形質転換中のBBMの誘導によって稔性植物を提供するための方法
本発明は、トランスジェニック植物を提供するための方法であって、その方法は、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列で植物細胞または植物材料を形質転換する工程を含み、そのBBMタンパク質の活性が形質転換中および/または形質転換された植物細胞もしくは植物材料の再生中に誘導され、その植物細胞または植物材料が抵抗性植物を起源とする、方法に関する。さらに、本発明は、BBMタンパク質を含み、抵抗性植物であるトランスジェニック植物またはその材料に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性(recalcitrant)植物である成熟トランスジェニック植物を提供するための方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって入手可能な、成熟トランスジェニック植物、植物材料、子孫、植物の一部、種子またはそれらのクローンに関する。本発明はまた、同時形質転換系としての本発明の方法に従って入手可能な成熟トランスジェニック植物またはその植物の一部の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝形質転換は、生命科学の分野において使用される方法論であり、同様に多くの目的のために様々な生物において使用される方法論でもある。この技術は、生命科学研究の多くの領域において大きな意味を有していたし、今も有している。この技術の1つの態様は、それを用いることにより、個別のヌクレオチド分子(例えば、遺伝的エレメントおよび/または遺伝子)またはそのようなヌクレオチド分子によってコードされるタンパク質の機能を同定することができることである。得られる遺伝子改変生物は、基礎研究もしくは応用研究において使用することができるか、または産業上の利用において使用することができる。
【0003】
遺伝形質転換は、目的のヌクレオチド分子を受け手側の(receiving)植物種に移すことができるので、植物科学の分野において強力な技術であり得る。そのようなヌクレオチド分子は、プロモータ、遺伝子、ターミネータ、タンパク質機能の遺伝子のリプレッサまたはエンハンサなどを含み得る。
【0004】
遺伝形質転換は、例えば、目的のタンパク質を受け手側の植物に付加することに関する作用を研究することを意図して使用され得る。そのような場合、通常はより大きなヌクレオチド分子の一部である目的のタンパク質をコードする遺伝子が、受け手側の植物に導入される。
【0005】
遺伝子改変植物を得るために、形質転換、その後の再生、およびそれに続いて、形質転換されて再生された植物材料を成熟トランスジェニック植物に成長させることを含む方法を適用することができる。そのような方法は、形質転換段階および再生段階と、その後の成熟トランスジェニック植物へのさらなる成長との両方に対して応答性である特定の植物種にだけ首尾よく適用することができる。そのような植物種としては、例えば、アラビドプシス・サリアーナ(Arabidopsis thaliana)またはブラシカ・ナパス(Brassica napus)が挙げられる。
【0006】
形質転換では、目的のヌクレオチド分子が、植物細胞に導入される。再生では、形質転換された植物材料を、カルス組織などのかなり未決定の構造から植物器官(例えば、葉様構造、シュート様構造または体細胞胚)に成長させ、そこから成熟トランスジェニック植物を得ることができる。
【0007】
その形質転換の段階は、植物細胞または植物材料を、目的のヌクレオチド分子を有するTi(腫瘍誘導)プラスミドを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)細菌と接触させる工程を含み得る。そのTiプラスミドは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによって宿主植物に移されるDNAセグメント;T−DNAエレメントを少なくとも含む。そのT−DNAエレメントは、DNA反復配列、いわゆる左境界配列および右境界配列に隣接している。遺伝子操作によって、目的のヌクレオチド分子を、TiプラスミドのT−DNAの左境界配列と右境界配列との間に入れることが可能である。植物細胞または植物材料をアグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌と接触させることにより、少なくとも目的のヌクレオチド分子を含むTiプラスミドのT−DNAエレメントが、アグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌から植物細胞に移動し、その植物細胞において、そのエレメントは、核ゲノムまたはオルガネラゲノム(例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体由来のゲノム)に安定的にインテグレートされる。他の形質転換の方法を植物材料に適用してもよい。
【0008】
巨視的な観点から適当な再生を考えるとき、植物細胞または植物組織の再生によって、シュート様構造または葉様構造を発生することができる無定形の細胞塊(すなわちカルス)が発生することがある。通常、必要であれば適当な植物ホルモンの影響下において、そのような構造から伸長した茎が発生し得る。続いて、そのような構造は、必要であれば1つまたはそれ以上の適当な発根誘導剤の影響下において、根系の形成を開始し、それにより、さらなる成長を持続するために適した発達した根系を発達させる。続いて、発生段階の進んだ適当な植物材料が、インビトロからエキソビトロ環境に移植され得る。その植物は続いて、成熟トランスジェニック植物を得ることが可能な適当な条件下においてエキソビトロで(例えば、土壌、バーミキュライト、ロックウールなどの上で)生育される。この再生手順は、この全体的な概念の追加工程または代替工程を含んでもよい。あるいは、再生は、成熟植物に生育させることができる可能性のある体細胞胚の形成によって進めてもよい。
【0009】
形質転換および再生のそのような方法は、好ましくは、出発材料としての若い体細胞性植物組織、培養細胞(例えばプロトプラスト)または器官に適用される。そのような組織(例えば、若い植物組織の外植片または苗木由来の植物材料の小片)は、分化または決定の程度が様々である細胞を含む。そのような組織に存在する細胞集団の分化のレベルまたは程度が様々であり不均一であることにおそらく起因して、そのような組織は、再生処理の最初の段階に特に応答性である。
【0010】
ある特定の植物または植物種だけが、形質転換および再生の方法に応答性であると示されている。比較的単刀直入な方法でそのような植物を形質転換して再生する既存の方法を適用することが可能である。逆に、他の植物または植物種がそのような形質転換および再生の方法に対して無応答性であることが明白になっている。そのような植物は、適当な様式で再生せず、そして/または成熟植物に再生させることが全くできない。そのような植物、植物品種または植物栽培品種は、「抵抗性」または「再生不能(regeneration incompetent)」と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
どの基本的な分子もしくは生理学的因子が関与しているか、または植物が抵抗性になるか否かを決定するかは、ほとんど知られていない。このことから、多種多様の植物種に適用することができる信頼できる植物特異的な形質転換方法および再生方法を開発する必要性が現在あることが示唆される。実際に、成熟トランスジェニック植物を効率的に提供するための適当な形質転換方法および再生方法は、いくつかの種またはいくつかの種の栽培品種に対してしか開発されていない。
【0012】
抵抗性植物が形質転換方法および再生方法に供され、成熟トランスジェニック植物に成長するとき、種々の多くの問題が観察されており、克服できないことが見出されている。そのような問題は、供される植物細胞または植物材料由来の植物細胞を形質転換することができないことを含む。または、形質転換を達成することができた場合でも、そのような形質転換された材料は、形質転換された成熟植物に成長しない可能性がある。形質転換された細胞または植物材料は、ある特定の成長段階まで再生し、異常な挙動(例えば、変更されたもしくは異常な生育、成熟前での成長の終結、大幅に遅れた成長、または不正確な成長)を示し得る。また、偽陽性植物の形成が起きることも知られている。そのような形質転換されていない植物材料は、選択薬剤の圧力から逃れることがあり、成熟植物に再生することがある。
【0013】
さらに、上記方法の適用性、信頼性および適合性に関して以下の問題が知られている。再現性に問題がある場合がある;上記方法の成果は、予測不可能である場合があり、産業的環境における適当な用途のためには、シュート、根または小植物を再生する量が少なすぎる場合がある;上記方法は、単一の植物種または所与の植物種の特定の栽培品種群にしか適用できない;上記方法は、ハイスループットまたはルーチンの用途に適していない可能性がある;上記方法は、適当な適用性のために特定の細菌株に依存し得る。そのような方法は、コスト効率の高い産業上の用途にとって適当でないことは明らかであり得る。それゆえ、抵抗性植物種に適用することができる、成熟トランスジェニック植物を提供するための効率的で信頼できる方法が必要とされ続けている。
【0014】
ゆえに、本発明の目的は、形質転換段階および再生段階を含む、抵抗性植物である成熟トランスジェニック植物を得るための方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、本発明の方法によって入手可能なトランスジェニック植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
とりわけ上記の目的は、添付の請求項に定義される方法によって提供される。
詳細には、本発明は、成熟トランスジェニック植物を提供するための方法であって、その方法は、植物細胞または植物材料を形質転換して再生する工程を含み、その植物細胞または植物材料がBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド分子で形質転換され、そのBBMタンパク質の活性が形質転換中および/または形質転換された植物細胞もしくは植物材料の再生中に誘導され、その植物細胞または植物材料が抵抗性植物を起源とする、方法に関する。
【0016】
本発明に至る研究によって、アマトウガラシおよびペチュニアW138などのいくつかの抵抗性植物を起源とする植物材料が、形質転換中および再生中にBBMを誘導することによって成熟トランスジェニック植物に再生させることができるのに対し、これらの段階においてBBMを誘導しないと、そのような植物は成熟トランスジェニック植物に成長しないことが見出された。当該分野および本明細書中における抵抗性植物は、そのような植物を起源とする植物材料が応答性植物にとって適当な形質転換および再生の手順に供されるとき、本質的に成熟トランスジェニック植物に再生および成長しない植物である。そのような方法の基本原理は、植物ホルモン、好ましくは、オーキシン、サイトカイニンまたはジベレリン酸だけでなく、アブシジン酸、エチレンまたはそれらの阻害剤も含む培地と接触した形質転換された植物材料が、応答性植物の場合のように、形質転換された植物材料の再生を可能にすることである。本明細書中の抵抗性植物は、そのような任意の条件下において成熟トランスジェニック植物に成長できない植物である。
【0017】
かなり多数の抵抗性植物、特に、経済的に重要な植物種、作物または品種に属する抵抗性植物は、再生を用いて成熟トランスジェニック植物を提供するのに適した方法を開発することを目指した広範囲の研究の対象である。従来技術の方法を用いてそのような植物由来の植物材料を形質転換して成熟トランスジェニック植物に再生しようと試みるときに遭遇する多くの種々の問題とあわせて、アマトウガラシなどの抵抗性植物が成熟トランスジェニック植物に再生できないとよく知られていることを考えると、本発明の効率は驚くべきものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の利点は、明らかに抵抗性植物由来の植物細胞または植物材料を、1つまたはそれ以上の生物学的に活性な薬剤(例えば、植物ホルモン、または植物ホルモンの作用を模倣する物質)を加えることによって助けられても、または助けられなくても、成熟トランスジェニック植物に成長させることができる点である。そのような生物学的に活性な薬剤が使用されるとき、それらは形質転換された植物材料を培養する培地に加えられ、それにより、トランスジェニック植物材料が成熟トランスジェニック植物に成長することを可能にすることができる。そのような生物学的に活性な薬剤をBBMの活性が誘導されていない植物細胞または植物材料に加えても、そのような植物細胞または植物材料は成熟トランスジェニック植物に再生できなかった。
【0019】
本発明の別の利点は、形質転換段階および/または再生段階におけるBBM活性のタイミングを調節する可能性を含む。BBMの時間的活性を調整することにより、本発明によって抵抗性植物から入手可能な成熟トランスジェニック植物の質または量のさらなる最適化が可能になり得る。
【0020】
本発明のさらなる利点は、生殖生長段階を通じて、形質転換された植物材料の適当な成長を確実にする可能性に関する。植物の成長の生殖生長期の間のBBMタンパク質の不適当な発現および/または活性を防ぐことによって、部分不稔または完全不稔に関する問題を回避することができるかまたは軽減することができる。
【0021】
本明細書中の再生は、形質転換された植物細胞が体細胞胚、葉様構造またはシュート様構造に成長していくことを含む。その後の段階において、そのような植物組織は、さらに成熟トランスジェニック植物に成長することができる。
【0022】
したがって、本発明は、形質転換中および再生中にBBMを活性化することによって抵抗性植物を起源とする植物材料から成熟トランスジェニック植物を効率的に得ることを初めて可能にする。本明細書におけるBBM活性とは、形質転換された宿主植物の遺伝子の転写に対する、形質転換されたBBMの発現の作用のことを意味する。BBMは、転写因子であるので、その活性は、1つまたはそれ以上のBBM標的遺伝子の転写に影響することを含む。BBMの活性化は、誘導された際にBBMが核に局在化されるようになることを可能にすることだけでなく、その転写または翻訳を誘導することによっても、達成することができる。BBMの活性化により、BBMが調節性のヌクレオチド配列および/またはタンパク質配列に直接的または間接的に結合することによってその標的遺伝子の転写の誘導または抑制が引き起こされることが考えられる。BBM活性の基礎をなすメカニズムに関係なく、発現コンストラクトから発現されたBBMタンパク質の活性が誘導された結果は、形質転換および再生に供された抵抗性植物を起源とする植物材料が、成熟トランスジェニック植物に成長することができるということである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書における「成熟トランスジェニック植物」とは、生存可能な子孫を与えることができる少なくとも1つの生殖器官、好ましくは、より多くのそのような器官(例えば、種子を含む果実)を生成する進んだ発生段階に達した植物のことを意味する。本明細書中の用語「成熟植物」は、用語「稔性植物」と交換可能である。そのような生殖器官は、有性生殖器官(例えば、花)または栄養生殖器官(例えば、塊茎、匍匐枝、根茎、球茎、小鱗茎または鱗茎)であり得る。本明細書中に記載されるような生殖器官から生存可能な子孫をもたらすことができる、本発明に従って得ることができる成熟トランスジェニック植物が、特に興味深い。
【0024】
本明細書において、花は、単性であり得る、すなわち、少なくとも雄性生殖器官(雄ずい群)もしくは少なくとも雌性生殖器官(雌ずい群)のいずれかを有し得るか;または本明細書において、花は、両性であり得る、すなわち、少なくとも1つの雄性生殖器官および少なくとも1つの雌性生殖器官を有し得る。
【0025】
本明細書において、花は、好ましくは稔性であるが、機能的な卵細胞または機能的花粉のいずれかを含むこともできる。稔性の花の場合、そのような花は、その後生存可能な子孫をもたらす、機能的花粉および1つまたはそれ以上の機能的な卵細胞を有する。機能的花粉および1つまたはそれ以上の機能的な卵細胞を有する花は、自家受精だけでなく他家受精によっても1つまたはそれ以上の種子を生成することができる。機能的な卵細胞または機能的花粉のいずれかを含む花の場合、そのような花は、自家受精によって種子を生成しないが、他家受精によって種子を生成することができる。したがって、そのような花は、雄性不稔または雌性不稔であり得る。しかしながら、雄性不稔の花は、別の花の機能的花粉によって受精され得る。雌性不稔の花の花粉を用いることにより、別の花を受精させることができる。そのような花の雄性不稔は、細胞質雄性不稔(CMS)、胞子体型自家不和合性、配偶体型自家不和合性または他の任意の不稔系の結果であり得る。上記の生物学的用語は、それらの分野において認識されている意味において使用される。
【0026】
成熟トランスジェニック植物をもたらすことができる最初の形質転換された植物材料から外植片を得ることも可能性として考えられる。最初の形質転換体の外植片から得られるそのような成熟トランスジェニック植物もまた、本発明に記載の、および本発明の方法によって直接得られた生成物としての、成熟トランスジェニック植物の意味の範囲内に入る。
【0027】
本明細書中の用語「植物細胞」とは、植物または植物材料から得られる任意の細胞のことを指す。プロトプラストまたは液体懸濁液などからの任意の細胞のことも意味する。
【0028】
本明細書中の用語「植物材料」とは、植物の任意の構造、組織または器官から得られる任意の外植片、小片または切り取ったもののことを指す。本明細書における植物材料は、植物の任意の組織または器官のことも指すことがある。前記外植片、小片または切り取ったものが由来する前記植物組織または植物器官は、子葉、胚軸、上胚軸、種子、カルス、葉、根、シュート、花、葯、花粉、胚珠、卵細胞、果実、分裂組織、原基、花序、葉柄、プロトプラスト、シンク組織、ソース組織、苗木、シンク器官、ソース器官、塊茎、接合子胚、体細胞胚、または半数体の倍加半数体に由来する胚を含む。また、この点において、単細胞培養物、懸濁液、雄性発生(androgenic)培養物、雌性発生(gynogenic)培養物などの細胞培養物も含まれる。特に、植物材料という用語は、苗木由来の組織(例えば、子葉またはその小片)のことを指す。
【0029】
本明細書中の用語「形質転換する」とは、ヌクレオチド分子(例えば、発現ベクターまたは発現コンストラクト)を受け手側の植物細胞に導入する方法のことを指す。そのような形質転換手順は、遺伝子もしくはタンパク質または別の遺伝的エレメント(例えば、プロモータ、エンハンサ、ターミネータなど)の機能を解明するために用いることができる。そのヌクレオチド分子は、好ましくは、植物から得られたものであるか、または植物から得られたヌクレオチド配列に基づくものである。そのヌクレオチド分子はまた、合成の起源のものでもあり得る。そのヌクレオチド分子は、細菌ベクター(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(例えば、Bent,2000を参照のこと)または植物の形質転換に適した別の細菌(例えば、Broothaerts et al.,2005を参照のこと)を使用することによって植物細胞に導入することができる。その形質転換手順は、粒子銃(particle bombardment)、機械的注入、または本発明における使用に適した他の形質転換手法も含み得る。そのような技術のすべてが、当業者に公知であり、本発明を実施するために器用な技能を行うことなく適用され得る。
【0030】
本発明の別の態様は、ナス属(Solanum)、ペチュニア属(Petunia)、チューリップ属(Tulipa)、ユリ属(Lilium)、サフラン属(Crocus)、アヤメ属(Iris)、グラジオラス属(Gladiolus)、ホウレンソウ属(Spinacia)、ブタンソウ属(Beta)、アカザ属(Chenopodium)、インゲンマメ属(Phaseolus)、エンドウ属(Pisum)、トウガラシ属(Capsicum)からなる群から選択される植物、特にナス科(Solaneceae)由来の植物に由来する植物細胞または植物材料に関する。本発明は、より具体的には、ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum)種、ペチュニア・ヒブリダ(Petunia hybrida)種、チューリップ属の種(Tulipa spp)、ユリ属の種(Lilium ssp)、サフラン属の種(Crocus,ssp)、アヤメ属の種(Iris ssp)、グラジオラス属の種(Gladiolus ssp)、スピナセア・オレラセア(Spinacea oleracea)、ベータ・バルガリス(Beta vulgaris)、ケノポディウム・クイノア(Chenopodium quinoa)、ファセオラス・バルガリス(Phaseolus vulgaris)、ファセオラス・コシネアス(Phaseolus coccineus)、ピスム・サティブム(Pisum sativum)およびカプシカム・アンナム(Capsicum annuum)、特に、アマトウガラシであるカプシカム・アンナム植物に関する。これらの植物種および/またはいくつかの植物種のいくつかの栽培品種、品種もしくはタイプは、周知のこととして抵抗性であり、形質転換および/または成熟トランスジェニック植物への再生を行い難い。
【0031】
本発明は、特に、抵抗性ジャガイモ(ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum))のタイプまたは品種、ペチュニア(ペチュニア・ヒブリダ(Petunia hybrida))のタイプまたは品種(例えば、W138)、およびより詳細には、アマトウガラシ(カプシカム・アンナム(Capsicum annuum))のタイプまたは品種(少なくともアマトウガラシの場合、当業者によって、周知のこととして抵抗性であると考えられており、知られている)に関する。
【0032】
カプシカム・アンナム種は、果実の食味に基づいて2つの群、すなわち、アマトウガラシ(またはシシトウ)タイプおよびトウガラシ(hot pepperまたはchili pepper)タイプに分類される。アマトウガラシタイプの群は、辛味でない甘味のある果実をつけるトウガラシ植物を含む。そのような果実は、果実のより進んだ成熟レベルでは、その果実中に低レベルのカプサイシン(8−メチル−N−バニリル−6−ノネンアミド)を有する。本明細書においてアマトウガラシの群は、ブロッキー(blocky)、ベル(bell)、ラムヨ(lamuyo)、パプリカ(paprika)、ハンガリアン・パプリカ(Hungarian paprika)、ニューメキシカン・パプリカ(New Mexican paprika)、スカッシュペッパー(squash pepper)、スパニッシュ・パプリカ(Spanish paprika)、ピミエント(pimientio)、イタリアン・フライング(Italian frying)、ジャパニーズ・スイート(Japanese Sweet)、ビエジョ・アルガ・ダルセ(Viejo arruga dulce)およびキューバン(Cuban)品種を含む(De Witt & Bosland,1997)。
【0033】
アマトウガラシは、高度に抵抗性のカプシカム・アンナムであると考えられている。アマトウガラシ植物が形質転換および再生を含む方法に供されたとき、以下の観察結果が報告されている。カルスから葉原基が形成されない;葉様構造が再生段階に進むことができない;再生中の組織にシュートが存在しない;シュート芽が伸長しない;シュート芽からシュート様テラトーマが発生する;頂端分裂組織が伸長しない;再生中のシュートの頂芽優性が低下する;選択圧下において生育されたカルスから非トランスジェニックシュートが再生する;再生中のシュートの稔性が低下する、適切な根系がトランスジェニックシュートから発生できない、または植物組織もしくは植物器官の生育が大きく遅れる。偽陽性植物、すなわち、選択圧下で植物の生育を可能にする必要な耐性付与遺伝子を含まない成熟非トランスジェニック植物の出現も知られている。したがって、従来技術は、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を提供するための形質転換および再生の適当な、有効なまたは信頼できる方法を教示しないと言うことができる。本発明は、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を得る方法が提供されるという利点を有する。
【0034】
本発明に記載の方法を適用することにより、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物が提供され、特に、これらの植物から十分に成長したトウガラシ果実および生存可能な種子も提供される。さらに、本発明は、外来性BBMヌクレオチド配列を含む発芽する苗木を提供するために使用することができる。自家受精した成熟トランスジェニック植物の分離比分析から、導入遺伝子が次世代の子孫に遺伝されたことが実証された。いくつかの成熟トランスジェニック植物の子孫のメンデルの法則に従った分離は、単一の遺伝子座の存在に対応した。表4は、分離比分析の結果を表している。このように、本発明は、形質転換されたヌクレオチド配列を含む生存可能な子孫を生成する成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を提供した。
【0035】
本発明の方法によって得られたトランスジェニックアマトウガラシの種子は、NCIMB41732番として寄託された。
【0036】
本発明の別の態様は、配列番号1であるBBMタンパク質、または配列番号1と少なくとも50%、60%、70%、好ましくは、80%、より好ましくは、90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%の同一性および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするBBMタンパク質の機能的ホモログに関する。タンパク質がBBMホモログであるか否かは、目的のタンパク質が、配列番号1のBBMタンパク質ではなくBBM標的遺伝子のプロモータに結合されたレポーター遺伝子を同様に発現するか否かを評価することによって確認することができる。そのような標的遺伝子は、例えば、アクチン脱重合因子9(ADF9;GeneID:829649、TAIR:AT4G34970)を含む。
【0037】
あるいは、候補遺伝子は、発現ベクターが前記BBM候補タンパク質の誘導性の核転写活性を提供する候補BBMタンパク質をコードする発現ベクターを用いて、アマトウガラシ植物に形質転換されてもよい。アマトウガラシ植物由来の植物細胞に形質転換する際、その供された植物材料が1つまたはそれ以上の成熟トランスジェニック植物に成長することは、本発明に従って生じる。遺伝子またはタンパク質がBBMの機能性ホモログであるかを本発明に従って確認することは、十分に当業者の能力の範囲内である。初期調査において、当業者は、研究所(例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)または他の任意のそのような研究所)によって提供される最新の電子的な分子生物工学的ツールおよびデータベースを調べることができる。そのようなツールおよびデータベースは、任意の未知の遺伝子またはタンパク質が機能的なBBMホモログであり得るか否かという任意の指摘が存在し得るかを迅速に評価する手段を当業者に提供する。そのような指摘は、関係するクレードまたは同じクレードにおける進化的保存および分類についてBBMに関する未知配列の情報;未知配列が、BBMに関係する遺伝子またはタンパク質のクラス(例えば、ANT、PLT1、PLT2を含むAP2ファミリー)に属するか否か;AP2ドメインなどの特定のドメインを共有すること;そのような共有されるドメイン、単一のまたは反復のAP2ドメインの数;BBM様と呼ばれる配列などの遺伝子またはタンパク質の名称を含み得る。その結果として、調査の第2段階では、目的の配列が機能的なBBMホモログであるかを確かめるために、限られた数の遺伝子またはタンパク質だけが、抵抗性植物、特に、アマトウガラシに形質転換されるのに必要とされるだろう。ゆえに、この手順に従って、現代生物工学の当業者は、過度の負担なしに、遺伝子またはタンパク質が機能的なBBMホモログであり得るか否かを確認することができるだろう。
【0038】
本明細書中の用語「配列同一性」は、配列番号1に記載の完全長BBMタンパク質における同一のアミノ酸の数を完全長のアミノ酸の数で除して100を乗じたものと定義される。例えば、配列番号1と90%の同一性を有する配列は、以下の計算:521/579×100=90%によって例証されるように、配列番号1の579アミノ酸という配列全体にわたって、521個の同一アミノ酸を含む。
【0039】
BBMは、種々の異なる種(例えば、ブラシカ・ナパス、アラビドプシス・サリアーナ、メディカゴ・トランカラータ(Medicago trunculata)、グリシン・マックス(Glycine max)、ゼア・メイズ(Zea mays))において保存されている。本願において開示されるように、アブラナ(Crucifers)(またはアブラナ科(Brassicaceae))の分類群の植物由来のBBM遺伝子を使用して、形質転換および再生を含む方法によって、別個かつ遠縁のナス科(Solanaceae)から成熟トランスジェニック植物を得ることが可能である。おそらく、進化的保存のレベルのおかげで、これらのタンパク質は、ナス科(Solaneceae)にわたるかまたは単子葉植物から双子葉植物にさえ及ぶ種々の抵抗性植物種に対して本方法を適用する場合に適当なものとなる。
【0040】
【表1】
【0041】
表1:配列番号1のBBMに似ている様々な植物種のタンパク質のGI番号(GenInfo識別子)
本発明のさらに別の態様は、転写活性化因子、翻訳アクチベータまたは核標的化系(nuclear targeting system)からなる群から選択される遺伝的エレメントに作動可能に連結されたBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0042】
そのような遺伝的エレメントは、BBMタンパク質の適当な空間的活性および/または時間的活性を可能にするBBMタンパク質の活性の調節を可能にする。本明細書における空間的活性とは、器官または組織に特異的なBBM活性を達成することができることを意味する。そのような遺伝的エレメントを使用する利点は、BBMタンパク質の不適当な発現または活性に関する問題の発生を防ぐことができる点である。
【0043】
好ましい実施形態において、BBMタンパク質は、核標的化系に作動可能に連結される。この実施形態において、翻訳段階で融合されたBBM::GRのタンパク質を核に移動させるかまたは転位させることによって、BBMの活性を調節することが可能である。
【0044】
本発明に記載の遺伝的エレメントが、転写活性化因子であるとき、転写レベルでBBMの活性を制御することが可能である。そのような転写誘導系は、エタノール誘導性プロモータまたは熱ショック誘導性プロモータを含む系であり得る。5’UTRまたは3’UTR配列に配置され得る翻訳アクチベータを用いることにより、翻訳調節によってBBM活性を制御することができる。どの系を用いることによって、上で述べた遺伝的エレメントに従ってBBM活性を誘導することができるかは、当業者に明らかである。他の適当な系としては、エストロゲン誘導系、PRP誘導系、UAS誘導系、任意のVP16を含む系が挙げられる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2を特徴とするヌクレオチド配列に作動可能に連結される。このヌクレオチド配列によってコードされるペプチドは、植物材料がデキサメタゾン(DEX)を含む培地と接触したときにBBMタンパク質の活性が誘導されることを可能にする。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態において、再生中の形質転換された植物細胞または植物材料は、BBMタンパク質の活性を誘導するのに適した薬剤を含む培地と接触される。
【0047】
本発明のさらに別の実施形態において、BBMタンパク質の活性を誘導するのに適した薬剤は、エタノールである。この実施形態において、エタノールは、外来性BBM遺伝子の転写を誘導するために使用され得る。転写を誘導するための他の系もまた、本発明を実施するために適している。BBMの活性は、本発明を実施するために、他のレベル(例えば、翻訳のレベルまたは翻訳後のレベル)においても制御され得る。
【0048】
この態様の実施形態によれば、発現ベクターは、1つもしくはそれ以上の選択可能マーカー、1つもしくはそれ以上の目的のタンパク質、および/または1つもしくはそれ以上の目的の転写産物をさらにコードする。そのような目的のタンパク質は、目的の任意の病原体に対する抵抗性を提供する任意のタンパク質を含むが、ビタミン、栄養分、糖などの産生をもたらす経路の一部であるタンパク質も含む。
【0049】
本発明はさらに、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む外来性ヌクレオチド配列、およびBBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントを含み、抵抗性植物である、上記の方法によって入手可能な成熟トランスジェニック植物またはその材料に関する。本発明の好ましい実施形態において、成熟トランスジェニック植物は、ナス属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、ブタンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属由来の抵抗性植物からなる群から選択される植物、特に、ナス科由来の植物である。
【0050】
本発明のより好ましい実施形態において、成熟トランスジェニック植物は、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である。
【0051】
本発明に記載の成熟トランスジェニック植物は、配列番号1である外来性BBMタンパク質、または配列番号1と少なくとも50%、60%、70%の同一性、好ましくは、少なくとも80%の同一性、より好ましくは、少なくとも90%の同一性、なおもより好ましくは、少なくとも95%の同一性、および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするBBMタンパク質の機能的ホモログを含む。好ましくは、成熟トランスジェニック植物は、本発明に記載のBBMタンパク質をコードする外来性ヌクレオチド配列をそのゲノム内に含む。
【0052】
本明細書において、外来性ヌクレオチド配列は、形質転換などの生物工学的手順によって植物材料に導入されたヌクレオチド配列である。外来性タンパク質は、外来性ヌクレオチド配列からコードされるタンパク質である。
【0053】
本発明のさらに別の実施形態において、外来性BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、転写活性化因子、翻訳アクチベータ、または好ましくは、核標的化系からなる群から選択される。
【0054】
