微粒子懸濁液導入容器とそれを用いた細胞融合容器、及び細胞融合装置

【課題】微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、排出において微粒子懸濁液の取り残しなく効率よく排出する微粒子懸濁液導入容器、細胞融合容器及び細胞融合装置を提供する。
【解決手段】微粒子懸濁液導入領域1に対向して配置される一対の平板2、3と、一対の平板間に微粒子懸濁液導入領域1を貫通して形成した平板状のスペーサー4を備えた微粒子懸濁液導入容器13において、スペーサー4が微粒子懸濁液を導入する導入口5と導入流路7、微粒子懸濁液を排出する排出口6と排出流路8を備え、微粒子懸濁液導入領域1の一方の端に連通して導入流路7が配置され、微粒子懸濁液導入領域1のもう一方の端に連通して排出流路8が配置されている微粒子懸濁液導入容器13であって、導入流路7から排出流路8に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器13を用いる。
【解決手段】微粒子懸濁液導入領域1に対向して配置される一対の平板2、3と、一対の平板間に微粒子懸濁液導入領域1を貫通して形成した平板状のスペーサー4を備えた微粒子懸濁液導入容器13において、スペーサー4が微粒子懸濁液を導入する導入口5と導入流路7、微粒子懸濁液を排出する排出口6と排出流路8を備え、微粒子懸濁液導入領域1の一方の端に連通して導入流路7が配置され、微粒子懸濁液導入領域1のもう一方の端に連通して排出流路8が配置されている微粒子懸濁液導入容器13であって、導入流路7から排出流路8に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器13を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子懸濁液の導入および排出を効率的に行うための微粒子懸濁液導入容器とそれを用いた細胞融合容器、及び細胞融合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な細胞融合技術としては化学的細胞融合法であるポリエチレングリコール法(PEG法)と電気的細胞融合法が知られている。PEG法では(i)ポリエチレングリコール(PEG)は細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)細胞融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)細胞融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため融合再生確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。ここで、融合再生確率とは、生成した融合細胞の数を融合容器に導入した脾臓細胞数で除した値である。
【0003】
一方、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく細胞融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞融合させることができるという利点があり、電気条件など、細胞融合時の諸条件の設定が容易なため、PEG法に比べ融合再生確率が高いことが知られている。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こる。
【0004】
上記の電気的細胞融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の細胞融合を顕微鏡で見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実であり、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)が、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって細胞融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が細胞融合するためPEG法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。また、Zimmermannの方法は、前記微小電極法および平行電極法に比較して融合率が高いため、最も実用的な方法として利用されているが、融合細胞が電極表面に付着するため、融合細胞を傷つけることなく回収するための電気材料をいかに開発するか、融合細胞をいかに大量にしかも迅速に作製するかが重要な課題とされていた。
【0005】
上記電気的融合法の課題を解決するために、細胞融合または細胞への核酸導入を行うための領域を切り取った平板状のスペーサーと、前記平板状スペーサーに対向するように配置された導電部材からなる一対の電極と、前記平板スペーサーを挟持した電極に対し圧着およびその解除を可能とする圧着手段とを備えており、試料細胞を連続的に移動させる細胞液送り出し手段を備えたフローチャンバーの例が報告されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に記載されたチャンバーでは、ポンプにより細胞の導入および排出を行うため、細胞へのダメージが大きく、細胞の活性が低下したり、細胞が死滅する割合が高くなってしまうこと、また矩形状や長円形のチャンバーへの導管接続形態により、細胞の導入においてチャンバー内への空気が残存する、および細胞の排出において細胞の取り残しが存在するといった、細胞導入効率および排出効率が悪く、結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【0007】
そこで上記従来の技術における問題点や課題を解決するために、本発明者らは、後述する比較例に示した様に細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した複数の微細孔を有する絶縁体よりなり、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を導入して、前記第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、パルス電圧を印加することで細胞融合する方法を検討した。本検討において、融合させる細胞の大きさに対して微細孔の大きさを最適化し、細胞を微細孔に固定する際に印加する交流電圧の波形の形状を最適化することで、アレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を極めて容易に固定できることを見出し、2細胞1対を融合させ、1/10000の融合確率を得た。これは、通常の電気的細胞融合法における融合確率0.2/10000の5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の方法は、細胞懸濁溶液を細胞融合容器に導入する際に、細胞融合領域の隅々まで細胞を均一に満遍なく導入することが難しく、細胞融合領域の一部の微細孔では2細胞1対の融合が行えず、結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特許第2691230号公報
【特許文献3】特開2007−295912公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、微粒子懸濁液の導入において、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出するための微粒子懸濁液導入容器とそれを用いた細胞融合容器、及び細胞融合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものとして、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
すなわち本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器である。
【0013】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に連通する微粒子懸濁液導入容器である。
【0014】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する前記導入流路ともう一方の端に連通して前記排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ前記微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向長さが垂直方向長さよりも長い上記の微粒子懸濁液導入容器である。
【0015】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状である微粒子懸濁液導入容器である。
【0016】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、導入口の周辺が疎水性である微粒子懸濁液導入容器である。
【0017】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と前記水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えている微粒子懸濁液導入容器である。
【0018】
また本発明の細胞融合容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器からなり、微粒子が細胞である細胞融合容器であって、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、絶縁体が電極のいずれか一方の電極の微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器である。
【0019】
また本発明の細胞融合装置は、上記した細胞融合容器を備え、細胞融合容器の一対の電極に電圧を印加する電源を備えた細胞融合装置である。
【0020】
以下に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器であり、さらに、微粒子懸濁液導入容器において、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に連通する微粒子懸濁液導入容器である。なお、上板と下板の材質は化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、ガラス基板や金属、樹脂等でもよい。また、スペーサーは、形状を保つ安定した部材であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。
【0022】
ここで、図1および図2に本発明の微粒子懸濁液導入容器の概念図を示す。
【0023】
本発明の微粒子懸濁液導入容器(13)は、図1に示すように、上板(2)と下板(3)の間に、スペーサー(4)を配置することで微粒子懸濁液導入領域(1)を確保し、スペーサーは、上板と下板が直接接触しないように設けられ、微粒子懸濁液導入容器に微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路(7)およびそれに連通する導入口(5)と、微粒子懸濁液を排出する排出流路(8)およびそれに連通する排出口(6)が設けられている。また図2に示すように、導入流路が導入口から広がる導入角度(16)が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度(17)が0度以上60度以下であることが好ましい。また、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通することが好ましい。
【0024】
ここで、「導入角度」とは、微粒子導入流路が、微粒子懸濁液導入領域と繋がる際に導入方向に対して左右に広がる角度であり、「排出角度」とは、同様に微粒子排出流路が、微粒子懸濁液導入領域と繋がる際に導入方向に対して左右に広がる角度である。
【0025】
これにより図2に示すように、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向(10)の中心の流速(11)と両側の壁面の流速(12)が概ね等しくなる。
【0026】
ここで、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が概ね等しいとは、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差が約13%未満であることを意味する。このような態様であれば、導入角度が60度以下となって気泡残りがなく均一に充填することができるからである。
【0027】
なお、中心の流速および壁面の流速とは、微粒子懸濁溶液の導入方向における線速を測定することにより評価できる。
【0028】
ここで、本発明者らが鋭意検討した結果、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出するためには、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速がほぼ等しいことが必要であり、導入角度が60度以上である場合は、微粒子懸濁液の導入の際に、微粒子懸濁液の導入方向の中心の微粒子懸濁液が微粒子懸濁液導入領域に達した時に、両側の壁面の微粒子懸濁液が導入流路の壁面の辺において、導入口から微粒子懸濁液導入領域との接続部までの長さに対し、約87%の地点まで達しておらず、これにより中心と両側の壁面での微粒子懸濁液の微粒子懸濁液導入領域に入る時間の差が大きく、微粒子懸濁液導入容器内気泡が残ることが生じる。同様に、排出角度が60度以上である場合は、微粒子懸濁液の排出の際に、微粒子懸濁液の導入方向の中心の微粒子懸濁液が微粒子懸濁液導入領域から出て排出口に達した時に、両側の壁面の微粒子懸濁液が排出流路の壁面の辺において、排出流路と微粒子懸濁液導入領域との接続部から排出口までの長さに対し、約87%の地点まで達しておらず、これにより中心と両側の壁面での微粒子懸濁液の排出口に入る時間の差が大きく、微粒子懸濁液導入容器内に気泡が残ることが生じる。これより、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であることが好ましい。すなわち、導入角度が0度以上60度以下、排出角度が0度以上60度以下とすることで、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差が約13%未満となりほぼ等しくなるため、微粒子懸濁液導入領域の導入方向の中心と両側の壁面側で、微粒子懸濁液を均一に導入、排出することが可能となり、微粒子懸濁液導入領域内への空気の残存を無くすことが可能となり、また微粒子の排出において微粒子の取り残しをほぼ無くすことが可能となる。
