説明

微生物に対する受容体アレイを形成する方法

【課題】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスなどの微生物をスクリーニングし、アレイに配置する方法を提供する。
【解決手段】1つの実施形態において、微生物に対する受容体アレイを形成する方法は、第1の基板上にストラクチャのアレイをパターニングし、第1の基板の表面上にテンプレートを形成すること、第2の基板のフェイス面に受容体材料を付けること、および第2の基板のフェイス面をテンプレートに接触させ、受容体材料の一部を第2の基板から除去し、これによって、第2の基板上に受容体アレイを形成することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的ライブラリ・スクリーニングに関し、特に、サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをスクリーニングしアレイに配列する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広範でランダムな生物学的ライブラリを調製することによって、ペプチド、薬物、酵素、触媒、機能性有機材料、および生物受容体のリガンドなど、目的の分子を合成することに実質的な関心が向けられてきた。このようなライブラリは、微生物の利用に頼る場合が多い。各微生物が合成するのは1つのタイプの分子であり、多数の微生物を含むライブラリを使用することによって、広範な化学的多様性が得られる。ライブラリを調製するために最も用いられる微生物は、酵母およびバクテリオファージである。ファージとも呼ばれる、バクテリオファージという特定のケースにおいては、目的の分子がファージの表面に提示されることが可能である。ファージの内部には、提示されたタンパク質をコードするオリゴヌクレオチド配列(遺伝子)がある。このため、バクテリオファージは、ライブラリを調製し、スクリーニングするためのきわめて便利なツールになっている。目的の分子と標的との間に相互作用が見つかった場合、分子の構造は、この分子をコードする遺伝子の配列決定をすることによって解読することができるからである。残念ながら、ライブラリ中で特定の目的の分子をスクリーニングすることはきわめて困難である場合がある。たとえば、特定のタイプのファージをスクリーニングするために現在使用されている1つの方法は、特定のタイプのファージに付着可能な受容体でコーティングされたマイクロタイター・プレート・ウェルに、ファージ・ライブラリを添加することが必要である。これらのファージの一部を受容体に結合させた後、特異的にまたは非特異的に、非結合ファージを洗浄によって除去することができる。その後、結合受容体を回収して複製し、その数を増やすことができる。上記の選択法を繰り返し行い、遺伝子配列を決定することができる。ライブラリは何十億もの異なるファージを含むことができ、各ファージが固有のライブラリ・エレメントを呈するため、複数回のスクリーニングが必要である場合がある。
【0003】
ライブラリにおけるウイルスのスクリーニングを改良するための生物学的な発想のアプローチが展開されてきた。これらのアプローチによって、化学的リンカー、核酸ハイブリダイゼーション、または金属イオンを用いて、バクテリオファージ(すなわち細菌に感染するウイルス)などのウイルスを、アレイにセルフ・アセンブリする、または誘導(directed)アセンブリすることが可能である。特に、繊維状M13バクテリオファージウイルスは、生物材料および無機材料(金属、磁性、および半導体などの)を、そのセルフ・アセンブルした、遺伝子改変可能な構造体中に取り込む膨大な能力を示している。M13バクテリオファージの肉眼で観察できる組織体は、液晶相分離現象およびウイルス−膜複合体を用いて得られており、均一性およびエレメント密度の高い材料を作り出している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
残念ながら、現在のセルフ・アセンブリおよび誘導アセンブリ方式は、アプローチの特異性と一般性の間のトレード・オフに直面することが多い。しかし、きわめて特異的な抗体相互作用を用いることは、試料の調製およびプロセス中に抗体活性が著しく損失するため、依然として比較的未調査のままである。マイクロコンタクト・プリンティングなどのソフト・リソグラフィ法は、抗体の生体分子活性を維持することにおいては成功しているが、抗体のプリンティングに用いられるエラストマー材料の機械的特性のため、フィーチャのサイズおよびピッチにおいて制限がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスなどの微生物をスクリーニングし、アレイに配置する方法を提供することにより、従来技術の欠点が克服され、さらなる利点が提供される。1つの実施形態において、微生物に対する受容体アレイを形成する方法は、第1の基板上にストラクチャのアレイをパターニングし、第1の基板の表面上にテンプレートを形成すること、第2の基板のフェイス面に受容体材料を付けること、および第2の基板のフェイス面をテンプレートに接触させ、受容体材料の一部を第2の基板から除去し、これによって、第2の基板上に受容体アレイを形成することを含む。