本発明の利点は、外来性BBMタンパク質の活性が、空間的様式と時間的様式の両方において、BBMタンパク質の適当な活性または発現を可能にするように誘導することができる点である。形質転換および/または再生において外来性BBMの活性が誘導される可能性に加えて、外来性BBMの活性が都合の悪い有害作用を有し得る成長段階においては外来性BBMの活性を低下することができるかまたは無くすことができることは、特に有益であるとみられる。外来性BBMの空間的活性は、組織特異的プロモータを用いて調節され得る。例えば、植物成長の生殖生長期において活性でないプロモータを使用することにより、不稔性に関する問題が回避され得る。苗木の生育および成長の段階において活性なプロモータを使用することは、形質転換された植物材料の再生において好ましいだろう。
【0055】
本発明に記載の遺伝的エレメントは、外来性BBMの適当な活性を可能にするために外来性BBM遺伝子に作動可能に連結される。適当なエレメントとしては、任意の熱ショック誘導系、エタノール誘導系、エストロゲン誘導系、PRP誘導系、UAS誘導系、任意のVP16を含む系が挙げられる。当業者にとっては、本発明を実施するために他の適当な系を使用することができること、および生物工学的方法を使用することによりそのような系を作製することができることは明らかである。
【0056】
さらに、ドミナントリプレッサ、ドミナントアクチベータ、アンチセンスコンストラクト、RNAiコンストラクト、siRNAコンストラクト、ノックアウトの使用に基づく方法、またはBBM活性に影響する同じ作用を選別する他のそのような方法によって本発明に記載のBBM活性を調節することが可能であると考えられる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態は、配列番号2を特徴とする、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに関する。この遺伝的エレメントは、BBMタンパク質に作動可能に連結することができ、それにより、翻訳融合がもたらされる。そのような作動可能な連結は、BBMタンパク質が、BBM活性の誘導を可能にするトランスジェニック細胞の核に局在することを可能にする。この実施形態において、外来性BBMの活性化は、植物材料がデキサメタゾンを含む培地と接触したときにBBMタンパク質の活性の誘導を可能にする配列番号2によってコードされるペプチドによって媒介される。
【0058】
さらに、本発明は、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物の子孫、植物の一部、種子またはクローンに関する。本発明の利点は、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物から子孫を得ることができる点である。そのような子孫は、例えば、組織または器官からの無性繁殖によって、成熟トランスジェニック植物から得ることができる。そのような場合、子孫は、細胞、組織、器官または適当な任意の植物の一部を繁殖するのに適した方法によって得ることができる。そのような方法は、様々な手段による植物材料のクローン化、接木、葉を切り取ったものの繁殖、切り取ったものの発根または他のそのような適当な方法を含み得る。繁殖方法は、子孫を得るための生殖体の調製に基づく技術も含み得る。そのような技術は、雌性発生または雄性発生による倍加半数体の子孫の作出を含む。植物組織培養または植物細胞培養を含む適当な方法もまた、子孫を得るために構想される。
【0059】
BBMをコードするヌクレオチド配列を植物細胞のゲノムから切除するか、組み換えるか、または失わせることができるヌクレオチド配列を含む遺伝的コンストラクトに本発明に記載のBBM遺伝子をクローニングすることによって本発明を実施することも可能であると考えられる。そのような系としては、例えば、Cre−Lox系またはFLP/FRT系が挙げられるが、別の適当な組換え系も含まれ得る。
【0060】
さらに、トランスジェニックの子孫および/または非トランスジェニックの子孫が、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物から得られることがあることに注意されたい。そのような子孫は、メンデルの法則に従った導入遺伝子の分離を可能にする成熟植物を他家受精するかまたは自家受精することによって、得ることができる。非トランスジェニックの子孫は、導入遺伝子がヘテロ接合性である成熟トランスジェニック植物の自家受精によって得られるかもしれないし、成熟トランスジェニック植物を、非トランスジェニック子孫をもたらすことができるBBM導入遺伝子を含まない他の任意の適当な植物と交配することによって得られるかもしれない。
【0061】
本発明の別の態様は、同時形質転換系としての本発明の方法に従って入手可能な成熟トランスジェニック植物または植物の一部の使用に関する。本明細書中の本発明の範囲は、同時形質転換系の基本原理として、好ましくは、マーカーを含まない系として、本発明に記載の誘導性のBBMヌクレオチド配列を含むヌクレオチド分子の使用も包含する。
【0062】
本明細書ではいくつかの実施形態が構想される。第1の実施形態では、外来性かつ誘導性のBBMを含む植物(例えば、T1またはそれ以降のアマトウガラシ植物)に由来する植物材料が、目的の遺伝子を含み得る別の発現コンストラクトで形質転換される。このT1またはそれ以降の植物は、外来性かつ誘導性のBBM導入遺伝子についてヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。第2の実施形態では、非トランスジェニック抵抗性植物を起源とする植物材料が、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列に加えて、1つもしくはそれ以上の目的の遺伝子または1つもしくはそれ以上の目的の遺伝的エレメントをコードすることができる別のヌクレオチド配列を含む発現コンストラクトで形質転換される(そして成熟トランスジェニック植物に再生される)。このストラテジーの利点は、得られる各成熟植物が、本質的に、誘導性のBBMコンストラクトおよびさらなる目的のヌクレオチド配列を含むことになるので、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含めることによって、マーカーを含まない効率的な形質転換および再生が可能になる点である。
【0063】
さらなる実施形態において、非トランスジェニック抵抗性植物細胞または植物材料は、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト、およびさらなる目的のヌクレオチド配列を含む異なる第2の発現コンストラクトで形質転換される。好ましくは、抵抗性植物細胞または植物材料は、両方の発現コンストラクトと同時に接触される。このさらなる目的のヌクレオチド配列は、さらなる目的のタンパク質をコードし得るか、または好ましくはコードする。これらの実施形態の利点は、抵抗性植物種、例えば、アマトウガラシを、本質的に任意の目的のヌクレオチド配列または遺伝子で形質転換し、再生することができる点である。そのような目的のヌクレオチド配列は、目的の配列に対するRNAi配列もしくはアンチセンス配列、過剰発現配列、機能獲得配列、または他の任意の目的の配列から選択され得る。
【0064】
両方の実施形態が、外来性BBMに加えて他の任意の目的のヌクレオチド分子を含むアマトウガラシなどの成熟トランスジェニック植物を得ることを可能にする。
【0065】
同時形質転換系に関する第1の実施形態は、適当な表現型または遺伝子型に基づいて外来性BBMを含むトランスジェニック植物を第1に選択することができるという意味においてさらなる利点を有する。適当な表現型には、十分に生育するかもしくは成長する植物、あるいは適当な稔性または他の任意の適当なもしくは好ましい表現型を有する植物が含まれ得る。適当な遺伝子型は、導入遺伝子の安定性、位置効果によって引き起こされるものなどのBBMの発現レベル、コンストラクトの漏出性(leakiness)、すなわち、BBMの不適当な活性、単一植物における導入遺伝子の数、単一植物内の1つのインテグレーション部位に存在するコンストラクトの数(多コピーのT−DNAコンストラクトが単一の遺伝子座に挿入され得る)または他の任意の適当なもしくは好ましい特性に関することがある。
【0066】
同時形質転換系に関する第2の実施形態は、単回の形質転換および再生の処理において、外来性BBMに加えて他の任意の目的のヌクレオチド配列を含む抵抗性植物を得ることを可能にするという意味においてさらなる利点を有する。
【0067】
ここで、これらの両方の実施形態においてそのような同時感染または同時形質転換のためにプロトプラストを使用することが可能であることに特に注意されたい。
【0068】
したがって、追加的にまたは二者択一的に、形質転換された植物細胞または形質転換された植物材料においてその再生中にBBM活性を誘導する工程を包含する、成熟トランスジェニック植物を得るための方法であって、その植物細胞または植物材料は、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに作動可能に連結されたBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む外来性ヌクレオチド分子を含み、その植物材料の植物細胞は、抵抗性植物、特に、アマトウガラシに由来する方法が、提供される。所望であれば、そのトランスジェニック植物細胞またはトランスジェニック植物材料は、成熟トランスジェニック植物に再生される。その植物細胞または植物材料は、T1またはそれ以降の形質転換体に由来し得る。この植物は、好ましくは、誘導性のBBM導入遺伝子についてホモ接合性であるが、ヘテロ接合性であってもよい。
【0069】
再生は、形質転換された植物細胞または植物材料を、BBMタンパク質の活性の誘導に適した薬剤を含む培地と接触させることによって達成することができる。
【0070】
T1またはそれ以降の植物は、活性を誘導することができるBBMタンパク質を含むので、それぞれの抵抗性植物は、BBMが活性化されると再生可能になる。これにより、形質転換された植物細胞または植物材料は、さらなる目的のヌクレオチド配列、特に、目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む別のヌクレオチド分子で形質転換することができ、そしてこの植物材料を成熟トランスジェニック植物に再生する可能性が開ける。この第2の目的のヌクレオチド配列は、目的の配列に対するRNAi配列もしくはアンチセンス配列、過剰発現配列、機能獲得配列、または他の任意の目的の配列を含み得る。活性を誘導することができる外来性BBMタンパク質が存在することに起因して再生能力のある抵抗性植物を得ることは、本質的に任意の目的のヌクレオチド配列または遺伝子を用いて、ここで初めて効率的に形質転換されて成熟するまで再生することが可能なアマトウガラシについて、特に興味深い。したがって、この実施形態において、その方法は、本明細書中で意味されるような同時形質転換系として使用される。
【0071】
あるいは、誘導性かつ外来性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むトランスジェニック植物は、本明細書中で意味されるようなBBMの誘導に適した薬剤を含む栽培培地と接触すると、多数の体細胞胚を発生するので、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む植物細胞または植物材料の再生は、植物を増殖させる目的のために使用することができる。好ましくは、この培地は、さらにより多くの体細胞胚が望まれるとき、適当量のサイトカイニン(例えば、チジアズロン、ゼアチンまたは6−ベンジルアミノプリン)も含む。子葉外植片の表面上における明らかに識別可能な体細胞胚の数は、少なくとも100を超えることが見出されたので、これらの胚を単離すること、およびそれらを出芽させてさらに成熟トランスジェニック植物に成長させることが可能である。増殖させることができるこの植物材料は、好ましくは、外植片、特に、子葉外植片から得られる。
【0072】
さらに、体細胞胚から得られた植物材料を生育させるかまたは成熟させることによる材料または細胞は、再生中にBBMを誘導することによって別の回の増殖に供されてもよく、それにより、そこから体細胞胚が提供される。
【0073】
本発明の最後の態様は、植物材料を形質転換して成熟トランスジェニック植物に再生するための、ヌクレオチド分子の使用であって、その植物材料は抵抗性植物を起源とし、そのヌクレオチド分子はBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、そのBBMタンパク質は配列番号1と少なくとも50%、60%、70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%、および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするか、またはそのBBMタンパク質は、配列番号1を特徴とする、使用に関する。
【0074】
本発明のこの態様の好ましい実施形態において、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに作動可能に連結される。
【0075】
本発明のこの態様の別の好ましい実施形態において、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、転写活性化因子、翻訳アクチベータ、または好ましくは核標的化系からなる群から選択される。
【0076】
本発明のこの態様のさらに別の好ましい実施形態において、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、配列番号2である。
【0077】
本発明のこの態様の最後の好ましい実施形態において、抵抗性植物は、ナス属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、ブタンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、特に、ナス科の植物、より詳細には、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である。
【0078】
本願では、以下の図面が参照される:
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、様々な植物種由来のBBMタンパク質の系統樹を示している。
【図2】図2は、カルス形成した3週齢の外植片を明示している。
【図3】図3は、コントロールのカルスおよびSLSの形成を明示している。
【図4】図4は、35S::BBM:GRで形質転換された外植片におけるSLSにおける体細胞胚の形成を明示している。
【図5】図5は、伸長しているシュートを明示している。
【図6】図6は、発根したシュートを明示している。
【図7】図7は、トランスジェニックレッドブロッキーを明示している。
【図8】図8は、トランスジェニックイエローブロッキーを明示している。
【図9】図9は、トランスジェニック植物の種子を示している。
【図10】図10は、Km含有培地上の分離した子孫を示している。
【図11】図11は、分離したトランスジェニック植物の表現型を示している。上段は、Km耐性苗木を示しており、下段は、Km感受性苗木を示している。
【図12】図12は、コントロールまたは35S::BBM:GRで形質転換された子葉外植片がカルス、シュート様構造(SLS)およびシュートを形成したパーセンテージを示している。
【図13】図13は、トランスジェニックトウガラシ植物において行われたPCRの結果のゲルを表している。レーン:M,分子マーカー;P,35S::BBM:GRプラスミドDNA;A,非トランスジェニックアラビドプシス;A+,トランスジェニックアラビドプシス;C,非トランスジェニックトウガラシ;C1〜4,別個のトランスジェニックアマトウガラシ;C5〜8,同じ外植片に由来するトランスジェニックトウガラシのシュート。
【図14】図14は、W138バックグラウンドのトランスジェニックペチュニアのシュート再生を明示している。
【図15】図15は、W138バックグラウンドのトランスジェニックペチュニアのシュート再生を明示している。
【図16】図16は、配列番号1を示している。
【図17】図17は、配列番号2を示している。
【図18】図18は、配列番号3を示している。
【図19】図19は、核転写性のベビーブーム(babyboom)の活性を誘導した後の、35S::BBM::GRを含むアマトウガラシトランスジェニック系統のT1子孫における傷の部位の周縁部における体細胞胚の形成を明示している。
【実施例】
【0080】
本発明は、本発明の範囲を決して限定することを意図していない以下の実施例によってさらに例証される。
【0081】
実施例1
BBMによるアマトウガラシの遺伝形質転換
配列番号1および配列番号2を含むカプシカム・アンナム種であるアマトウガラシ植物の遺伝形質転換。表現型的かつ遺伝子型的に異なる品種のFiesta、FerrariおよびSpirit由来の植物を使用した。
【0082】
ドナー植物の生育
F1雑種であるFiesta、FerrariおよびSpirit(Enza Zaden,The Netherlands)の表面滅菌した種子を、0.8%Microagar(Duchefa)を用いて凝固した、2%スクロースが添加されたフルストレングスのMS培地(Murashige and Skoog,1962)の上に播種した。10日齢の子葉を3〜10mmの外植片に切り出し、23℃の薄明条件下において1〜2日間、共培養培地(CCM)上で前培養した。CCMは、0.7%Microagarを用いて凝固した、1.6%グルコースおよび2mg/Lゼアチンリボシド、0.1mg/Lインドール−3−酢酸(IAA)または0.25〜1mg/Lチジアズロン(TDZ)、10μMデキサメタゾンが添加された改変R培地を含む。独立して反復された6〜10回の実験において、コンストラクト1つあたり平均200個の外植片を使用した。
【0083】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスの生育
アグロバクテリウム・ツメファシエンスの系統GV3101+pMP90(35S::BBM:GR(翻訳段階で糖質コルチコイド受容体(GR)(配列番号2)に融合されるBBMコード配列(配列番号1)に作動可能に連結された35Sプロモータを含む)、35S::BBM(BBMコード配列の配列番号1に作動可能に連結された35Sプロモータを含む)を有する)または35S::GUSを有するコントロールプラスミドを、100mLのYEB培地(0.5%酵母エキス、0.5%牛肉エキス、2%スクロース,pH7.2)中の適切な抗生物質、リファンピシン(100mg/L)、硫酸カナマイシン(100mg/L)および/またはゲンタマイシン(25mg/L)の存在下、28℃において一晩培養物として生育した。植物を形質転換する前に、アグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を、新しく調製された40mg/Lアセトシリンゴン(Sigma)が添加された液体CCMでOD660 0.3〜0.4に希釈した。
【0084】
植物材料の遺伝形質転換
希釈されたアグロバクテリウム・ツメファシエンス培養物を前培養された外植片に加え、室温で30〜60分間インキュベートした。吸い取らせて外植片を乾燥させ、40mg/Lアセトシリンゴンが添加されたCCM上で23℃の薄明条件下において2〜3日間さらに同時培養した後、100mg/L硫酸カナマイシンおよび500mg/Lセフォタキシムが添加されたCCMからなる選択培地に移した。
【0085】
トランスジェニック植物材料の再生
外植片を23℃、16/8時間の昼/夜体制の明光条件に2ヶ月間移した(4週間後に1回継代した)。シュート様構造が出現した外植片を、MS培地(Murashige and Skoog 1962)のマクロ塩とマイクロ塩との混合物、B5培地(Gamborg O.L.1968)に従うビタミン類、1.6%グルコース、1mg/Lイノシトール、20mg/L硫酸アデニン、200mg/Lカゼイン加水分解物、10mg/L GA3、4mg/L BAP、30μMチオ硫酸銀、100mg/L硫酸カナマイシンおよび500mg/Lセフォタキシムからなる伸長培地(EM)に4週間にわたって移した。伸長したシュートを、30mg/Lグルタチオン、60mL/L硫酸カナマイシンおよび300mg/Lセフォタキシムが添加された改変MS培地である前発根(pre−rooting)培地(PRM)に2ヶ月間にわたって移し、次いで、1mg/L IAAを含むかまたは含まない、2%スクロース、50mg/Lセフォタキシムおよびバンコマイシンが添加されたRugini培地からなる発根培地に移した。発根したシュートを温室に移すことにより、結実させた。組織培養に関するすべての化学物質は、Duchefa Biochemicals,Haarlem,The Netherlandsによって供給されたものである。
【0086】
トランスジェニックシュートの分析
CTABミニプレップ法によりDNAを葉から単離し、50μLのTE(10mM Tris pH8,1mM EDTA)に溶解した。BBM特異的プライマーを、公開されているcDNA配列(AF317904および−905)に基づいて設計した。BBMfw:gttaggyttytctctmtctcc,BBMrw:gggctgcaaatccttgataacca。形質転換されるプラスミドおよびトランスジェニックアラビドプシス系統からのDNAをコントロールとして使用した。供給業者のプロトコールに従って、PCR混合物を使用した。PCR条件:15秒間94℃;30秒間48℃:45秒間72℃;35サイクル。結果を図13に示す。
【0087】
トランスジェニック子孫の分析
各個別のトランスジェニックシュートを自家受粉させ、また、元のドナー系統由来の植物と交配することにより、導入遺伝子の遺伝を分析した。回収した後の種子の表面を滅菌し、その種子をMS培地、2%スクロース、0.8%microagarおよび200mg/L硫酸カナマイシンまたは100mL/L硫酸パロモマイシンの上に播種した。播種の4週間後に分離を評価した。
【0088】
結果
全体では、3つの栽培品種の10000個を超える外植片をコントロールコンストラクトまたはBBMコンストラクトとともに共培養した。選択培地上での培養の最初の3週間は、すべての外植片のサイズが大きくなり、薄緑色または白っぽい小さいカルスが目で見えるようになった。さらに2週間後、使用したサイトカイニンのタイプに応じて、カルス形成および/または直接のシュート形成が切断表面に生じた。TDZの存在下においては、外植片は複数のシュート様構造(SLS)を形成したが、ゼアチンリボシドは、主にカルスおよび少数のSLSを誘導した(図2および3)。この段階において、35S::BBM:GRで形質転換された外植片は、コントロールよりも多いSLSを生成した。EM培地に移した後は、35S::BBM:GRのSLSだけが増殖し、次の3〜4週間以内に初生葉上にシュートまたは体細胞胚を形成した(図4および5ならびに表2)。適切なシュートの発生、伸長および形成のすべてが、PRMに移した後に促進された。伸長したシュートを発根培地に移した後、その移した後の2週間以内に根の形成が起きた。形質転換の6ヶ月後、発根したシュートをロックウールブロックに移し、種子生成のために温室条件に馴化させた。
【0089】
【表2】
【0090】
表2は、2つのBBMコンストラクトを用いたときの再生の比較を示している。
35S::BBM:GRコンストラクトによる形質転換によってトランスジェニックシュートが生成されたが、コントロールからは生成されなかった。選択された条件下において、コントロール形質転換は、シュート様構造(SLS)またはシュートではなくカルスの生成を示した(図12)。試験された3つの系統のうち、Fiestaが最も高い再生能を示し(48%)、それにSpirit(3,4%)およびFerrari(1,7%)が続いた(表3)。温室条件に馴化させた後、植物は、急速に生育し、花成したが、形質転換されていないコントロール植物よりも約30%短いままだった。自殖および他殖が成功したことから、稔性は形質転換および再生のプロセスの影響を受けなかったことが示された。
【0091】
体細胞胚形成の開始により、トランスジェニック植物の複数のシュートが形成された(図5)。いくつかの独立した形質転換実験から得られたFiestaおよびFerrari由来の合計20個を超える独立したトランスジェニック植物が作出された。同じ外植片から得られた独立したT0植物におけるPCRによる分子分析は、すべてのシュートがトランスジェニックであること、および形質転換1回あたりに使用された最初の外植片数から計算された全体の形質転換効率が0.5〜1%で変動し得ることを示した。
【0092】
分離比分析から、導入遺伝子がメンデルのパターンに従って遺伝することが示された(表4)。
【0093】
【表3】
【0094】
表3は、35S::BBM:GRで形質転換された後の種々の品種のシュート形成のパーセンテージを示している。
【0095】
【表4】
【0096】
表4は、選択培地上で生育された、自家受精した成熟トランスジェニック植物からの子孫の分離比分析を示している。
【0097】
考察
結果から、誘導性の過剰発現されたBBM遺伝子を使用することによって、トランスジェニックアマトウガラシ植物の良質のシュートを直接または体細胞胚形成を介して再生することができること、および導入遺伝子が次世代に遺伝されることが示された。
【0098】
トウガラシの種および品種における、正常植物への再生に至る体細胞胚形成の誘導は、集中的に研究されている。しかしながら、アマトウガラシでは、体細胞胚の誘導は可能であったが、胚は、頂端分裂組織を欠き、正常植物に成長しなかった。再生プロセス中にBBM遺伝子を活性化することにより、稔性アマトウガラシ植物を再生することができた。
【0099】
実施例2
BBMによる抵抗性ペチュニアW138の遺伝形質転換
ペチュニアのW138系統は、再生およびその後のトランスジェニック植物の作出に対して抵抗性であることが証明されている。
【0100】
成熟トランスジェニックペチュニア植物を得る目的で、W138の外植片を、ペチュニア形質転換に対する標準的なプロトコールを用いて形質転換した。
【0101】
W138バックグラウンドの2系統(NC2676−10、NC2676−11)およびW5バックグラウンドの1系統(293)を誘導性のBBMコンストラクト(35S::BBM::GR)またはコントロールT−DNAコンストラクト(この場合はGUSレポーター遺伝子を含む)で形質転換した。両方のコンストラクトによって3つすべての系統からカナマイシン耐性カルスを得た(最も高い効率はNC2676−11であり、それに293が続いた)。コントロールコンストラクトのカルスは、強いGUS発現を示した。
【0102】
シュート様構造(SLS)および原基が、まずNC2676−11系統に見られ、続いて同じ順序で他の系統においても見られたが、しかしながら、さらなる成長および生長は、35S:BBM::GRで形質転換されたカルスでしか観察されなかった(図14および15)。
【0103】
アマトウガラシにおけるように、BBMの過剰発現によって、抵抗性植物においてもトランスジェニックシュートが形成される。
【0104】
実施例3
35S::BBM::GR系統の子孫の分析
複数の35S::BBM::GR系統のホモ接合性T1子孫を、TDZ、DEXおよび/またはTDZならびにDEXをさらに含む共培養培地またはコントロールとしてTDZ/DEXを含まない共培養培地上でインビトロにおいて生育した。
【0105】
ホモ接合性35S::BBM:GR系統由来の子葉外植片の培養から、核によって誘導されるBBMタンパク質および核によって誘導されないBBMタンパク質によって引き起こされる成長の差異が明らかになった。横方向に切断された子葉の周縁部において、体細胞胚が形成される(図19)。これらの作用は、DEXを含まない培地上で生育された子葉外植片からは観察されなかった。
【0106】
本明細書中の結果は、調節された外来性BBMの発現を用いることにより、トランスジェニックアマトウガラシの高品質の形態学的に正常なシュートを生成することができることを示す。そのような体細胞胚は、実際に、接合胚と著しい類似性を有した。現実に、トウガラシ子葉に対して多数(>100)の体細胞胚を誘導することができた。トウガラシ外植片において確認することができた多量のそのような胚は、組織培養において成熟アマトウガラシ植物を作出する際に少なくとも100倍の増殖率に到達するには十分である。この知見により、維持系統を使用する必要なく、雄性不稔のアマトウガラシ植物を増殖することも可能である。
[参照文献]
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗性(recalcitrant)植物である成熟トランスジェニック植物を提供するための方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって入手可能な、成熟トランスジェニック植物、植物材料、子孫、植物の一部、種子またはそれらのクローンに関する。本発明はまた、同時形質転換系としての本発明の方法に従って入手可能な成熟トランスジェニック植物またはその植物の一部の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝形質転換は、生命科学の分野において使用される方法論であり、同様に多くの目的のために様々な生物において使用される方法論でもある。この技術は、生命科学研究の多くの領域において大きな意味を有していたし、今も有している。この技術の1つの態様は、それを用いることにより、個別のヌクレオチド分子(例えば、遺伝的エレメントおよび/または遺伝子)またはそのようなヌクレオチド分子によってコードされるタンパク質の機能を同定することができることである。得られる遺伝子改変生物は、基礎研究もしくは応用研究において使用することができるか、または産業上の利用において使用することができる。
【0003】
遺伝形質転換は、目的のヌクレオチド分子を受け手側の(receiving)植物種に移すことができるので、植物科学の分野において強力な技術であり得る。そのようなヌクレオチド分子は、プロモータ、遺伝子、ターミネータ、タンパク質機能の遺伝子のリプレッサまたはエンハンサなどを含み得る。
【0004】
遺伝形質転換は、例えば、目的のタンパク質を受け手側の植物に付加することに関する作用を研究することを意図して使用され得る。そのような場合、通常はより大きなヌクレオチド分子の一部である目的のタンパク質をコードする遺伝子が、受け手側の植物に導入される。
【0005】
遺伝子改変植物を得るために、形質転換、その後の再生、およびそれに続いて、形質転換されて再生された植物材料を成熟トランスジェニック植物に成長させることを含む方法を適用することができる。そのような方法は、形質転換段階および再生段階と、その後の成熟トランスジェニック植物へのさらなる成長との両方に対して応答性である特定の植物種にだけ首尾よく適用することができる。そのような植物種としては、例えば、アラビドプシス・サリアーナ(Arabidopsis thaliana)またはブラシカ・ナパス(Brassica napus)が挙げられる。
【0006】
形質転換では、目的のヌクレオチド分子が、植物細胞に導入される。再生では、形質転換された植物材料を、カルス組織などのかなり未決定の構造から植物器官(例えば、葉様構造、シュート様構造または体細胞胚)に成長させ、そこから成熟トランスジェニック植物を得ることができる。
【0007】
その形質転換の段階は、植物細胞または植物材料を、目的のヌクレオチド分子を有するTi(腫瘍誘導)プラスミドを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)細菌と接触させる工程を含み得る。そのTiプラスミドは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによって宿主植物に移されるDNAセグメント;T−DNAエレメントを少なくとも含む。そのT−DNAエレメントは、DNA反復配列、いわゆる左境界配列および右境界配列に隣接している。遺伝子操作によって、目的のヌクレオチド分子を、TiプラスミドのT−DNAの左境界配列と右境界配列との間に入れることが可能である。植物細胞または植物材料をアグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌と接触させることにより、少なくとも目的のヌクレオチド分子を含むTiプラスミドのT−DNAエレメントが、アグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌から植物細胞に移動し、その植物細胞において、そのエレメントは、核ゲノムまたはオルガネラゲノム(例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体由来のゲノム)に安定的にインテグレートされる。他の形質転換の方法を植物材料に適用してもよい。
【0008】
巨視的な観点から適当な再生を考えるとき、植物細胞または植物組織の再生によって、シュート様構造または葉様構造を発生することができる無定形の細胞塊(すなわちカルス)が発生することがある。通常、必要であれば適当な植物ホルモンの影響下において、そのような構造から伸長した茎が発生し得る。続いて、そのような構造は、必要であれば1つまたはそれ以上の適当な発根誘導剤の影響下において、根系の形成を開始し、それにより、さらなる成長を持続するために適した発達した根系を発達させる。続いて、発生段階の進んだ適当な植物材料が、インビトロからエキソビトロ環境に移植され得る。その植物は続いて、成熟トランスジェニック植物を得ることが可能な適当な条件下においてエキソビトロで(例えば、土壌、バーミキュライト、ロックウールなどの上で)生育される。この再生手順は、この全体的な概念の追加工程または代替工程を含んでもよい。あるいは、再生は、成熟植物に生育させることができる可能性のある体細胞胚の形成によって進めてもよい。
【0009】
形質転換および再生のそのような方法は、好ましくは、出発材料としての若い体細胞性植物組織、培養細胞(例えばプロトプラスト)または器官に適用される。そのような組織(例えば、若い植物組織の外植片または苗木由来の植物材料の小片)は、分化または決定の程度が様々である細胞を含む。そのような組織に存在する細胞集団の分化のレベルまたは程度が様々であり不均一であることにおそらく起因して、そのような組織は、再生処理の最初の段階に特に応答性である。
【0010】
ある特定の植物または植物種だけが、形質転換および再生の方法に応答性であると示されている。比較的単刀直入な方法でそのような植物を形質転換して再生する既存の方法を適用することが可能である。逆に、他の植物または植物種がそのような形質転換および再生の方法に対して無応答性であることが明白になっている。そのような植物は、適当な様式で再生せず、そして/または成熟植物に再生させることが全くできない。そのような植物、植物品種または植物栽培品種は、「抵抗性」または「再生不能(regeneration incompetent)」と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
