説明

復号方法、復号装置及び復号プログラム

【課題】受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列を、想定される次数の原始多項式を用いるデスクランブラに入力して復号し、その復号データのエントロピーの大きさで生成多項式を推定する方法は、原始多項式の数が膨大になり、生成多項式の推定に時間を要する。
【解決手段】予め、想定される次数迄の全ての既約多項式を既約多項式テーブル11に用意する。解析二値系列に対して、デスクランブラ14が順次既約多項式によるデスクランブルを行い、エントロピーが低下した時の既約多項式を既約多項式リスト19に登録し、この既約多項式でデスクランブルした系列を新たな解析二値系列とすることを、テーブル11中の既約多項式のすべてについて行う。最後に既約多項式リスト19に登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は復号方法、復号装置及び復号プログラムに係り、特に受信信号のスクランブラ生成多項式を推定して復号を行う復号方法、復号装置及び復号プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、第三者の盗聴などを防止するためにデータ送受信システムでは、例えば、送信すべきデータである二値系列を所定の生成多項式を用いてスクランブルした後、そのスクランブル後のデータを送信し、受信側ではこれを受信して復号する場合、暗号化データを生成するために送信側で使用した所定の生成多項式が正規の受信側でも分かっており、それを用いて受信したデータをデスクランブルする。
【0003】
ここで、スクランブル後のデータは、理想的な暗号であるほど乱数性が高く、情報源のエントロピーが大きいという特徴があるので、復号したデータのエントロピーの大きさを計算して、そのデータの安全性を検証することが行われることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そこで、上記のスクランブルを用いたデータ送受信システムでは、スクランブラに二値系列を入力して攪拌するには、通常は生成多項式に原始多項式を使用するので、送信側で使用した生成多項式が分からなくても、想定される次数の原始多項式を用いるデスクランブラに受信した二値系列を入力して復号し、その復号データのエントロピーの大きさで、送信側で使用した生成多項式を推定することができ、受信データをほぼ復号できる。すなわち、復号データのエントロピーが小さいほど、乱数とはかけ離れた状態であり、正しく復号できていると推定できる。
【0005】
図3は上記の生成多項式を推定する従来の復号装置の一例のブロック図を示す。同図において、生成多項式テーブル1は、予め、想定される次数迄の全ての生成多項式(原始多項式)がテーブル形式で記憶されている。受信されて復号されるべき入力二値系列は、そのエントロピーEminがエントロピー算出器2で算出されると共に、デスクランブラ3に供給される。デスクランブラ3は、まず、生成多項式テーブル1の一番目の生成多項式を用いてデスクランブラ3で、二値系列をデスクランブルして出力系列を生成し、その出力系列のエントロピーEをエントロピー算出器4で算出する。
【0006】
比較器5は上記のエントロピーEinとEとを比較し、E<Eminであれば、更新器6でEminをEと更新し、その時の生成多項式を生成多項式バッファ7に保持しておく。以下同様に、生成多項式テーブル1の生成多項式が無くなるまで上記の動作を繰り返し、その結果、最後に生成多項式バッファ7に保持されている、エントロピーEの最小値が得られる生成多項式が、入力二値系列のスクランブラ生成多項式の推定候補とする。そして、このスクランブラ生成多項式の推定候補を用いてデスクランブルを行うことで、入力二値系列の復号データを得る。
【0007】
このように、従来は入力となる二値系列に対して全ての生成多項式(原始多項式)でデスクランブルを行い、デスクランブル出力のエントロピーが最も低下した時の生成多項式をスクランブラの推定候補としている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−124924号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、アマチュア無線機のデジタル化が可能となる中、電波法により日本国内では使用が禁止されている、秘匿通信を行うことができる無線機が逆輸入され、テロや犯罪に加担する可能性が危惧されている。このような不法デジタルアマチュア無線機による無線通信の聴音を行う場合、上記の従来の復号装置でスクランブラの生成多項式を推定して復号を行うことが考えられる。
【0010】
しかるに、上記のデジタルアマチュア無線機では生成多項式が必ずしも、原始多項式ではないため、想定される次数の生成多項式の数が膨大になり、生成多項式の推定に時間を要する問題が生じる。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、従来よりも高速に生成多項式を推定して入力二値系列を復号できる復号方法、復号装置及び復号プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、第1の発明の復号方法は、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、生成多項式を推定する復号方法であって、初期値が受信した二値系列である解析二値系列に対して、二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いてデスクランブルを行う第1のステップと、解析二値系列のエントロピーと、第1のステップでデスクランブルされたデスクランブル出力系列の各エントロピーを算出してそれらを比較する第2のステップと、デスクランブル出力系列のエントロピーの方が、解析二値系列のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき第1のステップのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、デスクランブル出力系列のエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、デスクランブル出力系列を解析二値系列として更新する第3のステップと、記憶手段が記憶している既約多項式のすべてが第1のステップでのデスクランブで用いられるまで、第1のステップ乃至第3のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点のリストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第4のステップとを含むことを特徴とする。
【0013】
この発明では、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式を予め用意し、デスクランブラを行う解析二値系列のエントロピーを算出しておき、次に、解析二値系列に対して、順次既約多項式によるデスクランブルを行い、エントロピーが低下した時の既約多項式をリストに登録し、デスクランブル出力系列を新たな解析二値系列とし、以下、順次残りの既約多項式で解析二値系列のデスクランブルを行い、更にエントロピーが低下した時の既約多項式をリストに登録し、その既約多項式でデスクランブルした系列を新たな解析二値系列とする動作を残りの既約多項式のすべてについて行い、リストに登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とするようにしたため、エントロピー計算回数を低減できる。
【0014】
また、上記の目的を達成するため、第2の発明の復号方法は、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、生成多項式を推定する復号方法であって、二値系列のエントロピーを算出する第1のステップと、二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いて二値系列のデスクランブルを行う第2のステップと、第2のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第3のステップと、第1のステップと第3のステップでそれぞれ算出されたエントロピーを比較する第4のステップと、第4のステップにより、第3のステップで算出されたエントロピーの方が、第1のステップで算出されたエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき第3のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、第3のステップで算出されたエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、第3のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第5のステップと、第5のステップで記憶された解析二値系列を、記憶手段が記憶している既約多項式のうちまだ使用していない既約多項式を用いてデスクランブルを行う第6のステップと、第6のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第7のステップと、最小エントロピーEminと第7のステップで算出されたエントロピーとを比較する第8のステップと、第8のステップにより、第7のステップで算出されたエントロピーの方が、最小エントロピーEminよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき第6のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、第7のステップで算出されたエントロピーを最小エントロピーEminとして更新し、かつ、第7のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第9のステップと、記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブで用いられるまで、第6のステップ乃至第9のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点のリストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第10のステップとを含むことを特徴とする。
【0015】
この発明では、第1の発明と同様にして、リストに登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とするようにしたため、エントロピー計算回数を低減できる。ここで、上記の発明の二値系列は、デジタルアマチュア無線機で無線通信されるデータであってもよい。
【0016】
また、上記の目的を達成するため、第3の発明の復号装置は、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、生成多項式を推定する復号装置であって、二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式を予め記憶している記憶手段と、初期値が受信した二値系列である解析二値系列に対して、記憶手段からの一の既約多項式を用いてデスクランブルを行うデスクランブル手段と、解析二値系列のエントロピーと、第1のステップでデスクランブルされたデスクランブル出力系列の各エントロピーを算出するエントロピー算出手段と、解析二値系列のエントロピーとデスクランブル出力系列のエントロピーとを比較し、デスクランブル出力系列のエントロピーの方が、解析二値系列のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのときデスクランブル手段で用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、デスクランブル出力系列のエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、デスクランブル出力系列を解析二値系列として更新する比較・登録手段と、記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブ手段で用いられるまで、デスクランブル手段とエントロピー算出手段と、比較・登録手段の動作を繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点のリストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする制御手段とを有することを特徴とする。
【0017】
この発明では、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式を記憶手段に予め用意しておき、デスクランブル手段でデスクランブラを行う解析二値系列のエントロピーを算出しておき、次に、解析二値系列に対して、順次既約多項式によるデスクランブルを行い、エントロピーが低下した時の既約多項式をリストに登録し、デスクランブル出力系列を新たな解析二値系列とし、以下、順次残りの既約多項式で解析二値系列のデスクランブルを行い、更にエントロピーが低下した時の既約多項式をリストに登録し、その既約多項式でデスクランブルした系列を新たな解析二値系列とする動作を残りの既約多項式のすべてについて行い、リストに登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とするようにしたため、エントロピー計算回数を低減できる。
【0018】
また、上記の目的を達成するため、第4の発明の復号装置は、受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、生成多項式を推定する復号装置であって、二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段と、初期値が二値系列である解析二値系列を記憶するバッファ手段と、バッファ手段からの解析二値系列に対して、記憶手段に記憶されている一の既約多項式を用いてデスクランブルを行ってデスクランブル出力系列を出力するデスクランブル手段と、解析二値系列の第1のエントロピーとデスクランブル出力系列の第2のエントロピーをそれぞれ算出するエントロピー算出手段と、エントロピー算出手段で算出された第1及び第2のエントロピーを比較する比較手段と、比較手段により、第2のエントロピーの方が、第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、第2のエントロピーのデスクランブ出力系列を出力したときのデスクランブル手段で用いた既約多項式をリストとして登録するリスト登録手段と、比較手段により、第2のエントロピーの方が、第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、第2のエントロピーを最小エントロピーEminとして更新登録する最小エントロピー更新登録手段と、比較手段により、第2のエントロピーの方が、第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、第2のエントロピーのデスクランブ出力系列を解析二値系列として更新する解析二値系列更新手段と、更新後の解析二値系列に対して、記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブで用いられるまで、デスクランブル手段、エントロピー算出手段、比較手段、リスト登録手段、最小エントロピー更新登録手段及び解析二値系列更新手段の動作を繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点のリストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする制御手段とを有することを特徴とする。
【0019】
この発明では、第3の発明の復号装置と同様に、リストに登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とするようにしたため、エントロピー計算回数を低減できる。ここで、上記の発明の二値系列は、デジタルアマチュア無線機で無線通信されるデータであってもよい。
【0020】
また、上記の目的を達成するため、本発明の復号プログラムは、第1の発明の各ステップ又は第2の発明の各ステップをコンピュータにより実行させることを特徴とする。この発明では、コンピュータにより、未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列からその生成多項式を推定する処理を行う場合に、エントロピー計算回数を低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列からその生成多項式を推定する処理を行う場合に、例えば、生成多項式の次数が30迄の場合、従来方式では、約10億回のエントロピー計算が必要であったが、約7000万回のエントロピー計算で済み、エントロピー計算回数を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の一実施の形態について図面と共に説明する。図1は本発明になる復号装置の一実施の形態のブロック図を示す。同図に示すように、この実施の形態は、既約多項式テーブル11、エントロピー算出器12及び15、解析二値系列バッファ13、デスクランブラ14、比較器16、デスクランブル出力系列バッファ17、更新器18、既約多項式リスト19から構成されている。
