説明

微生物発電装置

【課題】単位体積当りの発電量が多い微生物発電装置を提供する。
【解決手段】微生物発電装置20,20Aの1対のエンドプレート30,30の間に4枚のアニオン交換膜31が互いに平行に配置されることにより、左から1番目及び2番目の該アニオン交換膜31,31同士と左から3番目及び4番目のアニオン交換膜31,31同士の間にそれぞれ負極室32が形成されている。左から1番目のアニオン交換膜と左側エンドプレート30との間、左から4番目のアニオン交換膜と右側エンドプレート30との間、及び、左から2番目及び3番目のアニオン交換膜同士の間にそれぞれ正極室33が形成されている。正極室33に酸素含有ガスを流通させる。この微生物発電ユニット20,20Aを上下左右に配列して微生物発電装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電装置に係り、特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電装置に関する。本発明は、特に、単位セルを複数個積層した微生物発電ユニットを複数個備えた微生物発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
【0003】
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、及び電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
【0004】
この多孔質体には、エアーカソードの電極反応促進用の触媒として、二酸化マンガン、白金等が担持されている。
【0005】
特許文献1には、円筒状のアノードの外周に円筒状の電解質膜を設け、さらにその外周に円筒状に多孔質カソードを設けて三層筒状体とし、この三層筒状体の内孔にグルコース水溶液等を流通させ、三層筒状体の外周に空気を流通させる微生物発電装置が記載されている。
【0006】
この特許文献1の図2には、この三層筒状体を空気室内に複数本並列設置した微生物発電装置が記載されている。
【特許文献1】特開2005−317520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように筒状体の内部にグルコース水溶液を流通させ、外周に空気を流通させる筒状単位セルを並列設置した微生物発電装置では、微生物発電装置の単位体積に対する筒状体の周面の面積の比率が小さく、微生物発電装置の単位体積当りの発電量が小さい。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、単位体積当りの発電量が多い微生物発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の微生物発電装置は、平板状の負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対し平板状のイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する平板状の正極を備えた正極室と、を有する単位セルが複数個積層された微生物発電ユニットを複数個備えた微生物発電装置であって、該微生物発電ユニットが水平方向に複数個並列設置されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の微生物発電装置は、請求項1において、各単位セルは、その負極及び正極の板面が上下方向となるように設置されており、正極室には酸素含有ガスが下向流にて通気され、負極室には負極液が上向流にて通水されるよう構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の微生物発電装置は、請求項1又は2において、前記微生物発電ユニットが上下多段に設置されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の微生物発電装置は、請求項3において、上下方向に配列された微生物発電ユニットの列が複数個並列に設置され、各段の微生物発電ユニットがいずれも同一高さに設置されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の微生物発電装置は、請求項4において、同一の列に属する微生物発電ユニットについては、酸素含有ガスが上側の微生物発電ユニットから順次に下段側の微生物発電ユニットに通気され、負極液が下側の微生物発電ユニットから順次に上段側の微生物発電ユニットに通水されるよう構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の微生物発電装置は、請求項5において、同一の段に属する微生物発電ユニット同士が電気的に直列に接続され、異なる段の微生物発電ユニットが並列に接続されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の微生物発電装置は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記微生物発電ユニットは直方体状であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微生物発電装置は、平板状の正極を有した正極室と平板状の負極を有した負極室とからなる単位セルを複数個積層した微生物発電ユニットを、水平方向に複数個並列設置したものである。各正極室及び負極室が平板状となっており、微生物発電ユニットを直方体状とすることができる。従って、円筒状の正極及び負極を有した従来例に比べ、装置全体としてコンパクト化される。しかも、微生物発電装置の単位体積当りの負極液と負極との接触面積が大きく、また、酸素含有ガスと正極との接触面積も大きい。そのため、微生物発電装置の単位体積当りの発電量を多くすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の微生物発電装置の実施の形態を詳細に説明する。この微生物発電装置は、単位セル1を複数個積層した微生物発電ユニット20を上下左右に多段、多列に配列したものである。