【0006】
他の特徴および利点は、本発明の技術を通して理解される。本発明の他の実施形態および態様は本明細書に詳細に記載され、特許を請求する本発明の一部であるとみなされる。利点および特徴とともに本発明をより十分に理解するために、記載および図面を参照されたい。
【0007】
本発明とみなされる主題は、本明細書に添付の特許請求の範囲の中で詳細に示され、明確に特許請求される。上記および他の、本発明の目的、特徴、および利点は、添付の図面と併せてなされる以下の詳細な記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをアレイに配置し、一定のウイルスをスクリーニングする方法の一例を示す。
【図2】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをアレイに配置し、一定のウイルスをスクリーニングする方法の一例を示す。
【図3】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをアレイに配置し、一定のウイルスをスクリーニングする方法の一例を示す。
【図4】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをアレイに配置し、一定のウイルスをスクリーニングする方法の一例を示す。
【図5】サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いて、ウイルスをアレイに配置し、一定のウイルスをスクリーニングする方法の一例を示す。
【図6】本明細書に記載されている方法を用いて作り出されたファージ・アレイの原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な記載は、図面を参照して、例として、利点および特徴とともに本発明の好ましい実施形態を説明するものである。
【0010】
ここで図面をより詳細に参照すると、図1〜5は、サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングを用いてバクテリオファージなどのウイルスをスクリーニングする方法の、例示的な実施形態を示していることがわかる。この方法を用いて、ウイルスのライブラリ中に存在する一定のウイルスを捕捉することができるナノスケールのタンパク質受容体が高密度に充填されたアレイをパターニングすることができる。ウイルスを受容体に結合させる条件を調整して、非特異的結合を防止し、ウイルスの凝集および損傷を防止し、各タンパク質受容体に結合するウイルスの数をわずか1個にまで減少させることができる。このため、比較的短時間で、きわめて広範なライブラリから多数のウイルスをスクリーニングすることができる。
【0011】
図1に示したように、スクリーニング方法は、基板、たとえばシリコン系基板を最初にパターニングし、ストラクチャ12のアレイを含むテンプレート10を、サブトラクティブ・コンタクト・プリンティング用に形成することを含む。ストラクチャ12は、リソグラフィ技術を用いることによって形成することができる。基板の選択された部分上にレジストをパターニングし、その後、エッチング技術、たとえば反応性イオン・エッチングを用いて、パターン形成されたレジストによって保護されていない基板の部分を除去する。1つの実施形態では、電子ビーム・リソグラフィを用いて、レジストの高解像度パターニングを得る。得られたテンプレート10は、その後、たとえば酸素含有のプラズマでそれを処理することによって清浄化することができる。
【0012】
図2に示したように、本明細書に記載されている方法は、さらに、スタンプ14として用いるためのほぼ平坦なフェイス面を有する基板を得ること、およびスタンプ14の平坦なフェイス面に受容体材料16を付けることを含む。スタンプ14には、これが接触するものの表面の外形に沿うのに十分な量の機械的変形能を有する材料を含めることができる。スタンプ14として用いるのに好適な材料の例は、ポリジメチルシロキサンなどのエラストマーを含むが、これに限定されない。一般的に、エラストマーをこの目的のために用いることができるのは、その機械的変形能が優れているためであり、このことによって、接触するものの表面の外形にエラストマーを沿わせることが可能になる。エラストマーの具体的な例として、スチレンブロック共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド、ポリウレタン、およびコポリエステルなどの熱可塑性エラストマーがある。ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、およびフッ化シリコーン・エラストマーなどのゴム様のエラストマーも用いることができる。スタンプ14の表面は、タンパク質を溶液からスタンプ14の表面上に付着させるために疎水性であるのが理想的であるが、必ずしもそうでなくてもよい。この場合、タンパク質の付着は、自然発生的および自己限定的であり、緩衝液中に溶解したタンパク質でスタンプ14の表面を単に被覆することによって、スタンプ14のインク付け(inking)が実施されるのをきわめて容易にする。スタンプ14は、さらに、酸素プラズマまたは紫外線およびオゾンを用いて処理され、表面を酸化することができる。この酸化処理は、スタンプ14の表面により親水性をもたせ、極性のある、帯電している、または親水性のある、あるいはそれらの組み合わせのある受容体材料をその表面上に付着させるために用いることができる。
