説明

微孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法

【課題】連続製膜可能で安価に微孔性フィルムを製造できるβ晶法において、製膜性を向上させた、比重をさらに低くした、透過性を著しく高くした微孔性ポリプロピレンフィルム、およびこれら微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】ポリプロピレン中に230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、log(MS)>−0.61log(MFR)+0.8を満たすポリプロピレンを含み、および/または、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)の関係が、log(MS)>−0.9log(MFR)+0.6を満たす微孔性ポリプロピレンフィルムとすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用途、工業用途など広範な用途に好適な微孔性ポリプロピレンフィルムに関するものである。詳しくは、従来のβ晶法による微孔性フィルムに比べて、製膜性、生産性に優れ、また比重を低く、または空孔率を高くすることができ、さらに各種透過媒体の透過性を極めて高くすることもできる微孔性ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性フィルムは、透過性、低比重などの特徴から、主として電池や電解コンデンサーなどの各種セパレータ、各種分離膜(フィルター)、おむつや生理用品に代表される吸収性物品、衣料や医療用の透湿防水部材、感熱受容紙用部材、インク受容体部材などその用途は多岐に渡っており、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン系微孔性フィルムが主として用いられている。
【0003】
微孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法は、一般に湿式法と乾式法に大別される。湿式法としては、ポリオレフィンに被抽出物を添加、微分散させ、シート化した後に被抽出物を溶媒などにより抽出して孔を形成し、必要に応じて抽出前および/または後に延伸加工を行う工程を有する抽出法などがある(例えば、特許文献1、2参照)。乾式法としては、溶融押出によるシート化時に低温押出、高ドラフトの特殊な溶融結晶化条件をとることにより特殊な結晶ラメラ構造を形成させた未延伸シートを製造し、これを主として一軸延伸することによりラメラ界面を開裂させて孔を形成するラメラ延伸法がある(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)、他の乾式法としては、ポリオレフィンに無機粒子などの非相溶粒子を大量添加した未延伸シートを延伸することにより異種素材界面を剥離させて孔を形成する無機粒子法がある(例えば、特許文献4、5参照)。他にはポリプロピレンの溶融押出による未延伸シート作製時に結晶密度の低いβ晶(結晶密度:0.922g/cm3)を形成させ、これを延伸することにより結晶密度の高いα晶(結晶密度:0.936g/cm3)に結晶転移させ、両者の結晶密度差により孔を形成させるβ晶法(例えば、特許文献6〜15、非特許文献2参照)がある。
【0004】
上記β晶法では、延伸後のフィルムに多量の孔を形成させるため、延伸前の未延伸シートに選択的に多量のβ晶を生成する必要がある。このため、β晶法ではβ晶核剤を用い、特定の溶融結晶化条件でβ晶を生成させることが重要となる。近年では、β晶核剤として、古くから用いられてきたキナクリドン系化合物(例えば、非特許文献3参照)に比較して、さらに高いβ晶生成能を有する材料が提案されており(例えば、特許文献16〜18参照)、種々の微孔性ポリプロピレンフィルムが提案されている。
【0005】
例えば、β晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムの低温製膜性、厚みムラを改良する目的で、0.01〜10重量%の超高分子量ポリエチレンもしくはポリテトラフルオロエチレンを含有し、X線によるβ晶分率(K値)が0.5以上、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN以上である樹脂組成物、フィルムおよび孔含有フィルムの製造方法などが提案されている(特許文献19参照)。
【0006】
また、ポリプロピレンにボイドもしくは孔を形成させて比重を低くする技術のうち、β晶法は他の技術に比較して優れていることは既に知られている。β晶法以外のポリプロピレンの低比重化技術としては、ポリプロピレンに無機粒子や有機粒子、ポリプロピレンに対して非相溶の樹脂などを添加して未延伸シートを製造し、これを延伸することにより異種素材界面を剥離させ、隣接ボイド同士が連続していない、いわゆる孤立ボイドを形成させる方法が知られている(例えば、特許文献20参照)。これらの他の技術で得られるボイド含有フィルムの比重は、高々0.6〜0.8程度であるのに対して、β晶法では粒子や非相溶樹脂などを用いなくても、その製造条件(製膜条件)に依存して0.3〜0.4程度の比重が低いフィルムを製造することもできる。また、上記孤立ボイドを均一、多量に形成することを目的に、特定の溶融張力(以下、MSという)とメルトフローレイト(以下、MFRという)の関係を満たすポリプロピレンからなり、ボイドを含有する層(A層)の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂からなる層(B層)を積層してなり、比重が0.5〜0.85である白色二軸延伸ポリプロピレンフィルムが提案されている(特許文献21参照)。該特許では、上記態様を満たすA層に無機粒子、有機粒子、非相溶樹脂などのボイド開始剤を添加し、付加的にβ晶核剤を添加してボイドを形成することにより、比重が0.6〜0.76である白色二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造した例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1299979号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第3258737号公報(請求項1、第3頁第2段落第8〜20行目)
【特許文献3】特許第1046436号公報(請求項1)
【特許文献4】特許第1638935号公報(請求項1〜7)
【特許文献5】特開昭60−129240号公報(請求項1〜4)
【特許文献6】特許第1953202号公報(請求項1)
【特許文献7】特許第1974511号公報(請求項1)
【特許文献8】特許第2509030号公報(請求項1〜8)
【特許文献9】特許第3341358号公報(請求項1〜3)
【特許文献10】特許第3443934号公報(請求項1〜5)
【特許文献11】特開平7−118429号公報(請求項1〜3)
【特許文献12】特開平9−176352号公報(請求項1)
【特許文献13】特許第3523404号公報(請求項1)
【特許文献14】国際公開第01/92386号パンフレット(請求項1〜13)
【特許文献15】国際公開第02/66233号パンフレット(請求項1〜11)
【特許文献16】特許第2055797号公報(請求項1〜8)
【特許文献17】特許第3243835号公報(請求項1)
【特許文献18】特許第3374419号公報(請求項1〜4)
【特許文献19】米国特許第6596814号公報(請求項1〜31、第2頁第1段落第18〜50行目、実施例1〜3、比較例4)
【特許文献20】特許第2611392号公報(請求項1〜2、第4頁第1段落第40行目〜第5頁第2段落第5行目)
【特許文献21】特開2004−160689号公報(請求項1〜16、実施例1〜10)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】足立ら、“化学工業”、第47巻、1997年、p.47−52
【非特許文献2】シュー(M.Xu)ら、“ポリマーズ フォー アドバンスド テクノロジーズ”(Polymers for Advanced Technologies)、第7巻、1996年、p.743−748
【非特許文献3】藤山、“高分子加工”、第38巻、1989年、p.35−41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のβ晶法による微孔性フィルムは、いわゆる抽出法、ラメラ延伸法による微孔性フィルムに比較して、各種媒体の透過性能(以下、単に透過性と略称する場合がある。)に劣っていた。すなわち、特許文献16〜18に示されるような高活性のβ晶核剤を用いても、特許文献6〜15や非特許文献2などで提案されているβ晶法による微孔性フィルムであっても、抽出法やラメラ延伸法による微孔性フィルムに比較して透過性が劣っていた。このため、β晶法による微孔性フィルムは、高い透過性能が要求されるフィルターや電池セパレータ用途などに代表される高付加価値分野へ展開することは難しいとされてきた。
【0010】
また、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムの透過性能は、無機粒子法による微孔性フィルムと同等かもしくは若干優れる程度であり、粒子の脱落による工程汚染などの短所はあるものの、コスト競争力に優れる無機粒子法による微孔性フィルムに対して際立った特徴に乏しかった。
【0011】
β晶法では未延伸シートを作製するキャスト工程での特殊な溶融結晶化条件のために生産性が低いことも問題であった。より具体的には、β晶法では未延伸シートに多量のβ晶を生成させて高透過性の微孔性フィルムとするために、β晶核剤を含有したポリプロピレンを用いるだけでなく、より好ましくはこれを100℃を超える高温雰囲気下で固化させてシート化する(例えば、特許文献15参照)。また、溶融押出温度が低いほど、多量のβ晶を形成できるという報告もある(非特許文献3参照)。このため、微孔性フィルム作製時のライン速度は、キャスト工程の溶融ポリプロピレンの結晶固化状態によって決定される。すなわち、高速製膜のために高速キャストを行おうとしても、未固化状態では粘着するため金属ドラムから剥離しにくいという問題があった、仮に剥離できたとしても、その後の張力下でのシート搬送時に場合によってはシートが伸びてしまうため、キャスト速度、ひいてはライン速度(すなわち製膜速度)は必然的に低くなり、生産性が低くなる。また、透過性能を発現するためにはその後の延伸工程で従来の透過性を有さない汎用ポリプロピレンフィルムの延伸条件より低温で延伸する必要がある。この延伸工程でも条件によっては破れが散発し、生産コストがさらに高くなることが問題であった。
【0012】
さらに、特許文献19で開示されているβ晶法による微孔性フィルムでも、溶融押出時にポリエチレンやポリテトラフルオロエチレンの超高分子量成分が粗大ゲル状物となって析出することがあり、製膜性を著しく悪化させるため、高β晶分率による低比重・高透過性実現と製膜性・厚みムラ改良の両立が極めて困難であった。
【0013】
また、特許文献20で開示されている白色二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、実質的にボイド開始剤を添加し、キャスト工程における未延伸シートを固化させるための金属ドラムの温度が低いことから、比重をさらに低くすることが難しかった。
【0014】
加えて、さらに比重が低い、もしくは透過性が高いポリプロピレンフィルムが要求されており、従来のβ晶法で対応できる比重の範囲にも限界があった。一方、仮に比重をさらに低くすることができたとしても、ヤング率や強度などに代表されるフィルムの力学物性が実質的に低下するため、その後の二次加工工程でフィルムが加工張力に対して伸びてしまうなどの問題があった。
【0015】
本発明の目的は、上記問題を解消すべくなされたものであり、比重が低く、生産性に優れるとともに、透過性能を極めて高くすることもでき、力学物性や寸法安定性などにも優れる微孔性ポリプロピレンフィルムを提供することである。また、比重が低く、生産性に優れるとともに、透過性能を極めて高くすることもでき、力学物性や寸法安定性などにも優れる微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、主として、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0017】
まず第1の発明として開示するのは、ポリプロピレンまたはフィルムを構成するポリプロピレンのトルートン比およびフィルムのβ晶活性、比重に注目したポリプロピレンフィルムおよびその製造方法である。
【0018】
第1の発明のAの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有し、比重が0.1〜0.6であることを特徴とする。
【0019】
第1の発明のBの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが、トルートン比が6以上であり、かつβ晶活性を有し、比重が0.1〜0.6であることを特徴とする。
【0020】
第1の発明のCの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有し、比重が0.1〜0.6であることを特徴とする。
【0021】
さらに、第1の発明のA〜Cの微孔性ポリプロピレンフィルムの好ましい態様として、溶融結晶化温度(Tmc)が120〜135℃であることを特徴とする。
【0022】
また、第1の発明に関して、第1の発明のDの微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法として、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含むことを特徴とする。
【0023】
第1の発明のEの態様として、ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、トルートン比が6以上であり、かつβ晶活性を有する未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
また、第1の発明のFの態様として、ポリプロピレン中に主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含むことを特徴とする。
【0025】
また、第2の発明として開示するのは、ポリプロピレンまたはフィルムを構成するポリプロピレンの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)との関係、およびフィルムのβ晶活性、空孔率に注目したポリプロプレンフィルムおよびその製造方法である。
【0026】
第2の発明のAの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが、230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有し、空孔率が30〜95%であることを特徴とする。
【0027】
第2の発明のBの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、かつβ晶活性を有し、空孔率が30〜95%であることを特徴とする。
【0028】
さらに、第2の発明のAおよびBの微孔性ポリプロピレンフィルムの好ましい態様として、メソペンタッド分率(mmmm)が90〜99.5%であることを特徴とする。
【0029】
また、第2の発明のCの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含むことを特徴とする。
【0030】
また、第2の発明のDの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸することを特徴とする。
【0031】
また、第3の発明として開示するのは、フィルムの縦・横方向の結晶鎖の配向程度およびフィルムのβ晶活性、比重に着目したポリプロピレンフィルムである。
【0032】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの態様は、X線回折法による(−113)面の方位角方向のフィルム面内強度分布プロファイルにおいて、次式(3)
0.5 ≦ I(MD)/I(TD) ≦ 8 (3)
(ただし、I(MD):縦方向の積分強度、I(TD):横方向の積分強度である。)
を満たし、かつβ晶活性を有し、比重が0.1〜0.6であることを特徴とする。
【0033】
また、第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムに共通する好ましい態様として、これら微孔性ポリプロピレンフィルムのガーレ透気度が10〜1000秒/100mlであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
以下、本発明の効果について述べる。
【0035】
第1、第2の発明で開示する微孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法によれば、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、例えば、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸で破れることなく製膜できる。これにより、従来のβ晶法に比較してライン速度を高くすることができ、生産性に優れる。また、縦方向に高倍率に延伸することにより、従来のβ晶法に比較して、比重を低くでき、長手方向の強度を高めることができる。同時に透過性を著しく向上させることもできる。
【0036】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、フィルムの縦方向に高度に結晶鎖が配向している。これにより、長手方向の力学物性に優れることから、二次加工工程におけるハンドリング性に優れる。さらに、フィルムの比重を低くしても、長手方向の力学物性に優れることから、ハンドリング性を保持した上で透過性を著しく向上させることもできる。
【0037】
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、寸法安定性などにも優れるため、合成紙、感熱受容紙、光学部材、建材、分離膜(フィルター)、創傷被覆材などの透湿防水部材、衣料用などの透湿防水布、おむつ用や生理用品用などの吸収性物品、電池用や電解コンデンサー用などのセパレータ、インク受容紙、油または油脂の吸収材、血糖値センサー、タンパク質分離膜などの用途など様々な分野で優れた特性を発揮しうる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、以下に示す測定法(12)β晶分率において、β晶分率を求める際に得られる熱量曲線を模式的に示した図である。
【図2】図2は、図1において140〜160℃に頂点が観測されるβ晶の融解に伴う吸熱ピークの面積から求める融解熱量(ΔHβ)と、160℃以上に頂点が観測されるβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解の伴う吸熱ピークの面積から求める融解熱量(ΔHα)を示した図である。
【図3】図3は、広角X線回折法を用いて、以下に示す測定方法(6)の2θ/θスキャンX線回折プロファイルを採取する際のサンプル、装置の配置を模式的に示した図である。
【図4】図4は、広角X線回折法を用いて、以下に示す測定方法(6)の方位角(β)方向の強度分布プロファイルを採取する際のサンプルの配置を模式的に示した図である。
【図5】図5は、実施例303のβ方向の強度分布プロファイルを示した図である。
【図6】図6は、比較例301のβ方向の強度分布プロファイルを示した図である。
【図7】実施例103のフィルムの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際に得られたSEM像を示した図である。
【図8】図7と同様にして採取した比較例102のフィルムの断面をSEMで観察した際に得られたSEM像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
まず第1の発明の群について説明する。
【0040】
第1の発明のAに属する微孔性ポリプロピレンフィルムは、当該フィルムを構成するポリプロピレン全体(以下、単に「フィルムを構成するポリプロピレン」もしくは「フィルムのポリプロピレン」と称する場合がある。また、ポリプロピレン自体の定義は後述の通りである。)中にトルートン比が30以上のポリプロピレンを含む。言い換えれば、第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムが、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含む。当然、フィルムのポリプロピレンがトルートン比が30以上のポリプロピレンのみを含んでいてもよい。
【0041】
トルートン比は、流入圧力損失法を用い、コックスウェル(Cogswell)の理論[“ポリマー エンジニアリング サイエンス”(Polymer Engineering Science)、12、p.64−73(1972)]にしたがって測定を行うことにより得られる。ここでいうトルートン比とは、指数関数で近似した伸張粘度−伸張ひずみ速度曲線、剪断粘度−剪断ひずみ速度曲線から求めたもので、ここで開示する各発明においては230℃、ひずみ速度60s-1での伸張粘度と剪断粘度の比である。したがって、あるポリプロピレンについて、剪断粘度の割に伸張粘度が高い場合にはトルートン比は高くなり、逆の場合は低くなる。ここで、ポリプロピレンの伸張粘度を高くする手段としては、例えば、分子量分布のブロード化、超高分子量成分の導入、長鎖分岐の導入、軽度の架橋、低密度ポリエチレンなどの長鎖分岐を有するポリプロピレン以外のポリマーの添加、ポリプロピレン中で棒状などの状態で分散するポリプロピレン以外の添加剤の添加などが挙げられる。
【0042】
ポリプロピレンのトルートン比は、ペンゼ(A.Pendse)ら,“エスピーイー アニューアル テクニカル カンファレンス”(SPE Annual Technical Conference),41,1080−1084頁(1995);
ペンゼ(A.Pendse)ら,“エスピーイー アニューアル テクニカル カンファレンス”(SPE Annual Technical Conference)、42,1129−1133頁(1996);
バラコス(G.Barakos)ら,“ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス” (J. Appl. Polym. Sci.),59,543−556頁(1996);
ビンディッヒ (D.M.Bindigs)ら,“ジャーナル オブ ノン−ニュートニアン フルード メカニックス”(J. Non−Newtonian Fluid Mech.),79,137−155頁(1998)などで測定例が開示されている。また、当該条件下でポリプロピレンのトルートン比を測定した例は、例えば、特開2004−161799公報などで開示されている。
【0043】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムが、下記に示すようにβ晶核剤を含有する場合には、上記のようにフィルムのポリプロピレン中に配合されるトルートン比が30以上のポリプロピレンは、β晶核剤を含有していないことが好ましい。すなわち、この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムが、下記に示すようにβ晶核剤を含有する場合には、フィルムのポリプロピレンが、β晶核剤を含有するポリプロピレンと上記トルートン比が30以上のポリプロピレンとの混合物であることが好ましい。また、上記トルートン比が30以上のポリプロピレンが上記β晶核剤以外の添加物を含む場合には、これを抽出・除去して測定するか、添加剤を添加する前に測定することが好ましいが、前記添加物などが存在した抽出前の状況において測定されたトルートン比で代表させても差し支えはなく、かかる場合においても同様にこの発明の目的が達成されるため、この発明においては、前記添加剤などの存在下で該ポリプロピレンのトルートン比が30以上であれば、本要件を満たすものとする。
【0044】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムが、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含むことにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく製膜でき、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、キャスト速度が同じでも縦方向に高倍率に延伸することによりライン速度を高くできることから、単位時間当たりのフィルムの生産面積を高められる。このように、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含むことにより、製膜性を向上できるとともに生産面積も高められることから、生産性を著しく向上できる。さらには、特に縦方向に高い倍率で延伸した場合、フィルムの長手方向の力学物性を高めることができる。これは、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含むことにより、キャストの段階から系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いが促進され、これによりその後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0045】
また、フィルム中に上記したようなトルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、縦方向に高倍率に延伸する場合、延伸後の面積倍率(=長手方向の実効延伸倍率と幅方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して比重を低くできる。また、主にフィルムの積層構成や製膜条件を制御することにより、透過性を著しく向上させることもできる。
【0046】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレンのトルートン比は、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上である。この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレンのトルートン比は、高いほど、上記した破れを低減し、結果として、縦方向に高倍率に安定して延伸できたり、縦方向に高倍率に延伸することによる低比重化、透過性向上の効果が得られる傾向にあり、そのトルートン比には特に上限は設けないが、添加量にもよるが、あまりに高すぎると、製膜性、縦−横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向の延伸性が悪化する(縦延伸工程でフィルムが切れる)場合があるため、例えば、100以下であることが好ましい。
【0047】
上記のようなトルートン比が30以上のポリプロピレンを得る方法としては、特に限定されないが、以下の方法が例示され、これらの方法が好ましく用いられる。
高分子量成分を多く含むポリプロピレンをブレンドする方法。
分岐構造を持つオリゴマーやポリマーをブレンドする方法。
特開昭62−121704号公報に記載されているようにポリプロピレン分子中に長鎖分岐構造を導入する方法。
特許第2869606号公報に記載されているように長鎖分岐を導入せずに溶融張力と固有粘度、結晶化温度と融点とがそれぞれ特定の関係を満たし、かつ沸騰キシレン抽出残率が特定の範囲にある直鎖状の結晶性ポリプロピレンとする方法。
【0048】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるトルートン比が30以上のポリプロピレンは、これらのポリプロピレンのうち、溶融押出の安定性、上記した製膜性の向上効果、それに伴う低比重化、透過性向上の効果が大きい傾向にあることから、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンであることが特に好ましい。
【0049】
ここで、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンとは、ポリプロピレン主鎖骨格から枝分かれしたポリプロピレン鎖を有するポリプロピレンである。主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンで上記のように大きな効果が得られるのは、キャストの段階から長鎖分岐が微結晶間を疑似架橋するタイ分子として作用し、その後の延伸工程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0050】
かかる主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンの具体例としては、Basell製ポリプロピレン(タイプ名:PF−814、PF−633、PF−611、SD−632など)、Borealis製ポリプロピレン(タイプ名:WB130HMSなど)、Dow製ポリプロピレン(タイプ名:D114、D201、D206など)などが挙げられる。
【0051】
ポリプロピレンの長鎖分岐の程度を示す指標値として、下記式で表される分岐指数gが挙げられる。
g=[η]LB/[η]Lin
ここで、[η]LBは長鎖分岐を有するポリプロピレンの固有粘度であり、[η]Linは長鎖分岐を有するポリプロピレンと実質的に同一の重量平均分子量を有する直鎖状の結晶性ポリプロピレンの固有粘度である。なお、ここで示した固有粘度はテトラリンに溶解した試料について公知の方法により135℃で測定する。また、このg値測定の際の重量平均分子量は、マッコーネル(M.L.McConnell)によって“アメリカン ラボラトリー”(American Laboratory)、May、63−75頁(1978)に発表されている方法、すなわち低角度レーザー光散乱光度測定法で測定する。
【0052】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるトルートン比が30以上のポリプロピレンの分岐指数gは、0.95以下であることが好ましい。分岐指数gが上記範囲を超えると、トルートン比が30以上のポリプロピレンを添加する効果が低下し、製膜性が悪化したり、縦方向に高倍率に延伸して得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。トルートン比が30以上のポリプロピレンの分岐指数gは、より好ましくは0.9以下である。
【0053】
第1の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるトルートン比が30以上のポリプロピレンの混合量は、特に制限されないが、フィルムのポリプロピレン全量に対して、1〜50重量%であることが好ましく、少量添加でも効果がみられるのが特徴である。混合量が上記範囲未満であると、製膜性、特に縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの横方向の延伸性が悪化する(横延伸工程でフィルムが破れる)場合がある。また、縦方向に高倍率に延伸したときに得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。上記範囲を超えると、製膜性、縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの縦方向の延伸性が悪化する(縦延伸工程でフィルムが切れる)場合がある。また、溶融押出時の溶融ポリマーの安定吐出性やフィルムの耐衝撃性などが悪化する場合がある。さらには、下記で定義するβ晶分率が必要以上に低下する場合がある。トルートン比が30以上のポリプロピレンの混合量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、より好ましくは1〜20重量%、最も好ましくは1.5〜15重量%である。
【0054】
第1の発明のBの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムのトルートン比が6以上であることが挙げられる。ここで、“フィルムのトルートン比が6以上である”ことは、フィルムのポリプロピレン全体について得られるトルートン比が6以上であることを意味する。また、ここでいうトルートン比は、この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムが、下記に示すようにβ晶核剤を含有する場合には、β晶核剤を含有したフィルムのポリプロピレンについて得られる値である。ポリプロピレンのトルートン比は、β晶核剤を含むことによりβ晶核剤を含まないポリプロピレンのトルートン比に比べ、その値が低くなるが、いずれの場合であっても、かかる要件を満たせばこの発明の目的を達成できることになるのである。フィルムのポリプロピレンに上記β晶核剤以外の添加剤などが含まれている場合には、これを抽出・除去して測定するか、添加剤を添加する前に測定することが好ましいが、添加剤などが存在した抽出前の状況において測定されたトルートン比で代表させても差し支えはない。かかる場合においても同様にこの発明の目的が達成されるため、この発明においては、前記添加剤などの存在下でトルートン比が6以上であれば、本要件を満たすものとしている。
【0055】
第1の発明のBの態様において、微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのトルートン比が6以上であることにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく製膜でき、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、キャスト速度が同じでも縦方向に高倍率に延伸することによりライン速度を高くできることから、単位時間当たりの生産面積を高められる。このように、トルートン比が6以上のポリプロピレンからなることにより、製膜性を向上できるとともに生産面積も高められることから、生産性を著しく向上できる。さらには、特に縦方向に高い倍率で延伸した場合、フィルムの長手方向の力学物性を高めることができる。これは、トルートン比が6以上のポリプロピレンからなることにより、キャストの段階から系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いが促進され、これによりその後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0056】
また、上記したようにトルートン比が6以上のポリプロピレンからなり、縦方向に高倍率に延伸する場合、延伸後の面積倍率(=長手方向の実効延伸倍率と幅方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して比重を低くできる。また、主にフィルムの積層構成や製膜条件を制御することにより、透過性を著しく向上させることもできる。
【0057】
第1の発明のBの微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのトルートン比は、高いほど上記した破れを低減し、縦方向に高倍率に安定して延伸できたり、縦方向に高倍率に延伸することによる低比重化、透過性向上の効果が得られる傾向にあるが、あまりに高すぎると製膜性が悪化したり、下記で定義するβ晶分率が必要以上に低下する場合がある。この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのトルートン比は、より好ましくは6.5〜30、さらに好ましくは7〜20、最も好ましくは7〜12である。これらは、例えば、下記に示すような主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンの種類や添加量により制御可能である。
【0058】
上記したようなトルートン比が6以上のポリプロピレンは、例えば、高分子量成分を導入したポリプロピレンや、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンと各種汎用ポリプロピレンを混合したり、汎用ポリプロピレンの主鎖骨格中に長鎖分岐成分を共重合、グラフト重合などで導入することによって得られる。この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを構成する、トルートン比が6以上であるポリプロピレンとしては、これらのうち、上記した製膜性の向上効果、それに伴う低比重化、透過性向上の効果が大きい傾向にあることから、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0059】
第1の発明のBの微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン自体は、トルートン比が6以上であれば特に制限はないが、例えば、以下に示すような性質を有するポリプロピレンであることが好ましい。
【0060】
例えば、トルートン比が30以上であるポリプロピレンを含み、結果としてトルートン比が6以上であるポリプロピレンであることが好ましい。トルートン比が30以上のポリプロピレンは、例えば主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンと汎用ポリプロピレンを混合したり、汎用ポリプロピレンの主鎖骨格中に長鎖分岐成分を共重合、グラフト重合などで導入することによって得られる。
【0061】
従来の汎用ポリプロピレンの分子構造は線状構造だが、この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンには、このような長鎖分岐を有するポリプロピレンを混合することにより、製膜性の向上効果、それに伴う低比重化、透過性の向上効果を大きくできる。これは、キャストの段階から長鎖分岐が微結晶間を疑似架橋するタイ分子として作用し、その後の延伸工程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0062】
この際、混合せしめる長鎖分岐を有するポリプロピレンのトルートン比は、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上、さらにより好ましくは40〜100である。
【0063】
第1の発明のCの態様として、微孔性ポリプロピレンフィルムが長鎖分岐を有するポリプロピレンを含むことが挙げられる。
【0064】
第1の発明のCの微孔性ポリプロピレンフィルムは、長鎖分岐を有するポリプロピレンを含むことにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく製膜でき、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、キャスト速度が同じでも縦方向に高倍率に延伸することによりライン速度を高くできることから、単位時間当たりのフィルムの生産面積を高められる。このように、長鎖分岐を有するポリプロピレンを含むことにより、製膜性を向上できるとともに、生産面積も高められることから、生産性を著しく向上できる。さらには、特に縦方向に高い倍率で延伸した場合、フィルムの長手方向の力学物性を高めることができる。これは、長鎖分岐を有するポリプロピレンを含むことにより、キャストの段階から長鎖分岐が系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いを促進させ(微結晶間の疑似架橋効果)、これによりその後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0065】
また、上記したように主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、縦方向に高倍率に延伸する場合、延伸後の面積倍率(=長手方向の実効延伸倍率と幅方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して比重を低くできる。また、主にフィルムの積層構成や製膜条件を制御することにより、透過性を著しく向上させることもできる。
【0066】
主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンの主鎖から枝分かれしたポリプロピレン鎖は、長いほど上記した長鎖分岐を有するポリプロピレンの添加効果が高く、ポリプロピレン主鎖と同等の長さを有することが好ましい。また、この長鎖分岐は、長鎖分岐を有するポリプロピレン全体の平均で、1本のポリプロピレン主鎖中に平均1本以上導入されていることが、上記した微結晶間の疑似架橋効果付与の観点から好ましく、より好ましくは平均2本以上である。
【0067】
また、上記した長鎖分岐を有するポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、10×104以上であることが好ましい。Mwが上記範囲未満であると、上記した縦配向結晶の再配列抑制効果が不十分となる場合がある。Mwには、この発明の効果を奏する限り、特に上限は設けないが、例えば、溶融押出特性の観点から500×104以下であることが好ましい。Mwは、好ましくは15×104以上、より好ましくは20×104以上である。長鎖分岐を有するポリプロピレンの重量平均分子量は、先に述べた方法で測定できる。
【0068】
主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンの具体例としては、すでに説明したものが例示される。
【0069】
第1の発明のCの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれる長鎖分岐を有するポリプロピレンの分岐指数gは、0.95以下であることが好ましい。分岐指数gが上記範囲を超えると、長鎖分岐を有するポリプロピレンの添加効果が低下し、製膜性が悪化したり、縦方向に高倍率に延伸して得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。長鎖分岐を有するポリプロピレンの分岐指数gは、より好ましくは0.9以下である。
【0070】
第1の発明のCの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれる長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量は、特に制限されないが、フィルムのポリプロピレン全量に対して、1〜30重量%であることが好ましく、少量添加でも効果がみられるのが特徴である。混合量が上記範囲未満であると、製膜性、特に縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの横方向の延伸性が悪化する(横延伸工程でフィルムが破れる)場合がある。また、縦方向に高倍率に延伸したときに得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。上記範囲を超えると、製膜性、縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの縦方向の延伸性が悪化する(縦延伸工程でフィルムが切れる)場合がある。また、溶融押出時の溶融ポリマーの安定吐出性やフィルムの耐衝撃性などが悪化する場合がある。さらには、下記で定義するβ晶分率が必要以上に低下する場合がある。長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、より好ましくは1〜20重量%、最も好ましくは1.5〜15重量%である。
【0071】
第1の発明の群に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムの溶融結晶化温度(Tmc)は、120〜135℃であることが好ましい。Tmcが上記範囲であることにより、溶融状態から未延伸シートを得る際に球晶サイズを小さくできるため、製膜性を向上させ、得られる微孔性フィルムの比重を効果的に低くでき、さらには透過性を有する微孔性フィルムとする場合には、透過性を高められる場合がある。Tmcが上記範囲未満であると、キャスト工程において、溶融状態からのポリマーの固化速度が低く、金属ドラムからのシートの剥離が不十分となるため、キャスト速度、ひいてはライン速度(=製膜速度)を低く設定せざるを得ず、生産性が悪化する場合がある。また、得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。Tmcが上記範囲を越えると、キャスト工程において、キャスト速度の向上は可能となるものの、未延伸シート中のβ晶分率が低下し、得られる微孔性フィルムの比重が高くなったり、透過性に劣る場合がある。Tmcは、より好ましくは121〜130℃、さらに好ましくは123〜129℃である。
【0072】
次に、第2の発明の群について説明する。
【0073】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリプロピレン中に、230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、下記式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含む。言い換えれば、第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムが、上記式(1)を満たすポリプロピレンを含む。もちろん、フィルムのポリプロピレンが、上記式(1)を満たすポリプロピレンのみを含んでいてもよい。このようなポリプロピレンは、通常、そのMSが高いという特徴から、高溶融張力ポリプロピレン(High Melt Strength−PP:以下、HMS−PPと略称する場合がある)と称される。
【0074】
ここで、230℃で測定したときのMSとは、メルトテンションテスター付きのキャピログラフを用いて、サンプルを230℃に加熱し、溶融ポリプロピレンを押出速度20mm/分で押し出してストランドとし、このストランドを15.7m/分の速度で引き取る際に測定した張力である(単位:cN)。ただし、上記条件でストランドが切れるため測定できない場合に限り、引き取り速度5m/分下での張力を当該ポリプロピレンのMSとして用いても構わない。一般に、ポリプロピレンのMSはMFR依存性を有し、MFRが低いほどMSは高くなるため、従来のポリプロピレンに比較してMFRの割にMSが高いという特徴を数式にすると、上記のような態様となる。ポリプロピレンもしくはポリプロピレン系樹脂組成物のMSとMFRの関係に関しては、例えば、特開2003−64193号公報、特開2001−114950などで開示されており、この発明と同条件のMS測定データは、特開2003−64193号公報にも開示されている。
【0075】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムのポリプロピレン中に、上記式(1)を満たすポリプロピレンを含むことにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく製膜でき、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、キャスト速度が同じでも縦方向に高倍率に延伸することによりライン速度を高くできることから、単位時間当たりのフィルムの生産面積を高められる。このように、上記式(1)を満たすポリプロピレンを含むことにより、製膜性を向上できるとともに、生産量も高められることから、生産性を著しく向上できる。さらには、特に縦方向に高い倍率で延伸した場合、フィルムの長手方向の力学物性を高めることができる。これは、上記式(1)を満たすポリプロピレンを含むことにより、キャストの段階から系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いが促進され、これによりその後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0076】
また、上記したように上記式(1)を満たすポリプロピレンを含み、縦方向に高倍率に延伸する場合、延伸後の面積倍率(=長手方向の実効延伸倍率と幅方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して空孔率を高くできる。また、主にフィルムの積層構成や製膜条件を制御することにより、透過性を著しく向上させることもできる。
【0077】
第2の発明のAにおいては、微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに含まれる上記高溶融張力ポリプロピレン(HMS−PP)は、より好ましくは下記式(4)、さらに好ましくは下記式(5)を満たすものがよい。
log(MS) > −0.61log(MFR)+1.2 (4)
log(MS) > −0.61log(MFR)+1.3 (5)
また、上記HMS−PPのMSとMFRの関係は上記式(1)を満たせば、上記した破れを低減し、縦方向に高倍率に安定して延伸できたり、縦方向に高倍率に延伸することによる空孔率の向上、透過性の向上の効果が得られる傾向にあるが、上記式(1)の範囲内でも、添加量にもよるが、例えば、MFRの割にMSがあまりに高すぎたり、MSの割にMFRがあまりに高すぎると、製膜性、縦−横逐次二軸延伸する場合には、特に縦延伸性が悪化する場合があるため、例えば、下記式(6)を満たすことが好ましく、下記式(7)を満たすことがより好ましい。
log(MS) < −0.61log(MFR)+2.3 (6)
log(MS) < −0.61log(MFR)+2 (7)
上記のようなHMS−PPを得る方法としては、特に限定されないが、以下の方法が例示され、これらの方法が好ましく用いられる。
高分子量成分を多く含むポリプロピレンをブレンドする方法。
分岐構造を持つオリゴマーやポリマーをブレンドする方法。
特開昭62−121704号公報に記載されているようにポリプロピレン分子中に長鎖分岐構造を導入する方法。
特許第2869606号公報に記載されているように長鎖分岐を導入せずに溶融張力と固有粘度、結晶化温度と融点とがそれぞれ特定の関係を満たし、かつ沸騰キシレン抽出残率が特定の範囲にある直鎖状の結晶性ポリプロピレンとする方法。
【0078】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれる上記HMS−PPは、これらのポリプロピレンのうち、溶融押出の安定性、上記した製膜性の向上効果、それに伴う空孔率向上、透過性向上の効果が大きい傾向にあることから、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するHMS−PPであることが特に好ましい。
【0079】
ここで、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するHMS−PPとは、ポリプロピレン主鎖骨格から枝分かれしたポリプロピレン鎖を有するポリプロピレンである。主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンで上記のように大きな効果が得られるのは、キャストの段階から長鎖分岐が微結晶間を疑似架橋するタイ分子として作用し、その後の延伸工程で延伸応力が系全体に伝達されるためと推定される。
