説明

微小測色における被測定物の取付具

【課題】 本発明は、上記問題に鑑み、高価な専用微小測色計を使用することなく一般的な測色計にて複雑な形状(凹凸形状など)を有する被測定物の微小部分の測色を可能とする測色計の被測定物の取付具を提供することを目的とする。
【解決手段】 被測定物の微小部分を測色する際に使用する分光測色計に被測定物を取付けする取付具を、前記取付具はその周辺は平坦な板状をなし略中央部にはその凸側に被測定物を接触させるための盛り上がり部を有し、その盛り上がり部は反凸側に凹状(くぼみ状)の空間およびその頂上部に被測定物に分光測色計からの光を照射するための貫通穴を有する構成とした。分光測色計に被測定物を取り付けする取付具を上記の構成とすることにより複雑な形状(凹凸形状など)を有する被測定物の微小部分の測色を高精度に行うことが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、測色計において被測定物の狭い領域(微小領域)の測色を行う場合に使用する被測定物の取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維状素材を染色するための染料の調色に際しては、目標とする色彩を合理的に再現させる必要がある。このため、従来のコンピュータ・カラーマッチング(コンピュータ調色ともいう)システムでは、基礎データ用の試料の分光反射率を測定し、基礎データとなる試料の分光反射率を得る一方、染色に供する複数の着色材をある配合で混合した調整する色(以下、調整色という)の予測反射率を、クベルカ・ムンクの光学濃度式を用いて、前記反射率から可視光領域の吸収係数と散乱係数を計算し、着色材を所定配合で混合した場合の分光反射率を予測計算し、調整色の予測反射率と前記見本色の反射率とを比較することにより、調整色が見本色に色彩として一致するように着色材の配合を計算する方法が利用されている。
【0003】
一方、微小な領域に複数の異なる色が存在する場合、例えば、素材が異なる染料で染まるものの異織染の測色・調色については、測色する領域に複数の異なる色が存在するために、正確に色を判別できなかった。
しかし、上記のような場合、2次元測定分光光度計を用いて測色・調色することが可能ではあったが、機器が非常に高価で、一般には用いられることが少なかった。
【0004】
このような問題点を解決する手段として、特許文献1(特開平6−117932号)には、微小な色見本からコンピュータ・カラーマッチングを行う技術が記載されている。この技術は、分光反射率既知の微小試料を作製し、裏面に白板と黒板とを当てて分光反射率を測定し、回帰係数を求める。未知の微小色見本に対して上述の方法により分光反射率を測定し、先の回帰係数と測定した分光反射率より真の分光反射率を求め、コンピュータ・カラーマッチングを行うものである。しかしながら、本技術は、分光反射率既知の微小色見本が必要なことと、測定方法が複雑な点があった。
【0005】
また微小領域の測色においては、上記のような繊維状素材だけでなく凹凸形状などを呈する複雑な形状の部材(たとえばゴルフボールのディンプル部などの形状部分)の微小領域を測色したいという要求がある。
このような微小領域の測色は、従来以下のように行われていた。図1は、従来の一般的な測色計の概観図である。図1のT部に図5の形状の被測定物の取付具(通称:ターゲットマスク)を取り付ける。この図5の取付具と図1の測色計の押え金具Kの間で被測定物を取り付けして測色する。このような測色方法にたいして、以下のような問題点があった。
1)平板状の取付具を用いるので、均一な平面をもつ測定面でなければ正確に測色できない。被測定物が凹凸形状などを呈する複雑な形状の部材の場合、その部材の測色したい微小領域が取付具に当たっているか否か分からない。
2)被測定物が取付具から離れると測色結果が大きく変わってしまう。例えば色差が大きく出てしまう。
3)2)に関連し被測定物の凹部の微小領域は、測色できない。
4)また微小面積を測色する専用測色計もあるが、その価格は一般的な測色計の2倍程度であり高価である。さらに上記の専用測色計は、大面積(φ8等)の測定が出来ない。
【0006】
【特許文献1】特開平6−117932号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、高価な専用微小測色計を使用することなく一般的な測色計にて複雑な形状(凹凸形状など)を有する被測定物の微小部分の測色を可能とする測色計の被測定物の取付具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、測色計に複雑な形状を呈する被測定物を取り付けする取付具の形状を工夫することにより、一般的な測色計でも被測定物の微小領域を精度よく測色できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
