説明

微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体およびその製造方法

【課題】黒色系で電気伝導度の低い微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を工業的規模で提供する。
【解決手段】二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、金属マグネシウムとの混合物を、窒素ガスまたは窒素ガスを含む不活性ガス気流中650〜800℃で焼成する工程を経て、X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10〜60m/gである微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を製造する。金属マグネシウムとしては、粒径100〜500μmの粒状であり、また、二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムと、金属マグネシウムとの比率としては、ジルコニウム(Zr)とマグネシウム(Mg)とのモル比でMg/Zr=1.2〜1.6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、黒色系で電気伝導度の低い微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体およびその量産可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ(テレビジョン)などのディスプレイ用のブラックマトリクスの黒色顔料としては、カーボンブラックが使用されているが、カーボンブラックは電気伝導性が高いため、そのまま使用すると、周囲の導電性デバイスとの間で短絡が生じるおそれがある。そこで、表面を樹脂コーティングすることなどによって、カーボンブラックの電気伝導度を低下させてから、使用に供されている。
しかしながら、上記のような電気伝導度を低下させるための加工も、製品コストをアップさせる原因になるため、カーボンブラックに代えて、直接(つまり、上記のような電気伝導度を低下させるための加工を要することなく)使用できる黒色顔料が要望されている。
【0003】
そのような黒色顔料として電気伝導度の低い低次金属酸化物が期待されているが、現在までのところ、黒色系で電気伝導度の低い微粒子状の低次金属酸化物は、工業的規模では得られていない。これは、以下に示すように、微粒子状の低次金属酸化物を製造することが難しいことに基づいている。
すなわち、上記のような低次金属酸化物の工業的生産は、金属酸化物を還元することによって行われるが、ここで、これまでの低次金属酸化物を工業的に製造するための金属酸化物の還元方法を例示すると、次の各種方法がある。
【0004】
1.金属酸化物粉体を水素気流中で高温焼成する水素還元法(例えば、特許文献1)
2.金属酸化物粉体をアンモニア(+水素)気流中で高温焼成するアンモニア還元法(例えば、特許文献2)
3.金属粉体と酸化物粉体を均一に混合した後、還元雰囲気で高温焼成する金属粉体との均一化反応(例えば、特許文献3)
4.金属酸化物を水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化物と共に還元焼成する方法(例えば、特許文献4)
【0005】
しかしながら、これらの方法は、それぞれ下記のような問題点を有している。
【0006】
1)水素還元法:この方法は、水素気流中高温で還元処理するため、安全性面での問題が大きく、また、生成する低次酸化物も、1000℃以上の高温では焼結が進行してしまうため、微粒子状のものを得ることが困難であり、また、それより低い温度では未還元の酸化物の混入割合が大きくなる。
【0007】
2)アンモニア還元法:この方法は、高温雰囲気で分解反応により生成するアクティブな水素、窒素、ラジカルによる還元処理方法であるため、その還元処理により生じる酸素空孔が窒素に置換された、酸窒化物(MO)が生成する。また、アンモニアの分解が約500℃から開始されるため、その生成物は、未還元の金属酸化物との混合物となる。
【0008】
3)金属粉体との均一化反応:この方法による場合、酸化物は超微粒子状の粉体を入手することが可能であるが、金属粉体は酸化物に比べて大きい粒子径のものしか得られないため、結果的に微粒子状の低次金属酸化物を得ることが難しい。また、完全な均一化反応を達成することができず、複数の酸化状態の混合物となってしまう。
【0009】
4)水素化物による還元反応:この方法は、気体の水素と比較して取り扱いに優れた水素化物であるから、安全性は高いものの、数百℃から分解が開始されるため、還元力が弱く、未還元の酸化物との混合物となることが避けられない。
【0010】
従って、工業的規模で微粒子状の低次金属酸化物を得ることは難しく、特に黒色系で電気伝導度の低い微粒子低次酸化ジルコニウムは工業的規模では得られていない。
【0011】
【特許文献1】特開昭61−56170号公報
【特許文献2】特開平5−25812号公報
【特許文献3】特開昭59−199530号公報
【特許文献4】特開平5−193942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑み、黒色系で電気伝導度の低い微粒子低次酸化ジルコニウムないしはそれよりさらに電気伝導度の低い黒色系物質を工業的規模で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、金属マグネシウムによる還元反応を利用して、X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10〜60m/gの微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得て、上記課題を解決したものである。
【0014】
上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の工業的規模での製造は、二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、金属マグネシウムとの混合物を、窒素ガスまたは窒素ガスを含む不活性ガス気流中650〜800℃で焼成する工程を経て微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を製造することによって達成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色系で電気伝導性の低い微粒子材料として使用でき、現在、カーボンブラックなどが使用されているテレビなどのディスプレイ用のブラックマトリクスなどへ、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料として使用することができる。
【0016】
また、本発明の方法によれば、上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を工業的規模で製造(量産)することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得るにあたって、そのジルコニウム系材料としては、二酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウムのいずれも使用することができる。
【0018】
その二酸化ジルコニウムとしては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、さらには、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムなどの安定化二酸化ジルコニウムなど、いずれも使用可能であるが、単斜晶系二酸化ジルコニウムを用いると、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の生成率が高くなることから、特に単斜晶系二酸化ジルコニウムが好ましい。
【0019】
そして、これらの二酸化ジルコニウムや水酸化ジルコニウムは、粒径の小さい微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得るには、それ自身の粒径が小さいものほど好ましく、例えば、比表面積の測定値から球形換算した平均一次粒径で500nm以下のものが好ましく、また、取扱い性を考慮すると、上記のような平均一次粒径で500nm以下で10nm以上のものが好ましい。
【0020】
酸化マグネシウムは、前記のような還元反応により生成する微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の焼結を防止するためのものであって、使用量としては、酸化マグネシウムの粒径によっても異なるが、二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウム100質量部に対して20質量部以上、特に20〜40質量部が好ましい。つまり、酸化マグネシウムは、生成する微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の表面を被覆できる量以上であればよいが、過剰に使用すると、反応後の酸洗浄時に要する酸性溶液の使用量が増加するので、上記の範囲で使用するのが好ましい。
【0021】
金属マグネシウムは、粒径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなるので、粒径が篩のメッシュパスで100〜500μmの粒状のものが好ましく、特に150〜300μmの粒状のものが好ましい。ただし、金属マグネシウムは、すべて上記粒径範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0022】
二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムに対する金属マグネシウムの量は、還元力に影響を与え、金属マグネシウムの量が少なすぎると、還元不足で目的とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が得られにくくなり、多すぎると、未反応の金属マグネシウムが残存することになり、経済的でなくなるので、マグネシウム(Mg)とジルコニウム(Zr)のモル比でMg/Zr=1.2〜1.6が好ましい。すなわち、Mgの比率が上記より高くなると、未反応の金属マグネシウムが多くなって経済的に好ましくなく、Mgの比率が上記より低くなると、還元力が不足して目的とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が得られなくなるおそれがあるので、特にMg/Zr=1.2〜1.4が好ましい。
【0023】
微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を生成させるための金属マグネシウムによる還元反応(以下、簡略化して、「上記還元反応」または「還元反応」という場合がある)時の温度は、650〜800℃が好ましく、特に680℃以上、700℃以下が好ましい。650℃は金属マグネシウムの溶融温度であり、温度がそれより低いと、二酸化ジルコニウムや水酸化ジルコニウムの還元反応が充分に生じない。また、温度を800℃より高くしても、反応自体に問題はないが、高温にしたことによる効果の増加が得られず、安全性面での低下が生じるおそれがある。上記還元反応時の時間は、温度によるが、通常、30〜90分、特に30〜60分程度が好ましい。
【0024】
上記還元反応を行う際の反応容器は、特に特別なものを要しないが、反応時に原料や生成物が飛び散らないように、蓋のできるものが好ましい。つまり、金属マグネシウムの溶融がはじまると、還元反応が急激に進行し、それに伴って温度が上昇して、容器内部の気体が膨張し、それによって、容器の内部のものが外部に飛び散る場合が生じ得るためである。
【0025】
上記還元反応は、窒素ガスまたは窒素ガスを含む不活性ガス気流中で行うが、これは次の理由によるものである。すなわち、窒素ガスや不活性ガスにより金属マグネシウムや還元生成物と酸素との接触を防ぎ、それらの酸化を防ぐとともに、窒素をジルコニウムと反応させ、窒化ジルコニウムを生成させて、その窒化ジルコニウムにより電気伝導度をより低くするためである。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンを使用することができるが、窒素さえ存在すればアルゴンなどの不活性ガスは必ずしも必要ではなく、経済性を考慮すると窒素ガス単独の方が好ましい。
【0026】
得られた反応物は、反応容器から取り出し、最終的には室温まで冷却した後、塩酸水溶液などの酸溶液で洗浄して、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや生成物の焼結防止のため反応当初から含まれていた酸化マグネシウムを除去する。この酸洗浄に関しては、pH0.5以上、特にpH1.0以上、温度は90℃以下で行うのが好ましい。これは酸性が強すぎたり温度が高すぎるとジルコニウムまでが溶出してしまうおそれがあるためである。そして、その酸洗浄後、アンモニア水などでpHを5〜6に調整した後、濾過または遠心分離により固形分を分離し、その固形分を乾燥した後、粉砕して微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得る。
【0027】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、前記のように、X線回折装置を用いての測定で得られたプロファイル(X線回折プロファイル)において、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有しており、かつ、その比表面積が10〜60m/gのものである。上記X線回折装置での測定は、スペクトリス社製のX線回折装置「X‘Pert PRO」(商品名)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ−2θ法でX線回折分析を行ったものであり、比表面積の測定は、ユアサアイオニクス社製のマルチソーブ16(商品名)を用い、窒素・アルゴン混合ガスを用いたBET法で液体窒素温度(−195.8℃)で行ったものである。
【0028】
上記X線回折プロファイルにおいて、本発明の低次酸化ジルコニウムと窒化ジルコニウム複合体における低次酸化ジルコニウム部分のピークは、単体の低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置である2θ=30.5°、35.2°、50.6°および60.3°の近傍に、また、窒化ジルコニウム部分のピークは、単体の窒化ジルコニウム本来のピーク位置である2θ=33.9°、39.3°、56.8°および67.9°の近傍に、それぞれ組成割合により若干シフトした状態で現われる。
【0029】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体における窒化ジルコニウムの組成比(割合)は、30〜60質量%程度が好ましく、特に38〜55質量%程度が好ましい。窒化ジルコニウムの比率が上記より多くなると、黒色度が低下する傾向があり、窒化ジルコニウムの比率が上記より少なくなると、耐熱性が低下する上に、電気伝導度が高くなる傾向もある。
【0030】
本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、前記のように、比表面積が10〜60m/gであることを要件としているが、この比表面積値は上記複合体が微粒子状であるということを表すものである。粒子サイズを表すには、粒径で表すのがより直接的であるが、本発明の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体はナノメーターオーダーの非常に微細なものなので、二次粒子化するのを完全に防止することができず、粒径を測定した場合、一次粒子の粒径のみならず、二次粒子化したものの粒径を測定してしまう可能性があり、正確さを欠くからである。
【0031】
そして、本発明において、その比表面積として10〜60m/gを要件としているのは、比表面積が10m/gより小さい場合は、所望とする微粒子(粒径では100nm以下の微粒子)に達しておらず、比表面積が60m/gより大きい場合は、原料である二酸化ジルコニウムの粒径がさらに小さいため、還元による焼結が進行し、比表面積は大きいものの、実質的に焼結体となり微粒子ではなくなる可能性が高いためであって、上記範囲内で特に比表面積が20m/g以上のものが好ましい。
【実施例】
【0032】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に例示のものに限られることはない。なお、以下において、溶液や分散液の濃度を示す%は質量%である。
【0033】
実施例1
比表面積の測定値から球径換算した平均一次粒径が19nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製);173gと、微粒子酸化マグネシウム〔協和化学工業社製MF−150、比表面積118m/g〕80gを小型V型混合機(容量10リットル、回転速度;50rpm)で30分間混合した後、ピンミル〔コロプレックス160Z(商品名),ホソカワミクロン社製、回転速度;14,000rpm、粉砕速度;150g/min〕で粉砕混合を行った混合粉体を得た。この混合粉体を「混合粉体A」とする。
【0034】
つぎに、この混合粉体A;169gに金属マグネシウム(関東金属社製MG45、篩のメッシュパス換算粒径:150〜300μm);32gを加え、上記のV型混合機の槽内を窒素置換した状態で30分間混合処理して混合粉体を得た。この混合粉体を「混合粉体B」とする。なお、上記混合粉体A中の二酸化ジルコニウムに対する金属マグネシウムの量は、ジルコニウム(Zr)とマグネシウム(Mg)とのモル比でMg/Zr=1.4であった。
【0035】
つぎに、この混合粉体B;200gをステンレス鋼製容器(容器本体外寸:200mm×200mm×50mm・フタ(蓋)内寸:204mm×204mm×45mm)に入れ、金属ベルトを持つ連続還元焼成炉にて最高温度700℃×1時間で焼成した。この燃成は、窒素ガスを酸素濃度が100ppm以下になるように流速50〜100リットル/分で流しながら、昇温(室温〜700℃);約1時間、降温(700〜室温);約5時間の条件下で行った。
【0036】
上記のようにして得られた焼成物を、1リットルの水に分散し、5%希塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を70〜80℃に保ちながら洗浄した後、2%アンモニア水にてpH6に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄−アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH6への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、さらに等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度;105℃の熱風乾燥機にて乾燥して微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0037】
実施例2
焼成時の最高温度と時間を750℃×40分に変更した以外は、実施例1と同様の処理を行って、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0038】
実施例3
混合粉体Bを調製する際に、Mg/Zr=1.2(モル比)になるように金属マグネシウムを加えた以外は、実施例1と同様の処理を行って、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0039】
実施例4
混合粉体Aを調製するにあたって、二酸化ジルコニウムに代えて、比表面積の測定値から球形換算した平均一次粒径が20nmの水酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様の処理を行って、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0040】
比較例1
焼成時に窒素ガスに代えてアルゴンガスを流した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0041】
比較例2
焼成を大気中で行った以外は、実施例1と同様の処理をした。ただし、得られた粉体は、くすんだ白色であった。これは、この比較例2では、焼成を大気中で行った関係で、金属マグネシウムが大気中の酸素と反応して燃焼し、二酸化ジルコニウムの還元が行われなかったためであると考えられる。
【0042】
上記のようにして得られた実施例1〜4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体および比較例1の粉体について、前記のX線回折装置を用いてX線回折分析を行った。得られたX線回折プロファイルを図1〜図5に示す。上記X線回折分析は、前記のように、CuKα線を用い、印加電圧45kV、印加電流40mAの条件下で、θ−2θ法で行ったものである。
【0043】
図1に示すように、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置(2θ=30.5°、35.2°、50.6°および60.3°)の近傍の2θ=30.4°、35.3°、50.7°および60.3°に低次酸化ジルコニウム部分のピークを有し、また、窒化ジルコニウム本来のピーク位置(2θ=33.9°、39.3°、56.8°および67.9°)の近傍の2θ=33.9°、39.3°、56.9°および67.9°に窒化ジルコニウムのピークを有していた。
【0044】
また、図2に示すように、実施例2の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=30.3°、35.2°、50.7°および60.2°に低次酸化ジルコニウム部分のピークを有し、また窒化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=33.9°、39.4°、56.9°および67.9°に窒化ジルコニウム部分のピークを有していた。
【0045】
また、図3に示すように、実施例3の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=30.5°、35.3°、50.9°および60.5°に低次酸化ジルコニウム部分のピークを有し、また、窒化ジルコニウム部分のピーク位置の近傍の2θ=33.9°、39.4°、56.9°および67.9°に窒化ジルコニウム部分のピークを有していた。
【0046】
また、図4に示すように、実施例4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=30.4°、35.3°、50.3°および60.4°に低次酸化ジルコニウム部分のピークを有し、また、窒化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=33.9°、39.4°、57.0°および68.0°に窒化ジルコニウム部分のピークを有していた。
【0047】
これら、実施例1〜4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体に対し、比較例1の粉体は、図5に示すように、低次酸化ジルコニウム本来のピーク位置の近傍の2θ=30.5°、35.4°、50.9°および60.4°に低次酸化ジルコニウム部分のピークを有するものの、窒化ジルコニウム本来のピーク位置(すなわち、2θ=33.9°、39.3°、56.8°および67.9°)やその近傍には、ピークを有しなかった。
【0048】
また、上記実施例1〜4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体および比較例1の粉体について、比表面積、抵抗率および窒化ジルコニウムの組成比を調べた結果を表1に示す。また、表1には、比表面積の測定値から球形換算した平均一次粒径と色調を示す。ただし、表1では、スペース上の関係で、上記平均粒径を簡略化して「粒径」で示す。