【0013】
この実施形態は、主にタンパク質受容体を用いる例で記載されているが、多数の他のタイプの受容体材料も用いることができる。好適な受容体材料の例には、スクリーニングされようとしている微生物、たとえばウイルスが結合可能な任意のタンパク質、生体分子、またはケミカルが含まれるが、これらに限定されない。受容体材料の具体的な例として、タンパク質、抗体、抗体断片、複数の抗体で形成された複合体、酵素、ペプチド、細胞接着分子、タンパク質受容体、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid:RNA)、糖、オリゴヌクレオチド、およびいくつかのオリゴヌクレオチドで形成された複合体がある。受容体材料16を付けることは、たとえば、スタンプ14をフェイス・アップでペトリ皿の中に置き、それを受容体材料の溶液で被覆することによって実現することができる。このステップ、すなわちインク付けステップの間に、溶液中に含まれている受容体の一部がスタンプ14上に付着する。スタンプ14上に付着する受容体の量は、受容体材料16とスタンプ14の間の親和性、インク付けステップの持続時間、インク溶液中の受容体材料の濃度、用いる溶液のタイプ、およびスタンプ14のリンスの仕方によって異なる。タンパク質受容体16がスタンプ14上にインク付けされる場合、インク溶液中の受容体の濃度は、たとえば、約1μg/ml(マイクログラム/ミリリットル)〜約1mg/ml(ミリグラム/ミリリットル)とすることができる。インク付けは、4℃で終夜、または室温で20分以内、行うことができる。特定のインク付け条件で付着した受容体材料の量は、基板14からシリコン・ウエハの自然酸化物などの平坦な表面に(プリンティングによって)転写された受容体材料の厚さおよび組成を測定することによって、間接的に求めることができる。X線光電子分光および偏光解析を用いると、プリントされた受容体材料の量を特定することができる。インク付けおよびリンスの後で、スタンプ14を窒素気流によって乾燥し、液膜で被覆されるのを防止することができる。このような液膜があると、ストラクチャ12のアレイに受容体材料16を転写するのが妨げられることがある。
【0014】
スタンプ14のフェイス面に受容体材料16を付けた後、図2に示したように、ストラクチャ12のアレイを有するテンプレート10をスタンプ14のフェイス面に接触させることができる。矢印18で示したように、スタンプ14の背面に軽度の圧力を加え、受容体材料16をストラクチャ12に密着させることができる。その結果、図3に示したように、受容体アレイ20がスタンプ14のフェイス面上に残り、一方で、受容体材料22の取り去られた部分がストラクチャ12の上方の表面上に付着する。次に、スタンプ14を対象基板30に当て、受容体アレイ20を対象基板30に転写することができる。対象基板30は、たとえば、スライドガラス、自然生成した二酸化(酸化)シリコンまたはこれより厚い酸化物のレイヤで被膜されたシリコン・ウエハ、またはこのようなウエハの一部とすることができる。最終的なアレイが図4に図示されている。
【0015】
上記の方法は、受容体材料を対象基板に転写するために、サブトラクティブ・コンタクト・プリンティングとの関連では真っ平らなエラストマーを使用しているため、受容体アレイのピッチおよびフィーチャのサイズは、エラストマーの機械的特性に影響されない。このため、タンパク質受容体の平均横寸法は、1,000ナノメートル(nm、「ナノスケール」サイズ)未満まで低減することができ、タンパク質受容体のピッチは、10マイクロメートル(μm)未満まで低減することができる。
【0016】
ウイルスのライブラリから一定のウイルスを分離およびスクリーニングするために、ウイルスを含む溶液中に基板30を入れ、一定のウイルスを受容体アレイ20に結合させるのに十分な時間に亘ってインキュベートすることができる。ウイルスは、たとえば、M13バクテリオファージ(ファージ)などのバクテリオファージとすることができる。基板30上の受容体領域外に配置されるウイルスは、ほとんどまたは全くない。ウイルスの一部が受容体アレイ20にこのように結合する結果、ウイルスのアレイが基板30上に形成される。表面結合したウイルスは、溶離法またはマイクロ流体プローブを用いて回収することができ、受容体アレイ20に転写されたそのようなウイルスを捕捉することができる。マイクロ流体プローブは、2つのアパーチャを有するチップで構成されるマイクロ流体デバイスである。このチップは対象の表面に近接して配置され、薄い液膜がチップを表面から分離する。チップを表面から分離している間隙中に、1つのアパーチャを用いて液体を注入し、注入した液体を、第2の近接するアパーチャを用いて吸引することによって、注入された液体は、対象の表面上に留まる。マイクロ流体プローブの設計および作動形態は、Juncker et al.,Nature Materials,vol.4,p.628(2005)の中で詳細に記載されており、これを参照によって本明細書に組み込む。マイクロ流体プローブを用いて、溶離液、タンパク質受容体を含む液体、ウイルスに付着可能なリガンドを含む液体、または上記の液体の少なくとも1つを含む組み合わせを基板に供給することができる。