【0029】
以下の表1に、導入角度を変化させた場合において、微粒子懸濁液の中心流速に対する壁面付近の流速の割合(%)と、微粒子懸濁液導入の際の微粒子懸濁液導入領域内での気泡残りの現象の有無の関係を、また表2に、排出角度を変化させた場合において、微粒子懸濁液の中心流速に対する壁面付近の流速の割合(%)と、微粒子懸濁液排出の際の微粒子懸濁液導入領域内での微粒子残りの現象の有無の関係の一例を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

表1および表2において、壁面付近と中心流速の測定方法は微粒子懸濁溶液の導入方向における線速で評価でき、壁面付近とは微粒子懸濁液導入領域の壁側近傍を意味する。また、線速を測定する器具・計測装置は、例えば、微粒子懸濁溶液の端面を目視によりストップウォッチ等で計測する方法などで測定できる。さらに、中心流速の計算方法は、中心流路を液の端面が導入口から排出口へ向かって到達する時間とその流路長さから、線速を求めることが例示できる。壁面付近の流速の場合も同様に、液の端面が壁をつたって進む時間と壁側流路の長さ(角から角までの辺の長さ)から、線速を求めることができる。流速は、導入口からの微粒子懸濁溶液の導入速度によって違ってくることがあるため、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差(割合)を明記により求めることもできる。
【0032】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器の形状は、図4に示すように、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であってもよい。
【0033】
ここで、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であるとは、導入流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部、および排出流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部が角がなくほぼ曲線状に滑らかに接続し、かつ微粒子懸濁液導入領域が角がなく、楕円形のように膨らんだ形状であることを意味する。
【0034】
また、ここで導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通するとは、導入流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部、および排出流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部が角がなくほぼ曲線状に滑らかに接続することを意味する。
【0035】
このようにすることで、導入において導入方向の両側の壁面付近の微粒子懸濁液がより滑らかに進み、中心の流速と両側の壁面の流速がより等しくなり、気泡が残ることなく、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
【0036】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器の形状は、図3に示すように、微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する導入流路ともう一方の端に連通する排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向(10)の長さが垂直方向の長さよりも長い形状であることが好ましい。
【0037】
ここで、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向に対して、導入流路の中心と排出流路の中心がほぼ直線的に配置されるとは、導入流路の中心と排出流路の中心を結ぶ直線と微粒子懸濁液導入領域の両側の壁面が平行な形状であることを意味する。
【0038】
このようにすることで、微粒子懸濁液が導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向に沿って、短時間でより効率よく流れることができ、さらに均一に微粒子を導入排出可能となる。
【0039】
また、均一に微粒子を充填するためには、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了することを前提とする。これは、微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了する前に、微粒子が微粒子懸濁液導入容器の底に沈降してしまうと、微粒子の溜りが生じ微粒子を容器内に均一に導入する事が難しくなるためである。従って、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了するパラメーターである、微粒子懸濁液導入容器の高さHと懸濁液を送液するときの線速uを適宜調整する必要がある。これに関して、微粒子を細胞と仮定した場合を例として以下に詳しく述べる。
【0040】
例えば、後述する実施例2に用いた微粒子懸濁液導入容器(実施例2では細胞融合容器に相当する)に、仮に線速1.8mm/sで細胞懸濁液を導入する。このとき、微粒子懸濁液導入容器内を流れる流体のレイノルズ数Reは以下の(式1)で示される。なおレイノルズ数とは、流れの性質(乱流、層流)を調べるために利用される無次元数(慣性力と粘性力との比)であり、レイノルズ数が1より十分小さい場合、流体は層流とみなせる。
【0041】
Re=uLρm/η ・・・ (式1)
また、微粒子懸濁液導入容器内の流体中の粒子(実施例2では細胞に相当する)に対するストークス数Sは以下の(式2)で示される。なお、ストークス数とは、粒子の流れに対する追従性を調べるために利用される無次元数であり、ストークス数が1より十分小さい場合、流体中の粒子は流れに追従する。
【0042】
S=ρp r2u/ηL ・・・ (式2)
ここで、uは線速(約1.8mm/s)、Lは代表長さ(ここでは細胞直径、約10μm)、rは細胞直径(約10μm)、ρmは媒体密度(常温での水の密度として、約1000kg/m3)、ρpは細胞密度(マウス癌細胞の密度として、約1160kg/m3)、ηは粘性係数(常圧、25℃での水の粘性係数として、約0.9mPa・s)である。
【0043】
(式1)、(式2)から実施例2の微粒子懸濁液導入容器中の流体は、レイノルズ数が約0.022であり1より十分小さいため層流であり、またストークス数も約0.026と1より十分小さいため粒子は流れに追従する。特に、レイノルズ数が1より十分小さくかつストークス数が1より十分小さい場合、流体中の微粒子の動きはストークスの式に従う。即ち、実施例2の微粒子懸濁液導入容器中の流体中の微粒子はストークスの式に従うと見なせる。
【0044】
ここでストークスの式は、以下の(式3)で示される。なお、ストークスの式は、微粒子に作用する浮力((4/3)πr3ρm g)と粘性抵抗力(6πηrVt)との和が、微粒子に作用する重力((4/3)πr3ρp g)と等しい状態のつりあいの式を表現している。
【0045】
(4/3)πr3ρm g +6πηrVt=(4/3)πr3ρp g ・・・ (式3)
ここで、rは細胞直径(約10μm)、ρmは媒体密度(常温での水の密度として、約1000kg/m3)、ρpは細胞密度(マウス癌細胞の密度として、約1160kg/m3)、gは重力加速度(9.8m/s2)、ηは粘性係数(常圧、25℃での水の粘性係数として、約0.9mPa・s)、Vtは細胞沈降速度(m/s)である。
【0046】
上記ストークスの式から細胞沈降速度Vtを計算し、微粒子懸濁液導入容器高さをHとして、細胞が底面に沈降するまでの平均細胞沈降時間T(微粒子懸濁導入容器の高さの中央から底面まで細胞が沈降するまでの時間)を求める式は、以下の(式4)で示される。
【0047】
T=(H/2)/Vt={18η(H/2)}/{(2r)2(ρp−ρm)g }・・・ (式4)
よって、微粒子懸濁液は(式4)で示される平均細胞沈降時間T未満に充填完了することが必要となる。従って、上記(式1)〜(式4)を用いて、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了するように、微粒子懸濁液導入容器の高さHと懸濁液を送液するときの線速uを適宜調整することにより、より均一に微粒子を充填する事が可能となる。
【0048】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、導入した微粒子懸濁液が親水性の場合、導入口の周辺が疎水性であることが好ましい。
【0049】
ここで、微粒子懸濁液導入容器の導入口の周辺が疎水性であるとは、導入口に溶液を垂らしたときに、上板と溶液との接触角が90度以上であることを意味する。また、導入口を疎水性にするためには、疎水性部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、図5に示すように、シリコンゴムシート等の疎水性の薄いシート(18)を、上から導入口周辺に密着させることが好ましい。あるいは、上板の導入口周辺をシランカップリング等にて疎水化処理を行っても問題ない。
【0050】
このようにすることで、導入した親水性の微粒子懸濁液が、疎水化された微粒子懸濁液導入容器の導入口から親水性の微粒子懸濁液導入容器内部に速やかに引き寄せられていくため、微粒子懸濁液導入容器の導入口において上板の導入口の周辺に漏れ広がることなく、微粒子懸濁液導入領域内に効率よく導入することができる。
【0051】
なお、導入する微粒子懸濁液が疎水性の場合は、導入口の周辺が親水性であることが好ましく、微粒子懸濁液導入容器の導入口の周辺を親水化処理することが好ましい。
【0052】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えていることが好ましい。
【0053】
ここで、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構とは、微粒子懸濁液が、微粒子懸濁液導入容器内の傾きがなく、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入するために、微粒子懸濁液導入領域の水平度を測定するための機構であり、具体的には図5の符号34の機構が挙げられる。水平とは例えば重力の法線面に対してのものである。
【0054】
また、微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とは、水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ手段であり、具体的には図5の符号35の手段が挙げられる。これは水平確認機構で確認した水平度を調整し微粒子懸濁液導入領域の水平度を保つためのものである。
【0055】
一般に、微粒子懸濁液導入容器の水平度が保たれず傾いていると、重力の影響により、微粒子が傾いた方向に偏るため、微粒子を微粒子懸濁液導入領域に均一に導入、排出することが難しい。しかしながら、微粒子懸濁液導入容器の水平度を保つことで、微粒子が水平方向に均一に広がり、微粒子を容易に均一に導入、排出できるようになる。
【0056】
水平度を確認し、調整するための具体的な機構としては、微粒子懸濁液導入容器に市販の水準器を設置してもよいし、図5に示すように、市販の水準器と同じ機能を有する構造を微粒子懸濁液導入容器に内臓してもよい。水準器と同じ機能を有する構造とは、例えば、図5に示すように、微粒子懸濁液導入容器の特定の箇所に気泡の入った液体を封入する空間を、また四隅にはネジなどを設け、水平確認機構の液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁容器から下に出ているネジの長さを調節することで、水平を保つことが可能となる。
【0057】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、細胞融合を行う細胞融合容器として用いてもよい。この場合の細胞融合容器は、微粒子懸濁液導入容器からなる細胞融合容器であって、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器である。
【0058】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、前述したように細胞融合を行う細胞融合容器として用いてもよいことから、前記細胞融合容器を用いた細胞融合装置を構成することができる。この場合の本発明における細胞融合装置は、細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置である。
【0059】
ここで、本発明の細胞融合装置の構成について、図6を用いて詳しく説明する。
【0060】
図6は、本発明の細胞融合装置の概念図を示した図である。本発明の細胞融合装置は、細胞融合容器(19)と電源(20)で構成されている。
【0061】
細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置することで細胞融合領域(21)を確保し、微細孔(9)を形成した絶縁体(22)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。
