説明

形状記憶貼付剤

【目的】型崩れのない形状記憶貼付剤、特に一般成人向けの他、乳幼児、衰弱者、高齢者に対しても使用感、運動時接着性に富み、局所使用の他、全身作用目的にも適した形状記憶貼付剤を提供する。
【構成】形状記憶支持体、形状記憶膏体あるいはこれらの組み合わせからなる貼付剤から構成される。
【効果】皮膚接着性が高く、貼付時における接着不良空間の発生が少なく、使用中の運動伸縮性に富み、数回にわたる接着〜剥離条件に耐える事ができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はケトプロフェン貼付剤ことに形状記憶性素材からなる貼付剤及び全身効果並びに従来の局所的効果を目的とした貼付剤の投薬法に係る。
【0002】
【従来技術】ケトプロフェンは、我国では本発明者等により経口、注射剤として、解熱鎮痛目的に研究開発され(日薬誌70,543頁、1974年)、局所的鎮痛剤(筋肉痛等)としては軟膏剤、パップ剤が古くから使用されている(1979年イタリヤ薬局方INFORMATORE FARMACEUTICO 466 頁、特公平2-28572 号、特公平6-62401 号等)。また、最近では吸収性が良好で疾患状況、年齢、性別、体重、皮膚表皮面積、貼付時間が管理コントロールしやすい貼付基剤について、各種薬剤を対象に研究が行われている(特公平4-50291 号等)。
【0003】全身作用効果を目的とした経皮吸収による投薬方法は、肝分解の抑制、副作用発生の抑制等各種の利点があることが予測される事から、近年脚光をあび、本出願人会社等により各種製剤が上市されている(治験医師薬情報238 頁 医事出版社1992)。
【0004】形状記憶性材質については、金属、プラスチック繊維を利用したものや、リンアミド系素材を付着させたもの等最近衣服類にその応用がはかられているが、医薬品についての応用はカテーテル等にその利用が見られるが貼付剤や軟膏基剤そのものについての研究はほとんど見られない。(特開平5-44128,5-51853,5-78932 号等)
【0005】
【発明が解決しようとする問題点及び課題】貼付剤は貼付後数時間経過すると体温、吸湿等により型崩れが発生しやすく、粗悪なものは膏剤が流出したり、気泡が皮膚面に発生したりして剥がれやすくなる点がかねてから指摘されている。
【0006】経皮吸収による投薬方法、貼付剤ことにパップ剤、テープ剤による経皮吸収方法は、乳幼児、老齢者のように経口、注射投与ができない者や、肝分解の抑制、副作用発生の抑制等各種の利点があり、非常に理想的な投薬方法である。ところが、前述のような型崩れの問題があり、吸収性と投薬コントロール方法が困難な事からイソソルバイド、ニトログリセリン、クロニジン等の吸収性の良い微量活性薬剤をパップ剤、テープ剤として使用する方法に限られていた。
【0007】ケトプロフェンは副作用がインドメタシン等の類似薬剤と比較して少なく、注射剤、経口剤、カプセル剤、坐剤形態のものが解熱鎮痛剤として使用されている。ところがパップ剤、テープ剤形態のものは接着性、放出性等の管理コントロールが困難である事から局所の鎮痛消炎目的としてしか使用されていない。
【0008】また、ケトプロフェンの経口使用は乳幼児や消化性潰瘍経験者には投薬上注意が必要であり、不快感、胃痛、食欲不振、嘔吐、悪心、下痢等が副作用として報告されており、管理コントロールが容易な貼付剤の開発が望まれていた。
【0009】本発明者等はすでに経皮投与に適する理想的な軟膏基剤を開発していたが、この軟膏基剤を使用してケトプロフェンの上述の問題点を解決すべく検討を試みた結果、伸縮通気性を有する支持体に、膏体量に対してケトプロフェン{2−(m−ベンゾイルフェニル)プロピオン酸}0.3 〜3重量%と、溶解剤としてヒマシ油0.5 〜2重量%と、保形・保湿剤として、ポリアクリル酸あるいはその塩を2〜10重量%、水酸化アルミナマグネシウムを0.2 〜3重量%、ソルビトールを20〜50重量%含有し、吸収促進及び芳香剤としてカンファーあるいはメントール0.5 〜2重量%を含有させた製剤が、形状記憶性が向上することにより皮膚接着性と伸縮性に富み、吸収管理コントロールが比較的容易である事を発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】なお、本発明は局所の消炎鎮痛目的と言う従来のケトプロフェン貼付剤の効果と共に、幼児等の経口投与を嫌う患者等に対しても、例えば解熱鎮痛剤としての使用可能性を提案するものであり、経口投与に代わる理想的なケトプロフェン経皮吸収製剤を提供するものでもある。
