説明

微生物の計数検査方法及び該方法に用いる微生物検査用粘着シート

【課題】 水棲微生物のうちの増殖能を有する微生物を簡便かつ正確に計数できる微生物の検査方法を提供する。
【解決手段】 水系サンプルをメンブレンフィルターでろ過して水系サンプル中の微生物をメンブレンフィルター上に捕集する工程と、粘着シートの粘着層を前記メンブレンフィルターに圧着、剥離して、前記微生物を粘着シートの粘着層表面に転写して、捕集する工程と、前記粘着シートの微生物捕集面を培地に接触させて、微生物を分裂増殖させる工程と、粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程とを含む、微生物の計数検査方法。好ましくは、光学機器を用いて分裂増殖した微生物の光学的画像を形成し、該光学的画像を画像解析して分裂増殖した微生物の数を計数する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は増殖能(増殖活性)を有する微生物の計数検査方法及び該方法に使用する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の環境中の細菌等の微生物の存在量(数)を迅速かつ簡便に見積ることは、食品工業や医療の現場における衛生管理、製薬工業における品質管理等において重要である。
【0003】
従来、例えば水系環境に存在する細菌(即ち、水棲細菌)を計数する方法として、細菌捕捉能力のあるメンブレンフィルター等を用いて水系環境から採取したサンプル中の細菌をフィルター上に集積・捕集した後、該捕集した細菌を寒天培地と十分に接触させてメンブレンフィルター上にコロニーを形成させ、該コロニー数を測定する方法が知られている。しかし、この方法は、目視で計数できる大きさに成長したコロニーを計数するため、細菌の培養に時間がかかること、また、コロニーとメンブレンフィルター間のコントラストがつきにくく、計数しにくい場合がある。そこで、コロニーの計数を容易にするために、コロニーを染色するMicroStrain法などが開発されているが、コロニーの染色操作が煩雑であり、効率的でない。また、メンブレンフィルター上の細菌を蛍光染色し、蛍光顕微鏡で直接観察にして細菌数を計数する方法が知られている。しかし、この細菌を培養せずに染色して計数する方法は、通常、細菌を含むサンプル液中で細菌と染色液と反応させるか、或いは、フィルター上に捕集した細菌に染色液を反応させるが、いずれの場合でも蛍光染色された輝点を計数して菌数としており、増殖活性を有する細菌の数を測定するものではない。また、細胞内エステラーゼ活性の有無を指標とした場合、増殖できる細菌数よりも多くの細菌数を計数するといった問題点もある。さらに、核酸結合性の蛍光試薬を用いた場合は、生菌と死菌の区別が容易ではないため、増殖活性を有する細菌数を正確に測定することは困難である。
【0004】
一方、近時、固体表面の細菌をサンプリングする手法として、粘着シートを用いる方法が示されている(特許文献1)。すなわち、この方法は、細菌捕集用粘着シートの粘着層表面を被験体である固体の表面(被験面)に圧着、剥離して細菌を捕集した後、細菌を染色し得る1種以上の蛍光性物質を含有する水溶液を該粘着層表面に接触させ、染色された菌体を観察して計数する方法である。しかしながら、当該方法においても、蛍光染色された輝点を計数して菌数とするため、被験面における増殖活性を有する細菌の数を正確に測定することは困難である。
【特許文献1】特開2002−142797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の諸欠点を解消して、水棲微生物のうちの増殖能を有する微生物を簡便かつ正確に計数できる微生物の検査方法を提供することであり、また、該方法に好適な微生物検査用の粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、メンブレンフィルター上に捕集した微生物を粘着シートの粘着層表面に転写、捕集し、次いでかかる微生物を捕集した粘着層表面を培地に接触させると、微生物が分裂増殖し、しかも、該分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)は粘着シート越しに容易に計数できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)水系サンプルをメンブレンフィルターでろ過して水系サンプル中の微生物をメンブレンフィルター上に捕集する工程と、
粘着シートの粘着層を前記メンブレンフィルターに圧着、剥離して、前記微生物を粘着シートの粘着層表面に転写して、捕集する工程と、
前記粘着シートの微生物捕集面を培地に接触させて、微生物を分裂増殖させる工程と、
粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程とを含む、微生物の計数検査方法、
(2)粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程が、光学機器を用いて分裂増殖した微生物の光学的画像を形成し、該光学的画像を画像解析して分裂増殖した微生物の数を計数する工程である、上記(1)記載の方法、
(3)微生物が細菌又は真菌である、上記(1)または(2)記載の方法、
(4)粘着シートの支持体が1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)粘着シートの粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法、
(6)粘着シートの支持体の可視光線透過率が30%以上である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法、
(7)粘着シートの粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法、
(8)1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する支持体の片面に粘着層を設けた粘着シートであって、粘着層表面を微生物の捕集面として使用し、該粘着層表面に捕集した微生物を当該面上で分裂増殖をさせるものであることを特徴とする、微生物検査用粘着シート、
(9)粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、上記(8)記載の粘着シート、及び
(10)粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、上記(8)又は(9)記載の粘着シート、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コロニーの染色操作等の煩雑な操作を行う必要なく、水系サンプル中の増殖能を有する微生物を簡便かつ正確に計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する粘着シートは、支持体の片面に粘着層を形成した粘着シートであり、粘着層を、微生物が捕集されたメンブレンフィルターに圧着、剥離することで、メンブレンフィルター上に捕集されている微生物を粘着層の表面に転写、捕集するものである。従って、本発明で使用する粘着シートの粘着層は、メンブレンフィルター上に捕集されている微生物が転写されて、保持されるに必要な粘着性が必要であり、かかる観点からその性状が調整される。
【0010】
粘着層に使用する粘着剤は、含水状態のメンブレンフィルターに接触しても、溶解しにくいものが好ましく、通常、非水溶性粘着剤が使用され、該非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。なお、これらの粘着剤はいずれか1種を使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。本発明においては、後記にて詳しく説明するように、粘着層表面にて増殖させた微生物を粘着シート越しに観察して計数するため、粘着層に使用する粘着剤は透明性の高いものが好ましく、上記例示の中でも、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤が特に好ましい。
【0011】
アクリル系粘着剤の具体例としては、アルキル基の炭素数が2〜13の直鎖又は分岐のアルキル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル及び(メタ)アクリル酸デシル等から選ばれる1種または2種以上を主モノマーとし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを1種または2種以上共重合させた共重合体が挙げられる。また、粘着特性(特に粘着力)の改善のために、かかる共重合体に、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線等の照射処理等を行って、架橋を施したものも好ましく使用される。また、シリコーン系粘着剤の具体例としては、主成分がジメチルシロキサンからなるものが挙げられる。
【0012】
本発明で使用する粘着シートの粘着層の厚みは、メンブレンフィルターへの密着性、追従性、微生物捕集性等の点から、5〜100μmとするのが好ましく、より好ましくは10〜60μmである。また、粘着層表面の平滑度(表面粗さ)は20μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0013】
本発明では、後述するように、粘着層表面にて増殖させた微生物を粘着シート越しに観察して、その数を計数するが、位相差顕微鏡等の顕微鏡を用いて微生物を観察し、その数を計数する場合、粘着層表面の平滑度が20μm以下であれば、顕微鏡で観察する際の焦点の合致範囲が広くなり、より正確な微生物の計数を行うことができる。かかる粘着層表面の平滑度は粘着シートの断面を電子顕微鏡などで観察し、該断面における粘着層表面の最大高さ部(凸部の頂点)から最低高さ部(凹部の最底点)までの高低差を測定する方法によって求めることができる。
【0014】
本発明で使用する粘着シートの支持体は、粘着層と同様に、通常、非水溶性である。また、粘着層を曲面や狭所表面にも自在に圧着させ得るために柔軟性が高く、かつ、透明性が高いことが重要である。従って、該支持体としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムが好適に使用される。また、本発明では、粘着シートの粘着層表面にて微生物を培養(分裂増殖)することから、粘着シートの支持体は微生物の培養(分裂増殖)に必要な酸素透過性を有することが必要であり、1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有するものが好ましく、3000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有するものがより好ましい。よって、かかる酸素透過性の観点から、上記例示のフィルムの中でも、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、酢酸セルロースフィルムが特に好ましい。なお、支持体の酸素透過性を向上させるためにフィルムを多孔質体(連続気孔構造の発泡体)にしてもよい。
【0015】
支持体の厚みは、支持体としての十分な強度があれば特に制限はないが、厚みが大き過ぎると、十分な酸素透過度性又は/及び透明性が得られにくくなるので、酸素透過性又は/及び透明性との兼ね合いから、支持体(フィルム)の厚みは5〜200μm程度が好ましく、より好ましく20〜100μm程度である。また、支持体の透明度は、可視光線透過率で表わすとして、30%以上であるのが好ましく、40%以上であるのがより好ましい。
【0016】
本発明で使用する粘着シートは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、粘着剤を含有する溶液を、剥離ライナーに塗布し乾燥させた後、得られた粘着層の表面に支持体用のフィルムを貼り合わせるか、又は粘着剤を含有する溶液を、支持体用のフィルムに直接塗付し乾燥させた後、得られた粘着層の表面に必要に応じて剥離ライナーを積層して、支持体及び粘着層を含むシート状原反を得、これを粘着シートの外枠の形状で打抜くことで製造することができる。なお、粘着層の形成は、カレンダー法、キャスティング法や押出し成形法などの方法を用いてもよい。
【0017】
本発明で使用する粘着シートは、メンブレンフィルターへ圧着するまで粘着層表面は剥離ライナーで保護されているのが好ましい。剥離ライナーの材質は、粘着シートの使用時に粘着層から容易に剥離できるものであれば特に限定されない。具体的には、粘着層との接触面を剥離処理した中実或いは多孔性のプラスチックシート(フィルム)、上質紙又はグラシン紙とプラスチックフィルム(例えば、ポリオレフィンフィルム)とのラミネートフィルム等が挙げられる。また、本発明で使用する粘着シートは、使用前は、滅菌した状態で細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持した形態をとるのが好ましい。なお、かかる滅菌処理には、EOG(エチレンオキサイドガス)法、電子線法、γ線法を用いるのが好ましい。即ち、粘着シートを細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持し得る形態とした後、電子線或いはγ線を照射する滅菌処理を施して、本発明の微生物捕集用粘着シートを流通に供するのが好ましい。この場合、電子線或いはγ線などの放射線の照射線量は、着色等の変性を防止しつつ十分な滅菌を達成するために、25〜50kGy程度が適当である。なお、かかる滅菌処理を前記した粘着剤(高分子化合物)の放射線照射による架橋処理と兼用することもできる。
【0018】
次に、本発明の微生物の計数検査方法について説明する。
本発明の微生物の計数検査方法は、水棲微生物の計数検査に好適であり、検査試料(水系サンプル)は、例えば、井戸水、ミネラルウオーター等の天然水、水道水、RO(Reverse Osmosis)水等の他、半導体製造用水等の種々の産業分野で使用される水が挙げられる。また、計数対象の微生物としては、例えば、大腸菌や大腸菌群などの食品検査対象菌や食中毒細菌(例えば、ブドウ球菌)および食品の腐敗にかかわる細菌、酵母やカビ等の真核生物(真菌)、下等藻類、ウイルス等が挙げられるが、本発明の微生物の計数検査方法は、特に細菌の計数検査に好適である。
【0019】
本発明の微生物の計数検査方法は、通常、以下の手順で行われる。
先ず、水系サンプル中の微生物をメンブレンフィルターで濾過し、メンブレンフィルター上に微生物を捕集する。
次に、粘着シートの粘着層表面をメンブレンフィルターに圧着して、メンブレンフィルター上に捕集した微生物を粘着シートの粘着層表面に転写して捕集する。
次に、粘着シートの微生物捕集面(粘着面)を培地に接触させて、適当な温度で培養して微生物を分裂増殖させ、マイクロコロニーを形成させる。
次に、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)を粘着シート越しに観察して、その数を計数する。
【0020】
本発明において、粘着シートの微生物捕集面(粘着面)を接触させる培地としては、例えば、標準寒天培地、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(SCD寒天培地)、SCDLP寒天培地、R2A培地(水質検査用)、マンニット食塩寒天培地(ブドウ球菌用)、デソキシコレーレート寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地、サブロー・ブドウ糖寒天培地等が挙げられる。
【0021】
本発明において、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)の観察(計数)は、粘着シート越しに行う。
また、肉眼で微生物(マイクロコロニー)を観察し、計数してもよいが、位相差顕微鏡などの顕微鏡もしくは顕微鏡以外の他の適当な光学機器を用いて、微生物(マイクロコロニー)の観察、計数を行うのが好ましく、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)の光学的画像を形成し、該光学的画像を画像解析して、微生物(マイクロコロニー)の数を計数するのが特に好ましい。こうすることで、より精度の高い計数検査を行うことができる。なお、顕微鏡以外の他の光学機器としては、例えば、微生物をレーザー光で高速スキャンニングし、個々の微生物から得られたシグナルをグラフィカル表示するレーザースキャンニングサイトメーター等が挙げられる。
【0022】
本発明の微生物の計数検査方法では、粘着シートが有する透明性及び粘着性とを利用して、水系サンプル中の増殖能を有する微生物を粘着シート上に捕集し、そのまま分裂増殖させて、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)を観察、計数することができるので、検査操作が簡便であり、また、上記のように、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)の計数を、光学機器を用いて形成した分裂増殖した微生物の光学的画像を画像解析することによって行うことにより、分裂増殖した微生物(マイクロコロニー)をより正確に計数することができる。
【0023】
本明細書中の物性、特性等の測定方法は次の通りである。
1.粘着剤表面の平滑度(表面粗さ)
電子顕微鏡で粘着シートの断面を観察して、粘着剤表面における最大高さ部(凸部の頂点)から最低高さ部(凹部の最底点)までの距離を測定する。この測定を粘着シートの縦横方向の断面において、数箇所ずつ計測し、これらの平均値を求めた。
【0024】
2.支持体の可視光線透過率
波長560nmにおける光透過率を分光光度計によって測定した。
【0025】
3.支持体の酸素透過度
透過セル及び酸素検出器を備えた酸素透湿度測定装置を用いて、透過酸素量を測定し、JIS K 7126に従って求めた。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0027】
実施例1
1)粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(仕込み重量比:65/30/5)にアゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として重合して得られたゲル分率が40%(w/w)の共重合物を含むトルエン溶液を得た。そして、該溶液を、下記の(a)〜(c)の3種類の透明プラスチックフィルム(基材)の片面に、乾燥後厚みが20μmとなるように塗布し、130℃で5分乾燥して粘着層を形成した。次いで、紙/ポリエチレンフィルムの積層フィルム(100μm厚)を剥離ライナーとして、粘着層の表面に貼り合わせて、粘着シートを得た。
(a)ポリエステルフィルム
厚み:25μm、酸素透過度:770mL/m/d/Mpa、可視光線透過率:86.3%
(b)ポリカーボネートフィルム
厚み:25μm、酸素透過度:39500mL/m/d/Mpa、可視光線透過率:89.8%
(c)酢酸セルロースフィルム
厚み:25μm、酸素透過度:3600mL/m/d/Mpa、可視光線透過率:92.1%
【0028】
2)細菌の捕集
上記1)で作製した粘着シートの粘着層の表面(初期値測定面)の剥離ライナーを剥がし、大腸菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルター(ポリカーボネート製、Whatman)に圧着した。また、これとは別に、上記1)で作製した粘着シートの粘着層の表面(初期値測定面)の剥離ライナーを剥がし、表皮ブドウ球菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルターに圧着した。
【0029】
3)粘着シートへの転写率
3-1) 上記2)を経てその粘着層表面に大腸菌が捕集された粘着シートの当該粘着層表面に、DAPI(4'6-diamino-2-phenylindole)を1mg/mL含有する染色液を滴下し、粘着面全面が染色液と接するようにして、染色を室温で3分間行い、その後染色液を洗浄除去した。次に、蛍光顕微鏡下、UV(359nm)で励起を行い、DAPI由来の青色蛍光(461nm)の輝点を1000倍の倍率で観察し、一視野あたりの菌数を計数し、10視野の平均値を求めた。また、同様にして、上記2)を経てその粘着層表面に表皮ブドウ球菌が捕集された粘着シートの粘着層表面における菌数の10視野の平均値を求めた。
3-2) 上記2)で使用した、大腸菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルター及び表皮ブドウ球菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルターのそれぞれの細菌捕集面における1視野当たりの菌数を、上記3-1)と同様の方法で計数した。
3-3) 上記3-2)で得たメンブレンフィルターの細菌捕集面における菌数(コントロール)と、上記3-1)で得た粘着シートの粘着層表面における菌数との比(転写率)を計算した。なお、代表例として、支持体にポリエステルフィルムを使用した粘着シートでのそれらの結果を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
4)粘着シートに捕集した菌の増殖
上記2)で細菌を転写捕集した粘着シートの粘着面をSCD寒天培地上に接触させ、37℃でインキュベー卜した。その際、定期的に粘着シート越しに細菌の増殖像を位相差顕微鏡で観察し、大きさと数を測定したところ、粘着シートの粘着層表面に転写捕集された細菌は増殖し、位相差顕微鏡で容易に観察することができた。また、支持体に酸素透過性の良好なポリカーボネートフィルムを用いた粘着シート及び支持体に酸素透過性の良好な酢酸セルロースを用いた粘着シートにおいて観察されたコロニーの数と大きさは、通常培養(コントロール)の場合と同様であった。図1はポリカーボネートフィルムを用いた粘着シートで表皮ブドウ球菌を培養した結果と、通常培養(コントロール)で表皮ブドウ球菌を培養した結果を示している。
【0032】
なお、「通常培養(コントロール)」とは、SCD寒天培地上に表皮ブドウ球菌を粘着シートと同一密度となるように塗沫し、37℃でインキュベートした。
コロニーの数と大きさの測定は位相差顕微鏡によって倍率400倍で観察、計数し、大きさは観察視野をCCDカメラで撮影し、画像解析を行って、直径の平均値を求めた。
【0033】
下記表2は粘着シートの支持体の種類及び酸素透過度と、6時間培養時のマイクロコロニー形成率((粘着シート上のコロニー数/コントロール培養のコロニー数)×100)(%)を示したもので、該表2から、酸素透過度が1000mL/m/d/Mpa以上の支持体を用いた粘着シート上で微生物(細菌)を培養することは、通常培養と同様に扱えるものであることが分かった。また、粘着シート越しに微生物(マイクロコロニー)を観察して計数することができ、その結果は信頼性の高いものであることがわかった。
【0034】
【表2】

【0035】
比較例1
大腸菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルターの大腸菌捕集面及び表皮ブドウ球菌の培養液をろ過捕集したメンブレンフィルターの表皮ブドウ球菌捕集面をSCD寒天培地上に接触させ、37℃でインキュベー卜した。こうして培養した後の大腸菌捕集面及び表皮ブドウ球菌捕集面は位相差顕微鏡では観察できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上の説明により明らかなように、本発明の微生物の計数検査方法によれば、水棲微生物のうちの増殖能を有する微生物を簡便かつ正確に計数できるので、例えば、ナチュラルミネラルウォーターや機能水等の飲料水中に含まれる細菌量の測定、医薬品や化粧品などの製造用水に含まれる細菌量の測定、RO水や超純水等の品質管理、病院やデイケアセンターにおける使用水の管理、河川や海岸等の環境水の調査等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の粘着シート上で表皮ブドウ球菌を培養したときのマイクロコロニー数の経時変化と、表皮ブドウ球菌を通常培養したときのマイクロコロニー数の経時変化とを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系サンプルをメンブレンフィルターでろ過して水系サンプル中の微生物をメンブレンフィルター上に捕集する工程と、
粘着シートの粘着層を前記メンブレンフィルターに圧着、剥離して、前記微生物を粘着シートの粘着層表面に転写して、捕集する工程と、
前記粘着シートの微生物捕集面を培地に接触させて、微生物を分裂増殖させる工程と、
粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程とを含む、微生物の計数検査方法。
【請求項2】
粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程が、光学機器を用いて分裂増殖した微生物の光学的画像を形成し、該光学的画像を画像解析して分裂増殖した微生物の数を計数する工程である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微生物が細菌又は真菌である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
粘着シートの支持体が1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
粘着シートの粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
粘着シートの支持体の可視光線透過率が30%以上である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
粘着シートの粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する支持体の片面に粘着層を設けた粘着シートであって、粘着層表面を微生物の捕集面として使用し、該粘着層表面に捕集した微生物を当該面上で分裂増殖をさせるものであることを特徴とする、微生物検査用粘着シート。
【請求項9】
粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、請求項8記載の粘着シート。
【請求項10】
粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、請求項8又は9記載の粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−230219(P2006−230219A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46019(P2005−46019)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】