【0062】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、微粒子懸濁液の導入を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0063】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。細胞融合容器(19)の上部電極と下部電極には導電線(30)を介して電源(20)が接続されている。
【0064】
スペーサーは、上記微粒子懸濁液導入容器と同様に、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(7)及びそれに連通する導入口(5)と、細胞を排出する排出流路(8)及びそれに連通する排出口(6)が設けられている。
【0065】
また、絶縁体(22)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(22)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0066】
ここで、微細孔の形状や大きさには特に制限はないが、本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径(細胞により異なるが、1μm〜数十μm程度)より小さいか、もしくは、細胞の直径の1〜2倍程度の範囲でありかつ微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。
【0067】
この理由を図を用いてさらに詳しく説明する。図8に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合は、微細孔に第1の細胞(31)及び第2の細胞(32)が複数入ってしまい、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合ができなくなり、融合再生確率が低くなってしまう。しかしながら、図9に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合は、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合が可能であり、融合再生確率が高くなる。また、図10に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合は第2の細胞が微細孔に固定された第1の細胞と接触することができずに細胞融合させることができない。しかしながら、図11に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合は1つの第2の細胞と微細孔に固定された1つの第1の細胞が確実に接触するので高い融合再生確率を得ることができる。
【0068】
また本発明の細胞選別装置は、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより効率的な細胞選別を行うことが可能となることから、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていること、すなわち図6に示すように、複数の微細孔が絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じるため、微細孔に細胞が固定される確率も各微細孔で等しくなり、1つの微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。
【0069】
また、本発明における微細孔の形状は、円状に限定されるものではなく、三角状や四角状などの多角状であっても良い。三角状や四角状などの多角状の場合は角の部分で電気力線の集中の度合いが強められるため、誘電泳動力は円状の微細孔より強くなり細胞が微細孔に固定される確率が高くなるというメリットがある。ただし、微細孔をアレイ状に配置した場合は、前後左右の微細孔からの誘電泳動力が等しく作用する方が、1つに微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなるので、微細孔の形状は点対称であることが好ましく、さらには正方形であることがより好ましい。
【0070】
なお図7は、図6の細胞融合容器のAA’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(4)、絶縁体(22)、下部電極(15)を図7のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図7に示した細胞融合領域(21)を形成することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入流路から前期排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速がほぼ等しい形状を有し、導入角度が0度以上60度以下、かつ排出角度が0度以上60度以下とすることにより、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(2)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入流路と排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通することにより、導入において導入方向の両側の壁面付近の微粒子懸濁液がより滑らかに進み、中心の流速と両側の壁面の流速がより等しくなり、気泡が残ることなく、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(3)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、前記導入流路の中心と前記排出流路の中心がほぼ直線的に配置されており、前記導入方向の前記微粒子懸濁液導入領域の長さが、前記導入方向と垂直方向の前記微粒子懸濁液導入領域の長さよりも長くすることで、またさらに、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(4)本発明の微粒子懸濁液導入容器においては、前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であることを特徴とする微粒子懸濁液導入容器であり、このようにすることで、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(5)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入した微粒子懸濁液が親水性の場合、前記導入口の周辺が疎水性であることを特徴とする微粒子懸濁液導入容器とすることで、導入口から微粒子懸濁液導入容器内へ導入した微粒子懸濁溶液が導入口の外へ漏れるのを防ぎ、効率よく導入することが可能となる。
(6)本発明の微粒子懸濁液導入容器よれば、前記微粒子懸濁液導入容器において、前記微粒子懸濁液導入容器の水平を保つための水平確認機構と水平調整手段とを備えている微粒子懸濁液導入容器とすることで、微粒子懸濁液導入容器内の傾きがなく、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することが可能となる。
(7)本発明の微粒子懸濁液導入容器からなり、微粒子が細胞である細胞融合容器と細胞融合装置においては、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、前記細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置であり、このようにすることで、細胞融合容器内へ細胞懸濁液を隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において細胞懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出し、細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入容器を示す第1の概念図である。
【図2】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入方法の概念図である。
【図3】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入領域を示す第1の概念図である。
【図4】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入領域を示す第2の概念図である。
【図5】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入容器を示す第2の概念図である。
【図6】本発明における細胞融合装置の概念図及び、実施例2に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図7】図6に示したAA’断面図である。
【図8】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径の2倍より大きい場合を示した図である。
【図9】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径より小さい場合を示した図である。
【図10】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合を示した図である。
【図11】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径以下である場合を示した図である。
【図12】本実施例で用いた微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作するための一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を示す概略図である。
【図13】本発明の微粒子懸濁溶液導入容器の第1の例を示す図である。
【図14】比較例1における微粒子懸濁溶液導入容器を示す図である。
【図15】比較例2における細胞融合装置を示す図である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0074】
(実施例1)
図5に実施例1に用いた微粒子懸濁液導入容器の概念図を示した。上板と下板は、縦125mm×横125mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた。スペーサーは、縦120mm×横120mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図5のように中央を縦50mm×横100mmの六角形状の微粒子懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、微粒子懸濁液導入領域は微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、微粒子懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が60度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が60度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する微粒子懸濁液導入容器を作製した。なお、導入口を疎水性にするため、導入口と同じ位置に導入口とほぼ同じ大きさの穴を開けたシリコンゴムシート(縦125mm×横30mm×厚さ0.5mm)を、上板の上から導入口周辺に密着させてある。また、気泡の入った液体を封入し液体中の気泡の位置により微粒子懸濁液導入容器の傾きを確認できる水平確認機構(34)としての空間を微粒子懸濁液導入容器の所定の箇所に、また液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁液導入容器の傾きを調整できる水平調整手段(35)を微粒子懸濁液導入容器の四隅に設け、微粒子懸濁液導入容器の傾きがなくなる様に微粒子懸濁液導入容器の高さを調整した。
【0075】
ここへ、微粒子懸濁液導入容器の導入口より10mL容量の分注器を用いて微粒子懸濁液を導入したところ、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入でき、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することができた。
【0076】
(実施例2)
図6に実施例2に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(19)と電源(20)から構成される。細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(22)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお後述するように、微細孔は、下部電極(15)上に配置した絶縁膜に一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより形成した。
【0077】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図6のように中央を縦17mm×横33mmの六角形状の細胞懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、細胞懸濁液導入領域は細胞懸濁液を導入、排出するため、細胞懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、細胞懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が60度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が60度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記細胞懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する細胞懸濁液導入容器を作製した。なお、実施例1と同様に、導入口を疎水性にするため、導入口と同じ位置に導入口とほぼ同じ大きさの穴を開けたシリコンゴムシート(縦125mm×横30mm×厚さ0.5mm)を、上板の上から導入口周辺に密着させてある。
【0078】
また、複数の微細孔を有する絶縁体(22)は、図12に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0079】
はじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦20mm×横20mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が20μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(29)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。
【0080】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(4)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図7のように積層し圧着した。図7は、図6に示した細胞融合容器のAA’断面図である。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。なお、スペーサーをくりぬいた細胞融合領域の空間に存在する微細孔の数は約70万個である。
【0081】
また、前記細胞融合装置は、前記細胞融合容器において、前記細胞融合容器の水平を保つための水平確認機構と水平調整機構を備えている。これは実施例1と同様に、気泡の入った液体を封入し液体中の気泡の位置により微粒子懸濁液導入容器の傾きを確認できる水平確認機構(34)としての空間を微粒子懸濁液導入容器の所定の箇所に、また液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁液導入容器の傾きを調整できる水平調整手段(35)を微粒子懸濁液導入容器の四隅に設け、微粒子懸濁液導入容器の傾きがなくなる様に微粒子懸濁液導入容器の高さを調整した。
【0082】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は1.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は3.4×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0083】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液900μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、細胞融合容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入でき、交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約85%であった。ここで細胞固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、細胞を導入して固定したときの、1〜2個の細胞が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の比較例2での細胞固定率も同じ定義である。
【0084】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液900μL(マウスミエローマ細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、マウスミエローマ細胞も細胞融合容器の隅々まで均一に満遍なく導入でき、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約80%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約68%(=85%×80%)であると推定される。
【0085】
次に、直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)により電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと、細胞融合容器を解体して融合細胞を取り出し、細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約300万個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して約 5.00/10000の融合確率を得られた。
【0086】
(比較例1)
図13に比較例1に用いた微粒子懸濁液導入容器の概念図を示した。上板と下板は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた。スペーサーは、スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、微粒子懸濁液導入領域をくりぬいた形状を設け、そこには微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、微粒子懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が120度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が120度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する微粒子懸濁液導入容器を作製した。
【0087】
ここへ、微粒子懸濁液導入容器の導入口より1mL容量の分注器を用いて微粒子懸濁液(33)を導入したところ、 導入において、図14に示すように微粒子懸濁液導入容器の角の部分に気泡が残り、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することができなかった。
【0088】
(比較例2)
図15に比較例2に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(19)と電源(20)から構成される。細胞融合容器は、図15に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(22)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図15のように中央を縦17mm×横33mmの六角形状の細胞懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、細胞懸濁液導入領域は細胞懸濁液を導入、排出するため、細胞懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、細胞懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が120度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が120度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記細胞懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する細胞懸濁液導入容器を作製した。なお、スペーサーをくりぬいた細胞融合領域の空間に存在する微細孔の数は約70万個である。
【0089】
また、微細孔、上部電極と下部電極の作製は実施例2と同様に行い、細胞融合装置を作製した。
【0090】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は1.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は3.4×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0091】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液900μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、図15に示すように細胞融合容器の角の部分に気泡が残り、細胞融合容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することができなかった。ここへ交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約70%であった。
【0092】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液900μL(マウスミエローマ細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、細胞融合容器内の隅々までマウスミエローマ細胞を均一に満遍なく導入することができなかった。ここで、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約60%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約42%(=70%×60%)であると推定される。
【0093】
次に、実施例2と同様に、直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)により電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと、細胞融合容器を解体して融合細胞を取り出し、細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約300万個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して約3.1/10000の融合確率を得られた。
【符号の説明】
【0094】
1:微粒子懸濁液導入領域
2:上板
3:下板
4:スペーサー
5:導入口
6:排出口
7:導入流路
8:排出流路
9:微細孔
10:導入方向
11:導入方向の中心の流速
12:壁面付近の流速
13:微粒子懸濁溶液導入容器
14:上部電極
15:下部電極
16:導入角度
17:排出角度
18:疎水性シート
19:細胞融合容器
20:電源
21:細胞融合領域
22:絶縁体
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:現像液
30:導電線
31:第1の細胞
32:第2の細胞
33:微粒子懸濁溶液
34:水平確認機構
35:水平調整手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子懸濁液の導入および排出を効率的に行うための微粒子懸濁液導入容器とそれを用いた細胞融合容器、及び細胞融合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な細胞融合技術としては化学的細胞融合法であるポリエチレングリコール法(PEG法)と電気的細胞融合法が知られている。PEG法では(i)ポリエチレングリコール(PEG)は細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)細胞融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)細胞融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため融合再生確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。ここで、融合再生確率とは、生成した融合細胞の数を融合容器に導入した脾臓細胞数で除した値である。
【0003】
一方、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく細胞融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞融合させることができるという利点があり、電気条件など、細胞融合時の諸条件の設定が容易なため、PEG法に比べ融合再生確率が高いことが知られている。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こる。
【0004】
上記の電気的細胞融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の細胞融合を顕微鏡で見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて確実であり、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)が、手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって細胞融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が細胞融合するためPEG法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。また、Zimmermannの方法は、前記微小電極法および平行電極法に比較して融合率が高いため、最も実用的な方法として利用されているが、融合細胞が電極表面に付着するため、融合細胞を傷つけることなく回収するための電気材料をいかに開発するか、融合細胞をいかに大量にしかも迅速に作製するかが重要な課題とされていた。
【0005】
上記電気的融合法の課題を解決するために、細胞融合または細胞への核酸導入を行うための領域を切り取った平板状のスペーサーと、前記平板状スペーサーに対向するように配置された導電部材からなる一対の電極と、前記平板スペーサーを挟持した電極に対し圧着およびその解除を可能とする圧着手段とを備えており、試料細胞を連続的に移動させる細胞液送り出し手段を備えたフローチャンバーの例が報告されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に記載されたチャンバーでは、ポンプにより細胞の導入および排出を行うため、細胞へのダメージが大きく、細胞の活性が低下したり、細胞が死滅する割合が高くなってしまうこと、また矩形状や長円形のチャンバーへの導管接続形態により、細胞の導入においてチャンバー内への空気が残存する、および細胞の排出において細胞の取り残しが存在するといった、細胞導入効率および排出効率が悪く、結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【0007】
そこで上記従来の技術における問題点や課題を解決するために、本発明者らは、後述する比較例に示した様に細胞融合用チャンバーの細胞融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した複数の微細孔を有する絶縁体よりなり、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合装置を用い、前記細胞融合領域内に第1の細胞を導入し、交流電圧を印加することで前記微細孔内に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を導入して、前記第1の細胞に第2の細胞を微細孔の位置において接触させ、パルス電圧を印加することで細胞融合する方法を検討した。本検討において、融合させる細胞の大きさに対して微細孔の大きさを最適化し、細胞を微細孔に固定する際に印加する交流電圧の波形の形状を最適化することで、アレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔につき1つの細胞を極めて容易に固定できることを見出し、2細胞1対を融合させ、1/10000の融合確率を得た。これは、通常の電気的細胞融合法における融合確率0.2/10000の5倍の融合確率であり、効率的な2細胞一対での融合を確認することができた(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の方法は、細胞懸濁溶液を細胞融合容器に導入する際に、細胞融合領域の隅々まで細胞を均一に満遍なく導入することが難しく、細胞融合領域の一部の微細孔では2細胞1対の融合が行えず、結果として融合確率が低くなってしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特許第2691230号公報
【特許文献3】特開2007−295912公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、微粒子懸濁液の導入において、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出するための微粒子懸濁液導入容器とそれを用いた細胞融合容器、及び細胞融合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものとして、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
すなわち本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器である。
【0013】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に連通する微粒子懸濁液導入容器である。
【0014】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する前記導入流路ともう一方の端に連通して前記排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ前記微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向長さが垂直方向長さよりも長い上記の微粒子懸濁液導入容器である。
【0015】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状である微粒子懸濁液導入容器である。
【0016】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、導入口の周辺が疎水性である微粒子懸濁液導入容器である。
【0017】
また本発明の微粒子懸濁液導入容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と前記水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えている微粒子懸濁液導入容器である。
【0018】
また本発明の細胞融合容器は、上記した微粒子懸濁液導入容器からなり、微粒子が細胞である細胞融合容器であって、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、絶縁体が電極のいずれか一方の電極の微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器である。
【0019】
また本発明の細胞融合装置は、上記した細胞融合容器を備え、細胞融合容器の一対の電極に電圧を印加する電源を備えた細胞融合装置である。
【0020】
以下に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有する微粒子懸濁液導入容器であり、さらに、微粒子懸濁液導入容器において、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に連通する微粒子懸濁液導入容器である。なお、上板と下板の材質は化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、ガラス基板や金属、樹脂等でもよい。また、スペーサーは、形状を保つ安定した部材であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。
【0022】
ここで、図1および図2に本発明の微粒子懸濁液導入容器の概念図を示す。
【0023】
本発明の微粒子懸濁液導入容器(13)は、図1に示すように、上板(2)と下板(3)の間に、スペーサー(4)を配置することで微粒子懸濁液導入領域(1)を確保し、スペーサーは、上板と下板が直接接触しないように設けられ、微粒子懸濁液導入容器に微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路(7)およびそれに連通する導入口(5)と、微粒子懸濁液を排出する排出流路(8)およびそれに連通する排出口(6)が設けられている。また図2に示すように、導入流路が導入口から広がる導入角度(16)が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度(17)が0度以上60度以下であることが好ましい。また、導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通することが好ましい。
【0024】
ここで、「導入角度」とは、微粒子導入流路が、微粒子懸濁液導入領域と繋がる際に導入方向に対して左右に広がる角度であり、「排出角度」とは、同様に微粒子排出流路が、微粒子懸濁液導入領域と繋がる際に導入方向に対して左右に広がる角度である。
【0025】
これにより図2に示すように、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向(10)の中心の流速(11)と両側の壁面の流速(12)が概ね等しくなる。
【0026】
ここで、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が概ね等しいとは、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差が約13%未満であることを意味する。このような態様であれば、導入角度が60度以下となって気泡残りがなく均一に充填することができるからである。
【0027】
なお、中心の流速および壁面の流速とは、微粒子懸濁溶液の導入方向における線速を測定することにより評価できる。
【0028】
ここで、本発明者らが鋭意検討した結果、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出するためには、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速がほぼ等しいことが必要であり、導入角度が60度以上である場合は、微粒子懸濁液の導入の際に、微粒子懸濁液の導入方向の中心の微粒子懸濁液が微粒子懸濁液導入領域に達した時に、両側の壁面の微粒子懸濁液が導入流路の壁面の辺において、導入口から微粒子懸濁液導入領域との接続部までの長さに対し、約87%の地点まで達しておらず、これにより中心と両側の壁面での微粒子懸濁液の微粒子懸濁液導入領域に入る時間の差が大きく、微粒子懸濁液導入容器内気泡が残ることが生じる。同様に、排出角度が60度以上である場合は、微粒子懸濁液の排出の際に、微粒子懸濁液の導入方向の中心の微粒子懸濁液が微粒子懸濁液導入領域から出て排出口に達した時に、両側の壁面の微粒子懸濁液が排出流路の壁面の辺において、排出流路と微粒子懸濁液導入領域との接続部から排出口までの長さに対し、約87%の地点まで達しておらず、これにより中心と両側の壁面での微粒子懸濁液の排出口に入る時間の差が大きく、微粒子懸濁液導入容器内に気泡が残ることが生じる。これより、導入流路が導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であることが好ましい。すなわち、導入角度が0度以上60度以下、排出角度が0度以上60度以下とすることで、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差が約13%未満となりほぼ等しくなるため、微粒子懸濁液導入領域の導入方向の中心と両側の壁面側で、微粒子懸濁液を均一に導入、排出することが可能となり、微粒子懸濁液導入領域内への空気の残存を無くすことが可能となり、また微粒子の排出において微粒子の取り残しをほぼ無くすことが可能となる。
【0029】
以下の表1に、導入角度を変化させた場合において、微粒子懸濁液の中心流速に対する壁面付近の流速の割合(%)と、微粒子懸濁液導入の際の微粒子懸濁液導入領域内での気泡残りの現象の有無の関係を、また表2に、排出角度を変化させた場合において、微粒子懸濁液の中心流速に対する壁面付近の流速の割合(%)と、微粒子懸濁液排出の際の微粒子懸濁液導入領域内での微粒子残りの現象の有無の関係の一例を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

表1および表2において、壁面付近と中心流速の測定方法は微粒子懸濁溶液の導入方向における線速で評価でき、壁面付近とは微粒子懸濁液導入領域の壁側近傍を意味する。また、線速を測定する器具・計測装置は、例えば、微粒子懸濁溶液の端面を目視によりストップウォッチ等で計測する方法などで測定できる。さらに、中心流速の計算方法は、中心流路を液の端面が導入口から排出口へ向かって到達する時間とその流路長さから、線速を求めることが例示できる。壁面付近の流速の場合も同様に、液の端面が壁をつたって進む時間と壁側流路の長さ(角から角までの辺の長さ)から、線速を求めることができる。流速は、導入口からの微粒子懸濁溶液の導入速度によって違ってくることがあるため、導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速の差(割合)を明記により求めることもできる。
【0032】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器の形状は、図4に示すように、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であってもよい。
【0033】
ここで、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であるとは、導入流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部、および排出流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部が角がなくほぼ曲線状に滑らかに接続し、かつ微粒子懸濁液導入領域が角がなく、楕円形のように膨らんだ形状であることを意味する。
【0034】
また、ここで導入流路と排出流路が微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通するとは、導入流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部、および排出流路と微粒子懸濁液導入領域の接続部が角がなくほぼ曲線状に滑らかに接続することを意味する。
【0035】
このようにすることで、導入において導入方向の両側の壁面付近の微粒子懸濁液がより滑らかに進み、中心の流速と両側の壁面の流速がより等しくなり、気泡が残ることなく、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
【0036】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器の形状は、図3に示すように、微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する導入流路ともう一方の端に連通する排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向(10)の長さが垂直方向の長さよりも長い形状であることが好ましい。
【0037】
ここで、導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向に対して、導入流路の中心と排出流路の中心がほぼ直線的に配置されるとは、導入流路の中心と排出流路の中心を結ぶ直線と微粒子懸濁液導入領域の両側の壁面が平行な形状であることを意味する。
【0038】
このようにすることで、微粒子懸濁液が導入流路から排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向に沿って、短時間でより効率よく流れることができ、さらに均一に微粒子を導入排出可能となる。
【0039】
また、均一に微粒子を充填するためには、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了することを前提とする。これは、微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了する前に、微粒子が微粒子懸濁液導入容器の底に沈降してしまうと、微粒子の溜りが生じ微粒子を容器内に均一に導入する事が難しくなるためである。従って、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了するパラメーターである、微粒子懸濁液導入容器の高さHと懸濁液を送液するときの線速uを適宜調整する必要がある。これに関して、微粒子を細胞と仮定した場合を例として以下に詳しく述べる。
【0040】
例えば、後述する実施例2に用いた微粒子懸濁液導入容器(実施例2では細胞融合容器に相当する)に、仮に線速1.8mm/sで細胞懸濁液を導入する。このとき、微粒子懸濁液導入容器内を流れる流体のレイノルズ数Reは以下の(式1)で示される。なおレイノルズ数とは、流れの性質(乱流、層流)を調べるために利用される無次元数(慣性力と粘性力との比)であり、レイノルズ数が1より十分小さい場合、流体は層流とみなせる。
【0041】
Re=uLρm/η ・・・ (式1)
また、微粒子懸濁液導入容器内の流体中の粒子(実施例2では細胞に相当する)に対するストークス数Sは以下の(式2)で示される。なお、ストークス数とは、粒子の流れに対する追従性を調べるために利用される無次元数であり、ストークス数が1より十分小さい場合、流体中の粒子は流れに追従する。
【0042】
S=ρp r2u/ηL ・・・ (式2)
ここで、uは線速(約1.8mm/s)、Lは代表長さ(ここでは細胞直径、約10μm)、rは細胞直径(約10μm)、ρmは媒体密度(常温での水の密度として、約1000kg/m3)、ρpは細胞密度(マウス癌細胞の密度として、約1160kg/m3)、ηは粘性係数(常圧、25℃での水の粘性係数として、約0.9mPa・s)である。
【0043】
(式1)、(式2)から実施例2の微粒子懸濁液導入容器中の流体は、レイノルズ数が約0.022であり1より十分小さいため層流であり、またストークス数も約0.026と1より十分小さいため粒子は流れに追従する。特に、レイノルズ数が1より十分小さくかつストークス数が1より十分小さい場合、流体中の微粒子の動きはストークスの式に従う。即ち、実施例2の微粒子懸濁液導入容器中の流体中の微粒子はストークスの式に従うと見なせる。
【0044】
ここでストークスの式は、以下の(式3)で示される。なお、ストークスの式は、微粒子に作用する浮力((4/3)πr3ρm g)と粘性抵抗力(6πηrVt)との和が、微粒子に作用する重力((4/3)πr3ρp g)と等しい状態のつりあいの式を表現している。
【0045】
(4/3)πr3ρm g +6πηrVt=(4/3)πr3ρp g ・・・ (式3)
ここで、rは細胞直径(約10μm)、ρmは媒体密度(常温での水の密度として、約1000kg/m3)、ρpは細胞密度(マウス癌細胞の密度として、約1160kg/m3)、gは重力加速度(9.8m/s2)、ηは粘性係数(常圧、25℃での水の粘性係数として、約0.9mPa・s)、Vtは細胞沈降速度(m/s)である。
【0046】
上記ストークスの式から細胞沈降速度Vtを計算し、微粒子懸濁液導入容器高さをHとして、細胞が底面に沈降するまでの平均細胞沈降時間T(微粒子懸濁導入容器の高さの中央から底面まで細胞が沈降するまでの時間)を求める式は、以下の(式4)で示される。
【0047】
T=(H/2)/Vt={18η(H/2)}/{(2r)2(ρp−ρm)g }・・・ (式4)
よって、微粒子懸濁液は(式4)で示される平均細胞沈降時間T未満に充填完了することが必要となる。従って、上記(式1)〜(式4)を用いて、微粒子が沈降する前に微粒子懸濁液を微粒子懸濁液導入容器に充填完了するように、微粒子懸濁液導入容器の高さHと懸濁液を送液するときの線速uを適宜調整することにより、より均一に微粒子を充填する事が可能となる。
【0048】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、導入した微粒子懸濁液が親水性の場合、導入口の周辺が疎水性であることが好ましい。
【0049】
ここで、微粒子懸濁液導入容器の導入口の周辺が疎水性であるとは、導入口に溶液を垂らしたときに、上板と溶液との接触角が90度以上であることを意味する。また、導入口を疎水性にするためには、疎水性部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、図5に示すように、シリコンゴムシート等の疎水性の薄いシート(18)を、上から導入口周辺に密着させることが好ましい。あるいは、上板の導入口周辺をシランカップリング等にて疎水化処理を行っても問題ない。
【0050】
このようにすることで、導入した親水性の微粒子懸濁液が、疎水化された微粒子懸濁液導入容器の導入口から親水性の微粒子懸濁液導入容器内部に速やかに引き寄せられていくため、微粒子懸濁液導入容器の導入口において上板の導入口の周辺に漏れ広がることなく、微粒子懸濁液導入領域内に効率よく導入することができる。
【0051】
なお、導入する微粒子懸濁液が疎水性の場合は、導入口の周辺が親水性であることが好ましく、微粒子懸濁液導入容器の導入口の周辺を親水化処理することが好ましい。
【0052】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えていることが好ましい。
【0053】
ここで、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構とは、微粒子懸濁液が、微粒子懸濁液導入容器内の傾きがなく、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入するために、微粒子懸濁液導入領域の水平度を測定するための機構であり、具体的には図5の符号34の機構が挙げられる。水平とは例えば重力の法線面に対してのものである。
【0054】
また、微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とは、水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ手段であり、具体的には図5の符号35の手段が挙げられる。これは水平確認機構で確認した水平度を調整し微粒子懸濁液導入領域の水平度を保つためのものである。
【0055】
一般に、微粒子懸濁液導入容器の水平度が保たれず傾いていると、重力の影響により、微粒子が傾いた方向に偏るため、微粒子を微粒子懸濁液導入領域に均一に導入、排出することが難しい。しかしながら、微粒子懸濁液導入容器の水平度を保つことで、微粒子が水平方向に均一に広がり、微粒子を容易に均一に導入、排出できるようになる。
【0056】
水平度を確認し、調整するための具体的な機構としては、微粒子懸濁液導入容器に市販の水準器を設置してもよいし、図5に示すように、市販の水準器と同じ機能を有する構造を微粒子懸濁液導入容器に内臓してもよい。水準器と同じ機能を有する構造とは、例えば、図5に示すように、微粒子懸濁液導入容器の特定の箇所に気泡の入った液体を封入する空間を、また四隅にはネジなどを設け、水平確認機構の液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁容器から下に出ているネジの長さを調節することで、水平を保つことが可能となる。
【0057】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、細胞融合を行う細胞融合容器として用いてもよい。この場合の細胞融合容器は、微粒子懸濁液導入容器からなる細胞融合容器であって、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器である。
【0058】
また、本発明における微粒子懸濁液導入容器は、前述したように細胞融合を行う細胞融合容器として用いてもよいことから、前記細胞融合容器を用いた細胞融合装置を構成することができる。この場合の本発明における細胞融合装置は、細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置である。
【0059】
ここで、本発明の細胞融合装置の構成について、図6を用いて詳しく説明する。
【0060】
図6は、本発明の細胞融合装置の概念図を示した図である。本発明の細胞融合装置は、細胞融合容器(19)と電源(20)で構成されている。
【0061】
細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置することで細胞融合領域(21)を確保し、微細孔(9)を形成した絶縁体(22)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。
【0062】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、微粒子懸濁液の導入を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0063】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。細胞融合容器(19)の上部電極と下部電極には導電線(30)を介して電源(20)が接続されている。
【0064】
スペーサーは、上記微粒子懸濁液導入容器と同様に、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞懸濁液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等がある。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(7)及びそれに連通する導入口(5)と、細胞を排出する排出流路(8)及びそれに連通する排出口(6)が設けられている。
【0065】
また、絶縁体(22)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(22)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0066】
ここで、微細孔の形状や大きさには特に制限はないが、本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径(細胞により異なるが、1μm〜数十μm程度)より小さいか、もしくは、細胞の直径の1〜2倍程度の範囲でありかつ微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。
【0067】
この理由を図を用いてさらに詳しく説明する。図8に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合は、微細孔に第1の細胞(31)及び第2の細胞(32)が複数入ってしまい、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合ができなくなり、融合再生確率が低くなってしまう。しかしながら、図9に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合は、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合が可能であり、融合再生確率が高くなる。また、図10に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合は第2の細胞が微細孔に固定された第1の細胞と接触することができずに細胞融合させることができない。しかしながら、図11に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合は1つの第2の細胞と微細孔に固定された1つの第1の細胞が確実に接触するので高い融合再生確率を得ることができる。
【0068】
また本発明の細胞選別装置は、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより効率的な細胞選別を行うことが可能となることから、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていること、すなわち図6に示すように、複数の微細孔が絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じるため、微細孔に細胞が固定される確率も各微細孔で等しくなり、1つの微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなる。また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当である。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなる。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。
【0069】
また、本発明における微細孔の形状は、円状に限定されるものではなく、三角状や四角状などの多角状であっても良い。三角状や四角状などの多角状の場合は角の部分で電気力線の集中の度合いが強められるため、誘電泳動力は円状の微細孔より強くなり細胞が微細孔に固定される確率が高くなるというメリットがある。ただし、微細孔をアレイ状に配置した場合は、前後左右の微細孔からの誘電泳動力が等しく作用する方が、1つに微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなるので、微細孔の形状は点対称であることが好ましく、さらには正方形であることがより好ましい。
【0070】
なお図7は、図6の細胞融合容器のAA’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(4)、絶縁体(22)、下部電極(15)を図7のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図7に示した細胞融合領域(21)を形成することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入流路から前期排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速がほぼ等しい形状を有し、導入角度が0度以上60度以下、かつ排出角度が0度以上60度以下とすることにより、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(2)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入流路と排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通することにより、導入において導入方向の両側の壁面付近の微粒子懸濁液がより滑らかに進み、中心の流速と両側の壁面の流速がより等しくなり、気泡が残ることなく、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(3)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、前記導入流路の中心と前記排出流路の中心がほぼ直線的に配置されており、前記導入方向の前記微粒子懸濁液導入領域の長さが、前記導入方向と垂直方向の前記微粒子懸濁液導入領域の長さよりも長くすることで、またさらに、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(4)本発明の微粒子懸濁液導入容器においては、前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であることを特徴とする微粒子懸濁液導入容器であり、このようにすることで、より容易に微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することが可能となる。
(5)本発明の微粒子懸濁液導入容器によれば、導入した微粒子懸濁液が親水性の場合、前記導入口の周辺が疎水性であることを特徴とする微粒子懸濁液導入容器とすることで、導入口から微粒子懸濁液導入容器内へ導入した微粒子懸濁溶液が導入口の外へ漏れるのを防ぎ、効率よく導入することが可能となる。
(6)本発明の微粒子懸濁液導入容器よれば、前記微粒子懸濁液導入容器において、前記微粒子懸濁液導入容器の水平を保つための水平確認機構と水平調整手段とを備えている微粒子懸濁液導入容器とすることで、微粒子懸濁液導入容器内の傾きがなく、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することが可能となる。
(7)本発明の微粒子懸濁液導入容器からなり、微粒子が細胞である細胞融合容器と細胞融合装置においては、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、前記細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置であり、このようにすることで、細胞融合容器内へ細胞懸濁液を隅々まで均一に満遍なく導入し、かつ排出において細胞懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出し、細胞融合を効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入容器を示す第1の概念図である。
【図2】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入方法の概念図である。
【図3】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入領域を示す第1の概念図である。
【図4】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入領域を示す第2の概念図である。
【図5】本発明における基本的な微粒子懸濁溶液導入容器を示す第2の概念図である。
【図6】本発明における細胞融合装置の概念図及び、実施例2に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図7】図6に示したAA’断面図である。
【図8】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径の2倍より大きい場合を示した図である。
【図9】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径より小さい場合を示した図である。
【図10】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合を示した図である。
【図11】本発明に用いる微細孔の一例として、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径以下である場合を示した図である。
【図12】本実施例で用いた微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作するための一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を示す概略図である。
【図13】本発明の微粒子懸濁溶液導入容器の第1の例を示す図である。
【図14】比較例1における微粒子懸濁溶液導入容器を示す図である。
【図15】比較例2における細胞融合装置を示す図である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0074】
(実施例1)
図5に実施例1に用いた微粒子懸濁液導入容器の概念図を示した。上板と下板は、縦125mm×横125mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた。スペーサーは、縦120mm×横120mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図5のように中央を縦50mm×横100mmの六角形状の微粒子懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、微粒子懸濁液導入領域は微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、微粒子懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が60度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が60度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する微粒子懸濁液導入容器を作製した。なお、導入口を疎水性にするため、導入口と同じ位置に導入口とほぼ同じ大きさの穴を開けたシリコンゴムシート(縦125mm×横30mm×厚さ0.5mm)を、上板の上から導入口周辺に密着させてある。また、気泡の入った液体を封入し液体中の気泡の位置により微粒子懸濁液導入容器の傾きを確認できる水平確認機構(34)としての空間を微粒子懸濁液導入容器の所定の箇所に、また液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁液導入容器の傾きを調整できる水平調整手段(35)を微粒子懸濁液導入容器の四隅に設け、微粒子懸濁液導入容器の傾きがなくなる様に微粒子懸濁液導入容器の高さを調整した。
【0075】
ここへ、微粒子懸濁液導入容器の導入口より10mL容量の分注器を用いて微粒子懸濁液を導入したところ、微粒子懸濁液導入容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入でき、かつ排出において微粒子懸濁液の取り残しが存在することなく効率よく排出することができた。
【0076】
(実施例2)
図6に実施例2に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(19)と電源(20)から構成される。細胞融合容器は、図6に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(22)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお後述するように、微細孔は、下部電極(15)上に配置した絶縁膜に一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより形成した。
【0077】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図6のように中央を縦17mm×横33mmの六角形状の細胞懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、細胞懸濁液導入領域は細胞懸濁液を導入、排出するため、細胞懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、細胞懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が60度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が60度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記細胞懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する細胞懸濁液導入容器を作製した。なお、実施例1と同様に、導入口を疎水性にするため、導入口と同じ位置に導入口とほぼ同じ大きさの穴を開けたシリコンゴムシート(縦125mm×横30mm×厚さ0.5mm)を、上板の上から導入口周辺に密着させてある。
【0078】
また、複数の微細孔を有する絶縁体(22)は、図12に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0079】
はじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦20mm×横20mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が20μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(29)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。
【0080】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(4)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図7のように積層し圧着した。図7は、図6に示した細胞融合容器のAA’断面図である。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞懸濁液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。なお、スペーサーをくりぬいた細胞融合領域の空間に存在する微細孔の数は約70万個である。
【0081】
また、前記細胞融合装置は、前記細胞融合容器において、前記細胞融合容器の水平を保つための水平確認機構と水平調整機構を備えている。これは実施例1と同様に、気泡の入った液体を封入し液体中の気泡の位置により微粒子懸濁液導入容器の傾きを確認できる水平確認機構(34)としての空間を微粒子懸濁液導入容器の所定の箇所に、また液体中の中央に気泡がくるように微粒子懸濁液導入容器の傾きを調整できる水平調整手段(35)を微粒子懸濁液導入容器の四隅に設け、微粒子懸濁液導入容器の傾きがなくなる様に微粒子懸濁液導入容器の高さを調整した。
【0082】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は1.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は3.4×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0083】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液900μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、細胞融合容器内へ隅々まで均一に満遍なく導入でき、交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約85%であった。ここで細胞固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、細胞を導入して固定したときの、1〜2個の細胞が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の比較例2での細胞固定率も同じ定義である。
【0084】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液900μL(マウスミエローマ細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、マウスミエローマ細胞も細胞融合容器の隅々まで均一に満遍なく導入でき、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約80%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約68%(=85%×80%)であると推定される。
【0085】
次に、直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)により電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと、細胞融合容器を解体して融合細胞を取り出し、細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約300万個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して約 5.00/10000の融合確率を得られた。
【0086】
(比較例1)
図13に比較例1に用いた微粒子懸濁液導入容器の概念図を示した。上板と下板は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた。スペーサーは、スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、微粒子懸濁液導入領域をくりぬいた形状を設け、そこには微粒子懸濁液を導入、排出するため、微粒子懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、微粒子懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が120度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が120度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する微粒子懸濁液導入容器を作製した。
【0087】
ここへ、微粒子懸濁液導入容器の導入口より1mL容量の分注器を用いて微粒子懸濁液(33)を導入したところ、 導入において、図14に示すように微粒子懸濁液導入容器の角の部分に気泡が残り、微粒子懸濁液導入容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することができなかった。
【0088】
(比較例2)
図15に比較例2に用いた細胞融合装置の概念図を示した。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(19)と電源(20)から構成される。細胞融合容器は、図15に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(4)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(22)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートに、図15のように中央を縦17mm×横33mmの六角形状の細胞懸濁液導入領域をくりぬき用いた。ここで、細胞懸濁液導入領域は細胞懸濁液を導入、排出するため、細胞懸濁液を導入する導入流路およびそれに連通する導入口と、細胞懸濁液を排出する排出流路およびそれに連通する排出口を設け、導入流路が前記導入口から広がる導入角度が120度、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる角度が120度であり、前記導入流路と前記排出流路が前記細胞懸濁液導入領域に対しほぼ曲線状に連通する細胞懸濁液導入容器を作製した。なお、スペーサーをくりぬいた細胞融合領域の空間に存在する微細孔の数は約70万個である。
【0089】
また、微細孔、上部電極と下部電極の作製は実施例2と同様に行い、細胞融合装置を作製した。
【0090】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した細胞融合装置を用いて、後述する実験を行った。細胞は、マウス抗体産生細胞(φ5μm)とマウスミエローマ細胞(φ10μm)を用いた。両方の細胞をBSA(1mg/mL)含有の300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、マウス抗体産生細胞は1.7×106個/mL、マウスミエローマ細胞は3.4×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。ここで、BSAは電圧印加による細胞へのダメージを軽減する役割を担う。また、両細胞懸濁液には、細胞融合での細胞膜の再生を促進するために、0.1mM濃度の塩化カルシウム、0.1mM濃度の塩化マグネシウムを添加した。
【0091】
上記マウス抗体産生細胞の細胞懸濁液900μL(マウス抗体産生細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、図15に示すように細胞融合容器の角の部分に気泡が残り、細胞融合容器内の隅々まで均一に満遍なく導入することができなかった。ここへ交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウス抗体産生細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウス抗体産生細胞が入る確率は約70%であった。
【0092】
続いて、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの交流電圧を電極間に印加したまま、上記マウスミエローマ細胞の細胞懸濁液900μL(マウスミエローマ細胞数:約60万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入したところ、細胞融合容器内の隅々までマウスミエローマ細胞を均一に満遍なく導入することができなかった。ここで、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1〜2個程度のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に1〜2個程度のマウスミエローマ細胞が入る確率は約60%であり、マウスミエローマ細胞を導入する際に、先に入れたマウス抗体産生細胞が微細孔から脱離する様子はほとんど観察されなかったことから、微細孔においてマウス抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞が2細胞一対で接触している確率は、約42%(=70%×60%)であると推定される。
【0093】
次に、実施例2と同様に、直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)により電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま15分静置したあと、細胞融合容器を解体して融合細胞を取り出し、細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。細胞懸濁液を入れたHAT培地を5%CO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、約300万個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して約3.1/10000の融合確率を得られた。
【符号の説明】
【0094】
1:微粒子懸濁液導入領域
2:上板
3:下板
4:スペーサー
5:導入口
6:排出口
7:導入流路
8:排出流路
9:微細孔
10:導入方向
11:導入方向の中心の流速
12:壁面付近の流速
13:微粒子懸濁溶液導入容器
14:上部電極
15:下部電極
16:導入角度
17:排出角度
18:疎水性シート
19:細胞融合容器
20:電源
21:細胞融合領域
22:絶縁体
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:現像液
30:導電線
31:第1の細胞
32:第2の細胞
33:微粒子懸濁溶液
34:水平確認機構
35:水平調整手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有することを特徴とする微粒子懸濁液導入容器。
【請求項2】
前記微粒子懸濁液導入容器において、前記導入流路が前記導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に連通することを特徴とする請求項1に記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項3】
前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する前記導入流路ともう一方の端に連通して前記排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ前記微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向長さが垂直方向長さよりも長いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項4】
前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項5】
前記微粒子懸濁液導入容器において、前記導入口の周辺が疎水性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項6】
前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と前記水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器からなり、前記微粒子が細胞である細胞融合容器であって、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器。
【請求項8】
請求項7記載の細胞融合容器を備え、前記細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置。
【請求項1】
微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される一対の平板と、前記一対の平板間に前記微粒子懸濁液導入領域を貫通して形成した平板状のスペーサーを備えた微粒子懸濁液導入容器において、前記スペーサーが微粒子懸濁液を導入する導入口とそれに連通する導入流路を備え、前記微粒子懸濁液を排出する排出口とそれに連通する排出流路とを備え、前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通して前記導入流路が配置され、前記微粒子懸濁液導入領域のもう一方の端に連通して前記排出流路が配置されている微粒子懸濁液導入容器であって、前記導入流路から前記排出流路に向かう微粒子懸濁液の導入方向の中心の流速と両側の壁面の流速が実質的に等しくなる形状を有することを特徴とする微粒子懸濁液導入容器。
【請求項2】
前記微粒子懸濁液導入容器において、前記導入流路が前記導入口から広がる導入角度が0度以上60度以下、かつ前記排出流路が前記排出口から広がる排出角度が0度以上60度以下であり、前記導入流路と前記排出流路が前記微粒子懸濁液導入領域に連通することを特徴とする請求項1に記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項3】
前記微粒子懸濁液導入領域の一方の端に連通する前記導入流路ともう一方の端に連通して前記排出流路とが微粒子懸濁液導入領域を挟んで直線的に配置されており、かつ前記微粒子懸濁液導入容器の形状として微粒子懸濁液の導入方向長さが垂直方向長さよりも長いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項4】
前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入領域の形状が曲線状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項5】
前記微粒子懸濁液導入容器において、前記導入口の周辺が疎水性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項6】
前記微粒子懸濁液導入容器において、微粒子懸濁液導入容器が水平であることを確認する水平確認機構と前記水平確認機構により検知された情報にもとづき微粒子懸濁液導入容器の水平を保つ水平調整手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の微粒子懸濁液導入容器からなり、前記微粒子が細胞である細胞融合容器であって、前記微粒子懸濁液導入領域に対向して配置される平板が導電部材からなる一対の電極であって、かつ前記対向して配置された前記電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体を備え、前記絶縁体が前記電極のいずれか一方の電極の前記微粒子懸濁液導入領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器。
【請求項8】
請求項7記載の細胞融合容器を備え、前記細胞融合容器の前記一対の電極に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする細胞融合装置。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【公開番号】特開2010−22360(P2010−22360A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67480(P2009−67480)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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