【0011】また、局所の消炎鎮痛目的であっても、薬剤の放出に優れ、形状記憶性に富んだ軟基剤を使用する事によりケトプロフェンの投薬量を正確にコントロールできる製剤となり、さらには錠剤の割引に代わる切り取り線を添付する工夫により乳幼児、衰弱者、老齢者に対しても、安全に使用できる製剤を提供するものである。
【0012】本発明は形状記憶性を有する事から、上記投薬量のコントロールの他に運動時の伸縮性、加圧性、体温における膏剤の硬度変化に耐えることができる。このため長時間使用しても形が崩れず、接着性に優れ、運動時に適度の脱着、接着を繰り返しても空気だまりの発生を抑制でき、投薬量を正確にコントロールする事が可能となる。
【0013】形状記憶膏体並びに形状記憶支持体あるいはこの組み合わせからなる貼付剤としては、経皮吸収性医薬の大部分に本発明方法は利用する事ができる。例えば、本発明実施例のケトプロフェンの他、インドメサシン、フルルビプロフェン等の解熱性消炎鎮痛剤、ステロイド系、ペプタイド系ホルモン類、ニトログリセリン、クロニジン、硝酸イソソルバイド等の循環作用薬、フマル酸フォルモテール、リン酸ジモルファン、クエン酸カルベタペンタン、塩酸プロカテロール等の抗喘息薬等への応用が可能である。また、従来皮膚接着性のコントロールができないために、経皮的薬剤として利用できなかった薬剤に応用する事もできる。
【0014】
【課題を解決するための手段及び方法】本発明は伸縮通気性を有する好ましくは形状記憶性を有する支持体に、膏体量に対してケトプロフェン{2−(m−ベンゾイルフェニル)プロピオン酸}0.3 〜3重量%と、溶解剤としてヒマシ油0.5 〜2重量%と、保形・保湿剤として、ポリアクリル酸あるいはその塩を2〜10重量%、水酸化アルミナマグネシウムを0.2 〜3重量%、ソルビトールを20〜50重量%含有し、吸収促進及び芳香剤としてカンファーあるいはメントール0.5 〜2重量%を含有する事を特徴とするケトプロフェンパップ剤を基本としており、支持体を形状記憶合金繊維を用いた織布あるいは不織布としたものの他、解熱鎮痛剤としての全身作用を目的とする場合は、投薬量を正確に調製するために、ライナー(剥離紙)あるいは膏薬の裏面に断線あるいはハサミで切断できるような切断線が印刷されている形状のものを含む。
【0015】実際の使用に当たっては、全身作用を目的とする場合は対象患者の疾患状況、年齢、性別、体重、皮膚表皮面積から貼付時間を算出して、投薬コントロールする事により正確な薬理効果を期待する事ができる。
【0016】また、局所の作用目的のためには患者の状態、年齢、性別、体重、皮膚表皮面積から貼付剤を切断して使用する方法をとる事もできる。
【0017】本発明によるケトプロフェン貼付剤は溶解剤、吸収促進剤としてヒマシ油、メントール、カンファーを使用して、ケトプロフェンを半溶解状態で形状記憶性基剤に拡散、分散させる方法で経時的放出性を保持し、さらには運動時の接着性を良好に保つ目的で形状記憶性基剤として、ゼラチン、グリコール、ポリアクリル酸類、ソルビトール、ソルビタン類等を組み合わせた素材が選択される。
【0018】本発明に使用される形状記憶膏剤支持体としてはリンアミド系化合物を付着させた蛋白繊維糸、コポリエステル繊維/熱融着性バインダー繊維積層体、Ni/Ti等の形状記憶合金繊維糸等体温での形状記憶機能を有するように比較的加工な容易な繊維材質を利用する事ができる。以下実施例をあげ本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
【実施例】
製剤例1(形状記憶基剤使用パップ剤)
貼付剤1枚あたり(膏体10g、10×14cm)、以下処方を有するパップ剤を調製した。