【0023】
既約多項式テーブル11は、例えば、前述した不法デジタルアマチュア無線機による無線通信で送受信される信号において、想定される次数迄の全ての既約多項式が予めテーブル形式で記憶されている記憶装置を備え、更に使用された既約多項式の数をカウントするカウンタ、及び記憶しているすべての既約多項式が使用されたかを判断する機能も有する。
【0024】
エントロピー算出器12は、受信した二値系列を入力として受け、エントロピーEinを算出する。解析二値系列バッファ13は、上記のエントロピーEinを保持する。デスクランブラ14は、解析二値系列バッファ13からの二値系列を、既約多項式テーブル11から入力される既約多項式を用いてデスクランブルを行う。エントロピー算出器15は、デスクランブラ14から出力されるデスクランブル出力系列のエントロピーEを算出する。なお、エントロピーの算出方法自体は、例えば前記特許文献1などに記載があり公知であるので、その説明は省略する。
【0025】
比較器16は、最初は上記のエントロピーEinとEとを大小比較し、E<Einの場合は、更新器18にてEminをEと置換え、その時の既約多項式を既約多項式リスト19に登録する。また、比較器16は、2回目以降は、更新器18に登録されているエントロピーEmin(これをEaとする)と、エントロピー算出器15から新たに入力されるエントロピーE(これをEbとする)とを大小比較し、Eb<Eaのときは、更新器18にEbをEminとして更新登録すると共に、その時の既約多項式を既約多項式リスト19に登録する。既約多項式リスト19は、既約多項式をリストとして登録する記憶機能だけでなく、登録されたすべての既約多項式を掛け合わせる(総乗する)機能も有する。
【0026】
デスクランブル出力系列バッファ17は、デスクランブラ14からデスクランブル出力系列が出力される毎に、そのデスクランブル出力系列を一時記憶すると共に、比較器16によりEb<Eaの比較結果が得られたときは、比較器16の出力に基づいて、記憶しているデスクランブル出力系列を解析二値系列バッファ13に移す。Eb<Eaの比較結果が得られないときには、上記の更新器18での更新動作及びデスクランブル出力系列バッファ17から解析二値系列バッファ13へのデスクランブル出力系列の転送は行われない。更新器18は、最初は上記のエントロピーEinを記憶し、その後、比較器16により入力されたエントロピーEbをEminとして更新記憶する。
【0027】
以上の操作を既約多項式テーブル11に予め記憶されている複数の既約多項式について順番に一つずつ行う事を繰り返し、すべての既約多項式についてのデスクランブル処理終了時点で既約多項式リスト19に登録されている多項式の総乗を、スクランブラの生成多項式の推定候補とする。そして、このスクランブラの生成多項式の推定候補を用いて、入力二値系列をデスクランブラして復号データを得る。
【0028】
次に、本発明の復号方法の一実施の形態の動作について、図2のフローチャートを参照して説明する。ここで、例えば、前述した不法デジタルアマチュア無線機による無線通信で送受信される信号において、想定される次数迄の全てのn個の既約多項式Ir(n)が生成され、それらがテーブル形式で記憶された既約多項式テーブル11が予め作成されているものとする。ここで、nは図1の既約多項式テーブル11中の既約多項式の番号である。
【0029】
この状態において、まず初期化が行われる(ステップS1)。このステップS1の初期化では、既約多項式テーブル11中の既約多項式の番号n、既約多項式リスト19に登録された既約多項式の番号mをそれぞれ”0”に初期化する。また、入力二値系列はエントロピー算出器12に供給されて二値系列のエントロピーHm(0)(前記Einに相当)が算出されると共に、解析二値系列バッファ13に解析二値系列Tsとして一時記憶される。従って、このとき、ステップS1では解析二値系列バッファ13に一時記憶される解析二値系列TsのエントロピーHm(Ts)を、二値系列のエントロピーHm(0)とする。
【0030】
続いて、デスクランブラ14において、解析二値系列バッファ13から出力された解析二値系列Tsに対して、既約多項式テーブル11から最初(n=1)に出力された一つの既約多項式Ir(1)を用いたデスクランブルが行われ、それにより得られたデスクランブル出力系列がデスクランブル出力系列バッファ17に一時記憶されると共に、エントロピー算出器15でそのエントロピーHm(1)(前記Eに相当)が算出される(ステップS2)。なお、図2のステップS2中の、Hm(Ts・Ir(n))は、デスクランブラ14において既約多項式Ir(n)を用いてデスクランブルされた解析二値系列Tsのエントロピーを示す。ただし、この時点では、n=1である。
【0031】
続いて、比較器16において、上記の算出されたエントロピーHm(0)とHm(1)とが大小比較され、Hm(0)>Hm(1)であるか否か判定される(ステップS3)。Hm(0)>Hm(1)の場合は、その時の既約多項式Ir(n)(ただし、この時点ではn=1)を既約多項式リスト19に既約多項式g(m)として登録する(ステップS4)。引き続いて、その時デスクランブル出力系列バッファ17に記憶されている、既約多項式Ir(n)を用いてデスクランブルされるべき解析二値系列Ts・Ir(n)(ただし、この時点ではn=1)を解析二値系列バッファ13に移してTsとし、また、更新器18に記憶されているHm(0)をHm(1)に置換え、登録既約多項式番号mを1つインクリメントする(ステップS5)。
【0032】
上記のステップS5の処理の後、又はステップS3でHm(0)≦Hm(1)と判定された場合は、前記nの値、すなわち既約多項式番号を1つインクリメントして(ステップS6)、nが既約多項式の総数Nに達しているかどうか判定する(ステップS7)。この判定は、既約多項式テーブル11内のカウンタがNに達したかどうかで行われる。
【0033】
ステップS7でn=Nでないときは、既約多項式テーブル11に、まだデスクランブラ14でデスクランブルに使用していない既約多項式があるので、続いて既約多項式番号n(この時点ではn=2)の既約多項式を用いてデスクランブラ14において、解析二値系列バッファ13から出力された解析二値系列Tsに対してデスクランブルが行われ、それにより得られたデスクランブル出力系列がデスクランブル出力系列バッファ17に一時記憶されると共に、エントロピー算出器15でそのエントロピーHm(1)(前記Eに相当)が算出される(ステップS2)。
【0034】
以下、ステップS3〜S6又はステップS3、S6の処理が再び行われ、ステップS7でnが既約多項式の総数Nに達しているかどうか判定する。このようにして、ステップS2〜S7の処理が繰り返され、nがNに達したとステップS7で判定されると、既約多項式テーブル11の既約多項式のすべてがデスクランブラ14でデスクランブルに使用されたものと判定し、その時点で既約多項式リスト19に記憶されているm個の既約多項式を総乗した生成多項式を求め、それを推定候補とする(ステップS8)。なお、ステップS8の既約多項式リスト19に記憶されているm個の既約多項式を総乗する動作は、既約多項式リスト19で行う。すなわち、既約多項式リスト19は単なる記憶装置ではなく、演算手段も有する。
【0035】
このように、本実施の形態によれば、予め、想定される次数迄の全ての既約多項式を用意し、デスクランブラ14に入力される二値系列のエントロピーを算出しておき、次に、解析二値系列に対して、順次既約多項式によるデスクランブルを行い、エントロピーが低下した時の既約多項式を既約多項式リスト19に登録し、この既約多項式でデスクランブルした系列を新たな解析二値系列とし、以下、順次残りの既約多項式で解析二値系列のデスクランブルを行い、更にエントロピーが低下した時の既約多項式を既約多項式リスト19に登録し、その既約多項式でデスクランブルした系列を新たな解析二値系列とする動作を残りの既約多項式のすべてについて行い、既約多項式リスト19に登録されている既約多項式の総乗した多項式をスクランブラの生成多項式の推定候補とするようにしたため、エントロピー計算回数を低減できる。例えば、生成多項式の次数が30までの場合、従来方式では、約10億回のエントロピー計算が必要であったが、本実施の形態では、約7000万回の計算で済むことが確かめられた。
【0036】
なお、本発明は以上の実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図2に示したフローチャートの各手順を順次コンピュータにより実行させるコンピュータプログラムも包含するものである。また、本発明はデジタルアマチュア無線機で無線通信されるデータ以外にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明装置の一実施の形態のブロック図である。
【図2】本発明方法の一実施の形態のフローチャートである。
【図3】従来装置の一例のブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
11 既約多項式テーブル
12、15 エントロピー算出器
13 解析二値系列バッファ
14 デスクランブラ
16 比較器
17 デスクランブル出力系列バッファ
18 更新器
19 既約多項式リスト



【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号方法であって、
初期値が受信した前記二値系列である解析二値系列に対して、前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いてデスクランブルを行う第1のステップと、
前記解析二値系列のエントロピーと、前記第1のステップでデスクランブルされたデスクランブル出力系列の各エントロピーを算出してそれらを比較する第2のステップと、
前記デスクランブル出力系列のエントロピーの方が、前記解析二値系列のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第1のステップのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記デスクランブル出力系列のエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、前記デスクランブル出力系列を前記解析二値系列として更新する第3のステップと、
前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてが前記第1のステップでのデスクランブで用いられるまで、前記第1のステップ乃至第3のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第4のステップと
を含むことを特徴とする復号方法。
【請求項2】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号方法であって、
前記二値系列のエントロピーを算出する第1のステップと、
前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いて前記二値系列のデスクランブルを行う第2のステップと、
前記第2のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第3のステップと、
前記第1のステップと前記第3のステップでそれぞれ算出されたエントロピーを比較する第4のステップと、
前記第4のステップにより、前記第3のステップで算出されたエントロピーの方が、前記第1のステップで算出されたエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第3のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記第3のステップで算出されたエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、前記第3のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第5のステップと、
前記第5のステップで記憶された前記解析二値系列を、前記記憶手段が記憶している既約多項式のうちまだ使用していない既約多項式を用いてデスクランブルを行う第6のステップと、
前記第6のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第7のステップと、
前記最小エントロピーEminと前記第7のステップで算出されたエントロピーとを比較する第8のステップと、
前記第8のステップにより、前記第7のステップで算出されたエントロピーの方が、前記最小エントロピーEminよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第6のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記第7のステップで算出されたエントロピーを前記最小エントロピーEminとして更新し、かつ、前記第7のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第9のステップと、
前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブで用いられるまで、前記第6のステップ乃至第9のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第10のステップと
を含むことを特徴とする復号方法。
【請求項3】
前記二値系列は、デジタルアマチュア無線機で無線通信されるデータであることを特徴とする請求項1又は2記載の復号方法。
【請求項4】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号装置であって、
前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式を予め記憶している記憶手段と、
初期値が受信した前記二値系列である解析二値系列に対して、前記記憶手段からの一の既約多項式を用いてデスクランブルを行うデスクランブル手段と、
前記解析二値系列のエントロピーと、前記第1のステップでデスクランブルされたデスクランブル出力系列の各エントロピーを算出するエントロピー算出手段と、
前記解析二値系列のエントロピーと前記デスクランブル出力系列のエントロピーとを比較し、前記デスクランブル出力系列のエントロピーの方が、前記解析二値系列のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記デスクランブル手段で用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記デスクランブル出力系列のエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、前記デスクランブル出力系列を前記解析二値系列として更新する比較・登録手段と、
前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてが前記デスクランブ手段で用いられるまで、前記デスクランブル手段と前記エントロピー算出手段と、前記比較・登録手段の動作を繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする制御手段と
を有することを特徴とする復号装置。
【請求項5】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号装置であって、
前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段と、
初期値が前記二値系列である解析二値系列を記憶するバッファ手段と、
前記バッファ手段からの前記解析二値系列に対して、前記記憶手段に記憶されている一の既約多項式を用いてデスクランブルを行ってデスクランブル出力系列を出力するデスクランブル手段と、
前記解析二値系列の第1のエントロピーと前記デスクランブル出力系列の第2のエントロピーをそれぞれ算出するエントロピー算出手段と、
前記エントロピー算出手段で算出された前記第1及び第2のエントロピーを比較する比較手段と、
前記比較手段により、前記第2のエントロピーの方が、前記第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、該第2のエントロピーの前記デスクランブ出力系列を出力したときの前記デスクランブル手段で用いた既約多項式をリストとして登録するリスト登録手段と、
前記比較手段により、前記第2のエントロピーの方が、前記第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、該第2のエントロピーを最小エントロピーEminとして更新登録する最小エントロピー更新登録手段と、
前記比較手段により、前記第2のエントロピーの方が、前記第1のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、該第2のエントロピーの前記デスクランブ出力系列を前記解析二値系列として更新する解析二値系列更新手段と、
更新後の前記解析二値系列に対して、前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブで用いられるまで、前記デスクランブル手段、エントロピー算出手段、比較手段、リスト登録手段、最小エントロピー更新登録手段及び解析二値系列更新手段の動作を繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする制御手段と
を有することを特徴とする復号装置。
【請求項6】
前記二値系列は、デジタルアマチュア無線機で無線通信されるデータであることを特徴とする請求項4又は5記載の復号装置。
【請求項7】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号をコンピュータにより実行させる復号プログラムであって、
前記コンピュータに、
初期値が受信した前記二値系列である解析二値系列に対して、前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いてデスクランブルを行う第1のステップと、
前記解析二値系列のエントロピーと、前記第1のステップでデスクランブルされたデスクランブル出力系列の各エントロピーを算出してそれらを比較する第2のステップと、
前記デスクランブル出力系列のエントロピーの方が、前記解析二値系列のエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第1のステップのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記デスクランブル出力系列のエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、前記デスクランブル出力系列を前記解析二値系列として更新する第3のステップと、
前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてが前記第1のステップでのデスクランブで用いられるまで、前記第1のステップ乃至第3のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第4のステップと
を実行させることを特徴とする復号プログラム。
【請求項8】
受信した未知の生成多項式でスクランブルされた二値系列から、前記生成多項式を推定する復号をコンピュータにより実行させる復号プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記二値系列のエントロピーを算出する第1のステップと、
前記二値系列で想定される次数迄の全ての既約多項式が予め記憶されている記憶手段からの一の既約多項式を用いて前記二値系列のデスクランブルを行う第2のステップと、
前記第2のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第3のステップと、
前記第1のステップと前記第3のステップでそれぞれ算出されたエントロピーを比較する第4のステップと、
前記第4のステップにより、前記第3のステップで算出されたエントロピーの方が、前記第1のステップで算出されたエントロピーよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第3のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記第3のステップで算出されたエントロピーを最小エントロピーEminとして登録し、かつ、前記第3のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第5のステップと、
前記第5のステップで記憶された前記解析二値系列を、前記記憶手段が記憶している既約多項式のうちまだ使用していない既約多項式を用いてデスクランブルを行う第6のステップと、
前記第6のステップでデスクランブルされた出力系列のエントロピーを算出する第7のステップと、
前記最小エントロピーEminと前記第7のステップで算出されたエントロピーとを比較する第8のステップと、
前記第8のステップにより、前記第7のステップで算出されたエントロピーの方が、前記最小エントロピーEminよりも小さい比較結果が得られたときは、そのとき前記第6のステップでのデスクランブルで用いた既約多項式をリストとして登録すると共に、前記第7のステップで算出されたエントロピーを前記最小エントロピーEminとして更新し、かつ、前記第7のステップでエントロピーを算出したデスクランブル出力系列を解析二値系列として記憶する第9のステップと、
前記記憶手段が記憶している既約多項式のすべてがデスクランブで用いられるまで、前記第6のステップ乃至第9のステップを繰り返し、すべての既約多項式がデスクランブルで使用された時点の前記リストに登録されている既約多項式を総乗し、その総乗により得られた多項式を前記二値系列のスクランブラの生成多項式の推定候補とする第10のステップと
を実行させることを特徴とする復号プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−214721(P2007−214721A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30426(P2006−30426)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】