【0049】
比表面積の測定は、前記のように、ユアサアイオニクス社製のマルチソーブ16(商品名)を用い、窒素・アルゴン混合ガスを用いたBET法で液体窒素温度(−195.8℃)で行ったものである。
【0050】
抵抗率は、加圧成形機「テーブルプレスTB−200ACD(商品名)」を用い、粉体に30kN(約3トン)の荷重を加圧して直径10mm、厚み5mmの円板状に成形した成形体を試験片とし、その試験片についてアドバンテスト社製の「ADVANTEST DIGITAL ELECTROMETER TR8652(商品名)」を用いて測定したものであって、この値が大きいほど、電気伝導度(導電性)が低い。
【0051】
また、窒化ジルコニウムの組成比は、CHNS分析〔分析装置:エレメンタル社製の「vario EL III CHNOS Elemental Analyzer(商品名)」〕で分析した窒素値から窒化ジルコニウムに変換して求めたものである。
【0052】
なお、比較例2では、目的とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が得られていないため、物性の測定を行わなかった。また、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体と比較例1の粉体については、示差熱熱重量同時測定を行って、それらの耐熱性を調べた。その詳細については後に詳しく説明するが、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は耐熱性が優れていたが、比較例1の粉体は、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体に比べて、耐熱性が劣っていた。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、実施例1〜4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色で、比表面積が30.1〜53.6m/gであって、いずれも10〜60m/gの範囲内にあり、粒径が小さく、また、抵抗率が高く、電気伝導度が低かった。
【0055】
これに対し、比較例1の粉体は、実施例1〜4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体に比べて、抵抗率が低く、電気伝導度が高くなる上に、詳細を以下に示すように、耐熱性に欠けていた。
【0056】
すなわち、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体と比較例1の粉体について、リガク社製の「Rigaku Thermo plus TG8120(商品名)」を用い、空気流100ml/分、昇温速度10℃/分で示差熱熱重量同時測定を行い、得られたTG・DTAチャートから耐熱性評価を行ったところ、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、約480℃に達してからはじめて発熱ピークが現われ、質量の増加も生じたが、比較例1の粉体は、約200〜400℃の間に、数ヵ所の弱い発熱ピークが現われて、質量増加が始まり、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体に比べて、耐熱性が劣っていた。
【0057】
なお、実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の場合は、約480℃から発熱ピークが現われ、発熱ピークはその一箇所のみであり、この部分ですべての低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が酸化され、二酸化ジルコニウムになったものと推定される。
【0058】
これに対して、比較例1の粉体の場合は、約200℃付近から発熱反応が開始する上に、約400〜500℃の間で、最も大きい発熱ピークが現われることから、酸化価数の異なる複数種の低次酸化物が存在していたものと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。
【図2】実施例2の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。
【図3】実施例3の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。
【図4】実施例4の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。
【図5】比較例1の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10〜60m/gであることを特徴とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体。
【請求項2】
二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、金属マグネシウムとの混合物を、窒素ガスまたは窒素ガスを含む不活性ガス気流中、650〜800℃で焼成する工程を経て、請求項1記載の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を製造することを特徴とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の製造方法。
【請求項3】
金属マグネシウムが、粒径100〜500μmの粒状である請求項2記載の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の製造方法。
【請求項4】
二酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムと、金属マグネシウムとの比率が、ジルコニウム(Zr)とマグネシウム(Mg)とのモル比でMg/Zr=1.2〜1.6である請求項2または3記載の微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate