説明

微生物発電方法および微生物発電装置

【課題】微生物発電の発電効率を高くする。
【解決手段】有機物を電子供与体として微生物反応により酸化分解して発電する微生物発電装置1について、アノード室11内の液のpHを7以上9以下に維持する。アノード室11には負極として機能する導電体21を配置し、導電体21表面に微生物を保持して微生物反応による酸化分解を行わせて電子を取り出す。アノード室11は複数の分室に分割し、各分室内での有機物分解量を少なくしてpHの低下を抑制してもよい。アノード室11を分割する場合、各分室から流出する液のpHを調整して後段側の分室に送るとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法および装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
【0003】
一般的に、微生物発電では負極が配置されたアノード室内に、微生物、微生物に資化される有機物、および電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は正極と電気的に導通されており、負極に渡された電子は正極に移動して、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が生じ、電気エネルギーが得られる。
【0004】
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、および微生物種の選択等について様々な検討および開発が行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0005】
また、非特許文献1には高濃度のリン酸バッファを添加した液をアノード室に供給する微生物発電方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−133326号公報
【特許文献2】特開2004−342412号公報
【非特許文献1】P. Aelterman er al.,2006 ENVIRONMENTAL SCIENCE & TECHNOLOGY vol.40, No.10 3388-3394
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した通り、微生物発電の発電効率を向上させるために様々な要素について検討が行われているが、発電効率に影響を与える要素については未解明な点も多い。非特許文献1では、アノード室に供給される液に高濃度のリン酸バッファを添加することで、アノード室内での反応に伴うpH変化を最小限に抑制することを意図する。しかし、本発明者らが検討したところ、発電効率が高くなるとアノード室でのpH低下が著しくなり、発電効率が低下することが判明した。このため、高い発電効率を得ようとする場合、バッファの添加量が少なければpH変化を抑制しきれず発電効率の低下を招く一方、バッファによりpHの変化を抑制しようとすると多量のバッファの添加が必要で高コストとなり実用的でないことが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アノード室内でのpH低下が微生物反応に伴う炭酸ガスの発生に起因しており、pHを所定範囲に維持することで微生物発電の発電効率を高くできることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 微生物および電子供与体を含む液を保持するアノード室において前記微生物の生物反応により前記電子供与体から電子を取り出し、前記アノード室に配置された負極から、前記負極と電気的に接続された正極に接する電子受容体に前記電子を供与して発電する微生物発電方法であって、
前記アノード室内の液のpHを7以上9以下にする微生物発電方法。
(2) 前記アノード室内の液または/および前記アノード室から流出する流出液のpHを測定して、前記液のpHを7以上9以下に調整する(1)に記載の微生物発電方法。
(3) 前記アノード室を、2以上の互いに直列接続された分室に分け、
直列接続された一対の前記分室の一方であって前記原液の流入口に近い前段分室に流入する液のpHを7以上9以下に調整し、
前記前段分室から流出する液のpHを上げた後、前記2分室の他方である後段分室に供給する(1)または(2)に記載の微生物発電方法。
(4) 前記前段分室から流出する液を脱気するまたは/および前記液にアルカリを添加することによりpHを上げる(3)に記載の微生物発電方法。
(5) 微生物および電子供与体を含む液を保持し負極が配置されたアノード室と、前記負極と電気的に接続された正極と、を含み、前記微生物の生物反応により前記電子供与体から取り出された電子を、前記負極から前記正極に送り発電する微生物発電装置であって、
前記アノード室内の前記液のpHを7以上9以下に維持するpH調整手段をさらに含む微生物発電装置。
(6) 前記アノード室は、2以上の互いに直列接続された分室を有し、
前記分室はそれぞれ、当該分室から流出する液のpHが7以上となる大きさに設定されている(5)に記載の微生物発電装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物発電の発電効率を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。以下の図において、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。図面は発明の構成を模式的に示すものであり、構成の一部を省略または簡略化しており、寸法も実際の装置とは必ずしも同一ではない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る微生物発電装置1の概要を示す斜視図である。図2は発電装置1のX−X線での切断面模式図、図3はY−Y線での切断面模式図である。発電装置1は、2つのアノード室11の間に1つのカソード室12を配置した構成とされている。アノード室11とカソード室12の間には、非導電膜15が配置されている。
【0013】
非導電膜15としては、プロトン選択性の高いカチオン透過膜を好適に使用でき、例えばデュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)等が使用できる。非導電膜15は、薄くて丈夫であることが好ましい。
【0014】
本実施形態では2つのアノード室11はそれぞれ3分割され、第1アノード分室11A、第2アノード分室11B、および第3アノード分室11Cを有する略直方体状である。第1アノード分室11A、第2アノード分室11B、および第3アノード分室11Cはこの順に直列接続されている。各アノード分室11A〜Cはそれぞれ略直方体状であり、対向する一対の壁面の一方に流入口111を有し、他方に流出口112を有する。隣接する一対のアノード分室の前段側の分室の流出口は、後段側の分室の流入口を兼ねている。具体的にはここでは、第1アノード分室11Aの流出口は第2アノード分室11Bの流入口を兼ね、第2アノード分室11Bの流出口は第3アノード分室11Cの流入口を兼ねている。
【0015】
各アノード分室11A〜C内には導電体21が充填され、導電体21表面には従属栄養微生物が保持されている。アノード室11には、電子供与体として微生物により酸化分解され電子が取り出される有機物(例えば酢酸)を含む液が原液として供給される。原液は、第1アノード分室11Aの流入口111を流入口としてアノード室11内に供給される。アノード室11内の液は、第3アノード分室11Cの流出口112を流出口としてアノード室11から排出される。
【0016】
微生物および有機物は特に限定されない。アノード室11内での微生物反応は嫌気的条件で行うが、アノード室11に保持される微生物種は特に限定されない。アノード室11には、下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として供給し、微生物を保持させることができる。また、発電効率を高くするためには、アノード室11内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1g/L以上であることが好ましい。さらに、アノード室11での微生物反応により酸化分解される電子供与体(有機物)もある程度、濃度が高い方が発電効率を高くできるため、アノード室11に供給する流入液の有機物濃度は100〜10,000mg/L程度が好ましい。
【0017】
有機物は、微生物により酸化され、その際に発生する電子は導電体21を負極としてアノード室11外へ取り出される。導電体21は負極として機能するよう、導電性の炭素材(例えばグラファイト)で構成されている。導電体21は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシート、および導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。複数のシート状導電体を積層して負極用の導電体21とする場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。負極用の導電体21は全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5〜20mm程度で、であることが好ましい。
【0018】
本実施形態では図2に示すように厚さ1cmのグラファイトフェルト4枚を導電性ペーストで張り合わせて負極として機能する導電体21とする。各アノード室11には、この導電体21が一つずつ配置されている。導電体21を構成する4枚のグラファイトフェルト21A〜Dは、流入口と流出口とが設けられた一対の壁面に対して並列に並んで壁面と直交するように配置されている。よって、流入口から供給された液は、各グラファイトフェルトの表面を伝うように向かい合うグラファイトフェルト同士の間を流れる。各グラファイトフェルト21A〜D表面には、微生物が保持されている。微生物は、各アノード分室11A〜Cにおいて、流入口から供給され流出口から流出する液中に含まれる有機物を電子供与体とする微生物反応を担う。
【0019】
微生物による有機物の酸化分解により得られた電子を取り出すため、各グラファイトフェルト21A〜21Dには、アノード引き出し線23が接続されている。アノード引き出し線23は、金属線等の導電性材料で構成される。各アノード分室11A〜Cの導電体に接続されたアノード引き出し線同士は1本の導通線17に接続されている。
【0020】
導通線17は、カソード室12に設けられ正極として機能する導電体22と接続され、負極と正極とが導通される。正極として用いられる導電体22は、電子受容体の種類によって適宜、選択すればよい。例えば、酸素を電子受容体とする場合は白金を用いることが好ましく、例えばグラファイトフェルトを基材として白金を坦持させて導電体22とできる。電子受容体とする物質の種類によっては安価なグラファイト電極をそのまま(つまり、白金を担持させずに)正極として使用してもよい。導電体22にはカソード引き出し線24が接続され、カソード引き出し線24は導通線17に接続されている
【0021】
ここでは、カソード室12には電子受容体としてヘキサシアノ酸鉄(II)カリウム(フェリシアン化カリウム)を含む液(正極溶液)を供給することとし、正極として機能する導電体22として、グラファイトフェルトを使用している。電子受容体としては他にマンガン、鉄、および硝酸等を用いてもよく、この場合もカソードとしてはグラファイトフェルトのような多孔性のグラファイトを使用するとよい。
【0022】
非導電膜15を介してアノード室11からHを移動させてカソード室12で還元する場合、カソード室12内の導電体22が非導電膜15とできるだけ、密に接していることが好ましい。そこで、両者をスペーサで挟んで密着させてもよく、溶着や接着剤等を用いて接着してもよい。カソード室12での還元反応は、微生物反応を利用して行ってもよいが、微生物を利用しない場合は、カソード室12に微生物を保持する必要がない。このため、カソード室12内の導電体22と非導電膜15とを密着させることで、アノード室11からのHの移動とカソード室12での還元を促進できる。
【0023】
一方、アノード室11の導電体21は表面に微生物を保持し、非導電膜15と導電体21との間にも微生物を存在させるため、接着は避ける方が好ましい。しかし、非導電膜15と導電体21との間は導電体21表面に付着した微生物を挟んでできるだけ密に接触するように配置することが好ましい。例えば、両者を締付け部材で挟んだりスペーサを挿入したりして、軽い(0.1〜100g/cm程度、好ましくは0.1〜10g/cm程度の)圧力がかかった状態で両者の全面が互いに接触するようにし、非導電膜15と導電体21との間に1〜2層の微生物層が形成されるようにするとよい。このとき、導電体21として多孔性で通水可能な材料を用いることで、導電体(アノード)を通って微生物層に有機物が供給されるようにするとよい。このように、表面積が大きい導電体21と非導電膜15とを軽い圧力下で接触させて微生物層を両者間に形成させて微生物反応を行わせるようにすれば、微生物は電子を直接、負極に渡すと推定され、電子メディエータを不要とすることができる。
【0024】
本発明では、上記のような発電装置1を用い、アノード室11で微生物により有機物を酸化分解させる際、アノード室11内の液のpHが7以上9以下に維持されるよう、pH調整を行う。
【0025】
pH調整の手段は特に限定されない。例えば、アノード室内の液またはアノード室からの流出液のpHを測定し、この測定値が7以上9以下となるようにpH調整剤(特にアルカリ)を添加する方法が挙げられる。アルカリは、アノード室に供給される原液、アノード室内の液、およびアノード室内から排出され循環される循環液のいずれに添加してもよい。
【0026】
ただし、アノード室内では、液の緩衝能力と有機物濃度および有機物分解量の3要素の関係によってpHが変化し、例えば液の緩衝能力が低い一方で有機物濃度が高く分解量が大きければ、流入液のpHを上限の9にしていても流出液のpHが7を下回りうる。液の緩衝能力を高めるためにバッファを多量に添加すれば、この問題は回避可能であるが、バッファの添加コストがかさむ。
【0027】
このため、原液のpHを上限値に調整するよりは、アノード室内の液または循環液のpH調整を行う方が好ましく、特に循環液のpHを調整することが好ましい。循環液のpH調整を行う方法としては、アルカリを添加してもよいし、アノード室からの流出液をアノード室に循環させる循環路の途中に脱気装置を設けて脱炭酸処理をすることでpHを高くしてもよい。
【0028】
また、図1に示す発電装置1のように、アノード室11を2以上の分室に分割して、これらを直列接続してもよい。アノード室11を分割すれば、各分室での有機物分解量が小さくなるため、炭酸ガスの生成量も小さくなり、各分室でのpH低下を少なくできる。分割する数はアノード室11に流入させる原液の有機物濃度によって変えればよく、各分室から流出する液のpHが7を下回らないような大きさとなるように分割すればよい。例えば、原液のアルカリ度が100mg/L(CaCOとして)であれば、10〜20程度に分割すればよい。また、原液のアルカリ度が200mg/Lであれば、5〜10程度に分割すればよい。
【0029】
各分室は直列接続し、原液が分割された各分室を順次、流れるようにする。例えば図1の発電装置1では、互いに隣接する一対の分室である第1アノード分室11Aと第2アノード分室11Bのうち、原液が供給される流入口(第1アノード分室11Aの流入口111)に近い側である第1アノード分室11Aから第2アノード分室11Bに向かって液が流れる。
【0030】
このようにアノード室11を分割する場合は、各分室について、その排出口からの流出液のpHを上げて次の分室に流入させるとよい。例えば、図では示していないが各分室を連通路で接続し、前段側分室(例えば第1アノード分室11A)から流出する液のpHを測定し、これにアルカリを添加するか、脱炭酸処理を施してpHを上げてから次の分室(例えば第2アノード分室11B)に送るようにするとよい。
【0031】
上記方法によってアノード室11内の液のpHが7以上9以下を維持するようにpH調整した状態でアノード室11において微生物反応による有機物(電子供与体)の酸化反応を進める。電子供与体として酢酸を用いる場合であれば、下記化学式に示す反応により二酸化炭素、H、および電子が生成される。
[化学式1]
CHCOOH+2HO→2CO+8H+8e
【0032】
生成されたHは、カチオンを透過させる非導電膜15を通ってカソード室12に移動させる。電子は負極として機能する導電体21から取り出され、アノード引き出し線23と導通線17とを介して導電体22側に送られる。この過程で導電体21(負極)と導電体22(正極)との間には電流が流れ、発電することができる。
【0033】
本実施形態ではカソード室12にフェリシアン化カリウムを含む正極溶液を供給して下記化学式による還元反応を行い、アノード室11で生成された電子を消費させる。
[化学式2]
8Fe(CN)3−+8e+8H→8FeH(CN)3−
【0034】
なお、正極として例えば白金を使用するような場合であれば、下記化学式による還元反応を行わせることもできる。
[化学式3]
2O+8H+8e→4H
【実施例】
【0035】
[試験例1]
試験用の発電装置として図4に示す微生物発電装置2を作成した。発電装置2は、2つの正極用導電体22で1つの負極用導電体21を挟む構成とし、全体で容積700mL、アノード室11の容積は700mL、各カソード室12の容積は175mLとした。発電装置2には、アノード室11からの排出液を循環させる循環槽を備える循環路30を設け、循環路を流れる液のpHを測定するpH測定器を設けた。また、循環路には2Nの水酸化ナトリウムを添加できるようにし、これをpH調整手段31とした。
【0036】
導電体21は、発電装置1と同様に厚さ1cmのグラファイトフェルト(東洋カーボン株式会社製)4枚を導電性接着剤で張り合わせて構成した。各グラファイトフェルトは大きさが250mm×70mmの長方形状であり、両表面は粗面である。なお、図4では各グラファイトフェルトについては図示を省略しているが、導電体21は図に示すようにアノード室11内全体に充填され、アノード室11内には空間が実質的に存在しない。すなわちアノード室11に供給された液は多孔性の導電体21を通るようにされており、導電体21内を通らずにアノード室11を通過すること(ショートパス)が実質的にないよう構成されている。アノード室11には種菌として下水処理場の生物処理槽から採取した活性汚泥を添加して培養し各グラファイトフェルト表面に微生物を付着させた。これにより、アノード室11内には4層のグラファイトフェルト層と5層の微生物層とが形成され、アノード11室内の微生物濃度は約2,200mg/Lであった。
【0037】
一方、正極用の導電体22はそれぞれ、厚さ3mmのグラファイトフェルト1枚で構成した。正極用の導電体22は、厚さが異なる以外は負極用のグラファイトフェルトと同様の構成であり、両表面は粗面である。
【0038】
負極用の導電体21と正極用の導電体22の間には非導電膜15としてカチオン透過膜(デュポン株式会社製 商品名「ナフィオン」)を配置した。導電体22と非導電膜15とはスペーサ(図示せず)で挟んで互いに密着させた。カソード室12には、導電体22の表面のうち非導電膜15と接する側と反対側に、正極溶液が通液される液室26を設けた。液室には、電子受容体として50mMのフェリシアン化カリウムとリン酸バッファとを含む正極溶液を70mL/minの流入量となるように供給した。一方、アノード室11には、1,000mg/Lの濃度の酢酸と、50mMの濃度のリン酸バッファ、および塩化アンモニウムとを含む原液を70mL/minの流入量で供給した。
【0039】
導電体21にはアノード引き出し線23を接続し、導電体22にはカソード引き出し線24を接続し、アノード引き出し線23とカソード引き出し線24とは導通線17で導通させた。アノード引き出し線23、カソード引き出し線24、および導通線17はステンレス製針金で構成した。
【0040】
上記条件で循環液に対する水酸化ナトリウムの添加量を変え、アノード室11内の液のpHと発電量の関係を求めた。結果を図5に示す。図中、発電効率はアノードの単位容積あたりの発電量として示す。図5に示すように、アノード室11からの流出液のpHが7を下回ると、発電効率が急激に低下することが判明した。同様に、アノード室11からの流出液がpH9を上回る場合も発電効率が急激に低下した。
【0041】
[実施例1]
上記試験より、アノード室11内の液のpHが発電効率に影響することが示された。そこで、実施例1として、試験例1で用いた装置の循環路に、水酸化ナトリウムを自動添加してアノード室11からの流出液のpHが7.5を維持するようにした。このとき、アノード室11に循環流入させる循環液はpH8.2とした。発電装置2に供給した原液および正極溶液の組成、濃度、供給量等のその他の条件については、試験例1と同様とした。
【0042】
実施例1では、アノード室11から流出した流出液の炭酸濃度は、無機炭酸(IC)として340mg/Lであった。また、アノードの単位容積あたり580W/mの電力が得られた。
【0043】
[実施例2]
実施例2として、循環液に対するアルカリ添加をやめ、代わりに循環路の途中に設置した循環槽に脱気膜(CELGARD社製、リキセル脱気モジュール 直径1inch×長さ5.5inch)を設置しpH調整手段31とした。このモジュール内部を真空ポンプで減圧することで循環液中の炭酸ガスを脱気した。その他の条件は実施例1と同様にした。その結果、循環液のpHを8.0に維持することができ、アノード室11からの流出液のpHは7.2、アノードの単位容積あたりに得られた発電量は572W/mであった。
【0044】
[実施例3]
実施例3として、循環路の途中に設置した循環槽に脱気膜を設ける代わりに窒素脱気装置を設けpH調整手段31とし、循環液中の炭酸ガスを脱気した。その他の条件は実施例2と同様にした。その結果、循環液のpHを7.9に維持することができ、アノード室11からの流出液のpHは7.1、アノードの単位容積あたりに得られた発電量は566W/mであった。
【0045】
[実施例4]
実施例4では、図1に示す装置を模した発電装置1で実験した。発電装置1のアノード室は4分割し、各分室を配管で接続した各配管には内部を流れる液のpHを測定するためにpH計を設けるとともにアルカリを添加するアルカリ注入管を接続した。アノード室11に供給する原液のpHを8.0とし、第1アノード分室から順次、後段側分室に通液する際、各分室から流出する液のpHを測定し、この値が7.0以上となるように適宜、アルカリを添加したアノード室を分割し、各分室管を流れる液のpHを調整するようにした他は実施例1と同様の条件で試験をしたところ、アノード室11からの流出液のpHは7.0、アノードの単位容積あたりに得られた発電量は556W/mとなった。
【0046】
上述した通り、本発明によれば、微生物を利用して高い発電効率で発電できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、微生物を利用した発電に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の全体模式図。
【図2】前記微生物発電装置のX−X線での断面図。
【図3】前記微生物発電装置のY−Y線での断面図。
【図4】試験に用いた微生物発電装置の構成図。
【図5】試験結果を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0049】
1、2 微生物発電装置
11 アノード室
11A〜C アノード分室
12 カソード室
15 非導電膜
17 導通線
21 導電体(アノード)
22 導電体(カソード)
23 アノード引き出し線
24 カソード引き出し線
30 循環路
31 pH調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物および電子供与体を含む液を保持するアノード室において前記微生物の生物反応により前記電子供与体から電子を取り出し、前記アノード室に配置された負極から、前記負極と電気的に接続された正極に接する電子受容体に前記電子を供与して発電する微生物発電方法であって、
前記アノード室内の液のpHを7以上9以下にする微生物発電方法。
【請求項2】
前記アノード室内の液または/および前記アノード室から流出する流出液のpHを測定して、前記液のpHを7以上9以下に調整する請求項1に記載の微生物発電方法。
【請求項3】
前記アノード室を、2以上の互いに直列接続された分室に分け、
直列接続された一対の前記分室の一方であって前記原液の流入口に近い前段分室に流入する液のpHを7以上9以下に調整し、
前記前段分室から流出する液のpHを上げた後、前記2分室の他方である後段分室に供給する請求項1または2に記載の微生物発電方法。
【請求項4】
前記前段分室から流出する液を脱気するまたは/および前記液にアルカリを添加することによりpHを上げる請求項3に記載の微生物発電方法。
【請求項5】
微生物および電子供与体を含む液を保持し負極が配置されたアノード室と、前記負極と電気的に接続された正極と、を含み、前記微生物の生物反応により前記電子供与体から取り出された電子を、前記負極から前記正極に送り発電する微生物発電装置であって、
前記アノード室内の前記液のpHを7以上9以下に維持するpH調整手段をさらに含む微生物発電装置。
【請求項6】
前記アノード室は、2以上の互いに直列接続された分室を有し、
前記分室はそれぞれ、当該分室から流出する液のpHが7以上となる大きさに設定されている請求項5に記載の微生物発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−152097(P2009−152097A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329776(P2007−329776)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】