本発明は、
<1>被測定物の微小部分を測色する際に使用する分光測色計に被測定物を取付けする取付具であって、前記取付具はその周辺は平坦な板状をなし略中央部にはその凸側に被測定物を接触させるための盛り上がり部を有し、その盛り上がり部は反凸側に凹状(くぼみ状)の空間およびその頂上部に被測定物に分光測色計からの光を照射するための貫通穴を有することを特徴とする被測定物取付具。
<2>前記取付具は、板状の金属板を成型したことを特徴とする1に記載の被測定物取付具、
<3>前記取付具は、その盛り上がり部に設けられた貫通穴の淵を鋭利な形状としたことを特徴とする1乃至2のいずれかに記載の被測定物取付具、
<4>前記取付具は、前記盛り上がり部は反凸側の凹状(くぼみ状)の表面を極めて低い反射率のコーティング材で塗装したことを特徴とする1乃至3のいずれかに記載の被測定物取付具、
<5>前記コーティング材は、黒色の艶消し塗料や煤状のカーボンであることを特徴とする1乃至4のいずれかに記載の被測定物取付具、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の取付具を一般的な測色計に使用して複雑な形状を呈する被測定物を取り付けして測色するので以下の効果が得られる。
1)被測定物の測色面が均一な平面でなく、凹凸などを有する複雑形状を呈していても、測色対象部を本発明の取付具の突起部に確実に当てることができる。
2)本発明の取付具は、貫通穴の淵がエッジになっており穴の内周面に円筒状の平面部がないので、測色計から被測定物の測色対象部に照射された光が測色計の測定部に帰ってこないというエッジによる反射光のロスが少ない。したがって測色に十分な光量を確保することができる。
3)その結果測色対象部が微小面積であっても、測色の繰り返し再現性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明内容について、添付図に沿って説明する。
【0012】
<1>測色計
本発明の取付具を使用する測色計について説明する。図1は、一般的な測色計の外観図である。図2は、同測色計の内部構造の概略図である。
図1のT部に被測定物を取り付けるための取付具(通称:ターゲットマスク)が設けられている。被測定物をこの取付具にセットし押え金具Kにより押し付けされる。
測色計は、図2のとおりパルスキセノンランプを使用した光源1からの光は積分球2の内壁面で拡散反射し測定試料面3を均一に照明する。効率を求めるため、積分球式光学系を用いる。積分球式光学系を用いることにより、本発明の被測定物の取付具を用いることにより光量が確保しやすいという長所がある。測定試料面で反射した光のうち、試料面に垂直な軸に対して8°(本図では)の角度をなす方向の光が受光光学系4に入射し、測色される。
【0013】
<2>従来型の取付具
図5は、図1の一般的な測色計に使用される従来型の取付具10の形状を示している。図5のとおり、外径φ60mm程度、厚さは1mm程度で中央部に内径φ4〜7mm程度の貫通穴11が設けられている。また穴の内周は、穴の軸心と平行な円筒面12を有している。円筒面の穴の軸心方向の長さは0.3mm程度である。材質としては、ステンレス鋼やアルミ材が使用され、その表面は金属光沢面である。この取付具は、図1の測色計のT部にあるマグネットにより取り付けされる。
このような従来型の取付具は、さきほどのべたように穴の軸心方向に平行な長さは0.3mm程度の円筒面12を有している。図6は、このような従来型の取付具を使用した場合にエッジによる反射光のロスが発生することを模式的に示した説明図である。図6に示したとおり取付具の円筒面12により、測色時に光源1から照射され積分球2の内壁面で拡散反射した光が被測定物に照射され、被測定物から反射した光のうち取付具10の円筒面12にて反射した光は受光光学系4に戻らずロスとなる。エッジによる反射光のロスが生じると、理想的な反射率に比較して暗い反射率が得られる。理論値との差が大きいと、CCM計算の精度が低下する。光学濃度計算は、「測定対象の反射エネルギー量の総和=CCM計算の理論値」が成り立つ様に計算するため、エッジによる反射光のロスなどで消え去るエネルギーが多いと誤差が多くなる。
【0014】
<3>本発明の取付具
図7は、本発明の取付具の形状を示している。尚本発明の取付具20の形状は、図7に限定されるものではない。
本発明の取付具は、図7に示すとおり、周辺部21は外径φ60mm程度、厚さは1mm程度の板状を呈している。取付具の中央部に盛上部22が設けられている。盛上部は、凸状に盛り上がった形状となっている。また盛上部は、裾野部23の外径は約14mm程度であり、その頂上部24は外径は約φ2.5mm程度の平坦部25を有している。周辺部の下面26と頂上部までの高さLは、5mm程度である。平坦部25は、φ1.5mm程度の貫通穴27が設けられている。頂上部と裾野部の間は、テーパ状となっており、反凸側にはくぼみ状の空間28が形成されている。テーパ部の肉厚は、周辺部21とほぼ同一である。
頂上部に設けられた穴は、従来型の取付具のように穴の内周に軸心と平行な円筒面は無い。その穴の淵29は、エッジとなっている。
本発明の取付具の寸法のうち、周辺部21の下面と頂上部24までの高さ寸法、裾野部23の外径、平坦部25の外径などは、頂上部の穴の内径、被測定物の形状や使用する測色計の形式などにより適宜変更される。
尚頂上部24の穴の内径は、0.5mmから3mmが好ましい。穴の内径が0.5mm未満となると充分な光量が得られず測色の精度が不良となる虞があり、穴の内径が3mmを越えると凹凸形状などを有する複雑な形状をした被測定物を取り付けることが困難になる。
【0015】
本発明の取付具20の材質としては、ステンレス鋼やアルミ材が使用される。このような盛上部22を有した取付具の製作は、以下のような方法により成形される。
1)板状の金属板を絞り加工や張出加工などの塑性加工によりその盛上部22およびくぼみ部28を成形する。
2)頂上部24は、切削加工にて平坦に加工する。
3)頂上部24に所要内径寸法の貫通穴27を加工する。
4)穴27の淵29を切削加工によりエッジとする。
尚本発明の取付具を成形する場合に、その寸法により板状の部材から全て切削加工により成形することも可能である。
【0016】
尚本発明の取付具における盛上部22のくぼみ状の空間28の表面は、反射率が極めて低い塗料等で塗装またはコーティングする必要がある。このように反射率の極めて低い塗料またはコーティングとしては、艶消しブラックや煤状のカーボンを使用することができる。
盛上部22の反凸側のくぼみ状の空間28をこのように反射率を極めて低くしておかないと、迷光の影響により測色精度不良を招く虞があり、高精度の測色ができない。
【0017】
<4>本発明の取付具による測色手順
本発明の取付具を測色計に装着して測色する手順について説明する。
1)従来型の4mm穴径を有する取付具を図1の測色計のT部に取り付けする。図3に示す白板および図4に示す黒較正BOXを取付け、白板校正、黒校正を行う。これは測色計の測色手順では一般的な100%合わせと0%合わせの方法である。
2)同じ取付具にて白板、黒較正BOXを測色し、波長に対する反射率RwsとRbsを求める。測定例を図8に示す。
ここでRwsは、白板の波長に対する反射率の測定結果であり、Rbsは黒較正BOXの波長に対する反射率の測定結果である。
3)従来型の取付具を本発明の取付具に取り替える。
4)本発明の取付具にて白板、黒較正BOXを測色し、波長に対する反射率RwmとRbmを求める。測定例を図8に示す。
ここでRwmは、白板の波長に対する反射率の測定結果であり、Rbmは黒較正BOXの波長に対する反射率の測定結果である。
上記の1)から4)は、被測定物を測色するための準備であり1日に1回行えばよい。
5)被測定物を図9に示すように取り付けする。図1の測色計の取付部Tには本発明の取付具20が取り付けされている。この取付具20の盛上部22に被測定物W(図ではゴルフボール状の測定物)をセットし押え金具Kにて押し付けされる。
6)被測定物を測色し、波長に対する反射率Romを測定する。測定例を図10に示す。
7)上記の測定結果Rom、Rws、Rbs、Rwm、とRbmから演算により被測定物の反射率Rocを求める。
Roc=F(Rom、Rws、Rbs、Rwm、Rbm)
尚演算方法については本発明と直接関係無いので省略する。
【0018】
尚、従来型の標準口径の取付具で測色した反射率Rosと本発明の取付具を使用して測色した反射率と演算により得られるRocは、近似関係にはあるがデータの互換性はない。(Roc
≠Ros)だが本発明の取付具を使用した測定値だけを使用して調色計算を実施した場合、使用上問題のない精度が確保できる。この点について以下実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0019】
以下の条件のもとで本発明の取付具を測色計に取り付けて見本サンプルの測色を行った。
<1>使用システム
弊社製、調色用ソフトウエア「Hyper調色専科GX」を使用した。
<2>測色計の測定条件
使用測色計:CM−3600d(コニカミノルタ製)
測定光源:パルスキセノンランプ
光源視野:D65光源 10°視野
測定波長範囲:400〜700nm
波長間隔 :10nm
<3>被測定物の取付具(ターゲットマスク)
本発明の取付具を図1のT部に取り付け使用
<4>測色準備(校正)
白黒バックには、白黒バック治具を使用した。また校正は、従来型の取付具で中央部に設けられた穴がφ4mmの取付具を使用した。
<5>測色サンプル
見本サンプルは、板状の4枚のサンプル(H1〜H4)である。
基礎データは 赤,黄の顔料の場合:白割との比率が20,100%で顔料濃度が2段階(PHR=0.3,0.6)
黒の場合:白割との比率が10,30,100%で顔料濃度が2段階(PHR(樹脂対総顔料濃度)=0.3,0.6)
白:濃度は4段階(PHR=0.1、0.3、0.6、1.0)
<6>測色確認
上記のような条件により各サンプルについて、従来型の取付具(穴径4mm)と本発明の取付具を使用した場合についての樹脂成型品の板状サンプルによる計算精度を確認した。
【0020】
表1および表2にその計算結果を示す。
【0021】
表1は、4mmの穴径を有する従来型の取付具により上述の平板サンプルを測色しその測定結果から反射率を計算した結果である。表1の計算結果の通り、CM−3600dという測定機で測定すれば、実配合に近似した計算配合が計算できる。但し大きな測定面積が必要である。
表.1 従来型の取付具による計算結果
【表1】

【0022】
表2は、1.5mmの穴径を有する本発明の取付具により表1と同様の平板サンプルを測色し、その測定結果から反射率を計算した結果である。従来型の取付具を使用して計算した表1の結果よりも劣るものの、表2の計算結果の通り、小さい測定径で測定しているにもかかわらず、実配合に近似した計算配合が計算できる。
表.2 微小測色取付具による計算結果
【表2】

【0023】
表1および表2の計算結果から、本発明の取付具(微小穴を有する)を使用して平板サンプルを測色し反射率を計算した結果が、従来型の取付具を使用して同一のサンプルを測色し反射率を計算した結果とほぼ近いことが分かる。このことから複雑な形状を呈する被測定物の微小領域の測色に本発明の取付具だけを使用して調色計算を実施した場合、使用上問題のない精度が確保できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な測色計の外観図。
【図2】前記測色計の内部構造の概略図。
【図3】前記測色計の白板校正板の概略図。
【図4】前記測色計の黒較正ボックスの概略図。
【図5】従来型の取付具の形状図。
【図6】従来型の取付具におけるエッジによる反射光のロスの説明図。
【図7】本発明の取付具の形状図。
【図8】被測定物を従来型の取付具と本発明の取付具を用いて、各取付具にて白バックと黒バックにて測色した波長に対する反射率の関係。
【図9】本発明の取付具へ被測定物を取り付けた状態の説明図。
【図10】被測定物の波長に対する演算により求めた反射率Rocの関係。
【符号の説明】
【0025】
1 光源
2 積分球
3 測定試料面
4 受光光学系
10 従来型の取付具
11 貫通穴
12 円筒面
20 本発明の取付具
21 周辺部
22 盛上部
23 裾野部
24 頂上部
25 平坦部
26 下面
27 貫通穴
28 くぼみ状の空間
29 穴の淵
K 押え金具
T 取付具の取付部
W 被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の微小部分を測色する際に使用する分光測色計に被測定物を取付けする取付具であって、前記取付具はその周辺は平坦な板状をなし略中央部にはその凸側に被測定物を接触させるための盛り上がり部を有し、その盛り上がり部は反凸側に凹状(くぼみ状)の空間およびその頂上部に被測定物に分光測色計からの光を照射するための貫通穴を有することを特徴とする被測定物取付具。
【請求項2】
前記取付具は、板状の金属板を成型したことを特徴とする請求項1記載の被測定物取付具。
【請求項3】
前記取付具は、その盛り上がり部に設けられた貫通穴の淵を鋭利な形状としたことを特徴とする請求項1乃至2に記載の被測定物取付具。
【請求項4】
前記取付具は、前記盛り上がり部は反凸側の凹状(くぼみ状)の表面を極めて低い反射率のコーティング材で塗装したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の被測定物取付具。
【請求項5】
前記コーティング材は、黒色の艶消し塗料や煤状のカーボンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の被測定物取付具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−121942(P2009−121942A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296192(P2007−296192)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】