【0017】
1つの実施形態において、転写されたタンパク質受容体に結合しているウイルスは、転写されたウイルス上のタンパク質コーティング(M13ファージではpVIII)に結合可能な蛍光標識した受容体を用いて、全て同時に染色することができる。蛍光顕微鏡を用いて基板から蛍光信号を検出すると、ウイルスへのタンパク質受容体の結合が成功している部位が明らかになる。その後、マイクロ流体プローブを局所的に用いて、これに続く増幅および分析のためにウイルスを溶離することができる。別の方法として、マイクロ流体プローブは、抗体などの蛍光標識した受容体を含む液体を、基板に局所的に供給することができる。この場合、マイクロ流体プローブは、基板の表面上のウイルスを染色すること、およびウイルスを溶離することの両方に用いることができる。
【0018】
生物システムの複雑性は、pH、イオン価およびイオン強度、ならびにイオン濃度との大幅な相互依存性を作り出し、このことは、生物システムの表面上の不動化を支配する駆動力をきわめて複雑化し得る。M13ファージの繊維状の構造(880nm×6nm)およびこのウイルスがもつ大幅な負の表面電荷密度(surface charge density:SCD、σ)(σM13=1e/256A、一方でσDNA=1e/106A)のため、M13ファージ溶液は、溶液の差異が軽微であっても激しい物理的変化を起こす可能性がある。肉眼で観察できるフィーチャ(2μm×2μm)を有する抗体パターンにM13ファージを結合させるための溶液の条件を最適化し、フィーチャのサイズがもつ影響力の研究から、これらの影響を断つことができる。M13ファージの表面電荷密度は、pHの関数であり、7以上の値で最大である。ファージが結合する間に大幅な負のSCDを維持することによって、ファージ−ファージおよびファージ−シリコン静電反発力が増加し、複数部位占有率および非特異的バックグラウンド結合を最小限にすることができる。このような条件下ではシリコンも負のSCDを有する(1e/2381A)ためである。緩衝ファージ溶液のイオン強度を50パーセント低減することを利用して、電荷遮蔽効果を最小限にすることができる。結合条件の至適化によって、基板への非特異的バックグラウンド結合を最小にしながら、パターン形成された抗体の完全な被覆が得られる。ファージと基板の間に反発静電相互作用がある場合、表面パッシベーションは全く必要がない。
【0019】
予想外なことに、単一エレメントのアレイが形成され得ることがわかり、図5に示したように、受容体部位20の過半数が単一ファージ40に占有されている。特に、抗体フィーチャのサイズおよび結合反応速度(kinetics)の両方を調整することによって、単一エレメントのアレイを得ることができる。ファージ溶液の濃度を低減することを利用して単一エレメントの部位占有を統計学的に得ることができるが、この低減は、捕捉抗体の結合親和性によって制限される。約10〜約10プラーク形成単位/ミリリットル(pfu/ml)のファージ濃度を有するファージ溶液を用いて、個体の、十分に分離されたファージを得ることができ、同時に部位占有率およびパターン被覆率が増加する。10pfu/ml超の濃度では、結合の統計値に劇的な変化がみられ、これはファージ溶液中に大幅な局所不均質性があることを示す。きわめて高濃度の1010〜1011pfu/mlの範囲では、物理的相互作用における変化によって、ファージの束化および星状のパターン形成が生じる。
【0020】
バクテリオファージのタンパク質コートとパターン形成された抗体間の相互作用を理解すると、単一部位占有を得るのに役立てることができる。2μm×2μmの肉眼で観察できるパターン上に、バクテリオファージの結合構造が2種類存在し、そこではタンパク質コートの完全な不動化またはフィーチャ端部への局在化のいずれかが生じている。さらに、予想外なことに、抗体受容体の平均横寸法(またはフィーチャのサイズ)を約625nm未満に低減すると、M13ファージの物理的なサイズおよび持続長(一般的に報告されている値は2.2μmであるが、最近の報告書ではこれより短い1.2μmと示されている)に基づいて、主に端部結合型が促進されることがわかった。すなわち、結合は主に受容体部位の端部で生じるようである。理論に制限されるものではないが、抗体フィーチャの外にファージが伸張すると、反発静電ファージ−シリコン相互作用が増加し、タンパク質コートの大部分を溶液中に追いやると考えられている。240nm×240nmの平均横寸法を有する抗体パターンが10pfu/mlのファージ溶液でインキュベートされた場合、抗体部位の過半数が2つ以上のファージに占有される。抗体パターンの平均横寸法を200nm×200nmに低減すると、部位の過半数が単一ファージに占有され、被覆率が高く、再現性の度合いがより高いアレイが得られる。しかし、2つ以上のファージを有する部位がいくつか残る。抗体フィーチャのサイズを90nm×90nmにさらに低減すると、完全な単一の部位占有は得られるが、被覆率が低いという欠点がある。したがって、基板上にパターン形成された抗体部位の平均横寸法は、望ましくは約60nm〜約250nmの範囲であり、より厳密には約120nm〜約200nmの範囲であり、さらにより厳密には、約140nm〜約180nmの範囲である。さらに、抗体部位間の平均ピッチは、約5μm〜約700nmであり、より厳密には約2μm〜約600nmであり、さらにより厳密には約1.5μm〜約500nmである。図6は、本明細書に記載されている方法を用いて幅200nmの抗体部位の上に作り出されたファージ・アレイのAFM像を示す。当然のことながら、これらの濃度、ピッチ、および寸法は、単一ファージ・ディスプレイ・アレイに好適である一方で、他の用途のために調整することができる。たとえば、より大きなピッチを用いて、必要なファージ濃度を低減させることができる。
【0021】
M13ファージはアスペクト比が高いため、流体流中の位置決めのために十分に大きな流体力学的抗力係数を呈する。ファージ・コートの大部分が、ナノスケール・フィーチャでは溶液中にあるとすれば、流体流を用いてファージ・アレイの方向を調整することができる。例として、フィーチャ間のピッチを2.5μmから1.0μmに低減することによって、ファージ密度を4倍に増加することができる。ファージが流体流中に長く延びて屈曲していることは、抗体−タンパク質結合が強力であることを含意し、同時に、繊維状システムの持続長を研究する手段となる可能性があることを示している。この方法で位置決めしたファージ・アレイは、ナノワイヤなどのストラクチャの製作のためのテンプレートとして用いることができる。したがって、ファージ密度の増加およびより複雑な構造を作り出すための既成のストラクチャに対する位置決めは、サブトラクティブ・プリンティングおよび流体による位置決めの組み合わせを用いて実現することができる。
【0022】
機能的で位置決め可能なアレイに生物システムを編成することは、マイクロ・アレイ技術およびボトム・アップ式ナノ・アセンブリをはじめとする多くの科学技術的用途を有する。技術的な意味を超えて、個々の生物構成要素の位置決め可能なアレイは、空間を占める組織体間の複雑な関係、および結果として生じる細胞システムにおける外部からの刺激の相関性を解明する可能性を有する。増殖、遊走、および分化などの肉眼で観察できる活動は、サイズおよび組織がナノスケールで定義される諸要素との相互作用に依存しているのである。
【0023】
本開示は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0024】
ナノテンプレートの調製
電子ビーム・リソグラフィを用いて高解像度ナノテンプレートを作製した。ポリ(メチルメタクリレート)(Poly(methyl methacrylate):PMMA)レジストでコーティングしたシリコン・ウエハを、ドイツ、ドルトムントのRaith GmbH製造のe−ライン電子ビーム・リソグラフィ・システム(電圧:20キロボルト(kV)、アパーチャ:10μm、ビーム電流:29ピコアンペア(pA))を用いて露光した。PMMAレジストを、1:3の割合のメチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone:MIBK):イソプロパノールの溶液中で30秒(s)現像し、イソプロパノール中に1分(min)浸漬し、N気流を吹きつけて、乾燥させた。エッチング用の前駆物質として六フッ化硫黄(SF)および側壁のパッシベーション用にオクタフルオロシクロブタン(C)(フランス、アヌシーのAlcatel Vacuum Technology France製造)を使用するバランスの取れたプロセスで、低エッチング速度の反応性イオン・エッチャ(Alcatel Vacuum Technology France、アヌシー、フランス)を用いて25秒間エッチングすることによって、シリコン基板内にPMMAパターンを転写した。
【0025】
平坦なエラストマーのタンパク質インク付け
ミシガン州ミッドランドのダウコーニングから市販されているSylgard(登録商標)184ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane:PDMS)エラストマーを、ペトリ皿に入れ、60℃で少なくとも24時間硬化した。各エラストマーの、ペトリ皿に接触している方の側を約100マイクロリットル(μl)の抗体溶液で45分間インク付けした。Anti−fd Bacteriophage(米国ミズーリ州セントルイスのシグマが販売するB7786)を、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)(シグマが販売するA7906)中に0.1ミリグラム/ミリリットル(mg/ml)の濃度で用いた。インク付けの後、PBSおよび脱イオン水を用いてエラストマーをリンスし、N気流を約30秒吹きつけ、乾燥した。
【0026】
タンパク質のサブトラクションおよびプリンティング
サブトラクティブ・プリンティング技術の詳細は、たとえば、Coyer,S.R.,Garcia,A.J.& Delamarche,“E.Facile preparation of complex protein architectures with sub−100 nm resolution on surfaces”,Angew.Chem.Int.Ed.vol.46,p.1−5(2007)の中で以前に発表されており、これを参照によって本明細書に組み込む。簡単に説明すると、米国ケンタッキー州フローレンスのTechnics Plasma 100−E製造のデバイスを用いて、酸素プラズマ処理を200ワットで60秒間行って、シリコン基板およびナノテンプレートを清浄にした。エラストマーをナノテンプレートに15秒接触させることによって、均一にインク付けされたエラストマー上のタンパク質を選択された領域で除去し、その後、手でエラストマーをナノテンプレートから取り外した。30秒間のプリンティング・ステップを用いてエラストマーから最終基板にタンパク質のパターンを転写した。エラストマーをナノテンプレート/基板上に手で置き、ピンセットで軽度の圧力を加えると、エラストマーとナノテンプレート/基板の間の密着が生じた。ナノテンプレートは、再利用する前に、酸素プラズマでの処理を繰り返し行うことによって有機材料を除去して清浄にした。
【0027】
可視化
スイス、ヌーシャテルのNanosensorsが販売している174〜191キロヘルツ(kHz)のシリコン・カンチレバーを用いてタッピング・モードで操作されたNanoscope Dimension 3000(米国カリフォルニア州サンタバーバラのDigital Instrumentsが販売)を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)像を得た。NanoScope 6.12r1ソフトウェアを用いて、AFM像を平坦化し、表示し、分析した。
【0028】
ファージの調製
Barbas,C.F.,Burton,D.R.,Scott,J.K.,Phage Display:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001に記載されている標準ファージ方法を用いて、宿主細菌である大腸菌(ER2738 NEB)の中でM13バクテリオファージ・ストック(NEB)を増幅した。この文献を参照によって本明細書に組み込む。簡単に説明すると、細菌を終夜培養して1:100に希釈したものにファージ・ストック(1×1012pfu/ml)を添加し、37℃で振盪させながら5.5時間インキュベートした。遠心分離によって細菌からファージを分離し、4℃での終夜に亘るポリエチレングリコール/塩化ナトリウムの沈殿によって濃縮し、続いて遠心分離した。得られたファージを透析して過剰な塩を除去し、確実に適正なpHにした。
【0029】
試料の調製
トリス緩衝食塩水(tris−buffered saline:TBS)および0.1重量%のTween−20(シグマ・アルドリッチが販売)の溶液中の5mlのファージ・ストックを、サブトラクティブ・プリンティングされた基板とともに1時間インキュベートし、続いてTBST(TBS+Tween−20)、TBS、および水(18.2メガオームの電気抵抗を有する)を用いて、穏やかにではあるが徹底的に洗浄し、圧縮窒素で乾燥した。AFM分析の前に、試料を終夜真空デシケータ内に置いた。
【0030】
本明細書で用いる場合、「ある(“a”および“an”)」という用語は、数量の限定を示すものではなく、むしろ、言及されたアイテムが少なくとも1つ存在することを示すものである。さらに、同一の構成要素または属性に向けられた範囲には、それらの範囲に付与された両端点を含めるものとする(たとえば、「約5重量%〜約20重量%」は、約5重量%〜約20重量%の範囲の両端点および全ての中間値を含む)。本明細書全体に亘る「1つの実施形態(“one embodiment”)」、「別の実施形態(“another embodiment”)」、「ある実施形態(“an embodiment”)」などについての言及は、その実施形態に関連して記載された特定の要素(たとえば、特徴、構造、または特性、あるいはそれらの組み合わせ)が本明細書に記載されている少なくとも1つの実施形態の中に含まれることを意味し、他の実施形態の中に存在する場合もあればそうでない場合もある。加えて、当然のことながら、記載された要素は、種々の実施形態の中に任意の好適な方法で組み合わせられてもよい。他に定義されていない限り、本明細書で用いる専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に広く理解されているものと同じ意味を有するものである。
【0031】
本発明に対する好ましい実施形態を記載してきたが、当然のことながら、当業者は、現在および将来において、以下の特許請求の範囲の範囲内に入る種々の改良および強化をすることができる。これらの請求項は、最初に記載された本発明の適正な保護を維持するものと解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に対する受容体アレイを形成する方法であって、前記方法は、
第1の基板上にストラクチャのアレイをパターニングし、前記第1の基板の表面上にテンプレートを形成するステップと、
第2の基板のフェイス面に受容体材料を付けるステップと、
前記テンプレートに前記第2の基板の前記フェイス面を接触させ、前記第2の基板から前記受容体材料の一部を除去し、それによって、前記第2の基板上に受容体アレイを形成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記受容体アレイに対象基板を接触させて前記対象基板に前記受容体アレイを転写し、前記微生物を含む溶液に前記対象基板を接触させて前記受容体アレイに前記微生物の一部を転写するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が、ウイルスまたはバクテリオファージを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記受容体が、タンパク質、抗体、抗体断片、複数の抗体で形成された複合体、酵素、ペプチド、細胞接着分子、タンパク質受容体、デオキシリボ核酸、リボ核酸、糖、オリゴヌクレオチド、またはいくつかのオリゴヌクレオチドで形成された複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の基板がエラストマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エラストマーがポリジメチルシロキサンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記受容体アレイに転写した前記微生物を、マイクロ流体プローブを用いて、操作、回収、または染色するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロ流体プローブが、溶離液、別のタンパク質受容体を含む液体、前記受容体アレイに転写された前記微生物に付着可能なリガンドを含む液体、またはこれら液体の少なくとも1つを含む組み合わせを、前記基板に供給する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロ流体プローブが、蛍光標識した受容体を含む液体を前記基板に供給する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記受容体アレイに転写された前記微生物が、免疫蛍光染色を用いて検出される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ流体プローブが、前記受容体アレイに転写された前記微生物上のタンパク質コーティングに結合可能な蛍光標識した抗体を含む液体を前記対象基板に供給する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記受容体アレイに転写された前記微生物を、溶離を用いて回収するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記微生物の前記転写された一部を微生物アレイに配置し、前記微生物アレイの方向が流体流を用いて調整される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記基板上にパターン形成された前記ストラクチャの平均横寸法が、約625ナノメートル未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ストラクチャ間の平均ピッチが、約5マイクロメートル〜約700ナノメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記基板上にパターン形成された前記ストラクチャの平均横寸法が、約60ナノメートル〜約250ナノメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記溶液が、約10〜約10pfu/mlのバクテリオファージ濃度を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記基板上にパターン形成された前記ストラクチャの平均横寸法が、約200nm×200nm以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記受容体アレイ中の過半数の部位が、単一微生物に占有される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象基板が、スライドガラス、自然生成した二酸化シリコンもしくはこれより厚い二酸化シリコン・レイヤでコーティングされたシリコン・ウエハ、または前記コーティングされたシリコン・ウエハの一部である、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−500396(P2012−500396A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523465(P2011−523465)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/IB2009/053098
【国際公開番号】WO2010/020893
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION