説明

後部強膜硬化装置

【課題】後部強膜に対して角膜を経由することなく光を照射して後部強膜を硬化し得る後部強膜硬化装置を提案する。
【解決手段】コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤の吸収特性に対応する波長の光を照射する光源と、光を伝送するシート状の伝送部と、板状でなり伝送部から当該板側方に導かれる光を前方に照射する照射部と、照射部を囲い伝送部の側方に沿って延長されるワイヤとを含む構成の後部強膜硬化装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後部強膜硬化装置に関し、強度近視や眼底におけるブドウ腫などの治療に関して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リボフラビンが投与された角膜に対して紫外線を照射することによって角膜におけるコラーゲンの架橋反応を誘起し、該角膜の硬度を増大させるといった円錐角膜の治療法が開示されている(非特許文献1参照)。
【0003】
強膜は、角膜と同じようにコラーゲン繊維に埋め込まれた構造を呈するので、リボフラビンが投与された強膜に対して紫外線を照射すれば硬化する。また強膜は図1に示すように眼球を包む膜である。
【0004】
強膜が硬化されれば眼軸の延長が抑制され、強度近視やブドウ腫などの病状が回避又は緩和されるものと考えられる。つまり、眼後部における強膜の硬化は、有用な近視治療法の1つとして期待できる。なお、現状では、後部ブドウ腫に対して有用となる近視治療法が見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gregor Wollensak, MD,Eberhard Spoerl, PhD and Theo Seiler, PhD, MD、“Riboflavin/Ultraviolet-A-inducedCollagen Crosslinking for the Treatment of Keratoconus”、American Journal of Ophthalmology,Vol.135, NO.5, (2003) p620-p627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、後部強膜に対して角膜側から紫外線を照射する場合、紫外線は角膜に吸収されるものであるため、後部強膜に到達する程度にまで紫外線の強度を上げるという条件が必須となる。しかしながら光強度を上げると網膜などが損傷することになるため、有用な近視治療法における1つのとして適さないことになる。
【0007】
したがって、後部強膜に対して角膜を経由することなく光を照射して後部強膜を硬化できるようにすることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、後部強膜硬化装置であって、コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤の吸収特性に対応する波長の光を照射する光源と、光を伝送するシート状の伝送部と、板状でなり伝送部から当該板側方に導かれる光を前方に照射する照射部と、照射部の側方を囲い伝送部の側方に沿って延長されるワイヤとを有する。
【0009】
また本発明は、後部強膜硬化装置であって、角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察する装置が観察可能となるガイド光を照射するLEDを中心として、コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤の吸収特性に対応する波長の光を照射するLEDを格子状に配した板状のLEDチップと、LEDチップの側方を囲い、該LEDチップから離れる方向へ延長されるワイヤと、LEDチップで生じる熱の冷却機構とを有する。
【発明の効果】
【0010】
眼球の外部から生体内部を経て眼後部位に照射部又はLEDチップを配する場合、患者の負担を軽減する観点では眼球の外部から眼後部位までの距離が最短となることが好ましく、該最短距離は眼球に表面に沿った経路を経ることになる。
【0011】
この眼後部位観察装置では、生体内の挿入対象とされる伝送部がシート状であり、照射部又はLEDチップが板状であるため、眼後部位まで最短経路となる眼球を沿った経路を通じて速やかに照射部又はLEDチップを配置させることが可能となり、この結果、患者に対する負担の軽減が可能となる。
【0012】
一方、眼球の表面近傍の組織は繊維が介在するものであるが、生体内の挿入対象とされる部材の側方を囲うワイヤが補強するため、眼後部位に対して照射部又はLEDチップを迅速かかつ簡易に配させることが可能となる。またワイヤは、眼球の曲率に応じた光ファイバーの湾曲状態を維持するため、患部に対する照射部の角度及び距離を一定に保持することが可能となり、この結果、患部に対する単位時間当たりの照射量を一定とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】人間における眼の構造を概略的に示す図である。
【図2】治療システムの構成を概略的に示す図である。
【図3】リボフラビンの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】光ファイバーの配置状態を概略的に示す図である。
【図5】照射部の構成を概略的に示す図である。
【図6】2波長ファイバー束23と、照射部15との部分写真を示す図である。
【図7】被覆膜を概略的に示す図である。
【図8】後部強膜硬化手順を示すフローチャートである。
【図9】他の実施の形態における光伝送部の構成(1)を概略的に示す図である。
【図10】他の実施の形態における光伝送部の構成(2)を概略的に示す図である。
【図11】他の実施の形態における生体内挿入部を概略的に示す図である。
【図12】他の実施の形態における後部強膜硬化装置の構成(1)を概略的に示す図である。
【図13】他の実施の形態における後部強膜硬化装置の構成(2)を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.治療システムの構成]
[1−2.後部強膜硬化装置の構成]
[1−3.後部強膜硬化手順]
[1−4.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0015】
<1.実施の形態>
[1−1.治療システムの構成]
図2において、治療システム1を示す。この治療システム1は、眼後部位観察装置2と、後部強膜硬化装置3とによって構成とされる。
【0016】
眼後部位観察装置2は、角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察できるものとされる。具体例として眼底鏡がある。
【0017】
後部強膜硬化装置3は、強膜に対して網膜を経由することなく紫外線を照射できるものとされる。
【0018】
[1−2.後部強膜硬化装置の構成]
後部強膜硬化装置3は、この実施の形態では図2に示してあるように、硬化誘起光源11、照明光源12、光源制御部13、光伝送系14及び照射部15を含む構成とされる。
【0019】
硬化誘起光源11は、コラーゲンの架橋反応に関与するリボフラビンの吸収特性に対応する波長を含む光(以下、これを硬化誘起光とも呼ぶ)を照射する。図3からも明らかなように、リボフラビンは、おおよそ260[nm]、365[nm]、445[nm]にピークをもつ吸収特性となる。したがって、例えば360[nm]〜460[nm]の波長範囲に中心波長をもつLED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)が硬化誘起光源11として適用される。
【0020】
なお、現状では、250[nm]〜270[nm]に中心波長をもつLED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)の入手が困難である。しかしながらこの波長域の光を照射する場合、例えば、DPSS(半導体励起固体)緑色レーザの非線形光学効果(Second Harmonic Generation)を用いて266[nm] 程度の波長の光を照射する硬化誘起光源11が適用可能である。
【0021】
照明光源12は、眼後部位観察装置2が観察可能となる光(以下、これをガイド光とも呼ぶ)を照射する。具体的には、眼球での不要な光化学反応が生じ難く、眼球に対する透過性が高い500 [nm]〜800[nm] の波長範囲に中心波長をもつ照明光源12が適用される。
【0022】
なお、波長が長いほど散乱量が低減するので、眼球に対する透過性の観点では700 [nm]〜800[nm] の波長範囲に中心波長をもつほうがより好ましい。ただし、眼後部位観察装置2が可視光の他に近赤外光にも感度をも有している場合、近赤外光を照射する照明光源12が適用可能である。
【0023】