【0020】製剤例2(形状記憶基剤使用パップ剤)
貼付剤1枚あたり(膏体10g、10×14cm)、以下処方を有するパップ剤を調製した。


【0021】製剤例3コポリエステル型形状記憶織布(ユニチカ製)を支持体として用い製造例1記載の膏体を貼付した製剤を調製した。
【0022】製剤例4リンアミド型形状記憶織布(日東紡製)を支持体として用い製造例2記載の膏体を貼付した製剤を調製した。
【0023】製剤例5(比較例1)


【0024】製剤例6(比較例2)
膏体ケトプロフェン 0.30水酸化アルミナマグネシウム 0.01カオリン 0.05ソルビトール 3.00ゼラチン 0.06ポリビニルアルコール 0.04グリセリン 2.50ハッカ油 0.01ヒドロキシメトキシベンゾフェノン0.01ジヒドロキシトルエン 0.03精製水 適 量 全 量 10.0g支持体 不織布ライナー ポリプロピレン
【0025】試験例1(形状記憶度および製剤材質試験)
試験方法■形状記憶性試験1)中央部変形状態の改善性試験室温を35度Cに保ち製剤10cm×14cmの周辺部1cm四方を固定し、中央部に20g のオモリを乗せ、6時間経過後にオモリを取り除き、中央部の変形状態の改善性を検討した。
【0026】2)引張り試験製剤10cm×14cmの片方周辺部1cmを固定し、一方向に3cm引き延ばした後、6時間経過後に取り外し復帰性を検討した。
【0027】3)圧縮試験製剤10cm×14cmを鉄板上に乗せ、さらにその上面に2Kgの鉄板を乗せて6時間経過後に加圧に伴う製剤四方からの膏剤の染出状況について検討した。
【0028】■切取り試験ボランティアにより製剤中央部を剥離紙と共に同一ハサミで切断してもらい、1分あたりの切断枚数、ハサミの刃部分への膏体の付着性にアンケート調査した。
【0029】結果は以下表1に示すように、製剤例1〜4の製剤が形状記憶性に優れ、ハサミの刃部分への膏体の付着性も少なく、切断しやすい製剤である事が判明した。
【0030】
【表1】
本発明製剤1〜2 3〜4 比較製剤(5〜6)
■形状記憶 1)中央部変形 やや変形 変形なし 変形(回復不能)
2)引張り 変形なし 変形なし 変形(回復不能)
3)圧縮試験 膏剤溶出なし 膏剤溶出なし 膏剤溶出発生 ■切取 1分間あたりの切断枚数 25枚以上 16枚前後 4枚前後(比較品については膏体がハサミに付着するため、付着した膏体を取り除く必要がある事が判明)
【0031】試験例2(経皮吸収性試験)
本発明製剤による解熱鎮痛効果について検定した。ラットの背部を除毛し、1群5匹とし、20% ビール酵母10mg/kg を皮下投与し、16時間後に本発明製剤を2.16cm四方(4.7cm2 )に切断し(ケトプロフェンとして10mg含有)除毛部に接着、固定し経皮投与群とした。さらに経口投与群としてケトプロフェン(ケト)5mg/kgを経口投与し、直腸温をサーミスター温度計を用いて1時間毎に6時間迄6回測定し、経皮投与群と経口投与群の対象群に対する各投与群の温度差の各時間値の総計(6回合計)を解熱係数とした。結果は以下表2に示すように、本発明製剤例4が最も優れている事が判明した。
【0032】
【表2】