どの基本的な分子もしくは生理学的因子が関与しているか、または植物が抵抗性になるか否かを決定するかは、ほとんど知られていない。このことから、多種多様の植物種に適用することができる信頼できる植物特異的な形質転換方法および再生方法を開発する必要性が現在あることが示唆される。実際に、成熟トランスジェニック植物を効率的に提供するための適当な形質転換方法および再生方法は、いくつかの種またはいくつかの種の栽培品種に対してしか開発されていない。
【0012】
抵抗性植物が形質転換方法および再生方法に供され、成熟トランスジェニック植物に成長するとき、種々の多くの問題が観察されており、克服できないことが見出されている。そのような問題は、供される植物細胞または植物材料由来の植物細胞を形質転換することができないことを含む。または、形質転換を達成することができた場合でも、そのような形質転換された材料は、形質転換された成熟植物に成長しない可能性がある。形質転換された細胞または植物材料は、ある特定の成長段階まで再生し、異常な挙動(例えば、変更されたもしくは異常な生育、成熟前での成長の終結、大幅に遅れた成長、または不正確な成長)を示し得る。また、偽陽性植物の形成が起きることも知られている。そのような形質転換されていない植物材料は、選択薬剤の圧力から逃れることがあり、成熟植物に再生することがある。
【0013】
さらに、上記方法の適用性、信頼性および適合性に関して以下の問題が知られている。再現性に問題がある場合がある;上記方法の成果は、予測不可能である場合があり、産業的環境における適当な用途のためには、シュート、根または小植物を再生する量が少なすぎる場合がある;上記方法は、単一の植物種または所与の植物種の特定の栽培品種群にしか適用できない;上記方法は、ハイスループットまたはルーチンの用途に適していない可能性がある;上記方法は、適当な適用性のために特定の細菌株に依存し得る。そのような方法は、コスト効率の高い産業上の用途にとって適当でないことは明らかであり得る。それゆえ、抵抗性植物種に適用することができる、成熟トランスジェニック植物を提供するための効率的で信頼できる方法が必要とされ続けている。
【0014】
ゆえに、本発明の目的は、形質転換段階および再生段階を含む、抵抗性植物である成熟トランスジェニック植物を得るための方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、本発明の方法によって入手可能なトランスジェニック植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
とりわけ上記の目的は、添付の請求項に定義される方法によって提供される。
詳細には、本発明は、成熟トランスジェニック植物を提供するための方法であって、その方法は、植物細胞または植物材料を形質転換して再生する工程を含み、その植物細胞または植物材料がBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド分子で形質転換され、そのBBMタンパク質の活性が形質転換中および/または形質転換された植物細胞もしくは植物材料の再生中に誘導され、その植物細胞または植物材料が抵抗性植物を起源とする、方法に関する。
【0016】
本発明に至る研究によって、アマトウガラシおよびペチュニアW138などのいくつかの抵抗性植物を起源とする植物材料が、形質転換中および再生中にBBMを誘導することによって成熟トランスジェニック植物に再生させることができるのに対し、これらの段階においてBBMを誘導しないと、そのような植物は成熟トランスジェニック植物に成長しないことが見出された。当該分野および本明細書中における抵抗性植物は、そのような植物を起源とする植物材料が応答性植物にとって適当な形質転換および再生の手順に供されるとき、本質的に成熟トランスジェニック植物に再生および成長しない植物である。そのような方法の基本原理は、植物ホルモン、好ましくは、オーキシン、サイトカイニンまたはジベレリン酸だけでなく、アブシジン酸、エチレンまたはそれらの阻害剤も含む培地と接触した形質転換された植物材料が、応答性植物の場合のように、形質転換された植物材料の再生を可能にすることである。本明細書中の抵抗性植物は、そのような任意の条件下において成熟トランスジェニック植物に成長できない植物である。
【0017】
かなり多数の抵抗性植物、特に、経済的に重要な植物種、作物または品種に属する抵抗性植物は、再生を用いて成熟トランスジェニック植物を提供するのに適した方法を開発することを目指した広範囲の研究の対象である。従来技術の方法を用いてそのような植物由来の植物材料を形質転換して成熟トランスジェニック植物に再生しようと試みるときに遭遇する多くの種々の問題とあわせて、アマトウガラシなどの抵抗性植物が成熟トランスジェニック植物に再生できないとよく知られていることを考えると、本発明の効率は驚くべきものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の利点は、明らかに抵抗性植物由来の植物細胞または植物材料を、1つまたはそれ以上の生物学的に活性な薬剤(例えば、植物ホルモン、または植物ホルモンの作用を模倣する物質)を加えることによって助けられても、または助けられなくても、成熟トランスジェニック植物に成長させることができる点である。そのような生物学的に活性な薬剤が使用されるとき、それらは形質転換された植物材料を培養する培地に加えられ、それにより、トランスジェニック植物材料が成熟トランスジェニック植物に成長することを可能にすることができる。そのような生物学的に活性な薬剤をBBMの活性が誘導されていない植物細胞または植物材料に加えても、そのような植物細胞または植物材料は成熟トランスジェニック植物に再生できなかった。
【0019】
本発明の別の利点は、形質転換段階および/または再生段階におけるBBM活性のタイミングを調節する可能性を含む。BBMの時間的活性を調整することにより、本発明によって抵抗性植物から入手可能な成熟トランスジェニック植物の質または量のさらなる最適化が可能になり得る。
【0020】
本発明のさらなる利点は、生殖生長段階を通じて、形質転換された植物材料の適当な成長を確実にする可能性に関する。植物の成長の生殖生長期の間のBBMタンパク質の不適当な発現および/または活性を防ぐことによって、部分不稔または完全不稔に関する問題を回避することができるかまたは軽減することができる。
【0021】
本明細書中の再生は、形質転換された植物細胞が体細胞胚、葉様構造またはシュート様構造に成長していくことを含む。その後の段階において、そのような植物組織は、さらに成熟トランスジェニック植物に成長することができる。
【0022】
したがって、本発明は、形質転換中および再生中にBBMを活性化することによって抵抗性植物を起源とする植物材料から成熟トランスジェニック植物を効率的に得ることを初めて可能にする。本明細書におけるBBM活性とは、形質転換された宿主植物の遺伝子の転写に対する、形質転換されたBBMの発現の作用のことを意味する。BBMは、転写因子であるので、その活性は、1つまたはそれ以上のBBM標的遺伝子の転写に影響することを含む。BBMの活性化は、誘導された際にBBMが核に局在化されるようになることを可能にすることだけでなく、その転写または翻訳を誘導することによっても、達成することができる。BBMの活性化により、BBMが調節性のヌクレオチド配列および/またはタンパク質配列に直接的または間接的に結合することによってその標的遺伝子の転写の誘導または抑制が引き起こされることが考えられる。BBM活性の基礎をなすメカニズムに関係なく、発現コンストラクトから発現されたBBMタンパク質の活性が誘導された結果は、形質転換および再生に供された抵抗性植物を起源とする植物材料が、成熟トランスジェニック植物に成長することができるということである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書における「成熟トランスジェニック植物」とは、生存可能な子孫を与えることができる少なくとも1つの生殖器官、好ましくは、より多くのそのような器官(例えば、種子を含む果実)を生成する進んだ発生段階に達した植物のことを意味する。本明細書中の用語「成熟植物」は、用語「稔性植物」と交換可能である。そのような生殖器官は、有性生殖器官(例えば、花)または栄養生殖器官(例えば、塊茎、匍匐枝、根茎、球茎、小鱗茎または鱗茎)であり得る。本明細書中に記載されるような生殖器官から生存可能な子孫をもたらすことができる、本発明に従って得ることができる成熟トランスジェニック植物が、特に興味深い。
【0024】
本明細書において、花は、単性であり得る、すなわち、少なくとも雄性生殖器官(雄ずい群)もしくは少なくとも雌性生殖器官(雌ずい群)のいずれかを有し得るか;または本明細書において、花は、両性であり得る、すなわち、少なくとも1つの雄性生殖器官および少なくとも1つの雌性生殖器官を有し得る。
【0025】
本明細書において、花は、好ましくは稔性であるが、機能的な卵細胞または機能的花粉のいずれかを含むこともできる。稔性の花の場合、そのような花は、その後生存可能な子孫をもたらす、機能的花粉および1つまたはそれ以上の機能的な卵細胞を有する。機能的花粉および1つまたはそれ以上の機能的な卵細胞を有する花は、自家受精だけでなく他家受精によっても1つまたはそれ以上の種子を生成することができる。機能的な卵細胞または機能的花粉のいずれかを含む花の場合、そのような花は、自家受精によって種子を生成しないが、他家受精によって種子を生成することができる。したがって、そのような花は、雄性不稔または雌性不稔であり得る。しかしながら、雄性不稔の花は、別の花の機能的花粉によって受精され得る。雌性不稔の花の花粉を用いることにより、別の花を受精させることができる。そのような花の雄性不稔は、細胞質雄性不稔(CMS)、胞子体型自家不和合性、配偶体型自家不和合性または他の任意の不稔系の結果であり得る。上記の生物学的用語は、それらの分野において認識されている意味において使用される。
【0026】
成熟トランスジェニック植物をもたらすことができる最初の形質転換された植物材料から外植片を得ることも可能性として考えられる。最初の形質転換体の外植片から得られるそのような成熟トランスジェニック植物もまた、本発明に記載の、および本発明の方法によって直接得られた生成物としての、成熟トランスジェニック植物の意味の範囲内に入る。
【0027】
本明細書中の用語「植物細胞」とは、植物または植物材料から得られる任意の細胞のことを指す。プロトプラストまたは液体懸濁液などからの任意の細胞のことも意味する。
【0028】
本明細書中の用語「植物材料」とは、植物の任意の構造、組織または器官から得られる任意の外植片、小片または切り取ったもののことを指す。本明細書における植物材料は、植物の任意の組織または器官のことも指すことがある。前記外植片、小片または切り取ったものが由来する前記植物組織または植物器官は、子葉、胚軸、上胚軸、種子、カルス、葉、根、シュート、花、葯、花粉、胚珠、卵細胞、果実、分裂組織、原基、花序、葉柄、プロトプラスト、シンク組織、ソース組織、苗木、シンク器官、ソース器官、塊茎、接合子胚、体細胞胚、または半数体の倍加半数体に由来する胚を含む。また、この点において、単細胞培養物、懸濁液、雄性発生(androgenic)培養物、雌性発生(gynogenic)培養物などの細胞培養物も含まれる。特に、植物材料という用語は、苗木由来の組織(例えば、子葉またはその小片)のことを指す。
【0029】
本明細書中の用語「形質転換する」とは、ヌクレオチド分子(例えば、発現ベクターまたは発現コンストラクト)を受け手側の植物細胞に導入する方法のことを指す。そのような形質転換手順は、遺伝子もしくはタンパク質または別の遺伝的エレメント(例えば、プロモータ、エンハンサ、ターミネータなど)の機能を解明するために用いることができる。そのヌクレオチド分子は、好ましくは、植物から得られたものであるか、または植物から得られたヌクレオチド配列に基づくものである。そのヌクレオチド分子はまた、合成の起源のものでもあり得る。そのヌクレオチド分子は、細菌ベクター(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(例えば、Bent,2000を参照のこと)または植物の形質転換に適した別の細菌(例えば、Broothaerts et al.,2005を参照のこと)を使用することによって植物細胞に導入することができる。その形質転換手順は、粒子銃(particle bombardment)、機械的注入、または本発明における使用に適した他の形質転換手法も含み得る。そのような技術のすべてが、当業者に公知であり、本発明を実施するために器用な技能を行うことなく適用され得る。
【0030】
本発明の別の態様は、ナス属(Solanum)、ペチュニア属(Petunia)、チューリップ属(Tulipa)、ユリ属(Lilium)、サフラン属(Crocus)、アヤメ属(Iris)、グラジオラス属(Gladiolus)、ホウレンソウ属(Spinacia)、ブタンソウ属(Beta)、アカザ属(Chenopodium)、インゲンマメ属(Phaseolus)、エンドウ属(Pisum)、トウガラシ属(Capsicum)からなる群から選択される植物、特にナス科(Solaneceae)由来の植物に由来する植物細胞または植物材料に関する。本発明は、より具体的には、ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum)種、ペチュニア・ヒブリダ(Petunia hybrida)種、チューリップ属の種(Tulipa spp)、ユリ属の種(Lilium ssp)、サフラン属の種(Crocus,ssp)、アヤメ属の種(Iris ssp)、グラジオラス属の種(Gladiolus ssp)、スピナセア・オレラセア(Spinacea oleracea)、ベータ・バルガリス(Beta vulgaris)、ケノポディウム・クイノア(Chenopodium quinoa)、ファセオラス・バルガリス(Phaseolus vulgaris)、ファセオラス・コシネアス(Phaseolus coccineus)、ピスム・サティブム(Pisum sativum)およびカプシカム・アンナム(Capsicum annuum)、特に、アマトウガラシであるカプシカム・アンナム植物に関する。これらの植物種および/またはいくつかの植物種のいくつかの栽培品種、品種もしくはタイプは、周知のこととして抵抗性であり、形質転換および/または成熟トランスジェニック植物への再生を行い難い。
【0031】
本発明は、特に、抵抗性ジャガイモ(ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum))のタイプまたは品種、ペチュニア(ペチュニア・ヒブリダ(Petunia hybrida))のタイプまたは品種(例えば、W138)、およびより詳細には、アマトウガラシ(カプシカム・アンナム(Capsicum annuum))のタイプまたは品種(少なくともアマトウガラシの場合、当業者によって、周知のこととして抵抗性であると考えられており、知られている)に関する。
【0032】
カプシカム・アンナム種は、果実の食味に基づいて2つの群、すなわち、アマトウガラシ(またはシシトウ)タイプおよびトウガラシ(hot pepperまたはchili pepper)タイプに分類される。アマトウガラシタイプの群は、辛味でない甘味のある果実をつけるトウガラシ植物を含む。そのような果実は、果実のより進んだ成熟レベルでは、その果実中に低レベルのカプサイシン(8−メチル−N−バニリル−6−ノネンアミド)を有する。本明細書においてアマトウガラシの群は、ブロッキー(blocky)、ベル(bell)、ラムヨ(lamuyo)、パプリカ(paprika)、ハンガリアン・パプリカ(Hungarian paprika)、ニューメキシカン・パプリカ(New Mexican paprika)、スカッシュペッパー(squash pepper)、スパニッシュ・パプリカ(Spanish paprika)、ピミエント(pimientio)、イタリアン・フライング(Italian frying)、ジャパニーズ・スイート(Japanese Sweet)、ビエジョ・アルガ・ダルセ(Viejo arruga dulce)およびキューバン(Cuban)品種を含む(De Witt & Bosland,1997)。
【0033】
アマトウガラシは、高度に抵抗性のカプシカム・アンナムであると考えられている。アマトウガラシ植物が形質転換および再生を含む方法に供されたとき、以下の観察結果が報告されている。カルスから葉原基が形成されない;葉様構造が再生段階に進むことができない;再生中の組織にシュートが存在しない;シュート芽が伸長しない;シュート芽からシュート様テラトーマが発生する;頂端分裂組織が伸長しない;再生中のシュートの頂芽優性が低下する;選択圧下において生育されたカルスから非トランスジェニックシュートが再生する;再生中のシュートの稔性が低下する、適切な根系がトランスジェニックシュートから発生できない、または植物組織もしくは植物器官の生育が大きく遅れる。偽陽性植物、すなわち、選択圧下で植物の生育を可能にする必要な耐性付与遺伝子を含まない成熟非トランスジェニック植物の出現も知られている。したがって、従来技術は、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を提供するための形質転換および再生の適当な、有効なまたは信頼できる方法を教示しないと言うことができる。本発明は、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を得る方法が提供されるという利点を有する。
【0034】
本発明に記載の方法を適用することにより、成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物が提供され、特に、これらの植物から十分に成長したトウガラシ果実および生存可能な種子も提供される。さらに、本発明は、外来性BBMヌクレオチド配列を含む発芽する苗木を提供するために使用することができる。自家受精した成熟トランスジェニック植物の分離比分析から、導入遺伝子が次世代の子孫に遺伝されたことが実証された。いくつかの成熟トランスジェニック植物の子孫のメンデルの法則に従った分離は、単一の遺伝子座の存在に対応した。表4は、分離比分析の結果を表している。このように、本発明は、形質転換されたヌクレオチド配列を含む生存可能な子孫を生成する成熟トランスジェニックアマトウガラシ植物を提供した。
【0035】
本発明の方法によって得られたトランスジェニックアマトウガラシの種子は、NCIMB41732番として寄託された。
【0036】
本発明の別の態様は、配列番号1であるBBMタンパク質、または配列番号1と少なくとも50%、60%、70%、好ましくは、80%、より好ましくは、90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%の同一性および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするBBMタンパク質の機能的ホモログに関する。タンパク質がBBMホモログであるか否かは、目的のタンパク質が、配列番号1のBBMタンパク質ではなくBBM標的遺伝子のプロモータに結合されたレポーター遺伝子を同様に発現するか否かを評価することによって確認することができる。そのような標的遺伝子は、例えば、アクチン脱重合因子9(ADF9;GeneID:829649、TAIR:AT4G34970)を含む。
【0037】
あるいは、候補遺伝子は、発現ベクターが前記BBM候補タンパク質の誘導性の核転写活性を提供する候補BBMタンパク質をコードする発現ベクターを用いて、アマトウガラシ植物に形質転換されてもよい。アマトウガラシ植物由来の植物細胞に形質転換する際、その供された植物材料が1つまたはそれ以上の成熟トランスジェニック植物に成長することは、本発明に従って生じる。遺伝子またはタンパク質がBBMの機能性ホモログであるかを本発明に従って確認することは、十分に当業者の能力の範囲内である。初期調査において、当業者は、研究所(例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)または他の任意のそのような研究所)によって提供される最新の電子的な分子生物工学的ツールおよびデータベースを調べることができる。そのようなツールおよびデータベースは、任意の未知の遺伝子またはタンパク質が機能的なBBMホモログであり得るか否かという任意の指摘が存在し得るかを迅速に評価する手段を当業者に提供する。そのような指摘は、関係するクレードまたは同じクレードにおける進化的保存および分類についてBBMに関する未知配列の情報;未知配列が、BBMに関係する遺伝子またはタンパク質のクラス(例えば、ANT、PLT1、PLT2を含むAP2ファミリー)に属するか否か;AP2ドメインなどの特定のドメインを共有すること;そのような共有されるドメイン、単一のまたは反復のAP2ドメインの数;BBM様と呼ばれる配列などの遺伝子またはタンパク質の名称を含み得る。その結果として、調査の第2段階では、目的の配列が機能的なBBMホモログであるかを確かめるために、限られた数の遺伝子またはタンパク質だけが、抵抗性植物、特に、アマトウガラシに形質転換されるのに必要とされるだろう。ゆえに、この手順に従って、現代生物工学の当業者は、過度の負担なしに、遺伝子またはタンパク質が機能的なBBMホモログであり得るか否かを確認することができるだろう。
【0038】
本明細書中の用語「配列同一性」は、配列番号1に記載の完全長BBMタンパク質における同一のアミノ酸の数を完全長のアミノ酸の数で除して100を乗じたものと定義される。例えば、配列番号1と90%の同一性を有する配列は、以下の計算:521/579×100=90%によって例証されるように、配列番号1の579アミノ酸という配列全体にわたって、521個の同一アミノ酸を含む。
【0039】
BBMは、種々の異なる種(例えば、ブラシカ・ナパス、アラビドプシス・サリアーナ、メディカゴ・トランカラータ(Medicago trunculata)、グリシン・マックス(Glycine max)、ゼア・メイズ(Zea mays))において保存されている。本願において開示されるように、アブラナ(Crucifers)(またはアブラナ科(Brassicaceae))の分類群の植物由来のBBM遺伝子を使用して、形質転換および再生を含む方法によって、別個かつ遠縁のナス科(Solanaceae)から成熟トランスジェニック植物を得ることが可能である。おそらく、進化的保存のレベルのおかげで、これらのタンパク質は、ナス科(Solaneceae)にわたるかまたは単子葉植物から双子葉植物にさえ及ぶ種々の抵抗性植物種に対して本方法を適用する場合に適当なものとなる。
【0040】
【表1】
【0041】
表1:配列番号1のBBMに似ている様々な植物種のタンパク質のGI番号(GenInfo識別子)
本発明のさらに別の態様は、転写活性化因子、翻訳アクチベータまたは核標的化系(nuclear targeting system)からなる群から選択される遺伝的エレメントに作動可能に連結されたBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0042】
そのような遺伝的エレメントは、BBMタンパク質の適当な空間的活性および/または時間的活性を可能にするBBMタンパク質の活性の調節を可能にする。本明細書における空間的活性とは、器官または組織に特異的なBBM活性を達成することができることを意味する。そのような遺伝的エレメントを使用する利点は、BBMタンパク質の不適当な発現または活性に関する問題の発生を防ぐことができる点である。
【0043】
好ましい実施形態において、BBMタンパク質は、核標的化系に作動可能に連結される。この実施形態において、翻訳段階で融合されたBBM::GRのタンパク質を核に移動させるかまたは転位させることによって、BBMの活性を調節することが可能である。
【0044】
本発明に記載の遺伝的エレメントが、転写活性化因子であるとき、転写レベルでBBMの活性を制御することが可能である。そのような転写誘導系は、エタノール誘導性プロモータまたは熱ショック誘導性プロモータを含む系であり得る。5’UTRまたは3’UTR配列に配置され得る翻訳アクチベータを用いることにより、翻訳調節によってBBM活性を制御することができる。どの系を用いることによって、上で述べた遺伝的エレメントに従ってBBM活性を誘導することができるかは、当業者に明らかである。他の適当な系としては、エストロゲン誘導系、PRP誘導系、UAS誘導系、任意のVP16を含む系が挙げられる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2を特徴とするヌクレオチド配列に作動可能に連結される。このヌクレオチド配列によってコードされるペプチドは、植物材料がデキサメタゾン(DEX)を含む培地と接触したときにBBMタンパク質の活性が誘導されることを可能にする。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態において、再生中の形質転換された植物細胞または植物材料は、BBMタンパク質の活性を誘導するのに適した薬剤を含む培地と接触される。
【0047】
本発明のさらに別の実施形態において、BBMタンパク質の活性を誘導するのに適した薬剤は、エタノールである。この実施形態において、エタノールは、外来性BBM遺伝子の転写を誘導するために使用され得る。転写を誘導するための他の系もまた、本発明を実施するために適している。BBMの活性は、本発明を実施するために、他のレベル(例えば、翻訳のレベルまたは翻訳後のレベル)においても制御され得る。
【0048】
この態様の実施形態によれば、発現ベクターは、1つもしくはそれ以上の選択可能マーカー、1つもしくはそれ以上の目的のタンパク質、および/または1つもしくはそれ以上の目的の転写産物をさらにコードする。そのような目的のタンパク質は、目的の任意の病原体に対する抵抗性を提供する任意のタンパク質を含むが、ビタミン、栄養分、糖などの産生をもたらす経路の一部であるタンパク質も含む。
【0049】
本発明はさらに、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む外来性ヌクレオチド配列、およびBBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントを含み、抵抗性植物である、上記の方法によって入手可能な成熟トランスジェニック植物またはその材料に関する。本発明の好ましい実施形態において、成熟トランスジェニック植物は、ナス属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、ブタンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属由来の抵抗性植物からなる群から選択される植物、特に、ナス科由来の植物である。
【0050】
本発明のより好ましい実施形態において、成熟トランスジェニック植物は、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である。
【0051】
本発明に記載の成熟トランスジェニック植物は、配列番号1である外来性BBMタンパク質、または配列番号1と少なくとも50%、60%、70%の同一性、好ましくは、少なくとも80%の同一性、より好ましくは、少なくとも90%の同一性、なおもより好ましくは、少なくとも95%の同一性、および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするBBMタンパク質の機能的ホモログを含む。好ましくは、成熟トランスジェニック植物は、本発明に記載のBBMタンパク質をコードする外来性ヌクレオチド配列をそのゲノム内に含む。
【0052】
本明細書において、外来性ヌクレオチド配列は、形質転換などの生物工学的手順によって植物材料に導入されたヌクレオチド配列である。外来性タンパク質は、外来性ヌクレオチド配列からコードされるタンパク質である。
【0053】
本発明のさらに別の実施形態において、外来性BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、転写活性化因子、翻訳アクチベータ、または好ましくは、核標的化系からなる群から選択される。
【0054】
本発明の利点は、外来性BBMタンパク質の活性が、空間的様式と時間的様式の両方において、BBMタンパク質の適当な活性または発現を可能にするように誘導することができる点である。形質転換および/または再生において外来性BBMの活性が誘導される可能性に加えて、外来性BBMの活性が都合の悪い有害作用を有し得る成長段階においては外来性BBMの活性を低下することができるかまたは無くすことができることは、特に有益であるとみられる。外来性BBMの空間的活性は、組織特異的プロモータを用いて調節され得る。例えば、植物成長の生殖生長期において活性でないプロモータを使用することにより、不稔性に関する問題が回避され得る。苗木の生育および成長の段階において活性なプロモータを使用することは、形質転換された植物材料の再生において好ましいだろう。
【0055】
本発明に記載の遺伝的エレメントは、外来性BBMの適当な活性を可能にするために外来性BBM遺伝子に作動可能に連結される。適当なエレメントとしては、任意の熱ショック誘導系、エタノール誘導系、エストロゲン誘導系、PRP誘導系、UAS誘導系、任意のVP16を含む系が挙げられる。当業者にとっては、本発明を実施するために他の適当な系を使用することができること、および生物工学的方法を使用することによりそのような系を作製することができることは明らかである。
【0056】
さらに、ドミナントリプレッサ、ドミナントアクチベータ、アンチセンスコンストラクト、RNAiコンストラクト、siRNAコンストラクト、ノックアウトの使用に基づく方法、またはBBM活性に影響する同じ作用を選別する他のそのような方法によって本発明に記載のBBM活性を調節することが可能であると考えられる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態は、配列番号2を特徴とする、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに関する。この遺伝的エレメントは、BBMタンパク質に作動可能に連結することができ、それにより、翻訳融合がもたらされる。そのような作動可能な連結は、BBMタンパク質が、BBM活性の誘導を可能にするトランスジェニック細胞の核に局在することを可能にする。この実施形態において、外来性BBMの活性化は、植物材料がデキサメタゾンを含む培地と接触したときにBBMタンパク質の活性の誘導を可能にする配列番号2によってコードされるペプチドによって媒介される。
【0058】
さらに、本発明は、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物の子孫、植物の一部、種子またはクローンに関する。本発明の利点は、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物から子孫を得ることができる点である。そのような子孫は、例えば、組織または器官からの無性繁殖によって、成熟トランスジェニック植物から得ることができる。そのような場合、子孫は、細胞、組織、器官または適当な任意の植物の一部を繁殖するのに適した方法によって得ることができる。そのような方法は、様々な手段による植物材料のクローン化、接木、葉を切り取ったものの繁殖、切り取ったものの発根または他のそのような適当な方法を含み得る。繁殖方法は、子孫を得るための生殖体の調製に基づく技術も含み得る。そのような技術は、雌性発生または雄性発生による倍加半数体の子孫の作出を含む。植物組織培養または植物細胞培養を含む適当な方法もまた、子孫を得るために構想される。
【0059】
BBMをコードするヌクレオチド配列を植物細胞のゲノムから切除するか、組み換えるか、または失わせることができるヌクレオチド配列を含む遺伝的コンストラクトに本発明に記載のBBM遺伝子をクローニングすることによって本発明を実施することも可能であると考えられる。そのような系としては、例えば、Cre−Lox系またはFLP/FRT系が挙げられるが、別の適当な組換え系も含まれ得る。
【0060】
さらに、トランスジェニックの子孫および/または非トランスジェニックの子孫が、本発明に記載の成熟トランスジェニック植物から得られることがあることに注意されたい。そのような子孫は、メンデルの法則に従った導入遺伝子の分離を可能にする成熟植物を他家受精するかまたは自家受精することによって、得ることができる。非トランスジェニックの子孫は、導入遺伝子がヘテロ接合性である成熟トランスジェニック植物の自家受精によって得られるかもしれないし、成熟トランスジェニック植物を、非トランスジェニック子孫をもたらすことができるBBM導入遺伝子を含まない他の任意の適当な植物と交配することによって得られるかもしれない。
【0061】
本発明の別の態様は、同時形質転換系としての本発明の方法に従って入手可能な成熟トランスジェニック植物または植物の一部の使用に関する。本明細書中の本発明の範囲は、同時形質転換系の基本原理として、好ましくは、マーカーを含まない系として、本発明に記載の誘導性のBBMヌクレオチド配列を含むヌクレオチド分子の使用も包含する。
【0062】
本明細書ではいくつかの実施形態が構想される。第1の実施形態では、外来性かつ誘導性のBBMを含む植物(例えば、T1またはそれ以降のアマトウガラシ植物)に由来する植物材料が、目的の遺伝子を含み得る別の発現コンストラクトで形質転換される。このT1またはそれ以降の植物は、外来性かつ誘導性のBBM導入遺伝子についてヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。第2の実施形態では、非トランスジェニック抵抗性植物を起源とする植物材料が、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列に加えて、1つもしくはそれ以上の目的の遺伝子または1つもしくはそれ以上の目的の遺伝的エレメントをコードすることができる別のヌクレオチド配列を含む発現コンストラクトで形質転換される(そして成熟トランスジェニック植物に再生される)。このストラテジーの利点は、得られる各成熟植物が、本質的に、誘導性のBBMコンストラクトおよびさらなる目的のヌクレオチド配列を含むことになるので、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含めることによって、マーカーを含まない効率的な形質転換および再生が可能になる点である。
【0063】
さらなる実施形態において、非トランスジェニック抵抗性植物細胞または植物材料は、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト、およびさらなる目的のヌクレオチド配列を含む異なる第2の発現コンストラクトで形質転換される。好ましくは、抵抗性植物細胞または植物材料は、両方の発現コンストラクトと同時に接触される。このさらなる目的のヌクレオチド配列は、さらなる目的のタンパク質をコードし得るか、または好ましくはコードする。これらの実施形態の利点は、抵抗性植物種、例えば、アマトウガラシを、本質的に任意の目的のヌクレオチド配列または遺伝子で形質転換し、再生することができる点である。そのような目的のヌクレオチド配列は、目的の配列に対するRNAi配列もしくはアンチセンス配列、過剰発現配列、機能獲得配列、または他の任意の目的の配列から選択され得る。
【0064】
両方の実施形態が、外来性BBMに加えて他の任意の目的のヌクレオチド分子を含むアマトウガラシなどの成熟トランスジェニック植物を得ることを可能にする。
【0065】
同時形質転換系に関する第1の実施形態は、適当な表現型または遺伝子型に基づいて外来性BBMを含むトランスジェニック植物を第1に選択することができるという意味においてさらなる利点を有する。適当な表現型には、十分に生育するかもしくは成長する植物、あるいは適当な稔性または他の任意の適当なもしくは好ましい表現型を有する植物が含まれ得る。適当な遺伝子型は、導入遺伝子の安定性、位置効果によって引き起こされるものなどのBBMの発現レベル、コンストラクトの漏出性(leakiness)、すなわち、BBMの不適当な活性、単一植物における導入遺伝子の数、単一植物内の1つのインテグレーション部位に存在するコンストラクトの数(多コピーのT−DNAコンストラクトが単一の遺伝子座に挿入され得る)または他の任意の適当なもしくは好ましい特性に関することがある。
【0066】
同時形質転換系に関する第2の実施形態は、単回の形質転換および再生の処理において、外来性BBMに加えて他の任意の目的のヌクレオチド配列を含む抵抗性植物を得ることを可能にするという意味においてさらなる利点を有する。
【0067】
ここで、これらの両方の実施形態においてそのような同時感染または同時形質転換のためにプロトプラストを使用することが可能であることに特に注意されたい。
【0068】
したがって、追加的にまたは二者択一的に、形質転換された植物細胞または形質転換された植物材料においてその再生中にBBM活性を誘導する工程を包含する、成熟トランスジェニック植物を得るための方法であって、その植物細胞または植物材料は、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに作動可能に連結されたBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む外来性ヌクレオチド分子を含み、その植物材料の植物細胞は、抵抗性植物、特に、アマトウガラシに由来する方法が、提供される。所望であれば、そのトランスジェニック植物細胞またはトランスジェニック植物材料は、成熟トランスジェニック植物に再生される。その植物細胞または植物材料は、T1またはそれ以降の形質転換体に由来し得る。この植物は、好ましくは、誘導性のBBM導入遺伝子についてホモ接合性であるが、ヘテロ接合性であってもよい。
【0069】
再生は、形質転換された植物細胞または植物材料を、BBMタンパク質の活性の誘導に適した薬剤を含む培地と接触させることによって達成することができる。
【0070】
T1またはそれ以降の植物は、活性を誘導することができるBBMタンパク質を含むので、それぞれの抵抗性植物は、BBMが活性化されると再生可能になる。これにより、形質転換された植物細胞または植物材料は、さらなる目的のヌクレオチド配列、特に、目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む別のヌクレオチド分子で形質転換することができ、そしてこの植物材料を成熟トランスジェニック植物に再生する可能性が開ける。この第2の目的のヌクレオチド配列は、目的の配列に対するRNAi配列もしくはアンチセンス配列、過剰発現配列、機能獲得配列、または他の任意の目的の配列を含み得る。活性を誘導することができる外来性BBMタンパク質が存在することに起因して再生能力のある抵抗性植物を得ることは、本質的に任意の目的のヌクレオチド配列または遺伝子を用いて、ここで初めて効率的に形質転換されて成熟するまで再生することが可能なアマトウガラシについて、特に興味深い。したがって、この実施形態において、その方法は、本明細書中で意味されるような同時形質転換系として使用される。
【0071】
あるいは、誘導性かつ外来性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むトランスジェニック植物は、本明細書中で意味されるようなBBMの誘導に適した薬剤を含む栽培培地と接触すると、多数の体細胞胚を発生するので、誘導性のBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む植物細胞または植物材料の再生は、植物を増殖させる目的のために使用することができる。好ましくは、この培地は、さらにより多くの体細胞胚が望まれるとき、適当量のサイトカイニン(例えば、チジアズロン、ゼアチンまたは6−ベンジルアミノプリン)も含む。子葉外植片の表面上における明らかに識別可能な体細胞胚の数は、少なくとも100を超えることが見出されたので、これらの胚を単離すること、およびそれらを出芽させてさらに成熟トランスジェニック植物に成長させることが可能である。増殖させることができるこの植物材料は、好ましくは、外植片、特に、子葉外植片から得られる。
【0072】
さらに、体細胞胚から得られた植物材料を生育させるかまたは成熟させることによる材料または細胞は、再生中にBBMを誘導することによって別の回の増殖に供されてもよく、それにより、そこから体細胞胚が提供される。
【0073】
本発明の最後の態様は、植物材料を形質転換して成熟トランスジェニック植物に再生するための、ヌクレオチド分子の使用であって、その植物材料は抵抗性植物を起源とし、そのヌクレオチド分子はBBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、そのBBMタンパク質は配列番号1と少なくとも50%、60%、70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%、および最も好ましくは、少なくとも98%の同一性を有することを特徴とするか、またはそのBBMタンパク質は、配列番号1を特徴とする、使用に関する。
【0074】
本発明のこの態様の好ましい実施形態において、BBMタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントに作動可能に連結される。
【0075】
本発明のこの態様の別の好ましい実施形態において、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、転写活性化因子、翻訳アクチベータ、または好ましくは核標的化系からなる群から選択される。
【0076】
本発明のこの態様のさらに別の好ましい実施形態において、BBMタンパク質の活性の誘導を可能にするのに適した遺伝的エレメントは、配列番号2である。
【0077】
本発明のこの態様の最後の好ましい実施形態において、抵抗性植物は、ナス属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、ブタンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、特に、ナス科の植物、より詳細には、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である。
【0078】
本願では、以下の図面が参照される:
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、様々な植物種由来のBBMタンパク質の系統樹を示している。
【図2】図2は、カルス形成した3週齢の外植片を明示している。
【図3】図3は、コントロールのカルスおよびSLSの形成を明示している。
【図4】図4は、35S::BBM:GRで形質転換された外植片におけるSLSにおける体細胞胚の形成を明示している。
【図5】図5は、伸長しているシュートを明示している。
【図6】図6は、発根したシュートを明示している。
【図7】図7は、トランスジェニックレッドブロッキーを明示している。
【図8】図8は、トランスジェニックイエローブロッキーを明示している。
【図9】図9は、トランスジェニック植物の種子を示している。
【図10】図10は、Km含有培地上の分離した子孫を示している。
【図11】図11は、分離したトランスジェニック植物の表現型を示している。上段は、Km耐性苗木を示しており、下段は、Km感受性苗木を示している。
【図12】図12は、コントロールまたは35S::BBM:GRで形質転換された子葉外植片がカルス、シュート様構造(SLS)およびシュートを形成したパーセンテージを示している。
【図13】図13は、トランスジェニックトウガラシ植物において行われたPCRの結果のゲルを表している。レーン:M,分子マーカー;P,35S::BBM:GRプラスミドDNA;A,非トランスジェニックアラビドプシス;A+,トランスジェニックアラビドプシス;C,非トランスジェニックトウガラシ;C1〜4,別個のトランスジェニックアマトウガラシ;C5〜8,同じ外植片に由来するトランスジェニックトウガラシのシュート。
【図14】図14は、W138バックグラウンドのトランスジェニックペチュニアのシュート再生を明示している。
【図15】図15は、W138バックグラウンドのトランスジェニックペチュニアのシュート再生を明示している。
【図16】図16は、配列番号1を示している。
【図17】図17は、配列番号2を示している。
【図18】図18は、配列番号3を示している。
【図19】図19は、核転写性のベビーブーム(babyboom)の活性を誘導した後の、35S::BBM::GRを含むアマトウガラシトランスジェニック系統のT1子孫における傷の部位の周縁部における体細胞胚の形成を明示している。
【実施例】
【0080】
本発明は、本発明の範囲を決して限定することを意図していない以下の実施例によってさらに例証される。
【0081】
実施例1
BBMによるアマトウガラシの遺伝形質転換
配列番号1および配列番号2を含むカプシカム・アンナム種であるアマトウガラシ植物の遺伝形質転換。表現型的かつ遺伝子型的に異なる品種のFiesta、FerrariおよびSpirit由来の植物を使用した。
【0082】
ドナー植物の生育
F1雑種であるFiesta、FerrariおよびSpirit(Enza Zaden,The Netherlands)の表面滅菌した種子を、0.8%Microagar(Duchefa)を用いて凝固した、2%スクロースが添加されたフルストレングスのMS培地(Murashige and Skoog,1962)の上に播種した。10日齢の子葉を3〜10mmの外植片に切り出し、23℃の薄明条件下において1〜2日間、共培養培地(CCM)上で前培養した。CCMは、0.7%Microagarを用いて凝固した、1.6%グルコースおよび2mg/Lゼアチンリボシド、0.1mg/Lインドール−3−酢酸(IAA)または0.25〜1mg/Lチジアズロン(TDZ)、10μMデキサメタゾンが添加された改変R培地を含む。独立して反復された6〜10回の実験において、コンストラクト1つあたり平均200個の外植片を使用した。
【0083】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスの生育
アグロバクテリウム・ツメファシエンスの系統GV3101+pMP90(35S::BBM:GR(翻訳段階で糖質コルチコイド受容体(GR)(配列番号2)に融合されるBBMコード配列(配列番号1)に作動可能に連結された35Sプロモータを含む)、35S::BBM(BBMコード配列の配列番号1に作動可能に連結された35Sプロモータを含む)を有する)または35S::GUSを有するコントロールプラスミドを、100mLのYEB培地(0.5%酵母エキス、0.5%牛肉エキス、2%スクロース,pH7.2)中の適切な抗生物質、リファンピシン(100mg/L)、硫酸カナマイシン(100mg/L)および/またはゲンタマイシン(25mg/L)の存在下、28℃において一晩培養物として生育した。植物を形質転換する前に、アグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を、新しく調製された40mg/Lアセトシリンゴン(Sigma)が添加された液体CCMでOD660 0.3〜0.4に希釈した。
【0084】
植物材料の遺伝形質転換
希釈されたアグロバクテリウム・ツメファシエンス培養物を前培養された外植片に加え、室温で30〜60分間インキュベートした。吸い取らせて外植片を乾燥させ、40mg/Lアセトシリンゴンが添加されたCCM上で23℃の薄明条件下において2〜3日間さらに同時培養した後、100mg/L硫酸カナマイシンおよび500mg/Lセフォタキシムが添加されたCCMからなる選択培地に移した。
【0085】
トランスジェニック植物材料の再生
外植片を23℃、16/8時間の昼/夜体制の明光条件に2ヶ月間移した(4週間後に1回継代した)。シュート様構造が出現した外植片を、MS培地(Murashige and Skoog 1962)のマクロ塩とマイクロ塩との混合物、B5培地(Gamborg O.L.1968)に従うビタミン類、1.6%グルコース、1mg/Lイノシトール、20mg/L硫酸アデニン、200mg/Lカゼイン加水分解物、10mg/L GA3、4mg/L BAP、30μMチオ硫酸銀、100mg/L硫酸カナマイシンおよび500mg/Lセフォタキシムからなる伸長培地(EM)に4週間にわたって移した。伸長したシュートを、30mg/Lグルタチオン、60mL/L硫酸カナマイシンおよび300mg/Lセフォタキシムが添加された改変MS培地である前発根(pre−rooting)培地(PRM)に2ヶ月間にわたって移し、次いで、1mg/L IAAを含むかまたは含まない、2%スクロース、50mg/Lセフォタキシムおよびバンコマイシンが添加されたRugini培地からなる発根培地に移した。発根したシュートを温室に移すことにより、結実させた。組織培養に関するすべての化学物質は、Duchefa Biochemicals,Haarlem,The Netherlandsによって供給されたものである。
【0086】
トランスジェニックシュートの分析
CTABミニプレップ法によりDNAを葉から単離し、50μLのTE(10mM Tris pH8,1mM EDTA)に溶解した。BBM特異的プライマーを、公開されているcDNA配列(AF317904および−905)に基づいて設計した。BBMfw:gttaggyttytctctmtctcc,BBMrw:gggctgcaaatccttgataacca。形質転換されるプラスミドおよびトランスジェニックアラビドプシス系統からのDNAをコントロールとして使用した。供給業者のプロトコールに従って、PCR混合物を使用した。PCR条件:15秒間94℃;30秒間48℃:45秒間72℃;35サイクル。結果を図13に示す。
【0087】
トランスジェニック子孫の分析
各個別のトランスジェニックシュートを自家受粉させ、また、元のドナー系統由来の植物と交配することにより、導入遺伝子の遺伝を分析した。回収した後の種子の表面を滅菌し、その種子をMS培地、2%スクロース、0.8%microagarおよび200mg/L硫酸カナマイシンまたは100mL/L硫酸パロモマイシンの上に播種した。播種の4週間後に分離を評価した。
【0088】
結果
全体では、3つの栽培品種の10000個を超える外植片をコントロールコンストラクトまたはBBMコンストラクトとともに共培養した。選択培地上での培養の最初の3週間は、すべての外植片のサイズが大きくなり、薄緑色または白っぽい小さいカルスが目で見えるようになった。さらに2週間後、使用したサイトカイニンのタイプに応じて、カルス形成および/または直接のシュート形成が切断表面に生じた。TDZの存在下においては、外植片は複数のシュート様構造(SLS)を形成したが、ゼアチンリボシドは、主にカルスおよび少数のSLSを誘導した(図2および3)。この段階において、35S::BBM:GRで形質転換された外植片は、コントロールよりも多いSLSを生成した。EM培地に移した後は、35S::BBM:GRのSLSだけが増殖し、次の3〜4週間以内に初生葉上にシュートまたは体細胞胚を形成した(図4および5ならびに表2)。適切なシュートの発生、伸長および形成のすべてが、PRMに移した後に促進された。伸長したシュートを発根培地に移した後、その移した後の2週間以内に根の形成が起きた。形質転換の6ヶ月後、発根したシュートをロックウールブロックに移し、種子生成のために温室条件に馴化させた。
【0089】
【表2】
【0090】
表2は、2つのBBMコンストラクトを用いたときの再生の比較を示している。
35S::BBM:GRコンストラクトによる形質転換によってトランスジェニックシュートが生成されたが、コントロールからは生成されなかった。選択された条件下において、コントロール形質転換は、シュート様構造(SLS)またはシュートではなくカルスの生成を示した(図12)。試験された3つの系統のうち、Fiestaが最も高い再生能を示し(48%)、それにSpirit(3,4%)およびFerrari(1,7%)が続いた(表3)。温室条件に馴化させた後、植物は、急速に生育し、花成したが、形質転換されていないコントロール植物よりも約30%短いままだった。自殖および他殖が成功したことから、稔性は形質転換および再生のプロセスの影響を受けなかったことが示された。
【0091】
体細胞胚形成の開始により、トランスジェニック植物の複数のシュートが形成された(図5)。いくつかの独立した形質転換実験から得られたFiestaおよびFerrari由来の合計20個を超える独立したトランスジェニック植物が作出された。同じ外植片から得られた独立したT0植物におけるPCRによる分子分析は、すべてのシュートがトランスジェニックであること、および形質転換1回あたりに使用された最初の外植片数から計算された全体の形質転換効率が0.5〜1%で変動し得ることを示した。
【0092】
分離比分析から、導入遺伝子がメンデルのパターンに従って遺伝することが示された(表4)。
【0093】
【表3】
【0094】
表3は、35S::BBM:GRで形質転換された後の種々の品種のシュート形成のパーセンテージを示している。
【0095】
【表4】
【0096】
表4は、選択培地上で生育された、自家受精した成熟トランスジェニック植物からの子孫の分離比分析を示している。
【0097】
考察
結果から、誘導性の過剰発現されたBBM遺伝子を使用することによって、トランスジェニックアマトウガラシ植物の良質のシュートを直接または体細胞胚形成を介して再生することができること、および導入遺伝子が次世代に遺伝されることが示された。
【0098】
トウガラシの種および品種における、正常植物への再生に至る体細胞胚形成の誘導は、集中的に研究されている。しかしながら、アマトウガラシでは、体細胞胚の誘導は可能であったが、胚は、頂端分裂組織を欠き、正常植物に成長しなかった。再生プロセス中にBBM遺伝子を活性化することにより、稔性アマトウガラシ植物を再生することができた。
【0099】
実施例2
BBMによる抵抗性ペチュニアW138の遺伝形質転換
ペチュニアのW138系統は、再生およびその後のトランスジェニック植物の作出に対して抵抗性であることが証明されている。
【0100】
成熟トランスジェニックペチュニア植物を得る目的で、W138の外植片を、ペチュニア形質転換に対する標準的なプロトコールを用いて形質転換した。
【0101】
W138バックグラウンドの2系統(NC2676−10、NC2676−11)およびW5バックグラウンドの1系統(293)を誘導性のBBMコンストラクト(35S::BBM::GR)またはコントロールT−DNAコンストラクト(この場合はGUSレポーター遺伝子を含む)で形質転換した。両方のコンストラクトによって3つすべての系統からカナマイシン耐性カルスを得た(最も高い効率はNC2676−11であり、それに293が続いた)。コントロールコンストラクトのカルスは、強いGUS発現を示した。
【0102】
シュート様構造(SLS)および原基が、まずNC2676−11系統に見られ、続いて同じ順序で他の系統においても見られたが、しかしながら、さらなる成長および生長は、35S:BBM::GRで形質転換されたカルスでしか観察されなかった(図14および15)。
【0103】
アマトウガラシにおけるように、BBMの過剰発現によって、抵抗性植物においてもトランスジェニックシュートが形成される。
【0104】
実施例3
35S::BBM::GR系統の子孫の分析
複数の35S::BBM::GR系統のホモ接合性T1子孫を、TDZ、DEXおよび/またはTDZならびにDEXをさらに含む共培養培地またはコントロールとしてTDZ/DEXを含まない共培養培地上でインビトロにおいて生育した。
【0105】
ホモ接合性35S::BBM:GR系統由来の子葉外植片の培養から、核によって誘導されるBBMタンパク質および核によって誘導されないBBMタンパク質によって引き起こされる成長の差異が明らかになった。横方向に切断された子葉の周縁部において、体細胞胚が形成される(図19)。これらの作用は、DEXを含まない培地上で生育された子葉外植片からは観察されなかった。
【0106】
本明細書中の結果は、調節された外来性BBMの発現を用いることにより、トランスジェニックアマトウガラシの高品質の形態学的に正常なシュートを生成することができることを示す。そのような体細胞胚は、実際に、接合胚と著しい類似性を有した。現実に、トウガラシ子葉に対して多数(>100)の体細胞胚を誘導することができた。トウガラシ外植片において確認することができた多量のそのような胚は、組織培養において成熟アマトウガラシ植物を作出する際に少なくとも100倍の増殖率に到達するには十分である。この知見により、維持系統を使用する必要なく、雄性不稔のアマトウガラシ植物を増殖することも可能である。
[参照文献]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稔性トランスジェニック植物を提供するための方法であって、前記方法は、
a)ベビーブームタンパク質(BBM)をコードする発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程であって、前記発現ベクターが前記ベビーブームタンパク質(BBM)の誘導性の核転写活性を提供する工程と、
b)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性をもたらす誘導条件下において、前記形質転換された植物細胞を体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)に再生する工程と、
c)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性が実質的に存在しない非誘導条件下において、前記体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)を、稔性トランスジェニック植物に培養する工程とを
含む、方法。
【請求項2】
前記植物細胞が、ナス属、ブタンソウ属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属およびエンドウ属からなる群から選択される植物細胞、好ましくは、ナス科、より好ましくは、ペチュニア属およびトウガラシ属である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物細胞が、アマトウガラシのカプシカム・アンナムまたはペチュニア・ヒブリダ由来の植物細胞である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベビーブームタンパク質(BBM)が転写活性を有する条件下において、前記ベビーブームタンパク質(BBM)が、配列番号1とアミノ酸レベルで少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%、および最も好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記誘導性の核転写活性が、転写調節エレメント、核標的化配列または翻訳調節エレメントによって提供される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記核標的化配列が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列によってコードされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導条件が、デキサメタゾンによって提供される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記発現ベクターが、1つもしくはそれ以上の選択可能マーカー、1つもしくはそれ以上の目的のタンパク質および/または1つもしくはそれ以上の目的の転写産物をさらにコードする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、さらに
d)前記稔性トランスジェニック植物から植物細胞を得る工程と、
e)1つまたはそれ以上の目的のタンパク質または転写産物をコードする発現ベクターで前記植物細胞を形質転換する工程と、
f)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性をもたらす誘導条件下において、前記形質転換された植物細胞を体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)に再生する工程と、
g)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性が存在しない非誘導条件下において、前記体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)を稔性トランスジェニック植物に培養する工程と、
h)必要に応じて、工程(d)〜(g)を1回またはそれ以上繰り返す工程とを
含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターを含む、稔性トランスジェニック植物。
【請求項11】
前記植物が、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、好ましくは、ナス科、またはNCIMB番号41732として寄託されているものである、請求項10に記載の稔性トランスジェニック植物。
【請求項12】
前記植物が、カプシカム・アンナム植物、好ましくは、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、請求項10または請求項11に記載の稔性植物。
【請求項13】
請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターを含む、請求項10〜12のいずれかに記載の稔性植物由来の種子または果実。
【請求項14】
好ましくは、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、より好ましくは、ナス科から選択され、なおもより好ましくは、前記植物がカプシカム・アンナム植物であり、最も好ましくは、前記植物がアマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、稔性トランスジェニック植物を作出するための、請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載のベビーブームタンパク質の使用。
【請求項15】
好ましくは、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、より好ましくは、ナス科から選択され、なおもより好ましくは、前記植物がカプシカム・アンナム植物であり、最も好ましくは、前記植物がアマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、稔性トランスジェニック植物を作出するための、請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターの使用。
【請求項1】
稔性トランスジェニック植物を提供するための方法であって、前記方法は、
a)ベビーブームタンパク質(BBM)をコードする発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程であって、前記発現ベクターが前記ベビーブームタンパク質(BBM)の誘導性の核転写活性を提供する工程と、
b)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性をもたらす誘導条件下において、前記形質転換された植物細胞を体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)に再生する工程と、
c)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性が実質的に存在しない非誘導条件下において、前記体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)を、稔性トランスジェニック植物に培養する工程とを
含む、方法。
【請求項2】
前記植物細胞が、ナス属、ブタンソウ属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属およびエンドウ属からなる群から選択される植物細胞、好ましくは、ナス科、より好ましくは、ペチュニア属およびトウガラシ属である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物細胞が、アマトウガラシのカプシカム・アンナムまたはペチュニア・ヒブリダ由来の植物細胞である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベビーブームタンパク質(BBM)が転写活性を有する条件下において、前記ベビーブームタンパク質(BBM)が、配列番号1とアミノ酸レベルで少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、なおもより好ましくは、少なくとも95%、および最も好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記誘導性の核転写活性が、転写調節エレメント、核標的化配列または翻訳調節エレメントによって提供される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記核標的化配列が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列によってコードされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導条件が、デキサメタゾンによって提供される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記発現ベクターが、1つもしくはそれ以上の選択可能マーカー、1つもしくはそれ以上の目的のタンパク質および/または1つもしくはそれ以上の目的の転写産物をさらにコードする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、さらに
d)前記稔性トランスジェニック植物から植物細胞を得る工程と、
e)1つまたはそれ以上の目的のタンパク質または転写産物をコードする発現ベクターで前記植物細胞を形質転換する工程と、
f)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性をもたらす誘導条件下において、前記形質転換された植物細胞を体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)に再生する工程と、
g)前記ベビーブームタンパク質(BBM)の核転写活性が存在しない非誘導条件下において、前記体細胞胚、シュート様構造(SLS)および/または葉様構造(LLS)を稔性トランスジェニック植物に培養する工程と、
h)必要に応じて、工程(d)〜(g)を1回またはそれ以上繰り返す工程とを
含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターを含む、稔性トランスジェニック植物。
【請求項11】
前記植物が、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、好ましくは、ナス科、またはNCIMB番号41732として寄託されているものである、請求項10に記載の稔性トランスジェニック植物。
【請求項12】
前記植物が、カプシカム・アンナム植物、好ましくは、アマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、請求項10または請求項11に記載の稔性植物。
【請求項13】
請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターを含む、請求項10〜12のいずれかに記載の稔性植物由来の種子または果実。
【請求項14】
好ましくは、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、より好ましくは、ナス科から選択され、なおもより好ましくは、前記植物がカプシカム・アンナム植物であり、最も好ましくは、前記植物がアマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、稔性トランスジェニック植物を作出するための、請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載のベビーブームタンパク質の使用。
【請求項15】
好ましくは、ナス属、ブタンソウ属、ペチュニア属、チューリップ属、ユリ属、サフラン属、アヤメ属、グラジオラス属、ホウレンソウ属、アカザ属、インゲンマメ属、エンドウ属およびトウガラシ属からなる群から選択され、より好ましくは、ナス科から選択され、なおもより好ましくは、前記植物がカプシカム・アンナム植物であり、最も好ましくは、前記植物がアマトウガラシのカプシカム・アンナム植物である、稔性トランスジェニック植物を作出するための、請求項1〜9、好ましくは、請求項1〜8のいずれかに記載の1つまたはそれ以上の発現ベクターの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図19】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図19】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2012−532587(P2012−532587A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518938(P2012−518938)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059540
【国際公開番号】WO2011/003850
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(509018845)エンザ・ザデン・ビヘーア・ベスローテン・フエンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】ENZA ZADEN BEHEER B.V.
【出願人】(510090760)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059540
【国際公開番号】WO2011/003850
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(509018845)エンザ・ザデン・ビヘーア・ベスローテン・フエンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】ENZA ZADEN BEHEER B.V.
【出願人】(510090760)
【Fターム(参考)】
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