【0018】
[単位セル]
まず、第3図を参照して、本発明の微生物発電装置の単位セルによる発電の原理について説明する。なお、第3図はこの単位セルの概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0019】
単位セル1内は、イオン透過性非導電性膜としての平板状のアニオン交換膜2によって平板状の正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内にあっては、アニオン交換膜2に接するように、平板状の正極5が設けられている。この正極5にはMnO等の触媒が担持されている。
【0020】
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる平板状の負極6が配置されている。この負極6は、アニオン交換膜2に直に、又は1〜2層程度の微生物の膜を介して接している。
【0021】
正極室3内の正極5以外は、ガス流通スペースであり、ガス流入口7から空気などの酸素含有ガスが導入され、ガス流出口8から排ガスが流出する。
【0022】
多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には下部の流入口4aから負極溶液を導入し、上部の流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
【0023】
負極室4内の負極溶液は上部の循環往口9、循環用ポンプ11を有した循環配管10、及び下部の循環戻口12を介して循環される。この循環配管10には、負極室4から流出してきた液のpHを測定するpH計14が設けられると共に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ添加用配管13が接続されている。
【0024】
流入口4a及び循環戻口12を下部に配置し、流出口4b及び循環往口9を上部に配置しているので、負極室4内の負極溶液は上向流にて通水される。これにより、負極室4内は、下降流にて通水する場合に比べて偏流が少ないものとなる。
【0025】
正極室3に酸素含有ガスを通気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液を循環させることにより、負極室4内では、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子16、外部抵抗17、端子18を経て正極5へ流れる。
【0026】
正極室3では、
O+O+2e → 2OH
の電子消費反応が進行する。
【0027】
なお、正極5に二酸化マンガンが担持されている場合には、正極室3では、
MnO+2HO+2e → Mn2++4OH
Mn2++O+HO → MnO+2H
+OH → H
の反応が進行し、電極反応が促進される。この正極電極反応で水が生じるが、正極室3内にガスを図のように下降流にて流すことにより、凝縮水を正極室3の下部のガス流出口8から排出することができる。
【0028】
正極室3内のOHはアニオン交換膜2を透過して負極室へ移動し、Hと反応してHOとなる。
【0029】
負極室4では、微生物による水の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計14の検出pHが好ましくは7〜9となるようにアルカリが負極溶液に添加される。このアルカリは、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。
【0030】
[微生物発電ユニット]
次に、第4図を参照して微生物発電ユニットによる発電の原理を説明する。なお、第4図はこの微生物発電ユニットの模式的な断面図である。この微生物発電ユニットは、第3図に示した単位セルを複数個(第1図では2個)積層し、両端にエンドプレートを配置し、積層方向の両末端に正極室を配置したものである。
【0031】
1対のエンドプレート30,30の間に4枚のアニオン交換膜31が互いに平行に配置されることにより、左から1番目及び2番目の該アニオン交換膜31,31同士と左から3番目及び4番目のアニオン交換膜31,31同士の間にそれぞれ負極室32が形成されている。左から1番目のアニオン交換膜と左側エンドプレート30との間、左から4番目のアニオン交換膜と右側エンドプレート30との間、及び、左から2番目及び3番目のアニオン交換膜同士の間にそれぞれ正極室33が形成されている。
【0032】
負極室32内には、各アニオン交換膜31と直に、又は1層〜2層程度の生物膜を介して接するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、アニオン交換膜31に対し軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられるのが好ましい。
【0033】
正極室33内には、アニオン交換膜31と接して正極35が配置されている。この正極35は、パッキン36に押圧されてアニオン交換膜31に押し付けられている。正極35とアニオン交換膜31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、接着剤で接着してもよい。
【0034】
左から1番目及び4番目の正極35と各エンドプレート30との間は、酸素含有ガスの流通スペースとなっている。また、左から2番目及び3番目の正極35,35同士の間も酸素含有ガスの流通スペースとなっている。
【0035】
この正極35及び負極34は、正負の各出力端子37,39に接続されている。
【0036】
負極室32には、負極溶液の給液ライン61を介して、流入口32aから負極溶液が導入され、負極室32内を上向流にて通水され、流出口32bから廃液が廃液ライン62へ流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
【0037】
各負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。この循環配管42に、pH計47が設けられると共に、アルカリ添加用配管45が接続されている。負極室32から流出する負極溶液のpHをpH計47で検出し、このpHが好ましくは7〜9となるように水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリが添加される。
【0038】
各正極室33には、空気、ライン71を介してガス流入口51から空気が流入し、正極室33内を下降流にて流れ、排ガスが正極室33下部のガス流出口52から廃空気ライン72へ流出する。
【0039】
この第4図の微生物発電ユニット20においても、正極室33に酸素含有ガスを流通させ、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、発電が行われる。
【0040】
この実施の形態では、正極35、負極34及びアニオン交換膜31がいずれも平板状であり、酸素含有ガスと正極35との接触効率及び負極34と負極溶液との接触効率がいずれも高い。また、正極室33及び負極室32は、いずれも酸素含有ガスや負極溶液が流通する程度の厚みの小さいもので足りる。
【0041】
なお、第4図では負極室32が正極室33に比べて相当に厚く図示されているが、これは図面を明瞭とするために模式的に描いたためであり、実際には、次に説明する第5図の通り、負極室32も十分に厚みの小さいものである。従って、微生物発電装置の単位体積当りの発電効率が高い。
【0042】
次に、第5図を参照して微生物発電ユニット20の積層構造について説明する。
【0043】
正極室33は、方形枠状の正極室フレーム33Fによって囲まれ、負極室32は方形枠状の負極室フレーム32Fによって囲まれている。第2図の左側からエンドプレート(左側)30、正極室フレーム33F、アニオン交換膜31、負極室フレーム32F、アニオン交換膜31、正極室フレーム33F、アニオン交換膜31、負極室フレーム32F、アニオン交換膜31、正極室フレーム33F及びエンドプレート(右側)30がこの順に積層されている。エンドプレート30(左側)と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31の上部にはそれぞれ空気ライン71を形成するための孔73が設けられている。
【0044】
正極室フレーム33Fにあっては、この孔73と正極室33内を連通するように流入口51が設けられている。エンドプレート30(左側)と各フレーム33F、32F、及びアニオン交換膜31の下部には、それぞれ廃空気ライン72を形成するための孔74が設けられている。正極室フレーム33Fにあっては、この孔74と正極室33内を連通するように流出口52が設けられている。
【0045】
エンドプレート(左側)30と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31の下部には、負極溶液の給液ライン61を構成するための孔63が設けられている。負極室フレーム32Fにあっては、この孔63と負極室32内とを連通するように流入口32aが設けられている。
【0046】
エンドプレート(左側)30と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31の上部には、負極溶液の廃液ライン62を構成するための孔64が設けられている。負極室フレーム32Fにあっては、この孔64と負極室32内とを連通するように流出口32bが設けられている。
【0047】
右側エンドプレート30と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31の上部には、循環配管32の往側を構成するための孔81が設けられている。負極室フレーム32Fにあっては、この孔81と負極室32内とを連通するように循環往口41が設けられている。
【0048】
右側エンドプレート30と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31の下部には、循環配管32の戻側を構成するための孔82が設けられている。負極室フレーム32Fにあっては、この孔82と負極室32内とを連通するように循環戻口44が設けられている。
【0049】
アニオン交換膜31の正極室33側の面のうち、正極室フレーム33Fの枠内側領域に正極35が設けられている。負極32は、負極室フレーム32Fの枠内側と同一大きさに成形され、負極室フレーム32Fに内嵌されている。
【0050】
これらのエンドプレート30と各フレーム33F、32F及びアニオン交換膜31を、正極室32内にスペーサ36(第4図では図示略)を配置して、また相互間にガスケット(図示略)を介して積層し、タイボルト等の緊締具によって積層方向に締め付けることにより微生物発電ユニット20が構成される。エンドプレート30及び各フレーム33F、32Fが方形であるので、微生物発電ユニット20は直方体形状である。
【0051】
なお、各孔73同士が同軸的に重なることにより空気ライン71が構成され、孔74同士が同軸的に重なることにより廃空気ライン72が構成される。また、孔63同士が同軸的に重なることによって負極溶液給液ライン61が構成され、孔64同士が同軸的に重なることによって負極溶液廃液ライン62が構成される。孔81同士が同軸的に重なることによって負極溶液の循環往ラインが構成され、孔82同士が同軸的に重なることによって負極溶液の循環戻ラインが構成される。
【0052】
第5図において、例えば正極室フレーム33F、アニオン交換膜31、負極室フレーム32F及びアニオン交換膜31よりなる単位セルの数をさらに多数としてもよい。なお、第2図は、エンドプレート(左側)30に対しこの単位セルを複数個積層し、その最右側に正極室フレーム33Fを介してエンドプレート(右側)30を重ねた構成のものである。単位セルの数は、5〜50程度が好適である。
【0053】
次に、この微生物発電装置の微生物、負極溶液などのほか、イオン透過性非導電性膜、負極、正極の好適な材料等について説明する。
【0054】
負極溶液中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
【0055】
負極溶液としては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ごみ等の有機性廃棄物を用いることができる。
【0056】
負極溶液中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0057】
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
【0058】
負極溶液は、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
【0059】
負極溶液は有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液は、下水、食品工場排水などの有機性廃水であってもよい。負極溶液中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
【0060】
正極室に流通させる酸素含有ガスとしては、空気が好適である。正極室からの排ガスを、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。
【0061】
イオン透過性非導電性膜としては、非導電性、かつイオン透過性を有するものであればほとんどのものが使用できるが、前述の通り、特にアニオン交換膜が好適である。アニオン交換膜としては、アストム製アニオン交換膜やトクヤマ製アニオン型電解質膜などが好適である。イオン透過性非導電性膜は、薄くて丈夫であることが好ましく、通常、その膜厚は30〜300μm、特に30〜200μm程度であることが好ましい。
【0062】
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
【0063】
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
【0064】
負極は全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5〜20mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
【0065】
正極は、導電性基材と、該導電性基材に担持された酸素還元触媒とを有する。
【0066】
導電性基材としては、導電性が高く、耐食性が高く、厚みが薄くても十分な導電性と耐食性、更には導電性基材としての機械的強度を得ることがあるものであれば良く、特に制限はないが、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、チタンメッシュ等を用いることができ、これらのうち、特に耐久性と加工のしやすさ等の点から、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス等のグラファイト系基材が好ましく、とりわけグラファイトペーパーが好ましい。なお、これらのグラファイト系基材はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂によって疎水化されたものであっても良い。
【0067】
導電性基材の厚さは、厚過ぎると酸素の透過が悪くなり、薄過ぎると、基材に必要な強度等の要求特性を満たすことができないことから、20〜1000μm程度であることが好ましい。
【0068】
酸素還元触媒としては、白金等の貴金属のほか、安価で且つ触媒活性が良好であるところから、二酸化マンガン等の金属酸化物が好適である。
【0069】
[微生物発電装置]
次に、この微生物発電ユニット20を上下左右に複数個配列した微生物発電装置について第1図及び第2図を参照して説明する。なお、第1図はこの微生物発電装置の斜視図、第2図は第1図と反対方向から見た斜視図である。
【0070】
この実施形態では、第5図に示す微生物発電ユニット20とは孔64,73の位置を入れ替えると共に孔63,74の位置を入れ替えた微生物発電ユニット20Aが用いられている。即ち、第5図の左側のエンドプレート30に正対視した場合において、微生物発電ユニット20と微生物発電ユニット20Aとは左右対称の構造となっている。各微生物発電ユニット20,20Aは同一大きさの直方体状である。
【0071】
第1,2図の微生物発電装置では、下から奇数段目すなわち1段目と3段目には微生物発電ユニット20Aを設置し、偶数段目すなわち2段目と4段目には微生物発電ユニット20を設置している。各列の微生物発電ユニット20,20Aの段数は同一であり、各段の微生物発電ユニット20又は20Aは同一高さに位置している。
【0072】
第1,2図では微生物発電ユニットを上下4段かつ左右に3列設けているが、この積層段数及び配列の列数はこれに限定されない。
【0073】
最下段(第1段目)の各微生物発電ユニット20Aの負極溶液用の孔63に対して、配管21を介して負極溶液が導入される。
【0074】
各段の微生物発電ユニット20又は20Aの負極溶液流出用の孔64から流出した負極溶液は、ジョイント配管21を介して1段だけ上段側の微生物発電ユニット20A又は20の負極溶液流入用の孔63に流入する。これにより、第1段目の微生物発電ユニット20Aに導入された負極溶液は、第2段目、第3段目の各微生物発電ユニット20,20Aを経て最上段(第4段目)の微生物発電ユニット20に流入する。なお、第1〜3段目の微生物発電ユニットから流出する負極溶液は、同じ列に属する微生物発電ユニットすなわち同列の直上の微生物発電ユニットにのみ流入する。
【0075】
最上段の微生物発電ユニット20の孔64から流出した負極溶液は、配管23を介して排出される。
【0076】
空気は、配管24を介して最上段の微生物発電ユニット20の孔73へ供給される。最上段の微生物発電ユニット20の孔74から流出した空気は、ジョイント配管25を介して第3段目の微生物発電ユニット20Aの孔73に流入する。第3段目の微生物発電ユニット20Aの孔74から流出した空気は、ジョイント配管25を介して第2段目微生物発電ユニット20の孔73に流入し、第2段目微生物発電ユニット20の孔74から流出した空気は、ジョイント配管25を介して第1段目微生物発電ユニット20Aの孔73に流入する。第1段目(最下段)の微生物発電ユニット20Aの孔74から流出した廃空気は、配管26を介して排出される。
【0077】
各段の微生物発電ユニット20又は20Aの負極溶液循環用の孔81は、循環配管42を介して循環ポンプ43の吸入側に接続され、該ポンプ43の吐出側は循環配管42を介して同一の段の微生物発電ユニット20又は20Aの孔82に接続されている。
【0078】
従って、各段の微生物発電ユニット20又は20Aの負極溶液は、その段において循環される。第1,2図では図示が省略されているが、前述の通り、配管42にpH計47が設けられると共に、循環配管42にアルカリ添加用配管45が接続され、負極溶液のpHが好ましくは7〜9に保たれる。
【0079】
第6図の通り、各段の微生物発電ユニット20同士、微生物発電ユニット20A同士は直列に接続されている。各段の微生物発電ユニットの直列接続体の正極は正出力端子27に接続され、負極は負出力端子28に接続されており、各直列接続体は並列に接続されている。
【0080】
これにより、微生物発電ユニット20,20Aの出力電圧に微生物発電ユニットの列を乗じた出力電圧を有した大容量の微生物発電装置が構成される。
【0081】
この微生物発電装置は、直方体形状の微生物発電ユニット20,20Aを上下多段に且つ左右に複数列配列したものであり、コンパクトであり、単位体積当りの発電容量が大きい。
上記実施の形態では微生物発電ユニットを上下多段に設置しているが、1段のみ設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の斜視図である。
【図2】図1の微生物発電装置の反対方向からの斜視図である。
【図3】微生物発電ユニットの単位セルの断面模式図である。
【図4】微生物発電ユニットの断面図である。
【図5】微生物発電ユニットの分解斜視図である。
【図6】微生物発電装置の結線説明図である。
【符号の説明】
【0083】
1 単位セル
2,31 アニオン交換膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極
20,20A 単位セル
30 エンドプレート
32F 負極室フレーム
33F 正極室フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対し平板状のイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する平板状の正極を備えた正極室と、
を有する単位セルが複数個積層された微生物発電ユニットを複数個備えた微生物発電装置であって、
該微生物発電ユニットが水平方向に複数個並列設置されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項2】
請求項1において、
各単位セルは、その負極及び正極の板面が上下方向となるように設置されており、正極室には酸素含有ガスが下向流にて通気され、負極室には負極液が上向流にて通水されるよう構成されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記微生物発電ユニットが上下多段に設置されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項4】
請求項3において、上下方向に配列された微生物発電ユニットの列が複数個並列に設置され、各段の微生物発電ユニットがいずれも同一高さに設置されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項5】
請求項4において、同一の列に属する微生物発電ユニットについては、酸素含有ガスが上側の微生物発電ユニットから順次に下段側の微生物発電ユニットに通気され、負極液が下側の微生物発電ユニットから順次に上段側の微生物発電ユニットに通水されるよう構成されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項6】
請求項5において、同一の段に属する微生物発電ユニット同士が電気的に直列に接続され、異なる段の微生物発電ユニットが並列に接続されていることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記微生物発電ユニットは直方体状であることを特徴とする微生物発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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