説明

微孔質電解質層および部分的に開放されたカバーメンブレンを有する酸素センサー

【課題】長期保存寿命および長期使用寿命に加えて、最初に使用する際の短い活性化時間を確実にすることができ、シンプルで経済的な方法で製造することができる、水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するための電気化学センサー、その製造方法ならびに該電気化学センサーを用いて水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するための方法を提供する。
【解決手段】電気化学センサーは、(a)作用電極および対電極、(b)両電極の間に配置された電解質層であって、少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤を含み、多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成し、該孔は、電解質液を取り込むことが意図されているか、または電解質液を含んでいる、上記電解質層、(c)該電解質層の上に配置された気体透過性カバー層を含み、該気体透過性カバー層が、該電解質層の部分領域と該水性測定媒体との接触を可能にする少なくとも1箇所の開口部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するための電気化学センサー、その製造方法ならびに該電気化学センサーを用いて水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体液を分析するためのセンサーは、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成要素である。これに関して、アナライトの迅速かつ正確な測定は主要な関心事であり、これがいわゆるPOC(ポイント・オブ・ケア(point-of-care))パラメータの測定を可能にする。POC検査は、とりわけ、集中治療室および麻酔部門で行なわれるが、外来部門でも行なわれる。これらのいわゆる緊急パラメータとしては、とりわけ、血液ガス値(ここでは特に酸素含量および二酸化炭素含量)、pH値、電解質値ならびに一部の代謝物質値が挙げられる。
【0003】
POC検査は、一方では、サンプルを専門の検査室に輸送する必要がないため、また他方では、検査室のタイムスケジュールを考慮する必要がないため、結果が短時間で利用可能になるという利点を有する。緊急パラメータを可能な限り早く測定するのを可能にするために、複数アナライト測定のために設計されたこのために用いられるセンサーは、原則として、例えば所定の最大使用期限が過ぎた後に、または所定の測定数を行なった後で必要とされる定期的なセンサー交換の間の期間を長くするために、長い使用寿命を有しなくてはならない。このことは、そのようなPOC分析器が使用できない、すなわち測定に利用可能でない、センサー交換のために必要な時間を短縮する。さらに、センサー交換から新たなセンサーが分析測定のために使用できるまでの時間を決める、センサー交換後すぐに続くセンサー活性化時間は、可能な限り短く保たれるべきである。
【0004】
例えば、多目的センサーを有するテストストリップおよび医療用分析器をそのようなPOC検査を行なうために用いて、検査を行なうための手作業を最小限に減らすことができる。POC用途のためのセンサーは、通常、適切に設置された分析用測定デバイスでほとんど完全に自動化された様式で操作され、多くの場合、サンプル調製から試験結果の供給までにユーザーによるわずかな簡潔な介入のみしか必要としない。それらのセンサーは、測定対象のパラメータの単回測定ならびに反復測定のために設計することができる。
【0005】
水性測定媒体中の酸素またはその分圧(pO2)の測定は、例えば、少なくとも1個の作用電極および少なくとも1個の対電極を含む電流測定センサーを用いて行なうことができる。クラーク型電極の場合、気体透過性で実質的にイオン不透過性かつ液体不透過性のメンブレンが、サンプル室と内部電解質室とを空間的に隔絶する。内部電解質室は、電解質溶液で満たされ、この中に作用電極および対電極が配置される。微孔質内部電解質層を用いる現行の先行技術に対応する電極配置は、WO 2009/090094 A1に記載されている。
【0006】
POC検査用の電気化学センサーの開発および提供での重要な基準は、測定条件、特に通常はごく少量しか利用可能でないサンプルに関する特別な必要条件である。つまり、一般的には、ごく少量のサンプル(例えば、100μl以下)のみが、緊急パラメータの測定のために利用可能である。少量のサンプルを用いて多数のパラメータを測定しようと考える場合、個々の電極およびそれらの間の距離は、可能な限り小さくなければならない。
【0007】
POC検査用の電気化学センサーの開発および提供での別の重要な基準は、上記の通り、その寿命である。これに関して、センサーを作動させる前の長期の保存寿命ならびに電気化学センサーの長い使用寿命を達成する必要がある。
【0008】
長期の保存寿命を確かなものにするために、電気化学センサー中に配置される電極は、乾燥状態で、すなわち、実質的に水を含まずに保管しなければならず、また、作動させる前に初めて内部電解質液と直接接触させなければならない。この目的のために、内部電解質液は、例えば、乾燥したセンサーを作動前に水溶液と接触させることにより現場で形成させることができ、これにより、水が、内部電解質室に拡散し、そこに配置されたイオンを溶解して内部電解質液を形成する。
【0009】
最新式のPOC分析器に望まれる、例えば少なくとも500回の測定または3〜4週間の長い使用寿命を達成するために、電気化学センサーの個々の層は、相互に適合性でもある必要がある。つまり、特に、互いに剥がれたり、または例えば膨潤により引き起こされるものなどのひび割れを形成してはならない。
【0010】
最後に、上述したように、分析器中での分析測定のために最初に用いようとする電気化学センサーを迅速に活性化することができることが重要である。したがって、サンプル中のアナライトを迅速に測定することを可能にするために、新規の電気化学センサーを分析器に挿入してからそれを分析測定に使用できるようになるまでの時間は、可能な限り短くなければならない。
【0011】
EP 0 805 973 B1には、サンプル中の気体濃度を測定するためのデバイスならびに方法が開示されている。電気化学センサーは、作用電極、対電極、電解質層および気体透過性メンブレンを含むデバイスとして機能し、ここで、電解質層は、光形成されたタンパク質ゲルからなる。金からなる負に分極した作用電極(カソード)が、銀からなる対電極(アノード)に由来する正に荷電した銀イオンによって時期尚早に汚染されるのを防ぐために、ゲル層を介して電気的に接触している2つの電極間の間隔は、少なくとも1mmでなければならない。
【0012】