光源制御部13は、操作部(図示せず)での操作により設定される情報に基づいて、硬化誘起光源11又は照明光源12に対する照射光の照射タイミングと、光量と、波長とをそれぞれ可変することができるようになされている。
【0024】
光伝送系14は、硬化誘起光を伝送する系14Aと、ガイド光を伝送する系14Bと、硬化誘起光及びガイド光を伝送する系14Cとに分けることができる。
【0025】
硬化誘起光を伝送する系14Aでは、18本の光ファイバーの束(以下、これを硬化誘起光ファイバー束とも呼ぶ)21が用いられる。この硬化誘起光ファイバー束21の一端は硬化誘起光源11に連結され、他端は光コネクタLCNにおける第1の入力端に連結される。
【0026】
ガイド光を伝送する系14Bでは、1本の光ファイバー(以下、これをガイド光ファイバーとも呼ぶ)22が用いられる。このガイド光ファイバー22の一端は照明光源12に連結され、他端は光コネクタLCNにおける第2の入力端に連結される。
【0027】
硬化誘起光及びガイド光を伝送する系14Cでは、光コネクタLCNにおける入力端に対応する本数の光ファイバーの束(以下、これを2波長ファイバー束とも呼ぶ)23が用いられる。この2波長ファイバー束23の一端は光コネクタLCNにおける出力端に連結され、他端は照射部15に連結される。
【0028】
2波長ファイバー束23は、眼球の外周(表面)に沿って導入されるものであるため、柔軟性が要求される。したがって、2波長ファイバー束23における各光ファイバーは、ガラスファイバーに比べて曲げに対する強度を有するプラスチックファイバーとされる。
【0029】
ファイバー径は1[mm]以下であることが好ましいが、小さいほど伝送効率が悪くなる。したがって、柔軟性と伝送効率との双方を満足させる観点では、200、400、600又は800[μm]のファイバー径のなかから、2波長ファイバー束23の数などに応じて選択することが好ましい。
【0030】
なお、硬化誘起光ファイバー束21における各光ファイバーと、ガイド光ファイバー22との種類は特に問わない。ただし、曲げに対する強度や、柔軟性の観点ではプラスチックファイバーが好ましく、紫外線の長距離伝送の観点では石英ガラスファイバーが好ましい。
【0031】
また2波長ファイバー束23は、眼球の外周(表面)に沿って導入されるものであるため、患者に対する負担の軽減が要求される。したがって、図4(A)に示すように、2波長ファイバー束23のうち、生体内の挿入対象となる先の部分(以下、これを生体内挿入部とも呼ぶ)BIPは、伝送方向と直交する方向へ一列に配列され、シート状とされる。
【0032】
この生体内挿入部BIPは、眼球部分の解剖学的な知見に基づくと、幅(列方向の長さ)を5[mm]以上10[mm]以下とし、厚みを2[mm]以下、望ましくは1[mm]以下としたほうが患者に対する負担を軽減する観点ではより好ましい。
【0033】
また、2波長ファイバー束23における生体内挿入部BIPまでの各光ファイバーの配置は例えば図4(B)に示す状態とされ、生体内挿入部BIPにおける各光ファイバーの配置は例えば図4(C)に示す状態とされる。
【0034】
図4(B),(C)に示されるように、2波長ファイバー束23における各光ファイバーのうち、ガイド光ファイバー22に対応される光ファイバーの位置は、生体内挿入部BIPの幅の中心位置とされる。この結果、2波長ファイバー束23における各光ファイバーを交差させることなく、照射部15の中心にガイド光を伝送させることが可能となる。
【0035】
照射部15は、光伝送系14から伝送される硬化誘起光及びガイド光を均一に照射する構成とされる。具体的には、図5(A)〜(C)に示すように、反射パネル31と、導光板32と、拡散板33とを順に積層した円盤状とされる。導光板32の側面には、2波長ファイバー束23における各光ファイバーの先端が当接される。
【0036】
この照射部15は、眼球部分の解剖学的な知見に基づくと、直径を10[mm]以下とし、厚みを2[mm]以下、望ましくは1[mm]以下としたほうが患者に対する負担を軽減する観点ではより好ましい。
【0037】
反射パネル31は、導光板32の側面から入射される光のうち、照射面(拡散板33)に対して後方に散乱する光を照射面に反射させる。
【0038】
導光板32は、反射パネル31に対向される面に対して所定間隔ごとに形成されるVライン状の溝によって、導光板32から入射される光を拡散板33に導く。なお、反射パネル31に対向される面は、砂面研磨により形成してもよい。
【0039】
拡散板33は、導光板32に対向される面に対して、該導光板32におけるVライン状の溝とは直交する状態で形成されるVライン状の溝によって、導光板32から導かれる光を前方へ均一に拡散させる。
【0040】
導光板32の側面と、2波長ファイバー束23における各光ファイバーの先端との接続部分は、該側面に対して、光ファイバーの先端が当接された状態で2波長ファイバー束23の先端外周に固着された補強部材34を接着する構造とされる。
【0041】
したがって、光ファイバーの先端部分を導光板32の一の側面に差し込むといった接続構造を採用する場合に比べて、導光板32との接続部分における光ファイバーの耐久性が向上される。この補強部材34には、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polmethyl Methacrylate) などのアクリル材が適用される。
【0042】
なお、補強部材34は、図5(D)に示すように、2枚のアクリル板34A,34Bの対向面にそれぞれ形成されるVライン状の溝に2波長ファイバー束23における光ファイバーを1本ずつ挟んだ状態で、2波長ファイバー束23の先端外周に固着される。したがって、導光板32との接続部分における光ファイバーの耐久性がより一段と向上される。
【0043】
ただし、導光板32の一の側面に対して光ファイバー径程度の孔を設け、その孔に光ファイバーの先端部分を差し込んだ場合であっても実質的な強度が保たれるため、補強部材34を省略しても実質的には問題はないことが確認されている。
【0044】
ここで、後部強膜硬化装置3における2波長ファイバー束23(生体内挿入部BIP)と、照射部15との実物を示す写真を図6に示す。この図6では、1本のファイバ径との対比から分かるように、2波長ファイバー束23と、照射部15とが薄厚な板状となる。
【0045】
ところで、この実施の形態における生体内挿入部BIPと照射部15とは、図7に示すように、薄厚のカバー部材(以下、これを被覆膜とも呼ぶ)41で被覆される。被覆膜41の材料には、シリコンゴム等のように、生体適合性があり滅菌処理可能で透明となるものが適用される。なお、交換可能な構造とする場合には滅菌処理可能である必要はない。
【0046】
またこの被覆膜41の内部には、生体内挿入部BIPと照射部15との側方を囲うように、該側方に沿ったU字状のワイヤ42が設けられる。ワイヤ径はこの実施の形態では0.6[μm]とされる。
【0047】
[1−3.後部強膜硬化手順]
次に、後部強膜硬化手順を図8のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
第1段階として、硬化誘起光の照射開始の例えば5分前に、リボフラビン溶液が眼球(患部)に対して投与される。
【0049】
第2段階として、照射部15が眼後部位に配されるよう眼球の外周(表面)に沿って生体内挿入部BIPが導入される。この生体内挿入部BIPは、伝送方向と直交する方向へ一列に配列されてシート状となっている。したがってこの段階では眼球の曲率に応じて柔軟に曲げることが可能となり、また患者に対する負担の軽減が可能となる。この結果、眼後部位に対して照射部15を迅速かかつ簡易に配させることが可能となる。
【0050】
第3段階として、患部に対して照射部15が位置合わせされる。具体的には、照明光源12だけを駆動するよう光源制御部14が操作され、照明光源12から照射されるガイド光を眼後部位観察装置2で観察しながら生体内挿入部BIPが移動される。この照射部15は照射面の中心からガイド光を照射するようになっている。したがってこの段階では患部を視認させるのみならず、ガイド光を位置合わせの基準として照射部15を患部に正確に位置させることが可能となる。
【0051】
第4段階として、眼後部位の患部における強膜が硬化される。具体的には、硬化誘起光源11だけを駆動するよう光源制御部14が操作され、例えば、波長が350〜450[nm]、パワーが3[mW/cm2]の硬化誘起光の照射が所定間隔おきに5分間ずつ繰り返される。
【0052】
この後部強膜硬化装置3における生体内挿入部BIPと照射部15とは被覆膜41で被覆され、該被覆膜41の内部には、生体内挿入部BIPと照射部15との側方を囲うようU字状のワイヤ42が設けられている。したがって、この段階では眼球の曲率に応じた光ファイバーの湾曲状態が維持され、患部に対する照射部15の角度及び距離を一定に保持することが可能となる。この結果、患部に対する単位時間当たりの照射量を一定とすることが可能となる。
【0053】
なお、上述の後部強膜硬化手順はあくまで一例であり、該手順に限定されるものではない。
【0054】
[1−4.効果等]
以上の構成において、この眼後部位観察装置2は、硬化誘起光源11から、リボフラビンの吸収特性に対応する波長の硬化誘起光を照射し(図2,図3参照)、伝送方向と直交する方向へ配列されたシート状の光ファイバー束23によって伝送する(図4参照)。そして眼後部位観察装置2は、光ファイバー束23によって照射部15の側方から導かれる硬化誘起光を前方の照射面から均一に照射する(図5参照)。
【0055】
眼球の外部から生体内部を経て眼後部位に照射部15を配する場合、患者の負担を軽減する観点では眼球の外部から眼後部位までの距離が最短となることが好ましく、該最短距離は眼球に表面に沿った経路を経ることになる。
【0056】
この眼後部位観察装置2における光ファイバー束23の生体内挿入部BIPは、伝送方向と直交する方向へ一列に配列されてシート状となっているため、眼球の曲率に応じて柔軟に曲げることが可能となり、この結果、患者に対する負担の軽減が可能となる。
【0057】
一方、眼球の表面近傍の組織は繊維が介在するものであるが、生体内挿入部BIPの側方を囲うワイヤ42が光ファイバーの強度を補うため、眼後部位に対して照射部15を迅速かかつ簡易に配させることが可能となる。またワイヤ42は、眼球の曲率に応じた光ファイバーの湾曲状態を維持するため、患部に対する照射部15の角度及び距離を一定に保持することが可能となり、この結果、患部に対する単位時間当たりの照射量を一定とすることが可能となる。
【0058】
なお、強膜の厚みや透過性には個人差があるが、強膜の透過率がおおよそ1パーセント以下であることが豚眼球を用いた実験で確認されている。ちなみに、この動物実験で用いた2波長ファイバー束23では、各光ファイバーのコア径が0.24[mm]、外径が0.25[mm]とされ、2波長ファイバー束全体の外径が1.25[mm]、長さが60[mm]とされた。
【0059】
ところでこの眼後部位観察装置2は、照明光源12から、角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察する眼底鏡等の眼後部位観察装置2が観察可能となるガイド光を照射する(図2参照)。そして眼後部位観察装置2は、シート状の光ファイバーのうち中心に配される光ファイバーを通じて照射部15に伝送する(図5参照)。
【0060】
したがってこの眼後部位観察装置2では、照射部15における照射面の中心からガイド光が照射されるため、患部を眼後部位観察装置2において視認させることが可能となる。これに加えて、ガイド光を位置合わせの基準として照射部15が患部に正確に位置するよう光ファイバー束23を動かして調整可能となる。このことは、近視治療の観点では特に有用である。
【0061】
以上の構成によれば、後部強膜に対して角膜を経由することなく光を照射して後部強膜を硬化し得る後部強膜硬化装置2を実現できる。
【0062】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、眼に投与すべき増感剤としてリボフラビンが適用された。しかしながら増感剤はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、フルオレセイン(吸収ピーク波長494[nm])、ローズベンガル(吸収ピーク波長580[nm])又はインドシアニングリーン(吸収ピーク波長715[nm],780[nm])など、コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤であればよい。
【0063】
上述の実施の形態では、硬化誘起光ファイバー束21のファイバー数が18本とされた。しかしながら硬化誘起光ファイバー束21のファイバー数はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々のファイバー数とすることができる。なお、ファイバー数は、照射光量における増加の観点では多いほど好ましく、患者負担における低減の観点では少ないほど好ましい。
【0064】
上述の実施の形態では、ガイド光を伝送する系14Bの光ファイバーが1本とされた。しかしながらガイド光を伝送する系14Bのファイバー数はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々のファイバー数とすることができる。ただし、強膜の硬化が主眼であることに鑑みれば、硬化誘起光ファイバー束21のファイバー数よりも少ない1本又は数本程度が好ましい。
【0065】
上述の実施の形態では、2波長ファイバー束23における1つの光ファイバーが、ガイド光ファイバー22から伝送されるガイド光の専用伝送線とされた。しかしながらこの1つの光ファイバーを、ガイド光と、硬化誘起光との伝送線として切り替える形態としてもよい。
【0066】
具体的には、図1との対応部分に同一符号を付した図9に示す伝送形態が適用可能である。この伝送形態では、硬化誘起光源11に連結される19本の硬化誘起光ファイバー束51が18本の硬化誘起光ファイバー束52と、1本の硬化誘起光ファイバー53とに分離される。硬化誘起光ファイバー束52に伝送される硬化誘起光は、凸レンズ54によって平行光線として電子シャッタ55に与えられ、凸レンズ56によって光コネクタLCNにおける第1の入力端に連結される硬化誘起光ファイバー束57に集光される。
【0067】
一方、硬化誘起光ファイバー53に伝送される硬化誘起光は、凸レンズ58によって平行光線として電子シャッタ59に与えられ、ダイロックミラー60を反射して凸レンズ61によって光コネクタLCNにおける第2の入力端に連結される光ファイバー62に集光される。他方、照明光源12に連結されるガイド光ファイバー22に伝送されるガイド光は、凸レンズ63によって平行光線として電子シャッタ64に与えられ、ダイロックミラー60を透過して凸レンズ61によって光ファイバー62に集光される。
【0068】
各電子シャッタ55,59,64はシャッタ制御部(図示せず)によって制御される。具体的には、患部に対して照射部15が位置合わせされる場合、電子シャッタ55,58は閉じられ、電子シャッタ64は開放される。この結果、光コネクタLCNにおける出力端に連結される2波長ファイバー束23には、ガイド光だけが伝送される。
【0069】
一方、眼後部位の患部における強膜が硬化される場合、電子シャッタ55,58は開放され、電子シャッタ64は閉じられる。この結果、2波長ファイバー束23には、硬化誘起光ファイバー束52から伝送される硬化誘起光と、硬化誘起光ファイバー53から伝送される硬化誘起光とが伝送される。
【0070】
このようにしてこの伝送形態では、2波長ファイバー束23における1つの光ファイバーが、ガイド光と、硬化誘起光との伝送線として切り替えられる。したがって、上述の実施の形態の場合に比べて、患部に対する硬化誘起光の均一性が大幅に向上される。また硬化誘起光源11での照射強度を上昇させることなく、患部に対する照射光量が増大されるため、眼球での不要な光化学反応を抑えながら、コラーゲンの架橋反応が促進される。
【0071】
図9に示す伝送形態は、電子シャッタ54,57,62を用いて電動切替したが、図10に示すように光コネクタLCNを用いて手動切替してもよい。この手動切替は、電動切替に比べて光の伝送効率の低減を抑えることができる。
【0072】
上述の実施の形態では、照明光源12から固定波長のガイド光が照射された。この照明光源12は、2波長の光(ガイド光と、硬化誘起光)を照射する光源としてもよい。具体的には、この光源から、患部に対して照射部15が位置合わせする場合にはガイド光を照射させ、眼後部位の患部における強膜が硬化する場合には硬化誘起光を照射させる。このようにすれば、図9に示す伝送形態に比べて簡易に、該伝送形態で上述した同じ効果を奏する。
【0073】
上述の実施の形態では、生体内挿入部BIPが、伝送方向と直交する方向へ一列に配列された。しかしながら配列数は一列に限らず2以上の列としてもよい。要は、生体内挿入部BIPが、一定の厚み以下のシート状とされていればよい。
【0074】
上述の実施の形態では、生体内挿入部BIPが、2波長ファイバー束23における各光ファイバーを伝送方向と直交する方向へ配列する構造とされた。しかしながら生体内挿入部BIPの構造はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば図7との対応部分に同一符号を付した図11に示す生体内挿入部BIPが適用可能である。
【0075】
この生体内挿入部BIPは、紫外光透過型となるシート状のシリコンゴム71に対して、シート状に配した硬化誘起光ファイバー束21が補強部材34を介して挿入され、該シリコンゴム71の先端の一方の面に照射部15が取り付けられる。またシリコンゴム71の表面には、硬化誘起光ファイバー束21の挿入部分と照射部15とを除いて、アルミ等の反射材72がコーティングされ、該シリコンゴム71の側面における反射材72上にはワイヤ42が取り付けられる。この図11に示す生体内挿入部BIPでは、上述の実施の形態の場合に比べて硬化誘起光の伝送効率が向上される。
【0076】
またこの図11に示す生体内挿入部BIPでは、上述の実施の形態における照明光源12、ガイド光ファイバー22、2波長ファイバー束23及び光コネクタLCNが省略される。なお、この図11に示す生体内挿入部BIPにおいて眼後部位観察装置2が観察可能となるガイド光を照射する場合、例えば、シリコンゴム71のうち、照射部15の下方となる位置に照明用LEDを埋め込めばよい。ただし、照明用LEDに生じる熱の冷却機構が必要となる。冷却機構の詳細は後述する。
【0077】
上述の実施の形態では、生体内挿入部BIPと、照射部15とを被覆する被覆膜41内にワイヤ42が設けられた。このワイヤ42を、熱を加えると眼球と対向する面と直交する方向へ屈伸する性質の形状記憶合金のワイヤとし、該ワイヤに対して電線を介して通電することで眼球に沿って曲げるようにしてもよい。なお、形状記憶合金のワイヤを等間隔ごとに配し、それらに通電する電流量を可変するようにすればより一段と眼球に沿って曲げることが可能となる。
【0078】
上述の実施の形態では、照射部15が円平板状とされた。しかしながら照射部15の形状は例えば矩形平板等、種々の形状を採用可能である。なお、板状の照射部15全体を湾曲させて湾曲板状(碗状)としもよい。湾曲板状の照射部15は、平板状の場合に比べて、患部に対して硬化誘起光を集中させることが可能となる。ただし、湾曲板状の照射部15では、照射面(拡散板33)からの照射量が中心とその周辺とで異なり不均一となる。しかしながら解消可能である。
【0079】
具体的には、照射板15の曲率(湾曲の程度)と、照射面(拡散板33)における中心とその周辺との照射量比とは一定の関係にある。したがって、照明光源12に代えて、上述した2波長の光(ガイド光と、硬化誘起光)を照射する光源を採用する。そしてこの光源から照射すべき硬化誘起光の強度を、硬化誘起光源11から照射すべき硬化誘起光の強度に対して照射板15の曲率に応じた割合だけ小さくすれば、照射面(拡散板33)における中心とその周辺との照射量比が同等となる。なお、上述した図9に示す伝送形態でも適用可能である。
【0080】
上述の実施の形態では、被覆膜41と、照射板15における反射パネル31とは別体とされた。しかしながらこれらは一体として形成することが可能である。具体的には、被覆膜41の裏面にアルミ等の反射材でコーティングする。このようにすれば、反射パネル31を削減できるため、上述の実施の形態の場合に比べて部品点数の削減及び薄型化が可能となる。
【0081】
上述の実施の形態では、生体内挿入部BIPにおける被服膜41の外部に硬化誘起光源11及び照明光源12を設けた後部強膜硬化装置3が適用された。しかしながら硬化誘起光源11及び照明光源12としてLEDが適用される場合、図7との対応部分に同一符号を付した図12に示す後部強膜硬化装置80が適用可能である。
【0082】
この後部強膜硬化装置80は、被服膜41内部の先端に、LEDチップ81と拡散板82とを層状に配した構成とされる。LEDチップ81は、例えば、1又は数個の照明用LEDを照射面の中心に配し、それ以外の領域に対して複数の硬化誘起用LEDを格子状に配したものとされ、リード線(図示せず)を介して被服膜41外部の電源(図示せず)に接続される。
【0083】
この後部強膜硬化装置80では、硬化誘起光ファイバー束21、ガイド光ファイバー22、2波長ファイバー束23及び光コネクタLCNが省略できるため、小型化の観点では有用となる。
【0084】
ただしこの後部強膜硬化装置80では、治療時における体温を37[℃]程度で一定とするため、LEDチップ81で生じる熱の冷却機構が必要となる。この冷却機構には、図12に示してあるように、LEDチップ81の裏面にヒートシンク83の一端を取り付け、被服膜41の外側に位置されるヒートシンク83の他端にペルチェ素子84及び冷却フィン85を設けるといった構成が適用可能である。ちなみに冷却フィン85は省略されてもよい。別例として、ペルチェ素子84及び冷却フィン85に代えて、図12(A)との対応部分に同一符号を付した図13に示すように、冷却パイプ86を設けるといった構成が適用可能である。ちなみに冷却パイプ86には例えば水冷用が適用される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、患者の治療若しくは経過観察、生物実験、医薬の創製などの医療産業上において利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1……治療システム、2……眼後部位観察装置、3,80……後部強膜硬化装置、11……硬化誘起光源、12……照明光源、13……光源制御部、14……光伝送系、15……照射部、21,51,52,57……硬化誘起光ファイバー束、22……ガイド光ファイバー、23……2波長ファイバー束、31……反射パネル、32……導光板、33,82……拡散板、34……補強部材、41……被覆膜、42……ワイヤ、53……硬化誘起光ファイバー、54,56,58,61,63……凸レンズ、55,59,64……電子シャッタ、60……ダイロックミラー、71……シリコンゴム、81……LEDチップ、83……ヒートシンク、84……ペルチェ素子、85……冷却フィン、86……冷却パイプ、BIP……生体内挿入部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤の吸収特性に対応する波長の光を照射する光源と、
上記光を伝送するシート状の伝送部と、
板状でなり、上記伝送部から当該板側方に導かれる光を前方に照射する照射部と、
上記照射部の側方を囲い、上記伝送部の側方に沿って延長されるワイヤと
を有する後部強膜硬化装置。
【請求項2】
生体適合性があり透明な材質でなり、上記伝送部の一部又は全部と、上記照射部とを被覆するカバー部材
をさらに有し、
上記ワイヤは、上記カバー部材の内部に設けられる
請求項1に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項3】
上記伝送部は、伝送方向と直交する方向へ配列された複数の光ファイバーであり、
角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察する装置が観察可能となるガイド光を照射する光源と、
上記シート状の複数の光ファイバーの中心に配され、上記ガイド光を伝送する光ファイバーと
を有する請求項1又は請求項2に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項4】
上記伝送部は、伝送方向と直交する方向へ配列された複数の光ファイバーであり、
上記光と、角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察する装置が観察可能となるガイド光とを切り替えて照射可能な2波長光源と、
上記シート状の複数の光ファイバーの中心に配され、上記2波長光源から照射される光を伝送する光ファイバーと
を有する請求項1又は請求項2に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項5】
上記照射部15は湾曲板状でなり、
上記2波長光源から照射される光の強度は、上記光源から照射される光の強度に対して上記照射板の曲率に応じた割合だけ小さくされる
請求項4に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項6】
上記伝送部は、シート状のシリコンゴムであり、
上記シリコンゴムの一端の表面には上記照射部が設けられ、それ以外の表面には反射材がコーティングされる
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項7】
角膜と対向する側から眼球内部の後部位を観察する装置が観察可能となるガイド光を照射するLEDを中心として、コラーゲンの架橋反応に関与する増感剤の吸収特性に対応する波長の光を照射するLEDを格子状に配した板状のLEDチップと、
上記LEDチップの側方を囲い、該LEDチップから離れる方向へ延長されるワイヤと、
上記LEDチップで生じる熱の冷却機構と
を有する後部強膜硬化装置。
【請求項8】
生体適合性があり透明な材質でなり、上記LEDチップを被覆するカバー部材
をさらに有し、
上記ワイヤは、上記カバー部材の内部に設けられる
請求項7に記載の後部強膜硬化装置。
【請求項9】
上記冷却機構は、
一端が上記LEDチップの裏面に取り付けられ、上記カバー部材の外側に延長されるヒートシンクと、
上記ヒートシンクに対して上記カバー部材の外側部分に設けられるペルチェ素子と
を有する請求項7に記載の後部強膜硬化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212115(P2011−212115A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81399(P2010−81399)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】