説明

微生物付着用担体

【課題】簡単に製造でき、単位体積当りの繊維量が多く効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体の提供。
【解決手段】アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系重合体の繊維で構成された不織布から微生物付着用担体1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水などを生物処理する微生物を付着させる微生物付着用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭排水、工場廃水などの有機性排水の処理方法として、生物処理が有効であることが知られている。なかでも、活性汚泥法は最も広く採用されている。
活性汚泥法には、活性汚泥が投入された処理水槽中に担体が浸漬配置され、該担体の表面に活性汚泥に含まれる微生物を付着させ、付着した微生物により排水中の有機物などを分解する方法がある。ここで担体としては、繊維製品を利用したものが知られており、例えば特許文献1には、経糸と横糸とから基幹を構成し、さらにこの基幹に対して多数のU字形ループ状の横糸が設けられた形態の担体が記載されている。また、特許文献2には、経糸と横糸からなる織物を房状に加工した担体が記載されている。また、特許文献3には、ネット状の芯材に汚泥付着糸を沿わせて配した立体形状のものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3242363号公報
【特許文献2】特許第3167151号公報
【特許文献3】特許第3471310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載された形態の担体は、製造に手間がかかる。また、処理水槽に浸漬した場合における単位体積当りの繊維量が少なく、そのため付着する微生物量も限られ、効率的な生物処理が難しい。
また、特許文献3に記載のものは、特許文献1や2の担体に比較すると、単位体積当たりの繊維量は多いものの、その製造に非常に手間がかかる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単に製造でき、単位体積当りの繊維量が多く効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物付着用担体は、活性汚泥が投入された処理水槽内に浸漬配置され、前記活性汚泥中の微生物を付着させる微生物付着用担体であって、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系重合体の繊維で構成された不織布からなる。
前記不織布は、目付けが60〜1000g/mであることが好ましい。
前記不織布は、厚みが0.5〜30mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単に製造でき、単位体積当りの繊維量が多く効率的な生物処理が可能な微生物付着用担体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の微生物付着用担体を具備した担体ユニットの一例を示す平面図である。
【図2】図1の担体ユニットを備えた膜分離活性汚泥処理装置の一例を示す構成図である。
【図3】実施例において微生物付着用担体を処理水槽に浸漬した経過日数と、その際の質量増加との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の微生物付着用担体は、アクリル系重合体の繊維で構成された不織布からなるシート状のものであって、有機性排水などを生物処理する活性汚泥が投入された処理水槽内に浸漬配置され、活性汚泥中の微生物を付着させるものである。処理水槽としては、活性汚泥による生物処理のみが行われる活性汚泥槽の他、中空糸膜などの分離膜も浸漬され、生物処理とともに分離膜による膜処理も行われる膜分離活性汚泥槽などが挙げられる。
【0010】
アクリル系重合体としては、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するものが用いられる。このようなアクリル系重合体からなる繊維(アクリル繊維)は、他の繊維と比較して微生物付着性に優れているため、微生物付着用担体の材料として適している。
【0011】
なお、「アクリロニトリル単位を50質量%以上有する」とは、アクリル系重合体を製造する単量体中のアクリロニトリルの割合が50質量%以上であることを言う。
また、アクリロニトリル単位の好ましい上限は、97質量%である。
【0012】
アクリル系重合体は、アクリロニトリル単位を50質量%以上有するとともに、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体からなる単位を50質量%以下の範囲で有することができる。
アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、これらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。また、目的によっては、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタクリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ソーダなどのイオン性不飽和単量体をアクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体として用いることができる。
【0013】
アクリル系重合体の重合法は、特に限定されないが、例えば通常の懸濁重合法または溶液重合法を採用できる。
【0014】
不織布は、このようなアクリル系重合体の繊維により構成されるものであれば特に制限はないが、不織布には、微生物付着用担体としての処理水槽中での耐久性が求められるため、乾式法を経て製造された乾式不織布が好ましい。
乾式不織布は、巻縮のあるステープル繊維をカーディングおよび積層してウェブを形成し、このウェブを結着させたものである。ウェブの結着方法としては、繊維を不織布の表面になるべく多く露出させ得ることから、スパンレース法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法のなかから選択される方法が好ましい。
【0015】
製造された不織布には、必要に応じて、カレンダー加工、エンボス加工、起毛加工、熱プレスなどの任意の加工を施してもよい。
【0016】
不織布の目付けおよび厚みは、微生物付着用担体として浸漬した際の微生物の付着量や、強度、耐久性などと関係があり、処理水槽内の排水の水質、処理条件などに応じて調整できるが、目付けは、1m当たり60g以上であることが好ましい。目付けが60g以上であると、微生物付着用担体として膜分離活性汚泥槽に浸漬されて曝気などの物理的負荷が加わった場合などにも、充分な強度、耐久性を発揮することができるとともに、微生物を充分に付着させることができる。
一方、微生物は、不織布の表面に多く付着して保持されやすいため、目付けが高すぎると、不織布内部の繊維は微生物の付着には充分には利用されない。また、目付けが高すぎると、不織布に付着した汚泥や水分により、不織布の重量が増す。このような観点からは、1m当たりの目付けは1000g以下であることが好ましく、さらに不織布の加工性、微生物の付着の効率性の観点などを考慮すると、300g以下がより好ましい。
【0017】
不織布の厚みは、薄すぎると強度、耐久性が弱くなるとともに、微生物の付着量が不充分となる場合がある。また、厚すぎると加工性が低下し、例えば後述のように担体ユニットを製造する際などの加工がしにくくなる場合がある。よって、不織布の厚みは、0.5mm以上30mm以下が好ましく、加工性の観点からは、20mm以下がより好ましい。
【0018】
最も好ましい不織布は、1m当たりの目付けが100〜500g/mで、厚みが1〜10mmのものである。このような不織布であれば、充分に微生物を付着させることができ、強度、耐久性、加工性にも優れる。
【0019】
不織布の目付けを調整するためには、例えば、ローラーカードにて繊維のカーディングを行い、得られたカードウェブをパラレル状に所定の目付けになるまで折りたたんで積層すればよい。
また、不織布の厚みを調整するためには、上述のように積層されたものに対して、パンチ針によるニードルパンチを行うことにより、所定の厚みとなるようにすればよい。また、必要に応じて、得られた不織布を熱プレスするなどして、所定の厚みとなるようにさらに調整してもよい。
【0020】
このような不織布は、そのままシート状の微生物付着用担体として、活性汚泥槽、膜分離活性汚泥槽などの処理水槽に浸漬してもよいが、強度、耐久性を高めるために、基布と組み合わせた積層体の形態で浸漬してもよい。また、このように基布と積層する場合には、以上説明してきた不織布が表面に位置することが微生物付着の観点から好ましいため、2枚の不織布で基布を挟持した構成が好ましい。
【0021】
2枚の不織布に基布が挟持された積層体を製造する方法としては、まず、ローラーカードにより繊維のカーディングを行い、得られたカードウェブをパラレル状に折りたたみ積層させ、所望の目付けのウェブを得る。このようにして得られたウェブを2枚用意しこれらの間に基布を挟んだものに対して、パンチ針によるニードルパンチを行って、所望の厚みとすればよい。
基布としては、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維など、水や生物に対して難分解性な繊維を材質としたスパンボンド不織布や織物などが挙げられる。
【0022】
また、不織布からなる微生物付着用担体に対して、微生物付着用担体を支持する支持体を組み合わせた担体ユニットの形態として、微生物付着用担体を処理水槽内に浸漬配置してもよい。
担体ユニットとしては、例えば図1に示すように、四角形の不織布からなる微生物付着用担体1と、該微生物付着用担体1を処理水槽に浸漬配置した場合に、上端および下端となる端部に設けられた一対の長尺な支持体2とからなる担体ユニット3が挙げられる。また、不織布からなる微生物付着用担体に上述の基布を積層した積層体に対して、同様の支持体を設けて、担体ユニットとしてもよい。
【0023】
以上説明した微生物付着用担体は不織布からなるため、簡単に製造できる。また、単位体積当りの繊維量が多いため、処理水槽に浸漬配置した際の微生物の付着量も高くなり、効率的な生物処理を行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1〜3]
アクリル繊維として、三菱レイヨン社製のボンネル「H815BRE2.2T51」を使用し、この繊維に対してローラーカードにてカーディングを行い、得られたカードウェブをパラレル状に折りたたんで積層した。ついで、得られたウェブに対してパンチ針によるニードルパンチを行った。さらに、厚みを抑えるために、実施例3では熱プレスを施し、表1に示す目付け、厚みの各不織布を得た。
なお、不織布の目付けは、カードウェブをパラレル状に折りたたんで積層する際の層数により調整し、厚みは、ニードルパンチの条件と熱プレスの有無により調整した。
【0025】
【表1】

【0026】
ついで、図1に示すように、不織布からなる微生物付着用担体1に一対の支持体2を設けて担体ユニット3とし、この担体ユニット3を図2に示すように膜分離活性汚泥処理装置中の処理水槽(活性汚泥槽)10中に浸漬し、固定具4で固定した。
【0027】
図2に示す膜分離活性汚泥処理装置は、処理水槽10と、処理水槽10内に浸漬配置された膜ユニット20と、膜ユニット20に対して散気する散気装置30と、膜ユニット20に接続された濾過ポンプ40と、濾過ポンプ40および散気装置30の運転をコントロールする制御装置50と、被処理原水を処理水槽10に供給する供給ライン60とを備えている。
処理水槽10の活性汚泥濃度は、固形分濃度MLSSが8,000〜10,000mg/Lの間になるように制御した。また、処理水槽10中の溶存酸素濃度(DO)は、0.5〜1.0mg/Lの間になるように散気量を制御した。被処理原水としては、生物学的酸素要求量(BOD)の濃度が、150〜200mg/Lである生活排水を用い、この原水を、処理水槽10内の水力学的滞留時間が3時間となるように供給し、上記条件にて3ヶ月間馴致した。
その後、馴致した処理水槽10の活性汚泥中に、担体ユニット3を浸漬し、上述のように固定した。
【0028】
浸漬後、所定日数の経過毎に、担体ユニット3を処理水槽10から取り出し、その質量を測定した。図3のグラフに、経過日数と、質量増加との関係を示す。
質量増加は、浸漬後の担体ユニット3の質量から、浸漬前の担体ユニット3の質量を引いて得られた値を微生物付着用担体(不織布)1の面積で割り、単位面積当たり(1cm当たり)の値に換算したものである。質量増加は、活性汚泥の付着量に相当する。
【0029】
図3に示すように、各例の微生物付着用担体は、経過日数とともに質量が増加し、良好に微生物が付着していることが理解できた。
また、不織布の目付けを60g/m以上とした実施例1および2においては、さらに質量増加、すなわち微生物の付着量も増加した。
【符号の説明】
【0030】
1 微生物付着用担体(不織布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥が投入された処理水槽内に浸漬配置され、前記活性汚泥中の微生物を付着させる微生物付着用担体であって、
アクリロニトリル単位を50質量%以上有するアクリル系重合体の繊維で構成された不織布からなる微生物付着用担体。
【請求項2】
前記不織布は、目付けが60〜1000g/mである、請求項1に記載の微生物付着用担体。
【請求項3】
前記不織布は、厚みが0.5〜30mmである、請求項1または2に記載の微生物付着用担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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