【0080】
かかる主鎖骨格中に長鎖分岐を有するHMS−PPの具体例としては、Basell製HMS−PP(タイプ名:PF−814、PF−633、PF−611、SD−632など)、Borealis製HMS−PP(タイプ名:WB130HMSなど)、Dow製HMS−PP(タイプ名:D114、D201、D206など)などが挙げられる。
【0081】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに含まれる先に説明した式(1)を満たすHMS−PPの分岐指数gは、0.95以下であることが好ましい。分岐指数gが上記範囲を超えると、上記HMS−PPの添加効果が低下し、製膜性が悪化したり、縦方向に高倍率に延伸して得られる微孔性フィルムの空孔率が低くなったり、透過性に劣る場合がある。上記HMS−PPの分岐指数gは、より好ましくは0.9以下である。
【0082】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれる上記式(1)を満たすHMS−PPのMSは、3〜100cNであることが好ましい。MSが上記範囲未満であると、上記したHMS−PPの添加効果が得られず、製膜性、特に縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの横方向の延伸性が悪化する(横延伸工程でフィルムが破れる)場合がある。また、縦方向に高倍率に延伸したときに得られる微孔性フィルムの空孔率が低くなったり、透過性に劣る場合がある。上記範囲を超えると、製膜性、縦・横逐次二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの縦方向の延伸性が悪化する(縦延伸工程でフィルムが切れる)場合がある。また、溶融押出時の溶融ポリマーの安定押出性やフィルムの耐衝撃性などが悪化する場合がある。さらには、下記で定義するβ晶分率が必要以上に低下する場合がある。上記式(1)を満たすHMS−PPのMSは、より好ましくは4〜80cN、さらに好ましくは5〜60cNである。
【0083】
第2の発明のAの微孔性ポリプロピレンフィルムに含まれる上記式(1)を満たすHMS−PPの混合量は、特に制限されないが、フィルムのポリプロピレン全量に対して、1〜50重量%であることが好ましく、少量の添加でも効果がみられるのが特徴である。混合量が上記範囲未満であると、製膜性、特に縦・横二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの横方向の延伸性が悪化する(横延伸工程でフィルムが破れる)場合がある。また、縦方向に高倍率に延伸したときに得られる微孔性フィルムの空孔率が低くなったり、透過性に劣る場合がある。上記範囲を超えると、製膜性、縦・横二軸延伸する場合には、特に縦方向に高倍率に延伸したときの縦方向の延伸性が悪化する(縦延伸工程でフィルムが切れる)場合がある。また、溶融押出時の溶融ポリマーの安定押出性やフィルムの耐衝撃性などが悪化する場合がある。さらには、下記で定義するβ晶分率が必要以上に低下する場合がある。上記式(1)を満たすHMS−PPの混合量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、より好ましくは1〜20重量%、最も好ましくは2〜12重量%である。
【0084】
第2の発明のBとして、微孔性ポリプロピレンフィルムの230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)の関係が、下記式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たすことが挙げられる。ここで、“フィルムのMSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たす”ことは、フィルムのポリプロピレン全体について得られるMSが5cN未満であり、かつMSとMFRが上記式(2)を満たすことを意味する。この際、フィルムのポリプロピレンに添加剤などが含まれている場合には、これを抽出して測定するか、添加剤を添加する前に測定することが好ましいが、添加剤などが存在した抽出前の状況において測定されたMSとMFRの関係で上記式(2)が満たされるか否かで代表させても差し支えはなく、かかる場合においても同様にこの発明の目的が達成されるため、この発明においては、添加剤などの存在下でMSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たせば、本要件を満たすものとしている。
【0085】
第2の発明のBの態様において、微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのMSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たすことにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸でフィルムが破れることなく製膜でき、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、キャスト速度が同じでも縦方向に高倍率に延伸することによりライン速度を高くできることから、単位時間当たりの生産面積を高められる。このように、MSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たすことにより、製膜性を向上できるとともに生産面積も高められることから、生産性を著しく向上できる。さらには、特に縦方向に高い倍率で延伸した場合、フィルムの長手方向の力学物性を高めることができる。これは、MSが5cN未満であり、上記式(2)を満たすようにMSとMFRを制御することにより、キャストの段階から系内の微結晶を貫く非晶相のタイ分子同士の絡み合いが促進され、これによりその後の延伸過程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0086】
また、上記したようにMSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たすポリプロピレンから構成され、縦方向に高倍率に延伸する場合、延伸後の面積倍率(=長手方向の実効延伸倍率と幅方向の実効延伸倍率の積)を高くでき、孔形成が促進されるため、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して空孔率を高くできる。また、主にフィルムの積層構成や製膜条件を制御することにより、透過性を著しく向上させることもできる。
【0087】
第2の発明のBの微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのMSは、より好ましくは3cN未満であり、さらに好ましくは2cN以下である。また、この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのMSとMFRの関係は、より好ましくは下記式(8)を満たし、さらに好ましくは下記式(9)を満たす。これらは、例えば、下記に示すHMS−PPの種類や添加量により制御可能であり、上記したように製膜性を向上させ、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸することができ、縦方向に高倍率に延伸することにより空孔率を高くでき、透過性も向上できる場合がある。
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.65 (8)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.7 (9)
MSが5cN未満であり、MSとMFRの関係が上記式(2)を満たすポリプロピレンは、例えば、高分子量成分を導入したポリプロピレンや、主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンなどに代表される、溶融張力(MS)が高い、いわゆる高溶融張力ポリプロピレン(High Melt Strength−PP;HMS−PP)と各種汎用ポリプロピレンとを混合したり、各種汎用ポリプロピレンの主鎖骨格中に共重合、グラフト重合などで長鎖分岐成分を導入することなどによって、そのMSを高めることで得られる。この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを構成する当該ポリプロピレンとしては、これらのうち、上記した製膜性の向上効果、それに伴う空孔率向上、透過性向上の効果が大きい傾向にあることから、長鎖分岐を有するポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0088】
第2の発明のBの微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンは、MSが5cN未満であり、上記式(2)を満たせば特に制限はないが、例えば、以下に示すような性質を有するポリプロピレンであることが好ましい。
【0089】
すなわち、上記式(1)を満たすポリプロピレンを含み、結果として、MSが5cN未満であり、上記式(2)を満たすポリプロピレンであることが好ましい。上記式(1)を満たすポリプロピレンは、例えば、HMS−PPのなかでも主鎖骨格中に長鎖分岐を有するポリプロピレンと汎用ポリプロピレンを混合したり、汎用ポリプロピレンの主鎖骨格中に長鎖分岐成分を共重合、グラフト重合などで導入してMSを高めることによって得られる。
【0090】
従来の汎用ポリプロピレンの分子構造は線状構造だが、この発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンには、このような長鎖分岐を有するポリプロピレンを混合することにより、製膜性の向上効果、それに伴う空孔率向上、透過性の向上効果を大きくできる傾向にある。これは、キャストの段階から長鎖分岐が微結晶間を疑似架橋するタイ分子として作用し、その後の延伸工程で延伸応力が系全体に均一に伝達されるためと推定される。
【0091】
第2の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのメソペンタッド分率(mmmm)は、90〜99.5%であることが好ましい。メソペンタッド分率を上記範囲とすることで、得られる未延伸シートの結晶性自体を高くできるため、β晶の生成量を高くでき、得られる微孔性フィルムの空孔率を高くできるとともに、透過性を高めることができる。メソペンタッド分率が上記範囲未満であると、空孔率が低くなったり、透過性能に劣る場合があり、キャスト工程においてキャストドラムからの未延伸シートの剥離が不十分となり、キャスト速度を高くできない傾向にあり、キャスト速度、ひいてはライン速度(=製膜速度)を低く設定せざるを得ず、生産性が悪化する場合がある。また、上記範囲を超えると、キャスト工程において、キャスト速度の向上は可能となるものの、その製膜工程において、フィルム破れが多く、結果として、製膜性が悪化する場合がある。メソペンタッド分率は、より好ましくは92〜99%、さらに好ましくは93〜99%である。
【0092】
次に、第3の発明としてフィルムのX線回折法による方位角方向のプロファイルに注目したポリプロピレンフィルムについて説明する。
【0093】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、X線回折法による(−113)面の方位角(β)方向プロファイルにおいて、次式(3)を満たす。
0.5 ≦ I(MD)/I(TD) ≦ 8 (3)
ただし、I(MD):縦方向の積分強度、I(TD):横方向の積分強度
ここで、(−113)面は、2θ/θスキャンで得られるX線回折プロファイルにおいて、2θ=43°付近に得られる、分子鎖軸方向の成分を含んだ結晶格子面である。また、I(MD)、I(TD)は、下記測定方法の詳細な説明で記載した通り、上記(−113)面の回折ピークの頂点が得られるθ、2θに、サンプル、およびカウンターの位置を固定し、サンプルをフィルム面内で方位角(β)方向に回転した際に得られる強度分布のプロファイルから算出した積分強度である。同じサンプルにおいて、方位角に対してX線が照射されるサンプルの体積が一定であれば、上記(−113)の方位角方向の強度分布プロファイルは、フィルム面内における結晶鎖の配向分布に対応している。すなわち、I(MD)がフィルム面内の結晶鎖のうち、縦方向に配向した成分に、I(TD)が横方向に配向した成分に対応する。例えば、I(MD)に比較してI(TD)が十分高い場合、フィルム面内の結晶鎖は、主に横配向していることに対応する。したがって、I(MD)/I(TD)の大小は、フィルム面内の結晶鎖がどの程度縦方向に配向しているかを示す尺度といえる。つまり、高度に縦配向したフィルムについては、I(MD)/I(TD)は高くなり、主に横配向しているフィルムについては、I(MD)/I(TD)は逆に小さくなる。例えば、増田ら,“コンバーテック”,369,12月号,42−45頁(2002)では、(−113)面の方位角方向の強度分布プロファイルから、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの面内における結晶鎖配向バランスについて論じている。また、(−113)面は厳密には子午線ピーク(分子鎖軸方向に垂直な面間隔による回折ピーク)ではないため、上記β方向の強度分布プロファイルにおいて、各強度分布のピークは微妙にスプリットする場合がある。しかしながら、このような態様でも結晶鎖の配向バランスを評価する本手法の目的が十分達成されるため、第3の発明の目的を達成できることになるのである。
【0094】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、I(MD)/I(TD)が上記態様であることにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、結晶鎖が高度に縦方向に配向している状態にある。これにより、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、同じ比重でも結晶鎖が高度に縦配向している分、フィルムの長手方向の力学物性に優れる。これにより、製膜工程やその後のスリット、巻き取り、コーティング、蒸着、印刷、ラミネートなどの二次加工工程において、フィルムが伸びたり、シワが入ったり、破断しにくくでき、ハンドリング性に優れる。また、比重をさらに低く、すなわち空孔率をさらに高くしても、長手方向の力学物性に優れることから、ハンドリング性を保持した上で透過性を著しく向上することができる。すなわち、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、I(MD)/I(TD)が上記態様であることにより、低比重(高空孔率)、およびそれに伴う高透過性とハンドリング性を高いレベルで両立することができるのである。
【0095】
I(MD)/I(TD)を上記態様とするには、例えば、フィルムを構成するポリプロピレンに添加されるβ晶核剤の選択およびその添加量の制御や、その製造工程において、キャスト工程における溶融ポリマーを固化させる際の結晶化条件(金属ドラム温度、金属ドラムの周速、得られる未延伸シートの厚み、金属ドラムへの接触時間など)や延伸工程における延伸条件(延伸方向(縦もしくは横)、延伸方式(縦もしくは横の一軸延伸、縦−横もしくは横−縦逐次二軸延伸、同時二軸延伸、二軸延伸後の再延伸など)、延伸倍率、延伸速度、延伸温度など)の制御などにより達成することができる。これらのうち、縦−横逐次二軸延伸を行う場合には、縦延伸条件(温度、倍率など)の選択が特に重要である。すなわち、縦延伸倍率が高いほどI(MD)/I(TD)を高くすることができる。しかしながら、縦延伸倍率が高いほど、引き続く横延伸での延伸性が不安定になるため、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンは、下記要件のうち少なくともひとつを満足することが好ましい。
・フィルムのポリプロピレンがトルートン比が30以上であるポリプロピレンを含む。
・フィルムのポリプロピレンのトルートン比が6以上である。
・フィルムのポリプロピレンが長鎖分岐を有するポリプロピレンを含む。
・フィルムのポリプロピレンが下記式(1)を満たすポリプロピレンを含む。
【0096】
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
・フィルムのポリプロピレンが下記式(2)を満たす。
【0097】
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
I(MD)/I(TD)は、高いほど、縦方向の力学物性に優れるが、あまりに高すぎるとフィルムが縦方向に裂けやすくなったり、その製造工程において生産性が悪化する傾向にある。したがって、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、より好ましくは次式(10)を満たし、さらに好ましくは次式(11)を満たす。
0.8 ≦ I(MD)/I(TD) ≦ 6 (10)
0.9 ≦ I(MD)/I(TD) ≦ 5 (11)
第1、第2および第3の発明に共通して、これらの発明でいうところの“ポリプロピレン”は、いずれも主としてプロピレンの単独重合体からなるが、これらの発明の目的を損なわない範囲でプロピレンとプロピレン以外の単量体が共重合された重合体であってもよいし、ポリプロピレンに該共重合体がブレンドされてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体として、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテン−1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、アクリル酸およびそれらの誘導体などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0098】
また、第1、第2および第3の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムは、孔形成補助の観点から、ポリオレフィン系樹脂やポリオレフィン系樹脂以外の他のポリマーなどから選ばれる少なくとも一種のポリマーを含んでいても構わない。
【0099】
ポリオレフィン系樹脂としては、主としてプロピレン以外の上に例示した単量体などのオレフィンから構成される単独重合体または共重合体などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、溶融押出工程でのポリプロピレン中の微分散性、その後の延伸工程での孔形成補助効果の観点から、例えば、ポリメチルペンテンおよびメチルペンテンとメチルペンテン以外のα−オレフィンの共重合物、ポリブテン、シクロオレフィンの単独もしくは共重合体、メタロセン触媒法による線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどが挙げられる。これらに限定されるわけではないが、特にメタロセン触媒法による超低密度ポリエチレンが、孔形成を促進し、結果として比重を低くでき、さらには透過性を向上することもできる場合があり、また製膜性を向上させることもできる場合があるので好ましい。
【0100】
ポリオレフィン系樹脂以外の他のポリマーとしては、ポリオレフィン以外のビニル系ポリマー樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。ポリオレフィン系樹脂以外の他のポリマーの具体例としては、溶融押出工程でのポリプロピレン中の微分散性、その後の延伸工程での孔形成補助効果の観点から、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シンジオタクチックポリスチレンなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0101】
なお、ポリオレフィン系樹脂として、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリオレフィン系樹脂以外の他のポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびそれらの誘導体は、溶融押出時にゲル状物が析出することがある。また、PTFEはポリマーの分解によりフッ酸が発生し、押出機や口金を腐食する懸念がある。したがって、UHMWPEやPTFEは、ポリオレフィン系樹脂以外の他のポリマーとして実質的に添加すること自体が好ましくない場合がある。
【0102】
第1、第2および第3の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンは、経済性などの観点から、これら発明の特性を損なわない範囲で、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを製造する際に生じた屑フィルムや、他のフィルムを製造する際に生じた屑フィルムをブレンドしてもかまわない。この際、第1の発明の群では、微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンが、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含むか、もしくはトルートン比が6以上であり、かつ下記に定義するβ晶活性を有することが必要である。また、第2の発明の群では、微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンが、MSとMFRの関係が上記式(1)を満たすポリプロピレンを含むか、MSが5cN未満でMSとMFRの関係が上記式(2)を満たし、かつ下記に定義するβ晶活性を有することが必要である。
【0103】
第1、第2および第3の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムは、単層フィルム、下記に示すような2層以上の積層フィルムいずれである場合においても、フィルムを構成する全てのポリマーの単量体全量に対し、90重量%以上のプロピレン単量体を含むことが好ましい。ここで、孔形成補助の観点からプロピレン以外の単量体からなるポリマーが添加される場合、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルム以外の他のフィルムを製造する際に生じた屑フィルムがブレンドされる場合、各種ポリオレフィン系樹脂および/またはその他の樹脂が積層される場合などにおいて、フィルムを構成する全てのポリマーの単量体全量に対し、プロピレン単量体が100重量%未満となる。プロピレン単量体の含量が上記範囲未満であると、得られる微孔性フィルムのβ晶活性が不十分となり、結果として、比重が高くなったり、透過性能に劣る場合がある。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのプロピレン単量体の含量は、フィルムを構成する全てのポリマーの単量体全量に対し、より好ましくは95重量%以上であり、さらに好ましくは97重量%以上である。
【0104】
第1、第2および第3の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのメルトフローレイト(MFR)は、製膜性の観点から1〜30g/10分であることが好ましい。MFRが上記範囲未満であると、低温での溶融押出が不安定になったり、押出原料の置換に長時間を要する、均一な厚みのフィルムを形成することが困難になる、製膜性が悪化するなどの問題点を生じる場合がある。MFRが上記範囲を超えると、キャスト工程においてスリット状口金から吐出された溶融ポリマーを金属ドラムにキャストしてシート状に成形せしめる際に、溶融ポリマーの金属ドラム上での着地点が大きく変動するため、未延伸シート中の均一なβ晶の生成が困難になったり、シートに波うちなどの欠点が生じるため、得られる微孔性フィルムの厚みムラが大きくなったり、孔の形成ムラが大きくなる場合がある。MFRは、より好ましくは1〜20g/10分である。
【0105】
第1、第2および第3の発明に共通して、これら微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンのアイソタクチックインデックス(II)は、92〜99.8%であることが好ましい。IIが上記範囲未満であると、フィルムとしたときの腰が低下する、熱収縮率が大きくなるなどの問題点が生じる場合がある。IIが高くなるほど剛性、寸法安定性などが向上する傾向にあるが、上記範囲を超えると製膜性自体が悪化する場合がある。IIは、より好ましくは94〜99.5%、さらに好ましくは96〜99%である。
【0106】
ここで、上記したトルートン比、MS、MFR、分岐指数g、Tmc、メソペンタッド分率、IIなどのポリプロピレンの特性値を測定する際に、不純物・添加物を除去する必要がある場合には、サンプルを60℃以下の温度のn−ヘプタンで2時間抽出し、不純物・添加物を除去後、130℃で2時間以上真空乾燥したサンプルについて測定すればよい。
【0107】
次に、第1、第2および第3の発明に共通して、これらの発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、β晶活性を有することが必要である。ここで、“β晶活性を有する”とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K 7122(1987)に準じて窒素雰囲気下で5mgの試料を10℃/分の速度で280℃まで昇温させ、その後5分間保持した後に10℃/分の冷却速度で30℃まで冷却し、次いで再度10℃/分の速度で昇温した際に得られる熱量曲線に、140〜160℃にβ晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点が存在し、該吸熱ピークのピーク面積から算出される融解熱量が10mJ/mg以上であることをいう。また、以下、最初の昇温で得られる熱量曲線をファーストランの熱量曲線と称し、2回目の昇温で得られる熱量曲線をセカンドランの熱量曲線と称する場合がある。ここで、チョウら(Cho)ら,“ポリマー”(Polymer),44,p.4053−4059(2003);高橋ら,“成形加工”,15,p.756−762(2003)などに開示されているように、ポリプロピレンのβ晶の生成能はDSCを用いて確認することができる。これらの文献では、これらの発明に近い温度条件下でDSCを用いて熱量曲線を採取し、β晶核剤を含有したポリプロピレンのβ晶活性を確認している。ここで、フィルムが“β晶活性を有する”ことは、ポリプロピレンを結晶化させた際にβ晶が生成しうることを意味する。また、ここでいうβ晶活性の判定は、押出、キャスト、延伸、巻き取り工程後、即ち製膜後のフィルムについて測定を行う。したがって、フィルムのポリプロピレンが下記に例示するようなβ晶核剤を含有する場合には、β晶核剤を含有したフィルム全体に対してβ晶活性を判定することとなる。
【0108】
また、上記温度範囲に吸熱ピークが存在するがβ晶の融解に起因するか不明確な場合などは、DSCの結果と併せて、当該サンプルを下記測定方法の詳細な説明で記載した特定条件で溶融結晶化させたサンプルについて、広角X線回折法を用いて算出される下記K値により “β晶活性を有する”と判定してもよい。すなわち、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβとする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα、Hα、Hαとする)とから、下記の数式により算出されるK値が、0.3以上、より好ましくは0.5以上であることをもって“β晶活性を有する”と判定してもよい。ここで、K値は、β晶の比率を示す経験的な値である。各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)を参考にすればよい。
K = Hβ/{Hβ+(Hα+Hα+Hα)}
(ただし、Hβ: ポリプロピレンのβ晶に起因する(300)面の回折ピーク強度、 Hα、Hα、Hα : それぞれ、ポリプロピレンのα晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度)
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、β晶活性を有することにより、その製造工程において、未延伸シート中にβ晶を生成させることが可能となり、その後の延伸工程でβ晶をα晶に結晶転移させ、その結晶密度差により孔を形成できる。
【0109】
ここで、より均一かつ多数の孔を形成させるためには、第1、第2および第3の発明に共通して、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶分率は、30%以上であることが好ましい。なお、β晶分率は、先に説明した、DSCにを用いて2回目の昇温で得られるセカンドランの熱量曲線において、140℃以上160℃未満に頂点が観測されるポリプロピレン由来のβ晶の融解に伴う吸熱ピーク(1個以上のピーク)のピーク面積から算出される融解熱量(ΔHβ;図1と同じ熱量曲線である図2の符号2)と、160℃以上に頂点が観測されるβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴うベースラインを越えてピークを持つβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴う吸熱ピークのピーク面積から算出される融解熱量(ΔHα図1と同じ熱量曲線である図2の符号3)から、下記式を用いて求める。ここで、β晶分率とは、ポリプロピレンの全ての結晶に占めるβ晶の比率であり、特開2004−142321や上記特開2004−160689などでは、これらの発明に近い温度条件下でDSCを用いて熱量曲線を測定し、フィルムのβ晶分率を求めている。なお、140〜160℃に頂点を有する吸熱ピークが存在するが、β晶の融解に起因するか不明確な場合などは、上記K値により判定すればよい。
β晶分率(%) = {ΔHβ/(ΔHβ+ΔHα)}×100
β晶分率が上記範囲未満であると、得られる微孔性フィルムの空孔率が低くなったり、透過性に劣る場合がある。β晶分率は、より好ましくは36%以上、さらに好ましくは39%以上、最も好ましくは50%以上である。
【0110】
このような高いβ晶活性を付与するために、第1、第2および第3の発明に共通して、これらの微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンには、いわゆるβ晶核剤が添加されていることが好ましい。このようなβ晶核剤が添加されない場合、上記のような高いβ晶分率が得られない場合がある。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンに好ましく添加できるβ晶核剤としては、例えば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩;N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミドなどに代表されるアミド系化合物;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二または三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;テトラオキサスピロ化合物類;イミドカルボン酸誘導体;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;キナクリドン、キナクリドンキノンなどに代表されるキナクリドン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物または塩である成分Bとからなる二成分系化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また1種類のみを用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに添加するβ晶核剤としては、上記のなかでは、特に下記化学式で表され、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミドなどに代表されるアミド系化合物、
2−NHCO−R1−CONH−R3
[ここで、式中のR1は、炭素数1〜24の飽和もしくは不飽和の脂肪族ジカルボン酸残基、炭素数4〜28の飽和もしくは不飽和の脂環族ジカルボン酸残基または炭素数6〜28の芳香族ジカルボン酸残基を表し、R2、R3は同一または異なる炭素数3〜18のシクロアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルケニル基またはこれらの誘導体である。];
下記化学式を有する化合物、
5−CONH−R4−NHCO−R6
[ここで、式中のR4は、炭素数1〜24の飽和もしくは不飽和の脂肪族ジアミン残基、炭素数4〜28の飽和もしくは不飽和の脂環族ジアミン残基または炭素数6〜12の複素環式ジアミン残基または炭素数6〜28の芳香族ジアミン残基を表し、R5、R6は同一または異なる炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルケニル基またはこれらの誘導体である。];
有機二塩基酸である成分と、周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物または塩である成分とからなる二成分系化合物が、得られる微孔性フィルムの比重を低くでき(空孔率を高くでき)、透過性を向上できるので、特に好ましい。
【0111】
かかる特に好ましいβ晶核剤もしくはβ晶核剤添加ポリプロピレンの具体例としては、新日本理化(株)製β晶核剤“エヌジェスター”(タイプ名:NU−100など)、SUNOCO製β晶核剤添加ポリプロピレン“BEPOL”(タイプ名:B022−SPなど)などが挙げられる。
【0112】
β晶核剤の添加量は、用いるβ晶核剤のβ晶生成能にもよるが、フィルムのポリプロピレン全量に対して0.001〜1重量%であることが好ましい。β晶核剤の添加量が上記範囲未満であると、得られる微孔性フィルムのβ晶活性が不十分となったり、比重が高く(空孔率が低く)なったり、透過性能に劣る場合がある。β晶核剤の添加量が上記範囲を超えると、それ以上添加しても得られる微孔性フィルムのβ晶分率が向上せず、経済性に劣り、核剤自体の分散性が悪化して逆にβ晶活性が低下する場合がある。β晶核剤の添加量は、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.05〜0.2重量%である。
【0113】
ここで、上記したβ晶核剤は、フィルムのポリプロピレン中で針状に分散していることが好ましい。核剤の分散形態は、下記測定方法の詳細な説明で述べる通り、加熱溶融させた原料チップまたは未延伸シートまたは微孔性フィルムについてフィルムの面方向から光学顕微鏡で観察し、その際確認される核剤形状の短径と長径の比の平均値が10以上であれば、針状に分散しているものと定義する。β晶核剤が針状に分散することにより、空孔率を高めたり、透過性を高めることが可能となる場合がある。さらに、上記したこれら発明の特徴の一つであるタイ分子同士の絡み合い促進による孔形成促進効果により、極めて効率的に緻密かつ均一に微細な孔を形成できるため、さらに空孔率を高めたり、透過性を高めることが可能となる場合がある。これは、β晶核剤が針状に分散することにより、溶融押出の際に針状に分散した該核剤が長手方向に配列しやすくなる(核剤の長径方向が未延伸シートの長手方向に向きやすくなる)ため、キャスト後に得られる未延伸シートの結晶ラメラ自体も、より配向しやすくなることと、β晶からα晶への結晶転移の相乗効果によるものと推定される。
【0114】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレンには、これら発明の目的を損なわない範囲で、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、塩素捕捉剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、銅害防止剤などの各種添加剤が混合されていても良い。この際、特に添加した場合得られる微孔性フィルムのβ晶分率が目的とする範囲にあるようなものが好ましい。
【0115】
これらのなかで、酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量の選定はフィルムの長期耐熱性にとって重要である。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに好ましく添加される酸化防止剤、熱安定剤としては、種々の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT);3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、チバガイギー(株)製IRGANOX1330など);
ペンタエリストリール テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、チバガイギー(株)製IRGANOX1010など)などが挙げられる。
熱安定剤としては例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(例えば、チバガイギー(株)製IRGAFOS168など);
3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンの反応生成物(例えば、チバガイギー(株)製HP−136など)などが挙げられる。
【0116】
ただし、上で例示した酸化防止剤や熱安定剤に限定されるものではない。これら酸化防止剤、熱安定剤は、2種類以上を併用することが好ましく、その添加量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、それぞれ0.03〜1重量部であることが好ましい。酸化防止剤、熱安定剤それぞれの添加量が上記範囲未満であると、初期の原料から微孔性フィルムを得るまでの製造工程、その後の二次加工工程において長期耐熱性に劣る場合がある。また、酸化防止剤、熱安定剤それぞれの添加量が上記範囲を超えると、それ以上添加しても得られる微孔性フィルムの長期耐熱性が向上せず、経済性に劣る場合がある。酸化防止剤、熱安定剤それぞれの添加量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、より好ましくは0.05〜0.9重量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0117】
また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンには、フィルムの帯電による静電気障害防止のため帯電防止剤が添加されていてもよい。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに添加される帯電防止剤としては、例えば、ベタイン誘導体のエチレンオキサイド付加物、第4級アミン系化合物、アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸グリセリド、もしくはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムには、滑剤を添加してもよい。滑剤とは、JIS用語(例えば、JIS K 6900(1994)参照)で表現されているように熱可塑性樹脂の加熱成形時の流動性、離型性をよくするために添加されるもので、例えば加工機械とフィルム表面、またはフィルム同士の間の摩擦力を調節するために添加される。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンに添加される滑剤としては、例えば、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどのアミド系化合物、もしくはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムに添加される帯電防止剤の添加量は、フィルムのポリプロピレン全量に対して、0.3重量部以上添加されていることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.5重量部である。また、帯電防止剤と滑剤の合計添加量は0.5〜2.0重量部が帯電防止性と滑り性の点でより好ましい。さらに、上記の通り、これらを添加することによりβ晶分率が低下する場合には、実質的に添加しない方が好ましく、適宜添加量を選択すればよい。
【0120】
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムのポリプロピレンには、滑り性付与、ブロッキング防止(ブロッキング防止剤)、孔形成補助などのために無機粒子および/または架橋有機粒子が添加されていてもよい。
【0121】
無機粒子は、金属または金属化合物の無機粒子であり、例えば、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪酸アルミニウム、カオリン、カオリナイト、タルク、クレイ、珪藻土、モンモリロナイト、酸化チタンなどの粒子、もしくはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
また、架橋有機粒子は、架橋剤を用いて高分子化合物を架橋した粒子であり、例えば、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッソ系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
また、無機粒子および架橋有機粒子の体積平均粒径は、これらをブロッキング防止剤としてのみ用いる場合には、0.5〜5μmであることが好ましい。平均粒径が上記範囲未満であると、得られる微孔性フィルムの滑り性に劣る場合があり、上記範囲を超えると、粒子が脱落する場合がある。また、孔形成補助を主な目的として添加する場合には、0.05〜1μmであることが好ましい。平均粒径が上記範囲未満であると、添加効果が発現しなくなる場合があり、上記範囲を越えると、粒子が脱落したり、粗大な孔が形成されてしまう場合がある。
【0124】
無機粒子および/または架橋有機粒子の添加量は、これらをブロッキング防止剤としてのみ用いる場合には、0.02〜0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.2重量%であることが、ブロッキング防止性、滑り性などの観点から好ましい。また、孔形成補助を主な目的として添加する場合には、その平均粒径に大きく依存するが、1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜40重量%であることが粒子の分散性、孔形成の観点から好ましい。さらに、上記の通り、粒子を添加することによりβ晶分率が低下する場合や粒子が脱落し、工程中を汚す傾向にある場合には、実質的に添加しない方が好ましく、適宜添加量を選択すればよい。
【0125】
第1、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの比重は、0.1〜0.6である。また、第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの空孔率は、30〜95%である。ここで、比重が低いことは空孔率が高いことに対応する。すなわち、比重と空孔率の間には、フィルムがポリプロピレンのみから構成される場合には、下記測定方法の詳細な説明に記載した空孔率の算出式から分かるようにある種の相関が存在する。
【0126】
なお、比重がこのように著しく低いこと、または空孔率が著しく高いことは、孔が緻密かつ多量に形成されていることに対応する。これによりクッション性(緩衝性)、隠蔽性、断熱性などに優れるだけではなく、透過性の高い微孔性フィルムとする場合には、透過性、吸収性、保液性などにも優れたフィルムとすることができ、合成紙、感熱受容紙、光学部材、建材、分離膜(フィルター)、創傷被覆材などの透湿防水部材、衣料用などの透湿防水布、おむつ用や生理用品用などの吸収性物品、電池用や電解コンデンサー用などのセパレータ、インク受容紙、油または油脂の吸収材、血糖値センサー、タンパク質分離膜などの用途で高い生産性を活かしつつ優れた特性を発揮しうる。
【0127】
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの比重、空孔率は、フィルムのポリプロピレンに添加するβ晶核剤の添加量や、その製造工程においては、キャスト工程における溶融ポリマーを固化させる際の結晶化条件(金属ドラム温度、金属ドラムの周速、得られる未延伸シートの厚み、金属ドラムへの接触時間など)や延伸工程における延伸条件(延伸方向(縦もしくは横)、延伸方式(縦もしくは横の一軸延伸、縦−横もしくは横−縦逐次二軸延伸、同時二軸延伸、二軸延伸後の再延伸など)、延伸倍率、延伸速度、延伸温度など)などにより制御できる。特に、比重を著しく低く、または空孔率を著しく高く制御するためには、上記したようなポリプロピレンを用い、その製膜工程においては、キャスト工程では均一かつ多量のβ晶を形成させ、延伸工程では面積倍率、特に縦延伸倍率を高く設定することなどが主に重要である。
【0128】
第1、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの比重は、低いほど上記特性に、より優れる傾向にあり好ましい。また、第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの空孔率は、同様に高いほど上記特性により優れる傾向にあり好ましい。しかしながら、比重が低すぎたり、空孔率が高すぎると製膜工程やその後の二次加工工程において、フィルムが伸びたり、シワが入ったり、破断する傾向にある(当該業者は、これらの現象がみられた場合、そのフィルムを工程通過性または二次加工性またはハンドリング性に劣るという)。したがって、第1、第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの比重は、より好ましくは0.19〜0.56、さらに好ましくは0.2〜0.4である。また、第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの空孔率は、より好ましくは35〜90%、さらに好ましくは60〜85%、最も好ましくは65〜85%である。
【0129】
次に、第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面には、添加剤飛散・ブリードアウト抑制、コーティング膜・蒸着膜易接着、易印刷性付与、ヒートシール性付与、プリントラミネート性付与、光沢付与、滑り性付与、離型性付与、イージーピール性付与、表面硬度向上、平滑性付与、表面粗度向上、手切れ性付与、表面開孔率向上、表面親水性付与、光学特性制御、表面耐熱性付与、隠蔽性向上など、種々の目的に応じて、適宜各種ポリオレフィン系樹脂およびその他の樹脂を積層してもよい。
【0130】
この際の積層厚みは、0.25μm以上であり、かつフィルムの全厚みの1/2以下であることが好ましい。積層厚みが0.25μm未満であると、膜切れなどにより均一な積層が困難となり、全厚みの1/2を越えると、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの高空孔率、高透過性などの特徴に劣る場合がある。
【0131】
また、第1、第2の発明に関して、この際積層される表層樹脂は必ずしもこれら発明の範囲を満たす必要はなく、積層方法は共押出、インライン・オフライン押出ラミネート、インライン・オフラインコーティング、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリングなどが挙げられるが、これらのうちいずれかに限定されるわけではなく、随時最良の方法を選択すればよい。第3の発明に関しては、積層フィルムがこの発明の範囲を満たすことが好ましい。
【0132】
これら発明のフィルムを感熱受容紙に適用する場合には、優れた断熱性、クッション性による高い画像転写感度を保持しつつ、フィルム表面の平滑性、光沢を付与し、受容紙としての美観を高める必要がある。このような観点から、少なくとも片面に各種樹脂をスキン層として積層し、適宜易接着層を介して、このスキン層上に画像転写用の受容層を形成することが好ましい場合がある。
【0133】
また、電池セパレータに適用する場合には、高い透過性を保持しつつ、良好な滑り性を付与し、セパレータとしてのハンドリング性を高める必要がある。このような観点から、少なくとも片面に各種滑剤、各種粒子を含有している各種樹脂をスキン層として積層することが好ましい場合がある。
【0134】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方のフィルム表面にコロナ放電処理を施し、フィルム表面の濡れ張力を35mN/m以上とすることは、表面親水性、接着性、帯電防止性および滑剤のブリードアウト性を向上させるため好ましく採用することができる。この際、コロナ放電処理時の雰囲気ガスとしては、空気、酸素、窒素、炭酸ガス、あるいは窒素/炭酸ガスの混合系などが好ましく、経済性の観点からは空気中でコロナ放電処理することが特に好ましい。また、火炎(フレーム)処理、プラズマ処理なども表面濡れ張力向上の観点から好ましい。濡れ張力の上限は特に設けないが、過度な表面処理は表面を劣化させる場合があり、60mN/m以下であることが好ましい。
【0135】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムのガーレ透気度は、透過性の高い微孔性フィルムとする場合には、10〜1000秒/100mlであることが好ましい。ただし、低比重(高空孔率)の特長だけを活かし、透過性自体が不必要な場合は測定不可能、いわゆる無限大(∞)秒/100mlであってもよい。これら発明において、得られる微孔性フィルムの透過性の尺度の一つであるガーレ透気度は、フィルムを構成するポリプロピレンに添加するβ晶核剤の添加量や、その製造工程においては、キャスト工程における溶融ポリマーを固化させる際の結晶化条件(金属ドラム温度、金属ドラムの周速、得られる未延伸シートの厚み、金属ドラムへの接触時間など)や延伸工程における延伸条件(延伸方向(縦もしくは横)、延伸方式(縦もしくは横の一軸延伸、縦−横もしくは横−縦逐次二軸延伸、同時二軸延伸、二軸延伸後の再延伸など)、延伸倍率、延伸速度、延伸温度など)などにより制御できる。透過性の高い微孔性フィルムとする場合、ガーレ透気度が上記範囲未満であると、製膜工程やその後の二次加工工程においてハンドリング性に劣る場合がある。ガーレ透気度が上記範囲を超えると、透過性能が不十分で比重も高くなる場合がある。ガーレ透気度は、より好ましくは10〜900秒/100ml、最も好ましくは50〜300秒/100mlである。
【0136】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの流動パラフィン透過時間は、透過性の高い微孔性フィルムとする場合には、0.1〜60秒/25μmであることが好ましい。ただし、低比重(高空孔率)の特長だけを活かし、透過性自体が不必要な場合は測定不可能、いわゆる無限大(∞)秒/25μmであってもよい。ここで、流動パラフィン透過時間とは、流動パラフィンをフィルム表面に滴下し、これが厚み方向に透過して孔を充填して透明化する際に、流動パラフィンがフィルム表面に着地した時点から、フィルムが完全に透明化するまでの時間を測定し、滴下部近傍の平均フィルム厚みを用いて25μm厚み当たりに換算した値をいう。したがって、流動パラフィン透過時間は、フィルムの透過性の尺度の一つであり、流動パラフィン透過時間が低いほど透過性に優れ、高いほど透過性に劣ることに対応する。これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの流動パラフィン透過時間は、フィルムのポリプロピレンに添加するβ晶核剤の添加量や、その製造工程においては、キャスト工程における溶融ポリマーを固化させる際の結晶化条件(金属ドラム温度、金属ドラムの周速、得られる未延伸シートの厚み、金属ドラムへの接触時間など)や延伸工程における延伸条件(延伸方向(縦もしくは横)、延伸方式(縦もしくは横の一軸延伸、縦−横もしくは横−縦逐次二軸延伸、同時二軸延伸、二軸延伸後の再延伸など)、延伸倍率、延伸速度、延伸温度など)などにより制御できる。透過性の高い微孔性フィルムとする場合、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの流動パラフィン透過時間が上記範囲未満であると、製膜工程やその後の二次加工工程においてハンドリング性に劣る場合があり、上記範囲を超えると、透過性能が不十分で比重も高くなる場合がある。流動パラフィン透過時間は、より好ましくは1〜30秒/25μm、最も好ましくは1.5〜9秒/25μmである。
【0137】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向のヤング率は0.1GPa以上であることが好ましい。長手方向のヤング率が上記範囲未満であると、製膜工程やその後の二次加工工程においてハンドリング性に劣る場合がある。長手方向のヤング率は、フィルムのポリプロピレンの結晶性(IIなどに対応)、得られる微孔性フィルムの比重(空孔率)、フィルムのI(MD)/I(TD)などにより制御できる。長手方向のヤング率は、より好ましくは0.3GPa以上、さらに好ましくは0.39GPa以上である。また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向のヤング率は、高いほど上記したハンドリング性に優れる傾向にあり、上限は設けないが、あまりに高すぎると空孔率が低くなったり、透過性能に劣る場合があるため、例えば、1.2GPa以下であることが好ましい。
【0138】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向の破断強度は40MPa以上であることが好ましい。25℃での長手方向の破断強度が上記範囲未満であると、製膜工程やその後の二次加工工程においてハンドリング性に劣る場合がある。破断強度は、フィルムのポリプロピレンの結晶性(IIなどに対応)、得られる微孔性フィルムの比重(空孔率)、フィルムのI(MD)/I(TD)などにより制御できる。破断強度は、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは55MPa以上である。また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向の破断強度は、高いほど上記したハンドリング性に優れる傾向にあり、上限は設けないが、あまりに高すぎると空孔率が低くなったり、透過性能に劣る場合があるため、例えば、150MPa以下であることが好ましい。
【0139】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの熱寸法安定性は、比較的低温の延伸条件をとったとしても、低く抑えられていることが好ましい。具体的には、例えば、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの105℃での長手方向の熱収縮率は、5%以下であることが好ましい。105℃での長手方向の熱収縮率が上記範囲を越えると、二次加工工程において、フィルムの収縮が大きくなり、シワ入り、カールなどの工程不良を誘起する場合がある。105℃での長手方向の熱収縮率は、フィルムのポリプロピレンの結晶性(IIなどに対応)、延伸条件(延伸倍率、延伸温度など)、延伸後の熱固定条件(熱固定時の弛緩率、温度など)などにより制御できる。105℃での長手方向の熱収縮率は、より好ましくは4.5%以下である。また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの105℃での長手方向の熱収縮率は、低いほど上記した工程不良を抑制できる傾向にあり、下限は設けないが、低く制御するためには、延伸後の熱固定温度をある程度フィルムのポリプロピレンの融点直下まで上げる必要があり、孔が閉塞して比重が高くなったり、透過性能が悪化する場合があるので、例えば、0%以上であることが好ましい。
【0140】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの静摩擦係数(μs)は、0.2〜2の範囲であることが好ましい。ここで、フィルムの静摩擦係数は、フィルム両面を重ね合わせ、下記測定方法の詳細な説明で記載した手法で測定する。μsが上記範囲未満であると、フィルムの巻き取りの際に、フィルムが滑りすぎて巻きずれが発生し、長尺に巻き取れない場合がある。μsが上記範囲を超えると、フィルムの巻き取りの際に、滑り性が悪く、巻き取り後のフィルムにシワなどが発生する場合がある。μsは、より好ましくは0.3〜1.5である。
【0141】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムは、二軸配向していることが好ましい。フィルムが二軸配向していることにより、β晶法による孔の形成を促進させることができる。さらには、二軸配向していることにより、透過性を有し、特に縦・横逐次二軸延伸する場合には、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸することにより、高い透過性を有する微孔性フィルムとすることができる。
【0142】
第1、第2および第3の発明に共通して、微孔性ポリプロピレンフィルムの製造には、各種の製膜法が用いられるが、低比重(高空孔率)、高透過性の微孔性フィルムを高い生産性で製造するというこれら発明の目的を高いレベルで達成するためには、縦−横逐次二軸延伸法を用いることが重要である。また、その他の製造方法に比較して、縦−横逐次二軸延伸法は、装置の拡張性などの観点から好適である。以下には、縦−横逐次二軸延伸法を用いたこれら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法の一例を示す。
【0143】
第1の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法として、例えば、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレン、あるいは未延伸シートのポリプロピレンのトルートン比が6以上であり、β晶活性を有する態様とすることができるポリプロピレン、あるいは長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレンを準備する。
【0144】
第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法として、例えば、下記式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレン、あるいは下記式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、β晶活性を有するポリプロピレンを準備する。
【0145】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法として、例えば、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレン、あるいは未延伸シートのポリプロピレンのトルートン比が6以上であり、β晶活性を有する態様とすることができるポリプロピレン、あるいは長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレン、あるいは下記式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、β晶活性を有するポリプロピレン、あるいは下記式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、β晶活性を有するポリプロピレンを準備する。
【0146】
そして第1、第2および第3の発明に共通した製造方法の態様を下記する。
【0147】
準備したポリプロピレンを押出機に供給して200〜320℃の温度で溶融させ、濾過フィルターを経た後、スリット状口金から押し出し、冷却用金属ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめ未延伸シートとする。この際、準備したポリプロピレンに、適宜ポリプロピレン以外の他のポリマーを添加しても構わない。
【0148】
ここで、未延伸シートに多量のβ晶を生成させるため、溶融押出温度は低い方が好ましいが、上記範囲未満であると、口金から吐出された溶融ポリマー中に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破れなどの工程不良を誘発する原因となる場合があり、上記範囲を超えると、ポリプロピレンの熱分解が激しくなり、得られる微孔性フィルムのフィルム特性、例えば、ヤング率、破断強度などに劣る場合がある。
【0149】
また、冷却用金属ドラム(キャストドラム)の温度は60〜130℃とし、フィルムを適度に徐冷条件下で結晶化させ、多量かつ均一にβ晶を生成させて、延伸後に低比重、高透過性の微孔性フィルムとするために高い方が好ましい。冷却用ドラムの温度が上記範囲未満であると、得られる未延伸シートのβ晶分率が低下する場合があり、上記範囲を超えると、ドラム上でのシートの固化が不十分となり、ドラムからのシートの均一剥離が難しくなる場合がある。また、得られる微孔性フィルムの透過性は上記した温度範囲で上限に近いほど高くなり、下限に近いほど低い傾向にあり、ぞれぞれ得られる未延伸シート中のβ晶量に依存しているものと推定される。ここで、未延伸シート中のβ晶量は、未延伸シートをサンプルとし、DSCをを用いて得られるファーストランの熱量曲線から得られるβ晶分率に対応する。透過性の高い微孔性フィルムとする場合には、キャストドラム温度は、好ましくは100〜125℃である。
【0150】
この際、未延伸シートがドラムに接触する時間(以下、単純にドラムへの接触時間と称する場合がある)は、6〜60秒であることが好ましい。ここで、ドラムへの接触時間とは、上記キャスト工程において、溶融ポリマーがドラム上に最初に着地した時点を開始時間(=0秒)とし、未延伸シートがドラムから剥離した時点までに要する時間を意味する。なお、キャスト工程が複数個のドラムで構成されている場合は、未延伸シートがそれらドラムに接触した時間の総和が、金属ドラムへの接触時間となる。金属ドラムへの接触時間が上記範囲未満であると、上記剥離時点において未延伸シートが粘着したり、未延伸シートに生成するβ晶が少ない(未延伸シートのβ晶分率が低い)ために、二軸延伸後のフィルムの比重が必要以上に高くなる(空孔率が必要以上に低くなる)場合がある。金属ドラムへの接触時間が上記範囲を超えると、金属ドラムの大きさにもよるが、必要以上に金属ドラムの周速が低く、生産性が著しく悪化する場合がある。金属ドラムへの接触時間は、より好ましくは7〜45秒、さらに好ましくは8〜40秒である。
【0151】
また、冷却ドラムへの密着方法としては静電印加(ピンニング)法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを得る手法としては、厚み制御性が良好で、その吹き付けエアーの温度により冷却速度を制御可能であるエアーナイフ法、静電印可法を用いることが好ましい。ここで、エアーナイフ法では、エアーは非ドラム面から吹き付けられ、その温度は10〜200℃とすることが好ましく、表面の冷却速度を制御することにより、表面β晶量を制御し、ひいては表面開孔率を制御でき、すなわち得られる微孔性フィルムの透過性を制御できる場合がある。
【0152】
また、該微孔性ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に第2、第3の層を共押出積層した積層体とする場合には、上記したポリプロピレンの他に各々所望の樹脂を必要に応じて準備し、これらの樹脂を別々の押出機に供給して所望の温度で溶融させ、濾過フィルターを経た後、短管あるいは口金内で合流せしめ、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状口金から押し出し、冷却用ドラムにキャストしてシート状に冷却固化せしめ未積層延伸シートとすることができる。
【0153】
次に、得られた未延伸(積層)シートを、公知の汎用の縦−横逐次二軸延伸法を用いて二軸延伸する。まず、未延伸フィルムを所定の温度に保たれたロールに通して予熱し、引き続きそのフィルムを所定の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に延伸して直ちに冷却する。
【0154】
ここで、低比重、高透過性などの特徴を有するこれら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムを製造するためには、縦方向(=長手方向)の延伸倍率が重要である。通常の縦−横逐次二軸延伸法で微孔性ポリプロピレンフィルムを製膜する際の縦方向の実効延伸倍率は、3〜4.5倍の範囲であり、5倍を越えると安定な製膜が困難になり、横延伸でフィルムが破れてしまうのに対して、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムでは、より低比重、高透過性の微孔性フィルムとする場合には、縦方向の実効延伸倍率を5〜10倍とすることが好ましい。縦方向の実効延伸倍率が上記範囲未満であると、得られる微孔性フィルムの比重が高くなり、透過性に劣る場合があり、倍率が低いため同じキャスト速度でも製膜速度(=ライン速度)が遅くなり、生産性に劣る場合がある。縦方向の実効延伸倍率が上記範囲を超えると、縦延伸あるいは横延伸でフィルム破れが散発し、製膜性が悪化する場合がある。縦方向の実効延伸倍率は、より好ましくは5〜9倍、さらに好ましくは5〜8倍である。この際、縦延伸を少なくとも2段階以上に分けて行うことは、低比重化、透過性能向上、表面欠点抑制などの観点から好ましい場合がある。縦延伸温度は、安定製膜性、厚みムラ抑制、目的とする比重もしくは透過性などの観点から適宜最適な温度条件を選定すればよく、80〜140℃であることが好ましい。また、縦延伸後の冷却過程において、フィルムの厚みムラや透過性が悪化しない程度に縦方向に弛緩を与えることは、長手方向の寸法安定性の観点から好ましい。さらに、縦延伸後のフィルムに所望の樹脂層を適宜押出ラミネートやコーティングなどにより設置してもよい。
【0155】
引き続き、この縦延伸フィルムをテンター式延伸機に導いて、各々所定の温度で予熱し、幅方向に延伸する。ここで、幅方向の実効延伸倍率は、12倍以下であることが好ましい。幅方向の実効延伸倍率が12倍を越えると、製膜性が悪化する場合がある。横延伸温度は、安定製膜性、厚みムラ、目的とする比重もしくは透過性などの観点から適宜最適な温度条件を選定すればよく、100〜150℃であることが好ましい。
【0156】
幅方向に延伸した後、得られる微孔性フィルムの寸法安定性向上などの観点からさらに幅方向に1%以上の弛緩を与えつつ100〜180℃で熱固定し、冷却する。さらに、必要に応じ、フィルムの少なくとも片面に空気あるいは窒素あるいは炭酸ガスと窒素の混合雰囲気中で、コロナ放電処理する。次いで、該フィルムを巻き取ることで、これらの発明の微孔性ポリプロピレンフィルムが得られる。
【0157】
これらの発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、例えば、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸で破れることなく製膜でき、従来のβ晶法に比較してライン速度を高くすることができ、生産性に優れる。また、縦方向に高倍率に延伸することにより、従来のβ晶法に比較して、比重を低くでき、透過性を著しく向上させることもできる。
【0158】
次に、第1、第2および第3の発明に共通して、これらの特徴を活かしたこれら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムの応用例を下記に例示するが、これら発明が下記に限定されるわけではない。
【0159】
(1)感熱受容紙用フィルム
第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、微細な孔が緻密かつ均一に形成されることにより比重を極めて低く制御することもできるため、感熱受容紙用部材として用いた場合、孤立ボイドを有するフィルムを含めた従来のボイドもしくは孔含有フィルムに比較して、優れた隠蔽性を付与でき、受容紙とした場合の美観に優れる。また、この孔構造により、緩衝性(クッション性ともいう)や断熱性に優れるため、受容紙とした場合の感度が高く、画像が鮮明に印画され、特に肌色など自然の色が鮮明に表現される。表層に孔を有するスキン層を積層することにより、さらに感度を高めることができる。また、該スキン層の結晶性を高めることにより表層の耐熱性を高めるこができる。さらには、スキン層の樹脂組成や表面状態(表面粗さ、化学的親和性)を制御することにより、受容層、アンカーコート層などの被接着層との接着性を高めることができる。以上のように、層構成を制御することにより、さらなる高機能化・高性能化も可能である。
【0160】
以上のことから、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、表層に受容層を塗布し、紙などの基材と適宜ラミネートすることにより、昇華型感熱受容紙として好適な感熱受容紙用フィルムとして好ましく用いられる。
【0161】
(2)透湿防水部材用フィルム
第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来のβ晶法に比較して、透過性能を格段に高めることにより透湿性に優れるとともに、微細な孔径、シャープな孔径分布を有することにより防水性に優れるため、透湿防水性に極めて優れる。また、強度、耐水圧も高いことから信頼性にも優れ、寸法安定性に優れることから縫製、ラミネートなどの加工時のハンドリング性にも優れる。さらに、このような優れた透湿防水フィルムを安価に製造できる。
【0162】
以上のことから、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、創傷被覆材などの医療用透湿防水部材、衣料用などの透湿防水布、おむつ用や生理用品用などの吸収性物品などの透湿防水部材用フィルムとして好ましく用いられる。
【0163】
(3)電池用や電解コンデンサー用などのセパレータ
第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、主としてポリプロピレンから構成されるため、電池用や電解コンデンサー用などのセパレータとして用いた場合、電気絶縁性や耐電解液特性に優れる。また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、二軸配向させることもできるため、例えば、抽出法、ラメラ延伸法、従来のβ晶法、無機粒子法により得られる一軸配向もしくは無配向の微孔性フィルムに比較して、優れた引張強度、突刺強度を付与することもできる。さらに、従来のβ晶法に比較して微細な孔径、シャープな孔径分布は保持しながら透過性を格段に高められ、その透過性能は上記した抽出法やラメラ延伸法による微孔性フィルム同等もしくはそれ以上であることから、例えば、電池用セパレータとして用いる場合、同じ厚みでは従来の微孔性フィルムに比較して電気抵抗(ER)を低くできる。また、優れた引張強度、突刺強度を有することから、ERを保持しながら、セパレータ自体を薄くすることもできる。さらに、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、極めて比重が低い(空孔率が大きい)ことから、例えば、電池用セパレータとして用いる場合、電解液の保液性を高くでき、電池容量を高めることができる。また、その優れた透過性能から、従来の微孔性フィルムに比較して、電池組立工程で電解液の浸透に要する時間を短縮できるとともに、優れた引張強度、突刺強度を有し、フィルムの伸び・シワ・破れなどが無く、ハンドリング性に優れることから、電池組立性に優れる。また、この電解液の浸透性は、各種界面活性剤などを浸透させるといった各種親水化処理を行うことにより、さらに高めることができ、電池組立性をさらに向上できる。
【0164】
以上のことから、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、セパレータとして好ましく用いられる。
【0165】
(4)分離膜(フィルター)
第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、微細な孔径、シャープな孔径分布を有し、かつ上記の通り透過性能に極めて優れることから、分離膜(フィルター)として用いた場合、圧力損失を低く抑えることができるため、従来のβ晶法によるフィルムでは圧力損失が高すぎて展開が難しかった分離膜(フィルター)用途に展開することができる。また、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、二軸配向させることもできるため、例えば、抽出法、ラメラ延伸法、従来のβ晶法、無機粒子法により得られる一軸配向もしくは無配向の微孔性フィルムに比較して、同じ比重でも引張強度や突刺強度を高くでき、長期使用時の信頼性(長期耐用性)に優れる。さらに、各種界面活性剤などを添加することなどにより、得られる微孔性フィルムの親水性を被分離体の性質に応じて制御でき、分離膜(フィルター)として用いた場合の被分離体の浸透性や透過性を高めることもできる。
【0166】
以上のことから、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、各種分離膜(フィルター)として好ましく用いられる。
【0167】
(5)反射板
第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、微細な孔が緻密かつ均一に形成されるため、隠蔽性、光反射特性に優れる。また、下記のように二次加工することにより、さらに反射特性を向上できる。さらに、各種光安定剤、耐候剤などを添加または塗布することにより、長期使用時の信頼性(長期耐用性)を付与することもできる。
【0168】
以上のことから、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、反射板として好ましく用いられる。
【0169】
また、第1、第2および第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、コーティングなどの二次加工により、各種機能物質をその空孔内に担持させることにより、新たな機能を付与することもできる。例えば、高屈折率物質を孔内壁に被覆させることにより、光反射特性をさらに向上させた反射板、芳香物質担持による芳香剤フィルム、導電性物質を孔内壁に被覆させ、これらを厚み方向に連続させることにより、厚み方向には導電性を有するが、フィルム面内方向には導電性を有さない異方導電性フィルム、薬剤などを孔内に担持させた徐放性フィルムなど、これら以外にも様々な展開が可能である。
【0170】
しかも、これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来の溶融製膜法を用い、連続製膜可能であるとともに、従来のβ晶法に比較して生産性を高められるため、上記したような抽出法やラメラ延伸法同等もしくはそれ以上の特性(比重、透過性能など)を有する高機能微孔性フィルムを、抽出法やラメラ延伸法に比べてはるかに安価に製造できる。
【0171】
以上のことから、本発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、包装用途、工業用途などに好ましく用いることができる。
[特性値の測定法]
第1、第2および第3の発明に共通して用いられている用語および測定法を以下にまとめて説明する。
(1)トルートン比
流入圧力損失法を用いてコックスウェル(Cogswell)の理論[“ポリマー エンジニアリング サイエンス”(Polymer Engineering Science)、12、64−73頁(1972)]から以下の条件で測定を行った。なお、測定は、(株)東レリサーチセンターで行った。
・装置:ツインキャピラリ・レオメータ RH−2200型(Rosand製)
・温度:230℃
・毛管サイズ:ダイ/1.0mmφ×16mm
オリフィス/1.0mmφ×0.25mm
・剪断速度:10s-1付近〜1800s-1付近
・伸張ひずみ速度:2s-1付近〜180s-1
【0172】
各サンプル(チップ形状の原料はそのまま、フィルム形状のものは必要に応じて抽出処理を行った後、5mm角以下のサイズに必要量切り出して用いる。)は230℃で装置にセット・充填し、3分間保持した。さらに再充填し、3分間保持した後、測定を開始した。
【0173】
Cogswellの理論によると、流入の際に毛管入口で生じる圧力損失(ΔPent)は、剪断粘度と伸張粘度を用いて次式のように表せる。
【0174】
【数1】

【0175】
ここで、ηE:伸張粘度、ηs:剪断粘度、γa:剪断速度である。
また、nはべき法則(σs=kγan、σs:剪断応力)における流れ指数である。
【0176】
ツインキャピラリ・レオメータでは、長さの異なる2つの毛管で同時測定することにより、各毛管での圧力損失から、バグレープロットを用い、毛管入口で生じる圧力損失(ΔPent)を求めることができる。すなわち、ある剪断速度での剪断粘度、ΔPentを同時に求めることができるので、伸張粘度ηEは次式より求めることができる。
【0177】
【数2】

【0178】
【数3】

【0179】
ここで、ε:伸張応力である。
【0180】
また、剪断速度は、ラビノビッチ補正により、装置付属のコンピュータを用いて、キャピラリー壁面の真の値に換算した。なお、バグレープロット、ラビノビッチ補正の詳細は、例えば、JIS K 7199(1991)、8.2; 日本レオロジー学会編、“講座・レオロジー”、高分子刊行会(1993)、68頁などを参考にすればよい。
【0181】
得られた伸張粘度−伸張ひずみ速度曲線、剪断粘度−剪断速度曲線をそれぞれ指数関数として近似し、これらの関数を用いて、ひずみ速度60s-1でのηE(60)、ηs(60)を求めた。これより、次式によりひずみ速度60s-1でのトルートン比(Trouton Ratio;同じひずみ速度でのηEとηsの比)を算出した。
【0182】
【数4】

【0183】
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたトルートン比の平均値を当該サンプルのトルートン比とした。
(2)β晶活性の確認
Seiko Instruments製熱分析装置RDC220型を用いて、JIS K 7122(1987)に準じて測定した。 フィルムを重量4.5〜5.5mgとしてアルミニウムパンに封入して装填し、当該装置にセットし、窒素雰囲気下で10℃/分の速度で30℃から280℃まで昇温し、昇温完了後280℃で5分間待機させ、引き続き10℃/分の速度で30℃まで冷却し、冷却完了後30℃で5分間待機させ、次いで再度10℃/分の速度で280℃まで昇温する際に得られる熱量曲線(図1の符号1)において、140℃以上160℃未満に頂点を有するβ晶の融解に伴う吸熱ピーク(図2の符号2)が観測される場合に、該フィルムがβ晶活性を有するものと判定した。なお、ここでいう吸熱ピークとは、融解熱量が10mJ/mg以上であるものをいう。最初の昇温で得られる熱量曲線をファーストランの熱量曲線と称し、2回目の昇温で得られる熱量曲線をセカンドランの熱量曲線と称する場合がある。また、融解熱量は、熱量曲線が昇温に伴いベースラインから吸熱側にずれ、次いでベースラインの位置に戻るまでのベースラインと熱量曲線で囲まれる面積であり、融解開始温度位置からベースライン上に熱量曲線の交点まで高温側に直線を引き、この面積をコンピュータ処理して求めた。図2より、符号2として示すのがβ晶の融解に伴う吸熱ピークの融解熱量であり、符号3として示すのがβ晶以外の結晶の融解に伴う吸熱ピークの融解熱量である。原料のポリプロピレンチップのβ晶活性を確認する場合も上記と同様に行えばよい。表では、β晶活性を有するものをYes、有さないものをNoとした。
(3)比重、空孔率
フィルムの比重は、ミラージュ貿易(株)製高精度電子比重計(SD−120L)を用いて、30×40mmのサイズに切り出したサンプルについて、JIS K 7112(1999) A法(水中置換法)に準じて23℃、65%RHにて測定した。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた比重の平均値を当該サンプルの比重(d1)とした。
【0184】
該サンプルを0.5mm厚みのアルミ板で挟み、280℃で熱プレスして融解・圧縮させた後、得られたシートを、アルミ板ごと30℃の水に浸漬して急冷した。得られたシートについて上記同様の方法で、同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた比重の平均値をサンプル調製後の比重(d0)とした。得られたd1とd0から、フィルムの空孔率を、下記式を用いて求めた(単位:%)。
【0185】
空孔率(%) = {1−d1/d0}×100
(4)溶融張力(MS)
JIS K 7199(1999)に準じた装置を用い、以下の条件で測定を行った。なお、測定は(株)東ソー分析センターで行った。
【0186】
・装置:メルトテンションテスター付きキャピログラフ 1BPMD−i((株)東洋精機製)
・温度:230℃(保温チャンバー使用)
・ダイス:L=8(mm)、 D=2.095(mm)
・押出速度:20mm/分
・引取速度:15.7m/分
・サンプル重量:15〜20g
各サンプル(チップ形状の原料はそのまま、フィルム形状のものは必要に応じて抽出処理を行った後、5mm角以下のサイズに必要量切り出して用いる。)を230℃で装置に充填後、一定位置(キャピログラフ上の表示で25cmの位置)まで50mm/分で予備押し込みし、その位置で予熱した。サンプル充填から6分後に、上記条件に従ってポリマーの押出し、ストランドの引き取りを開始した。引き取った際の張力は、途中滑車を介してストレスゲージにて測定できる。サンプル充填から10分後からデータ採取を開始し、充填から12〜16分の間に測定した張力の平均値を採取した(単位:cN)。なお、得られたデータの解析は付属のソフト(キャピログラフ用システムプログラム)を用いて行った。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたMSの平均値を当該サンプルのMSとした。
(5)メルトフローレイト(MFR)
JIS K 7210(1999)に準じて条件M(230℃、2.16kgf(21.18N)で測定した(単位:g/10分)。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたMFRの平均値を当該サンプルのMFRとした。
(6)広角X線回折法によるI(MD)/I(TD)の評価およびβ晶活性の確認
[I(MD)/I(TD)の評価]
広角X線回折法(ディフラクトメーター法)により、2θ=43°付近に観測される(−113)面の回折ピークについて、下記の測定条件下で円周方向(方位角(β)方向)の強度分布を測定した。
・サンプル:フィルムを、方向を揃えて、厚みが1mm程度になるよう重ね合わせて切り出し、測定に供した。
・X線発生装置:理学電機(株)製 4036A2(管球型)
・X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
・出力:40kV、20mA
・光学系:理学電機(株)製 ピンホール光学系(2mmφ)
・ゴニオメーター:理学電機(株)製
・スリット系:2mmφ(上記)−1°−1°
・検出器:シンチレーションカウンター
・計数記録装置:理学電気(株)製 RAD−C型
・測定方法:透過法
・2θ/θスキャン:ステップスキャン、2θ範囲10〜55°、0.05°ステップ、積算時間2秒
・方位角(β)スキャン:2θ≒43°(固定)、ステップスキャン、β測定範囲0〜360°、0.5°ステップ、積算時間2秒
2θ/θスキャン、方位角(β)スキャンの装置およびサンプルの幾何配置に関する簡単な説明を、それぞれ図3、4に示した。図3は、2θ/θスキャンX線回折プロファイルを採取する際のサンプル、装置の配置を模式的に示した図である。サンプル4のフィルム表面に対する法線5は入射X線6に対してθ(°)だけ傾き、回折X線7の先に、スリット(図示していない)が配置され、さらにX線計測用のシンチレーションカウンター(図示していない)が存在し、シンチレーションカウンターは2θ(°)だけ傾くような配置となっている。図示していないが、X線源からNiフィルター、ピンホールコリメータ、スリットを通過し、入射X線6が得られるようになっている。シンチレーションカウンターとサンプルとの角度を調整するために回転可能な軸であるゴニオメーター軸8が存在する。β方向スキャンでは、サンプルは、そのフィルム表面に平行であり、即ち法線5に直交する回転平面9に沿って、上記条件下で回転する。
【0187】
図4には、図3のサンプルをフィルムの面法線方向(図3の符号5)の観測点(図3の符号10)から観察した際のサンプルの幾何配置を模式的に示した。βは、ゴニオメーター軸8とサンプルの縦方向12がなす角度である。なお、これらの図において、サンプルは便宜上縦方向に長く描いているが、基準となる方向が明らかであり、下記に示す通り測定中のX線の照射部分11が一定であれば、縦、横方向のサンプルの寸法は問わない。また、サンプルは、フィルム面内の結晶鎖の配向分布を評価するために、フィルム表面がβ方向の回転平面9やゴニオメーター軸8と平行になるようにセットされる。
【0188】
ここで、2θ=43°付近の(−113)面の回折ピークは、分子鎖軸方向の成分を含んでいる。したがって、β=0,180°のX線強度ピークが、フィルム面内の結晶鎖のうち、横方向に配向した成分に対応し、β=90,270°のX線強度ピークが縦方向に配向した結晶鎖成分に対応する。すなわち、β=0,180°のピークの積分強度がβ=90,270°のピークの積分強度に対して十分高い場合、結晶鎖は主に横配向していることに対応する。
【0189】
まず、βを0°もしくは90°に固定し、上記条件で2θ/θスキャンする。次に、2θ=43°付近のピークの頂点となるθ、2θに、サンプル、およびカウンターの位置を固定する。引き続き、サンプルをβ方向に上記条件でスキャンし、目的のX線強度分布を得る。この際、βによってはX線がサンプルからはみ出てしまい、見かけの強度が変わることがないように、いずれのβでもX線の照射部分が一定であることが必要である。図5が後述の実施例で得られたβ方向の強度分布プロファイルの例である。また図6が後述の比較例で得られたものの例である。
【0190】
得られたβ方向プロファイルを用い、下記の手法で縦方向の積分強度(I(MD))、横方向の積分強度(I(TD))を求める。
【0191】
i. 0〜360°のβの範囲において、最低強度を通るベースライン(図5、6の符号13)を引く。
【0192】
ii. それぞれ下記のβの範囲でベースラインとX線強度曲線に囲まれる部分の面積として、積分強度I(MD)、I(TD)を算出する。なお、図5、6においては、I(MD)、I(TD)に相当するのは、それぞれ符号14、符号15である。
【0193】
I(MD) : 45≦β≦135°、 I(TD) : 135≦β≦225°
これより、I(MD)/I(TD)を算出し、得られた値をフィルム面内における結晶鎖の配向バランスの尺度とした。
[β晶活性の確認]
上記(2)または下記(12)において、140〜160℃に頂点を有する融解ピークが存在するが、β晶の融解に起因するものか不明確な場合は、140〜160℃に融解ピークの頂点が存在することと、下記条件で調製したサンプルについて、上記2θ/θスキャンで得られる回折プロファイルの各回折ピーク強度から算出されるK値が0.3以上であることをもってβ晶活性を有するものと判定すればよい。
【0194】
下記にサンプル調製条件、広角X線回折法の測定条件を示す。
・サンプル:フィルムの方向を揃え、熱プレス調製後のサンプル厚さが1mm程度になるよう重ね合わせた。このサンプルを0.5mm厚みの2枚のアルミ板で挟み、280℃で熱プレスして融解・圧縮させ、ポリマー鎖をほぼ無配向化した。得られたシートを、アルミ板ごと取り出した直後に100℃の沸騰水中に5分間浸漬して結晶化させた。その後25℃の雰囲気下で冷却して得られるシートを切り出したサンプルを測定に供した。
・広角X線回折方法測定条件:上記条件に準拠し、2θ/θスキャンによりX線回折プロファイルを得た。
【0195】
ここで、K値は、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβとする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα、Hα、Hαとする)とから、下記の数式により算出できる。K値はβ晶の比率を示す経験的な値であり、各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)を参考にすればよい。
K = Hβ/{Hβ+(Hα+Hα+Hα)}
なお、ポリプロピレンの結晶型(α晶、β晶)の構造、得られる広角X線回折プロファイルなどは、例えば、エドワード・P・ムーア・Jr.著、“ポリプロピレンハンドブック”、工業調査会(1998)、p.135−163;田所宏行著、“高分子の構造”、化学同人(1976)、p.393;ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)や、これらに挙げられた参考文献なども含めて多数の報告があり、それを参考にすればよい。
(7)ガーレ透気度
JIS P 8117(1998)に準拠して、23℃、65%RHにて測定した(単位:秒/100ml)。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたガーレ透気度の平均値を当該サンプルのガーレ透気度とした。この際、ガーレ透気度の平均値が1000秒/100mlを越えるものについては実質的に透気性を有さないものとみなし、無限大(∞)秒/100mlとした。
(8)溶融結晶化温度(Tmc)
Seiko Instruments製熱分析装置RDC220型を用いて、JIS K 7122(1987)に準じて測定した。フィルムを、重量5mgとしてアルミニウムパンに封入して装填し、当該装置にセットし、窒素雰囲気下で10℃/分の速度で30℃から280℃まで昇温し、昇温完了後280℃で5分間待機させ、引き続き10℃/分の速度で30℃まで冷却する際に得られる熱量曲線において、溶融状態からの結晶化に伴う発熱ピークの頂点を同社製熱分析システムSSC5200の内蔵プログラムを用いて求め、溶融結晶化温度(Tmc)とした(単位:℃)。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたTmcの平均値を当該サンプルのTmcとした。
(9)メソペンタッド分率(mmmm)
フィルムのポリプロピレンを60℃のn−ヘプタンで2時間抽出し、ポリプロピレン中の不純物・添加物を除去した後、130℃で2時間以上真空乾燥したものをサンプルとする。該サンプルを溶媒に溶解し、13C−NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求めた(単位:%)。
【0196】
測定条件
・装置:Bruker製DRX−500
・測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
・測定濃度:10重量%
・溶媒:ベンゼン:重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(体積比)
・測定温度:130℃
・スピン回転数:12Hz
・NMR試料管:5mm管
・パルス幅:45°(4.5μs)
・パルス繰り返し時間:10秒
・データポイント:64K
・積算回数:10000回
・測定モード:complete decoupling
解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmとss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)のピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。
(1)mrrm
(2)(3)rrrm(2つのピークとして分割)
(4)rrrr
(5)mrmm+rmrr
(6)mmrr
(7)mmmr
(8)ss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)
(9)mmmm
(10)rmmr
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたメソペンタッド分率の平均値を当該サンプルのメソペンタッド分率とした。
(10)固有粘度([η])
135℃のテトラリン中に溶解したサンプルについて、三井東圧化学(株)製のオストワルド粘度計を用いて測定した(単位:dl/dg)。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた固有粘度の平均値を当該サンプルの固有粘度とした。
(11)アイソタクチックインデックス(II)
フィルムのポリプロピレンを60℃の温度のn−ヘプタンで2時間抽出し、ポリプロピレン中の不純物・添加物を除去する。その後130℃で2時間真空乾燥する。これから重量W(mg)の試料を取り、ソックスレー抽出器に入れ沸騰n−ヘプタンで12時間抽出する。次に、この試料を取り出し、アセトンで十分洗浄した後、130℃で6時間真空乾燥し、その後常温まで冷却し、重量W’(mg)を測定し、次式で求めた。
II(%) = (W’/W)×100(%)
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたIIの平均値を当該サンプルのIIとした。
(12)β晶分率
上記(2)と同様にして得られるセカンドランの熱量曲線(例として図1の符号1)において、140℃以上160℃未満に頂点が観測されるβ晶の融解に伴う1本以上の吸熱ピークから算出される融解熱量(ΔHβ;例として図2の符号2)と160℃以上に頂点が観測されるβ晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解に伴う吸熱ピークから算出される融解熱量(ΔHα;例として図2の符号3)から、下記式を用いて求めた。この際、ΔHβの融解ピークとΔHαの融解ピーク間に、微少な発熱もしくは吸熱ピークが観測される場合があるが、このピークは削除してもよい。
【0197】
β晶分率 = {ΔHβ/(ΔHβ+ΔHα)}×100
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたβ晶分率の平均値を当該サンプルのβ晶分率とした(単位:%)。また、各種キャスト条件により製造された未延伸シートについて測定を行う場合など、工程条件によるβ晶分率の違いを評価する場合は、ファーストランの熱量曲線を用いる以外は上記と同様の条件で測定を行えばよい。
(13)β晶核剤の分散状態の確認
加熱装置を備えた光学顕微鏡を用い、サンプル(チップ形状の原料はそのまま、フィルム・シート形状のものは10mm角に切り出して用いる)を松浪硝子(株)製カバーグラス(18×18mm、No.1)にのせて200℃で加熱し、溶融させた。溶融後、そのままもう一枚のカバーグラスを被せて圧縮し、厚さ0.03mmの溶融体とした。サンプルの任意の5カ所について倍率400倍で焦点深度を変えて厚み方向の全ての核剤の分散状態を観察し、観測された全ての核剤について長径と短径を測定し、その比(=長径/短径)の平均値を算出した。同じサンプルで同様の測定を5回行い、得られた長径と短径の比の平均値を当該サンプルの長径と短径の比とした。第1、第2および第3の発明に共通して、該長径と短径の比が10以上のものを、核剤が針状に分散しているものと定義した。
(14)粒子の平均粒径
遠心沈降法(堀場製作所製 CAPA500を使用)を用いて測定した体積平均径を平均粒径(μm)とした。
(15)微孔性フィルムの断面構造の観察
凍結ミクロトーム法を用い、−100℃で微孔性フィルムの横方向―厚み方向断面を採取した。得られた微孔性フィルムの断面に、Ptをコートした後、下記条件にて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面を観察し、断面像を採取した。また、得られた断面像から、各層の厚み(μm)を測定した。なお、サンプル調製および断面観察は、(株)東レリサーチセンターにて行った。また、観察倍率は、必要に応じて下記の範囲で設定を変更した。
【0198】
・装置 :(株)日立製作所製 超高分解能電解放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)S−900H
・加速電圧:2kV
・観察倍率:2000〜20000倍。
(16)濡れ張力
ホルムアミドとエチレングリコールモノエチルエーテルとの混合液 を用いて、JIS K 6768(1999)に準じて測定した(単位:mN/m)。
(17)流動パラフィン透過時間
シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製 流動パラフィン(SAJ1級、製品番号24−0570−5)を用い、該流動パラフィン、フィルムサンプルを23℃、65%RH下に24時間保持後、フィルムを水平面に設置し、サンプル上約20mmの高さから該流動パラフィン約0.5gを滴下する。この際、該流動パラフィンがフィルム面に着地してから、フィルムの初期滴下部分が完全に透明になるまでの時間T(秒)を測定した。さらに、滴下部分周辺の厚みを5点測定し、平均厚みt(μm)を算出し、下記式より25μm厚みあたりに換算した流動パラフィン透過時間を求めた(単位:秒/25μm)。
流動パラフィン透過時間(秒/25μm) = T/t×25
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた流動パラフィン透過時間の平均値を当該サンプルの流動パラフィン透過時間とした。この際、流動パラフィン透過時間の平均値が60秒/25μを越えるものについては実質的に透過性を有さないものと見なし、無限大(∞)秒/25μmとした。
(18)長手方向のヤング率、長手方向の破断強度
JIS K 7127(1999、試験片タイプ2)に準じて、(株)オリエンテック製フィルム強伸度測定装置(AMF/RTA−100)を用いて、25℃、65%RHにて測定した。サンプルを長手方向:15cm、幅方向:1cmのサイズに切り出し、原長50mm、引張り速度300mm/分で伸張して、ヤング率(単位:GPa)、破断強度(単位:MPa)を測定した。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたヤング率、破断強度の平均値を当該サンプルのヤング率、破断強度とした。
(19)長手方向の熱収縮率
サンプルを長手方向:260mm、幅方向:10mmにサンプリングし、原寸(L)として200mmの位置にマークを入れる。このサンプルの下端に3gの荷重をかけ、105℃の熱風循環オーブン中で15分間熱処理した後室温中に取り出し、サンプルにマークした長さ(L)を測定する。この際、熱収縮率は次式により求めた(単位:%)。
【0199】
熱収縮率(%) = 100×(L−L)/L
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた熱収縮率の平均値を当該サンプルの熱収縮率とした。
(20)静摩擦係数μs
東洋精機(株)製スリップテスターを用いた。湿度を65%RHとした以外は、JIS K 7125(1999)に準じ、フィルムの2つの面をA、Bとした場合の、同一試料から切り出したフィルム2枚のうち1枚のA面と別のB面を重ねて測定した。同じ試料について同様の測定を5回行い、得られた静摩擦係数の平均値を当該サンプルの静摩擦係数とした。
(21)二軸配向の判別
フィルムの配向状態を、フィルムに対して以下に示す3方向からX線を入射した際に得られるX線回折写真から判別する。
・Through入射:フィルムの縦方向(MD)・横方向(TD)で形成される面に垂直に入射
・End入射 :フィルムの横方向・厚み方向で形成される面に垂直に入射
・Edge入射 :フィルムの縦方向・厚み方向で形成される面に垂直に入射。
【0200】
なお、サンプルは、フィルムを方向を揃えて、厚みが1mm程度になるよう重ね合わせて、切り出し、測定に供した。
【0201】
X線回折写真は以下の条件でイメージングプレート法により測定した。
・X線発生装置 :理学電気(株)製 4036A2型
・X線源 :CuKα線(Niフィルター使用)
・出力 :40Kv、20mA
・スリット系 :1mmφピンホールコリメータ
・イメージングプレート:FUJIFILM BAS−SR
・撮影条件 :カメラ半径(サンプルとイメージングプレートとの間の距離)40mm、露出時間5分。
【0202】
ここで、フィルムの無配向、一軸配向、二軸配向の別は、例えば、松本喜代一ら、“繊維学会誌”、第26巻、第12号、1970年、p.537−549;松本喜代一著、“フィルムをつくる”、共立出版(1993)、p.67−86;岡村誠三ら著、“高分子化学序論(第2版)”、化学同人(1981)、p.92−93などで解説されているように、以下の基準で判別できる。
・無配向 :いずれの方向のX線回折写真においても実質的にほぼ均等強度を有するデバイ・シェラー環が得られる
・縦一軸配向:End入射のX線回折写真においてほぼ均等強度を有するデバイ・シェラー環が得られる
・二軸配向 :いずれの方向のX線回折写真においてもその配向を反映した、回折強度が均等ではない回折像が得られる。
(22)フィルムの厚み
ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B 7503(1997)、PEACOCK製UPRIGHT DIAL GAUGE(0.001×2mm)、No.25、測定子5mmφ平型、125gf荷重)を用いて、フィルムの長手方向および幅方向に10cm間隔で10点測定し、それらの平均値を当該サンプルのフィルム厚みとした(単位:μm)。
(23)実効延伸倍率
スリット状口金から押し出し、金属ドラムにキャストしてシート上に冷却固化せしめた未延伸フィルムに、長さ1cm四方の升目をそれぞれの辺がフィルムの長手方向、幅方向に平行になるように刻印した後、延伸・巻き取りを行い、得られたフィルムの升目の長さ(cm)を長手方向に10升目分、幅方向に10升目分測定し、これらの平均値をそれぞれ長手方向・横方向の実効延伸倍率とした。
(24)製膜性
フィルムをキャスト速度2m/分で5時間製膜した際に、下記の基準で判定した。
・A :破れが発生しない。
・B :破れが1回発生。
・C :破れが2回発生。
・D :破れが3回以上発生。
【0203】
なお、破れの回数は以下の基準で数えた。すなわち、縦延伸工程もしくは横延伸工程で破れが発生したら、その時点で破れ1回とカウントし、速やかにその工程の前でフィルムをカットして巻き取りつつ待機し(何らかの理由で破れが発生した前の工程で待機することが困難な場合、そのさらに前の工程で待機してもよい)、準備が整い次第破れが発生した工程に再びフィルムを導入する。例えば、横延伸工程でフィルム破れが発生した場合、縦延伸機−横延伸機(テンター)間でフィルムを一旦カットして縦延伸フィルムをそのまま巻き取りつつ待機状態とし、テンターの破れフィルムの除去、フィルム通し条件(温度、テンタークリップ走行速度など)の調整が完了次第、再びフィルムをテンターに導入して横延伸させ、製膜性を評価する。なお、上記5時間の製膜時間は、この待機状態を含んだ時間と定義する。同じ水準について同様の製膜実験を5回行い、得られた破れ回数の平均値を破れ回数とし、製膜性を上記基準で判定した。
【実施例】
【0204】
第1、第2および第3の発明を、実施例に基づいて説明する。なお、所望の厚みのフィルムを得るためには、特に断りのない限り、ポリマーの押出量を所定の値に調節した。また、特に断りのない限り、フィルムを構成するポリプロピレンのトルートン比、溶融張力(MS)、メルトフローレイト(MFR)、メソペンタッド分率(mmmm)、アイソタクチックインデックス(II)は、フィルムをサンプルとして測定した。積層フィルムのトルートン比、溶融張力(MS)、メルトフローレイト(MFR)、メソペンタッド分率(mmmm)、アイソタクチックインデックス(II)は、各発明を適用したコア層を構成するポリプロピレンについて測定した値である。ポリプロピレン以外の他のポリマーを添加したフィルムの上記特性値は、他のポリマーを添加する前のポリプロピレンについて測定した値である。また、フィルムのβ晶活性の判定、β晶分率、比重、空孔率、溶融結晶化温度(Tmc)は、積層フィルムについても、他のポリマーを添加したフィルムについても、得られたフィルム全体について測定した値である。
【0205】
まず、第1の発明について説明する。なお、実施例のフィルム、比較例のフィルムのうち採取できたフィルムは、上記した測定法(21)に基づき、全て二軸配向していることを確認した。
【0206】
(実施例101)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0207】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(メルトフローレイト(MFR):7g/10分)・・96.95重量%
トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF−814(MFR:3g/10分)・・3重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップを一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱されたドラム(=キャスティングドラム、キャストドラム)にキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて140℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0208】
得られた未延伸シートを100℃に保たれたロール群に通して予熱し、100℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、100℃で長手方向に4倍延伸して80℃に冷却した。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して135℃で予熱し、135℃で幅方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0209】
得られた微孔性フィルムの原料組成とフィルム特性評価結果をそれぞれ表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0210】
(実施例102)
実施例101において、長手方向の延伸倍率を5倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例102とした。
【0211】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0212】
(実施例103)
実施例101において、長手方向の延伸倍率を6倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例103とした。
【0213】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0214】
(実施例104)
実施例102において、長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量を15重量%とし、長手方向に5倍、幅方向に7倍延伸したこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例104とした。
【0215】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0216】
(実施例105)
実施例102において、長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量を10重量%とし、長手方向に5倍、幅方向に7倍延伸したこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例105とした。
【0217】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0218】
(実施例106)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0219】
トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF−814(MFR:3g/10分)・・3重量%
β晶核剤添加ポリプロピレン:SUNOCO製“BEPOL”(タイプ:B022−SP、MFR:1.8g/10分)・・97重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃でガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップを一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面からエアーナイフを用いて140℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形した。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0220】
得られた未延伸シートを110℃に保たれたロール群に通して予熱し、110℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、110℃で長手方向に6倍延伸して95℃に冷却する。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して135℃で予熱し、135℃で幅方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0221】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率・強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
(実施例107)
実施例103において、β晶核剤の添加量を0.2重量%にし、キャストドラムの温度(キャスト温度)を110℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例107とした。
【0222】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0223】
(実施例108)
実施例107において、キャスト温度をさらに100℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例108とした。
【0224】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0225】
(実施例109)
実施例102において、下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行い、長手方向に5倍、幅方向に9倍延伸したこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例109とした。
【0226】
ポリプロピレン:出光化学(株)製ポリプロピレンF−300SV(MFR:3g/10分)・・96.95重量%
トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF−814(MFR:3g/10分)・・3重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0227】
(実施例110)
実施例102において、β晶核剤の添加量を0.005重量%とし、長手方向の予熱・延伸温度を110℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例110とした。
【0228】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
【0229】
(実施例111)
実施例102において、β晶核剤の添加量を0.02重量%としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例111とした。
【0230】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0231】
(実施例112)
実施例102において、長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量を1.5重量%としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例112とした。
【0232】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0233】
(実施例113)
コア層(A層)原料として、実施例101で一軸押出機に供給した原料チップを、一軸押出機(a)に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金内に導入した。一方、スキン層(B層)原料として、住友化学(株)製ポリプロピレンFM401G(MFR:7g/10分)と三井化学(株)製ポリプロピレン(エチレン・プロピレンコポリマー)F107DV(MFR:7g/10分)を、それぞれ一軸押出機(b)、一軸押出機(c)に供給して260℃で溶融・混練し、同じく上記口金内に導入した。次いで、口金内で押出機(b)、押出機(c)の溶融ポリマーを押出機(a)の溶融ポリマーの一方の面にそれぞれ積層してシート状に共押出し、表面温度110℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて40℃の冷風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。また、C層が金属ドラムに接するように口金からシート状に押し出した。
【0234】
得られた未延伸積層(B層/A層/C層)シートを110℃に保たれたロール群に通して予熱し、110℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、110℃で長手方向に5倍延伸して80℃に冷却する。引き続き、この縦延伸積層フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して140℃で予熱し、140℃で幅方向に8倍延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを得た。得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=1.5/22/1.5μmであった。
【0235】
結果を表1、3に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
【0236】
(比較例101)
実施例101において、下記の組成を有する、トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例101)。
【0237】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.95重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
得られた微孔性フィルムの原料特性とフィルム特性評価結果をそれぞれ表2、4に示す。横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0238】
(比較例102)
比較例101において、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例102とした。
【0239】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高く、透過性能も不十分であった。
【0240】
(比較例103)
比較例102において、長手方向の延伸倍率を5倍に上げたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例103)。
【0241】
結果を表2、4に示す。横延伸の際に破れが散発したため、満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0242】
(比較例104)
比較例103において、長手方向の延伸倍率をさらに6倍に上げたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例104)。
【0243】
結果を表2、4に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0244】
(比較例105)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0245】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンFS2011C(MFR:1.3g/10分)・・99.8重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.2重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップ85重量%に、空洞開始剤として出光化学(株)製ポリカーボネート(“タフロン”、A1700)15重量%を添加した樹脂組成を一軸押出機に供給して280℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に260℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度90℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて40℃の冷風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0246】
得られた未延伸シートを132℃に保たれたロール群に通して予熱し、135℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に5倍延伸して直ちに室温に冷却する。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して165℃で予熱し、150℃で幅方向に9倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に8%の弛緩を与えつつ、160℃で熱固定をした後、冷却して巻き取り、厚さ25μmの空洞含有ポリプロピレンフィルムを得た。
【0247】
結果を表2、4に示す。なお、フィルムを構成するポリプロピレンのトルートン比、II、MFRは、ポリカーボネートを添加する前のポリプロピレンについて測定した。得られた微孔性フィルムは、製膜性には優れていたが、比重が極めて高く、全く透過性を有していなかった。
【0248】
(比較例106)
実施例102において、β晶核剤を添加しなかったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例106)。
【0249】
結果を表2、4に示す。キャスト工程でシートがキャストドラムに粘着したまま剥離できず、連続的に延伸工程へとシートを搬送できないことから、工業的に製造できないフィルムであった。
【0250】
(比較例107)
比較例106において、一軸押出機、口金の温度を240℃とし、キャスト温度を40℃としたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例107)。
【0251】
結果を表2、4に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0252】
(比較例108)
比較例107において、長手方向の予熱温度、延伸温度をそれぞれ132℃、137℃とし、幅方向の延伸倍率、予熱温度、延伸温度、熱固定温度をそれぞれ10倍、165℃、160℃、160℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを比較例108とした。
【0253】
結果を表2、4に示す。得られたフィルムは、製膜性には優れていたが、比重が極めて高く、その比重、および透明な外観から実質的にボイド・孔が形成されていないものと推定され、全く透過性を有していなかった。
【0254】
(比較例109)
実施例106において、下記の組成を有する、トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例109)。
【0255】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・3重量%
β晶核剤添加ポリプロピレン:SUNOCO製“BEPOL”(タイプ:B022−SP、MFR:1.8g/10分)・・97重量%
結果を表2、4に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0256】
(比較例110)
比較例109において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例110とした。
【0257】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高く、実質的に透過性を有していなかった。
【0258】
(比較例111)
比較例109において、β晶核剤添加ポリプロピレンとして、SUNOCO製“BEPOL”100重量%のポリプロピレン樹脂組成を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例111)。
【0259】
結果を表2、4に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0260】
(比較例112)
比較例111において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例112とした。
【0261】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高く、実質的に透過性を有していなかった。
【0262】
(比較例113)
実施例101において、ポリプロピレンとして、住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)単体を用いたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例113)。
【0263】
結果を表2、4に示す。キャスト工程でシートがキャストドラムに粘着したまま剥離できず、連続的に延伸工程へとシートを搬送できないことから、工業的に製造できないフィルムであった。
【0264】
(比較例114)
実施例110において、下記の組成を有する、トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例114)。
【0265】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.995重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.005重量%
結果を表2、4に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0266】
(比較例115)
比較例114において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を125℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例115とした。
【0267】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高く、実質的に透過性を有していなかった。
【0268】
(比較例116)
実施例111において、下記の組成を有する、トルートン比が50の長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例116)。
【0269】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.98重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.02重量%
結果を表2、4に示す。横延伸の際に破れが多発したため、満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0270】
(比較例117)
比較例116において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例117とした。
【0271】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高く、実質的に透過性を有していなかった。
【0272】
(比較例118)
実施例113において、コア層(A層)原料として、比較例101で一軸押出機に供給した原料チップを、一軸押出機(a)に供給したこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例118)。
【0273】
結果を表2、4に示す。横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0274】
(比較例119)
比較例118において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を125℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μm、厚み構成がB層/A層/B層=1.5/22/1.5μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを比較例119とした。
【0275】
結果を表2、4に示す。得られた微孔性フィルムは、100番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して比重が高かった。
【0276】
【表1】

【0277】
【表2】

【0278】
【表3】

【0279】
【表4】

【0280】
表1〜4より、第1の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、トルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、および/またはトルートン比が6以上であるポリプロピレンから構成され、および/または長鎖分岐を有するポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有することにより、製膜性を著しく向上できた。また、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸してもフィルムが破れることなく製膜可能であり、これに伴い比重をさらに低くできた。さらに、その透過性をフィルムの層構成、原料組成や製膜条件で制御できるとともに、透過性を著しく高くすることもできた。
【0281】
また、図7、図8には、それぞれ実施例103、比較例102のフィルムの断面を。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際に得られたSEM像を示した。いずれの断面にも孔(図7、図8の符号16)が観察され、孔のなかには微細なミクロフィブリル(図7、図8の符号17)が観察された。驚くべきことに、実施例103では、比較例102に比べて縦方向に低温かつ高倍率に縦延伸しているにも関わらず、実質的な孔の拡大、不均一化などは確認されない。さらに驚くべきことに、実施例103では、比較例102に比べて、ナノメートルオーダーのサイズを有するミクロフィブリルがより多く観察され、孔構造が微細化していることが確認された。このように、β晶活性を有し、かつトルートン比が30以上のポリプロピレンを含み、および/またはトルートン比が6以上であるポリプロピレンから構成され、および/または長鎖分岐を有するポリプロピレンを含むことにより、孔構造を制御できることが見出された。これは、上記した延伸応力の均一伝達効果により、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比べて構造が微細化したものと推定される。また、下記に説明する第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムについても、同様の現象を確認した。
【0282】
次に、第2の発明について説明する。なお、実施例のフィルム、比較例のフィルムのうち採取できたフィルムは、上記した測定法(21)に基づき、二軸配向していることを確認した。
【0283】
(実施例201)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0284】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(メルトフローレイト(MFR):7g/10分)・・94.95重量%
溶融張力が20cNの長鎖分岐を有する高溶融張力ポリプロピレン(HMS−PP):Basell製HMS−PP PF−814(MFR:3g/10分)・・5重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
[なお、上記HMS−PPのMSは、引取速度5m/分の条件下で測定した値である。]
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで5mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップを一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱された金属ドラム(=キャスティングドラム、キャストドラム)にキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて140℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0285】
得られた未延伸シートを100℃に保たれたロール群に通して予熱し、100℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に4倍延伸して90℃に冷却する。引き続きこの縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して135℃で予熱し、135℃で幅方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0286】
得られた微孔性フィルムの原料組成とフィルム特性評価結果をそれぞれ表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0287】
(実施例202)
実施例201において、長手方向の延伸倍率を5倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例202とした。
【0288】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0289】
(実施例203)
実施例201において、長手方向の延伸倍率を6倍に上げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例203とした。
【0290】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0291】
(実施例204)
実施例202において、長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量を12重量%とし、長手方向に5倍、幅方向に7倍延伸したこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例204とした。
【0292】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0293】
(実施例205)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0294】
MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PP:Basell製HMS−PP PF−814(MFR:3g/10分)・・5重量%
β晶核剤添加ポリプロピレン:SUNOCO製“BEPOL”(タイプ:B022−SP、MFR:1.8g/10分)・・95重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃でガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで5mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップを一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面からエアーナイフを用いて140℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0295】
得られた未延伸シートを110℃に保たれたロール群に通して予熱し、110℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6倍延伸して100℃に冷却する。引き続きこの縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して135℃で予熱し、135℃で幅方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0296】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率・強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0297】
(実施例206)
実施例203において、β晶核剤の添加量を0.2重量%とし、キャストドラムの温度(キャスト温度)を110℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例206とした。
【0298】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0299】
(実施例207)
実施例206において、キャスト温度をさらに100℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例207とした。
【0300】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0301】
(実施例208)
実施例203において、下記の樹脂組成を有するポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行い、長手方向に5倍、幅方向に9倍延伸したこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例208とした。
【0302】
ポリプロピレン:Borealis製ポリプロピレンHC318BF(MFR:3.2g/10分)・・94.95重量%
MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PP:Basell製HMS−PP PF−814(MFR:3g/10分)・・5重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0303】
(実施例209)
実施例202において、β晶核剤の添加量を0.005重量%とし、長手方向の予熱・延伸温度を110℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例209とした。
【0304】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜製に優れるとともに、空孔率が高かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0305】
(実施例210)
実施例202において、長鎖分岐を有するポリプロピレンの混合量を2重量%としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例210とした。
【0306】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0307】
(実施例211)
コア層(A層)原料として、実施例201で一軸押出機に供給した原料チップを、一軸押出機(a)に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金内に導入した。一方、スキン層(B層)原料として、住友化学(株)製ポリプロピレン(エチレン・プロピレンコポリマー)FM401G(MFR:7g/10分)と三井化学(株)製ポリプロピレンF107DV(MFR:7g/10分)を、それぞれ一軸押出機(b)、押出機(c)に供給して260℃で溶融・混練し、同じく上記口金内に導入した。次いで、口金内で押出機(b)、押出機(c)の溶融ポリマーを押出機(a)の溶融ポリマーの一方の面にそれぞれ積層してシート状に共押出し、表面温度110℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて40℃の冷風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。また、C層が金属ドラムに接触するように口金からシート状に押し出した。
【0308】
得られた未延伸積層(B層/A層/C層)シートを110℃に保たれたロール群に通して予熱し、110℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、110℃で長手方向に5倍延伸して90℃に冷却する。引き続き、この縦延伸積層フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して140℃で予熱し、140℃で幅方向に8倍延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを得た。得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=1.5/22/1.5μmであった。
【0309】
結果を表5、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、空孔率が高かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
【0310】
(比較例201)
実施例201において、MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PPを添加しないポリプロピレン樹脂組成を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例201)。
【0311】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.95重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
得られた微孔性フィルムの原料組成とフィルム特性評価結果を表6、7および8に示す。横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0312】
(比較例202)
比較例201において、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例202とした。
【0313】
結果を表6、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、200番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して空孔率が低く、透過性能も不十分であった。
【0314】
(比較例203)
比較例202において、長手方向の延伸倍率を5倍に上げたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例203)。
【0315】
結果を表6、7および8に示す。横延伸の際に破れが散発したため、満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0316】
(比較例204)
比較例203において、長手方向の延伸倍率をさらに6倍に上げたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例204)。
【0317】
結果を表6、7および8に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0318】
(比較例205)
比較例202において、ポリプロピレンとして住友化学(株)社製ポリプロピレンWF836DG3のかわりに、Borealis社製ポリプロピレンHC318BF(MFR:3.2g/10分)を用いた、MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PPを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例205)。
【0319】
結果を表6、7および8に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0320】
(比較例206)
下記組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0321】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンFS2011C(MFR:1.3g/10分)・・99.8重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.2重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して280℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで5mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップ85重量%に、空洞開始剤として出光化学(株)製ポリカーボネート(“タフロン”、A1700)を15重量%を添加した樹脂組成を一軸押出機に供給して280℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に260℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度90℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて40℃の冷風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0322】
得られた未延伸シートを132℃に保たれたロール群に通して予熱し、135℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に5倍延伸して直ちに室温に冷却する。引き続きこの縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して165℃で予熱し、150℃で幅方向に9倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に8%の弛緩を与えつつ、160℃で熱固定をした後、冷却して巻き取り、厚さ25μmの空洞含有ポリプロピレンフィルムを得た。
【0323】
結果を表6、7および8に示す。なお、フィルムを構成するポリプロピレンのMS、MFR、II、mmmmは、ポリカーボネートを添加する前のポリプロピレンについて測定した。得られた微孔性フィルムは、製膜性には優れていたが、空孔率が極めて低く、全く透過性を有していなかった。
【0324】
(比較例207)
実施例202において、β晶核剤を添加しなかったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例207)。
【0325】
結果を表6、7および8に示す。キャスト工程でシートがキャストドラムに粘着したまま剥離できず、連続的に延伸工程へとシートを搬送できないことから、工業的に製造できないフィルムであった。
【0326】
(比較例208)
比較例207において、一軸押出機、口金の温度を240℃とし、キャスト温度を40℃としたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例208)。
【0327】
結果を表6、7および8に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0328】
(比較例209)
比較例208において、長手方向の予熱温度、延伸温度をそれぞれ132℃、137℃とし、幅方向の延伸倍率、予熱温度、延伸温度、熱固定温度をそれぞれ10倍、165℃、160℃、160℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを比較例209とした。
【0329】
結果を表6、7および8に示す。得られたフィルムは、製膜性には優れていたが、空孔率が実質的に0であり、その値、および透明な外観から実質的にボイド・孔が形成されていないものと推定され、全く透過性を有していなかった。
【0330】
(比較例210)
実施例205において、SUNOCO製“BEPOL”(タイプ:B022−SP、MFR:1.8g/10分)100重量%の、MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PPを添加しないポリプロピレン樹脂組成を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例210)。
【0331】
結果を表6、7および8に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0332】
(比較例211)
比較例210において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例211とした。
【0333】
結果を表6、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、200番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して空孔率が低く、実質的に透過性を有していなかった。
【0334】
(比較例212)
実施例201において、ポリプロピレンとして、住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)単体を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例212)。
【0335】
結果を表6、7および8に示す。キャスト工程でシートがキャストドラムに粘着したまま剥離できず、連続的に延伸工程へとシートを搬送できないことから、工業的に製造できないフィルムであった。
【0336】
(比較例213)
実施例210において、下記の樹脂組成を有する、MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PPを添加しないポリプロピレン樹脂組成を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例213)。
【0337】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.995重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.005重量%
結果を表6、7および8に示す。縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0338】
(比較例214)
比較例213において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を125℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例214とした。
【0339】
結果を表6、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、200番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して空孔率が低く、実質的に透過性を有していなかった。
【0340】
(比較例215)
実施例211において、コア層(A層)原料として、比較例201で一軸押出機に供給した原料チップを、一軸押出機(a)に供給したこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例215)。
【0341】
結果を表6、7および8に示す。横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0342】
(比較例216)
比較例215において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を125℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ25μm、厚み構成がB層/A層/B層=1.5/22/1.5μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを比較例216とした。
【0343】
結果を表6、7および8に示す。得られた微孔性フィルムは、200番台の実施例で得られた微孔性フィルムに比較して空孔率が低かった。
【0344】
(比較例217)
実施例203において、比較例201で用いた原料チップ95重量%に、アクリル変成高分子量ポリテトラフルオロエチレンとして、三菱レイヨン(株)製メタブレンAタイプ(A−3000)を5重量%添加した、MSが20cNの長鎖分岐を有するHMS−PPを添加しないポリプロピレン樹脂組成を一軸押出機に供給したこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例217)。
【0345】
結果を表6、7および8に示す。なお、フィルムを構成するポリプロピレンのMS、MFR、II、mmmmは、メタブレンを添加する前のポリプロピレンについて測定した。未延伸シートにはゲル状物の析出がみられ、縦延伸・横延伸の際に破れが多発したため、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
【0346】
【表5】

【0347】
【表6】

【0348】
【表7】

【0349】
【表8】

【0350】
表5〜8より、第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、下記式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、および/またはMSが5cN未満で下記式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たすポリプロピレンから構成され、かつβ晶活性を有することにより、製膜性を著しく向上できた。また、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸してもフィルムが破れることなく安定に製膜可能であり、これに伴い空孔率をさらに高くできた。さらに、その透過性をフィルムの層構成、原料組成や製膜条件で制御できるとともに、透過性を著しく高くすることもできた。
【0351】
次に、第3の発明の実施例を説明する。なお、上記した測定法(21)に基づき、比較例308のフィルムは、縦方向に一軸配向していることを確認した。一方、実施例のフィルム、比較例のフィルムのうち採取できたフィルムは、二軸配向していることを確認した。
(実施例301〜303)
実施例101、102、103の微孔性ポリプロピレンフィルムをそれぞれ実施例301、302、303と別途符番した。
【0352】
得られた微孔性フィルムのフィルム特性評価結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
(実施例304)
下記の組成を有するポリプロピレン樹脂を準備した。
【0353】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(メルトフローレイト(MFR):7g/10分)・・93.95重量%
長鎖分岐を有するポリプロピレン:Basell製ポリプロピレンPF−814(MFR:3g/10分)・・3重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
ポリオレフィン系樹脂:デュポンダウエラストマージャパン(株)製“エンゲージ”8411・・3重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)社製製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)社製製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。得られた原料チップを一軸押出機に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金から押出し、表面温度120℃に加熱された金属ドラム(=キャスティングドラム、キャストドラム)にキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて140℃に加熱された熱風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、40秒であった。
【0354】
得られた未延伸シートを95℃に保たれたロール群に通して予熱し、95℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、95℃で長手方向に5倍延伸して75℃に冷却した。引き続き、この縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して135℃で予熱し、135℃で幅方向に8倍に延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、155℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ20μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0355】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに、比重が低く、透過性に優れていた(A:破れ0回)。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
(実施例305)
実施例304において、“エンゲージ”の添加量を1.5重量%としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ20μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例305とした。
【0356】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れるとともに(A:破れ0回)、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
(実施例306)
実施例113において、厚さを35μmとしたこと以外は同様の条件で作製した微孔性ポリプロピレン積層フィルムを実施例306とした。なお、得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=2/31/2μmであった。
【0357】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れる(A:破れ0回)とともに、比重が低く、透過性に優れていた。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性にも優れていた。
(実施例307)
実施例306において、A層原料として、実施例304で一軸押出機に供給した原料を用いたこと以外は同様の条件で作製した厚さ35μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを実施例307とした。なお、得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=2/31/2μmであった。
【0358】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れる(A:破れ0回)とともに、比重が低かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
(実施例308)
コア層(A層)原料として、実施例108で一軸押出機に供給した原料チップを、一軸押出機(a)に供給して220℃で溶融・混練し、200メッシュの単板濾過フィルターを経た後に200℃に加熱されたスリット状口金内に導入した。一方、スキン層(B層)原料として、下記の組成を有する樹脂を準備した。
【0359】
住友化学(株)製ポリプロピレン(エチレン・プロピレンコポリマー)FM401G(MFR:7g/10分)・・49.8重量%
三井化学(株)製ポリプロピレンF107DV(MFR:7g/10分)・・50重量%
(株)日本触媒製“エポスターMA”MA1002(平均粒径約2μmの架橋ポリメタクリル酸メチル粒子)・・0.2重量%
この樹脂を一軸押出機(b)に供給して260℃で溶融・混練し、同じく上記口金内に導入した。次いで、口金内で押出機(b)の溶融ポリマーを押出機(a)の溶融ポリマーの両面に積層してシート状に共押出し、表面温度105℃に加熱されたキャストドラムにキャストし、フィルムの非ドラム面側からエアーナイフを用いて40℃の冷風を吹き付けて密着させながら、シート状に成形し、未延伸積層(B層/A層/B層)シートを得た。なお、この際の金属ドラムとの接触時間は、20秒であった。
【0360】
得られた未延伸積層シートを118℃に保たれたロール群に通して予熱し、118℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、118℃で長手方向に5倍延伸して70℃に冷却する。引き続き、この縦延伸積層フィルムの両端をクリップで把持しつつテンターに導入して145℃で予熱し、145℃で幅方向に8倍延伸した。次いで、テンター内で幅方向に5%の弛緩を与えつつ、160℃で熱固定をし、均一に徐冷した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ35μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを得た。得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/B層=2/31/2μmであった。
【0361】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れる(A:破れ0回)とともに、比重が低かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
(実施例309)
実施例306において、長手方向の延伸倍率を6倍に上げた以外は同様の条件で作製した厚さ35μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを実施例309とした。なお、得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=2/31/2μmであった。
【0362】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、製膜性に優れる(B:破れ1回)とともに、比重が低かった。また、長手方向のヤング率、強度も高く、寸法安定性に優れていた。
(比較例301)
比較例102の微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例301と符番しなおした。
【0363】
得られた微孔性フィルムのフィルム特性評価結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、300番台の実施例の微孔性フィルムに比較して結晶鎖の縦配向が低く、比重が高く、透過性能も不十分であった。
(比較例302)
比較例119において、厚さを35μmとしたこと以外は同様の条件で作製した微孔性ポリプロピレン積層フィルムを比較例302とした。なお、得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/C層=2/31/2μmであった。
【0364】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、300番台の実施例の微孔性フィルムに比較して結晶鎖の縦配向が低く、比重が高かった。
(比較例303)
実施例304において、下記の組成を有する、長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を用いて二軸押出機による溶融・混練を行ったこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例303)。
【0365】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・96.95重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.05重量%
ポリオレフィン系樹脂:デュポンダウエラストマージャパン(株)製“エンゲージ”8411・・3重量%
結果を表9に示す。横延伸の際に破れが多発したため(D:破れ19回)、全くもって満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
(比較例304)
比較例303において、長手方向の予熱・延伸温度を120℃としたこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例304)。
【0366】
結果を表9に示す。横延伸の際に破れが散発した(D:破れ6回)ため、満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
(比較例305)
比較例304において、延伸倍率を4倍に下げたこと以外は同様の条件で作製した厚さ20μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを比較例305とした。
【0367】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、300番台の実施例の微孔性フィルムに比較して結晶鎖の縦配向が低かった。特に、縦延伸温度が“エンゲージ”の融点より十分高く、“エンゲージ”が孔形成補助に効果的に作用しなかったためか、比重が高かった。(A:破れ0回)
(比較例306)
下記の組成を有する、長鎖分岐を有するポリプロピレンを添加しないポリプロピレン樹脂を準備した。
【0368】
ポリプロピレン:住友化学(株)製ポリプロピレンWF836DG3(MFR:7g/10分)・・99.8重量%
β晶核剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレン ジカルボキサミド(新日本理化(株)製NU−100)・・0.2重量%
この樹脂組成100重量部に、酸化防止剤として、チバガイギー(株)製IRGANOX1010を0.15重量部、熱安定剤として、チバガイギー(株)製IRGAFOS168を0.1重量部添加した。これを二軸押出機に供給して300℃で溶融・混練した後、ガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥した。実施例308において、A層原料として、上記原料チップを、一軸押出機(a)に供給したこと以外は同様の条件で製膜を試みた(比較例306)。
【0369】
結果を表9に示す。横延伸の際に破れが多発した(D:破れ13回)ため、全く持って満足なフィルムが得られず、工業的に製造できないフィルムであった。
(比較例307)
比較例306において、長手方向の延伸倍率を4倍に下げ、長手方向の予熱・延伸温度を125℃としたこと以外は同様の条件で作製した厚さ35μmの微孔性ポリプロピレン積層フィルムを比較例307とした。なお、得られた微孔性ポリプロピレン積層フィルムの厚み構成はB層/A層/B層=2/31/2μmであった。
【0370】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、300番台の実施例の微孔性フィルムに比較して結晶鎖の縦配向が低く、比重が高かった。(B:破れ1回)
(比較例308)
市販のCelgard製“セルガード”2500を比較例308とした。なお、“セルガード”2500は、ラメラ延伸法を用いた微孔性ポリプロピレンフィルムである。
【0371】
結果を表9に示す。得られた微孔性フィルムは、一軸配向フィルムであり、300番台の実施例の微孔性フィルムに比較して比重が高かった。また、結晶鎖の縦方向が高すぎるため、縦方向に裂けやすい性質を有していた。
【0372】
【表9】

【0373】
得られた微孔性ポリプロピレンフィルムは、比較例に示す従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、I(MD)/I(TD)が極めて高いことから、縦方向に結晶鎖が配向しており、比重が低くても長手方向の力学物性が高い。このように、従来の微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、比重が同等もしくは低くても、長手方向の力学物性が高いことから、製膜工程やその後のスリット、巻き取り、コーティング、蒸着、印刷、ラミネートなどの二次加工工程において、フィルムが伸びたり、シワが入ったり、破断しにくく、ハンドリング性に優れる。したがって、得られた微孔性フィルムのI(MD)/I(TD)が高いことにより、低比重、およびそれに伴う高透過性とハンドリング性を高いレベルで両立することができた。また、得られた微孔性フィルムは、比重が低く、透過性に優れる。さらに、この透過性は孔形成促進の観点から添加した異種ポリマーにより、向上させることができた。さらには、I(MD)/I(TD)は、縦延伸倍率に代表される延伸条件により制御することができた。加えて、このように縦方向に高倍率に延伸すると、元来製膜性を悪化させる傾向にあるが、原料処方を制御することにより、製膜性を保持しつつ、上記のような優れた性能を有する微孔性フィルムを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0374】
第1、第2の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して延伸時の破れが少なく、製膜性に優れる。さらに、例えば、縦方向に低温でかつ高倍率に延伸しても横延伸で破れることなく製膜でき、従来のβ晶法に比較してライン速度を高くすることができ、生産性に優れる。また、縦方向に高倍率に延伸することにより、従来のβ晶法に比較して、比重を低くでき、長手方向の強度を高めることができる。同時に透過性を著しく向上させることもできる。
【0375】
第3の発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、従来のβ晶法による微孔性ポリプロピレンフィルムに比較して、フィルムの縦方向に高度に結晶鎖が配向している。これにより、長手方向の力学物性に優れることから、二次加工工程におけるハンドリング性に優れる。さらに、フィルムの比重を低くしても、長手方向の力学物性に優れることから、ハンドリング性を保持した上で透過性を著しく向上させることもできる。
【0376】
これら発明の微孔性ポリプロピレンフィルムは、寸法安定性などにも優れるため、合成紙、感熱受容紙、光学部材、建材、分離膜(フィルター)、創傷被覆材などの透湿防水部材、衣料用などの透湿防水布、おむつ用や生理用品用などの吸収性物品、電池用や電解コンデンサー用などのセパレータ、インク受容紙、油または油脂の吸収材、血糖値センサー、タンパク質分離膜などの用途など様々な分野で優れた特性を発揮しうる。
【符号の説明】
【0377】
1 β晶活性を有するポリプロピレンフィルムの熱量曲線
2 β晶の融解熱量(ΔHβ)
3 β晶以外のポリプロピレン由来の結晶の融解熱量(ΔHα)
4 サンプル
5 サンプルのフィルム表面に対する法線
6 入射X線
7 回折X線
8 ゴニオメーター軸(ディフラクトメーター軸)
9 サンプルが方位角(β)方向に回転する際の回転平面
10 観測点
11 X線照射部分
12 サンプルの縦方向
13 強度プロファイルの最低強度を通るように引いたベースライン
14 縦方向の積分強度(I(MD))
15 横方向の積分強度(I(TD))
16 フィルム中の孔
17 孔の中に確認されるミクロフィブリル
T 温度
Endo. 吸熱方向
I X線強度
MD フィルムの縦方向
TD フィルムの横方向
ND フィルムの厚み方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)との関係が、次式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有し、空孔率が30〜95%である微孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)との関係が、次式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、かつβ晶活性を有し、空孔率が30〜95%である微孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
ガーレ透気度が10〜1000秒/100mlである請求項1または2に記載の微孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
メソペンタッド分率(mmmm)が90〜99.5%である請求項1または2に記載の微孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)との関係が、次式(1)
log(MS) > −0.61log(MFR)+0.82 (1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含む微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項6】
230℃で測定したときの溶融張力(MS)が5cN未満であり、MSとメルトフローレイト(MFR)との関係が、次式(2)
log(MS) > −0.9log(MFR)+0.6 (2)
を満たし、かつβ晶活性を有するポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物をシート状に溶融押出し、ドラムにキャストし、未延伸シートを得る工程、さらに得られたシートを縦延伸倍率を5〜10倍として縦−横二軸延伸する工程を含む微孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−107252(P2012−107252A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21585(P2012−21585)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2006−512577(P2006−512577)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】