説明

微小粒子測定装置及び光軸補正方法

【課題】光軸のずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能な微小粒子測定装置の提供。
【解決手段】微小粒子が通流するサンプル流に照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子に散乱された散乱光と、を複数領域に分割された受光素子に集光する集光手段と、光学経路を構成する部材の相対位置を調整する位置制御手段と、受光素子の各領域の信号強度に基づいて照射光及び散乱光の集光スポット位置を検出し、照射光及び散乱光の集光スポット位置を一致させるように前記位置制御手段を制御する制御手段と、を備える微小粒子測定装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子測定装置及び光軸補正方法に関する。より詳しくは、微小粒子が通流するサンプル流とこれに照射される照射光の集光スポットとの位置関係を自動調整可能な微小粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流する微小粒子に光(レーザ)を照射し、微小粒子からの散乱光や、微小粒子そのものあるいは微小粒子に標識された蛍光物質から発生する蛍光を検出して、微小粒子の光学特性を測定する微小粒子測定装置が用いられている。この微小粒子測定装置では、光学特性の測定の結果、所定の条件を満たすと判定されたポピュレーション(群)を、微小粒子中から分別回収することも行われている。このうち、特に微小粒子として細胞の光学特性を測定したり、所定の条件を満たす細胞群を分別回収したりする装置は、フローサイトメータあるいはセルソータ等と呼ばれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「互いに異なる波長を有する複数の励起光を、所定の周期および互いに異なる位相で照射する複数の光源と、複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材とを備えたフローサイトメータ」が開示されている。このフローサイトメータは、互いに異なる波長を有する複数の励起光を照射する複数の光源と、前記複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材と、前記複数の励起光のそれぞれが前記粒子を励起して生じた蛍光を検出し、蛍光信号を出力する複数の蛍光検出器と、を備えるものである(当該文献請求項1・3、図1・3参照)。
【0004】
従来の微小粒子測定装置では、図8に示すように、レーザLは集光レンズ103によってサンプル流Sに対してほぼ垂直方向から集光される。微小粒子Pは集光されたレーザLのスポットを横切るようにしてサンプル流S中を通流する。このとき、レーザスポットの強度分布は、スポット中心で強く、周辺では大きく減弱するガウシアン分布となっている。図9に、従来の微小粒子測定装置におけるレーザスポットの強度分布の一例を示す。そのため、サンプル流S中の微小粒子Pの送流位置とレーザスポットの中心位置とが一致している場合に、微小粒子Pに照射されるレーザの実効強度が最も大きくなり、得られる信号強度が最大化される。
【0005】
サンプル流中の微小粒子の送流位置とレーザスポットの中心位置を一致させる操作は、一般に「光軸補正(キャリブレーション)」と呼ばれている。光軸補正は、キャリブレーション用のマイクロビーズを流し、そのヒストグラムデータ等を見ながら集光レンズの位置やフォーカスを調整したり、光源の芯出しを行ったりして、レーザ、サンプル流及び検出器などの相対位置を最適化することにより行われている。特許文献2及び特許文献3には、光軸補正に用いられるキャリブレーション用のマイクロビーズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−46947号公報
【特許文献2】特開平11−83724号公報
【特許文献3】特開平9−196916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サンプル流とレーザスポットとの位置を一致させる光軸補正は、信号強度を最大化して正確な測定を行うために重要である。しかし、従来、事前に光軸補正を行っても、測定中に装置に振動が加わったり、シース流の圧力変化や装置内部の温度変化が生じたりして、サンプル流の位置やレーザスポットの位置が変化して、調整した光軸がずれてしまう場合があった。このような測定中の振動や圧力・温度変化等による光軸のずれは、測定精度の低下の要因となり、場合によっては測定が不能となることもある。
【0008】
そこで、本発明は、光軸のずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能な微小粒子測定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、微小粒子が通流するサンプル流に照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子に散乱された散乱光と、を複数領域に分割された受光素子に集光する集光手段と、光学経路を構成する部材の相対位置を調整する位置制御手段と、受光素子の各領域の信号強度に基づいて照射光及び散乱光の集光スポット位置を検出し、照射光及び散乱光の集光スポット位置を一致させるように前記位置制御手段を制御する制御手段と、を備える微小粒子測定装置を提供する。
この微小粒子測定装置では、照射光と散乱光の像点である受光素子の受光面上の照射光集光スポットと散乱光集光スポットの位置を一致させるように光軸補正を行うことで、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットと散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置を一致させることができる。
この微小粒子測定装置において、前記集光手段は、照射光を遮断する遮断領域とその周囲に配された散乱光を透過する透過領域とを有する光学フィルタを、前記サンプル流と前記受光素子との間の光学経路上に介在あるいは退避可能に有していることが好ましい。
また、前記受光素子は、前記照射光及び前記散乱光が集光されてスポットを形成する受光面において、一点で交わる境界線によって複数の領域に等分されていることが好適である。
この微小粒子測定装置は、前記集光手段に、さらに、前記サンプル流と前記受光素子との間の光学経路上に、偏光方向の違いに基づいて前記散乱光の一部を分離する光学フィルタを有し、該光学フィルタと前記サンプル流との間の光学経路上において、前記照射光の偏光方向を回転させる光学フィルタを介在あるいは退避可能に有するものとしてもよい。
【0010】
また、本発明は、微小粒子が通流するサンプル流に照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子に散乱された散乱光と、を複数領域に分割された受光素子に集光し、受光素子の各領域の信号強度に基づいて、照射光及び散乱光の集光スポット位置を検出し、照射光及び散乱光の集光スポット位置が一致するように光学経路を構成する部材の相対位置を調整する微小粒子測定装置における光軸補正方法をも提供する。
【0011】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0012】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)及び植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、光軸のずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能な微小粒子測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係る微小粒子測定装置において、散乱光集光スポット位置検出時の光学経路の構成を説明する模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る微小粒子測定装置において、照射光集光スポット位置検出時の光学経路の構成を説明する模式図である。
【図3】分割受光素子の受光面の構成と、照射光と散乱光の像点である受光素子の受光面上の照射光集光スポットと散乱光集光スポットの位置を説明する模式図である。
【図4】照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットと散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の送流位置を説明する模式図である。
【図5】サンプル流上のレーザスポットとサンプル流中の微小粒子の送流位置が不一致のときに、受光素子の受光面上に集光される照射光集光スポットと散乱光集光スポットの位置を説明する模式図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る微小粒子測定装置において、散乱光集光スポット位置検出時の光学経路の構成を説明する模式図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る微小粒子測定装置において、照射光集光スポット位置検出時の光学経路の構成を説明する模式図である。
【図8】従来の微小粒子測定装置の光照射系の構成を説明する模式図である。
【図9】従来の微小粒子測定装置におけるレーザスポットの強度分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置

【0016】
1.第一実施形態に係る微小粒子測定装置
(1)集光手段
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る微小粒子測定装置の光学経路の構成を説明する模式図である。図1は、散乱光の集光スポット位置を検出するときの光学経路の構成を、図2は、照射光の集光スポット位置を検出するときの光学経路の構成を示している。
【0017】
図中、符号11で示す光源から出射された照射光(レーザ)は、コリメータレンズ12により略平行光にカップリングされ、集光レンズ13によって微小粒子Pが通流するサンプル流Sに対して集光される。サンプル流Sは、フローセル内、あるいはマイクロチップ上に形成された流路内を送液されるものであってよい。
【0018】
サンプル流Sに照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子Pに散乱された散乱光は、対物レンズ21により略平行光にカップリングされ、集光レンズ22によって複数領域に分割された受光素子23(以下、「分割受光素子23」と称する)に集光される。分割受光素子23に集光された照射光と散乱光は、その受光面において集光スポットを形成する。
【0019】
この光学系では、照射光は、サンプル流S上のレーザスポットを物点とし、分割受光素子23の受光面上の集光スポットを像点としている。また、散乱光は、微小粒子Pから発生するものであるため、その物点はサンプル流S中の微小粒子Pであり、像点は分割受光素子23の受光面上の集光スポットとなる。
【0020】
図中、符号24は、照射光を遮断する遮断領域とその周囲に配された散乱光を透過する透過領域とを有する光学フィルタ(以下、「マスク24」と称する)を示す。マスク24は、サンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上に介在あるいは退避可能に配されている。
【0021】
図1に示すように、マスク24がサンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上に介在するとき、微小粒子Pに散乱されずに直進した照射光(図中点線)は、マスク24の中央に配された遮断領域によって遮光される。そのため、微小粒子Pに散乱された散乱光のみが集光レンズ22によって分割受光素子23に集光される。このとき、分割受光素子23の受光面上に集光される散乱光の集光スポットを、図3中、符号Aによって示す。
【0022】
一方、図2に示すように、マスク24がサンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上から退避しているとき、微小粒子Pに散乱されずに直進した照射光(図中実線)は、散乱光(点線)とともに集光レンズ22によって分割受光素子23に集光される。このとき、分割受光素子23の受光面上に集光される照射光の集光スポットを、図3中、符号Bによって示す。照射光は散乱光よりもNAが小さいため、分割受光素子23の受光面上の照射光集光スポットBは散乱光集光スポットAよりも大きくなる。
【0023】
また、サンプル流Sに集光された照射光によって微小粒子Pあるいは微小粒子Pに標識された蛍光物質から発生する散乱光や蛍光は、微小粒子Pの光学特性測定のための不図示の光検出系によって検出される。光検出系は、対物レンズやフィルタ、ミラー、光検出器等によって構成でき、従来公知の微小粒子測定装置と同様の構成とできる。光検出器からの電気信号は、微小粒子Pの光学特性の測定のために供される。光学特性測定のためのパラメータは、従来公知の微小粒子測定装置と同様に、例えば、微小粒子Pの大きさを判定する場合には前方散乱光が、構造を判定する場合には側方散乱光が、微小粒子Pに標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光が採用される。なお、分割受光素子23は、微小粒子Pの前方散乱光検出のための光検出器としても利用可能である。
【0024】
(2)分割受光素子
図3を参照して、分割受光素子23の構成を説明する。分割受光素子23は、散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBが集光される受光面において、複数領域に分割されている。具体的には、分割受光素子23は、受光面の中心で交わる境界線によって複数の領域に等分されている。より具体的には、分割受光素子23は、受光面の中心で直交する2本の境界線によって等分された領域231,232,233,234の4つの領域からなっている。
【0025】
上述のように、この光学系では、照射光は、サンプル流上のレーザスポットを物点とし、分割受光素子の受光面上の集光スポットを像点としている。また、散乱光は、サンプル流中の微小粒子を物点とし、分割受光素子の受光面上の集光スポットを像点としている。照射光と散乱光の両物点の位置が一致するとき、照射光の像点と散乱光の像点の位置も一致する。すなわち、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置と散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置が一致するとき、図3に示すように、照射光と散乱光の像点である散乱光集光スポットA及び照射集光スポットBの中心位置も一致する。
【0026】
図4に、照射光と散乱光の両物点の位置が不一致のときのサンプル流S上のレーザスポットとサンプル流S中の微小粒子Pの送流位置を示す。図中、実線は、サンプル流Sに照射され、散乱されずに直進する照射光を示す。点線は、微小粒子Pに散乱された散乱光を示す。また、図中、2本の矢印間は、サンプル流Sに集光されたレーザスポットのビームウェスト(スポット径)を示す。また、図中、サンプル流Sの送流方向をX軸方向、サンプル流Sに対するレーザの照射方向をZ軸方向、ZX平面に直交する方向をY軸方向と定義するものとする。
【0027】
散乱光は、微小粒子Pがサンプル流Sに集光されたレーザスポットのビームウェストに入っている場合に、微小粒子Pから発生するものである。そのため、散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の送流位置は、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置と必ずしも一致しない。図では、サンプル流S中を送流されてくる微小粒子Pが、レーザスポットのビームウェストの端を通過している状態を示した。図に示す状態では、散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の送流位置は、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置に対して、サンプル流Sの幅方向(図中Y軸方向)にずれている。
【0028】
このように、照射光と散乱光の両物点の位置が一致しないとき、照射光の像点と散乱光の像点の位置にもずれが生じる。すなわち、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置と散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置が一致しないとき、図5に示すように、照射光と散乱光の像点である散乱光集光スポットA及び照射集光スポットBの中心位置にもずれが生じる。
【0029】
(3)制御手段
本発明に係る微小粒子測定装置は、この散乱光集光スポットA及び照射集光スポットBの位置を分割受光素子23から得られる信号(ポジション信号)の強度に基づいて検出する。そして、これら両像点の位置のずれを補正し、位置を一致させるように調整を行うことで、サンプル流上のレーザスポット位置とサンプル流中の微小粒子位置の両物点を一致させる光軸補正機能を有する。
【0030】
散乱光集光スポットA及び照射集光スポットBの位置の検出は、分割受光素子23の4つの領域231,232,233,234から得られる信号強度によって検出することができる。例えば図3に示したように、受光面の中心と散乱光集光スポットAあるいは照射光集光スポットBの中心位置が一致している場合、各領域からは等しい信号強度が得られる。一方、例えば図5に示したように、散乱光集光スポットAあるいは照射光集光スポットBの中心位置が受光面の中心から図中上方向にずれている場合、領域231,232から得られる信号強度が、領域233,234から得られる信号強度よりも大きくなる。また、例えば散乱光集光スポットAあるいは照射光集光スポットBの中心位置が受光面の中心から図中左方向にずれている場合には、領域231,233から得られる信号強度が、領域232,234から得られる信号強度に比して大きくなる。従って、領域231,232の和信号と領域233,234の和信号との差信号、あるいは領域231,233の和信号と領域232,234の和信号との差信号に基づけば、散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置を検出することが可能である。
【0031】
検出された散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置のずれは、光学経路を構成する光源11、コリメータレンズ12、集光レンズ13、サンプル流Sが送液される流路等の部材の相対位置を調整することにより補正できる。部材の位置調整は、例えば、送りねじ、ガイド及びモータ等の位置制御手段によって行うことができる。
【0032】
本発明に係る微小粒子測定装置は上記の位置制御手段を制御する制御部を備え、制御部は分割受光素子23の各領域から出力される信号の入力を受け、その信号強度に基づいて散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置を検出する。そして、制御部は、散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置が一致するように光学経路を構成する各部材の相対位置を調整するように、送りねじ、ガイド及びモータ等の位置制御手段を駆動する。
【0033】
以上のように、本発明に係る微小粒子測定装置では、照射光と散乱光の像点である受光素子の受光面上の照射光集光スポットと散乱光集光スポットの位置を一致させるように光軸補正を行うことで、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットと散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置を一致させることができる。従って、測定中の振動や圧力・温度変化等によって光軸にずれが生じたとしてもそのずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能である。
【0034】
本実施形態では、サンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上に介在あるいは退避可能にマスク24を配し、散乱光の集光スポット位置と照射光の集光スポット位置とを別々に検出する例を説明した。通常、照射光の強度は、散乱光の強度に対して非常に大きいため、このようなマスク24を配した構成を採用し、散乱光集光スポットの位置検出時において照射光の漏れ込みを排除して検出を行うようにすることが好適となる。ただし、散乱光の集光スポット位置と照射光の集光スポット位置の検出は同時に行われてもよいものとする。図3において説明したように、照射光は散乱光よりもNAが小さいため、分割受光素子23の受光面上の照射光集光スポットBは散乱光集光スポットAよりも大きくなる。そこで、このスポットの大きさの違いを利用して、分割受光素子23を散乱光集光スポットAに対応する部分と照射光集光スポットBに対応する部分とに区分しさらに多分割とすれば、両集光スポットの位置を同時に検出することもできる。
【0035】
また、本実施形態では、分割受光素子23を領域231,232,233,234の4つの領域からなるものとして説明したが、分割受光素子23の分割領域数は、1あるいは2以上の領域からの信号あるいは和信号間の差信号に基づいて散乱光集光スポット及び照射光集光スポットの位置を検出可能な限りにおいて、2又は3あるいは5以上とすることが可能である。また、各領域は、上記のようにスポット位置の検出が可能な限りにおいて、必ずしも等分に設けられる必要はなく、受光面の中心で交わる境界線によって区分されたものである必要もないものとする。
【0036】
2.第二実施形態に係る微小粒子測定装置
図6及び図7は、本発明の第二実施形態に係る微小粒子測定装置の光学経路の構成を説明する模式図である。図6は、散乱光の集光スポット位置を検出するときの光学経路の構成を、図7は、照射光の集光スポット位置を検出するときの光学経路の構成を示している。本実施形態に係る微小粒子測定装置は、微小粒子Pの光学特性測定のための光検出系に迷光を遮断するためのピンホールが配置されている点で、上述した第一実施形態に係る装置と異なっている。
【0037】
サンプル流に集光された照射光によって微小粒子あるいは微小粒子に標識された蛍光物質から発生する散乱光や蛍光は、光検出系によって検出され電気信号に変換されて、微小粒子の光学特性の測定のために供される。このとき、サンプル流が送液されるマイクロチップから生じた自家蛍光や不要な散乱光などの迷光が光検出系に入射すると、測定誤差の要因となる。光検出系に迷光を遮断するためのピンホールを配置することで、このような迷光を遮断できる。以下、本実施形態に係る微小粒子測定装置の光学経路の構成を具体的に説明する。
【0038】
図中、符号11で示す光源から出射された照射光(レーザ)は、コリメータレンズ12により略平行光にカップリングされ、集光レンズ13によって微小粒子Pが通流するサンプル流Sに対して集光される。サンプル流Sは、フローセル内、あるいはマイクロチップ上に形成された流路内を送液されるものであってよい。
【0039】
サンプル流Sに照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子Pに散乱された散乱光は、対物レンズ21により略平行光にカップリングされ、偏光ビームスプリッター25に導光される。偏光ビームスプリッター25は、偏光方向の違いに基づいて散乱光の一部を分離する光学フィルタである。サンプル流Sに照射され、微小粒子Pに散乱された散乱光は、照射光に対して偏光方向が回る。このため、偏光ビームスプリッター25により偏光方向の違いに基づいて偏光成分を分離することにより、照射光と散乱光の中から、偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分のみを分岐させることができる。
【0040】
偏光ビームスプリッター25によって分岐された散乱光成分は、集光レンズ22によって分割受光素子23に集光される。分割受光素子23に集光された散乱光成分は、その受光面において集光スポットを形成する。
【0041】
図中、符号24は、照射光を遮断する遮断領域とその周囲に配された散乱光を透過する透過領域とを有するマスクを示す。マスク24は、サンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上に介在あるいは退避可能に配されている。
【0042】
図6に示すように、マスク24がサンプル流Sと分割受光素子23との間の光学経路上に介在するとき、微小粒子Pに散乱されずに直進した照射光(図中点線)は、マスク24の中央に配された遮断領域によって遮光される。そのため、微小粒子Pに散乱された散乱光のうち、偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分のみが偏光ビームスプリッター25によって分割受光素子23に集光される。このとき、分割受光素子23の受光面上に集光される散乱光の集光スポットは、図3中、符号Aによって示される。なお、分割受光素子23の構成は、第一実施形態で説明した通りであるので、ここでは説明を割愛する。
【0043】
一方、微小粒子Pに散乱された散乱光のうち、偏光方向が照射光と同じ散乱光偏光成分は、集光レンズ26によって微小粒子Pの光学特性測定のための受光素子28に集光され検出される。また、サンプル流Sに集光された照射光によって微小粒子Pあるいは微小粒子Pに標識された蛍光物質から発生する蛍光は不図示の光検出系により検出される。この際、ピンホール27を配置しておくことで、マイクロチップから生じた自家蛍光や不要な散乱光などの迷光が受光素子28等に入射するのを遮断できる。
【0044】
本実施形態では、偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分を偏光ビームスプリッター25により分割受光素子23に分岐させている。このため、サンプル流Sに照射され、散乱されずに直進した照射光は、そのままでは分割受光素子23へ分岐されない。そこで、本実施形態では、照射光の偏光方向を回転させる光学フィルタ29を、偏光ビームスプリッター25とサンプル流Sとの間の光学経路上において、介在あるいは退避可能に配している。光学フィルタ29には、例えば1/2波長板などが好適に用いられる。以下、光学フィルタ29を、「1/2波長板29」と称するものとする。1/2波長板29は、マスク24と交替可能に配されることが好ましい。
【0045】
図7に示すように、1/2波長板29がサンプル流Sと偏光ビームスプリッター25との間の光学経路上に介在しているとき、微小粒子Pに散乱されずに直進した照射光(図中実線)は、1/2波長板29によって偏光方向が回転され、偏光ビームスプリッター25によって分割受光素子23に導光される。分割受光素子23に導光される照射光は、集光レンズ22によって分割受光素子23の受光面に集光され、集光スポットを形成する。このとき、分割受光素子23の受光面上に集光される照射光の集光スポットは、図3中、符号Bによって示される。
【0046】
この光学系においても、照射光は、サンプル流上のレーザスポットを物点とし、分割受光素子の受光面上の集光スポットを像点としている。また、散乱光は、サンプル流中の微小粒子を物点とし、分割受光素子の受光面上の集光スポットを像点としている。照射光と散乱光の両物点の位置が一致するとき、照射光の像点と散乱光の像点の位置も一致する。
【0047】
すなわち、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置と散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置が一致するとき、図3に示したように、照射光と散乱光の像点である散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの中心位置も一致する。逆に、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットの位置と散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置が一致しないとき、図5に示したように、照射光と散乱光の像点である散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの中心位置にもずれが生じる。
【0048】
本発明に係る微小粒子測定装置は、この散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置を分割受光素子23から得られる信号(ポジション信号)の強度に基づいて検出する。そして、これら両像点の位置のずれを補正し、位置を一致させるように調整を行うことで、サンプル流上のレーザスポット位置とサンプル流中の微小粒子位置の両物点を一致させる光軸補正機能を有する。
【0049】
散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置の検出や、検出された散乱光集光スポットA及び照射光集光スポットBの位置のずれの補正は、第一実施形態に係る微小粒子測定装置と同様にして行うことができる。
【0050】
以上のように、本発明に係る微小粒子測定装置では、照射光と散乱光の像点である受光素子の受光面上の照射光集光スポットと散乱光集光スポットの位置を一致させるように光軸補正を行うことで、照射光の物点であるサンプル流上のレーザスポットと散乱光の物点であるサンプル流中の微小粒子の位置を一致させることができる。従って、測定中の振動や圧力・温度変化等によって光軸にずれが生じたとしてもそのずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能である。
【0051】
本実施形態では、偏光ビームスプリッター25を用いて、微小粒子に散乱された散乱光のうち、偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分を散乱光集光スポット位置検出のための分割受光素子23に集光し、偏光方向が照射光と同じ散乱光偏光成分を微小粒子の光学特性測定のための受光素子28に集光する構成を説明した。偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分は、偏光方向が照射光と同じ散乱光偏光成分に対して強度が小さい。そのため、微小粒子の光学特性を高感度に測定するため、受光素子28の信号強度を優先する場合には、上述した構成が好適である。一方、散乱光の集光スポット位置をより高感度に測定した場合には、偏光ビームスプリッター25による散乱光の分岐を、偏光方向が照射光と同じ散乱光偏光成分を分割受光素子23に集光し、偏光方向が照射光と直交する散乱光偏光成分を受光素子28に集光するように構成してもよい。
【0052】
また、本実施形態において、散乱光の集光スポット位置と照射光の集光スポット位置の検出を同時に行ってもよい点、分割受光素子23の分割領域数は2又は3あるいは5以上としてよく、必ずしも等分に設けられる必要はなく、受光面の中心で交わる境界線によって区分されたものである必要もない点は、第一実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る微小粒子測定装置は、光軸のずれを自動的に補正して、高精度な測定を行うことが可能である。従って、本発明は、フローサイトメータあるいはセルソータ等の微小粒子測定装置として好適に実施され得る。
【符号の説明】
【0054】
11:光源、12:コリメータレンズ、13:集光レンズ、21:対物レンズ、22:集光レンズ、23:分割受光素子、231,232,233,234:領域、24:マスク、25:偏光ビームスプリッター、26:集光レンズ、27:ピンホール、28:受光素子、29:1/2波長板、A:散乱光集光スポット、B:照射光集光スポット、P:微小粒子、S:サンプル流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子が通流するサンプル流に照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子に散乱された散乱光と、を複数領域に分割された受光素子に集光する集光手段と、
光学経路を構成する部材の相対位置を調整する位置制御手段と、
受光素子の各領域の信号強度に基づいて照射光及び散乱光の集光スポット位置を検出し、照射光及び散乱光の集光スポット位置を一致させるように前記位置制御手段を制御する制御手段と、を備える微小粒子測定装置。
【請求項2】
前記集光手段は、照射光を遮断する遮断領域とその周囲に配された散乱光を透過する透過領域とを有する光学フィルタを、前記サンプル流と前記受光素子との間の光学経路上に介在あるいは退避可能に有する請求項1記載の微小粒子測定装置。
【請求項3】
前記受光素子は、前記照射光及び前記散乱光が集光されて集光スポットを形成する受光面において、一点で交わる境界線によって複数の領域に等分されている請求項2記載の微小粒子測定装置。
【請求項4】
前記集光手段は、さらに、前記サンプル流と前記受光素子との間の光学経路上に、偏光方向の違いに基づいて前記散乱光の一部を分離する光学フィルタを有し、
該光学フィルタと前記サンプル流との間の光学経路上において、前記照射光の偏光方向を回転させる光学フィルタを介在あるいは退避可能に有する請求項3記載の微小粒子測定装置。
【請求項5】
微小粒子が通流するサンプル流に照射され、散乱されずに直進した照射光と、微小粒子に散乱された散乱光と、を複数領域に分割された受光素子に集光し、
受光素子の各領域の信号強度に基づいて、照射光及び散乱光の集光スポット位置を検出し、照射光及び散乱光の集光スポット位置が一致するように光学経路を構成する部材の相対位置を調整する微小粒子測定装置における光軸補正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−47464(P2012−47464A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186961(P2010−186961)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)