【0033】試験例3(使用感の評価)
本発明製剤を筋肉痛の20人のパネラーに協力してもらい各5名つづ製剤例3、4の製剤並びに対照としてモーラス(久光製薬商標)および製剤例6を適時使用してもらい使用感を評価した。
使用感の評価:消炎鎮痛効果、接着性、密着性、伸縮性、皮膚の状態(かゆみ、発赤他)等についてアンケート調査した。
結果は以下表3に記載のごとく、本発明製剤については好評を得た。
【0034】
【表3】
本発明品 対照品 製剤例3 製剤例4 モーラス 製剤例6a)消炎鎮痛効果 良好 5 5 5 0b)貼付時における接着性 良好 5 5 3 0c)貼付中の気泡発生 有り 0 0 3 5d)貼付中のかゆみ 発生 0 0 2 2e)運動時伸縮性 良好 5 5 2 0 f)運動後の剥がれ 発生 0 0 2 5g)密着性 一度剥がしても数回接着可能 5 5 1 0h)剥離後の貼付部分の状態 かゆみ発生 0 0 1 2 発赤 0 1 1 3 粘着剤の付着 0 0 1 5i)使用感(剥離後数日間の知見)
皮膚の変化 かさついた 0 0 2 5 発赤 0 0 0 2 かゆみ発生 0 0 0 2
【0035】
【発明の効果】皮膚接着性が高く、貼付時における接着不良空間の発生が少なく、使用中の運動伸縮性に富み、数回にわたる接着〜剥離環境に耐える事ができる。また刺激性、炎症性もなく、使用感の良い製剤である。断線あるいは切断線をつける事により投薬量のコントロールが可能となり、乳幼児、衰弱者、高齢者向け薬剤としての応用もはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による形状記憶製剤の一実施例外観図である。
【符号の説明】
1〜投薬量調節のための断線が印刷あるいは刻印された剥離紙
2〜投薬量調節のための断線が刻印された膏体を付着させた形状記憶不織布
3〜ケトプロフェン含有形状記憶膏体

【特許請求の範囲】
【請求項1】形状記憶膏体並びに形状記憶支持体あるいはこの組み合わせからなる形状記憶機能を有する貼付剤。
【請求項2】伸縮通気性を有する支持体が形状記憶合金繊維布、リンアミド系化合物を付着させた蛋白繊維糸あるいはコポリエステル繊維/熱融着性バインダー繊維積層体からなり、体温下での形状記憶機能を有する事を特徴とした貼付剤。
【請求項3】膏体が主薬に対する溶解剤と保形・保湿剤としてのポリアクリル酸あるいはその塩、水酸化アルミナマグネシウム、ソルビトールと吸収促進及び芳香剤からなり、体温下での形状記憶機能を有する事を特徴とした貼付剤。
【請求項4】伸縮通気性を有する支持体に、膏体量に対してケトプロフェン{2−(m−ベンゾイルフェニル)プロピオン酸}0.3 〜3重量%と、溶解剤としてヒマシ油0.5 〜2重量%と、保形・保湿剤として、ポリアクリル酸あるいはその塩を2〜10重量%、水酸化アルミナマグネシウムを0.2 〜3重量%、ソルビトールを20〜50重量%含有し、吸収促進及び芳香剤としてカンファーあるいはメントール0.5 〜2重量%を含有する事を特徴とする形状記憶性ケトプロフェン貼付剤。
【請求項5】対象者の疾患、年齢、性別、体重、皮膚表皮面積から貼付剤を切断して使用する事を特徴とした、請求項1〜4記載の、断線付きあるいはライナー部分に切取線が印刷されたケトプロフェン貼付剤。

【図1】
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【公開番号】特開平8−291055
【公開日】平成8年(1996)11月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−92860
【出願日】平成7年(1995)4月18日
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)