説明

循環式生分解処理トイレ

【課題】 1つのポンプを共用して汚水の循環と生分解処理のために必要な空気の供給を行うとともに、糞尿を効果的に破砕し、消費電力量を抑制することができる循環式生分解処理トイレを提供する。
【解決手段】 便器2を洗浄水で洗浄した後の糞尿を含む汚水を、隣接配置された複数の処理槽に順次移送させながら生分解処理と脱色処理を行って再び洗浄水として再利用する循環式生分解処理トイレ1であって、所定の処理を終えた後の処理槽内に揚水ポンプ7の吸入口を配置するとともに、その所定の処理を終える前の他の処理槽に揚水ポンプ7に連結されており汚水にマイクロバブルを混入させて噴射可能な噴射ノズル8を配置し、所定の処理を終えた後の汚水を処理前の他の処理槽に戻して循環させながら浄化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器を洗浄水で洗浄した後の糞尿を含む汚水を循環させながら生分解処理等を行い、再び洗浄水として再利用する循環式生分解処理トイレに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレの汚水を生分解処理し、洗浄水として再利用する循環式の糞尿処理技術が提案されている。例えば、特開2000−179023号公報には、水洗用便器と、水と形のある排泄物やゴミとを分離するための分離貯留槽と、微生物培養素材を内蔵した曝気槽と、オゾンを内部に導入するオゾン槽と、浄化水収納槽とを有し、水洗用便器と分離貯留槽と曝気槽とオゾン槽と浄化水収納槽との順を経て再び水洗用便器に至る順に、自然落下とオーバーフローとポンプによる上昇移動とによって水を循環させる循環式水洗トイレが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−179023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、水を循環させるためのポンプの他に、別途、曝気用空気を導入するためのブロワーを各曝気槽に設置しなければならない(段落[0010])。このため、イニシャルコストが高くなることはもとより、常時運転させると消費電力量が大きくなり、ランニングコストが膨大になってしまうという問題がある。
【0005】
また、特許文献1に記載された発明においては、水と分離した排泄物を貯留する構成であるため、所定の期間ごとにバキューム車等によって除去する必要がある(段落[0015])。このため、利用人数が多い場合には、頻繁に汲み取りしなければならず、メンテナンスコストが膨大になるという問題がある。また、人里離れた僻地等のように交通の便が悪い場所に設置した場合には、わざわざそこまでバキューム車で赴かなければならないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、1つのポンプを共用して汚水の循環と生分解処理のために必要な空気の供給を行うとともに、糞尿を効果的に破砕し、消費電力量を抑制することができる循環式生分解処理トイレを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る循環式生分解処理トイレは、便器を洗浄水で洗浄した後の糞尿を含む汚水を、隣接配置された複数の処理槽に順次移送させながら生分解処理と脱色処理を行って再び洗浄水として再利用する循環式生分解処理トイレであって、所定の処理を終えた後の処理槽内に揚水ポンプの吸入口を配置するとともに、その所定の処理を終える前の他の処理槽に前記揚水ポンプに連結されており前記汚水にマイクロバブルを混入させて噴射可能な噴射ノズルを配置し、前記所定の処理を終えた後の汚水を前記処理前の他の処理槽に戻して循環させながら浄化するものである。
【0008】
また、本発明において、前記複数の処理槽としては、便器洗浄後の汚水を投入して生分解処理する投入処理槽と、この投入処理槽から移送される前記汚水を濾過材を使って濾過しつつ生分解処理する複数の濾過処理槽と、前記濾過処理槽で処理された前記汚水を脱色材を使って脱色処理する脱色槽と、前記脱色槽で脱色処理された前記汚水を貯留する貯水槽とを有しており、前記揚水ポンプの吸入口を前記濾過処理槽、前記脱色槽および前記貯水槽のいずれかの処理槽内に配置するとともに、前記噴射ノズルを前記吸入口が配置された処理槽よりも前の処理槽であって、かつ、前記投入処理槽、前記濾過処理槽、前記脱色槽および前記貯水槽のうち少なくとも一の処理槽内に配置するようにしてもよい。
【0009】
さらに、本発明において、前記脱色槽には、脱色材が底面と略平行に配置されており、前記揚水ポンプの吸入口を前記貯水槽内に配置するとともに、前記噴射ノズルを前記脱色槽の内壁面に向けて汚水を噴射可能に配置するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明において、前記噴射ノズルは、前記汚水を通水させる通水路を備えた本管と、この本管の通水路と略直交するように連通されて空気を吸入する吸気管とを備え、前記通水路は連通部分の上流側を当該連通部分に向けてテーパ状に縮径されていてもよい。
【0011】
さらに、本発明において、前記通水路の連通部分より下流側は、噴射口へ向けてテーパ状に拡径されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つのポンプを共用して汚水の循環と生分解処理に必要な空気の供給を行うとともに、糞尿を効果的に破砕し、消費電力量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る循環式生分解処理トイレの一実施形態を示す一部を省略した全体斜視図である。
【図2】本実施形態の循環式生分解処理トイレを示す平面図である。
【図3】本実施形態において、揚水ポンプおよびその配管の配置例を示す平面図である。
【図4】本実施形態において、(a)糞尿破砕用の噴射ノズル、および(b)空気供給用の噴射ノズルを示す図である。
【図5】本実施形態において、脱色槽内の噴射ノズルの向きを示す模式図である。
【図6】実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図7】実施例2の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る循環式生分解処理トイレ1の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の循環式生分解処理トイレ1を示す便器等を省略した全体斜視図であり、図2は、その平面図である。なお、図1および図2では、後述する揚水ポンプ7およびその配管を省略している。
【0015】
本実施形態の循環式生分解処理トイレ1は、図2に示すような便器2で排泄された糞尿やトイレットペーパーを処理するためのものであり、便器2を洗浄水で洗浄した後の糞尿を含む汚水を、隣接配置された複数の処理槽に順次移送させながら生分解処理と脱色処理を行って再び洗浄水として再利用するように構成されている。
【0016】
具体的には、図1および図2に示すように、主として、便器洗浄後の汚水を投入して生分解処理する投入処理槽3と、この投入処理槽3から移送された汚水を濾過する濾過処理槽4と、この濾過処理槽4で処理された汚水を脱色する脱色槽5と、この脱色槽5で脱色処理された汚水を貯留する貯水槽6と、各処理槽から汚水を揚水する揚水ポンプ7と、汚水にマイクロバブルを混入させて噴射する噴射ノズル8とを有している。以下、各構成について詳細に説明する。
【0017】
投入処理槽3は、便器2から投入された汚水を生分解処理する槽である。本実施形態において、投入処理槽3は、略直方体形状の槽として構成されており、図1に示すように、その側壁面の略下半分に濾過処理槽4へと連通する移送開口部31が設けられている。この移送開口部31は、所定の間隔を隔てた複数本のスリットが設けられており、大きなゴミ等を濾過するようになっている。
【0018】
また、本実施形態において、投入処理槽3の内部には、図2に示すように、移送開口部31の手前側、および便器2の下方近傍を取り囲むように、微生物を繁殖させた接触材32が配置されている。この接触材32は、ポリ塩化ビニリデン等の合成繊維をロープ状に形成し、このロープ部分から無数の繊維をループ状に張り出させることにより接触面を増大させている。このため、接触材32には、糞尿が付着しやすいとともに長時間に渡って滞留し、微生物による生分解処理を促進するようになっている。
【0019】
また、本実施形態で使用する微生物は、糞尿を炭酸ガスと水に分解することで消臭し、BOD(Biochemical oxygen demand)値を低下させるものである。具体的には、淡水や海水に水没させても活性化した状態を持続する微生物として、通性嫌気性のバチルスサブチルスや、酵母菌と発酵菌との混合菌、または優性培養菌であるバチルスサブチルスの亜種(Bacillus subtilis sp.)を使用した。なお、液体を培地とするバチルスサブチルスは、水中浮遊型として使用し、ゼオライトに含侵させたバチルスサブチルスは、仮眠状態となっており、槽の四隅などデッドスペースになりやすい箇所に配置した。
【0020】
濾過処理槽4は、投入処理槽3から移送された汚水中のゴミを濾過材41によって濾過しつつ生分解処理する槽である。本実施形態において、濾過処理槽4は、図1および図2に示すように、投入処理槽3と移送開口部31を介して連通されており、投入処理槽3の周囲をコの字状に取り囲むようにして流路が形成されている。そして、この流路に沿って適当な間隔を隔てて複数の濾過材41が設けられることにより、複数の濾過処理槽4に仕切られている。また、濾過材41の上流面には接触材32が配置され、ここでも生分解処理を進行させるようになっている。
【0021】
本実施形態において、濾過材41としては、上端部にギザギザの鋸歯部42aが形成された鋸歯状仕切板42と、多数のパンチ穴が穿孔されたパンチングメタル板43とが複数枚立設されている。鋸歯状仕切板42は、鋸歯部42aで比較的大きなゴミを阻止しつつ、汚水をオーバーフローさせるものである。また、パンチングメタル板43は、パンチ穴によって比較的小さなゴミを阻止しつつ、汚水を濾過するようになっている。
【0022】
また、本実施形態において、濾過処理槽4には、図1に示すように、高さを低くして上端部のみを開口させた上端開口板44、および下端部のみを開口させた下端開口板45が設けられており、オーバーフローや下方からの流入によって、順次下流へと流れを形成するようになっている。また、濾過処理槽4の下流側には、図3に示すように、揚水ポンプ7aの吸入管71に接続されるストレーナ9aが設置されている。そして、このストレーナ9aから揚水された汚水は、後述するように、噴射ノズル8aを介して投入処理槽3および上流側の他の濾過処理槽4へ噴射されるようになっている。
【0023】
なお、本実施形態では、投入処理槽3と濾過処理槽4とを区別して説明しているが、この構成に限定されるものではなく、これら投入処理槽3と濾過処理槽4とを一つの処理槽として把握してもよい。
【0024】
脱色槽5は、濾過処理槽4から移送された汚水を脱色材51によって脱色処理する槽である。本実施形態において、脱色槽5は、図1に示すように、下端部のみを開口させた下端開口板45によって、濾過処理槽4と連通されている。そして、当該開口よりも上方の高さ位置において、脱色槽5の平面視形状と同サイズのパンチングメタル板43が底面と略平行、すなわち略水平方向に向けて固定されている。これにより、濾過処理槽4からの汚水が下方から流入されることにより、再度濾過されるようになっている。
【0025】
本実施形態において、脱色材51としては、2〜4mm程度の粒状の活性炭をパンチングメタル板43上に堆積させている。活性炭は、木炭等を焼成および炭化してなる多孔質の炭素物質であり、その微細孔に有機物を選択的に吸着させることにより、汚水を脱色および脱臭するものである。なお、脱色材51は、活性炭に限定されるものではなく、適宜選択変更してもよい。
【0026】
貯水槽6は、脱色槽5で脱色処理を終えて浄化された汚水を洗浄水として貯留する槽である。本実施形態において、貯水槽6は、図1および図2に示すように、上端部のみが開口された上端開口板44によって、脱色槽5と連通されている。また、本実施形態では、図2に示すように、貯水槽6の終端部が、濾過処理槽4の始端部に隣接されている。このため、濾過処理槽4、脱色槽5および貯水槽6が、投入処理槽3の周囲を一回りするように隣接配置され、循環式生分解処理トイレ1全体がコンパクトに構成されている。
【0027】
また、本実施形態において、貯水槽6には、図2および図3に示すように、揚水ポンプ7bの吸入管71に接続されるストレーナ9bと、揚水ポンプ7cの吸入管71に接続されるストレーナ9cとが設置されている。そして、これらストレーナ9b,9cから揚水された汚水は、後述するように、噴射ノズル8b,8cを介して脱色槽5および貯水槽6へ噴射されるようになっている。また、貯水槽6から揚水された汚水は、便器2のロータンク21へと供給され、再度洗浄水として利用されるようになっている。
【0028】
揚水ポンプ7は、上述したいずれかの処理槽から汚水を揚水し、噴射ノズル8へ供給するものである。本実施形態において、揚水ポンプ7は、処理槽の上方に設けられており、図3に示すように、一番上の揚水ポンプ7aと、真ん中の揚水ポンプ7bと、一番下の揚水ポンプ7cとを有している。そして、各揚水ポンプ7a,7b,7cは、汚水を吸い込む吸入管71と、汚水を吐出する吐出管72とを有しており、吸入管71から汲み上げた汚水を吐出管72から吐き出すように構成されている。なお、図3では、配管の様子を見易くするため、揚水ポンプ7a,7b,7cの位置を右側にずらして示している。
【0029】
具体的には、図3において、一番上の揚水ポンプ7aは、その吸入管71の吸入口が濾過処理槽4の下流に設置されたストレーナ9aに接続されている。一方、その吐出管72は、当該ストレーナ9aよりも上流の投入処理槽3および他の濾過処理槽4へ分岐されており、各処理槽内にそれぞれ3つの噴射ノズル8aが配置されている。
【0030】
また、図3において、真ん中の揚水ポンプ7bは、その吸入管71の吸入口が貯水槽6に設置されたストレーナ9bに接続されている。一方、その吐出管72は、当該ストレーナ9bよりも上流にある脱色槽5の上方で6箇所に分岐され、6つの噴射ノズル8bが接続されている。
【0031】
さらに、図3において、一番下の揚水ポンプ7cは、その吸入管71の吸入口が貯水槽6に設置されたストレーナ9cに接続されている。一方、その吐出管72は、当該ストレーナ9cが設置されている貯水槽6の上方で6箇所に分岐され、6つの噴射ノズル8cが接続されている。また、当該揚水ポンプ7cには、別途、ロータンク21へ汚水を供給するための給水管73が接続されている。
【0032】
以上のように、本実施形態では、濾過処理槽4内の汚水は、脱色処理前であるため、当該汚水よりも汚い状態の汚水が貯留されている投入処理槽3および濾過処理槽4へ戻して循環させる。一方、貯水槽6に貯留された汚水は、きれいに浄化されているため、手前の脱色槽5に戻したり、再度、貯水槽6へと噴射して循環させるようになっている。これにより、処理効率を低下させることなく汚水の循環を確保している。
【0033】
ただし、どのように循環させるかは上述のものに限定されるものではなく、所定の処理を終えた後の処理槽内に揚水ポンプ7の吸入口を配置するとともに、その所定の処理を終える前の他の処理槽内に噴射ノズル8を配置してあればよい。つまり、本実施形態であれば、揚水ポンプ7a,7b,7cの吸入口を濾過処理槽4、脱色槽5および貯水槽6のいずれかの処理槽内に配置するとともに、噴射ノズル8を前記揚水ポンプ7a,7b,7cの配置された処理槽よりも上流の処理槽であって、かつ、投入処理槽3、濾過処理槽4、脱色槽5および貯水槽6のうち少なくとも一の処理槽内に配置する。この構成により、汚水が循環されながら効率よく浄化されることとなる。
【0034】
なお、本実施形態では、各揚水ポンプ7a,7b,7cの吸入口に、それぞれストレーナ9a,9b,9cを接続しているが、ストレーナ9a,9b,9cを使用しなくてもよい。また、揚水ポンプ7としては、水漏れや液漏れのおそれがなく、消費電力が少ないマグネットポンプを使用しているが、これに限定されるものではなく、連続運転可能なポンプであれば、渦巻ポンプやロータリーポンプ等でもよい。また、本実施形態では、揚水ポンプ7を3つ設けているが、これに限定されるものではなく、処理能力やコスト等を考慮して適宜増減してよい。
【0035】
また、本実施形態では、ロータンク21へ汚水を供給するための給水管73が、揚水ポンプ7cに接続されているが、この構成に限定されるものではなく、揚水負荷の最も低い揚水ポンプ7に適宜接続すればよい。
【0036】
噴射ノズル8は、揚水ポンプ7で汲み上げた汚水にマイクロバブルを混入させて噴射するものである。本実施形態において、噴射ノズル8は、図4に示すように、汚水を通水させる通水路81aを備えた本管81と、この本管81の通水路81aと略直交するように連通されて空気を吸入する吸気管82とを有している。そして、通水路81aは、本管81と吸気管82との連通部分の上流側が当該連通部分に向けてテーパ状に縮径されている。
【0037】
以上の構成により、噴射ノズル8は、その入水口83から汚水を供給すると、ベンチュリ効果によって空気が吸気管82から吸引され、その空気が汚水中に取り込まれる。そして、汚水が噴射口84へ向かうにつれて圧力が上昇し、この圧力変化によって汚水中の空気が微細化されてマイクロバブルを噴射可能になっている。
【0038】
また、本実施形態の噴射ノズル8としては、図4(a)に示すように、前記連通部分より下流側の通水路81aが略直線状に形成された糞尿破砕用ノズル8aと、図4(b)に示すように、前記連通部分より下流側の通水路81aが、噴射口84へ向けてテーパ状に拡径された空気供給用ノズル8b,8cとを使用している。
【0039】
本実施形態において、投入処理槽3および濾過処理槽4には、糞尿破砕用ノズル8aを設け、脱色槽5および貯水槽6には、空気供給用ノズル8b,8cを設けている。投入処理槽3に設けられる糞尿破砕用ノズル8aは、投入処理槽3内に堆積された糞尿に向けられており、高圧の水流によって糞尿やトイレットペーパーを破砕するようになっている。また、濾過処理槽4に設けられる糞尿破砕用ノズル8aは、鋸歯状仕切板42とパンチングメタル板43との間などに適宜設けられている。
【0040】
一方、脱色槽5に設けられる空気供給用ノズル8bは、図5に示すように、脱色槽5の底面や側面等の内壁面に向けられており、汚水を一旦内壁面に噴射させて拡散している。高圧の汚水を直接活性炭に噴射すると、活性炭に含まれる黒色の粉塵が排出し、汚水が黒色化してしまうからである。また、脱色槽5内では、四隅などのように、マイクロバブルが供給されにくい場所に空気供給用ノズル8bが向けられており、デッドスペースを生じさせないようになっている。なお、図5中の点線は、噴射された汚水のおおまかな流れを図示している。
【0041】
なお、本実施形態において、糞尿破砕用ノズル8aおよび空気供給用ノズル8b,8cは、入水口83の内径が10〜50mm、上流部の先端内径が2〜12mm、および吸気管82の内径が2〜10mmに設定されている点で共通する。しかしながら、噴射口84の内径は、糞尿破砕用ノズル8aでは2〜12mmで、空気供給用ノズル8b,8cでは3〜15mmに設定される。
【0042】
すなわち、入水口83の内径に対する噴射口84の内径の比率は、糞尿破砕用ノズル8aでは、1:0.20〜1:0.24の範囲内で設定し、空気供給用ノズル8b,8cでは、1:0.30に設定することが好ましい。ノズル径が小さ過ぎると、目詰まりし易く、また、マイクロバブルがナノレベルないしそれ相当に小さくなり、微生物にダメージを与えてしまうおそれがある。その一方、ノズル径が大き過ぎると、空気の取り込み量が低減してしまうためマイクロバブル効果が低減するからである。
【0043】
つぎに、本発明に係る循環式生分解処理トイレ1の作用について、図面を用いて説明する。
【0044】
まず、本実施形態の循環式生分解処理トイレ1の使用を開始する場合、一定量の処理水を各槽に投入し、各揚水ポンプ7a,7b,7cを連続運転させておく。
【0045】
つづいて、便器2で排泄された糞尿やトイレットペーパーが、洗浄水とともに投入処理槽3へ投入されると、糞尿破砕用ノズル8aが、高圧の汚水を糞尿やトイレットペーパーへ吹き付けて破砕する。これにより、微生物が生分解し易くなるとともに、糞尿等が固化して投入処理槽3内に堆積することがなく、定期的に汲み取る必要がない。また、糞尿破砕用ノズル8aは、汚水にマイクロバブルを混入させて噴射するため、汚水中の溶存酸素量を増大させ、微生物を活性化する。さらに、糞尿破砕用ノズル8aは、濾過処理槽4の下流側から揚水された汚水を噴射するため、汚水全体を循環させることができ汚水が淀んでしまうのを防止する。
【0046】
つまり、本実施形態の糞尿破砕用ノズル8aは、マイクロバブルを含んだ高圧の汚水を噴射することによって、汚水の循環作用、空気の供給作用および糞尿等の破砕作用を奏する。また、糞尿破砕用ノズル8aは、ベンチュリー効果によって、生分解処理に必要な空気を汚水中に自力で取り込むため、従来のように空気を汚水中に供給するためのコンプレッサやエアポンプなどが不要である。
【0047】
また、投入処理槽3内に投入された汚水は、便器2の下方や移送開口部31に配置された接触材32に付着して滞留する。このため、微生物が糞尿を生分解処理する時間が十分に確保され、汚水が脱臭されるとともにBOD値が低減する。また、マイクロバブルが汚水中の微細なゴミを気泡中に取り込むため、BOD値の低下がさらに促進される。
【0048】
投入処理槽3で生分解処理された汚水は、移送開口部31によって大きなゴミが除去された後、濾過処理槽4へと流入する。そして、その水位が最初の濾過材41である鋸歯状仕切板42よりも高くなると、鋸歯部42aが大きなゴミを除去しつつ、汚水を下流へオーバーフローさせる。つづいて、パンチングメタル板43が、小さなゴミを濾過しつつ汚水を透水させ、順次下流へと移送させる。これにより、濾過処理槽4では、複数枚の鋸歯状仕切板42とパンチングメタル板43に汚水を通過させることで、大小様々なゴミを除去する。また、鋸歯状仕切板42およびパンチングメタル板43の上流面に設けた接触材32が、汚水の生分解処理をさらに進行させる。
【0049】
また、本実施形態では、揚水ポンプ7aが、濾過処理槽4の下流側から汲み上げた汚水を投入処理槽3および濾過処理槽4の上流側に設けた糞尿破砕用ノズル8aから噴射させる。このため、比較的汚い状態にある汚水は、処理の前半に配置されている投入処理槽3および濾過処理槽4の中で循環され、処理効率を低下させることなく循環を促進させる。また、濾過処理槽4においても、糞尿破砕用ノズル8aから噴射された汚水によって、移送開口部31や各濾過材41をすり抜けた固形分を破砕するとともに、汚水中の溶存酸素量を増大させ処理効率を向上する。
【0050】
つづいて、濾過処理槽4でゴミが除去された汚水は、下端開口板45の開口を介して下方から脱色槽5へ流入する。このとき、脱色槽5内に配置されたパンチングメタル板43によって、再び、汚水中のゴミが濾過されるとともに、活性炭によって脱色および脱臭される。また、脱色槽5内の空気供給用ノズル8bは、内壁面や四隅に向けられているため、噴射した汚水によって活性炭から粉塵を排出させたり、溶存酸素量の少ないデッドスペースを生じさせることがない。さらに、噴射した汚水が活性炭を洗浄し、活性炭の脱色・脱臭能力の低下を抑制する。
【0051】
なお、空気供給用ノズル8bは、通水路81aの連通部分より下流側が、噴射口へ向けてテーパ状に拡径されているため、糞尿破砕用ノズル8aと比較して、圧力変化が大きく、より多くのマイクロバブルを汚水に混入させられる。
【0052】
つづいて、脱色槽5で脱色された汚水は、上端開口板44をオーバーフローして貯水槽6へ流入する。これにより、各処理槽において浄化された汚水が、便器2の洗浄水として貯留される。また、本実施形態では、揚水ポンプ7b,7cで貯水槽6から汲み上げた汚水を再度、空気供給用ノズル8b,8cから脱色槽5や貯水槽6へ噴射させて循環を促進し、汚水が滞留したり、淀んでしまうのを防止している。
【0053】
また、揚水ポンプ7によって貯水槽6から揚水された汚水は、別途、給水管73を介して便器2のロータンク21へと供給され、再び洗浄水として利用される。この洗浄水は、脱色および脱臭され、見た目にも実質的にも浄化されているため、利用者に不快な思いをさせることがない。
【0054】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.1つのポンプを共用して汚水の循環と生分解処理のための空気の供給を行うことができるとともに、糞尿を効果的に破砕でき、消費電力量を抑制することができる。
2.汚水を循環させながら生分解処理および脱色処理を行い、再び洗浄水として利用することができる。
3.糞尿の汲み取り作業が不要であり、メンテナンスに要する手間や費用を低減することができる。
4.消費電力が少ないため、太陽光、風力または水力等による発電電力のみで連続運転でき、設置場所が制限されない。
5.接触材32は洗浄して何度でも再利用することができ、環境への負担を低減することができる。
【0055】
以下、本発明に係る循環式生分解処理トイレ1の具体的な実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって示される特徴に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
本実施例1では、本実施形態の空気供給用ノズル8b,8cによって、水中の溶存酸素量がどの程度向上するのかを測定した。空気供給用ノズル8b,8cとしては、入水口83の内径が15mm、上流部の先端内径が4mm、噴射口84の内径が4.3mmおよび吸気管82の内径が3mmのものを使用した。また、揚水ポンプ7としては、定格出力35Wおよび標準性能35L/minのマグネットポンプ(PMDS-641B2P:三相電機株式会社製)を使用した。さらに、空気の吸引量は0.8〜1.4L/min、室内温度は15.7℃、使用した水は37リットル、飽和溶存酸素量はおよそ9.76であった。
【0057】
以上の条件下において、空気供給用ノズル8b,8cを1つ使用した場合と、2つ使用した場合における、時間経過に対する水中の溶存酸素量について脱酸素剤を用いて測定した。その結果を図6に示す。ここで、本実施形態で使用した微生物は、上述したバチルスサブチルスであるところ、この微生物が必要とする溶存酸素量は5mgである。この点、空気供給用ノズル8b,8cが1つの場合、約8分30秒後に溶存酸素量が5mgに到達し、その後も徐々に増加することが確認された。また、空気供給用ノズル8b,8cが2つの場合は、たった約6分強で溶存酸素量が5mgに到達し、その後も徐々に増加することが確認された。
【0058】
以上の実施例1によれば、本実施形態の空気供給用ノズル8b,8cによって、迅速かつ確実に汚水中の溶存酸素量を増加させ、微生物を活性化できることが示され、より効率的に生分解処理することができる。
【実施例2】
【0059】
本実施例2では、従来の杉チップを用いた循環式の水洗バイオトイレと、本実施形態の循環式生分解処理トイレ1について、各種の性能を比較した。その結果を図7に示す。
【0060】
図7に示すように、従来のバイオトイレでは、糞尿の粉砕用ポンプ(450W)と、揚水用のポンプ(400W)と、給水用のポンプ(350W)とを使用するため、ポンプのみで合計1200Wの電力を要する。また、別途、ヒーター(60W)と、60L/minのエアポンプを2〜3台(約210W)使用するため、全体の電力使用量は、約1470Wにもなる。
【0061】
これに対し、本実施形態では、60Wの揚水ポンプ7を3台のみで運転でき、別途、ヒーター(60W)を使用するだけである。このため、全体の電力使用量はわずか240Wであり、従来と比較して電力使用量を約84%も低減された。また、総重量も2400kgから1500kgまで低減し、従来の約60%にまで軽量化された。
【0062】
以上の実施例2によれば、本実施形態の循環式生分解処理トイレ1は、極めて消費電力量が少ないため、連続運転してもランニングコストを抑制できることが確認された。また、軽量化されているため、運搬作業や設置作業が容易であることが確認され、移動式の簡易トイレとして利用価値が高いことが示された。
【0063】
なお、本発明に係る循環式生分解処理トイレ1は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0064】
例えば、揚水ポンプ7a,7b,7cや噴射ノズル8a,8b,8cの数や配置は、上述した本実施形態の構成に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。例えば、脱色槽5内のパンチングメタル板43の下方に、別途、ストレーナ9bを配置し、このストレーナ9bから揚水ポンプ7bで汚水を汲み上げ、この汚水を再度脱色槽5へ噴射させるようにしてもよい。
【0065】
また、上述した本実施形態では、投入処理槽3の周囲に、濾過処理槽4、脱色槽5および貯水槽6を平面的に隣接配置してシステム全体をコンパクト化しているが、この構成に限定されるものではなく、設置場所に合わせて直線状等に配置したり、適当な傾斜に沿って配置するなど適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 循環式生分解処理トイレ
2 便器
3 投入処理槽
4 濾過処理槽
5 脱色槽
6 貯水槽
7,7a,7b,7c 揚水ポンプ
8 噴射ノズル
8a 糞尿破砕用ノズル
8b,8c 空気供給用ノズル
9a,9b,9c ストレーナ
21 ロータンク
31 移送開口部
32 接触材
41 濾過材
42 鋸歯状仕切板
42a 鋸歯部
43 パンチングメタル板
44 上端開口板
45 下端開口板
51 脱色材
71 吸入管
72 吐出管
73 給水管
81 本管
81a 通水路
82 吸気管
83 入水口
84 噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器を洗浄水で洗浄した後の糞尿を含む汚水を、隣接配置された複数の処理槽に順次移送させながら生分解処理と脱色処理を行って再び洗浄水として再利用する循環式生分解処理トイレであって、
所定の処理を終えた後の処理槽内に揚水ポンプの吸入口を配置するとともに、その所定の処理を終える前の他の処理槽に前記揚水ポンプに連結されており前記汚水にマイクロバブルを混入させて噴射可能な噴射ノズルを配置し、前記所定の処理を終えた後の汚水を前記処理前の他の処理槽に戻して循環させながら浄化する循環式生分解処理トイレ。
【請求項2】
前記複数の処理槽としては、
便器洗浄後の汚水を投入して生分解処理する投入処理槽と、
この投入処理槽から移送される前記汚水を濾過材を使って濾過しつつ生分解処理する複数の濾過処理槽と、
前記濾過処理槽で処理された前記汚水を脱色材を使って脱色処理する脱色槽と、
前記脱色槽で脱色処理された前記汚水を貯留する貯水槽とを有しており、
前記揚水ポンプの吸入口を前記濾過処理槽、前記脱色槽および前記貯水槽のいずれかの処理槽内に配置するとともに、前記噴射ノズルを前記吸入口が配置された処理槽よりも前の処理槽であって、かつ、前記投入処理槽、前記濾過処理槽、前記脱色槽および前記貯水槽のうち少なくとも一の処理槽内に配置した請求項1に記載の循環式生分解処理トイレ。
【請求項3】
前記脱色槽には、脱色材が底面と略平行に配置されており、前記揚水ポンプの吸入口を前記貯水槽内に配置するとともに、前記噴射ノズルを前記脱色槽の内壁面に向けて汚水を噴射可能に配置した請求項2に記載の循環式生分解処理トイレ。
【請求項4】
前記噴射ノズルは、前記汚水を通水させる通水路を備えた本管と、この本管の通水路と略直交するように連通されて空気を吸入する吸気管とを備え、前記通水路は連通部分の上流側を当該連通部分に向けてテーパ状に縮径されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の循環式生分解処理トイレ。
【請求項5】
前記通水路の連通部分より下流側は、噴射口へ向けてテーパ状に拡径されている請求項4に記載の循環式生分解処理トイレ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−69111(P2011−69111A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220906(P2009−220906)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(509267720)道機産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】