説明

微粒子のアレイ化法および装置

【課題】 1個のレーザ源のみを用いて溶液中に含まれる微粒子等を非接触で多様に操作でき、安価かつ簡便に多数の微粒子等からなる動的アレイを作成する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、1個のビーム源から放射されたレーザ光を、偏光成分が直交する第1のビームと第2のビームとに分割し、第1のビームと第2のビームとからそれぞれ空間光変調器による位相制御とミラーによる走査制御とを用いて複合光トラップ場を生成することで、溶液中に含まれる微粒子を用いて、多数の微粒子からなる動的アレイを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子のアレイ化法及び装置に関し、特に、医療分野の基礎研究、遺伝子診断、プロテオミクス、創薬、化学分析、環境計測等の諸分野において、有用なセンサ機能を有する試薬を表面に修飾したマイクロビーズ型センサや、単一細胞の物理的・生化学的性質を精密に解析するために、微粒子や細胞などを基板上に精密かつ多量に配置するための微粒子のアレイ化法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微小電気機械システム(MEMS)や微小分析システム(MicroTAS)など、マイクロ・ナノデバイス作成技術の進展と相まって、マイクロアレイをセンシングに用いる研究が、基礎から実用化・臨床研究分野まですそ野を広げつつある。そのマイクロアレイの適用分野は、DNAチップを用いた各種疾病遺伝子の探索研究や遺伝子診断に始まり、プロテオミクスや新薬発見のツール、さらには化学分析、環境計測など、小型化による資源・環境負荷の低減なども期待できるため、様々な分野で益々重要かつ有望な技術となりつつある。
【0003】
また、基板上に精密にアレイ化したい対象物は、試薬を修飾した球形微粒子にとどまらず、これまでの集合体としてのマクロな性質だけでなく、細胞1個ごとの物理的・生化学的性質をミクロに測定、解析したいという科学者の要望などから、非球状の単一細胞へと、アレイ化の要求のある対象物の範囲は広がりつつある。
【0004】
このマイクロアレイは、静的アレイと動的アレイの2つに分類できる。静的アレイは、生体分子や試薬を支持基板上にマイクロスポットとして固定化する。固定化の方法には、微小ノズルから試薬溶液を基板上に滴下する際に基板位置をXYステージで精密に制御する方法あるいは微小ノズル自身を精密に動かす方法により基板上に印刷する方法(プリンティング法)、マスクを利用したホトリソグラフィー技術を用いる方法などがあり、それら技術を用いてDNAをスライドガラス上にマイクロスポットとしてアレイ化したものがDNAチップとして実用化され、市販されるに至っている。しかし、1枚あたりの製造単価が高く、研究用途以外での利用の障害となっている。
【0005】
一方、動的アレイは、支持基板の代わりに移動可能な基体、例えば、マイクロビーズや細胞などに、生体分子や試薬を固定化し、これらをアレイ状に動的に配置することで、アレイ型のセンサとしての利用をめざした技術である。動的アレイは、静的アレイに対し、再利用・融通性(使用済みのマイクロビーズを交換すれば、デバイス本体のプラットフォームは何度でも使用できる)や、高反応性(アレイの反応面は、静的アレイのマイクロスポットが平面であるのに対し、マイクロビーズは球面であるため、反応が高速に進む)など、優れた特徴がある。
【0006】
動的アレイを作成するには、形、サイズ、色などの異なった特徴を有するマイクロビーズや細胞などの微粒子を個々に識別し、識別結果に基づき、あらかじめ指定された形状に、ミクロン以下の精度で、これら微粒子を配置する必要がある。多数の微粒子を一度に捕捉・操作する技術としては、時分割走査型光ピンセット法(非特許文献1)、ホログラム光ピンセット法(非特許文献2)、一般位相コントラスト法(非特許文献3、特許文献1)、誘電泳動法(非特許文献4)および光ファイバーの束で捕捉する方法(非特許文献5)などが知られている。
【0007】
しかしながら、先に述べた操作技術において、時分割走査型光ピンセット法は、安定して微粒子を捕捉するには一定時間(10ミリ秒程度)停止してレーザ光を照射する必要があり、1本のレーザ光で捕捉できる微粒子の個数は、数十個程度が限界であった。
【0008】
また、ホログラム光ピンセット法は、回折の0次光が利用できないため、レーザパワーの利用効率が悪い、ホログラム計算に時間がかかるなどの欠点があった。
