガイドを構成する2個のスライダ16sが所定間隔を置いて互いに平行をなすように固定されている。そして、支持部材14は、上記支持部材13と隣り合うと共に第2ローラ12を第1ローラ11と対向するように吊り下げた状態で2本のレール16r上に摺動自在に配置される。
【0018】
流体圧シリンダ20は、例えばエアシリンダあるいは油圧シリンダであり、その一端部が支持部材13に固定されると共に、他端部が支持部材14に固定される。これにより、流体圧シリンダ20のロッドを伸縮(往復動作)させれば、図2に示すように、支持部材13と支持部材14とを、すなわち、第1ローラ11と第2ローラ12とをコンベヤベルト101の延在方向と直交する方向に互いに接近離間させることが可能となる。なお、レール16rあるいはコンベヤベルト101の周囲の適所には、支持部材13と支持部材14とを最接近させたとき(圧縮位置にあるとき)、および支持部材13と支持部材14とを最離間させたときに(待機位置にあるとき)両者(第1および第2ローラ11,12)とコンベヤベルト101の中心線を含む鉛直面との間隔が概ね等しくなるようにするための図示しない複数のストッパが配置されている。なお、流体圧シリンダ20の代わりに、電動アクチュエータや油圧アクチュエータを用いてもよい。
【0019】
ここで、実施例の形状矯正装置10では、環状部材50の形状矯正に際して、第1および第2ローラ11および12がそれぞれ上からみて反時計回りに基本的に同一の回転速度で回転するように第1モータM1または第2モータM2により回転駆動される(図2参照)。また、図1に示すように、実施例の第1ローラ11は、回転軸11aがその軸心を含むと共にコンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向)に延びる鉛直面(コンベヤベルト101の表面と直交する面)内において鉛直方向から時計回りに鋭角α(例えば3〜10°程度)だけ傾くように支持部材13により支持されている。更に、図1に示すように、実施例の第2ローラ12は、回転軸12aがその軸心を含むと共にコンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向)に延びる鉛直面内において鉛直方向から反時計回りに鋭角β(例えば3〜10°程度)だけ傾くように支持部材14により支持されている。なお、鋭角αと鋭角βとは、実施例では互いに同一の角度とされるが、両者は互いに多少異なる角度であってもよい。
【0020】
また、実施例の形状矯正装置10は、第1および第2ローラ11,12よりも搬送コンベヤ100の搬送方向上流側に配置された入口側光電センサユニット17と、第1および第2ローラ11,12よりも搬送コンベヤ100の搬送方向下流側に配置された出口側光電センサユニット18とを含む。入口側光電センサユニット17および出口側光電センサユニット18は、それぞれコンベヤベルト101を挟んで互いに対向する発光素子と受光素子とを有し、コンベヤベルト101の表面と当該表面から所定高さ上方の位置までの範囲内を環状部材50の一部が通過すると、その旨を示す遮断信号を制御装置30に与える。実施例において、入口側光電センサユニット17および出口側光電センサユニット18は、搬送コンベヤ100の搬送方向において両者の中央に第1および第2ローラ11,12が位置するように配置される。また、入口側光電センサユニット17および出口側光電センサユニット18の搬送コンベヤ100の搬送方向における間隔は、断面楕円形状に変形した環状部材50の平均的な長径の長さを考慮して定められる。更に、実施例の形状矯正装置10は、コンベヤベルト101の表面から所定高さだけ上方(第1および第2ローラ11,12の外周面の状態よりも下側)で所定方向に延びる軸周りに回転自在に配置された複数のガイドローラ(上昇規制手段)19を含む。ガイドローラ19は、搬送コンベヤ100により搬送される環状部材50と干渉しないように配置された支持部材により支持される。
【0021】
制御装置30は、何れも図示しないCPU、各種制御プログラム等を記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポート等とを含み、環状部材50の製造ラインを統括する管理コンピュータと通信ラインを介して接続される。また、制御装置30の入出力ポートには、適宜必要な駆動回路等を介して上述の第1および第2モータM1,M2や流体圧シリンダ20、入口側光電センサユニット17および出口側光電センサユニット18等が接続される。そして、制御装置30は、ROMに記憶された制御プログラムに従うと共に管理コンピュータからの指令信号や入口側光電センサユニット17および出口側光電センサユニット18からの遮断信号等に基づいて第1および第2モータM1,M2と流体圧シリンダ20とを制御する。なお、実施例では、入口側光電センサユニット17よりも搬送コンベヤ100の搬送方向上流側に当該搬送コンベヤ100により搬送される環状部材50の形状矯正装置10に対する流入を許容・規制する開閉ゲート40が配置されており、制御装置30は、環状部材50が1個ずつ形状矯正装置10(第1および第2ローラ11,12の間)へと送り込まれるように当該開閉ゲート40を開閉制御する。
【0022】
次に、図4から図6を参照しながら、上述の形状矯正装置10を用いて断面略楕円状に変形した環状部材50の断面形状を真円に近づける手順について説明する。
【0023】
図4は、実施例の形状矯正装置10を用いて環状部材50を形状矯正する際に制御装置30により実行される形状矯正ルーチンの一例を示すフローチャートである。図4の形状矯正ルーチンの開始に際して、制御装置30の図示しないCPUは、それぞれ所定の待機位置にある第1および第2ローラ11,12が同方向かつ同一の所定回転速度で回転するように第1および第2モータM1,M2を制御すると共に(ステップS100)、下流側から搬送コンベヤ100により搬送されてくる複数の環状部材50のうちの1個のみが形状矯正装置10へと送り込まれるように上述の開閉ゲート40を開閉制御する(ステップS110)。なお、この際、形状矯正装置10への流入が許容されなかった環状部材50は、開閉ゲート40の下流側に滞留することになる。次いで、第1および第2ローラ11,12の上流側に配置されている入口側光電センサユニット17から遮断信号を受信した否かを判定し(ステップS120,S130)、入口側光電センサユニット17から遮断信号を受信した時点で、図示しないタイマをオンすると共に(ステップS140)、第1および第2ローラ11,12が互いに接近して搬送コンベヤ100により搬送される環状部材50を挟持・圧縮するように流体圧シリンダ20を制御する(ステップS150)。ステップS150では、搬送コンベヤ100の搬送速度等を考慮して、第1および第2ローラ11,12がそれぞれ環状部材50を横(搬送コンベヤ100の側方)から見たときの中央部付近で外周面51(図3参照)と当接するように流体圧シリンダ20のロッドを移動させると共に、第1ローラ11と第2ローラ12との間隔が所定の圧縮時間隔Gc(図6参照)に保たれるように(ロッドの位置が保持されるように)流体圧シリンダ20のロッド移動量や加圧力を制御する。なお、圧縮時間隔Gcは、断面楕円形状に変形した環状部材50の平均的な短径の長さよりも確実に短い間隔とされる。
【0024】
ここで、それぞれ同方向かつ同一の回転速度で回転している第1および第2ローラ11,12と環状部材50の外周面51とが当接すると、図2に示すように、環状部材50は、第1および第2ローラ11,12とは逆方向に回転することになる。また、実施例の形状矯正装置10では、上述のように、第1ローラ11の回転軸11aが鉛直方向から時計回りに鋭角αだけ傾けられると共に、第2ローラ12の回転軸12aが鉛直方向から反時計回りに鋭角β(=α)だけ傾けられている。これにより、環状部材50には、回転する第1および第2ローラ11,12から図5(a)および(b)に示すような水平成分Fxおよび鉛直上方成分Fzをもった力Fが加えられることになる。従って、環状部材50は、第1および第2ローラ11,12と当接すると、互いに同方向に回転する第1および第2ローラ11,12によりこれら第1および第2ローラ11,12とは逆方向に回転させられると共に、コンベヤベルト101の表面(搬送面)から離間し、ガイドローラ19と当接するまで上昇することになる。この結果、実施例の形状矯正装置10では、環状部材50の下側の端面52(図3参照)がコンベヤベルト101の表面と接触したまま当該環状部材50を回転させてしまうのを抑制することができる。
【0025】
また、第1ローラ11と第2ローラ12とが互いに接近させられて両者の間隔が上記圧縮時間隔Gcに保たれると、図6に示すように、環状部材50は、第1および第2ローラ11,12によりコンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向)と直交する方向に圧縮されることになる。これにより、断面略楕円状に変形した環状部材50が第1および第2ローラ11,12により挟持された状態で当該第1および第2ローラ11,12とは逆方向に回転すると、環状部材50の部位のうち、曲率の小さい部位ほど第1および第2ローラ11,12による圧縮の作用を受けて環状部材50の中心軸に向けて大きく変形することになる。従って、特に環状部材50が断面略楕円状に変形したことで曲率が小さくなった部位に存在する環状部材の内部歪みを減少させることが可能となり、更に上述の圧縮時間隔Gcや流体圧シリンダ20による加圧力を環状部材50の特性等を考慮して適切に定めておくことにより、環状部材50を塑性領域まで変形させて環状部材50の全周にわたる曲率をより均一にすることができる。
【0026】
さて、上述のステップS150の処理を実行したならば、第1および第2ローラ11,12の上流側に配置されている入口側光電センサユニット17と第1および第2ローラ11,12の下流側に配置されている出口側光電センサユニット18との何れかから遮断信号を受信した否かを判定し(ステップS160,S170)、入口側光電センサユニット17と出口側光電センサユニット18との何れかから遮断信号を受信している場合には、第1ローラ11すなわち第1モータM1の回転速度を調整する(ステップS180)。実施例では、ステップS170にて入口側光電センサユニット17から遮断振動を受信したと判断された場合、第1モータM1の回転速度を所定速度だけ(若干)低下させ、ステップS170にて出口側光電センサユニット18から遮断振動を受信したと判断された場合、第1モータM1の回転速度を所定速度だけ(若干)高めることとした。これにより、第1および第2ローラ11,12により挟持・圧縮されて回転する環状部材50が搬送コンベヤ100の搬送方向上流側に移動して入口側光電センサユニット17の信号光を遮ると、第2ローラ12の回転速度が一定に保たれたまま第1ローラ11の回転速度が低下することから、環状部材50を搬送コンベヤ100の搬送方向下流側に移動させて第1および第2ローラ11,12によって確実に挟持されるようにすることができる。また、第1および第2ローラ11,12により挟持・圧縮されて回転する環状部材50が搬送コンベヤ100の搬送方向下流側に移動して出口側光電センサユニット18の信号光を遮ると、第2ローラ12の回転速度が一定に保たれたまま第1ローラ11の回転速度が高まることから、環状部材50を搬送コンベヤ100の搬送方向上流側に移動させて第1および第2ローラ11,12によって確実に挟持されるようにすることができる。
【0027】
ステップS180の処理の後、またステップS170にて否定判断がなされた後、図示しないタイマの計時時間tが予め定められた処理時間tref以上であるか否かを判定する(ステップS190)。処理時間trefは、環状部材50を第1および第2ローラ11,12により挟持・圧縮しながら回転させる時間を実質的に示すものであり、実施例では、第1および第2ローラ11,12の回転速度等を考慮して環状部材50が3回転程度回転する時間として定められている。そして、タイマの計時時間tが当該圧縮時間tref未満であれば、再度ステップS160〜S180の処理を繰り返す。また、タイマの計時時間tが当該圧縮時間tref以上になると、タイマをリセットした上で(ステップS200)、第1および第2ローラ11,12が互いに離間してそれぞれの待機位置に戻るように流体圧シリンダ20を制御する(ステップS210)。これにより、それまで第1および第2ローラ11,12により挟持されていた環状部材50がコンベヤベルト101上に落下すると共に搬送コンベヤ100により形状矯正装置10の下流側へと搬送されていくことになる。そして、この際には、図6に示すように、形状矯正前に断面略楕円状に変形していた環状部材50の断面形状が真円により近づけられていることになるので、形状矯正後の環状部材50を下流側へと搬送する際に引っ掛かり等を生じて環状部材の搬送に支障をきたすのを抑制することが可能となる。
【0028】
ステップS210の処理の後、管理コンピュータ等からの指令信号や作業員による入力信号等に基づいて環状部材50の形状矯正を終了させるべきか否かを判定し(ステップS220)、形状矯正を続行すべき場合には、上述のステップS100以降の処理を再度実行する。また、ステップS220にて形状矯正を終了させるべきと判断した場合には、第1および第2モータM1,M2の回転を停止させた上で(ステップS230)、本ルーチンを終了させる。
【0029】
以上説明したように、実施例の形状矯正装置10を用いて断面略楕円状に変形した金属製の環状部材50の断面形状を真円に近づける際には、第1ローラ11と第2ローラ12とを所定回転速度で同方向に回転させると共に(ステップS100)、流体圧シリンダ20により環状部材50を挟持するように互いに接近させ、第1および第2ローラ11,12により環状部材50を挟持・圧縮しながら当該第1および第2ローラ12とは逆方向に少なくとも1回転させる(ステップS150〜S190)。これにより、断面略楕円状に変形した環状部材50が第1および第2ローラ11,12により挟持された状態で当該第1および第2ローラ11,12とは逆方向に少なくとも1回転する間、環状部材50の部位のうち、曲率の小さい部位ほど第1および第2ローラ11,12による圧縮の作用を受けて環状部材50の中心軸に向けて大きく変形することになる。従って、特に環状部材50が断面略楕円状に変形したことで曲率が小さくなった部位に存在する環状部材50の内部歪みを減少させて環状部材50の断面形状をより真円に近づけることができる。この結果、形状矯正装置10によれば、人手により環状部材50をドラムや型等に装着したり、人手により環状部材50に曲げを加えたりする等の処理を廃して省力化を図ると共に、容易かつ速やかに断面略楕円状に変形した金属製の環状部材50の断面形状を真円に近づけることが可能となる。
【0030】
また、実施例の形状矯正装置10では、第1および第2ローラ11,12が、搬送手段としての搬送コンベヤ100により図1および図2の白抜矢印で示す方向に搬送される環状部材50をコンベヤベルト101の両側から挟持することができるように配置されている。これにより、開閉ゲート40を所定間隔で開閉させることにより、搬送コンベヤ100により搬送される環状部材50を互いに同方向に回転する第1および第2ローラ11,12により順次挟持・圧縮していくことで、断面略楕円状に変形した多数の環状部材50の断面形状を人手を介すことなく容易かつ速やかに真円に近づけることが可能となる。
【0031】
更に、実施例の形状矯正装置10において、第1ローラ11の回転軸11aと第2ローラ12の回転軸12aとは、環状部材50が当該第1および第2ローラ11,12と逆方向に回転しながらコンベヤベルト101から上昇するように傾けられている。すなわち、環状部材50を挟持・圧縮すべく第1および第2ローラ11,12を環状部材50の外周面51と当接させると、環状部材50は、互いに同方向に回転する第1および第2ローラ11,12によりこれら第1および第2ローラ11,12とは逆方向に回転させられると共に、コンベヤベルト101の表面から離間するように上昇することになる。これにより、回転する第1および第2ローラ11,12により環状部材50を挟持・圧縮する間、環状部材50の下側の端面52がコンベヤベルト101の表面と接触した状態で回転するのを抑制することができる。従って、形状矯正装置10によれば、環状部材50の断面形状を真円に近づけるための処理の省力化を図ると共に、形状矯正処理に際して環状部材50、特にその端面52を損傷させてしまうのを抑制することが可能となる。なお、必ずしも第1ローラ11の回転軸11aと第2ローラ12の回転軸12aとの双方を環状部材50が回転しながらコンベヤベルト101から上昇するように傾ける必要はなく、第1ローラ11の回転軸11aと第2ローラ12の回転軸12aとの何れか一方のみを環状部材50が回転しながらコンベヤベルト101から上昇するように傾けてもよい。
【0032】
また、実施例の形状矯正装置10は、環状部材50の下側の端面52がコンベヤベルト101の表面と接触しない程度に当該環状部材50の上昇を規制するガイドローラ19を有している。これにより、環状部材50の下側の端面52がコンベヤベルト101の表面と接触しないようにすると共に環状部材50が必要以上に上昇するのを規制することが可能となり、第1および第2ローラ11,12による環状部材50の上下方向における挟持状態を良好に維持することができる。従って、形状矯正装置10によれば、環状部材50を第1および第2ローラ11,12により挟持・圧縮された状態で所望回数だけ回転させて環状部材50の形状矯正処理を円滑に実行することが可能となる。
【0033】
更に、実施例の形状矯正装置10では、環状部材50の形状矯正の実行中、第1ローラ11と第2ローラ12とにより挟持されている環状部材50が所定領域すなわち入口側光電センサユニット17による検知範囲と出口側光電センサユニット18による検知範囲との間の領域内に留まっているか否かが判定される(ステップS160,S170)。そして、環状部材50の一部が上記所定領域外にあると判断されたときには、環状部材50の全体が当該所定領域内に含まれるように第1ローラ11の回転速度が調整される(ステップS180)。これにより、第1および第2ローラ11,12による環状部材50の挟持状態を良好に維持することができるので、環状部材50を第1および第2ローラ12により挟持・圧縮された状態で所望回数だけ回転させて環状部材50の形状矯正処理を円滑に実行することが可能となる。なお、ステップS180では、第1ローラ11すなわち第1モータM1の回転速度を調整する代わりに、第2ローラ12すなわち第2モータM2の回転速度を調整してもよく、第1および第2ローラ11,12(第1および第2モータM1,M2)の双方の回転速度を調整してもよい。
【0034】
なお、実施例の形状矯正装置10は、鋼板製のドラムから切り出されると共に所定の表面研磨処理が施された薄肉の部材であって全加工工程の完了後にベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品として用いられる環状部材50を形状矯正するものとして説明されたが、形状矯正装置10を実施例の環状部材50以外の環状体に適用し得ることはいうまでもない。
【0035】
図7は、本発明の変形例に係る形状矯正装置10Bの概略構成図である。同図に示す形状矯正装置10Bは、1体の第1ローラ11と、所定間隔をおいて環状部材50の搬送方向に並設される2体の第2ローラ121および122とを備えるものである。図7に示すように、第1ローラ11は、2体の第2ローラ121および122の間隙と対向するように配置される。また、第1ローラ11は、上記形状矯正装置10の場合と同様に、回転軸11aがその軸心を含むと共にコンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向)に延びる鉛直面(コンベヤベルト101の表面と直交する面)内において鉛直方向から時計回りに所定角度(例えば3〜10°程度)だけ傾くように支持部材13により支持されている。更に、第2ローラ121および122は、それぞれの回転軸12aがその軸心を含むと共にコンベヤベルト101の延在方向(搬送コンベヤ100の搬送方向)に延びる鉛直面内において鉛直方向から反時計回りに所定角度(例えば3〜10°程度)だけ傾くように支持部材13と同様の図示しない支持部材により支持されている。また、2体の第2ローラ121および122の回転軸12aは、それぞれ図示しない伝動機構を介して支持部材に固定された第2モータM2の回転軸に接続される。このように構成される形状矯正装置10Bでは、各1体の第1および第2ローラ11,12とが互いに対向するように配置される形状矯正装置10に比べて、環状部材50をより安定に挟持すると共に第1ローラ11と第2ローラ121および122とをコンベヤベルト101の延在方向と直交する方向においてより近接させることができるので、第1ローラ11と第2ローラ121および122とによる環状部材50の圧縮状態をより適正なものとすることが可能となる。
【0036】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品といったような金属製の環状部材の製造産業等において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例に係る形状矯正装置10の概略構成図である。
【図2】図1の形状矯正装置10を上方からみた状態を示す概略構成図である。
【図3】図1および図2の形状矯正装置10が取り扱い可能な環状部材50の一例を示す斜視図である。
【図4】実施例の形状矯正装置10を用いて環状部材50を形状矯正する際に制御装置30により実行される形状矯正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】(a)および(b)は、形状矯正装置10による環状部材50の形状矯正を説明する説明図である。
【図6】形状矯正装置10による環状部材50の形状矯正を説明する説明図である。
【図7】変形例に係る形状矯正装置10Bの概略構成図である。
【符号の説明】
【0039】
10,10B 形状矯正装置、11 第1ローラ、11a 回転軸、12,121,122 第2ローラ、12a 回転軸、13,14 支持部材、15 支柱、16r レール、16s スライダ、17 入口側光電センサユニット、18 出口側光電センサユニット、19 ガイドローラ、20 流体圧シリンダ、30 制御装置、40 開閉ゲート、50 環状部材、51 外周面、52 端面、100 搬送コンベヤ、101 コンベヤベルト、M1 第1モータ、M2 第2モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して該環状部材の断面形状を真円に近づける形状矯正装置であって、
所定の搬送手段により所定方向に搬送される前記環状部材の外周面と当接可能に配置される少なくとも1体の第1のローラと、
前記第1のローラを所定方向に回転させることができる第1の回転駆動手段と、
前記環状部材の外周面と当接して該環状部材を前記第1のローラと共に挟持することができるように配置される少なくとも1体の第2のローラと、
前記第2のローラを前記第1のローラと同方向に回転させることができる第2の回転駆動手段と、
前記第1のローラと前記第2のローラとを互いに接近離間させるローラ移動手段と、
前記環状部材が互いに同方向に回転する前記第1および第2のローラにより挟持・圧縮されながら該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転するように前記第1および第2の回転駆動手段と前記ローラ移動手段とを制御する制御手段とを備え、
前記第1のローラの回転軸と前記第2のローラの回転軸との少なくとも何れか一方は、前記環状部材が該第1および第2のローラと逆方向に回転しながら前記搬送手段の搬送面から上昇するように傾けられていることを特徴とする形状矯正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の形状矯正装置において、
前記第1および第2のローラは、円柱状に形成されており、前記第1のローラの回転軸と前記第2のローラの回転軸との少なくとも何れか一方は、前記環状部材が該第1および第2のローラと逆方向に回転しながら前記搬送面から上昇するように鉛直方向に対して所定角度だけ傾けられている形状矯正装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の形状矯正装置において、
前記環状部材の下側端面が前記搬送面と接触しない程度に該環状部材の上昇を規制する上昇規制手段を更に備える形状矯正装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の形状矯正装置において、
前記第1および第2のローラにより挟持されている前記環状部材が所定領域内に留まっているか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記判定手段により前記環状部材の一部が前記所定領域外にあると判断されたときに前記環状部材の全体が前記所定領域内に含まれるように前記第1のローラの回転速度と前記第2のローラの回転速度との少なくとも何れか一方を変化させる形状矯正装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の形状矯正装置において、
前記環状部材は、鋼板製のドラムから切り出されると共に所定の表面研磨処理が施された薄肉の部材であり、全加工工程の完了後にベルト式無段変速機の無端ベルトの構成部品として用いられる形状矯正装置。
【請求項6】
断面略楕円状に変形した金属製の環状部材の形状を矯正して該環状部材の断面形状を真円に近づける形状矯正方法であって、
少なくとも何れか一方の回転軸が鉛直方向に対して傾けられている第1のローラと第2のローラとを所定の搬送手段により搬送される前記環状部材を挟持するように互いに接近させると共に互いに同方向に回転させ、前記第1および第2のローラにより前記環状部材を挟持・圧縮しながら前記搬送手段の搬送面から上昇するように該第1および第2のローラとは逆方向に少なくとも1回転させることを特徴とする形状矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−262178(P2009−262178A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112808(P2008−112808)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(503158017)株式会社シーヴイテック (11)