US 5,387,329には、平面状電気化学酸素センサーが記載され、このセンサーでは、その乾燥容積の2倍未満の膨潤率を有する膨潤性ポリマーが吸湿性電解質として用いられ、このプロセスで水およびカチオンに対して透過性の親水性電解質層を形成する。本文献の文脈において好ましい膨潤性ポリマーは、スルホン化テトラフルオロエチレンポリマーであるNafion(登録商標)であり、このポリマーのリチウム荷電スルホン酸基がポリマーのアイオノマー性を付与し、リチウムイオンによる銀イオンの交換をもたらす。このことは、銀対電極を用いる電流測定酸素センサーの場合に、作用電極への銀イオンの有効移動速度を低下させるという効果を有する。
【0013】
EP 0 805 973 B1およびUS 5,387,329で用いられる電解質層は、不都合な点を有する。つまり、例えば、膨潤性ポリマー(例えば、EP 0 805 973 B1の光形成タンパク質ゲルなど)の非常に薄い層(約1μm)の製造は非常に面倒である。
【0014】
さらに、酸素センサーの作動中に放出される銀イオンは、シグナルの干渉、ならびに非常に薄い層および非常に少量の電解質の場合に測定シグナルおよびゼロ点の増大をすぐにもたらし、この場合、ゼロ点は、サンプル中0%酸素で酸素センサーを通って流れる電流を表す。一方で、多層構造での比較的厚い膨潤性層(約10〜50μm)の使用は、層構造でのリークの形成を促進する。このことは、望ましいセンサーの長寿命を達成するのを困難にする。
【0015】
薄い含水ポリマー層の重要な不都合はまた、電場をかけた後に、干渉性の銀イオンがポリマーを通る直接路で2つの電極の間を移動し、したがって作用電極に到達し、比較的短い作動時間の後に作用電極を汚染することである。このことは、そのような好ましくは平面状の酸素センサーの有効使用期間を著しく限定する。
【0016】
WO 2009/090094 A1には、上記の不都合が少なくとも部分的には取り除かれた電気化学センサーが開示されている。この目的のために、電気化学センサーは、作用電極と対電極との間に位置する電解質層を含み、該電解質層は、少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤を含む。この場合、好ましくは、例えばゼオライトなどのアルモシリケートである粒子状材料および結合剤が微孔質層を形成し、これは電解質液が透過することができる。
【0017】
例えばEP 0 805 973 B1に記載されているようなゲル様電解質層とは異なり、そのような電気化学センサーの対電極で生成される銀イオンは、作用電極に辿り着くまでに微小孔の迷路を通って移動しなければならず、これが銀イオンの移動速度を低下させる。さらに、好ましい変法であるWO 2009/090094 A1は、粒子状材料がさらにイオン交換基を有し、これに銀イオンが少なくとも一時的に結合できるという可能性を提供する。これらの2つの方策は、電気化学センサーの寿命を約3〜4週間に増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2009/090094 A1
【特許文献2】EP 0 805 973 B1
【特許文献3】US 5,387,329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の基礎となる課題は、先行技術のさらなる不都合を少なくとも部分的に取り除いた、酸素(以下では、(気体)アナライトとも称される)を測定するための電気化学センサーを提供することである。特に、該センサーは、長期保存寿命および長期使用寿命に加えて、最初に使用する際の短い活性化時間を確実にする必要がある。さらに、シンプルで経済的な方法で該センサーを製造することができる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は、水性測定媒体中に溶存する酸素の測定のための電気化学センサーを用いて、本発明に従って達成され、該センサーは、
(a)作用電極および対電極、
(b)作用電極と対電極との間に配置された電解質層であって、少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤を含み、これらが一緒になって多孔性非膨潤性フレームワーク構造(porous, non-swellable framework structure)を形成し、該非膨潤性フレームワーク構造の孔は、電解質液を取り込むことが意図されているか、またはこの電解質液を含む、上記電解質層、ならびに
(c)電解質層の上に配置された気体透過性カバー層
を含み、該気体透過性カバー層は、該電解質層の部分領域と該水性測定媒体との接触を可能にする少なくとも1箇所の開口部を含む。
【0021】
本発明の電気化学センサーの作用電極および対電極は、本発明の目的のために当業者が好適であると考えるいずれかの材料からなることができる。例えば、作用電極は、金から形成されるか、または金に基づく複合材料から形成される。しかし、例えば、銀などの他の金属も考えられる。対照的に、対電極は、好ましくは銀から形成されるか、または銀に基づく複合材料から形成される。
【0022】
また、本発明の電気化学センサーは、作用電極と対電極との間に配置された電解質層を含む。この電解質層は、少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤から形成され、これらが一緒になって、多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成し、その孔は、粒子状材料の個々の粒子の間に位置する。純粋ポリマー層またはゲル層と比較して、このようにして形成された孔の迷路は、電極間を動くイオンが移動しなければならない距離を増大させ、したがってセンサーの寿命を延長する。
【0023】
本発明の電気化学センサーで用いることができる粒子状材料は、無機型もしくは有機型のものであり得、特に、高密度無機材料または高密度(非可塑化)有機ポリマーを含む。好ましい無機粒子状材料は、制御多孔質ガラス(controlled porous glass;CPG)、シリカゲル、ケイ酸塩およびアルモシリケート(アルミノケイ酸塩とも称される)を含み、これらは主に、フレームワーク(網状)ケイ酸塩および層状ケイ酸塩からなる群より選択される。粒子状材料として本発明に従って用いることができる有機ポリマーは、例えば、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリロニトリルならびにそれらのコポリマー(これらに限定されない)からつくられた微粒子を含み得る。
【0024】
天然に存在するかまたは合成のアルモシリケートの使用は、本発明の範囲内で有利であることが証明されており、合成アルモシリケートの使用がより好ましい。本発明の範囲内で用いる場合、「合成アルモシリケート」との用語は、完全に合成のアルモシリケート、ならびに天然に存在するアルモシリケートを人工的に修飾する(例えば、化学的に修飾する)ことにより取得されるアルモシリケートを包含する。天然に存在するかまたは合成のアルモシリケートの例は、長石、マイカ、ムライト、シリマナイトおよびゼオライトを含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の電気化学センサーの好ましい変形では、粒子状材料は、チャネル、特に直径約0.1nm〜約10nmのチャネルおよび場合によりイオン交換基を有する。さらに非常に好ましい実施形態では、粒子状材料は、ゼオライト(例えば、フォージャサイト、チャバザイト、モルデナイトまたはナトロライトなど)であり、チャネルが充満したアニオン性空間ネットワークを形成する多面体、層または頂点結合[(Al, Si)O4]四面体の鎖が存在する。
【0026】
ゼオライトの種類に依存して、チャネルは約0.5nm〜約5.0nm、好ましくは約0.7nm〜約2.0nmの直径を有し、イオン交換基、特にカチオン交換基をその内表面および外表面に含む。内部チャネル構造およびイオン交換基を有するゼオライトの使用は、特にクラーク型の電流測定電極に対して、特に有利であることが証明されている。本発明のセンサーは、特に好ましくは、粒子状材料として、フォージャサイト、最も好ましくはフォージャサイト-Naを含む。
【0027】
そのチャネル含有構造により、ゼオライトは、電解質液と接触できる大きな内表面を有する。電解質液中に存在する好適なサイズのイオンはゼオライトのチャネルを通って移動できるため、望ましくないイオンの量を減少させることが可能である。つまり、特に銀含有対電極を含む電気化学センサーでは、センサーが作動した際に対電極から銀イオンが放出され、作用電極に向かって移動し、元素銀としてこの電極に沈着し、そして作用電極を不動態化するという問題が生じる。
【0028】
同様の問題は電極材料として用いられる他の金属でも生じ、例えば鉛は、電解質液と接触した際に鉛イオンを放出することができ、これは干渉カチオンとしても作用し得る。本発明の電気化学センサーを用いることにより、対電極と作用電極との間を移動する有効距離を増加させ、したがって作用電極の速い不動態化のリスクを低減することが可能であり、これはセンサーのより長い寿命として現れる。
【0029】
一方で、例えばゼオライトなどの一部の粒子状材料は、そのアニオン性フレームワーク構造により、イオン交換剤としても作用し得る。つまり、例えば、対電極で放出されて作用電極に向かって移動する銀イオンは、ゼオライトによって吸収され、ナトリウムイオンなどの好適なあまり重要でないカチオンと交換され得る。これにより、電解質中の遊離銀イオンの量が減少し、作用電極の不動態化を弱めることができ、これもまた電気化学センサーのより長い寿命をもたらす。
【0030】
粒子状材料の粒子のサイズは、それぞれの必要条件によって変わり得る。本発明の範囲内では、粒子状材料の粒子は、通常は、約0.1μm〜約10μmの平均粒径を有し、約1.0μm〜約5.0μmの平均粒径が好ましい。いずれの場合にも、多孔性材料の粒径は、常に電解質層の層厚よりも小さくなければならず、この層厚は約5μm〜約30μm、好ましくは約10μm〜約20μmである。
【0031】
粒子状材料に加えて、電解質層は、さらなる構成要素として少なくとも1種の結合剤を含む。好ましくは、結合剤は、架橋もしくは非架橋、直鎖または分岐鎖有機ポリマーなどの有機結合剤である。より好ましくは、電解質層に含有される有機結合剤は、いずれかの架橋または非架橋合成ポリマーであり、好ましくは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、PVCコポリマー、二成分エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂系およびUV硬化性ポリアクリレートモノマー混合物を含む群より選択される。フェノール樹脂、特に架橋フェノール樹脂が、架橋または非架橋合成ポリマーとして特に好ましく用いられる。
【0032】
好ましくは、非膨潤性結合剤が、無機または有機粒子状材料の粒子に結合して、多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成する量で、非膨潤性結合剤を用いる。このことは、結合性物質が、粒子状材料の粒子同士の間の空間を完全には満たさずに、それによって約500nm〜約5μm、好ましくは約1μm〜約3μmの直径を有する孔を有する非膨潤性フレームワーク構造が形成されることを意味する。本発明によれば、多孔性非膨潤性フレームワーク構造は、多孔性非膨潤性フレームワーク構造の乾燥重量に基づいて、約20重量%〜約50重量%、好ましくは約26重量%〜約44重量%の液体の相対的取り込みをもたらす。
【0033】
結合剤の必要量は、用いる粒子状材料のタイプおよび量、ならびに所望の孔径に依存して変えることができ、当業者のそれぞれの必要条件に合わせることができる。図2Aおよび2Bはそれぞれ、そのようなセンサーの電解質層の電子顕微鏡写真を示し、ここでは粒子状材料の粒子が結合剤を用いて結合して、多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成している。多孔性非膨潤性フレームワーク構造は、孔の規則的分布を有し、通常1〜3粒子の幅であり、鎖状に連結している単位からなる。
【0034】
本発明によれば、電解質層は、少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤に加えて、1種以上の補助物質も含むことができる。この目的のために用いることができる補助物質は、特に、例えばアルキルセルロースなどの合成セルロース誘導体を含むことができ、ここで「アルキル」との用語は、1〜6個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖炭化水素残基を表す。本発明の意味での好ましいアルキルセルロースは、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、エチルメチルセルロースおよびプロピルメチルセルロースを含む群より選択される。電解質液による構造の表面の湿潤性は、少量のこれらのアルキルセルロースを添加することにより改善することができる。さらなる好適な補助物質は、例えば、消泡剤を含む。
【0035】
本発明の電気化学センサー中の作用電極と対電極との間の導電性電解質連絡を確かなものにする電解質液は、いずれの電解質でもあり得、例えば、電圧が印加された場合に、イオンの指向性移動により、電荷キャリアの運搬をもたらす、水系の電解質であり得る。本発明の範囲内では、電解質液がアルカリ金属塩化物を含有するのが好ましい。
【0036】
特に、本発明の電気化学センサー中の電解質液の導電性塩成分として機能するアルカリ金属塩化物として、塩化ナトリウムまたは/および塩化カリウムを用いることができる。電解質の主成分としての塩化ナトリウムまたは/および塩化カリウムの使用は、銀含有対電極を用いる場合に対電極から放出される銀イオンが、塩化銀沈殿により、作用電極に向かう移動をさらに妨げられ、その結果、作用電極での元素銀の沈着を減少させることができるという利点を有する。
【0037】
好ましい実施形態では、電解質液は、アルカリ金属塩化物に加えて、少なくとも1種の水溶性ポリマーをさらに含有する。上記の電解質溶液に導入した場合に液体の粘性を増加させ、したがって、放出されたイオン(例えば、放出された銀イオン)の移動速度の低下に寄与することもできる水溶性ポリマーとして、いずれのポリマーでも用いることができる。本発明の範囲内で用いることができる水溶性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)およびアルキルポリグリコシドであり、ここで、電解質液は好ましくは、水溶性ポリマーとしてポリエチレングリコールまたは/およびポリビニルピロリドンを含有する。
【0038】
本発明の範囲内で、電気化学センサーを作動させる前に、電解質層が電解質液の非揮発性成分を含むのがさらに好ましい。この目的のために、これらの成分を含有する液体、好ましくは電解質液を、例えば、滴下添加し、例えば、吸い取ることにより電解質液の上清を除去した後、電解質液の揮発性成分が蒸発できるようにするために、25℃超の温度で(例えば、65℃の温度で)数時間(例えば、48時間以上)保存することによって非膨潤性フレームワーク構造の孔に導入することができる。このことにより、乾燥ステップ後に、例えばアルカリ金属塩化物などの電解質の非揮発性成分ならびにとりわけ水溶性ポリマーをはじめとする他の物質が、電気化学センサーの電解質層中に存在することを確かにすることができる。
【0039】
あるいは、多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成させる前に、非揮発性電解質成分を、少なくとも1種の粒子状材料、少なくとも1種の結合剤および場合によりさらなる物質を含有する混合物(例えば、ペースト状で存在する)に添加しておくことができる。続いて、このようにして得られた混合物を硬化させて、その孔に電解質液の非揮発性成分を含む多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成させることができる。この手順は、上記の方法を上回る利点、すなわち、既存のフレームワーク構造の孔に電解質液を導入するステップと比較して利点を有し、その利点は、電解質液の様々な成分を、よりシンプルで、より均一で、かつより再現性高く、本発明のセンサーの多孔性非膨潤性フレームワーク構造に導入することができるということである。
【0040】
本発明の電気化学センサーは、上記の電解質層の上に配置された1つの気体透過性カバー層をさらに含み、該カバー層は、少なくとも1箇所の開口部を有し、したがって電解質層の部分領域と水性測定媒体との接触を可能にする。「電解質層の部分領域と水性測定媒体との接触」との用語は、機能的に本出願の範囲内に入ると理解されるべきである。カバー層自体の材料はカバー層の開口部の領域には存在しない、すなわち、先行技術に記載されている連続的なカバー層がこの領域では中断され、したがって、カバー層の性質、特にその気体透過性ならびにその実質的なイオン不透過性および液体不透過性は、この領域では機能的に有効でないことが重要である。
【0041】
つまり、本発明の範囲内で、「電解質層の部分領域と水性測定媒体との接触」との用語は、例えば、気体透過性カバー層のスリット型または穴型開口部により引き起こされるものなどの直接的接触としてのみ理解すべきでなく、好適な材料で満たされたカバー層のスリット型または穴型開口部によりもたらされるものなどの間接的接触としても理解されるべきである。これに関して、前記の不都合を有する完全に閉鎖された気体透過性カバー層をここでももたらさないために、開口部を満たすために用いる材料が、気体透過性カバー層の材料と同じでないことのみが重要である。
【0042】
気体透過性カバー層の少なくとも1箇所の開口部により、最初に使用される際の電気化学センサーの活性化時間を顕著に減少させることができ、この活性化時間は、専門分野では、完全に閉鎖された気体透過性カバー層を有する電気化学センサーと比較して、「ウェットアップ」時間とも記載され、これにより、本発明の電気化学センサーは、分析測定のためにさらに迅速に使用可能となる。この目的のために、通常、例えば較正溶液または調整液などの参照液を用い、この参照液は、本出願の範囲内では測定媒体と機能的に等価であるとみなされる。
【0043】
電気化学センサーの活性化時間を評価するために、例えば、経時的にセンサーについて測定したスタンバイ電流の変化を記録することができる。これに関して、スタンバイ電流とは、例えば酸素センサーの場合には、700mVの電圧が印加された場合に、スタンバイ条件下でカソードを通って流れる電流を意味し、ここで、スタンバイ条件とは、空気中の酸素分圧と合う酸素含量を有する較正溶液との酸素センサーの接触を意味すると理解される。
【0044】
スタンバイ電流は、酸素分圧pO2=147mmHg(37℃で約750mmHgの大気圧での較正溶液の周囲空気のものに対応するpO2値に対応する)で測定され、以下の2成分から構成される:
(i)較正溶液のpO2値に依存しない一定成分、および
(ii)較正溶液のpO2値に依存する可変成分。
【0045】
理想的センサーの場合、一定電流成分は、0であり、すなわち、測定電流も、0mmHgの酸素分圧では0である。一定pO2値非依存性シグナル成分は、ゼロ点電流と称される。しかしながら、現実のセンサーの場合、通常はゼロ点電流は0より大きい。可変pO2値依存性シグナル成分は、勾配と称され、酸素分圧が0から147mmHgまで変化するときの電流変化([nA]単位)である。
【0046】
ゼロ点電流が0より大きく、理想的センサーの場合に(すなわち、一定シグナル成分が存在しない場合に)いずれの酸素値がこの電流に対応するかを計算すれば、当然、気体ゼロ点がmmHgで取得される。つまり、気体ゼロ点が、pO2値([mmHg]単位)として表現される現実のセンサーの一定シグナル成分に対応し、ここで、モデルとしては、計算のために、0mmHgでのセンサーのシグナル成分が実際に0であると仮定される。
【0047】
完全に閉鎖された気体透過性カバー層を有する電気化学センサーの群は、特に較正溶液との最初の接触後の最初の数時間以内に、制御範囲に達するまで、気体ゼロ点(図3Aを参照されたい)および勾配(図4Aを参照されたい)の著明な減少ならびに大きなドリフトを示す。特に、そのような電気化学センサーの群の測定シグナルは、センサーの最初の活性化後のこの時間に、これらのパラメータで大きな揺らぎおよび時には顕著なジャンプを示し、その結果、時には、センサーシグナルドリフトの考え得る補正を考慮しても、この相での信頼性あるアナライト測定が多くの場合可能でないほどに、測定シグナルが大きく上下する。
【0048】
対照的に、少なくとも部分的に開放されたカバーメンブレンを有する本発明の電気化学センサーの群の気体ゼロ点(図3Bを参照されたい)および勾配(図4Bを参照されたい)は、測定の開始時に既に制御範囲内にあり、先行技術ではときどき生じるこれらのパラメータでの大きな上下なしに、仕様の範囲内のドリフトを示し、その結果、センサーシグナルドリフトの追加的な考え得る補正も併せて、早い時点で信頼性のあるアナライト測定が可能となっている。
【0049】
図3および4では、センサー(それまでは乾燥状態で保管されている)を、例えば較正液または調整液などの適切な参照液と最初に(t=0)接触させた後の時間([h]単位)を、x軸上にプロットしている。原則として、センサーは同様にして活性化することができるが、例えば測定媒体などの他の液体を用いても活性化することができる。
【0050】
完全に閉鎖された気体透過性カバー層を有する電気化学センサーが、センサー活性化相の開始時に高いスタンバイ電流を生じるという現象に対する理由は、乾燥状態で存在する空気の置換および内部電解質室の水和によるその圧縮であり得る。つまり、内部電解質室中の残留空気が、サンプルから作用電極までの気体アナライトのより短い拡散路をもたらす場合があり、これが、より高い電流へとつながり得る。ウェットアップ相の間の内部電解質室に含まれる残留空気の連続的な消失が、安定した作動条件下で必要とされる気泡を含まない内部電解質室がもたらされるまでの、電気化学センサーの挙動の正常化を生じさせる。
【0051】
対照的に、本発明の電気化学センサー中の酸素の拡散挙動は、気体透過性カバー層内の開口部によって、それよりもずっと決められたものとなる。センサー活性化の開始時に生じ得る内部電解質室中の気泡(air voids)は、特に低圧センサー活性化の場合に、微孔質電解質層での交差拡散により、より効率的に消失させることができる。
【0052】
さらに、気体透過性カバー層に含まれる少なくとも1箇所の開口部は、例えば、対電極で形成される銀イオンが電気化学センサーの上のサンプル室に向かって拡散することができ、これにより、電解質層中の遊離の銀イオンの濃度が減少し、したがって、多孔性非膨潤性フレームワーク構造内での銀核の形成およびコロイド銀の沈殿が減少するという効果を有する。これにより、電気化学センサーの使用寿命を、4週間よりかなり長くまで増加させること、およびしたがって、先行技術から公知のセンサーと比較して、さらに改善することが可能になる。
【0053】
気体透過性カバー層の少なくとも1箇所の開口部は、原則として、より短いセンサー活性化時間を達成するために当業者が好適であると考えるいかなるサイズまたは/および形状のものでもあり得る。気体透過性カバー層が数箇所の開口部を有する場合、好ましくは、それらは電極の領域の外側に配置され、開口部同士は、同じサイズもしくは/および形状のものであるか、または異なるサイズもしくは/および形状のものであり得る。本発明の好ましい変形では、少なくとも1箇所の開口部は、約50μm〜約500μm、より好ましくは約100μm〜約300μmの幅を有する。
【0054】
幾何学形状に関して、好ましくは、少なくとも1箇所の開口部は、スリット型または窓様の形状を有し、ここで、本発明の意味でのスリット型開口部とは、この場合の気体透過性カバー層が、好ましくは互いに平行に配置された、直接的に連結していない2つの部分領域の形態で存在することを意味するものと理解される。対照的に、窓様開口部とは、互いに直接的に連結していない少なくとも2つの部分領域へと気体透過性カバー層を分割しない、いずれかの円型、卵型または角型開口部を意味する。
【0055】
少なくとも1箇所の開口部の空間的配置に関して、本発明の電気化学センサーは、基本的には開口部は気体透過性カバー層上のいずれの位置にも形成することができることを想定する。しかしながら、少なくとも1箇所の開口部は、少なくとも部分的に(すなわち、部分的または完全に)、作動電極と対電極との間に位置する電解質層の領域の上に配置される。そのような配置は、作動電極と対電極との間にある電解質層の領域に存在する主に銀イオンが、センサーの上のサンプル室に向かって運搬され、したがって特に2つの電極間に形成された多孔性非膨潤性フレームワーク構造内でのコロイド銀の沈殿を減少させることが可能になるという利点を有する。
【0056】
本発明の電気化学センサーでは、一実施形態において、気体透過性カバー層に含まれる少なくとも1箇所の開口部が満たされていない。別の実施形態では、開口部が、好適な親水性ポリマー充填材料で満たされていることが可能であり、ここで、親水性ポリマー充填材料は、気体透過性カバー層を形成している材料とは異なる。本発明の範囲内で用いることができる親水性ポリマー充填材料は、例えば、ヒドロゲルを含み、ここで、ポリエーテル-ポリウレタンコポリマーまたはポリビニルピロリドン(PVP)からつくられたヒドロゲルが特に好ましい。
【0057】
好ましくは、親水性ポリマー充填材料は、低分子量の水溶性物質に対して、特にイオン性物質および水分子に対して、高い透過性を有する。このことは、一方では、(完全に閉鎖されたカバー層と比較して)ウェットアップ相の間の電気化学センサーへの水のより速い侵入を可能にする。他方では、完全に閉鎖されたカバー層とは対照的に、このことが、銀イオンが電気化学センサーからサンプル室へと拡散して出て行くことを可能にし、同時に、例えば高分子量の血液成分およびサンプル由来の細胞が電解質層へと広がってくるのを防ぐ。
【0058】
本発明に従い形成される気体透過性カバー層は、(正常な条件下で)気体アナライトが電気化学センサーに侵入することを可能にするが、本発明に従って存在する開口部を除いては、いかなる部位でも電気化学センサーへの水性測定媒体の特にイオンまたは/および非揮発性成分の侵入を実質的に防止する。
【0059】
好ましい実施形態では、気体透過性カバー層は、それが作用電極を完全に覆い、かつ少なくとも部分的に(すなわち、部分的または完全に)対電極を覆うように設計される。本出願の範囲内で用いる場合、「覆う」との用語は、選択された電極または選択された電極上に位置する電解質層が、それぞれの場合に定められた領域で気体透過性カバー層により覆われ、それにより、選択された電極または選択された電極上に位置する電解質層と水性測定媒体との間の接触が生じないことを意味する。
【0060】
本発明の範囲内では、気体透過性カバー層が、作用電極の寸法を超えて少なくとも100μm、より好ましくは少なくとも500μmの範囲で作用電極を覆っている場合が、特に有利であることが証明されている。気体透過性カバー層が対電極を部分的にしか覆っていない場合、その表面に基づき、対電極の少なくとも90%が気体透過性カバー層に覆われているのが好ましい。本発明の特に好ましい変形では、気体透過性カバー層が、作用電極ならびに対電極を完全に覆い、電極が測定媒体からの干渉を受けることを効果的に防ぐことができる。これは、測定媒体が、直接路で、すなわち電解質層の関与なしに拡散することができないためである。
【0061】
気体透過性カバー層は、上記の目的のための当業者が好適であると考えるいずれの材料からなることもできる。好ましくは、気体透過性カバー層は、少なくとも1種のポリマー性材料を含み、ここで、ポリシロキサン、ポリスルホンまたは/およびポリテトラフルオロエチレンが特に有利であることが証明されている。本発明によれば、特に、例えばDELO-GUM(登録商標)(DELO Company, Germany)の商品名で市販されているものなどのシリコーンゴムを、ポリシロキサンとして用いることができる。好適なポリスルホンは、特に、例えばC16アルキル鎖などの比較的長いアルキル鎖を有するポリスルホンを含む。そのような製品は、BIOBLAND(登録商標)(ANATRACE Company, USA)の商品名で公知である。
【0062】
気体透過性カバー層は、様々な方法で製造することができる。好ましい方法は、既製のカバー層を用いて、これを電気化学センサーに応用することである。この場合、メンブレンを、いずれかの技術を用いてセンサーに接着することができ、接着剤またはレーザー溶接が好ましいとみなされる。
【0063】
あるいは、気体透過性カバーメンブレンは、好適な気体透過性ポリマーまたはプレポリマーの溶液を電気化学センサーに塗布し、続いてこれを乾燥させることにより、現場で生成させることができる。好ましくはポリマーもしくはプレポリマーの希釈溶液を、好ましくは、噴霧、浸漬被覆、分散またはスクリーン印刷することにより、ポリマーを電気化学センサーに塗布するが、これらの方法に限定されない。これに関して、有機溶媒、特に100℃以下の沸点を有する有機溶媒が溶媒として好ましく用いられ、ここで、溶媒は、ポリマーもしくはプレポリマーの特性または/および塗布技術に依存して変化させることができ、したがって、当業者が選択することができる。
【0064】
このようにして取得され、本発明の電気化学センサーで用いられる気体透過性カバー層は、通常、約5μm〜約30μmの厚さを有する。好ましい変形では、気体透過性カバー層は、本発明に従い用いられる電解質層の厚さの、少なくとも30%の厚さ、特に50%〜100%の厚さを有する。
【0065】
好ましくは、本発明の電気化学センサーは、複数アナライト測定(すなわち、連続的に行われるアナライト測定)のために設計される。これは特に、1つのセンサーで多数のサンプルを測定することが意図される用途において望まれる。結果として、好ましい実施形態では、本発明によれば、電気化学センサーを、アナライトを含有するサンプル液が導入される(フロースルー)測定セル(例えば、分析器の交換可能な部品である)の感知用構成要素として設計する。
【0066】
本発明の電気化学センサーは、水性測定媒体中の酸素を測定するために用いられ、該媒体は、いずれの供給源に由来するものでもあり得る。本出願の範囲内で用いる場合、「水性測定媒体中に溶存する酸素の測定」との用語は、水性測定媒体中の溶存酸素の存在または濃度の決定、ならびに水性測定媒体中の酸素の気体分圧の決定を包含する。好ましい実施形態では、水性測定媒体は、体液であり、全血が特に好ましい。
【0067】
さらなる態様では、本発明は、本発明の電気化学センサーの製造方法に関し、該方法は、以下のステップ:
(a)少なくとも1種の粒子状材料を準備するステップ、
(b)該粒子状材料を、少なくとも1種の結合剤および場合によりさらなる物質と混合するステップ、
(c)ステップ(b)で得られた混合物を加工して、ペーストを形成させるステップ、
(d) ステップ(c)で得られたペーストを、作用電極および対電極を含む担体に塗布し、該担体に塗布された該ペーストを硬化させるステップ、
(e)ステップ(d)で得られた担体に少なくとも1箇所の開口部を含む気体透過性カバー層を適用するステップ、ならびに
(f)場合により、ステップ(e)で該担体に適用された気体透過性カバー層の開口部に、親水性ポリマー充填材料の層を導入するステップ
を含む。
【0068】
本発明の電気化学センサーを製造する目的のために、それぞれ上記で定義された少なくとも1種の無機もしくは有機結合剤を含有する無機または有機粒子状材料、および場合によりさらなる物質を、混合および加工して、ステップ(c)に従う少なくとも1種のペーストの製造のためのペーストを形成させる。例えば、スクリーン印刷により、またはナイフコーティング技術を用いて、作用電極および対電極を含む担体にペーストを塗布し、続いてペーストを硬化させた後に、本発明の電気化学センサーで電解質層として用いることができる多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成させる。
【0069】
開口部を含む気体透過性カバー層を上記に担体に適用し(これは、例えば、スクリーン印刷により行なうことができる)、同時に担体の所定の領域を覆い、かつ、場合により、追加的に、担体またはその上に位置する電解質層に、親水性ポリマー充填材料(好ましくは気体透過性カバー層の開口部の領域に適用される)を適用すると、本出願に開示された電気化学センサーを取得することが可能である。上記の製造方法は、ペーストならびに電極を、スクリーン印刷により、したがって、薄くてかつ所定の層厚さで、塗布することができる程度に有利であることが分かる。
【0070】
好ましくは、本発明の方法は、非揮発性電解質成分を含有する液体(例えば、電解質液)を、多孔性非膨潤性フレームワーク構造に導入するステップ、および続いてその揮発性成分を蒸発させるステップをさらに含む。本発明のセンサー中の作用電極と対電極との間の導電性接続を確かなものにする電解質液は、これらの非揮発性成分から形成させることができる。これに関して、電気化学センサーの説明に関して記載されたものなどの技術を用いて、非膨潤性フレームワーク構造の孔に前記液体を導入することができる。
【0071】
あるいは、非揮発性電解質成分を、多孔性非膨潤性フレームワーク構造の形成前に、少なくとも1種の粒子状材料と少なくとも1種の結合剤および場合によりさらなる物質とを含有する混合物に導入しておくことができ、これにより、シンプルな様式で、電解質の固体成分が、混合物の硬化後に得られる多孔性非膨潤性フレームワーク構造中に均一に分布することが可能になる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法は、ペーストに前記液体を導入するステップを含み、ここで、該液体は、特に、ペーストを好適な担体に塗布する前に、ペーストに添加することができる。この実施形態では、好ましくは結合剤と混和性である溶媒中に非揮発性電解質成分を含有する液体を添加する。この溶媒は、例えば、場合により20%(v/v)までの水を含有するグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物など)であり得る。
【0073】
またさらなる態様では、本発明は、水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するための方法に関し、該方法は、以下のステップ:
(a)該水性測定媒体を、本発明の電気化学センサーと接触させるステップ、および
(b)該電気化学センサーにより生成されるシグナルを測定することにより、該水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するステップ
を含む。
【0074】
気体アナライトとして酸素を測定するために、本発明の電気化学センサーは、電気化学センサーと水性測定媒体との間の接触をもたらすことを可能にするいずれの様式で構成することもできる。つまり、センサーは、例えば、酸素を含有する水性測定媒体が導入される測定セルの感知用構成要素として構成することができる。さらに、該センサーを、例えば異なるPOCパラメータを測定するために用いられる別のセンサーと一緒に、交換可能測定チャンバー(センサーカセット)に形成することができる。
【0075】
測定可能なシグナルは、アナライトの存在または/および量に依存して、センサーにより生成される。本発明の電気化学センサーは、好ましくは、電流が好適な手段を用いて測定シグナルとして評価または記録される、電流測定センサーとして設計される。
【0076】
以下の図面および実施例に基づいて、本発明をさらに明らかにすることが意図される。
【0077】
図面
図1Aは、本発明の電気化学pO2センサーのチャネル領域を通る断面図を示す。電気絶縁塗料(2a)の層でコーティングされた小型金属板を担体(1)として用い、ここで、該絶縁塗料は、その上に設置された電極を金属板から絶縁する。さらなる絶縁層(2b)が、この連続的な絶縁層(2a)の一部の領域に適用されており(図1bを参照されたい)、これは、液体接触に際する干渉電圧または電流を回避するために設けられている。
【0078】
作用電極(3)、対電極(5)ならびにそれらの上に位置する多孔性電解質層(6)が配置されている測定領域に、小窓が切り抜かれている。多孔性電解質層(6)は、測定チャネルに沿って延在し、作用電極(3)ならびに対電極(5)の活性表面を完全に覆っている。多孔性電解質層(6)の上に気体透過性カバー層(7)が配置され、このカバー層は、気体透過性カバー層(7)をカソード側の部分領域とアノード側の部分領域とに分離する、作用電極(3)と対電極(5)との間の間隙の形態の開口部(12)を有する。
【0079】
図1Aに示された実施形態では、気体透過性カバー層(7)が、作用電極(3)ならびに対電極(5)を完全に覆っている。この場合、作用電極(3)は、約200μm〜約600μmの範囲で気体透過性カバー層(7)により覆われ、気体透過性カバー層(7)の開口部(12)の幅は、通常、約100μm〜約400μmである。
【0080】
図1Bは、本発明の電気化学pO2センサーのチャネル領域の上面図を示す。間隙(12)が気体透過性カバー層(7)の2つの部分領域の間に形成されているこの実施形態では、作用電極(3)の表面は気体透過性カバー層(7)により完全に覆われており、対電極(5)の表面は気体透過性カバー層(7)により部分的にしか覆われていない。他の参照番号は、図1Aについて定めたものと同じ意味を有する。
【0081】
図2Aおよび図2Bは、それぞれ、本発明の電気化学センサー中の多孔性電解質層の電子顕微鏡写真を示す。
【0082】
図3Aは、先行技術による閉鎖されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の気体ゼロ点[mmHg]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【0083】
図3Bは、本発明の部分的に開放されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の気体ゼロ点[mmHg]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【0084】
図4Aは、先行技術の閉鎖されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の勾配[nA]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【0085】
図4Bは、本発明の部分的に開放されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の勾配[nA]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1A】図1Aは、本発明の電気化学pO2センサーのチャネル領域を通る断面図を示す。
【図1B】図1Bは、本発明の電気化学pO2センサーのチャネル領域の上面図を示す。
【図2】図2Aおよび図2Bは、それぞれ、本発明の電気化学センサーの多孔性電解質層の電子顕微鏡写真を示す。
【図3A】図3Aは、先行技術による閉鎖されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の気体ゼロ点[mmHg]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【図3B】図3Bは、本発明の部分的に開放されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の気体ゼロ点[mmHg]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【図4A】図4Aは、先行技術の閉鎖されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の勾配[nA]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【図4B】図4Bは、本発明の部分的に開放されたカバーメンブレンを有する電気化学pO2センサーの群の勾配[nA]を、較正液との最初の接触後の時間[h]に対して示す。
【実施例】
【0087】
実施例1:スクリーン印刷可能なペーストの作製
12.0gのエチルセルロース粉末N50および192.0gのテルピネオールを密閉ジャーに量り入れ、混合物を、エチルセルロースが完全に溶解するまで、室温で2週間撹拌した。続いて、100gの量の即時使用スクリーン印刷可能ペーストを調製するために、得られたエチルセルロース溶液のうち25.6g、32.3gのフェノール樹脂PR 373、1.0gの消泡剤Byk 051(Byk Chemie社)、5.0gのベンジルアルコールおよび2.9gのブチルジグリコールをビーカーに量り入れ、この混合物を激しく撹拌した。43.2gのゼオライトLZ-Y 52(Sigma-Aldrich社、製品番号334448)をこの混合物に添加し、充填剤が均一に分散するまで調製物を激しく撹拌して、スクリーン印刷可能ペーストを得た。
【0088】
実施例2:実施例1に従って調製し、硬化させたペーストの相対的液体取り込みの測定
実施例1に従って作製したペーストの相対的液体取り込みを測定するために、数枚の顕微鏡スライド(76×26mm、ISO Norm 8038/1、Roth社)を化学天秤で計量した(mcarrier)。続いて、80μmらせん状ドクターナイフを用いて、実施例1に従い作製したペーストを顕微鏡スライドに塗布することにより、試験層を顕微鏡スライドに適用した。適用されたペーストは、約60×18mmの長方形の領域を覆っていた。この面積は変化するので、ペーストが硬化するまで、正確には決定できなかった。ペーストの塗布10〜15分後に、検体を、乾燥キャビネット中で110℃にて4時間硬化させた。続いて、検体を、測定までデシケーター中(CaO上)で保存した。硬化したペーストを有する顕微鏡スライドを再び計量し(mdry)、その後すぐに、容量100mlのねじ蓋式プラスチック容器に入った約40mlの液体にそれぞれ浸漬した。測定プロセスの間、浸漬した検体が入った容器は、密閉したままにした。
【0089】
所定の時間後に容器から検体を取り出し、水分を吸い取り、取り込んだ液量を測定するために計量した。取り込まれた液体の量およびしたがって質量(mwet)が一定のままになったら、測定を中断した。測定は、室温で、常圧にて行なった。少なくとも3個の検体の対応する測定値の平均(最大標準偏差1%)として取得した測定値から、各検体について、相対的液体取り込みを算出した。
【0090】
それぞれの相対的液体取り込みは、予め測定した硬化ペーストの乾燥重量(それぞれの場合で顕微鏡スライドの重量を減算した)に関連していた:相対的液体取り込み[%]=[(mwet-mcarrier)/(mdry-mcarrier)-1]*100。相対的液体取り込みについての値は、硬化ペーストの多孔率に依存して変化する。望ましくない高い多孔率を有する硬化ペーストは、50〜70%の相対的液体取り込みを有し、望ましくない低い多孔率を有する硬化ペーストは20%未満の相対的液体取り込みを有する。本発明の範囲内で用いられる硬化ペーストは、20重量%〜50重量%、好ましくは26重量%〜44重量%の相対的液体取り込みをもたらす多孔率を有する。
【0091】
実施例3:多孔性電解質層を有する半製品センサーの作製
本発明の電気化学センサーの構成要素として用いることができる半製品センサーを作製するために、実施例1に従い調製したペーストをスクリーンに塗布し、スクリーン印刷を用いて作用電極および対電極を含む好適な担体に塗布し、高温で硬化させた。硬化層の厚さは、10〜20μmであった。
【0092】
実施例4:多孔性電解質層を有するO2センサーのための好適な半製品センサーの作製
本発明の電気化学O2センサーの構成要素として用いることができる半製品センサーを作製するために、0.310gのNaCl(p.a.)および0.066gのポリエチレングリコール6000(合成用)を、1.6gの脱イオン水に溶解させた。続いて、このようにして得られた溶液に、23.15gのエチレングリコール中の0.900gのグリセロール(p.a.)の溶液を添加し、透明な溶液が得られるまで撹拌した。
【0093】
半製品センサーを作製するために、4.2gのエチレングリコール水溶液を、実施例1に従い作製した100gのペーストに撹拌混入し、その後、電解質液を含有するペーストを、スクリーン印刷を用いて好適な担体に塗布し、高温で硬化させた。
【0094】
実施例5:実施例4に従い作製された半製品センサーへの部分的に開放された気体透過性カバー層の積層
今度は、開口部を有する気体透過性カバー層を、実施例4の半製品センサーにスクリーン印刷を用いて適用した。この目的のために、n-ヘプタン中のDELO-GUM(登録商標) SI 80(DELO社)の80%溶液を、スクリーン印刷を用いて半製品センサーに塗布し、高温で硬化させた。
【0095】
スクリーン印刷構造は、300±100μmの平均幅を有する間隙型開口部が生成されるように選択し、ここで、アノード側のカソード縁は気体透過性カバー層のカソード側の部分領域により400±100μmまで覆われ、カソード側のアノード縁は気体透過性カバー層のアノード側の部分領域を用いて平滑シール(flush seal)をつくっていた。
【0096】
実施例6:実施例5に従い作製された半製品センサーへの親水性ポリマー充填材料の層の積層
親水性ポリマー充填材料の追加層を、例えばその上に分注することにより、実施例5に従い作製された半製品センサーに適用した。この目的のために、例えば、少なくとも50%の水取り込み率を有する親水性ポリエーテル-ポリウレタンコポリマーの1%溶液を、約10nlのサイズの液滴の形で、微量分注デバイスを用いて、気体透過性カバー層のカソード側とアノード側の部分領域の間の開口部に導入し、続いて乾燥させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性測定媒体中に溶存する酸素の測定のための電気化学センサーであって、以下の構成要素:
(a)作用電極および対電極、
(b)作用電極と対電極との間に配置された電解質層であって、該電解質層は少なくとも1種の粒子状材料および少なくとも1種の結合剤を含み、これらが一緒になって多孔性非膨潤性フレームワーク構造を形成し、かつ、該多孔性非膨潤性フレームワーク構造の孔は、電解質液を取り込むことが意図されているか、またはこの電解質液を含んでいる、上記電解質層、ならびに
(c)該電解質層の上に配置された気体透過性カバー層
を含み、
該気体透過性カバー層が、該電解質層の部分領域と該水性測定媒体との接触を可能にする少なくとも1箇所の開口部を含む、上記電気化学センサー。
【請求項2】
前記開口部が、約50μm〜約500μm、好ましくは約100μm〜約300μmの幅を有する、請求項1に記載の電気化学センサー。
【請求項3】
前記開口部が、間隙型または窓様のデザインを有する、請求項1または2に記載の電気化学センサー。
【請求項4】
前記開口部が、作用電極と対電極との間に設けられた電解質層の領域の上に少なくとも部分的に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項5】
前記開口部が、親水性ポリマー充填材料で、特にポリエーテル-ポリウレタンコポリマーまたはポリビニルピロリドンで満たされ、該親水性ポリマー充填材料が、気体透過性カバー層を形成する材料とは異なる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項6】
前記気体透過性カバー層が、作用電極を完全に覆い、対電極を少なくとも部分的に覆っている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項7】
前記気体透過性カバー層が、その表面積に基づいて、対電極の少なくとも90%を覆っている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項8】
前記気体透過性カバー層が、ポリマー性材料、特に、ポリシロキサン、ポリスルホンまたは/およびポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項9】
電流測定センサーとして設計されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学センサー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気化学センサーの製造方法であって、以下のステップ:
(a)少なくとも1種の粒子状材料を準備するステップ、
(b)該粒子状材料を、少なくとも1種の結合剤および場合によりさらなる物質と混合するステップ、
(c)ステップ(b)で得られた混合物を加工して、ペーストを形成させるステップ、
(d)ステップ(c)で得られたペーストを、作用電極および対電極を含む担体に塗布し、該担体に塗布された該ペーストを硬化させるステップ、
(e)ステップ(d)で得られた担体に、少なくとも1箇所の開口部を含む気体透過性カバー層を適用するステップ、ならびに
(f)場合により、ステップ(e)で該担体に適用された気体透過性カバー層の開口部に、親水性ポリマー充填材料の層を導入するステップ
を含む、上記方法。
【請求項11】
水性測定媒体中に溶存する酸素の測定方法であって、以下のステップ:
(a)該水性測定媒体を、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気化学センサーと接触させるステップ、および
(b)該電気化学センサーにより生成されたシグナルを測定することにより、該水性測定媒体中に溶存する酸素を測定するステップ
を含む、上記方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−103255(P2012−103255A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−246624(P2011−246624)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT