説明

微小マーキング装置

【課題】対象試料に形成された電気回路などを破壊せず、対象試料がレーザ透過性材料でもマーキングできる装置を提供する。
【解決手段】マーキング用の微粒子を含む溶媒を封入したマイクロカプセル粒子1と、このマイクロカプセル粒子を収納した中空ガラスプローブ2と、このプローブ内を通してマイクロカプセル粒子をマーキング対象試料5の上に押し出す駆動機構6と、押し出した粒子を光学顕微鏡3下で、マーキング対象試料の目的箇所に付着させるマニピュレート機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料の前処理装置に関するもので、基板の傷や、発光素子や磁性媒体の不良箇所などをマーキングするための、微小マーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡や表面分析装置など、各種装置による微小な特定箇所の分析においては、微小部のマーキング技術による位置特定が、非常に重要である。
ここでいう微小部とは、特定精度がμmオーダーの範囲であり、光学顕微鏡により認識できるオーダーである。
【0003】
通常、光学顕微鏡下で実施されるマーキング方法は、光学顕微鏡の可視光と光軸をあわせたレーザー光を用い、局所加熱によって、対象試料表面の一部に融解痕をつけるというものである(例えば特許文献1を参照。)。
しかし、この方法は、何らかの電気回路を形成させるための膜が対象試料表面にある場合、融解によって、回路を短絡させてしまうため、以降の分析や評価に回路が必要である場合には適用できない。
【0004】
また、マーキング対象試料がレーザ光を透過させる物質の場合(例えば特許文献2を参照。)、対象試料の最表面に融解痕を形成できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−347755号公報
【特許文献2】特開平06−008634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、分析前処理において、対象試料に形成された電気回路を破壊しない微小マーキング装置、また対象試料がレーザ透過性材料でも印字可能な、微小マーキング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明によれば、
マーキング用の微粒子を含む溶媒を封入したマイクロカプセル粒子と、このマイクロカプセル粒子を収納した中空ガラスプローブと、このプローブ内を通してマイクロカプセル粒子をマーキング対象試料の上に押し出す駆動機構と、押し出した粒子を光学顕微鏡下で、マーキング対象試料の目的箇所に付着させるマニピュレート機構と、を備えた、分析前処理用の微小マーキング装置とする。
【0008】
ここで、マーキング用微粒子として、染料または顔料を用いること、マーキング用微粒子として、磁性粒子を用いること、マイクロカプセルの外壁を破壊するための機構を備えるたこと、が好ましい。
【0009】
本発明では、対象試料を融解するのではなく、記録性物質を付着させることによってマーキングを行う。ただし、微小部を精度よく位置を特定するためには、印字面積自体を小さくしなくてはならない。これを解決するため、ごく少量の記録性物質のみを対象試料の表面に供給するために、一定量の微量記録性物質をマイクロカプセル内に封入し、中空のガラスプローブを流路として光学顕微鏡下で目的の箇所にマイクロカプセルを移送する。目的箇所に移送され付着させたマイクロカプセルの壁を破砕することにより、マイクロカプセルの内容物を、試料表面に付着させて印字する。
【0010】
なお、本発明で言う「前処理」とは、SEM(走査型電子顕微鏡)や、SPM(走査プローブ顕微鏡)や、XPS(X線電子分光)などで高倍率の観察をする前に、特定の場所を低倍率でも位置特定をできるためにする処理のことを言う。
また、本発明で言う「微小」とは、背景技術の項で説明したように、μmオーダーのことで、特に、インクの広がり径が、10μm〜50μm程度の範囲のことを言う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マイクロカプセルを用いた上記の装置を用いることにより、対象試料に形成された電気回路を破壊せず、かつ対象試料がレーザ光透過性材料である場合にでも印字ができる、微小マーキング装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による、微小マーキング装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態について述べる。
本発明で用いる、マイクロカプセル壁の材料は、無機・有機のいずれの物でも使用可能で、内容物や破砕方法によって、材料や形成方法を適宜変化させるものである。
マイクロカプセルの形成方法としては、液中乾燥法(この方法は、例えば、ポリスチレン−ジクロロメタン溶液と水溶液を攪拌し、ジクロロメタンを蒸発させて、ポリスチレン壁のマイクロカプセルを作製するものである)、界面重合法、ゾルゲル法、コアセルベーション法、界面沈殿法などが考えられる。また、マイクロカプセルの径によって、印字の大きさを変えることができる。
【0014】
マイクロカプセルの内容物としては、通常の可視光印字材料として、顔料や染料を、溶媒に溶解または分散させたものの他、磁性材料を分散させたものを用いれば磁気ヘッドによって印字箇所の検出を可能にすることができる。
【0015】
ガラスプローブは、中空の極細管の先端をバーナーで加熱して伸展させ、先細の形状を整えたものを使用する。
【0016】
ガラスプローブ内を通って、その先端からマイクロカプセルを押し出す機構としては、プローブ内に混入させた気泡を加熱して、気泡の膨張によって押し出す方法や、ガラスプローブの根元に音波などの衝撃波を与えて押し出す方法などがある。
【0017】
ガラスプローブを光学顕微鏡下で操作するマニピュレート機構は、マイクロサンプリングに用いるマニピュレータに準じたもので、光学顕微鏡の鏡筒の上下動や、対象試料を搭載したステージとは別のxyz駆動機構でガラスプローブを独立に動かすもので、対象試料の自由な位置の上で、ガラスプローブを対象試料の表面に近づけたり遠ざけたりすることができる。
【0018】
ステージに移送されたマイクロカプセルは、何らかの方法で、カプセルの壁を破壊して内容物を対象試料に付着させなくてはならない。破壊方法として、SPM(走査型プローブ顕微鏡)用の探針の先端で割る方法、対象試料全体を加熱してマイクロカプセル壁を融解させる方法などがある。必要に応じて、これらのマイクロカプセル壁破壊機構を、微小マーキング装置に搭載させる。
【0019】
[実施例]
次に、本発明の実施例について述べる。
本発明による微小マーキング装置の一例を図1に示す。
印字材料は、水系溶媒(例えば、アルコール・グリセリン・水の混合物)に染料(例えば、水溶性の酸性染料)を溶解させたものを用い、ジクロロメタンにポリスチレンを溶解させた原料を、マイクロカプセル1の壁として使用し、前記した液中乾燥法によって、封入マイクロカプセル1を作製した。攪拌速度を、攪拌棒の回転速度を調節することによって、マイクロカプセル1の径がφ10μmになるように調整した。このマイクロカプセル1を、上記の水系溶媒をグリセリンにより粘度調整した液中に分散させて、中空ガラスプローブ2の中に収納した。中空ガラスプローブ2の先端の開口径は、φ15μmになるようにバーナー加工した。
【0020】
上下駆動機構付の光学顕微鏡3で、図示しないx−y駆動機構付のステージ4に搭載された対象試料5を観察しながら、印字目的位置を光学顕微鏡視野内に移動した。ここで、印字目的位置とは、光学顕微鏡3で決定するもので、光学顕微鏡3の視野内の視認可能な位置にマイクロカプセル1を置く。
【0021】
印字目的位置は、光学顕微鏡3により手動で探すもので、この印字目的位置の例としては、例えば対象試料が基板の場合、基板の傷の箇所などである。また、対象試料が磁性媒体の場合などは、マジックペンで印がつけられた箇所である。また、対象試料が発光素子(例えばEL素子)の場合には、素子が上手く発光していない箇所などである。
【0022】
次に、中空ガラスプローブ2の先端を、図示しないマニピュレート機構である3次元駆動機構(本実施例では、xyz駆動機構を用いた)により、印字目的位置の近傍に移動させ、局所加熱ヒーター6により、中空ガラスプローブ2の中腹を加熱し、その内部の気泡を膨張させる。すると、中空ガラスプローブ2の先端から、マイクロカプセル1が押し出され、対象試料5の表面に移送された。本実施例においては、局所加熱ヒーター6が、マイクロカプセル1の粒子をマーキング対象試料5の上に押し出す駆動機構となっている。
【0023】
中空ガラスプローブを、マニピュレート機構によって対象試料5から遠ざけた後に、ステージ4を、図示しない加熱手段により加熱させると、マイクロカプセル1のポリスチレン製の壁が熱により融解し、マイクロカプセル1の内部に封入されていた印字材料が流出・乾燥し、約φ15μmのマーキングを完成させた。
【符号の説明】
【0024】
1 印字材料を封入したマイクロカプセル
2 3次元駆動機構付の中空ガラスプローブ
3.上下駆動機構付の光学顕微鏡
4.x−y駆動機構付の加熱ステージ
5.マーキング対象試料
6.局所加熱用ヒーター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーキング用の微粒子を含む溶媒を封入したマイクロカプセル粒子と、
このマイクロカプセル粒子を収納した中空ガラスプローブと、
このプローブ内を通してマイクロカプセル粒子をマーキング対象試料の上に押し出す駆動機構と、
押し出した粒子を光学顕微鏡下で、マーキング対象試料の目的箇所に付着させるマニピュレート機構と、
を備えたことを特徴とする、分析前処理用の微小マーキング装置。
【請求項2】
マーキング用微粒子として、染料または顔料を用いることを特徴とする、請求項1に記載の微小マーキング装置。
【請求項3】
マーキング用微粒子として、磁性粒子を用いることを特徴とする、請求項1に記載の微小マーキング装置。
【請求項4】
マイクロカプセルの外壁を破壊するための機構を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の微小マーキング装置。

【図1】
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