【0009】
また、一般位相コントラスト法は、2次元型の捕捉で、3次元操作をするには、2個の対物レンズを対向して配置する必要があった。
【0010】
さらに、誘電泳動法は、ITO薄膜などのコーティングされた特殊なガラス基板を用意する必要があり、また、原理上、球形以外の微粒子の配向を制御して配置したり、数ミクロン程度の高い分解能で配置したりするのは困難であった。さらに、光ファイバーの束で捕捉する方法は、分解能、操作性、コストなど多くの点で、動的アレイを作成する方法としては、現実的ではなかった。
【0011】
一方で、上記方法とは全く異なる微小流体工学の原理を利用した動的アレイデバイスがMicroTAS作成技術を用いて試作されている(非特許文献6)。しかし、この動的アレイでは、配置できる微粒子の種類が、流路径、流路長などデバイス本体のハードウエアに強く依存するため、基本的に同一形状、同一サイズ、同一表面特性の微粒子しか使用できない。このため、動的アレイの特徴である再利用性を考慮しても、産業上の利用においては静的アレイよりコスト高になることなどが懸念され、実用化には至っていない。
【0012】
以上のように、技術的には確立されているものの高価である静的アレイに対し、標識された微粒子や非球状の細胞を簡便かつ安価に高密度にその場で配置することができる動的アレイを、光学顕微鏡下で何時でもすぐに利用できる方法として確立することが、上記研究分野における重要な課題の1つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/37307号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Tanaka, Y., et al., Optics Express, Vol.17, No.26, 2009, pp.24102-24111
【非特許文献2】Grier, D.G., Nature, Vol.424, 2003, pp.810-816
【非特許文献3】Eriksen, R. L., et al., Optics Express, Vol.10, No.14, 2002, pp.597-602
【非特許文献4】Chiou, P.Y., Nature, Vol.436, 2005, pp.370-372
【非特許文献5】Tam, J.M., et al., Applied Physics Letters, Vol.84, No.21, 2004, pp.4289-4291
【非特許文献6】Tan, W. and Takeuchi S., Proc. of National Academy of Science of the United States of Amrica, Vol.104, No.4, 2007, pp.1146-1151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、第1に1個のレーザ源のみを用いて溶液中に含まれる複数の微粒子や細胞を非接触で多様に操作でき、安価かつ簡便に多数の微粒子や細胞を任意の形状の動的アレイとして作成する方法を提供すること、第2にこの動的アレイを作成する装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、光ピンセット技術、メカトロニクス技術、画像処理技術を利用して、顕微鏡下の様々な形状と特徴を有する微粒子を自動的に操作するための種々の研究を重ねた結果、空間光変調器による位相制御とミラーによる走査制御を用いて複合光トラップ場を生成することにより、極微量の溶液中に含まれる微粒子を用いて、多数の微粒子からなるアレイを作成できる方法を見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0017】
本発明は、基板上に滴下された溶液中に含まれる複数の微粒子を、レーザ光を用いて非接触で捕捉する又は反発させることにより、アレイ化する方法であって、1個のビーム源から前記レーザ光を放射するステップと、前記レーザ光を偏光成分が直交する第1のビームと第2のビームとに分割するステップと、前記第1のビームを、空間光変調器による位相制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御するステップと、前記第2のビームを、ミラーによる走査制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御するステップと、前記第1のビーム及び前記第2のビームを同軸にして同時に1個の対物レンズに導入することにより、前記第1及び第2のビームの照射面内に複合光トラップ場を形成するステップと、前記複合光トラップ場によって、前記対象微粒子を捕捉する又は反発させることにより、前記対象微粒子を移動させて前記微粒子を所望の形状に配置するステップとを含んでいる。
【0018】
上記微粒子のアレイ化法において、対象微粒子が、球形以外の形状であり、その姿勢を個々に制御された姿勢でアレイ化することができる。
【0019】
また、上記微粒子のアレイ化法において、複合光トラップ場は、空間光変調器による位相制御により、対象微粒子を予め決められた配列パターンで配列させる第1の光トラップ場と、ミラーによる走査制御により、対象微粒子を個々に移動させる第2の光トラップ場とで形成され、第1の光トラップ場を用いて配列された対象微粒子に対して、ミラーによる走査制御により対象微粒子を制御する第2の光トラップ場を用いて、対象微粒子の挿入及び取り出し操作を行うことができる。
【0020】
また、上記微粒子のアレイ化法において、視覚装置により対象微粒子の位置と形状を検出し、検出結果に基づいて、空間光変調器による位相制御、又は、ミラーによる走査制御を行い、複合光トラップ場を逐次変化させることができる。
【0021】
さらに、上記微粒子のアレイ化法において、第1の光トラップ場は、空間光変調器による位相制御により、溶液中に含まれる複数の微粒子の中から、微粒子のサイズ及び形状の少なくとも1つに基づき選択した微粒子を、アレイ化前にその他の微粒子と分別することができる。
【0022】
また、本発明は、基板上に滴下された溶液中に含まれる複数の微粒子を、レーザ光を用いて非接触で捕捉する又は反発させることにより、アレイ化する装置であって、前記レーザ光を放射する1個のビーム源と、前記レーザ光を偏光成分が直交する第1のビームと第2のビームとに分割する第1の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビームを、空間光変調器による位相制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御する位相制御装置と、前記第2のビームを、ミラーによる走査制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御する走査制御装置と、前記第1のビームと前記第2のビームとを同軸にする第2の偏光ビームスプリッタとを備え、前記第1及び第2のビームを同時に1個の対物レンズに導入することにより、前記第1及び第2のビームの照射面内に複合光トラップ場を形成し、前記複合光トラップ場で前記対象微粒子を捕捉する又は反発させることにより、前記対象微粒子を移動させて前記微粒子を所望の形状に配置する微粒子のアレイ化装置である。
【0023】
上記微粒子のアレイ化装置において、対象微粒子が、球形以外の形状であり、その姿勢を個々に制御された姿勢でアレイ化することができる。
【0024】
また、上記微粒子のアレイ化装置において、複合光トラップ場は、位相制御装置により、対象微粒子を予め決められた配列パターンで配列させる第1の光トラップ場と、走査制御装置により、対象微粒子を個々に移動させる第2の光トラップ場とで形成され、第1の光トラップ場を用いて配列された対象微粒子に対して、走査制御装置により対象微粒子を制御する第2の光トラップ場を用いて、対象微粒子の挿入及び取り出し操作を行うことができる。
【0025】
また、上記微粒子のアレイ化装置において、視覚装置により対象微粒子の位置と形状を検出し、検出結果に基づいて、位相制御装置、又は、走査制御装置を制御し、複合光トラップ場を逐次変化させることができる。
【0026】
さらに、上記微粒子のアレイ化装置において、第1の光トラップ場は、位相制御装置により、溶液中に含まれる複数の微粒子の中から、微粒子のサイズ及び形状の少なくとも1つに基づき選択した微粒子を、アレイ化前にその他の微粒子と分別することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、1個のレーザ源のみを用いて溶液中に含まれる複数の微粒子や細胞を非接触で多様に操作でき、安価かつ簡便に多数の微粒子や細胞を任意の形状のアレイに配列することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の微粒子のアレイ化法の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の微粒子のアレイ化法及び装置の一実施例を示すシステム図である。
【図3】複合光トラップ場により微粒子操作を行い、微粒子のアレイ化と微粒子の挿入および取り出しを行う過程の一実施例を示す顕微鏡写真図である。
【図4】複合光トラップ場の制御により、微粒子のアレイ化と、形成したアレイの回転を行う過程の一実施例を示す顕微鏡写真図である。
【図5】複合光トラップ場の制御により、2色の微粒子から成る動的アレイを作成した結果の顕微鏡写真図である。
【図6】複合光トラップ場の制御により、2組の微粒子アレイを作成し、その後の複合光トラップ場の逐次変化で、アレイを独立に制御している過程の一実施例を示す顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、添付した図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態では、様々なサイズと形状を有する微粒子を含有した溶液が、極微量の液滴としてレーザ光を透過する透明な基板上に滴下された場合を例にとって、微粒子のアレイ化法及び装置について説明する。
【0030】
図1は、本発明の微粒子のアレイ化法の一実施形態を示す概略図である。図1に示すように、1個のビーム源1から放射されたレーザ光2は、第1の偏光ビームスプリッタ3で、偏光成分が直交するS偏光4(第2のビーム)及びP偏光5(第1のビーム)の2本のレーザ光に分割される。その後、S偏光4は、ミラーによる走査制御装置6を経由する一方、P偏光5は、空間光変調器による位相制御装置7を経由した後、第2の偏光ビームスプリッタ8により同軸にされ、倒立型顕微鏡12内の1個の対物レンズ10へと導入される。対物レンズ10の上方には、透明な基板15が配置され、基板15上には、極微量の溶液が滴下されている。この溶液中には、サイズと形が異なった様々な微粒子からなる微粒子群16が含まれている。
【0031】
対物レンズ10から上向きに照射されるS偏光4及びP偏光5を含むレーザ光11は、透明基板15に照射され、透明基板15上に滴下された溶液内に複合光トラップ場11’を形成する。この複合光トラップ場11’は、液滴内の微粒子群16に含まれる複数の微粒子の中から、アレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉し、又は反発させて移動させることで、微粒子を図1に例示したような所望の形態のアレイ状17(図示例では、3x3の格子状)に配置する。このとき、複合光トラップ場11’は、微粒子のサイズ、形状、姿勢に応じて、異なった捕捉力又は反発力を微粒子に及ぼすので、走査制御装置6又は位相制御装置7の制御量を配置したい微粒子の形状、サイズ、姿勢に応じて逐次調整することで、所望の位置に所望のサイズと形状の微粒子のみを、その姿勢(向き)を制御した上でアレイ状17に配置できる。
【0032】
この逐次調整は、視覚装置13を用いてリアルタイムで取得する画像を逐次画像処理することで、微粒子の位置、形状、姿勢を同定し、所望の最終目的パターンとの相違を視覚フィードバックすることで行うこともできる。この際の微粒子の位置、形状、姿勢を検出するための画像処理手法としては、従来から知られている各種の画像処理手法が利用可能である。例えば、球状や楕円状の微粒子に対しては、視覚装置13で取得した顕微鏡下の画像のうち、濃淡画像成分に対して、エッジ検出フィルター(Sobel)・細線化・ノイズ除去という一連の画像処理を施して、対象物のエッジを線幅1ピクセルで求め、その後、この抽出されたエッジに対して、一般化ハフ変換を施し、投票されたパラメータが特定の条件に当てはまる対象物候補を求めるという手順が有効である。また、この逐次調整は、画像モニタ14を見ながら操作者がマウス等の操作器具を用いて手動で行うことも可能である。
【0033】
本発明においては、複合光トラップ場11’を制御するためのミラーによる走査制御装置6および空間光変調器による位相制御装置7は、各々が独立に光トラップ場を生成、制御することができ、かつ、微粒子へのこれらレーザ光の照射に際しては、相互に干渉のない、成分が直交する2つの偏光を用いているので、両ビームが同時に照射された場合の複合光トラップ場11’の効果は、各々が独立に作用した場合の光トラップ場の重ね合わせとして作用する。
【0034】
つまり、複合光トラップ場11’は、S偏光4及びP偏光5のレーザ光の照射により、それぞれ液滴内に形成される第1の光トラップ場及び第2の光トラップ場が、協働して微粒子操作を行うことにより、所望の微粒子を所望の形状に配置する。本実施例の複合光トラップ場11’は、空間光変調器による位相制御を用いて静的に生成した、対象微粒子を捕捉して予め決められた2次元又は3次元の配列パターンで配列させることが可能な第1の光トラップ場(以下、「静的配置パターンを有する光トラップ場」という。)と、ミラーによる走査制御により、対象微粒子を捕捉する又は反発させることで、対象微粒子の3次元位置を個々に移動させることが可能な第2の光トラップ場(以下、「孤立点型の光トラップ場」という。)とで形成することができる。静的配置パターンを有する光トラップ場は、アレイ化する対象微粒子を捕捉して予め決めた形状の配列パターン通りに配列させることが可能であり、例えば、図1の破線内の左上に示されるような球状の微粒子をmxn(図示例では3x3)の格子状に配列したり、左下に示されるような液状微粒子(液滴)を外周から内周に濃度が濃くなるように配列したり、右下に示されるような紐状の微粒子(マイクロチューブやDNAなど)を3本並べて配列したりすることが可能である。さらに、図1の例示の形態に限られず、画像や文字等の形態に微粒子を配列することも可能である。孤立点型の光トラップ場を用いて微粒子操作を行い、その姿勢を制御した上で安定した微粒子の挿入および取り出しを個々に行うことで所望のアレイ形状を形成することができる。なお、静的配置パターンを有する光トラップ場としては、従来から知られている空間光変調器を用いた各種の光整形の方法が利用可能であり、例えば、2次元の配置パターンに対しては一般位相コントラス法、3次元の配置パターンに対してはホログラム法などが有効である。
【0035】
また、対象微粒子を個別に挿入および取り出しするためのミラー走査による孤立点型の光トラップ場は、1個の孤立点だけでなく、時分割法などを用いることで、複数の孤立点とすることができる。これにより、非球状の微粒子を捕捉し操作することができ、また、第2のビーム4のみで複数の球状の微粒子を操作することができる。なお、孤立点型の光トラップ場による微粒子操作の詳細は、特開2009−250855号公報に記載の内容を参照することができる。
【0036】
さらに、本発明において生成される複合光トラップ場11’は、微粒子のサイズ、形状、姿勢に応じて、異なった光トラップ力(捕捉力)を各々の微粒子に及ぼすので、この事を利用して、アレイへの配置前に微粒子のサイズ、形によって、微粒子の分別を行うことが可能である。すなわち、空間光変調器で位相を多値コード化したレーザ光を生成することで、一般位相コントラスト法により、対物レンズ10の焦点面に2次元のコントラスト像18(図1に示す)を生成するようなビームを照射することができる。この時、溶液中に含まれる微粒子群16から、2次元のコントラスト像18に対応する形状を有する微粒子17’のみが、コード化に対応した分布を有する大きな散乱力を受け、その結果、液滴を滴下された透明基板15の底面近傍から対物レンズ10の焦点面内へと浮上する。この位相コード化制御されたレーザ光を暫時照射することによる微粒子の浮上効果を、視覚装置13を用いて対物レンズ10の焦点面内の全対象物を検出してアレイ化を行う際の前処理として利用することで、微粒子を配置前(アレイ化前)に事前にサイズと形状で分別することができる。
【0037】
以上、本発明方法について、様々なサイズと形状を有する微粒子を含有した溶液が、極微量の液滴としてレーザ光を透過する透明な基板15上に滴下された場合を例にとって説明したが、微粒子を含有する極微量の溶液は、MicroTAS装置内などの微小空間内に充填されていたり、微小流路内を流れていたりする場合も同様にして、微粒子の操作を行い、所望の形状に微粒子を配置することができる。また、溶液内に含有されている微粒子は、ガラスおよび合成樹脂のマイクロビーズ、無機物および有機物の結晶など、無生物に限定されず、浮遊細胞、精子、微生物などの生物、特に自ら泳ぐような微生物のアレイ化を行うことも可能である。
【0038】
本発明によると、1個のビーム源のみを用いて、極微量の溶液中に含まれる数十〜数百個以上の数多くの微粒子や細胞を非接触で操作して、任意の形状のアレイ状に配置することができ、また、このアレイ化操作は自動化することが可能である。従って、疾病の遺伝子検査、化学分析、環境計測などの各種検査で用いるマイクロビーズや、分子生物学、ナノテクノロジの基礎研究における個々の特性測定のための単一細胞やナノ材料を使用し、光学顕微鏡下に安価かつ簡便に動的アレイを作成することが可能となる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
(実施例1)
図2に示すシステムを用いて微粒子のアレイを作成する。1個のビーム源として波長1064nm(Nd:YAG)・発振モードTEM00の直線偏光レーザを用い、ビーム源から放射されたレーザ光を、偏光ビームスプリッタ(PBS)通過後に偏光成分が直交するP偏光とS偏光とに分割する。このとき、偏光ビームスプリッタとビーム源との間に半波長板を挿入することで、偏光ビームスプリッタ通過後に2本に分割されるP偏光とS偏光とのパワー比率を変えられる構成としている。
【0041】
分割されたレーザ光の内、S偏光は、光軸上を前後に動くレンズ(Lz)及び2軸のガルバノミラー(GM)を通過する。その際に、レンズ(Lz)及び2軸のガルバノミラーをパソコンで制御することにより、2枚のカバーガラスに挟まれた3次元空間内において、対物レンズ通過後のレーザ光の焦点位置(fs)を、自由に操作できる。すなわち、孤立点型の光トラップ場を、1個、あるいは時分割走査する場合には十数個形成できる。
【0042】
一方、P偏光は、空間光変調器(SLM)、レンズ(L1)、位相コントラストフィルター(PCF)、レンズ(L2)から構成される第1次4F光学系を通過する。このとき、第1次4F光学系で、一般位相コントラスト法によってコントラストの強調された像(p−イメージ)が生成される。その後、P偏光は、レンズ(L3)と対物レンズからなる第2次4F光学系を通過する。これにより、第1次4F光学系で生成された像(p−イメージ)を、対物レンズの焦点面(fo)へ転送する。具体的には、空間光変調器をパソコンで制御することにより、位相を2次元パターンとしてコード化したレーザ光を作り出し、一般位相コントラスト法の原理により、対物レンズの焦点面に2次元のパターン(p’−イメージ)を有する光トラップ場を任意に形成できる。
【0043】
これらのS偏光及びP偏光は、それぞれガルバノミラーや空間光変調器で制御された後、偏光ビームスプリッタで同軸にされ、倒立顕微鏡内の対物レンズに照射される。これにより、2枚のカバーガラスに挟まれ、微粒子が分散された極微量の溶液内に複合光トラップ場を形成し、この複合光トラップ場により微粒子を捕捉する又は反発させることで微粒子をアレイ化することができる。本発明では、上記光学構成に、CCDカメラ、画像処理装置、パソコンからなる視覚装置、及び、当該光学系システムの制御系を組み込んで構成している。
【0044】
図3は、P偏光を用いて空間光変調器と一般位相コントラスト法による位相制御で作成した微粒子径と同じサイズの円盤が10x10格子状に配列した形状の静的トラップ場(静的配置パターンを有する光トラップ場)に、S偏光からなる1個の孤立点型ポテンシャル(孤立点型の光トラップ場)をマウスにより位置を手動で操作して、2ミクロンのポリスチレン球100個を10x10のアレイ状配置に、挿入、取り出しをした様子を示している。具体的には、図3(a)は、P偏光による静的配置パターンの照射により、下側のカバーガラス面上から上側のカバーガラス底面近傍に設定した対物レンズの焦点面内に浮上してきた微粒子を、P偏光による静的トラップ場で捕捉し、静的トラップ場で捕捉しきれなかった微粒子を、S偏光による1個の孤立点型ポテンシャルで1個ずつ捕捉し、10x10格子状の静的トラップ場に移動した後、孤立点型ポテンシャルを消去するという作業を繰り返して、微粒子のアレイを完成させた結果である。図3(b)から図3(d)は、その後、静的トラップ場で捕捉されている10x10の微粒子のアレイから、孤立点型ポテンシャルを用いて、微粒子を3個取り出し、1個ずつ挿入することで、再度アレイを完成させた様子である。
【0045】
(実施例2)
図4は、実施例1と同様のシステムを用いて、実施例1と同様に、P偏光を用いて空間光変調器による位相制御で作成した微粒子径と同じサイズの円盤が8x8の格子状に配列した形状の静的トラップ場に、S偏光からなる孤立点型ポテンシャルを操作して、2ミクロンのポリスチレン球からなる8x8のアレイ状の配置を完成させた(図4(a))後、静的トラップ場を徐々に変化させることで、8x8のアレイを構成する微粒子をすべて同時に回転させた(図4(b))結果である。
【0046】
(実施例3)
図5は、実施例1と同様のシステムを用いて、実施例1と同様に、P偏光を用いて空間光変調器による位相制御で作成した微粒子径と同じサイズの円盤が7x7の格子状に配列した形状の静的トラップ場に、S偏光からなる孤立点型ポテンシャルを操作して、2色の3ミクロンのポリスチレン球からなる7x7のアレイ状の配置を完成させた結果である。本発明を用いると、これまで非常に手間のかかった50個以上の微粒子のアレイ化を、短時間に効率よく行うことができる。
【0047】
(実施例4)
図6は、実施例1と同様のシステムを用いて、P偏光を用いた空間光変調器による位相制御で4x8と4x4の2種類のアレイ状に円盤状光トラップ場が配置された静的トラップ場を作成し(図中左下挿入図参照)、実施例1と同様に、S偏光からなる孤立点型ポテンシャルを操作して静的トラップ場内へ、微粒子の挿入を行うことで、4x4の微粒子アレイを2組作成した様子である(図6(a))。その後、図中上側の4x4の微粒子アレイは、S偏光からなる孤立点型ポテンシャルを逐次操作することで、高速に微粒子を1個ずつ右側へ移動し、それと並行して、空間光変調器による位相制御で生成されたP偏光からなる静的トラップ場も逐次変化させることで、図中下側の4x4の微粒子アレイをすべて同時に左側へ移動させた様子(図6(c))である。図6(b)は、その途中経過を示している。本発明を用いると、当該複合光トラップ場を逐次変化させることで、複数の微粒子アレイを独立して生成し、高速移動などの操作を、その用途に応じて短時間に効率よく行うことができる。
【0048】
本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、例えば、実施例1において、時分割法などを用いることで、複数の孤立点型ポテンシャルを形成し、それらを操作することで、静的トラップ場内で任意の複数の微粒子の位置を同時に移動させることもできる。また、例えば、実施例2においては、静的トラップ場を変化させることで、8x8のアレイを構成する微粒子をすべて同時に並進移動させることもできる。また、上記した実施の形態の構成に限定されるものではなく、ビーム源における波長、発振モード、空間光変調器による位相制御、及び、ミラーによる走査制御に係る光学系、並びに、対物レンズにビーム源から放射されたレーザ光を照射するに際しての光学系の構成は、適宜設計変更し得るものである。また、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で、アレイ化に使用する微粒子や細胞を含有した極微量の溶液を対物レンズから照射されるレーザ光の下へ供給する方法については、種々変更実施できることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 ビーム源
2 レーザ光
3 第1の偏光ビームスプリッタ
4 S偏光(第2のビーム)
5 P偏光(第1のビーム)
6 走査制御装置
7 位相制御装置
8 第2の偏光ビームスプリッタ
9 同軸にされたSおよびP偏光(第1及び第2のビーム)
10 対物レンズ
11 溶液に照射されるレーザ光
11’ 複合光トラップ場
12 倒立顕微鏡
13 視覚装置
14 画像モニタ
15 透明基板
16 溶液に含まれる微粒子群
17 微粒子のアレイ
17’ 微粒子群から配置前に分別された微粒子
18 配置前の分別に用いる2次のコントラスト像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に滴下された溶液中に含まれる複数の微粒子を、レーザ光を用いて非接触で捕捉する又は反発させることにより、アレイ化する方法であって、
1個のビーム源から前記レーザ光を放射するステップと、
前記レーザ光を偏光成分が直交する第1のビームと第2のビームとに分割するステップと、
前記第1のビームを、空間光変調器による位相制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御するステップと、
前記第2のビームを、ミラーによる走査制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御するステップと、
前記第1のビーム及び前記第2のビームを同軸にして同時に1個の対物レンズに導入することにより、前記第1及び第2のビームの照射面内に複合光トラップ場を形成するステップと、
前記複合光トラップ場によって、前記対象微粒子を捕捉する又は反発させることにより、前記対象微粒子を移動させて前記微粒子を所望の形状に配置するステップとを含む微粒子のアレイ化法。
【請求項2】
前記対象微粒子が、球形以外の形状であり、その姿勢を個々に制御された姿勢でアレイ化する請求項1に記載の微粒子のアレイ化法。
【請求項3】
前記複合光トラップ場は、前記空間光変調器による位相制御により、前記対象微粒子を予め決められた配列パターンで配列させる第1の光トラップ場と、前記ミラーによる走査制御により、前記対象微粒子を個々に移動させる第2の光トラップ場とで形成され、
前記第1の光トラップ場を用いて配列された前記対象微粒子に対して、前記ミラーによる走査制御により前記対象微粒子を制御する前記第2の光トラップ場を用いて、前記対象微粒子の挿入及び取り出し操作を行う請求項1に記載の微粒子のアレイ化法。
【請求項4】
視覚装置により前記対象微粒子の位置と形状を検出し、前記検出結果に基づいて、前記空間光変調器による位相制御、又は、前記ミラーによる走査制御を行い、前記複合光トラップ場を逐次変化させる請求項1に記載の微粒子のアレイ化法。
【請求項5】
前記第1の光トラップ場は、前記空間光変調器による位相制御により、前記溶液中に含まれる前記複数の微粒子の中から、微粒子のサイズ及び形状の少なくとも1つに基づき選択した微粒子を、アレイ化前にその他の微粒子と分別する請求項3に記載の微粒子のアレイ化法。
【請求項6】
基板上に滴下された溶液中に含まれる複数の微粒子を、レーザ光を用いて非接触で捕捉する又は反発させることにより、アレイ化する装置であって、
前記レーザ光を放射する1個のビーム源と、
前記レーザ光を偏光成分が直交する第1のビームと第2のビームとに分割する第1の偏光ビームスプリッタと、
前記第1のビームを、空間光変調器による位相制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御する位相制御装置と、
前記第2のビームを、ミラーによる走査制御により、前記複数の微粒子の中からアレイ化するために使用する対象微粒子を捕捉又は反発可能に制御する走査制御装置と、
前記第1のビームと前記第2のビームとを同軸にする第2の偏光ビームスプリッタとを備え、
前記第1及び第2のビームを同時に1個の対物レンズに導入することにより、前記第1及び第2のビームの照射面内に複合光トラップ場を形成し、前記複合光トラップ場で前記対象微粒子を捕捉する又は反発させることにより、前記対象微粒子を移動させて前記微粒子を所望の形状に配置する微粒子のアレイ化装置。
【請求項7】
前記対象微粒子が、球形以外の形状であり、その姿勢を個々に制御された姿勢でアレイ化する請求項6に記載の微粒子のアレイ化装置。
【請求項8】
前記複合光トラップ場は、前記位相制御装置により、前記対象微粒子を予め決められた配列パターンで配列させる第1の光トラップ場と、前記走査制御装置により、前記対象微粒子を個々に移動させる第2の光トラップ場とで形成され、
前記第1の光トラップ場を用いて配列された対象微粒子に対して、前記走査制御装置により対象微粒子を制御する前記第2の光トラップ場を用いて、前記対象微粒子の挿入及び取り出し操作を行う請求項6に記載の微粒子のアレイ化装置。
【請求項9】
視覚装置により前記対象微粒子の位置と形状を検出し、前記検出結果に基づいて、前記位相制御装置、又は、前記走査制御装置を制御し、前記複合光トラップ場を逐次変化させる請求項6に記載の微粒子のアレイ化装置。
【請求項10】
前記第1の光トラップ場は、前記位相制御装置により、前記溶液中に含まれる前記複数の微粒子の中から、微粒子のサイズ及び形状の少なくとも1つに基づき選択した微粒子を、アレイ化前にその他の微粒子と分別する請求項8に記載の微粒子のアレイ化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159335(P2012−159335A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17722(P2011−17722)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼発行所 計測自動制御学会 四国支部 刊行物名 2010年度 計測自動制御学会四国支部学術講演会 講演予稿集 発行日 平成22年11月20日 ▲2▼研究集会名 2010年度 計測自動制御学会四国支部学術講演会 主催者名 計測自動制御学会 四国支部 開催日 平成22年11月20日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)